平成18年3月15日
中央労働委員会事務局第二部会担当
  審査総括官  神田義宝
 Tel  03−5403−2172
 Fax  03−5403−2250

西日本旅客鉄道(西労岡山脱退勧奨等)不当労働行為再審査事件
(平成16年(不再)第73号及び同第74号)命令書交付について


 中央労働委員会(会長 山口浩一郎)は、平成18年3月15日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要は、次のとおりです。

I  当事者
 73号事件再審査申立人   ジェーアール西日本労働組合(「組合」)(大阪市此花区)
 74号事件再審査被申立人  組合員 約1,200名(平成17年9月現在)
 同 ジェーアール西日本労働組合岡山地方本部(「岡山地本」又は「組合」) 組合員 約160名(同)
 74号事件再審査申立人 西日本旅客鉄道株式会社(「会社」)(岡山市)
 73号事件再審査被申立人  従業員 約32,850名(平成16年4月同)

II  事案の概要
 本件は、@現場長らが組合員に対し、組合からの脱退を慫慂したこと及びこれに応じなかった組合員を転勤、転職させたこと、A岡山支社が岡山地本からの転勤等に関する団体交渉申入れに応じなかったことが会社の不当労働行為であるとして、救済申立てがなされた事件である。
 初審岡山県労委は、会社に対し、上記@の一部について不当労働行為に当たるとして、脱退慫慂による組合の組織、運営への支配介入の禁止と、これに係る文書交付を命じ、その余の救済申立ては棄却した。これを不服として、労使双方は、それぞれ再審査を申し立てた。

III  命令の概要
 主文の要旨
(1)  岡山地本所属の組合員に対し、人事上の不利益の示唆又は利益の誘導などによって同組合からの脱退を慫慂することによる同組合の運営への支配介入の禁止
(2)  文書の手交
(3)  その余の本件救済申立ては棄却
(4)  その余の本件各再審査申立ては棄却

 判断の要旨
(1)  Aら3名に対する脱退慫慂等について
 事故により日勤勤務中であったAが、a助役らの発言によって再乗務に危惧を感じ、動揺したとしても、当該発言には申立人組合からの脱退を具体的に慫慂する内容は含まれておらず、これを脱退を示唆して慫慂するものと断定することも困難である。
 組合はB及びCの日勤勤務中に脱退慫慂がなされたと主張するが、初審及び再審査をとおして両名の証言はなく、他に両名対する脱退慫慂に関する具体的な疎明もないことから、この点に関する組合の救済申立ては認められない。
 会社は、Aら3名の転勤を決めるに当たり、同時期に運転事故等で日勤勤務を指定されていた者については調査も把握もしていなかったことなどからすると、当該転勤措置には疑念が残るが、Bについては乗客からの投書を考慮したこと、A及びCについては、事故を起こした後、新たな職場で心機一転して業務に従事させるためであるとする会社の主張には、一応首肯できるものがある。これに加え、Aら3名に脱退慫慂が行われたとまで認められないこと、組合の役員や活発な組合活動を行っていたとは認められないこと、本件転勤を「みせしめ転勤」とみるような事情の疎明はないことからすると、本件転勤が組合に所属するが故になされた不利益取扱い、あるいは、組合を弱体化する目的でなされた支配介入であるとまで断定することはできない。
(2)  津山鉄道部における本件転勤の妥当性について
 本件転勤は、経営施策の実施による要員減少に伴って行われたもので、業務上の必要性があったといえ、また、鉄道部を運営していく上で必要となる混み運用等が可能な運転士を同鉄道部に残したことが認められ、この点に関する会社の主張について不自然さや不合理さは見受けられない。
 他方、本件転勤の人選には不自然さが認められるものの、組合が主張するように、混み運用が可能な運転士の育成において、所属する労働組合によって差別があったとの具体的な疎明はなく、本件転勤後、津山鉄道部に残った混み運用が可能な運転士の労働組合所属別の人数についても、明らかではないことからすると、上記事情をもって、不当労働行為とまで断定することはできない。
(3)  Dに対する脱退慫慂について
 b課長(区長)らの各言動は、Dが津山鉄道部での勤務を強く希望していることを承知の上で、組合から脱退しなければ、転勤させて人事異動において不利益に扱う旨を示唆することなどにより、Dの脱退の意思決定に重大な影響を与えようとした一連の行為であり、b課長は、職務上の地位を利用し、会社の意を体して、それら言動を行ったものと認められる。さらに、c総括助役、d運輸科長及びe運輸科長(所長)の行為については、その多くが管理職であるb区長(課長)と同席して行われたもので、職制の立場から行われたとみるのが自然であり、また、本件行為が別組合の組合活動として行われたものとの疎明はないから、これら3名の行為は、会社に帰責されるべきものである。よって、b課長らの行為は、労働組合法7条3号に該当する組合に対する支配介入である。
(4)  Eに対する脱退慫慂について
 f区長らの各言動は、Eが乗務への復帰を強く希望していることを承知の上で、組合を脱退すれば希望が叶う旨利益誘導し、あるいは、脱退しなければ再乗務はできないことを示唆して、組合から脱退することの意図をもって相連携して行った一連の行為であるといえる。また、c区長、g総括助役及びh指導助役は、それぞれの職務上、人事に関して一定の影響力を与えうる地位にあることが認められ、g指導助役らが組合員資格を有していたとしても、それら発言内容は、職制の立場から行われていることは明らかであるから、会社に帰責されるものとみるのが相当である。よって、f課長らの行為は、労働組合法7条3号に該当する組合に対する支配介入である。
 なお、Eに対する岡山駅運輸管理係への転勤転職の発令は、Eが同種の事故を繰り返し起こしている経緯を考えれば、安全の確保という観点から、Eを運転業務からはずし、他の職種に就かせようとした会社の判断を不当なものであるとすることはできない。
(5)  団体交渉について
 会社と組合との労働協約(協約)に定める簡易苦情処理会議は、組合員からの申告事案について労使による実質的な協議は行われていないから、団体交渉を代置又は補完する機能を果たしているとはいえない状況にあり、このような場合にも、会社が、個別人事に関する問題について、協約上の団交事項には当たらないとして団体交渉に応じないことは、労働組法等で保障された団交制度の趣旨に悖るものといえる。
 しかしながら、組合は、本件Aら3名の転勤の事前通知について団交申入れを行ったものの、会社に協約上の団交事項ではないと拒否されるや、直ちに団交拒否を争って救済申立てを行うとか、団体交渉を求め続けるということを行っていない。また、下記のとおり、Eに対する不当労働行為及び転勤転職に係る団交申入れの経緯等をも斟酌すると、労申第8号について団体交渉で解決しようとする組合の意思は明らかであったとはいえない。そうすると、当該会社の対応は、労使関係上好ましいものとはいえないが、組合にあって団体交渉での解決を求め、団体交渉実現への努力が尽くされたとの具体的な疎明がなされていない状況下では、これを労組法7条2号に該当する不当労働行為であるとまでいうことはできない。
 岡山地本から申入れのあった上記Eに係る団交申入れに対して、団体交渉では応じず、窓口整理を開催するとの岡山支社の対応に問題がなかったとはいえないものの、団体交渉が正式に申し込まれていると認めることはできず、この2件に対する岡山支社の対応は、労組法7条2号に該当する不当労働行為であると認めることはできない。

【参考】
 本件審査の概要
  初審救済申立日   平成14年 9月18日 (兵庫地労委平成14年(不)第7号)
  初審命令交付日   平成16年11月 9日
  再審査申立日   平成16年11月22日 (中労委平16年(不再)第73号・同第74号)



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