平成17年11月21日
中央労働委員会事務局
  第一部会担当審査総括室
   審査官   横尾 雅良
 TEL 03−5403−2169
 FAX 03−5403−2250


東日本旅客鉄道(豊田電車区)不当労働行為再審査事件
〔平成14年(不再)第47号・第48号〕命令書交付について


 中央労働委員会(会長 山口浩一郎)は、平成17年11月18日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
 1 14(不再)47号 再審査申立人 東日本旅客鉄道株式会社(東京都渋谷区)
 14(不再)48号 再審査被申立人 従業員約75,000名(平成14年1月25日現在)
 2 14(不再)48号 再審査申立人 個人N
 14(不再)47号 再審査被申立人

II 事案の概要等
 1 本件は、会社が、平成12年7月1日に開催された国鉄労働組合(以下「国労」という。)臨時大会の会場付近で公務執行妨害罪の疑いで逮捕勾留された組合員Nに対し、同人が釈放された後、(1)同人を電車の運転業務に従事しない日勤勤務とし、約3か月にわたり除草作業を命じたこと、(2)その後更にリネン業務と電車の乗務等が混在する勤務に就かせたこと、(3)会社の八王子支社F企画課長が同人の組合活動を批判する言動をしたことが不当労働行為であるとして、12年10月4日((2)について、12年11月15日追加申立)、同人が、東京都労働委員会(東京都労委)に救済を申し立てた事件である。
 2 東京都労委は、14年10月10日付けで、会社がNに対し、12年10月1日以降において除草作業及びリネン業務を命じたことは不当労働行為に該当するとして、請求する救済内容のうち、(1)10月1日以降の日勤勤務指定がなかったものとして取り扱い、従前の運転士業務へ復帰させるとともに、従来の交番勤務の平均回数を下回らない交番勤務が行われたものとして処遇すること、(2)同日以降、従前の運転士業務に復帰させるまでの間、交番勤務に伴って支払われる乗務員手当等の諸手当について、従前の平均支払額と既払額との差額を支払うこと、(3)八王子支社企画課長をして申立人の組合活動に対し介入する言動をさせてはならないことの限度でこれを認容し、その余の申立てを棄却した。これに対し、会社は14年10月23日、Nは同24日、それぞれ再審査を申し立てたものである。

III 命令の概要
 1 主文
 本件各再審査申立てを棄却する。

 2 判断の要旨
(1) Nに対する日勤勤務指定及びリネン業務勤務指定について
 Nに対する平成12年10月以降の日勤勤務指定について
 12年7月の逮捕勾留に対して、同年9月の勤務指定表を作成した8月25日の段階では、捜査機関からの呼出し等を受ける可能性が全くないとは言えないことから、業務遂行上のリスクを避けるため、Nに対し9月を日勤勤務に指定し、自戒と反省を促すため除草作業を命じたことは人事操配上の裁量と認めることができる。しかし、その後捜査機関からの呼出し等がなく、会社として何らの処分もなされなかったこととのバランスを考慮すると、同年10月以降も引き続き除草作業に従事させ続けることは、人事操配上の必要性が希薄になったことや作業の厳しさからみて、会社の裁量の範囲を逸脱するものと考えられる。
 Nに対するリネン業務への勤務指定について
 会社がNに命じたリネン業務は、豊田電車区の正規の担務とはいえ、これまで主に健康上の理由により本来業務に支障がある従業員に担当させていた業務であり、運転士の電車運転業務を降ろしてまでリネン業務をさせたことはなかった。
 そして、Nがリネン業務に就くことは、その間運転業務に乗務できなくなり、乗務員手当等の減少として経済的不利益になるとともに、職業的熟練の維持・形成を困難にし、精神的不利益を伴うものである。また、Nには、健康上の理由により運転業務の遂行に支障があるとの特段の疎明も存在しない。
 そうするとNにリネン業務を命じたことは、合理的な人事操配上の裁量の範囲を逸脱したものと言わざるを得ない。
 結論
ア) Nは、他の運転士と比較して運転技術が劣ることの疎明はないものの、勤務態度に積極性がなく、組合バッジ着用による服装整正違反により繰り返し訓告処分などを受けて、勤務成績が劣位であることが認められる。しかしながら、他方で、同人は、会社発足当時から一貫して会社と対立関係にある組合の組合員の一人であること、また同人が四党合意の受入れを強固に拒絶する組合員の一人であったこと、12年8月26日の国労臨時大会にあたり、K区長の参加をけん制する言動があったこと(Nは国労臨時大会の参加を見合わせた。)等から、会社がNの組合活動を注視し、かつ、同人の組合活動を快く思っていなかったであろうことは推認するに難くない。後記(3)のF企画課長によるNの国労組合員としての組合活動に介入する言動も、上記推認を裏付けるものといえる。
イ) 上記の点を併せ考えると、会社は、10月の勤務指定表を作成する9月25日の段階で、これまで健康上の理由でリネン業務を担当してきたSが休職に入ることを見越してNに引き続き除草作業をさせ、Sの休職後、その欠員を補充することとなる機会を利用して、運転士としては初めてNにリネン業務への就労を命じ、敢えて交番勤務指定から全く除外し、あるいは他の運転士の場合より格段に少ない交番勤務しか指定しなかったものといわざるを得ない。このことは、Nに賃金面で相当の不利益を与えるものであり、かつ、同人の運転士としての職業的熟練の維持・形成を困難にし、精神的不利益を伴うものである。したがって、会社がNに対し10月1日から16日まで除草作業をさせ、引き続いて同17日からリネン業務をさせたことは、Nの組合活動を嫌ってなされた不当労働行為(不利益取扱い)を構成するとした初審判断は相当である。
(2) 八王子支社F企画課長のNに対する言動について
 八王子支社F企画課長の言動についての当委員会の判断は、初審命令理由と同一であるので、これを引用する。
<初審命令の判断要旨>
 F企画課長とNとの面談は、豊田電車区のK区長が設定し、勤務中のNの業務を中断させた上で、勤務時間内に会社施設内で行われた業務行為ということができる。したがって、その面談においてF企画課長が「このままだとSの後がまだぞ。」と豊田電車区内部の具体的人事に係わる発言をしていることを併せ考慮すると、F企画課長は、K区長の意を体して、運転士の業務でない新たな配置を示唆するなどして、Nの国労組合員としての組合活動を批判し、誘導することによって、同人の国労組合員としての活動に影響を与えたものというほかない。
(3) Nの再審査申立てについて
 Nは、本件不当労働行為による経済的損失及び精神的損失を救済するため、本件初審命令の主文第2項の差額支払い(上記IIの2の(2))に年5分の割合による金員を付加した支払い及び謝罪文の交付と掲示を求めるが、当委員会は、救済方法としては初審の主文の程度をもって足りるものと判断する。
 以上のとおりであるから、本件会社及びNの再審査申立てには理由がない。

【参考】
  本件審査の概要
   初審救済申立日 平成12年10月4日(東京都労委平成12年(不)第95号)
   初審命令交付日 平成14年10月10日
   再審査申立日 平成14年10月23日(会社)
 平成14年10月24日(個人N)


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