平成18年1月24日
中央労働委員会事務局
  第一部会担当審査総括室
   審査官    横尾 雅良
TEL 03−5403−2169
FAX 03−5403−2250


東日本旅客鉄道(水戸動労不登用)不当労働行為再審査事件
〔平成12年(不再)第17号〕命令書交付について


 中央労働委員会(会長 山口浩一郎)は、平成18年1月24日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
  再審査申立人 東日本旅客鉄道株式会社(東京都渋谷区)
  従業員約80,000名(平成12年3月13日現在)
  再審査被申立人 国鉄水戸動力車労働組合(茨城県水戸市)
  組合員36名(平成13年1月15日現在)
  再審査被申立人 個人S外14名

II 事案の概要等
 1 本件は、再審査申立人東日本旅客鉄道株式会社(以下「会社」)が、日本国有鉄道(以下「国鉄」)において運転士資格を取得した再審査被申立人国鉄水戸動力車労働組合(以下「組合」)の組合員Sら15名を運転士に発令しないことが不当労働行為であるとして、平成9年8月26日、組合及びSら15名が茨城県労働委員会(茨城県労委)に救済を申し立てた事件である。
 2 初審茨城県労委は、平成12年3月13日、会社が組合員2名を運転士発令の前提となる車掌経験をさせたにもかかわらず、運転士に発令しないこと並びに同13名を運転士発令の事実上の前提となっている車掌にすら発令しないことは、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であるとして、アSら15名を平成9年6月1日付けで運転士に発令したものとして取り扱い、運転士として就労させること、イ運転士発令において、組合に所属する組合員に対する差別的取扱いによる組合の運営に関する支配介入の禁止を命じ、ウその余の申立ては棄却する命令を交付した。
 会社は、上記救済命令を不服として、同月27日、再審査を申し立てたものである。
 なお、再審査被申立人らは、平成17年9月28日付けで、K及びUの救済申立てを取り下げた。

III 命令の概要
 1 主文
 初審命令主文第1項及び第3項を次のとおり変更する。
(1)再審査申立人は、再審査被申立人Sら13名を平成9年6月1日付けで運転士に発令したものとして取り扱い、本命令交付後、必要であれば再訓練を行い、遅滞なく運転士として就労させなければならない。
(3)再審査被申立人K及びUの救済申立てを却下し、この両名を除く再審査被申立人らのその余の救済申立てを棄却する。
 2 判断の要旨
(1) 運転士発令の不当労働行為の成否
 運転士未発令者からの運転士発令の必要性及び合理性について
(ァ)会社は、設立後新しい昇進基準(規程)を定め、運転士の発令については、運転士試験に合格し、その後2年程度の車掌業務を経験させてから運転士に発令することとした。
(ィ)会社水戸支社は、平成4年から同6年にかけて、新制度に基づく運転士の発令だけではなく、国鉄において既に運転士資格を取得している運転士未発令者(以下「未発令者」)について運転士の発令を行った。こうした未発令者を運転士として発令するに至ったのは、主として運転士の需給状況が逼迫してきたことによるものと主張されており、その必要性は、一応理解することができる。
(ゥ)会社は、未発令者から運転士に発令した13名は、運転士の需給状況から必要かつ十分な要員数に相当するもので、これ以上の発令は余剰となり、運転士に発令することはできなかったと主張するが、会社は、運転士の需給状況やその見通しなどを何ら明らかにしておらず、既発令者以上の発令はできなかった事情について具体的な疎明は一切なされていない。
 このような発令状況に関し、発令の合理性(選抜の合理性)について、会社の方で説明することが必要である。
 運転士発令と勤務成績について
(ァ)会社は、人事考課を行っているが、その記録ないしこれに基づく評価を窺知させる資料は一切提出していない。会社の幹部発言と現場長会議での討議内容等を併せ考えると、人事考課が公正に行われたとすることはできない。
(ィ)Sら13名のうち、7名の者が戒告、又は訓告等の処分を受けているが、未発令者の中でも、出勤停止処分を受けながら、その後運転士に発令された者がいること、運転士に発令された社員の中には、多くの処分を受けた者、より重い処分を受けた者もいたことなどを合わせ考えると、処分歴があることをもって、運転士に発令するには勤務成績が劣っていたとするには十分でない。
(ゥ)会社は、Sら13名が運転士に発令された者に比し、勤務成績が劣っていた理由として、同人らが小集団活動及び提案活動等に消極的であったことを挙げている。しかしながら、これらの活動はマイナス評価の要素とはされないのであるから、直ちに勤務成績全体を低く評価する理由とはなり得ない。
(ェ)なお、会社は、Sら2名を車掌に発令した。この発令は団体交渉での運転士登用のための車掌発令発言や、組合を脱退し他組合へ移籍した2名が、運転士に発令されていることからみても、2年後の運転士発令を前提とした発令とみるのが相当である。
 これに対し会社はSら2名が運転士に発令されなかった理由を明らかにしておらず、両名は車掌業務に従事した間、表彰等を受けていることなどから見れば、両名の勤務状況には特に問題があったとは判断できない。
 結論
 未発令者から運転士への発令は、勤務成績によって行ったとするのが会社の主張であるが、人事考課の結果等勤務成績を直接明らかにする資料を会社は一切提出せず、関連する他の事情を考慮しても、発令者の選抜、発令の合理性については疎明があるとは言えない。
 以上のとおりであるから、Sら13名を運転士に発令しないことは、下記(2)の判断と合わせ考えると、会社の組合嫌悪の念から発したものというほかなく、組合員に対する不利益取扱いであるとともに、組合の弱体化を企図したものと認めざるを得ない。
 よって、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であるとした初審判断は相当である。
(2)不当労働行為意思についての会社の主張
 会社が主張する個別の事情についてみると、ア昭和62年4月7日付け異動発令については、控訴審判決においても不当労働行為であると認定されており、会社の主張は判決の内容を曲解するものである。イ総合現場長会議における討議テーマ等は会社が分割・民営化に反対する労働組合を嫌悪し、厳しく対応しょうとする意思を有していたことを推認させるものである。ウ業務用掲示板に、組合を非難する文書が長期間掲示され続けたことは、現場管理者が掲示内容を黙認していたものと推認されるなど、会社の主張はいずれも採用できないものである。
(3)救済方法
 未発令者の中から運転士に発令された者は、国鉄時代に運転士資格を取得し、運転士を希望した者であって、Sら13名も同様である。Sら13名全員を運転士に発令し、運転士として就労させることを命じるのは、労働委員会の裁量権を逸脱するものではない。
 組合員らは平成9年6月1日付けでの救済を求める意思が明らかであるので、この日付でSら13名を運転士として取り扱い、必要ならば再訓練を行って、遅滞なく運転士として乗務させることを命じることとする。この間、Sら13名が平成9年6月1日から運転士として乗務するまで、運転士として乗務したら得られたであろう賃金と既に受け取った賃金との差額を支払う必要がある。
 以上のとおりであるので、本件初審命令主文第1項及び第3項を主文のとおり変更するほかは、本件再審査申立てには理由がない。

【参考】
  本件審査の概要
   初審救済申立日 平成9年8月26日(茨城県労委平成9年(不)第8号)
   初審命令交付日 平成12年3月13日
   再審査申立日 平成12年3月27日(会社)


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