平成17年10月20日
中央労働委員会事務局第一部会担当審査総括室
審査官横尾雅良
Tel 03−5403−2169
Fax 03−5403−2250

東日本旅客鉄道(千葉動労幕張電車区配転)不当労働行為再審査事件
(中労委平成16年(不再)第3号)命令書交付について


 中央労働委員会(会長 山口浩一郎)は、平成17年10月19日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
 再審査申立人 国鉄千葉動力車労働組合
 〔組合員約500名(平成17年9月5日現在)〕
 再審査被申立人 東日本旅客鉄道株式会社(東京都渋谷区)
 〔従業員約70,280名(平成17年9月5日現在)〕

II 事案の概要
 1 本件は、東日本旅客鉄道株式会社(会社)が、国鉄千葉動力車労働組合(組合)の組合本部役員であるH及びOを、平成13年12月25日付けで幕張電車区から京葉電車区、習志野電車区にそれぞれ配置転換(本件配転)したことが支配介入及び不利益取扱いに当たる不当労働行為であるとして、組合が平成14年4月25日、千葉県労働委員会(千葉県労委)に救済申立てを行った事件である。
 2 初審千葉県労委は、平成16年1月7日付けで、組合の救済申立てを棄却した。
 組合は、これを不服として、平成16年1月23日、再審査を申し立てたものである。

III 命令の概要
 1 主文
 本件再審査申立てを棄却する。

 2 判断の要旨
(1)本件配転の必要性について
 会社においては、平成7年度以降(習志野電車区には8年度以降)、新卒の高卒採用社員(平成採用社員)を、基本技能習得のため、まず取扱車種の少ない京葉、習志野電車区に配属し、その後毎年、両電車区から取扱車種の多い幕張電車区等へ異動させている事実、13年度に京葉電車区又は習志野電車区から幕張電車区に異動となった5名のうち4名は20歳代の平成採用社員であった事実が認められる。以上の事実関係のもとでは、13年度においても、平成採用社員を幕張電車区に異動する必要性があったという会社の主張は首肯できるものである。
 なお、組合は、以上のような人事異動は、幕張電車区は組合の構成員比率が最も高く、組合の最大拠点であるところから、会社が意図的に新入社員を配属しない労務政策を行ってきたことの結果であると主張するが、本件では、この事実を認めるに足る証拠はない。
 また、千葉支社は、平成13年4月1日から仕業検査周期を延伸したことから、車両運用の見直しを行い、また、翌年3月の派出体制の変更を踏まえて、同年12月1日のダイヤ改正に合わせて検修関係区の要員の標準数を変更した。その結果、習志野電車区8名、幕張電車区8名、木更津支区1名の余力が生じ、京葉電車区では逆に4名の要員が必要とされる状況となったことが認められる。こうした事実関係のもとでは、これらの検修関係区の間で、社員の異動による人員数の調整を行う必要性が生じていたということができる。
 なお、組合は、標準数の変更こそが幕張電車区から組合の組合員を減少させることを画策して行ったものであると主張するが、それを認めるに足る証拠はない。
 以上を総合すれば、本件配転を含む12月25日付け人事異動においては、幕張電車区へ平成採用社員を転入させる必要性があったこと、それに伴い、要員の需給調整のために幕張電車区から平成採用社員以外の者を他の検修関係区へ転出させる必要性があったことを認めることができる。
(2)本件配転の人選について
 人選基準とその適用の合理性について
(ア)会社が本件配転に関する人選基準として主張する(1)「40歳代の中堅社員であること」との基準は、習志野電車区には40歳代が少ないため、50歳代の技術の承継や世代交代を考えて40歳代の社員を習志野電車区に転入させることには合理性が認められ、京葉電車区においても同様のことがいえるから、この基準は合理的なものであると認めることができる。
 (2)「余力のある箇所に従事している社員であること」との基準は、転出者を選出する基準として一般的に合理性が認められるものであるが、幕張電車区においては仕業検査業務には余裕が生じていたとみられ、仕業検査を担当する箇所はこれに当たるものと認められる。
 (3)「仕業A長業務を本務とする社員は除く」との基準は、仕業A長は仕業班のリーダーとなる者であり、同時に転入してくる者の中に当該職務を担当できる者がいない限り、業務に支障が生ずるおそれがあるので、当該基準には合理性を認めることができる。
 (4)「構内運転に従事していない社員」との基準は、構内運転に従事する社員には、特段余力があったものとは認められないので、当該基準には合理性があるものと認められる。
 (5)「幕張電車区に勤務して間もない社員を除く」との基準は、異動に関してしばしば用いられる基準であり、本件においてそれが特に不合理であるとの証拠はない。
(イ)以上のとおり、本件配転に関して会社が主張する人選基準には、特に不合理な点はなく、H及びOは、合理的な基準に基づき人選されたものと判断することができ、本件における他の事実を考え合わせても、当該基準が不当労働行為意思に基づいて設定されたものとは認めることができない。
 会社の説明の変遷について
 会社は、平成13年12月19日の団体交渉の席上において、「構内・仕業班の中で」や「仕業A長でない者」という基準を示した後、組合が、H及びOが機動班に担務変更となっていること、Oが仕業A長を経験していること等を指摘したことに対して、その場で的確な回答ができず、次回の団体交渉でこれらの点について初めて説明を行うなど、本件配転に関する団体交渉における会社の説明は、組合に対して一貫性を欠くものとの誤解を与えかねない面があったことは否めないが、会社の説明にかかる本件人選基準は、組合役員を配置転換するために後になって恣意的に作られたものであるとはいうことができない。
(3)不利益取扱いについて
 労働組合法第7条第1号にいう「不利益」な取扱いとは、組合員個人の雇用関係における経済的不利益ばかりでなく、組合活動上の不利益をも含むものである。
 しかしながら、本件配転については、H及びOは業務上の必要性のもとに合理的な人選基準によって配転の対象となったものであって、組合が幕張電車区をシニア制度等に関する問題についての最大拠点として位置づけていたことからすれば、本件配転により、同電車区での同人ら及び支部の組合活動に影響があったことは窺えないわけではないが、そのことをもって会社の不当労働行為意思により不利益取扱いがなされたと判断することはできない。
(4)結論
 本件配転は、幕張電車区における組合の本部役員であったH及びOが2名とも対象になったものであり、結果として、同人ら及び支部の組合活動に影響が生じ得ることが窺えないではなく、また、団体交渉における会社側の説明についても、組合に対し誤解を与えかねない面はあったものの、他方において、本件配転については、業務上の必要性及び人選の合理性が認められ、不当労働行為意思に基づいてなされたものとまでは認められない。その他、組合を弱体化する意図に基づき、ことさらに本件配転がなされたものと認めるに足る証拠はない。したがって、本件配転は、労働組合法第7条第1号及び第3号に違反するということはできない。


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