平成17年11月16日
中央労働委員会事務局
 第二部会担当審査総括室
   室長     神田 義宝
TEL 03−5403−2162
FAX 03−5403−2250


緑運送不当労働行為再審査事件(平成16年(不再)第16・17号)命令書交付について


 中央労働委員会(会長 山口浩一郎)は、平成17年11月16日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
 再審査申立人(16年(不再)16号)・再審査被申立人(16年(不再)17号)
   全日本運輸産業労働組合埼玉県連合会(埼玉県さいたま市中央区)
     加盟組合数25、組合員数2,653名(平成13年11月6日現在(初審申立時))
   緑運送労働組合(埼玉県三郷市) 組合員数15名(同上)
 再審査申立人(16年(不再)17号)・再審査被申立人(16年(不再)16号)
   東西物流株式会社(埼玉県吉川市) 従業員数約40人(同上)
 再審査申立人(16年(不再)17号)
   緑運送株式会社(埼玉県吉川市) 従業員数0人(同上)

II 事案の概要
 1 本件は、緑運送株式会社(以下「緑運送」)が、新会社である東西物流株式会社(以下「東西物流」)を設立し、非組合員、車両、施設、取引先を東西物流に移管させ、その後、緑運送労働組合(以下「組合」)の執行委員長を業務命令違反等により懲戒解雇し、さらに緑運送を計画倒産させて、組合員を整理解雇したことが、組合員を排除するためにしたことで、不当労働行為であるとして、平成13年11月6日(以下、元号省略)に救済申立てがあった事件である。
 2 16年2月16日、初審埼玉県地方労働委員会は、東西物流に対して組合員の雇入れを、緑運送に対して「誓約文」の交付を命じ、その余の申立てを棄却したところ、東西物流及び緑運送と全日本運輸産業労働組合埼玉県連合会(以下「県連」)及び組合は、それぞれこれを不服として、同年2月27日に再審査を申し立てたものである。

III 命令の概要
 1 命令主文要旨
 初審命令第1項を次のとおり変更するとともに、同第2項を同第4項とし、同第3項を同第5項とする。
(1) 緑運送は、組合の執行委員長A及び同組合員Bら14名(以下「組合員ら」)を13年8月30日付けで原職復帰させたものとして取り扱い、13年8月30日から同社が事業を廃止した14年5月31日までの間は、同社が組合員らを整理解雇(Aについては懲戒解雇)する前3か月間に支払った賃金により算出した平均賃金に基づき、休業補償に相当する額を支払わなければならない。なお、上記によって算出した額については、既に支払われている解雇予告除外手当は除くものとする。
(2) 東西物流は、組合員らを14年6月1日付けで、就労させたものとして取り扱わなければならない。なお、現実に運転手として就労を希望する者については、これらの者に係る賃金等の労働条件について、県連及び組合と誠実に速やかに協議し、合理的な取決めをしなければならない。
(3) 前項の取扱いに伴い、東西物流は、組合員らに対し、賃金相当額として、14年6月1日から16年3月31日までの間、同社の賃金規程に基づいて、基本給、職務手当、交通費を合算した額によって算出した1か月当たりの金額の7割に相当する額に同期間の月数を乗じた額を支払わなければならない。
 2 判断の要旨
(1) 整理解雇に係る不当労働行為の成否
 本件は、組合結成後、組合から様々な要求やAの言動などから、組合に対する不信感を募らせた緑運送のO社長が、組合嫌悪の意識の下に、東西物流設立後も、両社の事実上の経営者として東西物流のP社長を自己の支配下に置き、緑運送の従業員、主要な取引先、車両などを順次組合の影響力の及ばない東西物流に計画的に移管し、緑運送を事実上の倒産に至らしめ、同社に残った組合員である従業員全員を整理解雇したものであり、緑運送の不当労働行為であると判断できる。
(2) Aの懲戒解雇に係る不当労働行為の成否
 10年10月2日の配車表の変更は、組合員であるBとXが配車係Qに配車変更を迫ったものであり、日常配車業務指示書にもAの脅迫の事実が触れられておらず、また、10月20日に行われた団交においても配車変更の件が議題として扱われていないことなどから、Aが配車係Qに対して不当な圧力を加えて配車変更を強要したという懲戒事由に係る事実については、これを認めることはできない。
 13年2月14日の業務は、Aが配車係Qの新たな指示に従っており、業務指示拒否と認めることはできない。また、同月15日及び16日の業務は、配車係Qからの業務指示をAが拒否したことが認められるものの、同人に対し業務指示に従うよう再度強く求めたことや業務遂行に重大な支障が生じたことなどについて具体的な事実の主張や証明もなされていない。なお、Aの勤務態度について、会社として対応に苦慮したであろうことは容易に窺うことができるものの、緑運送はAに他の業務を指示しており、Aもこの業務を行っていることからすれば、就労自体を拒否したものではなく、解雇通知書に記載されている内容だけではAを懲戒解雇するまでの理由があったとは認められない。むしろ、組合活動を嫌ったO社長が、その中心的な存在であったAを懲戒解雇したとみるのが相当であり、Aを懲戒解雇し、緑運送から排除した行為は不当労働行為であったものと判断できる。
(3) 緑運送と東西物流が同一企業であるとの判断
 緑運送から東西物流への営業譲渡等の包括的な移転はみられないが、法人格を別にしながらも、業務、従業員、施設、車両及び取引先については、人的、物的にも主要なものがそれぞれ東西物流に意図的に移管され、引き継がれたものである。
 また、緑運送のO社長は運送事業を家業であると考えていたが、息子であるRに緑運送を継がせるのではなく、負債や組合及び組合員の存在などの重荷になる部分を取り除くことができる東西物流という新会社を興して引き継がせる手段を選択したということができる。したがって、本件において、緑運送と東西物流は、形式上は法人格を異にするものの、その実質において同一性を有するとの初審における判断は是認できる。
(4) 救済方法
 緑運送は、14年5月31日付けで事業廃止する旨を関東運輸局に届け出ていることから、休業してから事業を廃止するまでの間は緑運送において就労したものとして取り扱うのが相当である。次に、組合員らを東西物流において雇い入れるべき期日については、緑運送が事業を廃止した14年5月31日の翌日である同年6月1日とすることが適当であると判断する。
 14年5月31日までのバックペイは、緑運送に対し、休業補償に相当する額(既に緑運送から組合員に支払われている解雇予告除外手当等を除いた額)の支払いを命じるのが相当である。また、同年6月1日から東西物流が組合員らに対し就労受入れの意向を示した16年3月末日までの期間のバックペイについては、東西物流の賃金規程に基づき、売上げに伴う能率(歩合)給等を除いて、基本給、職務手当、交通費のみを合算した額を算出し、その7割相当額を支払うべきである。
 16年4月以降において東西物流で実際に就労する場合の賃金は、同年3月27日に東西物流から各組合員に対して「就労の件」という文書を送付し、就労受入れの意向を示し、その後も労使の話合いが行われていることから、東西物流の就業規則及び賃金規程に基づいて、その他の労働条件とともに、労使の話合いにおいて決定することが適当であると判断する。なお、命令発出後1年以内に就労の有無について合意に達するよう労使とも努力すべきであり、16年4月以降東西物流において実際に就労するまでの間のバックペイの扱いについても、この期間に限定して話合いをまとめるのが相当である。

 【参考】
   本件審査の概要
    初審救済申立日 平成13年11月 6日(埼玉県労委平成13年(不)第7号)
    初審命令交付日 平成16年 2月16日
    再審査申立日 平成16年 2月27日(16号、17号ともに)


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