平成17年9月30日
中央労働委員会事務局
 第一部会担当審査総括室
  室長    西野  幸雄
  Tel 03−5403−2157
  Fax 03−5403−2250

札幌交通不当労働行為再審査事件
(中労委平成16年(不再)第12号)命令書交付について


 中央労働委員会(会長 山口浩一郎)は、平成17年9月29日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要は、次のとおりです。

I 当事者
 1 再審査申立人札幌交通株式会社(北海道札幌市)
 従業員 約800名(平成11年3月1日現在)
 2 再審査被申立人日本交通労働組合(組合)
 組合員    15名(平成16年8月4日現在)
個人2名

II 事案の概要
 1 本件は、会社が、(1)交運従組(組合と札幌労組の連合体)が申し入れた平成13年度春闘に係る団体交渉において、提案理由を具体的に説明しないなど不誠実な態度に終始したこと、(2)同年度の新賃金体系に係る個別協定に同意した後に組合に加入してこれを破棄した組合員(破棄通告者)に対し、個別交渉を行ったこと、(3)組合員のうち、従前の勤務体系・勤務時間により就労する破棄通告者に対し、新賃金体系に基づいて計算した賃金を支給したこと、(4)新賃金体系に同意しないこと等を理由に組合員に同年度の一時金等を支給しなかったことが不当労働行為であるとして、北海道労委に救済申立てがあった事件である。
 2 初審北海道労委は会社に対し、(1)破棄通告者に対し、その意思を確認することを理由として個別交渉を行うことによる支配介入の禁止、(2)従前の勤務体系等により就労する破棄通告者に対し、新賃金体系に基づいて計算した賃金を支払うことによる支配介入の禁止、(3)新賃金体系に同意しないこと等を理由に一時金等の支払をしないという不利益取扱い及び支配介入の禁止、(4)上記(1)ないし(3)に関する文書掲示を命じ、(5)Sら2名の申立てのうち不誠実団体交渉に係る申立て及び破棄通告者に対する新賃金体系の適用による不利益取扱いに係る申立てを却下し、(6)その余の申立て(組合の申立てのうち不誠実団体交渉に係る申立て等)を棄却したところ、会社はこれを不服として、上記初審命令の救済部分の取消しを求めて再審査を申し立てたものである。

III 命令の概要
 1 主文要旨
(1) 初審命令主文のうち上記IIの2の(1)の取消し。
(2) その余の本件再審査申立てを棄却。

 2 判断の要旨
(1) 組合らの当事者適格及び救済利益について
 組合の当事者適格及び救済利益について
 交運従組結成後も組合及び札幌労組はそれぞれ独自性を保って活動し、独立した労働組合として存続していたのであるから、組合は、本件紛争の過程において独立した労働組合としての実体を有するものであり、本件について当事者適格を有する。
 また、交運従組結成後も組合が独立した労働組合としての実体を有し、交運従組が組合と札幌労組等によって構成される連合体である以上、会社による組合員に対する不利益取扱い及び組合に対する支配介入が行われた場合は、その後に組合が交運従組との関係を解消し、交運従組が救済申立てを取り下げたり、会社による不利益取扱いを受けた組合員や支配介入の手段たる行為の対象となった組合員が組合を脱退したとしても、組合には、独自に不当労働行為の救済を申し立てる利益がある。
 Sら2名の当事者適格及び救済利益について
 Sら2名は本件発生時にはいずれも組合の組合員であり、組合は交運従組結成後も独立した労働組合としての実体を有することからすれば、組合と同じく本件について当事者適格を有する。
 また、Sら2名の本件救済申立ては組合の意向に反していないことは明らかであり、一時金等の支給も受けていないことからすれば、Sら2名は、一時金等の不支給に関する不利益取扱い及び支配介入について救済利益がある。

(2) 不当労働行為の客体の認識について
 交運従組が組合と札幌労組等によって構成される連合体であることからすれば、会社は、不当労働行為の客体として交運従組を認識していたと同時に、交運従組を構成する組合を不当労働行為の客体として認識していたと判断することができる。

(3) 個別交渉について
 会社が、破棄通告者が交運従組に属する組合員であること及びその中には組合の組合員が含まれることを認識しながら、交運従組又は組合を介さずに直接破棄通告者と個別交渉を行い組合からの脱退を迫ることは、破棄通告は無効であるとの会社の方針を押し付けることにほかならず、そのことは、組合の弱体化を企図した組合に対する支配介入に該当する。
 しかし、この破棄通告者に対する個別交渉は、この当時の特殊事情であると言うべきであるから、今後同様なことが繰り返される恐れが大きいとは考えにくい。よって、救済方法としては文書掲示で足りる。

(4) 破棄通告者に対する新賃金体系の適用について
 会社は、破棄通告者につきいずれの賃金体系を適用すべきかは、交運従組又は組合と協議して決定すべきところ、交運従組とも組合とも協議を行うこともなく、破棄通告者に対して新賃金体系に基づく賃金を支給したものであり、このような会社の行為は、組合の意向とその存在を無視するものであって、組合の弱体化を企図した組合に対する支配介入に該当する。

(5) 一時金等の不支給について
 会社が組合員に一時金等を支給せず、新賃金体系についての協定が締結されない限り支給しないとの態度に固執し、一時金等の仮払等の代替案の提案さえしなかったことには合理的理由はなく、会社の行為は、組合の組合員であることの故をもって不利益な取扱いをしたものと言うべきである。
 また、新賃金体系に同意した従業員に対してのみ一時金等を支給した会社の行為は、組合の組合員に対して一時金を支給しないことにより組合を脱退せざるを得ない状況となることを企図して、組合の組合員に対して経済的揺さぶりをかけ、組合からの脱退を促したものであると判断され、組合に対する支配介入に該当する。

〔参考〕
 本件審査の概要
  初審救済申立日 平成14年5月13日(北海道労委平成14年(不)第7号)
  初審命令交付日 平成16年2月 5日
  再審査申立日 平成16年2月19日(使)
 初審命令主文要旨
  上記IIの2のとおり


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