平成18年9月19日
中央労働委員会事務局
 第三部会担当審査総括室
室長 藤森和幸
Tel 03(5403)2172
Fax 03(5403)2250


光仁会不当労働行為再審査事件
(平成17年(不再)第67号)命令書交付について


 中央労働委員会第三部会(部会長 荒井史男)は、平成18年9月19日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
  再審査申立人  医療法人光仁会(長崎市)
  (従業員数276名(16.3.22現在))
  再審査被申立人  全国一般労働組合長崎地方本部長崎地区合同支部
  (組合員数221名(16.3.22現在))

II 事案の概要
 1 本件は、医療法人光仁会(以下「法人」という。)が、(1)その経営する光仁会病院の従業員であって、全国一般労働組合長崎地方本部長崎地区合同支部(以下「組合」という。)の下部組織である光仁会病院分会に所属するA及びBに対する師長から主任への降格人事(平成16年2月4日付け通告)に関して、平成16年2月18日付けで組合から申入れのあった団体交渉に応じなかったこと、(2)組合が法人の上記(1)の対応を批判する同年3月18日付けビラを光仁会病院内に配布したことに対して、これに反論する同日付け「従業員の皆様へ」と題するビラを配布したことが労働組合法第7条第2号(上記(1))及び第3号(上記(2))に該当する不当労働行為であるとして、同月22日に、組合から長崎県労働委員会(以下「長崎県労委」という。)に対して、救済申立てがあった事案である。
 なお、法人は、上記(1)の団体交渉に応じないまま、本件救済申立て前の平成16年3月15日に、A及びBの降格を含む同月26日付け実施予定の法人人事を発表した。その後、法人は、本件救済申立て直後の同月24日に至り、上記法人人事を一旦凍結した上で、両名の降格人事に関して、団体交渉の開催を組合に申し入れた。同年4月1日及び同月9日の2回にわたり団体交渉が開催されたが、法人は、同月26日付けで、両名に対する師長から主任への降格人事を実施した。また、法人は、本件初審結審(平成17年6月13日)前の平成17年4月30日付けをもって、本件降格人事問題とは別の理由により、Aを解雇した。
 2 長崎県労委は、平成17年9月29日、Bに対する降格人事に関して誠実に団体交渉を行わなければならないことを命じ、その余の救済申立てを棄却する命令書(平成17年9月21日付け)を交付した。これを不服として、法人は、同年10月14日、再審査を申し立てた。
 3 本件の争点は、次のとおりである。
(1)争点1
 法人が、Bに対する降格人事に関して、平成16年2月18日付けで組合から申入れのあった団体交渉に応じなかったことに正当な理由があるか。
(2)争点2
 本件救済申立て後の平成16年4月1日及び同月9日に開催された団体交渉における法人の対応は、団体交渉不応諾の不当労働行為の成否についてどのような意味を持つか。

III 命令の概要
 1 主文
 本件再審査申立てを棄却する。
 2 判断要旨
 当委員会も、(1)法人が、Bに対する降格人事に関して、平成16年2月18日付けで組合から申入れのあった団体交渉に応じなかったことには、正当な理由はなく、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たり、(2)本件救済申立て後の同年4月1日及び同月9日に開催された団体交渉における法人の対応は、不当労働行為の成立を阻却するものではないと判断する。その理由は、次のとおりである。
(1)争点1
 法人は、本件団体交渉申入れに関して、「X理事長は、「春闘と同時に団交したい。」と回答するようY事務長に指示したにもかかわらず、同事務長がこれを誤解して、「X理事長はこの件の団交はしない。」と回答したものであって、同理事長に団体交渉拒否の意思はなかった。」と主張している。しかしながら、たとえそのような経緯があったとしても、それは法人内部の行き違いに過ぎず、法人の対応としては、団体交渉担当者であったY事務長からC組合書記長に対して表示されたところをもって判断せざるを得ないのであって、Y事務長からC組合書記長に対して、「団交はしない。」との回答がなされた以上、法人は団体交渉を拒否したとみるほかはない。
 また、師長から主任への降格によって、役職手当及び特別手当の合計が月額3万2千円の減額となること(基本的労働条件の変更)が認められるところ、法人は、「労働条件に変動があるものにおいては組合と事前に協議し実施する。」との労使協定の存在を知らなかったことを殊更強調するが、本件降格人事に関することについては、上記労使協定の締結がなくても義務的団交事項に当たることは疑問の余地がなく、その存在を知らなかったということが、何ら本件団体交渉不応諾を正当化するものではない。
(2)争点2
 平成16年4月1日及び同月9日に開催された団体交渉において、本件団体交渉申入れに係る交渉議題((1)組合への協議申入れをしなかった理由、(2)降格する理由、(3)降格となった場合の処遇内容)のうち、組合の関心が最も高かったとみられる上記(3)については、法人から組合に対して、「両名の処遇については主任とした。」という以上には、具体的な処遇内容の説明や提案などは一切なかったことが認められるのであるから、法人がこの2回の団体交渉の開催をもって、本件救済申立ての対象となっている組合の団体交渉申入れに対して誠実に対応したものと評価することはできない。
 なお、法人は、「組合が降格人事の撤回に固執していた状況の中で、法人が腹案を提示する余地はなかった。」と主張するが、提示されない腹案は紛争解決の上で何ら意味がないというほかはなく、同年3月1日に組合が提示した「打開策」((1)手当の急激な削減はしないこと、(2)「病棟長」、「指導主任」など新たな役職へ任命すること)に対して、法人は何ら応答しなかったばかりか、団体交渉の早期開催要求に対しても一切返答しないまま同月15日に法人人事を発表するに至った経緯からすれば、上記法人の主張は、自らの責任を組合に転嫁したものであって、採用できない。
 以上のとおりであるので、本件再審査申立てには理由がない。
 よって、主文のとおり命令する。

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