平成17年8月5日
中央労働委員会事務局第一部会担当審査総括室
審査官           横尾  雅良
Tel 03−5403−2169
Fax03−5403−2250

東海旅客鉄道(東海労掲示物撤去)不当労働行為再審査事件
(中労委平成15年(不再)第20号)命令書交付について


 中央労働委員会(会長 山口浩一郎)は、平成17年8月5日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
 再審査申立人   東海旅客鉄道株式会社(愛知県名古屋市)
  〔従業員約21,000名(平成15年3月31日現在)〕/td>
 再審査被申立人   ジェイアール東海労働組合
  〔組合員約650名(平成14年10月31日現在)〕
  ジェイアール東海労働組合新幹線関西地方本部大阪第一車両所分会
  〔組合員55名(平成15年4月1日現在)〕

II 事案の概要
 1 本件は、東海旅客鉄道株式会社(会社)が、(1)新幹線鉄道事業本部関西支社大阪第一車両所(大一両)の助役らの管理者をして、ジェイアール東海労働組合新幹線関西地方本部大阪第一車両所分会(分会)の組合掲示板から掲示中の掲示物20点を延べ25回にわたり撤去したことが、分会及びジェイアール東海労働組合(組合)の運営に対する支配介入であるとして、平成11年11月22日に組合等から大阪府労働委員会(大阪府労委)に救済申立てがあった事件である。
 2 初審大阪府労委は、会社が20点の掲示物のうち18点の掲示物を撤去したことは不当労働行為であるとして文書手交を命じたところ、会社は、これを不服として再審査を申し立てたものである。

III 命令の概要
 1 主文
 初審命令主文第1項を次のとおり変更する。
変更内容)初審が不当労働行為であるとした18点の掲示物のうち、8点については、会社の撤去を相当とし、不当労働行為に当たらないとした。

 2 判断の要旨
(1)本件協約について
 本件のように、組合に使用を許諾した組合掲示板からの掲示物撤去が支配介入になるか否かについては、その使用を許諾する際における使用者と組合との間の合意を基本として、その合意の内容については、労働協約の規定を合理的に解釈して判断すべきである。
 本件の協約第227条第1項は、「組合は、会社の許可を得た場合には、指定された掲示場所において、組合活動に必要な宣伝、報道、告知を行うことができる。」とし、同第228条は、「掲示類は、組合活動の運営に必要なものとする。また、掲示類は、会社の信用を傷つけ、政治活動を目的とし、個人を誹謗し、事実に反し、又は職場規律を乱すものであってはならない。」としている。
 また、同第229条は、「会社は、組合が前2条の規定に違反した場合は、掲示類を撤去し、掲示場所の使用を取り消すことができる。」と規定している。
 したがって、会社は、協約に基づき掲示類を撤去したり、掲示場所の使用許可を取り消したりすることができるが、もとより協約第229条の撤去要件に該当するか否かについては、会社の一方的、恣意的な判断が許されるわけではない。会社のした掲示類の撤去が不当労働行為に当たるか否かを判断するに当たっては、会社が組合に対し、あらかじめ指定した掲示場所において、組合活動に必要な宣伝、報道、告知を行うことを許諾した以上、当該掲示類を掲示することについての組合活動の必要性を十分考慮し、協約の各要件に該当するか否かを合理的に解釈して判断する必要がある。
 特に本件においては、職場に交代制勤務がとられていることからして、組合あるいは組合員にとって掲示板による連絡・情報共有の必要性が強いこと等を考えると、会社が組合掲示板から掲示物を撤去することについては、掲示板使用許諾の趣旨を十分考慮すべきであり、掲示板の使用許諾を実質的に無意味にするようなことがあってはならない。
(2)掲示物の内容の相当性ないし撤去の相当性の判断基準
 会社による掲示物撤去の相当性の判断に当たっては、前記の協約の合理的解釈のほか、組合の掲示物に対する規制と表現の自由との調整についても考慮を払う必要がある。すなわち、掲示物の記載内容が、組合員の労働条件等、組合の本来の関心事に関する事実を摘示したもの若しくはこれら組合の関心事に関する組合としての論評、批判であって、その事実摘示の内容若しくは論評、批判の前提としている事実が、その主要な部分において真実であるか、真実と信じるについて相当の理由があるときは、その表現においてみだりに個人を誹謗中傷し、職場規律を乱すなど論評、批判としての域を逸脱したものでない限り、掲示物の記載内容は相当であって、会社においてこれを撤去することは相当でないと考えるべきである。
 もっとも、組合掲示板による組合掲示物は、主として組合員を対象とするものであり、上記の真実性・相当理由の要求される程度は、新聞雑誌等による一般の名誉毀損におけるほどには厳格でなくてよいと考えられる。
 なお、本件において、当該掲示物を会社が撤去することが相当でないと判断される場合においても、会社の撤去行為が組合に対する不当労働行為に該当するというためには、不当労働行為性を否定ないし軽減する要素として、撤去に至る手順、手続が検討されてしかるべきである。なぜなら、本件協約上の定めはないが、会社から組合に対し、撤去を求める理由ないし根拠を説明したり、会社が協約違反と判断する場合においても、状況に応じ、表現の修正等撤去以外の方法を含めて組合に弾力的な対応を求めていくことは、掲示板貸与に関する協約の円滑な運用のために望ましいことであるから、会社に対し本件協約の解釈としてこれらの手続を踏むことを要求することはできないにしても、実際上これらの手続が踏まれているならば、掲示物をめぐる労使関係上の特段の配慮がされたものとして、撤去行為が支配介入には当たらないと評価すべき場合があると考えられるからである。
(3)撤去要件該当性の検討
 本件再審査の対象となった18点の掲示物の内容を見ると、8点の掲示物については、摘示された事実の主要な部分について真実性・相当理由があるとは認め難い部分、個人に対する誹謗あるいは会社に対する信用毀損の程度に行き過ぎた表現があり、組合としての論評、批判の域を逸脱していると認められる部分などがあり、当時の会社と組合、組合と東海ユニオン間の対立状況、組合員間の連絡や情報共有の必要性の高さ、及び本件の掲示物が掲示板の設置場所からして一般公衆の目に触れる機会が少ないこと等の事情を考慮しても、会社がこれらを撤去したことには理由があるというべきである。
 これに対して、上記で撤去に理由ありとした8点以外の掲示物については、その程度、ニュアンスに差はあるが、結論としては協約所定の撤去要件に該当するとはいえないものであり、かつ、撤去に当たり全体として不当労働行為性を否定又は軽減するほどの掲示物をめぐる労使関係上の特段の配慮をしたものとは認められない。
(4)結論
 以上のとおりであるから、初審命令中、10点の掲示物の撤去を労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断した部分は相当であるが、(3)で判断した8点の掲示物の撤去を不当労働行為であるとした部分は失当である。その余の再審査申立ては棄却を免れない。

 【参考】
   本件審査の概要
   初審救済申立日  平成11年11月22日(大阪府労委平成11年(不)第97号)
   初審命令交付日  平成15年 3月27日
   再審査申立日  平成15年 4月11日


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