平成18年8月8日
中央労働委員会事務局
 第三部会担当審査総括室
    審査官   武田  徹
  電話 03-5403-2265(ダイヤルイン)
  Fax 03-5403-2250


朝日放送不当労働行為再審査事件
(平成16年(不再)第60号)命令書交付について


 中央労働委員会(第三部会長 荒井史男)は、平成18年8月8日、標記事件に係る命令書を当事者に交付したので、お知らせします。命令の概要は、次のとおりです。

I 当事者
 1 再審査申立人
日本民間放送労働組合連合会
  全国の民間放送会社及び関連産業の約140労働組合により構成する連合組合で、組合員数は約11,000名(平成16年1月14日現在。以下同じ。)。
日本民間放送労働組合連合会近畿地方連合会
  上記のうち近畿地方の約20労働組合により構成する連合組合で、組合員数は約1,930名。
民放労連近畿地区労働組合(以下「近畿地区労組」という。)
  近畿地区の民間放送会社及び関連産業の労働者による個人加盟の労働組合で、組合員数は約20名。
A組合員(個人)
  近畿地区労組の組合員。大阪東通で雇用され朝日放送株式会社内の音響効果(以下「SE」という。)職場で就労していたもの。
 2 再審査被申立人
朝日放送株式会社(以下「会社」という。)
  大阪市北区に本社を置き、ラジオ・テレビ放送業を営む株式会社であり、その従業員数は約800名。

II 事案の概要
 1 A組合員は、昭和47年4月大阪東通に嘱託社員として採用され、会社の報道カラー現像室に配属されて勤務し、翌年3月に大阪東通の正社員となり、昭和50年2月から会社のSE職場に移り就労していたが、平成13年12月大阪東通の倒産に伴う東通への事業譲渡に際し、大半の従業員は東通に引き続き再雇用されたが、同組合員は再雇用後同職場での就労保証がないことなどを理由に再雇用を拒否した。
 2 本件は、会社が、平成12年11月会社と近畿地区労組及び申立外朝日放送労働組合(以下「朝放労組」という。)との間で、社員化・直傭化はじめ一連の紛争が解決した旨の労使協定が締結していたにもかかわらず、大阪東通から解雇された後のA組合員の就労を拒絶したとして、また、会社はA組合員らのSE職場における就労確保に関する団交を誠実に行わなかったとして、同14年12月17日、大阪府労委に不当労働行為の救済が申し立てられた事件である。
 3 大阪府労委は、平成16年10月8日、就労確保並びに賃金及び賞与相当損害金の支払いを求める申立てについては、会社には被申立人適格が認められないとして却下し、また、誠実団交応諾及び謝罪文の手交等を求める申立てについては、会社が不誠実な団交をしたとは認められないなどとして棄却した。再審査申立人らは、これを不服として、同月21日に再審査を申し立てた。なお、再審査申立て時は朝放労組も本件再審査申立人であったが、平成17年6月24日付で再審査申立てを取り下げた。

III 命令の概要
 1 主文の要旨
 本件再審査申立てを棄却する。
 2 判断の要旨
(1) A組合員の就労確保に関する会社の使用者性の存否と不当労働行為の成否
 会社とA組合員との黙示の労働契約、又は、それと同視しうる関係の存否
 A組合員が所属していた大阪東通は独立した社会的実体を有する企業であって、同組合員の採用・解雇は大阪東通であり、同組合員もそのように認識していたこと等から、同組合員の採用・配置・懲戒・解雇等の雇用管理を会社が行っていたとまでは認められず、また、同組合員への賃金の支払い及び法定控除等は大阪東通が行っていたのであって、会社が同組合員の賃金を実質的に決定して支払っていたと認めるに足りる証拠はないこと、また、本件協定書(注1参照)には、朝放労組及び近畿地区労組が、A組合員を含む11名の組合員を対象として、社員化、直傭化等の要求を行わないことに合意した条項があることからも、会社とA組合員との間に、黙示の労働契約、又は、それと同視しうる関係が成立していたとは認めがたい。
 長期間の継続的な「使用労働関係」の存否
 独立した企業である大阪東通が、民事再生開始の申立て、東通への営業譲渡及び従業員全員の解雇を行っている以上、A組合員の会社SE職場での就労確保は、その前提を欠く事態に至ったのであって、たとえ会社が、大阪東通に対して一定程度の影響力を有していたとしても、また、A組合員が会社SE職場で26年にわたって就労してきたという実態を考慮しても、会社は、同職場での就労確保については、「雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位」(本件関連最高裁判決)(注2参照)にあったとは認められないことから、本件においては、労働組合法第7条の「使用者」には該当しない。
(2) 本件協定書等に基づく使用者性の存否
 社員化、直傭化問題に関する経緯も踏まえつつ本件協定書等が締結されたという事情を考慮しても、(1)本件協定書等の締結当時には関係者が想定していなかった事態が生じ、(2)A組合員が東通に移籍しないこととし、(3)東通が本件協定書等を引き継いだとは認められないことから、本件協定書等を根拠に、同組合員の就労確保につき会社の使用者性を認めることはできない。
 なお、会社は、A組合員の就労を東通に打診を行ったことが認められ、東通に働きかけて同組合員の就労を確保すべきであったと認めることもできない。
(3) 小括
 会社は、A組合員の会社SE職場での就労確保について、労働組合法第7条の「使用者」には該当するとはいえず、同組合員の会社SE職場における就労確保並びに賃金及び賞与相当損害金の支払いを求める申立て部分を却下した初審命令は相当である。
 2 団交に関する会社の使用者性の存否と不当労働行為の成否
(1) 団交に関する使用者性
 「会社SE職場での就労確保」という団交事項については、会社には使用者性は認められないところであり、会社に団交応諾義務はない。また、「労働条件を低下させないこと」という交渉事項についても、少なくとも、A組合員らが大阪東通に解雇された日以降は使用者性が失われるに至ったと解する他はない。
(2) 不当労働行為の成否
 本件協定書等に基づく就労確保のための配慮も、平成13年12月14日の団交申入れを受けて、同月26日の大阪東通から東通への営業譲渡日まで3回、同14年1月中に3回と団交を行って、会社としての回答を行うとともに、その立場を十分に説明しているのであり、会社が不誠実な対応をしたとは認め難い。
 よって、不誠実団交を理由とする救済申立てを棄却した初審命令は相当である。

(注1) 「本件協定書」:平成12年11月27日、朝放労組、近畿地区労組及び会社は、昭和49年11月の要求書に対する団交拒否を発端とする一連の争議の経過を踏まえ、(1)会社が決定することの出来る労働条件は団体交渉を拒否しないこと、(2)会社に社員化、直傭化及び組合費のチェックオフの要求を会社に行わないこと、(3)会社は本協定の趣旨をそれぞれの会社(大阪東通ほか3社)に伝え、個別に確認書を交わすこと、(4)本日までの一連の争議がすべて解決したことに同意する等を内容とする協定を締結した。

(注2) 「本件関連最高裁判決」:平成7年2月28日最高裁は 、労働組合法第7条にいう「使用者」について、「雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は同条の「使用者」に当たるものと解するのが相当である」旨判示した。

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