平成17年5月20日
中央労働委員会事務局
 第二部会担当審査総括室
室長    神田 義宝
TEL 03−5403−2162
FAX 03−5403−2250


三一書房不当労働行為再審査事件(平成13年(不再)第45号)命令書交付について


 中央労働委員会(会長 山口浩一郎)は、平成17年5月20日、標記事件に係る命令書を関係当事者に交付したので、お知らせします。  命令の概要等は、次のとおりです。

I 当事者
 1 再審査申立人 三一書房株式会社(東京都文京区)
   社員12名(平成11年6月30日現在)
 2 再審査被申立人 三一書房労働組合
  組合員12名(平成11年6月30日現在)

II 事案の概要
 1 本件は、会社が、経営再建過程において、(1)組合から申し入れのあった賃金カットの中止等を議題とする団体交渉(以下「団交」)に、平成10年10月18日以降応じなくなったこと、(2)11月13日付で労働協約を即日破棄すると通告したこと、(3)11月14日付で組合員3名を、11年3月16日付で組合員2名をそれぞれ懲戒解雇したこと(12年1月25日付で懲戒解雇された組合員1名の救済を本件申立てに追加)、(4)10年10月19日及び20日付で組合員4名を停職処分に付したこと(12年8月11日付で退職した2名にかかる申立てを取下げ)、(5)10年11月分以降の賃金を組合員全員に支払わなかったこと、(6)組合及び組合員を誹謗中傷する文書を配布したこと等が不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件である。
 2 13年9月13日、初審東京都地方労働委員会は、会社に対して、(1)懲戒解雇された組合員6名に対する原職復帰と賃金相当額の支払い(うち2名については、停職処分の取り消しと停職期間中の賃金相当額の支払い)、(2)申立てを取下げた2名を除く、組合員10名に対する未払い賃金相当額の支払い、(3)労働協約の解除がなかったものとしての取扱い、(4)組合員を非難・中傷する文書配布による支配介入の禁止、(5)団交の拒否及び主文第1項ないし第4項についての文書手交、(6)第4項を除く他の条項についての履行報告を命じ、その余の申立てを棄却したところ、会社は、これを不服として、同日、再審査を申し立てたものである。

III 命令の概要
 1 主文
 本件再審査申立てを棄却する。

 2 判断の要旨
(1) 労使関係の存否
 本件は、S代表が代表者としての権限に基づき会社の行為として行った団交の拒否等が不当労働行為であるとして申し立てられたものであり、申立て当時Sは会社の法的な代表者であるから、組合員らがS代表らを会社の取締役ではないと考えなかったとしても、本件申立てが不適法ということはなく、雇用関係はないとする会社の主張は失当である。
 会社側株主とK側株主の間で争いがあり、双方が互いに自己の正当性を主張していたことから、組合がKを過半数株主の代表者と考えていたことが全く理由がないとまでは言えず、組合がSを代表者として認めずに命令に服さなかったことをもって、直ちに義務を履行しなかったとまでは言えない。また、取締役らが団交に応じなくなったまま、一人も出社することもなく、本社社屋をロックアウトし、組合員らを懲戒処分に付し、賃金を支払わなかった等々の労使関係に徴すれば、組合がS代表の命令に従わなかったことをもって、本件申立てが権利の濫用ということはできない。
(2) 団体交渉拒否の正当事由
 10年10月12日以降の団交は、長時間の軟禁と言い得るものではなく、組合員が自らの要求の実現を迫ったり、退出を希望した取締役の前に立ち一時制止したことはあったものの、実力で退出を阻止したとか、身体に危険を感じさせるほどの暴力が振るわれたとの疎明はない。さらに、取締役3名は、A弁護士から辞表が返還されたことも、取締役会において正式に辞表が撤回されたことも組合に知らせておらず、取締役ら3名が辞任してA弁護士に団交を委任したとの意思表明が、団交における追求を避けるための便法であったと指弾されても仕方がなく、会社の主張は、いずれも団交を拒否する正当な理由ということはできない。
 団交議題については、それぞれ組合員の労働条件に密接に関係するものであって、当然に団交議題となりうるものであり、また、経営体制の改変にかかる事項であっても、労働協約第5条に照らせば、団交議題ではないということはできない。
 なお、組合は、11年1月14日以降、ロックアウトを解除したK代表を支持し、その要請に応えて職場に復帰、宿直業務にも従事し、K代表との間で団交を行ったおり、Sを代表とする会社には団交を申し入れていないことからも、その日以降は会社が団交を拒否したということはできない。
(3) 各懲戒処分の相当性
 会社は、自ら定めた就業規則に反する手続と内容で以て組合員ら全員を突如各懲戒処分に付したこと、さらに当時、会社と組合が激しく対立していたことを勘案すると、経営再建策を巡って活発な活動を展開する組合と組合員らを嫌悪した会社が、組合員らの言動をことさら大げさに捉えて懲戒解雇という過酷な処分を課して不利益に取り扱うとともに、以て組合の活動を弱体化することを企図したものであって、各懲戒解雇処分は不当労働行為に当たる。
(4) 労働協約の破棄
 労働協約破棄通告は、労働協約上も労働組合法上も問題のある手続であったこと、会社の即日破棄通告の理由にはいずれも合理性を見出せないこと、当時の労使関係はきわめて厳しいものであったことを勘案すると、会社が労働協約の即日破棄を通告したことは、経営再建方策をめぐって団交要求を重ね、ストを反復継続するなどの活発な組合活動を嫌悪し、活発な活動の根元となっている労働協約を即日破棄することにより、専ら組合活動の弱体化を意図したものであり、組合運営に対する支配介入行為に当たる。
(5) 賃金支払義務
 組合員ら6名については、懲戒解雇されているが、懲戒解雇を含む懲戒処分が不当労働行為であることは既に判断したとおりであり、各懲戒処分が不当労働行為である以上、その救済として、各懲戒処分がなければ得られたであろう賃金相当額の支払いを命じうることは言うまでもない。また、退職した3名については、申立てが取り下げられていない以上、在職中の賃金について救済を命じるのが妥当である。
 本件ロックアウトは正当性を認めることはできず、会社の再建を進める上で組合の存在が障害となることから組合を活動の拠点である本社社屋から閉め出し、かつ、賃金不払い措置によって組合員の生活を困窮させ、団交を求めストを反復継続する組合の闘争力を減殺することを主に狙ったものであると判断せざるを得ない。
(6) 社員に配布した書面
 社員に配布した3書面は、文中の表現の大部分が不穏当な表現を用いてことさらに組合や組合員らの言動を非難・中傷したものと認めるのが相当と判断されるものであり、全社員への要請という形を取りながら、実は組合員らの離反を企図したといわざるを得ない。
(7) 文書交付と履行報告
 初審命令が団交の拒否その他について文書交付を命じ、非難・中傷文書の配布差止め以外の項目につき履行報告を命じたことは、いずれも救済手段として適切なものであると判断され、特に問題はない。

【参考】
   本件審査の概要
    初審救済申立日 平成11年6月30日(東京地労委平成11年(不)第67号)
    初審命令交付日 平成13年9月13日
    再審査申立日 平成13年9月13日


トップへ