平成17年12月6日
中央労働委員会事務局第二部会担当
審査総括官  神田義宝
Tel 03−5403−2162
Fax 03−5403−2250


西日本旅客鉄道(西労ビラ配布)不当労働行為再審査事件
(平成16年(不再)第40号)命令書交付について


 中央労働委員会(会長 山口浩一郎)は、平成17年12月5日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要は、次のとおりです。

I 当事者
 再審査申立人  ジェーアール西日本労働組合(「JR西労」)(大阪市此花区)
    組合員 約1,300名(平成16年1月現在)
   同  ジェーアール西日本労働組合近畿地本(大阪市天王寺区)
    組合員 約500名( 同 )
   同  JR西労組合員A(「A」)
 再審査被申立人  西日本旅客鉄道株式会社(「会社」)(大阪市北区)
    従業員 約34,000名( 同 )

II 事案の概要
 本件は、Aが、休日に、会社施設に接する公道上で、乗務に向かう途中の同僚運転士B(「B」。西日本旅客鉄道労働組合に所属)の乗務用鞄(「鞄」)の外ポケットに、日勤教育の改善を求めることなどを内容とする組合ビラを入れた行為(「本件ビラ配布」)に対し、会社が、本件ビラ配布はBの乗務に向けた意識集中を妨げ安全運転に支障を与える不都合な行為であり、就業規則に違反するとして、厳重注意(「本件厳重注意」)としたことが不当労働行為に該当するとして、救済申立てがなされた事件である。
 初審兵庫県労委は、本件救済申立てを棄却したところ、組合はこれを不服として再審査を申し立てた。

III 命令の概要
 1 主文の要旨
(1) 初審命令を取り消す。
(2) 会社は、Aに対する厳重注意がなかったものとして取り扱わなければならない。

 2 判断の要旨
(1) 本件ビラ配布の態様と就業規則違反該当性について
 本件ビラ配布の際、AはBの鞄を持ち替えるなどの対応ぶりから、本件ビラの配布を迷惑がっていることは十分認識できたはずであり、Bが乗務に向かう途上にあることを認識していたことからすると、本件ビラ配布は、すでに勤務に就いているBに対し、職務外のことで嫌がる行為を強いて職務を妨害するという意味合いにおいて、全く問題がなかったとはいえない。
 しかしながら、本件ビラ配布は、列車の安全運転に悪影響を与える虞や会社の職場秩序を乱す行為であるとまでは評価できず、会社の就業規則に規定する懲戒事由である「その他著しく不都合な行為」に該当するとするのは相当でなく、したがって、組合活動としての正当性が失われたとまではみることができない。
(2) 本件厳重注意の不利益性等について
 Aは本件厳重注意により、経済的な不利益を受けていないものの、運転無事故表彰について無事故表彰の対象となる期間が1箇月延伸されたほか、名誉感情を害する等の精神的な不利益を受けたことも否定できず、このことは未だ解消されたものとはいえない。
 さらに、他の支社長名による厳重注意を受けた事象についてみると、いずれも、基本的な職務の勤怠、または運転行為そのものに関わる事象であって、本件ビラ配布と同視するのは適切とはいい難い。
 もっとも、Bからの申告を受けた会社として何らかの対応措置をとる必要性は是認できる。しかし、本件ビラ配布の態様に照らすと、Aに対して速やかに事実を確認の上、区長ら箇所長において口頭で指導的注意を与える程度の扱いとするのが相当であったと考えられるのであり、本件ビラ配布に対する支社長による厳重注意の措置は、他の事例と比較しても均衡が保たれているとはいい難く、相当性を欠くといわざるを得ない。
(3) 不当労働行為の成否について
 JR西労はその結成以降会社と厳しく対立し、また、本件当時、C電車区においては従前から長期に及ぶ日勤教育を問題として取り上げ、会社と緊張した状態にあった状況の中で、日勤教育期間中の乗務員が自殺するという問題が発生し、会社は、同問題を記載した会社に対するJR西労の抗議文を組合掲示板から撤去するほか、同問題に関するJR西労の情宣活動への対応について指示していたこと等からすると、会社への批判的な記事を配布・掲示する分会の情宣活動を強い関心を持って注視するとともに、同活動を嫌悪していたものと推認される。
 本件ビラは、同問題に対し、日勤教育等の改善要求を会社に求めることなどを内容とするもので、当時の状況に照らせば、JR西労の当該ビラの配布については、会社が特に問題視していたものと容易に推認でき、本件ビラ配布への対応も、区長から報告を受けた支社人事課の主導で進められたことが認められる。
 以上のとおり、Aの本件ビラ配布については、問題がなかったとはいえないとしても、就業規則に定める懲戒事由に該当するとはいえず、組合活動としての正当性が失われたとまではいえないところ、本件厳重注意は、JR西労のH運転士の問題に関する情宣活動を問題視した会社が、ビラ等の内容そのものを直接問題とするのでなく、あえて組合活動として行われた本件ビラ配布の乗務途上の運転士への影響という側面をとらえて、C電車区分会の副委員長であるAに対し就業規則該当の事由があるとして、相応の程度を超えた不利益性のある措置をとったものと判断されるのであって、Aに対する不利益扱いであるとともに、JR西労に対する支配介入であり、労働組合法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たると認めるのが相当である。

【参考】
 本件審査の概要
 初審救済申立日  平成14年 9月18日(兵庫県労委平成14年(不)第7号)

 初審命令交付日  平成16年 5月26日、28日
 再審査申立日  平成16年 6月 8日(中労委平成16年(不再)第40号)

 初審命令主文  本件申立てを棄却する。


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