平成17年12月26日
中央労働委員会事務局第二部会
審査官  藤森和幸
Tel 03−5403−2175
Fax 03−5403−2250


田中酸素不当労働行為再審査事件
(平成17年(不再)第16号)命令書交付について


 中央労働委員会(会長 山口浩一郎)は、平成17年12月26日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要は、次のとおりです。

I 当事者
 再審査申立人  田中酸素株式会社(山口県宇部市)
   従業員 64名(平成16年5月現在)
 再審査被申立人  田中酸素労働組合(山口県宇部市)
   組合員  4名(平成17年7月現在)

II 事案の概要
 本件は、会社が、(1)組合書記長A(以下、「A」)を異動させたこと、(2)Aに貸与していた社用携帯電話を解約したこと、(3)Aに対して、16年夏期賞与を前年より大幅に減額支給したこと、(4)組合員3名に対して、定時退社を指示するファックス文書を送信し、その後同人らを終業時刻後直ちに退社させたこと、(5)A及び組合副執行委員長B(以下、「B」)に対して、会長及び社長が組合からの脱退を勧奨する等の発言を行ったこと、(6)16年8月25日、山口県労働委員会(以下、「山口県労委」)に証人として出頭したA及びBに対して、その出頭した時間を勤務しなかった時間として賃金相当額を減額するとともに、同年8月分の皆勤手当を支給しなかったことがそれぞれ不当労働行為であるとして、救済申立てのあった事件である。
 初審山口県労委は、会社に対し、(1)Aに対して支給した16年夏期賞与について、15年夏期賞与と同じ査定基準により支給すべき金額を再計算の上、既支給額との差額を支払わなければならない、(2)組合員に対して、組合からの脱退を勧奨するなど、支配介入してはならない、(3)A及びBに対して支給した16年8月分給与について、山口県労委に出頭した時間を欠勤がなかったものとして取り扱い、8月分給与から減額した金額を、同人らにそれぞれ支払わなければならない、と命じ、その余の申立てを棄却したところ、会社は、これを不服として、17年3月10日、再審査を申し立てたものである。

III 命令の概要
 1 主文
 本件再審査申立てを棄却する。

 2 判断の要旨
(1) Aに対する平成16年夏期賞与減額について
 会社の評価制度においては、評価基準シート(以下、「評価シート」)以外に評価に関する客観的、具体的な資料は見あたらず、Aの査定については、15年は評価シートにおける評価点と査定結果が大きくかい離し、16年は評価シートの評価とは別個の理由が用いられていることから、賞与に関する会社の査定制度は裁量の幅が極めて広く、また、Aの16年の査定は15年の査定と一貫性なく行われているということになる。
 Aの16年査定減の理由として、会社は、(ア)プロパンボンベの取扱いが不十分で危険であったこと及び納品伝票の不提出、(イ)Aのプロパン部責任者としての資質、(ウ)コンピュータによるプロパン販売管理の未習熟などを理由としているが、いずれも本件のような大幅な賞与減額の理由として相当なものと言えるか疑問である。
 本件の事実経過を見ると、会社は組合執行委員長C(以下、「C」)を会社から追い出そうとして同人を正当な理由なく解雇し、同人が解雇無効確認訴訟を提起してこれを争うや、これを支援するAを嫌悪し始め、さらにCらが組合を結成してAの所属するプロパン部の欠員問題などに関する要求を提出するや、Cを中心人物とする組合そのものを嫌悪し、これに敵対的な態度をとってきたことが認められる。これらをかんがみれば、Aの異動や時間外労働管理等に対して組合がとった一連の行動を嫌悪し、Aの16年夏期賞与を大幅に減額したことは、同人の組合活動を嫌悪して行った不利益取扱いであると認められる。
(2) A及びBに対する社長らの発言について
 会社は、組合が組合結成前の会長発言を組合結成後の発言と混同し、また、組合結成後における会長及び社長の発言は存在しないと主張するが、まず、会長及び社長の発言日時の問題については、組合は、本件再審査において、新たな証拠として組合結成前の発言及び結成後の発言の録音記録(反訳書)を提出し、同反訳書には、会話の内容と状況が逐一記録されており、これらに社長の証言をも加えた検討をすると、組合結成前の平成16年2月12日及び14日に会長及び社長がAと会話したのは、Cの関与のない状況においてであるのに対して、組合結成後の同年5月11日にはAはCが会社に団交申し入れをして帰った後、会長から問題の発言を受けたのでCを携帯で呼び出して、2人で会長及び社長と再び会話しているのであって、この点からしてもAが5月11日の出来事を2月12日及び14日の出来事と混同した可能性は少ない。さらにA及びCの両名の初審記録及び再審記録は5月11日の出来事についていずれも概ね一貫していることが認められる。したがって、会社主張のような日にちの混同は認められず、組合結成後におけるAに対する会長発言は、本命令書第4の2(2)エの認定に誤りはない。
 上記アの5月11日における会長及び社長の発言内容、また、5月18日のBに対する社長の発言等についてみると、結成早々の組合が会社に対してプロパン部の欠員補充に関し交渉の申し入れを行い、これに対し会社は、定時退社や社用携帯電話の貸与中止の対抗措置を行うなど、両者が緊迫した労使関係にあった時期において、組合の中心人物からの決別を要求したり、脱退を勧奨したり等の発言を行ったものであり、時期及び内容からみて、会社経営者としての正当な意見の表明という程度を超えて組合に対する支配介入であると認められる。
(3) A及びBに対する労働委員会証人出頭を理由とする平成16年8月分給与減額について
 労働時間内における外出に対する賃金の取扱いについては、就業規則等で規定されておらず、また、会社は、組合結成に至るまでは就業時間内の一時不就労に対して賃金の減額を厳格に行ってこなかったと推認され、組合結成以降、会社は、組合が、全職場へのタイムカード設置や、サービス残業の撤廃などを要望するや、組合員らに定時退社を求め、時間外労働を認めない取扱いを開始した中で、組合が本件救済申立てを行い、A及びBがその手続きの審問に出頭するに及んで初めて会社は、同人らの審問出頭後に賃金減額をあらかじめ告知することなく、労働時間内外出申請書の提出を求めて、従来の取扱いとは異なり就労時間内の一時不就労として賃金減額を行ったものである。このことは、会社の不当労働行為を証言する証人としてAらの出頭を嫌悪した会社が、常日頃は就業時間内の不就労に減額してこなかったにもかかわらず、その報復として行ったものと認められ、これを不当労働行為であるとした初審判断は相当である。
【参考】
  初審救済申立日  平成16年 5月13日(山口県労委平成16年(不)第1号)、
  同月24日、8月17日及び9月24日(追加申立)
  初審命令交付日  平成17年 3月 2日


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