平成18年2月28日
中央労働委員会事務局
審査総括官 熊谷正博
Tel 03−5403−2172
Fax 03−5403−2250


エッソ石油(富山職種変更)不当労働行為再審査事件
(平成9年(不再)第41号)命令書交付について


 中央労働委員会第三部会(部会長 荒井史男)は、平成18年2月28日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付しましたので、お知らせします。命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
 再審査申立人   スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合(豊中市)  組合員数33名(17.9.27現在)
スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合中京分会連合会(名古屋市)  組合員数12名(17.9.27現在)
スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合中京分会連合会伏木分会(富山県高岡市)  組合員数5名(17.9.27現在)
個人 H、 個人 Y、 個人 K、 個人 N
 再審査被申立人エクソンモービル有限会社(港区) 従業員数約1,300名(17.1.31現在)

II 事案の概要
 本件は、会社が、社有タンクトラックによって行う石油製品の配送業務を平成4年5月18日付けで廃止したことに伴い、同日付けで個人Hらを社員ドライバーからプラントマンに職種変更したことが不当労働行為であるとして申立てがあった事件である。
 同9年9月4日、初審富山県労委は救済申立てを棄却し、組合らはこれを不服として、同月17日に再審査を申し立てた。

III 命令の概要
 1 主文
 本件再審査申立てを棄却する。
 2 判断の要旨
(1) 社有タンクトラック職場の全廃の業務上の必要性について
 会社は、社員ドライバーによる配送は契約ドライバーに比べ経済性及び柔軟性の点で劣っていることから、配送部門の合理化及び効率化の一環として、契約ドライバーに徐々に移行していく方針のもとに従来から切替えを推進してきており、その動向は同業他社においても同様であった。また、石油産業全般においても、物流面での合理化及び効率化が進められていたこと等から、会社が社有タンクトラック職場の全廃を決定したことは、より合理的かつ効率的な配送業務の遂行を目指した経営政策上の判断に基づくものであったと解するのが相当である。
 組合らは、会社の決定は組合の団結破壊を目的にするもので業務上の必要性、合理性はなかったと主張するが、同決定が経営政策上の判断に基づくものでないと認めるに足りる証拠はなく、また、同決定が組合の団結破壊を目的にして行われたというのは組合らの独自の見解というべきであり、これを認めるべき証拠はない。
(2) 本件職種変更に係る団交の経緯について
 会社は、平成2年7月26日に社有タンクトラック職場を全廃する旨通知して以来、同4年4月6日に組合の暫定了解を得るまでの16回にわたる本部団交において、同職場を全廃する背景事情や業務上の必要性を説明し、組合の質問に対し、可能な限りで具体的数字を示して詳細に回答し、Hらの本件職種変更後の職務内容等について具体的に説明している事実が認められる。他方、組合はHらの本件職種変更後の職務内容等について、いずれも現職場における勤務を前提にしていることから会社の措置をそれなりに評価したい旨意思表示をした上で、会社提案を暫定的に受け入れる旨表明した。
 これに対し組合は、暫定的に了解したものであって、本件職種変更については未だ決着はついていない旨主張しているが、会社は本件職種変更について、団交の経緯等から当初予定していた同4年3月末の実施を延期し、上記16回の本部団交に加えて、組合が了解した同年5月18日の職種変更実施日までの間に2回本部団交を行い、その後も職種変更に伴う特殊勤務について本部団交及び中京分会連団交を行っているなどの経過をみれば、社有タンクトラック職場の全廃と本件職種変更については組合の暫定了解の意向を受けて、会社が決着済みと考えたことに無理もなく、組合がその撤回を求める限りもはや団交の余地はなかったというべきであり、会社がこれを断ったとしてもやむを得ないというべきである。少なくとも団交における会社の対応に、不当労働行為性を根拠付けるような事実を見いだすことはできない。
(3) 組合員Hらと会社との間の職種及び勤務地限定の合意の有無について
 会社の就業規則やHらが入社当時に所属していた他組合と会社の労働協約には、会社は、業務上の必要性により従業員に配転等を命じることができる旨明記されていること、社有タンクトラック職場の全廃は業務上の必要性に基づいて実施されたものと認められること等から判断して、本件職種変更は、会社の人事権の行使による適法かつ有効な配転であったと認めるのが相当である。
 組合は、Hらと会社との間には採用時に職種及び勤務地限定の黙示の合意があったと主張するが、会社は従業員採用時に職種及び勤務地を限定した雇用契約書を取り交わした例はなく、このことはHらについても同様であり、また、Hらが見たという求人広告には「タンクローリー運転者1名」と記載されているだけで職種及び勤務地を限定して募集するような趣旨のものとは認められない。これらのことから、組合が主張するような黙示の合意を認めることは到底無理であり、他にそのような合意の存在を窺わせる事情を見いだすことはできない。
(4) 本件職種変更に伴うHら及び組合活動における不利益について
 特殊勤務は他の油槽所でも行われており、格別異例な勤務形態とまではいえない上、本件職種変更によりHらの職制上の地位、基本的な給与形態、手取給与額、1週間の総労働時間、休暇日数、勤務場所等の労働条件には変更がなかったことから、交替勤務によって組合員間の意思疎通や個人の生活上において多少の不便や不利益が生じたとしても、勤務上やむを得ない程度のものというほかはなく、このことが組合員であるが故の差別の結果であるとか、組合を弱体化する意図による結果であるとかは到底いえない。
 また、他組合員は通勤に際しタクシー代を支給されている旨の組合の主張については、その事実を確認するには足りず、仮にその事実があったとしても組合が差別取扱いを受けていると認定するには足りないから、組合の主張は採用できない。

【参考】 本件審査の経過
  初審救済申立日 平成 5年 2月17日(富山県労委5年(不)第2号)
  初審命令交付日 平成 9年 9月 4日
  再審査申立て 平成 9年 9月17日



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