平成18年10月17日
中央労働委員会事務局
   審査総括官 藤森和幸
Tel 03(5403)2172
Fax 03(5403)2250


時事通信社不当労働行為再審査事件(平成15年(不再)第54号)
命令書交付について


 中央労働委員会第二部会(部会長 菅野和夫)は、平成18年10月17日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。命令の概要は、次のとおりです。

I 当事者
  再審査申立人  時事通信労働者委員会
  (組合員数9名(平成11年10月15日現在))
  組合員A
  再審査被申立人  株式会社時事通信社(東京都中央区)
  (従業員数約1,400名(平成11年10月15日現在))

II 事案の概要
 1 本件は、株式会社時事通信社(以下「会社」という。)が、昭和59年10月から職能資格制度を導入し、同61年4月から従来の年齢給制度を廃止して、新たな職能資格制度に基づく給与制度を実施してきた中で、会社の従業員であって、時事通信労働者委員会(以下「組合」という。)の組合員Aに対して、(1)同59年10月の職能資格制度導入時に、職能等級を不当に低い「S−3」等級に格付けし、以後、同61年4月から平成10年5月までの間、昇格させることなく、「S−3」等級に据え置き、その間の給与及び賞与を差別して支払ったこと、(2)同10年6月から「56歳到達社員」としての基本給を制度上最下位の「V−1」等級とし、以後、同11年9月までの間の給与及び賞与を差別して支払ったことが労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であるとして、同11年10月15日に、組合及びA(以下「組合ら」という。)が東京都労働委員会に救済申立てを行った事件である。
 2 東京都労働委員会は、平成15年10月23日、本件救済申立てのうち、Aの昭和61年4月分から平成10年5月分までの給与及び昭和61年夏季賞与から平成9年年末賞与までの各夏季賞与・年末賞与の差別是正に係る申立てを却下し、その余の申立てを棄却する命令書を交付した。これを不服として、組合らは、同15年11月6日に再審査を申し立てた。

III 命令の概要
 1 主文
 初審命令主文を次のとおり変更する。
 Aの昭和61年4月分から平成10年5月分までの給与及び昭和61年夏季賞与から平成10年夏季賞与までの各夏季賞与・年末賞与の差別是正に係る救済申立てを却下し、その余の救済申立てを棄却する。
 2 判断要旨
(1)除斥期間について
 会社は、平成10年4月1日付けで、Aの同10年4、5月分の給与を職能等級S−3等級、職能給90号俸とすること及び同人の同10年6月からの56歳到達社員としての給与を基本給V−1等級2号俸とすることを決定しており、会社によるAの昭和61年4月分から平成10年5月分までの給与の決定行為のうち、最後の決定行為(平成10年4月1日)に基づく最後の給与の支払時(平成10年5月23日)から本件救済申立日(平成11年10月15日)までが1年以上経過していること及び会社によるAの56歳到達社員としての給与の決定行為(平成10年4月1日)に基づく給与の支払は申立日現在においても継続していることが認められるのであるから、本件救済申立てのうち、Aの昭和61年4月分から平成10年5月分までの給与の差別是正に係る申立ては不適法なものであり、同人の同年6月分から同11年9月分までの給与の差別是正に係る申立ては適法なものと判断される(この点に関する初審判断は、結論において相当である。)。
 また、賞与については、会社の「賞与規程」により、「賞与の支給基準(賞与計算基礎、同基礎に乗ずる率など)はその都度決める。」と規定されていることからすると、会社による各年度における各賞与決定とこれに基づく支払はその都度完結する1回限りの行為とみるのが相当である。したがって、昭和61年夏季賞与から平成10年夏季賞与までの各夏季賞与・年末賞与の差別是正に係る申立ては、支払日から1年を経過して申立てがなされているから不適法であり、同年年末賞与及び同11年夏季賞与の差別是正に係る申立ては、支払日から1年以内に申立てがなされているから適法である(この点に関する初審判断のうち、平成10年夏季賞与の差別是正に係る申立てを適法とした判断部分は失当であり、その余の判断部分は結論において相当である。)。
(2)不当労働行為の成否について
 Aの職能等級格付けにおける格差の存否について
 会社が提出した書証(「等級格付け概況」)によれば、昭和61年度ないし平成10年度において、Aの職能等級格付けについて、同人と同一年齢階層社員の職能等級格付けと比較して、格差の存在が明らかである。また、Aの56歳到達社員としての基本給についても、同人の55歳時の職能等級を基礎として決定されたのであるから、格差が生じていることは明らかである。さらに、賞与についても、実績結果として、基本給を主たる算定基礎として決定されたのであるから、格差が生じていることは明らかである。
 Aに対する職務評定の妥当性について
 会社は、Aが55歳までS−3等級に留まったのは、同人の職務評定結果が悪かったためであると主張しているところ、組合らは、同人の職務評定書記載の「特記事項」の内容に虚偽の事実等が含まれている旨主張するが、組合らの主張は採用できない。なお、組合らは、上記のほかには、Aの勤務振りに関して具体的事実に基づく主張・立証をしていない。
 また、再審査の審問において、A自身が、「職務評定結果通知書等を含めて、会社からの通知文書については、見ていなかったものは多い。」旨陳述していることからすると、Aとしては、いつでも会社の苦情申出制度を利用することができたのに、これを放置していたとみるのが相当であって、組合らが主張するように、同制度に対する不信感から苦情を申し出なかったとみることはできない。
 以上からすると、Aに対する職務評定は、評定がなされたほとんどの期間を通じて、「実績」において「d」(悪い)の評語が続く異例のものであるが、妥当性を欠くものであると判断することはできない。なお、確かに、Aは、社外での活動について社会的に一定の評価を得ていることが認められるが、そのことは、社員として会社が求める業務遂行や職務能力についての評価とは自ずから異なるものであって、直ちに会社の評価に結びつくものとは認められないから、同人に対する会社の評価が不合理なものであるとする根拠とはならない。
 結論
 上記イにより、Aの昭和61年度ないし平成10年度における職能等級格付け及び56歳到達社員としての基本給並びに基本給を主たる算定基礎として決定された賞与に生じている格差については、同人の組合所属を理由とする不当なものであるとはいえないから、会社が、Aに対する同10年6月分から同11年9月分までの給与並びに同10年年末賞与及び同11年夏季賞与の支払について、同人の組合所属を理由として、差別したものと判断することはできない。
 以上のとおりであるから、本件初審命令主文を上記1のとおり変更するほかは、本件再審査申立てには理由がない。

(参考)本件初審命令主文
 本件申立てのうち、申立人Aの昭和61年4月ないし平成10年5月の賃金差別に係る申立てを却下し、その余の申立てを棄却する。

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