平成17年9月28日
中央労働委員会事務局第一部会担当審査総括室
審査官横尾雅良
Tel 03−5403−2169
Fax 03−5403−2250

東日本旅客鉄道(千葉動労褒賞金)不当労働行為再審査事件
(中労委平成5年(不再)第22号)命令書交付について


中央労働委員会(会長 山口浩一郎)は、平成17年9月27日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
 再審査申立人 東日本旅客鉄道株式会社(東京都渋谷区)
 〔従業員約70,280名(平成17年9月5日現在)〕
 再審査被申立人 国鉄千葉動力車労働組合
 〔組合員約500名(平成17年9月5日現在)〕

II 事案の概要
 1 本件は、東日本旅客鉄道会社(会社)が、国鉄千葉動力車労働組合(組合)の行ったストライキ当日及びその前後の日に、臨時の勤務に従事した社員に対して褒賞金(1日につき3,000円又は5,000円)を支給したことが支配介入及び不利益取扱いに当たる不当労働行為であるとして、組合が平成2年9月7日、千葉県労働委員会(千葉県労委)に救済申立てを行った事件である。
 2 初審千葉県労委は、平成5年3月30日付けで、会社に対し、(1)従業員である組合員に対し、争議行為参加日数に3,000円を乗じた金員を支給すること、(2)組合の争議行為に際して褒賞金等を支給するなどによる支配介入の禁止を命じ、その余の申立てを棄却する一部救済命令を交付した。
 会社は、これを不服として、平成5年4月13日、初審命令の救済部分の取消し及び救済申立ての棄却を求めて、再審査を申し立てたものである。

III 命令の概要
 1 主文
(1) 初審命令主文第1項を取り消し、第2項以下をそれぞれ繰り上げる。
(2) (1)で繰り上げた第1項を次のとおり変更する。
 会社は、組合の行う争議行為に際して、今後、争議不参加者に対し、褒賞金等の名目をもって金員を支給するなどして組合の運営に支配介入してはならない。
 2 判断の要旨
(1)支配介入の成否について
 会社は、本件褒賞金は就業規則第138条第1項第2号に基づき支給したものであり、ストライキを抑圧する意図のもとになされたものではないと主張する。
 ところで、本規定の解釈を補う形で、平成2年4月2日の社長通達によって、「輸送混乱時に、輸送確保に寄与した職員」に対しても褒賞金が支給されるという基準が明らかにされ、初めて制度として輸送混乱時に褒賞金が支給されることとなった。
 しかしながら、(a)社長通達に基づく本件褒賞金の支給決定は、組合のストライキに関する他組合の申入れが契機となったものであること、(b)社長通達の適用を組合のストライキがあった平成元年12月まで遡及させていること、(c)その後、これに基づいて出された総務部長や人事部長名義の通達は、いずれも組合がストライキを行った時期を指定して対象期間としていることからすると、本件褒賞金の支給が組合のストライキを意識したものであることが窺える。
 しかも、本件褒賞金は、争議時に臨時の業務に動員された者全員に対し、従事した業務や時間、輸送の混乱を収拾した貢献度等にかかわらず、広く支給がなされたものと認められる。
 これらからみると、会社は、就業規則の表彰規定が事故や災害その他の非常事態に際し、特に功績があった場合に表彰を行うとしているものであったのに対し、社長通達は、ストライキ時における輸送の確保という会社の目的に協力した者へ褒賞金を支払うことを可能にしたものであって、これに基づく総務部長や人事部長の通達により支払われた本件褒賞金は、民営化直後組合が頻繁に行っていたストライキに対する対応策とみられてもやむを得ないものがある。
 およそ事故の場合には、死傷者の救出活動をするなど精神的に負担の大きい作業が発生することが想定され、また、自然災害の場合には、厳しい気象環境の中での運行や、線路上の障害物の除去など精神的・肉体的に負担の大きい作業や、場合によっては、自らの危険を冒して輸送の安定を守るような作業も考えられるなど、通常行う作業とは異なる作業を行うため、それが特に過重な、特別な業務であることが想定され、褒賞金の支給も、それなりに合理的な理由があるといえる。
 これらに対し、ストライキの場合は、輸送を確保するという点において共通項は認められるものの、原則として事前に勤務変更が明示され、その業務の内容も基本的には日常行っている業務であって、その業務が精神的、肉体的に通常業務よりも特段に過重なものであるとまではいい難い。しかも、その業務が休日・時間外手当や特別措置では償えない程の過重な勤務をしたのであるなら特に功績があったといい得るかもしれないが、本件褒賞金の支給においては、そのような事情が存したとの疎明はなされていない。
 当時の会社と組合の関係は、組合のストライキをめぐり国鉄時代から激しい対立関係にあり、会社がストライキを行う組合に対し嫌悪感を抱いていたことが認められる。
 会社がストライキによる影響を最小限に抑えるために対策を講じることは自由であるが、ストライキに伴う代替の臨時勤務に就いた者に褒賞金等を支給し、会社の方針に協力した者を優遇することは、ストライキの権利行使の効果を減殺するものといわざるをえない。したがって、本件褒賞金の支給は組合活動に対する支配介入に当たるものである。
 会社は、本件褒賞金の支給がなされたのは、本件ストライキが行われた後のことであって、本件ストライキに対して影響を及ぼすものではないから支配介入に当たらないと主張する。
 しかしながら、本件ストライキに対しては直接影響を及ぼさないとしても、ひとたび組合のストライキに対して会社が褒賞を行うことを制度とすることは、今後において組合がストライキを行おうとする場合に、ストライキ期間中の欠員補充として業務する者が増え、また、組合の組合員の中にもストライキに参加しない者が増えることになりかねず、ひいては組合の団体行動を阻害するおそれが多分にある。
 したがって、本件褒賞金の支給は、その支給が本件ストライキの終了後であっても、今後のストライキに対する抑止力となり、組合の弱体化を意図するものとして支配介入に当たると判断することができる。
(2)不利益取扱いの成否について
 臨時勤務をした者だけが褒賞金の支給を受け、他の者がこれを受けなかったことは、本件褒賞金がストライキへの対応策としてなされた当然の結果であって、この経緯や支給額を併せ考えると、ストライキに参加した組合員が褒賞金を受け取れなかったことが、正当な組合活動をしたことによる不利益又は差別的取扱いということはできない。
 したがって、この限りで不利益取扱いを認めた初審命令主文第1項を取り消すものとする。

【参考】
 初審命令主文要旨
 1 会社は、組合が実施したストライキに参加した申立人組合員のうちストライキ実施日に会社の従業員であった者に対して、それぞれ参加日数に3,000円を乗じた金額を支給しなければならない。
 2 会社は、組合の行う争議行為に際して、今後争議不参加者に褒賞金その他のいかなる名目をもっても、金員等を支給するなどして申立人組合の運営に支配介入してはならない。
 3 組合のその余の申立てを棄却する。


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