平成18年10月25日
 中央労働委員会事務局
  第三部会担当審査総括室
   審査総括官  藤森 和幸
Tel 03−5403−2172
Fax 03−5403−2250


モービル石油(懲戒処分等)不当労働行為再審査事件
(平成5年(不再)第35号)命令書交付について


 中央労働委員会第三部会(部会長 荒井史男)は、平成18年10月25日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付しましたので、お知らせします。
 命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
 再審査申立人 スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合(以下「組合」)(大阪府豊中市)
組合員33名(18年8月21日現在)
 再審査被申立人エクソンモービル有限会社(以下「会社」)(東京都港区)
従業員約800名(18年8月21日現在)

II 事案の概要
 本件は、会社が、組合モービル鶴見支部の組合員Aに対し、(1)鶴見油槽所の製造課から操油一課への配転(昭和58年4月1日付)を通告したこと、(2)Aが、(@)コンピューター端末機(VDT)の操作トレーニング(VDTトレーニング)の受講及びVDT使用業務(VDT業務)を拒否し、(A)配転命令を約1年5か月間拒否(同58年4月1日から同59年9月9日まで指名スト)し、(B)上記期間ほぼ継続して就業時間中にマイク演説を行い、事務所にビラ貼付したこと等を理由に懲戒処分(出勤停止15日)としたこと、(3)同59年及び同60年に申請した年休を認めず、欠勤扱いして賃金カットしたことが、それぞれ労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であるとして、組合から救済申立てのあった事件である。
 平成5年8月18日、初審大阪府労委は、この救済申立てのうち、上記(1)については申立期間徒過を理由に却下し、その余を棄却したところ、組合は、これを不服として再審査を申し立てた。

III 命令の概要
 1 主文
 本件再審査申立てを棄却する。
 2 判断の要旨
(1) 本件配転に係る申立期間について
 配転はそれ自体で完結する行為であり、約8年経過後の申立ては、申立期間徒過につき特段の事情の疎明もないことから、却下は免れない。本件配転が組合結成無視及び本件懲戒処分と一体を成すとの組合の主張は、仮に両者が同一の不当労働行為意思に基づく行為であることをいうとしても、本件配転と懲戒処分とは時期、態様を異にする別個の行為であるから採用できない。
(2) 本件懲戒処分について
 COB(コンピューターによる受注、配送等の集中管理センター)拡大計画自体が、会社の経営事項であっても、VDT業務の実施により業務内容が変更される等労働条件や職場環境に影響を及ぼすことが予想されるから、団体交渉に応じずレイアウト変更した会社の手順に問題がなかったとはいえない。しかし、会社が団交で、著しい労働条件変更があれば協議する旨述べたのに、Aらは、同計画の中止を求めるのみで具体的労働条件要求を行った形跡がなく、会社の業務指示書交付に対して組合が暫定就労を指示した経緯からすると、少なくとも、同指示以降のAのVDT業務への非協力的態度は正当なものであるとは認められない。
 配転の事前協議等は、組合支部結成前のことであり、労使慣行とは認められず、本件配転手続きが不当とは言えない。
 会社は、Aを、製造課勤務が長いこと、VDT業務を行わないこと等を理由に配転を命じたが、同人の評価(業務不適)を併せ考えれば、正当な理由なくVDT業務を行わないことが配転の主たる理由であるから、同業務のない部署への配転はやむを得ないものと認められる。
 本件配転は、現業職への配転で、配転先に組合員がおらず外線電話もないことから、支部弱体化を企図したものと考えて抵抗した本件指名ストに理由がないとは言えないが、当該ストが1年5カ月に及び、その間組合の油槽所内開催への固執等により団交が行われなかったこと、同スト中の組合の行為が正当な争議行為とは認められないことから、Aが懲戒処分を受けてもやむを得ない。
 一般に、争議行為に伴うマイク演説自体は自由であるが、態様が労務の不提供や平和的説得、団結の示威の限度を超え、就業時間中に会社施設内で行われ、従業員の執務を妨げ、会社の正常な業務運営に支障をもたらした場合は正当な争議行為とはいえない。本件マイク演説は、ボリュームに問題があり、指名スト期間中ほぼ継続し、昭和59年1月以降は毎時約10分間、1日7回程度の頻度で行われ、就労中の従業員の注意力を散漫にする等会社業務に支障をもたらしたことが推認される。
 また、ビラ貼付は、多いときで40枚程度を糊付けして事務所が薄暗くなる等の支障を生じさせ、ビラ除去作業に従事した会社職制の本来業務に支障を与え、外部業者に同作業を委託する等会社職制の業務上及び施設管理上極めて重大な支障を与えた。
 以上のとおり、正当な争議行為と認められない行為(指名スト、ビラ貼り・マイク演説等)及びVDT業務拒否を懲戒処分理由としたことには合理性が認められる。
(3) Aが取得した休暇について
 年次有給休暇は、1年間継続勤務し全労働日の8割以上を出勤することにより発生し、正当なストライキによる不就労日は全労働日に算入してはならないが、Aの指名ストは正当な争議行為とはいえないこと等から、会社が指名スト期間中のAを欠勤扱いし、就業規則の規定に反するとして年休を与えず、本件年休取得を認めなかったとしても不当とは言えない。

 以上のことから、会社の行為は、労働組合法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たらず、組合の再審査申立てには理由がない。

【参考】
 1 本件審査の概要
 初審救済申立日 昭和60年10月19日(大阪府労委昭和60年(不)第61号)
 (上記II(1)は平成3年3月25日に追加申立て)
 初審命令交付日 平成 5年 8月18日
 再審査申立日 平成 5年 9月 1日(労)
 2 初審命令主文要旨
(1) 組合員Aに係る配転に関する申立ては却下する。
(2) 組合のその他の申立ては棄却する。

トップへ