平成18年8月30日
中央労働委員会事務局
 第三部会担当審査総括室
  審査総括官  藤森 和幸
Tel 03−5403−2172
Fax 03−5403−2250


杉並区不当労働行為再審査事件(平成16年(不再)第34号)
命令書交付について


 中央労働委員会第三部会(部会長 荒井史男)は、平成18年8月30日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付しましたので、お知らせします。
 命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
 再審査申立人  連帯労働者組合(東京都板橋区)
  組合員約120名(12年11月20日現在)
 再審査被申立人  杉並区      (東京都杉並区)
  一般職常勤職員約4,300名、特別職非常勤職員約1,000名ほか
  (16年4月15日現在)

II 事案の概要
 連帯労働者組合(以下「組合」)と杉並区(以下「区」)は、一定のルールの下に交渉を行うことになったが、組合員Aの雇用年限(10年3月31日)以降、区は、組合所属の区非常勤職員がいなくなったことを理由に団体交渉(以下「団交」)に応じなかった。本件は、(1)区が、誠意ある交渉を尽くしたか、また、区非常勤職員がいないことを理由に団交に応じなかったことが団交拒否に当たるか、(2)区非常勤職員の雇用年限制度が労働者の団結権の阻害等の観点から支配介入に当たるか、また、(3)初審申立て後、区が、文書交換便(区役所本庁各課と出先事業所、関係行政機関及び関係団体等において文書を搬送し、交換する便)から組合の機関紙等を撤去して排除し、他の職員団体や労働組合には従前どおり利用を認めていることが支配介入及び同申立てに対する報復的不利益取扱いに当たるか、が争われた事案である。
 東京都労委は、16年4月15日、(1)組合が文書交換便利用を申し出たときは、杉並区交換便事務処理要領(以下「交換便要領」)に基づいた手続を履践の上、組合に諾否を回答し、その理由を明らかにしなければならない、(2)10年3月26日以前の不誠実団交に関する申立ては却下する、(3)その他の申立ては棄却する、との命令を交付したところ、組合は、これを不服として当委員会に再審査を申し立てた。

III 命令の概要
 1 主文の要旨
 本件再審査申立てを棄却する。
 2 判断の要旨
(1) 本件雇止めに至る不誠実団交について
 Aの雇止めに至る14回の団交は、救済申立日の1年以上前に行われたものであるから、当該団交に係る救済申立ては却下する。
(2) 本件雇止め後の団交拒否について
 組合は、非常勤職員が主体でなく極僅かではあるが、Aの契約期間満了による雇用関係の終了(以下「雇止め」)という労働条件問題を団交によって解決する手段が保障されなければ、労働者の団結権保護及び労働組合選択の自由の観点から著しく妥当性を欠くから、区は、Aの雇止めを議題とする団交に応ずべき立場にある。また、組合は、Aの在職当時から交渉を続け、雇止め以降も団交申入れを行っていたから、本件団交申入れ(12年9月13日)時点で組合員に区の非常勤職員がいなくても、区はAの使用者といわざるを得ず、Aが雇止めそのものを争い、組合が団交申入れを行っている以上、不当労働行為制度上、区は、使用者として組合の申し入れた団交を拒否できない。
 区は、Aの在職中事実上組合との団交に応じ、雇用年限満了直前の10年3月26日までの14回にわたる団交で、雇用年限制度及び運用方針並びに雇用年限の1年延長ができない理由等を説明したが、組合は一貫して雇用年限の撤廃等を主張し、区は制度維持を主張し、互いに譲歩の余地を一切示さず、双方の主張が平行線に陥り、交渉が「行き詰まり」、合意に達する可能性は全く失われていたこと等から、今後、同一議題について団交を行っても、交渉が進展する見込みはなく、団交を継続する余地はないというべきである。
 雇止め後に申入れた4回の団交のうち、前3回は行き詰まりにより交渉進展の見込みはなかったものと認められ、最後の12年9月13日の申入れは、交渉打切り後約2年半という相当期間が経過しているとはいえ、交渉事項は従前同様、解雇撤回とともに雇用年限の撤廃等交渉を再開しても進展する見込みのない事項が含まれていたこと等から、この間に事情の変更はなく、交渉進展の可能性はないから、区が、正当な理由なく団交拒否したものとはいえず、初審の判断に誤りはない。
(3) 雇用年限制度による支配介入について
 区が、非常勤職員に雇用年限を設けたのは、組合結成より相当前(昭和60年)であり、また、Aの雇止め問題に関連して団交で区の施策として雇用年限を設けている理由について説明していることから、区が不当労働行為意思をもって非常勤職員の雇用年限を設け、あるいはこれを維持して、組合の影響力の減殺等を図っているとはいえない。
(4) 文書交換便利用からの組合排除について
 13年3月以降、区が規則を整備し、交換便を行政機関相互及び関係団体等との間の文書交換の便宜のための制度と位置づけ、その使用の明確性を図ったこと自体は危機管理の要請、不適正利用を防止するために有用なことであって合理的である。
 また、交換便は、区文書管理規定に基づく公文書伝達手段で便宜的に一定範囲の文書についても使用を許しているにすぎないから、その基準が区政にとって有益、有用であることとするのは合理的であり、その基準に従い、区の非常勤職員が存在しない組合が関係団体等に認定されないことはやむを得ず、   また、組合は交換便要領に従って、公文書等や関係団体等の文書以外の文書の交換便利用の承認の申入れを行っていないのであるから、区が利用を承諾しない点を不当ということはできない。
 また、組合には区非常勤職員が存在せず、交換便は区の制度の便宜供与の問題であるから、雇止めの効力について団交義務が存在するからといって、交換便を利用できるという判断に結びつくものではなく、交換便要領改正後も健康食品、旅行案内等のチラシが交換便により配布されているが、これは職員互助会が区職員の福利厚生事業の一環として行っているものであるから、区が交換便要領に則って利用を認めたことをもって組合にも認めるべきであるとする根拠にはならない。
 しかしながら、区が、12年12月頃から事前説明なく組合文書を文書交換便から撤去し、また、その後の交換便要領の改正に当たって事前に組合に説明せず、結果として組合の文書交換便利用を排除したことは手続において不備があり、組合に対する支配介入の不当労働行為と判断せざるを得ないが、それ以上に、組合   に区の交換便利用を認めないこと自体をもって不当労働行為に当たるとすることはできず、初審命令の判断は結論において相当であり、救済方法としては、交換便要領に基づき、組合からの申出があれば、理由を付して諾否の回答をすることを区に求めることをもって必要にして十分である。
 なお、組合は関係団体等の認定を受けていないが、交換便要領の規定により利用を承認される余地がないとはいえないから、初審命令の採用した救済方法が無意味であるとまではいえない(もっとも、初審命令後に組合が交換便利用を申し入れ、区が区の事業執行に関連する団体とはいえないこと等を理由に利用を認めない旨回答しているので、実質的には初審命令は履行されたといえることを付言する)。

【参考】
 1 本件審査の概要
 初審救済申立日 平成12年11月20日(東京都労委平成12年(不)第105号)
 初審命令交付日 平成16年 4月15日
 再審査申立日 平成16年 4月28日(労)
 2 初審命令主文要旨
(1) 区は、組合が、文書交換便利用を申し出たときは、杉並区交換便事務処理要領に基づいた手続を履践の上、諾否を回答し、その理由を明らかにしなければならない。
(2) 平成10年3月26日以前の不誠実団体交渉に関する申立ては却下する。
(3) 組合のその他の申立ては棄却する。

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