平成17年11月30日
中央労働委員会第二部会担当審査総括室
審査官  藤森 和幸
電話 03-5403-2175(ダイヤルイン)
FAX 03-5403-2250


加部建材・三井住建道路不当労働行為再審査事件
(平成15年(不再)第52号)命令書交付について


 中央労働委員会第三部会(部会長 荒井史男)は、平成17年11月30日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要は、次のとおりです。

I 当事者
 1 第52号再審査申立人
  個人Y
 2 第52号再審査被申立人
  有限会社加部建材
   (埼玉県志紀市本町2-15-9、平成12年3月13日従業員数10名、傭車運転手15名)
  三井住建道路株式会社
   (東京都新宿区余丁町13-27、平成12年3月13日従業員数502名)

II 事案の概要
 1 本件は、加部建材がYに対して行った平成11年3月15日付傭車契約(運転手所有のトラックで会社の運搬業務を行う契約)解除は、三井住建道路がYに対して行った同人所有のトラックの移動を求める車両移動通知と相俟って、両社が共同で行った、同人の組合活動を理由とする不利益取扱い及び組合活動に対する支配介入に当たるとして、Yに対する現職復帰、契約解除以降の賃金相当額の支払い、謝罪等を求め、東京都労働委員会(都労委)に救済申立てを行ったものである。
 2 初審都労委は、上記救済申立てを棄却したところ、Yはこれを不服として再審査を申し立てた。

III 命令の要旨
  主文の要旨
  本件再審査申立てを棄却する。(不当労働行為に該当しない。)
  判断の要旨
 加部建材による不当労働行為の成否
(1) Yの業務態度
 Yは、本件申立外であるH運輸においてトラブルを起こして契約を打ち切られた後、建材において業務を開始するに当たって、社長からトラブルを起こさないように警告を受けていたにもかかわらず、同社においても暴行事件をはじめ、業務に支障を生じさせるようなトラブルを再三起こしていたのであるから、同人の業務態度には問題があったと認めざるを得ない。
(2) 本件暴行事件
 本件暴行事件が正当な組合活動といえるかについてみると同僚運転手Oが組合決議に違反して応援代車を手配したことから、YがOと口論となり、Oの左頬を平手で2度殴打するなど身体の接触を伴うトラブルを起こしたことが認められる。
 しかしながら、(@)Oは、10日間の加療を要するとの診断を受けたこと、(A)Oは、警察署へ被害届を提出していること、(B)Yは、本件暴行事件について、有罪の判決を受け、最高裁で刑(暴行罪で罰金20万円)が確定していることなどからみると、YがOへの注意に際して行った行為は、単に頬に触れた程度の身体の接触であったとは、到底認めることはできず、YがOに対して行った注意は、組合活動の一環であったとしても、その際に行った暴力行為は、正当な組合活動を逸脱したものであると認められる。
(3) 本件傭車契約解除の相当性
 Yの業務態度により、業務に支障が生じかねない状況が再三生じていた中で、加部建材がYに対し特に注意を喚起していたにもかかわらず、同人は本件暴行事件を起こし、その結果、上記Oが警察署に被害届を出す事態になったのであるから、Yの入社経緯に照らしても本件傭車契約を維持しがたい状況に至ったということができる。そうすると、加部建材は、本件暴行行為を直接の契機として、Yの業務態度をも斟酌して本件傭車契約解除を決定したことには相当な理由がある。
(4) 不当労働行為意思
 Yは、加部建材において業務を開始する前に顧客とトラブルを起こしており、業務開始後も同人の業務態度には問題があったことにかんがみれば、たとえ、加部社長が「Yを入社させなければよかった」と他の労働者にこぼしていたとしても不自然ではなく、さらに、加部建材が応援代車の手配をさせ支部内の対立関係を作り出したことについての証拠もない。そうすると、加部建材が本件契約を解除するに当たり、組合活動を嫌悪し、支部を弱体化させるとの意図があったとは認めることができない。
(5) 加部建材による不当労働行為の成否のまとめ
 以上のとおり、Yの本件暴行行為は、正当な組合活動の範囲を逸脱したものであり、加部建材が同人の業務態度も勘案して本件契約を解除したことには相当な理由があったこと、また、同社には組合活動を嫌悪し、支部を弱体化させるとの意図があったとは認められないことからすれば、本件傭車契約解除は、不当労働行為には当たらないと解するのが相当である。
 三井道路による不当労働行為の成否
(1) 使用者性
 (@)三井道路は加部建材との間で運搬請負契約を締結していたこと、(A)Yは業務開始に当たって三井道路の関係者と会ったことはないこと、(B)三井道路は運転手各人が受領している金額を知らず、加部建材に対して運搬代金を一括して送金していたこと、(C)三井道路でなく加部建材からYに本件解除通知が手交されていることなどを勘案すれば、三井道路は同人とは直接の契約関係にはなく、本件契約の解除につき、現実的かつ具体的に支配・決定することができる地位にあったとは認められないので、本件傭車契約解除に関して、三井道路がYとの関係で労働組合法の使用者に当たるということはできない。
 なお、組合は加部建材及び三井道路を団体交渉の相手として認識していることがうかがえるが、(@)組合支部には、加部建材で仕事をする傭車運転手のみ加入し、社員運転手は加入していなかったこと、(A)三井道路は、傭車運転手の労働者性を否定し、また、Yが「団体交渉」の開催の要求を行った際に、「組合とは話し合う立場にない。」と回答しているのであり、三井道路は、組合支部を単に傭車運転手の団体であるとしか認めておらず、労働組合法上の団体交渉の相手方としては認識していなかったことが認められる。加えて、労働組合法にいう使用者の該当性は客観的に判断されるべきものであることも考慮すれば、組合の認識が上記のようなものであったとしても、三井道路がYとの関係で労働組合法の使用者に当たらないという判断を左右するものではない。
(2) 三井道路による不当労働行為の成否のまとめ
 以上のとおり、三井道路はYとの本件傭車契約解除につき、労働組合法の使用者に該当するとはいえないのであるから、同社が不当労働行為を行ったものと認めることはできない。

 結論
(1) 加部建材が行った本件傭車契約解除は、Yの本件暴行行為に加え、同人の業務態度も勘案してなされたものであって、不当労働行為意思に基づくものとはいえないから、不当労働行為であるとは認められない。
(2) 三井道路は、本件傭車契約解除について、Yの使用者に該当するとはいえないので、同じく、本件傭車契約解除が三井道路による不当労働行為であるということはできない。

【参考】初審救済申立日 平成12年3月13日(東京都労委平成12年(不)第23号)
 初審命令交付日 平成15年9月2日
 再審査申立日 平成15年10月10日


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