平成18年10月3日
中央労働委員会事務局
  第三部会担当審査総括室
室長 藤森和幸
Tel 03−5403−2172
Fax 03−5403−2250


慈恵会新須磨病院不当労働行為再審査事件
(平成17年(不再)第24号)命令書交付について


 中央労働委員会第三部会(部会長 荒井史男)は、平成18年10月3日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付しましたので、お知らせします。命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
 再審査申立人 医療法人社団慈恵会(兵庫県神戸市須磨区)
   従業員約300名(平成16年10月18日現在)
 再審査被申立人 関西合同労働組合(大阪府吹田市)
   組合員126名(平成16年10月18日現在)
 再審査被申立人 関西合同労働組合兵庫支部(兵庫県神戸市長田区)
   組合員88名(平成16年10月18日現在)

II 事案の概要
 本件は、医療法人社団慈恵会(以下「慈恵会」)が、(1)関西合同労働組合及び同兵庫支部(以下「組合ら」)が配布したビラに、慈恵会の名誉を毀損する記載がある旨抗議し、組合らに対し、ビラの記載部分を撤回し、謝罪するまで団体交渉を拒否すると通告したこと、(2)従前から団体交渉の席に慈恵会の理事長及び院長が出席していないこと、(3)慈恵会が公道に面した病院の出入口付近におけるビラ配布を禁止していることが不当労働行為であるとして争われた事件である。
 平成17年3月24日、初審兵庫県労委は、(1)平成15年春闘要求書及び同年夏期一時金要求書に関する誠実団交応諾、(2)ビラ配布の一律禁止の禁止を命じ、その他の申立てを棄却したところ、平成17年4月4日、慈恵会はこれを不服として再審査を申し立てた。

III 命令の概要
 1 主文
 本件再審査申立てを棄却する。
 2 判断の要旨
(1) ビラの内容を理由とした団体交渉拒否について
 慈恵会が名誉毀損であるとする組合らのビラの表現は、慈恵会に対する団体交渉要求の理由として、要求書の内容をそのまま記載したものであって、要求書の前文のわずかな部分の表現でしかなく、この表現があるからといって組合員の労働条件・待遇に関する団体交渉が正常に開催できないほどのものであるとは到底判断できない。そうすると、組合らの上記表現が存在することを理由として団体交渉を全面的に拒否することは正当な事由があるものとは言えない。
 なお、慈恵会は、仮に命令が慈恵会に団体交渉を命ずるのであれば、その場合は組合側の行為に行き過ぎがあったことを認め遺憾の意を表す文書を組合らが慈恵会に交付することを停止条件とするとの条件付団交応諾とすべきであると主張するが、ビラに係る問題を団体交渉応諾の条件とすることは適当ではなく、この点に関する慈恵会の主張は採用できない。
(2) 任意的団体交渉事項に係る団交応諾命令について
 慈恵会は、組合らの要求書に記載されている要求事項のうち、組合員の労働条件・待遇に直接関係しないものがあり、かかる任意的団体交渉事項については、強制力のある救済命令は発せられるべきでないと主張する。しかしながら、組合らは、従前の団体交渉でも、その時々に起こっている労働条件に関わる問題を全部団体交渉事項としてきた経緯があり、定年退職の規定について慈恵会が「回答書」により回答し、慈恵会と組合らが連名で、「確認書」を作成した事実が認められる。したがって、慈恵会が本件要求書に一部任意的団体交渉事項があるとしてこれを団体交渉事項にする必要がないと判断するのであれば、慈恵会は組合らとの話し合いの中でかかる主張を行えばよいのであって、本件のごとく義務的団体交渉事項も含む団体交渉要求事項全般にわたり正当な理由のない団体交渉拒否が行われている場合、総括的に団体交渉応諾を命じることに問題は認められない。
(3) ビラ配布行為の禁止について
 まず、組合らはその存在を職員に知らせるためには病院の玄関前のビラまきしか行っていなかったことが認められ、ビラ配布が組合らにとって重要な組合活動であることが察せられることから、組合らが病院の施設を利用する必要性が認められる。
 また、ビラ配布については、ビラまきを巡るトラブルなどがあったという立証はなく、組合らのビラ配布の態様を勘案すると、組合らがことさら病院の業務の運営に支障を及ぼす形態のビラ配布を行っているとは認められないと考えられる。
 さらに、慈恵会はビラ配布についてルールの制定、あるいは配布場所、配布方法等の変更について組合へ提案するなど労使間での協議を十分に行う必要があったと考えられるが、そのような協議を行ったとの立証はない。
 他方、救急患者、重篤患者への支障を懸念して、病院の出入口付近のビラ配布の中止を申し入れることには、相応の合理性がないとは言えず、そのビラ配布を実力をもって排除したり配布行為に関与した組合員に対して何らかの不利益扱いを課したわけでもない。
 しかし、慈恵会が平成10年以降たび重ねて病院敷地内及び勤務時間中の組合活動(ビラ配布)の禁止ないし中止を申し入れていることに加え、病院参与が、ビラ配布の状況を写真撮影したことやビラ配布場所でビラ配布に対して威嚇的な発言を行ったことからすると、慈恵会が行ったビラ配布一律禁止ないし中止の申入れが、組合活動に対する制約となる態様のものであったことが認められる。
 以上のことから、組合らがビラを配布する行為も、その必要性が肯認でき、平穏な態様であり、かつビラの内容及び配布方法が相当な範囲を逸脱するものでない限り、組合活動としての正当性を失わないものと言うべきである。したがって、組合らが病院の診察開始時間前にビラを配布する行為について、慈恵会が施設管理権を理由として、上記の場所を含む病院敷地内全域について、その態様を問わず、また、ビラ配布の方法等について相当な代案なり条件なりを提示することもなく、これを一律に禁止することは相当でなく、組合活動に対する支配介入と判断する。なお、その救済方法としては、上記の趣旨において初審命令のとおりに命じるのが相当である。

【参考】 本件審査の経過
  初審救済申立日  平成15年 8月26日 (兵庫県労委平成15年(不)第4号)
  初審命令交付日  平成17年 3月24日
  再審査申立て  平成17年 4月 4日 (中労委平成17年(不再)第24号)

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