平成17年10月19日
中央労働委員会事務局
審査総括官 熊谷正博
Tel 03−5403−2172
Fax 03−5403−2250

モービル石油不当労働行為再審査事件(平成3年(不再)第55号)命令書交付について


 中央労働委員会第三部会(部会長 荒井史男)は、平成17年10月19日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付しましたので、お知らせします。命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
 再審査申立人 スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合(大阪府豊中市)
  組合員数33名(従業員籍を有する者は8名)(16年12月20日現在)
 再審査被申立人 エクソンモービル有限会社(東京都港区)
  従業員数約900名(16年12月20日現在)
II 事案の概要
 本件は、会社が、組合のモービル大阪支店支部の組合員4名(M、I、T及びY)に対し、(1)T、Yを昭和59年4月20日から同年10月9日までの間の争議行為時の業務妨害行為等を理由に減給1.5日の懲戒処分とし、(2)M、Iを同じく争議行為時の業務妨害行為等及び58年9月以降のVDT業務拒否を理由に出勤停止2日の懲戒処分とし、(3)Iの賃金を入社以来差別支給し、(4)M、Iの60年夏季及び冬季一時金をVDT業務拒否等を理由に差別支給したことが争われた事件。
 平成3年10月14日、初審大阪府労委は、救済申立てのうち、上記(3)の一部(60年3月7日以前)を却下し、その余を棄却したところ、組合は、これを不服として再審査を申し立てた。

III 命令の概要
 1 主文の要旨
I 初審命令主文を次のとおり変更。
 組合の本件救済申立てのうち、Iに係る賃金差別是正に関する、59年3月31日以前に係る救済申立てを却下。
 上記1の申立てに係るその余の救済申立てを棄却。
 申立人のその余の救済申立てを棄却。
II その余の再審査申立てを棄却。

 2 判断の要旨
(1) Mら4名に対する懲戒処分について
 本件争議時のMら4名の行為は、(1)会社施設内への立入り及び示威行為禁止の立札、支店長や課長のマイク演説中止や執務区域への立入り及び事務所の平穏を害する行為の禁止の事前申入れ等を無視し、(2)態様も労務の不提供や平和的説得、団結の示威の限度を超え、従業員の執務を妨げ、会社の正常な業務運営に支障をもたらしたと推認され、(3)本件以降も同態様のマイク演説等を行ったもので、正当性を持つとはいえない。
 (1)Iの受注業務拒否は、逮捕されたMの業務を同人が不在のときはIが代わって処理しており、T代理が予め指示していなかったにせよ後刻Iに指示し、これに従わなかったIの態度には問題があるから懲戒事由に該当し、(2)Iの在庫確認作業拒否は、会社が具体的立証をしていないから懲戒処分の根拠とはできず、(3)Iの無断離席は、T代理が注意し、勾留中の組合員の家族等への連絡は会社業務と言えないから懲戒事由に該当し、(4)Tの無断離席は、組合事務室での休養にせよ上司や同僚に断らず、有給休暇申請もしていないから懲戒事由に該当する。
 支店に出張したY取締役に対する会社の労務政策等についての抗議行為は、(1)就業時間中に離席し、(2)再三の注意を無視して激しい言葉で罵り、エレベーターの開ボタンを押す等して執拗に抗議したもので、懲戒事由に該当する。
 ステッカー剥がしに対する就業時間中のY、T及びMの抗議行為について、加わっていないIの処分理由とし、加わったTの処分理由としていないという会社の対応は慎重さを欠いた点があったことは否めないが、当該ステッカーは会社の中止要請等にもかかわらず会社施設へ無断貼付したものであるから、会社が施設管理上剥がしたのもやむを得ず、本件抗議行為は正当とは認められない。
 M及びIのVDT業務拒否は、(1)会社がCOBシステム導入直後の団交で「事務職だけに負担がかからないよう全員のパスワードを決める。労働条件の変更や強化ではない。システムに変更があれば団交で説明する」旨述べたので組合が了解して両名が従事し、(2)会社が58年2月に事前説明を経ずにパスワードを変更して同業務をM、Iを含む事務職に限定したので、組合は団交を申し入れたが会社が応じなかったので抗議し、(3)会社が同年9月に事前説明を経ずに再度パスワードを変更したので、組合は団交を申し入れたが会社が応じなかったので、組合指令により両名がVDT業務拒否に至った経過からすれば、当初の変更は労働条件変更の可能性があるが、再度の変更は労働条件に影響を及ぼすはとはいえず、会社が約したシステム変更とも認め難い。
 パスワード変更が合理化につながることを懸念した組合の団交要求を拒否した会社の対応にも問題があるが、システム変更とは認め難い簡易な変更にVDT業務拒否まで行うのは相当でなく、会社が団交に応じた後も業務拒否した行為は懲戒事由に該当する。
 以上ア乃至オを総合すれば、Iの在庫確認作業拒否及びステッカー剥がしに対する抗議行為を除き、それぞれ正当性が認められないか若しくは懲戒処分理由として合理性が認められるから、全体として本件懲戒処分は不当労働行為とは認められない。
(2) Iの賃金の差別支給について
 59年3月31日以前の賃金については、「格差が是正されない限り継続する行為である」旨の組合主張は採用できず、Iの入社日(50年4月3日)以降本件申立て日(61年3月8日)の1年前の前日(60年3月7日)までの賃金に係る申立てのうち適法なのは、59年4月の賃金決定に基づく当該年度の最後の賃金支払時(60年3月)までの賃金であるから、初審の判断を改め、59年3月31日以前の賃金支払いに係る申立てを却下する。
 59年4月1日以降の賃金については、Iは、採用時及び臨時雇用従業員であった2年間はどの組合にも所属せず、雇用契約書も交わしていたから、(1)Iと同年齢、同学歴のMとの賃金格差は、同一組合所属の組合員間の格差で、採用年次及びIが臨時雇用従業員であった期間の取扱いの差によるものであり、(2)組合から、別組合員等との差別的取扱い、及び、採用年次、採用条件を異にしても同年齢、同学歴、同労働年数であれば同一賃金であるべきことや臨時雇用従業員から正社員に採用された場合の取扱規定、事例等について立証がないから組合の主張は根拠がなく、不当労働行為とは認められない。
(3) M及びIの昭和60年夏季及び冬季一時金の差別支給について
 60年夏季一時金については、VDT業務拒否が一因と推認されるが、同業務拒否は懲戒事由に該当するので、不当労働行為とは認められない。
 60年冬季一時金については、評価対象期間にはVDT業務に就いていたから、組合主張は「同業務拒否を理由に引き続き報復的に差別した」旨解されるが、かかる差別の存否の疎明は、会社が一時金査定資料を開示していないので組合に求めるのは限界があるが、組合も積極的に格差理由の説明を会社に求め、両名の勤務状況に問題がないこと等を可能な範囲で疎明する努力が求められるところ、本件再審査においても、(1)会社が次回団交で説明する旨述べた後の団交要求、及び、(2)勤務状況等を他組合員と対比する等の差別を疑わせる事実の疎明をしていないから、不当労働行為とは認められない。

【参考】 本件審査の経過
 1 本件審査の概要
初審救済申立日  昭和61年 3月 8日 (大阪府労委 61年(不)第10号)
初審命令交付日  平成 3年10月14日
再審査申立て  平成 3年10月22日
 2 初審命令主文要旨
(1) 組合の、Iに係る賃金差別是正の申立てのうち60年3月7日以前に係る申立ては却下。
(2) 組合の、その他の申立てを棄却。


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