平成18年6月29日
中央労働委員会事務局
第二部会担当審査総括官室
総括官   神田 義宝
Tel 03−5403−2162
Fax 03−5403−2250


スカイマークエアラインズ不当労働行為再審査事件(平成17年(不再)第78号)
命令書交付について


 中央労働委員会(第二部会長 菅野 和夫)は、平成18年6月29日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
 再審査申立人 スカイマークエアラインズ株式会社(東京都港区)
 従業員数 約830名(平成17年5月20日現在)
 再審査被申立人 スカイネットワーク(航空一般労働組合)
 組合員数 約150名(平成17年5月20日現在)

II 事案の概要
 1 本件は、スカイマークエアラインズ株式会社(以下「会社」という。)が、スカイネットワーク(航空一般労働組合)(以下「組合」という。)の組合員N(以下「N」という。)の有期労働契約社員から正社員への切替え等を交渉事項とする団体交渉の要求に応じなかったことが不当労働行為であるとして、組合が平成17年5月20日に、東京都労働委員会(以下「都労委」という。) に救済の申立てを行った事件である。
 2 初審における請求する救済内容の要旨は、ア.採用時の約束を守り、Nを正社員に切り替えること、イ.N以外の職員についても採用時の約束を履行すること、ウ.労働条件の一方的な切下げはしないことの各交渉要求事項を内容とする平成17年4月25日付「要求書」(以下「要求書」という。)について、会社は誠実に団体交渉に応じなければならない、というものである。
 3 都労委は、平成17年11月22日、会社に対し、上記事項のうちイを除く事項について、誠実に団体交渉に応じることを命じたところ、会社はこれを不服として、同年11月24日、その取消しを求め再審査を申し立てたものである。

III 命令の概要
〔主文〕
  本件再審査申立てを棄却する。
〔判断の要旨〕
 1 交渉要求事項ア(Nの正社員化)について
(1)会社(再審査申立人)は、Nを正社員にするなどという合意がない以上、その不履行もあり得ず、団体交渉事項たり得ないと主張する。
 しかしながら、(1)Nの採用について、面談した(平成16年6月28日)のは、H整備本部長(当時)とK部長であること、(2)同17年3月23日の一等航空整備士の手当削減に関する説明会において、Nが確認整備士の発令に伴う正社員化について質したところ、人事本部長は、そのようなうわさの存在を異とすることなく肯定しつつ、K部長には人事権がないと応答し、またNがK部長に対し、同人の正社員への申請の有無を尋ねたところ、K部長らはただ沈黙をもって対応したこと、(3)確認整備士は一般的に正社員であることが多く、現に会社において契約社員から正社員に切り替えられた者がいることなどからすると、会社においては、正社員への途が一定程度開かれていたこと、そのような事情を前提に、K部長はNに対し、少なくとも正社員への推薦に言及していたことが推認されるとともに、K部長は人事権に関し、ある程度会社を代表しているとの理解が自然であったと認められる。
 以上のことに照らせば、本件会社においては、Nが契約社員として雇用された後、正社員になることができると期待していたことには相応の理由があったというべきであり、そのような状況の下で、組合が会社に対し、組合員Nの処遇に関わる問題として、同人の正社員化について団体交渉を申し入れたのであるから、これを義務的団体交渉事項でないということはできない。
(2)会社は、有期契約社員の正社員化要求は、新たな採用を求めるものであり、労働条件に関する事項でないと主張し、会社においては、正社員と有期雇用契約社員について、雇用通知書、就業規則等で明確に区別していると主張するが、会社の人事運用においては、上記(1)に述べたように、契約社員の正社員への切替えの途が一定程度開かれていた等の事情が認められるのであるから、本件交渉の申入れ事項は、現に雇用関係にある組合員の労働条件に関する事項に当たるといえる。
(3)したがって、本件正社員化に係る組合の団体交渉の要求については、会社は組合の代表者と協議交渉の場についた上で、正社員に切替えない理由について説明するなどして、団体交渉に誠実に応ずる必要があったというべきであり、本件交渉の申入れに関し、会社の不当労働行為を認めた初審の判断は結論において相当であって、会社の主張は理由がない。
 2 交渉要求事項ウ(労働条件の切下げをしないこと)について
 会社は、同事項は具体性に欠ける要求事項であり団体交渉事項となり得ないと主張する。しかし、一等航空整備士の手当削減に関し、説明会が開かれ、参加者の暴言を巡って処分者がでるなど、会社とNを含む整備士との間の労働条件について問題が生じていたのであるから、組合が求めた上記交渉要求事項は、その内容を容易に推測し得るところである。
 そして、たとえ、交渉要求事項が一見抽象的であったとしても、会社は、組合に対し、具体的に内容を確認したり、組合からの要求の具体性に応じて応答することなども十分可能であったのであるから、終始、「一般論は組合に回答する予定はない。」と回答するのみであった会社の対応は、誠実なものとはいえず、会社の主張は採り得ない。
 3 その他の再審査不服申立理由について
(1)会社は、「団体交渉申入書」には組合と個人が共に申入れ主体として記載されているので、このような団体交渉申入れには応じられないと主張するが、同申入書には団体交渉の当事者としての組合名が銘記されているのであるから、交渉事項の利害関係者名が付記されていることをもって、団体交渉を拒否する正当な理由があるということにはならない。
(2)会社は、「要求書」の中には団体交渉議題とならない事項が含まれており、「要求書」は一つの一体となったものであるから、団体交渉に応じる義務はないとも主張するが、義務的団体交渉事項以外の事項が含まれていることを理由として、義務的団体交渉事項の団体交渉に応じないことは正当な理由のない団体交渉の拒否に当たることが明らかである。
(3)また、会社は、組合は損害賠償請求訴訟を提起し、これを維持している以上、不当労働行為救済申立ての利益は喪失しており、本件初審命令は取り消されるべきであると主張するが、労働組合法上の不当労働行為禁止規定に違反する行為が行われた場合、労働組合が、労働委員会における行政救済を求めるだけでなく、裁判所における訴訟手続きにより、損害賠償を求めることも制限されておらず、両制度における救済の趣旨、目的も異なるのであるから、会社の主張は失当である。

【参考】
 1 本件審査の概要
 初審救済申立日  平成17年5月20日(東京都労委平成17年(不)第49号)
 初審決定交付日  平成17年11月22日
 再審査申立日  平成17年11月24日(労)
 2 初審命令
  誠実団交応諾
  文書交付

トップへ