平成17年10月4日
中央労働委員会事務局
第二部会担当審査総括室
室長   神田義宝
電話 03-5403-2162
FAX 03-5403-2250

西日本旅客鉄道(西動労昇給等)不当労働行為再審査事件
(平成5年(不再)第9、10号)命令書交付について


 中央労働委員会(会長 山口浩一郎)は、平成17年10月3日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。命令の概要は、次のとおりです。

I 当事者
  9号事件再審査申立人・10号事件再審査被申立人
    国鉄西日本動力車労働組合(「組合」) 組合員8名(初審申立時)
  10号事件再審査申立人・9号事件再審査被申立人
    西日本旅客鉄道株式会社(「会社」)  従業員51,300名(初審申立時)

II 事案の概要
 1 本件は、会社が、(1)組合の執行委員長であるI及び広島支部長であるHに対し、通常の昇給号俸から1号俸減じたこと、(2)I及びHの夏季手当並びにIの年末手当を5%減額したこと、(3)組合が提案した団体交渉、便宜供与等に関する三つの労働協約(「三協約」)に関して、「総合労働協約」の締結が前提であるとして団体交渉に応じないこと、(4)組合に組合事務所等を貸与しないこと、(5)ストライキ実施時の集会のため使用を求めた本件駐車場の使用を許可しなかったこと、(6)T区長が職場におけるビラ配布を妨害等したこと、(7)同区長が「一企業一組合が会社の方針である。」と発言したこと等が、不当労働行為であるとして、広島県労委に救済申立てのあった事件である。
 2 広島県労委は、上記1の申立て事項のうち、(1)及び(2)は不当労働行為に当たるとして、I及びHに対する昇給を1号俸加算したものとしての取扱い、これに伴うバックペイ、Iに対する夏季一時金及び年末一時金の減額支給分の支払、Hに対する夏季一時金の減額支給分の支払並びに文書交付を命じ、その余の救済申立ては棄却した。
 これを不服として、組合は、初審命令の棄却部分を取り消し、請求どおりの救済を求めて、会社は、初審命令の救済部分を取消しを求めて、再審査を申し立てた。

III 命令の要旨
 1 命令主文
 本件初審救済部分を取り消し、組合の救済申立てを棄却する。
 2 判断の要旨
(1) I及びHに対する本件昇給の減及び本件期末手当の5%減額支給について
 会社は、I及びHの職務状況、組合活動等について、特に強い関心をもって注視していたものといえる。また、Hの業務遂行の一部には問題があったものの、他に、I及びHが、本件調査対象期間において、その業務遂行に関し同人らが特段不適切な行為を行ったという事情は認められず、他の社員の勤務成績等や評価結果も明らかにされていない。しかしながら、同人らには、職場規律に違反したり、職場秩序を乱したり、管理者の繰り返しの注意・指導に従おうとしない等マイナスの査定を受けてもやむを得ない行為が多くみられること、会社が賃金査定における裁量の範囲を逸脱し、ことさら両名について低査定を行ったという疎明はないことからすると、本件昇給減並びに本件期末手当の減額支給を不当労働行為であるとまでみることができない。
(2) 三協約に関する会社の対応及び会社の組合事務所等の不貸与について
 会社が組合に提示した総合労働協約の内容は、組合に対し特段の不利益を与えるものであったり、労働組合の運営に介入するような不当な内容であるとはいえない。そうすると、会社が、組合に対し、他の労働組合と締結した総合労働協約と同内容の協定の締結を強く求め、このことをもって団体交渉に臨むことは不当とはいえず、また、会社は、多数回に渡って労働協約の締結交渉に応じ、組合に対し労働協約を提案するとともに、組合が提案した三協約に対しては各条ごとに検討し回答をする等、相応の対応を行っていること等からすると、本件団体交渉に対する会社の対応が不誠実なものであるとはいえず、本件団体交渉は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為には当たらない。
 組合事務所等の不貸与については、三協約を内容とする労働協約が締結されないことにより、組合は、その活動を行うに当たり、他の労働組合に比べ不利な立場におかれ、円滑な組合活動に支障を来たしていることが推認できるが、会社の提案する総合労働協約の内容は不当なものであるとはいえないのであるから、このような事態は、会社の提案する総合労働協約は締結できないとする組合の選択の結果であるとみざるを得ない。そして、労使関係のあり方、労働協約の内容は、当該労使間の相互の譲歩に基づき決められるべきものであるところ、組合事務所等の不貸与は、会社と組合との団体交渉において合意がなされないことにあり、上記イのとおり本件団体交渉における会社の対応は不誠実とは認められないものであることからすると、当該不貸与をもって、労働組合法第7条第3号の不当労働行為ということもできない。
(3) 本件駐車場の使用不許可について
 本件駐車場は、社員や業務用の車の駐車等を目的としたものであるとみられること、本件ストライキは多くの参加者が参集することが予定されていたことからすると、会社が、同ストライキ集会の開催による本件駐車場利用への支障、同集会時の騒音による業務の阻害、集会参加者の同駐車場入場に伴う鉄道事業への影響等について懸念することは当然のことであり、会社が、これら事態を避けるため、本件駐車場の使用を許可をしなかったことには合理的な理由があるから、当該不許可は不当労働行為には当たらない。
(4) 組合のビラ配布に対するT区長の言動について
 組合のビラ配布は、勤務時間外に行われており、会社の職場秩序を乱したとの事情は認められないこと等からすると、T区長のビラ配布自体に対する注意については問題がないとはいえないが、ビラに業務用電話番号を無断で記載したことについては、これが当然に認められるものではないこと、同区長の再三の注意にもかかわらず、これを改めようとしなかったことからすると、同区長の行為は、組合の弱体化を意図したものとまで認めることはできない。
(5) T区長による「一企業一組合は会社の方針である。」とする言動について
 会社は「会社の見解」と題する文書において一企業一組合が会社の方針であることを明らかにしていたこと、T区長は会社の方針を忠実に実行するよう努めていたこと、同区長は、新たに結成された組合を注視していたことからすると、同区長がIに対し、「一企業一組合が会社の方針である。」と述べたことを認めることができる。しかしながら、同発言がIらの本件昇給の減に関してなされたものであるとする組合の主張を認めるに足りる疎明はないから、同区長の当該発言は、同区長が会社内の労働組合のあり方について、自らの捉え方を述べたもの以上に組合の弱体化を企図した発言ということはできない。

 【参考】初審救済申立日 平成元年1月11日(広島県労委平成元年(不)第1号)
初審命令交付日 平成5年2月10日
再審査申立日 平成5年2月22日(労)、同月24日(使)


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