平成17年7月5日
中央労働委員会事務局第三部会
 審査官   藤森和幸
電話 03-5403-2175(ダイヤルイン)
Fax 03-5403-2250

丸一展装不当労働行為再審査事件
(平成14年(不再)第52号・55号)命令書交付について


 中央労働委員会(第三部会長 荒井史男)は、平成17年7月5日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。
 命令の概要は、次のとおりです。

I 当事者
 丸一展装株式会社―呉服展示会の会場設営等を営む。従業員数20名(平成14年4月現在)
平成15年8月16日に解散し、現在清算手続中。
 全労連・全国一般労働組合愛知地方本部あいち支部―愛知県内の中小企業に働く労働者によって組織。組合員数232名(平成14年4月現在)

II 事案の概要
 1 本件は、会社が、(1)組合員A及びBを配転したこと、(2)賃上げ、A及びBの配転の撤回、年間休日日数増加及び法定休日の曜日特定の各要求に係る団交にそれぞれ誠実に対応しなかったこと、(3)組合の団交担当者の交替を求めたことが不当労働行為であるとして、初審愛知県労委に救済申立てがなされた事件である。
 2 愛知県労委は、会社に対し、(1)団交で、賃上げ等の回答に関し、経営状況等の資料を提示して誠実に説明しなければならない、(2)Bの配転がなかったものとして取り扱い、同人が同命令前に従事していた職務又はそれに相当する職務に従事させなければならない、(3)その余の申立て(@団交担当者の交替要請、AAに対する配転の撤回、BA及びBの配転の撤回要求、年間休日日数増加要求及び法定休日の曜日特定の要求に対する各不誠実団交、C謝罪文の掲示)を棄却したところ、これを不服として会社及び組合が再審査を申し立てたものである。

III 命令の概要
 1 主文の要旨
 初審命令主文を変更し、会社に対し、賃上げに関する不誠実団交についての文書手交を命じ、組合のその余の初審救済申立てを棄却し、その余の各再審査申立てを棄却する命令を発した。
 2 判断の要旨
(1) 団交担当者の交替要請について
 D副社長の団交担当者であるC書記長の交替を要求する発言後も、C書記長は、12回にわたって行われた春闘の団交に引き続き団交担当者として毎回出席しており、C書記長が担当者であることを理由に会社が団交を拒否したとの事情も認められない。
 団交担当者の交替に係るD副社長の発言は、不適切な面があったとしても、発言後の状況等からすれば、支配介入とまでは認めることはできず、組合の主張は採用できない。
(2) 団交における会社の対応について
 A及びBの配転の撤回要求、年間休日日数増加要求及び法定休日の曜日特定の要求に対する会社の対応において、交渉態度の不誠実さをうかがわせる事情は認められず、組合の主張は失当と判断するが、賃上げ要求に係る団交においては、組合が提示を求めた財務関係資料として、貸借対照表等商法上の計算書類そのものを提示すべきものとはいえないにしても、賃上げ要求に対する回答の根拠となる経営状況等に関する何らかの客観的資料を提示するなどして具体的に説明の努力を尽くすべきものと考えるところ、本件における会社の交渉態度は、この点において不誠実さが認められ、不当労働行為に該当するものである。
 その理由は、それぞれ、初審命令書理由第3の2の(2)ないし(4)の各ウ及び同(1)のウ(初審命令書18頁〜22頁)のとおりであるから、これを引用する。
(3) 本件配転について
(1) Aについて
 会社と組合との関係が良好でなかったこと、ある程度の不利益性が存在することが認められるが、新人事組織導入の一環として、業務部門の拡充と看板部門の合理化を図る観点から、看板部門2名のうち1名を「業務」へ配転することは一つの経営上の判断として正当なものと認めざるを得ず、「業務」に配転する者としてAの方を選択したことにも不合理な点があったとは認められない。
 なお、看板部門の従業員であるFが吊り看板の取付け・取外しをほとんど行わなかったこと、運転免許を取得しなかったことは認められるが、これらのことを考慮しても、組合主張のように、会社が分会長としてのAをことさら嫌悪して、不当に差別した取扱いをしたとみることはできない。
 さらに、組合は、本件配転時分会長として分会の中心的役割を担ってきたAに対するこの処遇は、組合の力を削ぐことを企図したものであると主張するが、これを認めるに足りる立証はなく、また、分会役員としての活動や役割にも支障が生じていると主張するが、それについての具体的な立証はなく、組合の主張は採用できない。
 よって、Aの本件配転は、新人事組織導入を口実に、不当労働行為意思に基づいて行われた不利益取扱い及び支配介入に当たるとまでは認められず、これを不当労働行為でないとした初審判断は相当である
(2) Bについて
 会社と組合との関係が良好でなかったこと、ある程度の不利益性が存在することが認められるが、新人事組織導入の必要性からすれば、これに伴い、従前Bが担当していた仕事についても見直す必要があったことが認められる。
 従前Bが担当していた仕事は「営業」、「業務」、「管理」が分担して行うこととなったものであり、また、新しい「管理」において人員不足が生じていたとの立証もないことからすれば、Bを「業務」に配転したことはやむを得ない措置であり、会社が分会書記長としてのBをことさら嫌悪して不当に差別取扱いをしたとみることはできない。
 組合は、本件配転時分会書記長として分会の中心的役割を担ってきたBに対するこの処遇は、組合の力を削ぐことを企図したものであると主張しているが、これを認めるに足りる立証はなく、ほとんど具体的な組合活動をしていないとすることへの反証もしていない上、組合の婦人部員として婦人部会議への出席や、各種会合、催事への参加、分会会議の日程調整すら困難となっているとの主張についても、具体的立証がないことからみて、組合の主張は採用できない。
 よって、Bの本件配転は、新人事組織導入を口実に、不当労働行為意思に基づいて行われた不利益取扱い及び支配介入に当たると認めることはできない。したがって、Bの本件配転を不当労働行為であるとした初審判断は失当である。

IV 救済方法について
 当委員会は、初審命令のうち会社の再審査申立て事項である賃上げに関する不誠実団交は不当労 働行為であると判断した部分を維持するものである。事件の審査中に、会社は解散し清算人が選任 され、清算人は、全従業員を解雇し、現在清算手続中の状況にあり、会社は業務を全く行っておら ず、その再開の見通しもないことを考えると、賃上げに関する実質的な団交を命ずることができな くなったものと判断せざるを得ない。本件の救済としては文書の手交を命じるに止めざるを得ず、 主文のとおり命ずることとする。

【参考】
  初審救済申立日 平成12年 5月 2日
  初審命令交付日 同14年11月 1日
  再審査申立日 同14年11月14日(会社)・同月18日(組合)


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