総合福祉部会 第17回 H23.8.9 参考資料2 広田委員提出資料 精神障害とリハビリテーション 第15巻第1号(通巻第29号) 特集 リハビリテーション・プロセスにおける危機的状況への対応 ピアサポートの現場から 広田和子 1 はじめに  精神医療の被害者として、自宅内かけ込み寺を活かし、人間としての信頼関係にもとづい たご本人の健康度と可能性を信じる住民としての活動がふさわしい紹介です。 2 大事なのは環境ですよ  夜間、居住区を管轄する警察署を訪れると、ベンチに老婦人(74歳)がリュックサックを 背負って、大きな荷物を両手いっぱいに持って、にこやかに座っていました。「こんばんは!  どうしたの? こんなに夜遅くに警察に来て」と私が聞くと、「ねえ。一緒に私の家へ来てく れない?」と言われました。「いいけど、お宅はどこなの?」「すぐそこなのよ」「お名前は?」 「柳田(仮名)です」「柳田さんね。じゃー、早速行きましょ!」ということで、小柄な柳田 さんと並んで、ゆっくり警察署玄関のスロープを下り、柳田さん宅へ向かいました。  柳田さん宅は、バス通りを入った細い裏道に面した三軒長屋の奥にあり、防犯ライトがパッ と灯いたので、「明るいわね」と私が言うと、「こないだ付けたばかりなのよ。これがあれば、 犯人がこないかもしれないと思って付けたの」と言いながら、柳田さんは玄関の鍵を開け、入 口の電気を灯けました。  すると窓がダンボールで覆われていたので「なんでダンボールで蓋したの?」と聞くと、柳 田さんは「臭いを送り込まれているから蓋をしているの」と言いました。  畳の上には、一面新聞紙が敷きつめられ、その上に中身の入った大きなビニール袋が積みあ げてありました。「この新聞紙は、なんで敷いてあるの?」と聞くと、柳田さんは「犯人の足 跡を警察に持っていけば捕まえてくれるかもしれないから」と答えます。  「それで柳田さんは、この新聞紙の上に寝ているの?」と聞くと、「前は、新聞紙は敷かな いで、昼間3時間、ここで寝ていたけど、今は、昼間も犯人が臭いを送り込んでくるので、地 下鉄のトイレで3時間寝ているのよ」と言われ、私は「じゃー、いつ家にいるの?」と聞くと、 「家にいると犯人が臭いを送り込むので、ほとんどいられないから、夜中の1時まで警察にい て、1時になったら、前のコンビニでおにぎりを3個買って、立ったまま食べて、地下鉄が走 りだしたら、地下鉄のホームに座っています」と答えました。「食事はどうしているの?」と 聞くと「朝昼晩、三食、昔からいっているお店にいっています」ときちんとした答えが返って きました。「洗濯物は?」「コインランドリーでやっているけど、下着は・・・・商店街で、安 いのを買って、汚れたら捨てているの」と合理的な答えをされました。  「柳田さん! 私、帰るけど、どうされます?」と言うと、「おたくが、ここに泊ってくれ れば、私もここで寝るけど、一人じゃ、犯人が、また臭いを送ってくるので、私も警察に戻る」 と言って、荷物を持ち出そうとしたので、「だって、柳田さん! 私に泊ってといっても、布 団がないんじゃない?」と言うと、「私は布団を使わないので、おたくが使う分はあるのよ」 とうれしそうに言いました。  「柳田さんは布団を使わないで、畳の上に直にねているのね」と言うと、「そうなの」と言 われ、「風邪ひかないの?」と聞くと、「慣れたのよ。だって、布団に入っていると、犯人が、 臭いを送り込んできたとき、すぐ逃げ出せないので」と大きな声で力説されました。  「柳田さん! 警察へ戻りましょ!」と言って、また二人で警察署へ戻り、私は柳田さんが おにぎりを食べているコンビニへ一人で行き店長と話を伺ったところ、店長は「私どもは商売 をしているので、お客さんが、おにぎりを買ってくれてここで食べても朝まで店内にいても、 基本的には何も言いません。しかし、彼女の場合、他のお客さんたちからクレームが入って、 正直困っているので、明日にも、警察へ言って相談しようと思っていたところです」と言いま した。  私は警察署へ戻り「柳田さん! 私の家のかけ込み寺で寝てみない? 一緒に帰りまし ょ!」と言うと、柳田さんは「はい」と答えたので、警察官に事情を説明して、二人でタクシ ーに乗って、わが家に帰りました。  家に着くと、私はわが家の6畳“かけ込み寺”に案内して「柳田さん! 今日からここがあ なたのお部屋。安心して寝て下さいね。倒れると困るので、お風呂は今まで通り外で入って、 食事も行きつけの食堂にしてください。洗濯も今まで通り」と私は言いました。  柳田さんが「どうもありがとう」と言ったので、「私は夜遅く帰ってくるので、待ち合わせ は、あの警察。それと朝遅いので、出かけるときは、玄関の鍵を開けて出かけてね」と言って 鍵を開ける練習をしてもらってから「なにかわからないことありますか?」と聞きました。彼 女からの質問はなにもありませんでした。  わが家で柳田さんは、寝息をたててよく眠れていたので、一週間後、私は「よく眠れている から介護保険を使って、デイサービスでお風呂に入り、家へホームヘルパーさんに来てもらい お掃除してもらったりすれば、自宅で暮らせると思うので、地域ケアプラザと柳田さんの話を 聞いたり手続きしてくれる保健所等に行かない?」と提案したところ、ご本人が同意されたの で、二人で出かけてみました。  保健所からの帰り道、柳田さんが「いつもの車が跡をつけてくる」と言ったので、「どの車?」 と聞くと、「前から4台目の黒塗りの車」と言われ、「なんのために、誰がつけているの?」と 聞くと、「私に臭いを送り込んでくる人たちで、これだけ、大がかりなんだから○○教(カル ト宗教)としか考えられない」と大きな声で力を込めて言われました。  「柳田さん! あの車は、柳田さんをつけてくるのではなくて、走り去っていくだけよ。柳 田さんの感じ方って、私から見ると被害妄想だと思うのよ。もし病院へ行きたくなったら、今、 行ってきた保健所に息子さんと一緒に行くといいわよ」と私は言いました。  一週間後、柳田さんの姿は待ち合わせ場所の警察から消えました。しばらくして関係者から 「柳田さんの件ですが、広田さんの所でお世話になって、ご一緒にこちらへ来られたので、お 知らせしています。○○病院へ入院されましたのでご安心下さい」という丁重な電話を受けま した。私は柳田さんのことを気にかけてくれていた警察の人たちに、「柳田さんが入院し た・・・・」ことを伝えましたが、その後、忙しさの中で、私は柳田さんのことをすっかり忘 れていました。  半年後、警察のロビーで再会し「あら! 柳田さん! お久しぶり」と言うと。柳田さんは 「頭がおかしくなったと思って精神病院へ行ってきたけど、昼寝かされ、夜寝かされ、これで は足腰たたなくなっちゃうと思って退院してきたの」と言われ、「そうだったの。それでこれ からどうするの?」と聞くと「お宅へ行く」とのことで、その夜から、また、かけ込み寺に滞 在するようになりました。  すると、ある日、「柳田さんが朝早くあるいているけど、広田さんが寝ているのに鍵が開い ていると、空き巣が強盗に変身する可能性があって危険ですよ」と交番相談員が注意してくだ さった。私が柳田さんに事情を話して「だから10時まで出かけないで・・・・」と言ったと ころ、柳田さんは翌日からそれを実行されるようになりました。警察の当直主任からは「待ち 合わせしている柳田さんが、居眠りして危ないと思うときがある」と言われ、私が海外研修等 で長期留守にするときなど、郵便物を家に入れてもらうために鍵を預けている近所の人に事情 を話して、「柳田さんが帰ってきたら、鍵を開けて、家に入ったら外から鍵をかけて下さい。」 と依頼しました。柳田さんは、私が深夜帰宅するとよく眠っていて、私が原稿を書いていて、 お手洗い帰りの柳田さんが私の横を通るとき、「柳田さん! お元気?」と聞くと、「はい、お かげ様で」と言われました。  ある日、朝早く目覚めた私が「柳田さん! なんで、この家だと眠れるのかしら?」と聞く と、「おたくがしょっちゅう交番や警察に行っているから、犯人は、おたくのことを警察官だ と思っているので」と言われ、私が「柳田さんの息子さんの方こそ神奈川県警の本物の警察官 じゃない」と言うと、「息子は、交番で三日おきの仕事だから、犯人は警察官だと気がつかな いので、息子の家にも私が泊っていると、臭いを送り込んできて孫も危ないので、息子の家に は泊まれない」と言いました。  柳田さんが入院した病院に勤務する信頼している医師に、「柳田花子さんをご存じですか?  かけ込み寺に滞在中ですが」と言うと、「彼女を知っていますが、あれだけの被害妄想を消す ためにはよだれを流す程の副作用を伴う必要です。それより彼女にとって大事なのは、いい環 境ですよ」と言われました。  半年後、柳田さんは、わが家に隣接するアパートの高齢者が引っ越しされると、「・・・・引 っ越すところを見ていたのよ私、やり直したいのよ。・・・・不動産屋さんはどこ?」と言っ て、そこへ引っ越しされました。6カ月間、私に毎月2万円ずつ渡されていた12万円を私が 柳田さんに返金すると、柳田さんからわが家に立派な布団一式が届きました。 3 信頼  横浜市内の信頼関係のある警察官から「管内に住む16歳の少年から「これから死ぬ」と言 って、○○歩道橋の上から110番通報を受け、警察官がかけつけ保護して、家へ送ったので すが、そのあとで「薬を・・・・飲んだ」と119番通報を繰り返しています。われわれも消 防も困っています。なにより、本人にとっても、胃洗浄の繰り返しをしていては、身体によく ないと思いますので、広田さんのことを紹介したいのですが・・・・」という相談を受けまし た。  私が「わかりました。その少年に、私の電話番号を知らせてみてください」と答えると「・・・・ 少年の名前は誠君(仮名)です。どうぞよろしくお願いします」と言われました。  その翌日、誠君からの電話を受けたので、「私は、危機介入相談員というのをやっていて、 家には“かけ込み寺”という部屋もあるので、よければ泊まり込みで来てみない?若い君の話 をゆっくり聞いてみたいのよ」と私は彼に言いました。  誠君が大きな声で「行きます」と言ったので「パジャマは持ってきてね。それと枕にかける カバーに使うタオルもね」と私が言うと「はい! よろしくお願いします」と誠君から元気な 返事が帰ってきました。  誠君がオートバイに乗って初めて来た日、相談者達とよく行っていたちゃんこ鍋を食べたよ うな気がします。「中学校・・・・年生の時、いじめられて、ひどいことも・・・・の時され たので、証拠もあるから、教育委員会と・・・・先生を訴えてやりたい・・・・」と理路整然 と話をして、家庭内のこともいろいろ話されました。  私は「そういうことがあって、君が歩道橋の上から110番通報したり、119番通報して いたのね。16歳の君にとって、今でも学校のことはくやしいだろうし、家庭内のことも大変 なのよね。君の気持ちはよくわかったわ。でも、だからと言って、110番通報と119番通 報を繰り返しているのは、よくないと思うわよ。110番は事件や事故等を知らせたり、解決 してもらうための緊急用警察電話で、119番も病気やけがをした人のための緊急用電話でし ょ! 救急車の場合、横浜市内に63台(当時)あって、通報受けて平均6分で現場に到着し ているけど、110番も119番も生命に関わるセーフティネット(安全網)といって、人間 が生活する上で、とても重要なところなのよ。それをみんなが理解して、大事に緊急の時だけ 使わないとね。誠君は頭よさそうだから、理解できるわよね。それになにより、胃洗浄を繰り 返していては「誠君の身体によくないと思います」と言って○○警察の人が、誠君のことを心 配して私に電話をくれたのよ。君のくやしさや大変さは、広田和子さんが君の相談員として、 夜中の2時まで、電話に出られるときは受け止めるから、110番と119番通報しないと約 束できるかな」と私は聞きました。  すると誠君は、「はい! 約束します」と大きな声で返事をしたので、「午前2時すぎは、広 田さんも寝ないと倒れちゃうから。広田さんが倒れちゃうと、困る人がたくさんいるのよ。誠 君も大変だけど、世の中には、大変な人がたくさんいるのよ」と私が話をすると、誠君が「相 談員の広田さんも、僕のような相談者がいて、大変なんですね」と同情気味に言ったので、「生 きていればいろいろあるのよ。君は賢くてやさしい子ね」と私は言いました。  誠君は「広田さん! 今後、家に来て、家族みんなに会って、僕の話を聞いてくれたみたい に、みんなの話を聞いて下さいね」と笑顔で言ったので、私は「君は16歳の少年で親の保護 下にあるのだから、君のこと以外は、親に聞いてみてからね」と答えました。  誠君は私との約束を守り、110番通報も、そのたとかけていた119番通報もしなくなり ました。  冬に入り、誠君から「広田さん!お元気ですか?」という電話をもらって、「なんだか暑い のよ」と私が答えると、「今日は寒いですよ。熱があるんじゃないんですか? 体温計で計っ てみたらどうですか」とアドバイスされたので、「そう思っているんだけど、体温計が見つか らないのよ」と言うと、「わかりました」と誠君が言って電話が切れました。  30分ぐらいすると、誠君が「こんにちは」と、わが家に現れて、「広田さん! これで、 体温を計ってみてください」と言いながら体温計を渡してくれました。「あら、ありがとう」 と言うと、「僕はこれで、おかゆを作りますから」と、うれしそうにビニール袋に入れたお米 を見せられました。私は「あら、なにからなにまでどうもありがとう」と言って、体温を計り、 キッチンには行かずに、誠君におかゆ作りをおまかせしておきました。  そして、誠君が作ってくれたおいしいおかゆをいただきながら、「ねえ、誠君、料理人が、 なにか、食事を作る仕事が向いているんじゃない? 私より上手にできているわよ。昔は私も 上手にできたんだけど、今は、料理する気持ちになれないのよ」と私が言うと、誠君は「いい んじゃないですか、広田さんは忙しい相談員ですから、僕が110番通報しなくなったのも、 119番通報しなくなったのも、みKんな広田さんのおかげですからね。広田さんはいつまで も長生きして、僕の相談員でいて下さいね」と言ったので、私は「いつまでも相談員の私に依 存していては、君にとっても、広田さんにとってもよくないでしょ! 相談者は相談員から卒 業するものなのよ!誠君は立派に110番通報と119番通報から生還できたんだからね。で も、中学校の卒業式も出られなかったんだから、まだ卒業は早すぎるわね。今日は、本当にど うもありがとうございました」と言いました。  誠君は「広田さん! 僕の話を聞いてくれたみたいに、僕の家にも来て家族みんなの話を聞 いて下さい」と言って帰って行きました。  その後、「教育委員会と○○先生を訴えたい」という誠君の気持ちが強くなり、「家族とのこ と」でも誠君の頭を悩ませていたので、外で父親に会い、お話を伺うと、「誠の件では、私も 大変な思いをしていて、・・・・私も訴えたいぐらいです」と言われました。  私は「現在の生活に関して困っている・・・・に関して、私の信頼している弁護士さんと会 ってみませんか? 教育の方は、気持ちはよくわかりますが、公務員が、謝れない体質だと私 は思っています。裁判所に訴えるといってもお金もかかるし、万にひとつ裁判に勝てたとして も、今の日本を見ていると、教育現場が変わるとは私には思えません。目の前に立ちふさがっ ている・・・・に関して問題を解決することが、お父さんにとっても、私の相談者である誠君 にとっても大事だと私は思います。奥さん達とよく話合ってみたらいかがですか? それと、 誠君から「家に来て下さい」とお誘いいただいていますので、そのうち伺おうと思いますが」 と言いました。  お父さんは「弁護士さんの件はぜひ紹介して下さい。・・・・の件が解決できないと、私の 具合も悪くて。家にもぜひ来て、母や妻や子どもたちにも会って下さい」と言いました。  そこでまず誠君の案内で、自宅を訪問して家族全員とお会いすると誠君の全体が見えたので、 お父さんに弁護士を紹介し、家庭内の問題は弁護士に解決してもらうことにしました。  お父さんに弁護士を紹介後、「広田さん! 僕にも弁護士を紹介してください」と誠君は長 いこと言っていましたが、私は「いいえ。あなたは、未成年なので、紹介できません。親に言 って下さい」と言うと、「広田さんは僕の相談員でしょ!」と言われ、「そうよ。相談員として も人生の先輩としても言わせてもらえば、あなたが立派な大人になることが大事だと私は思い ます。あなたのくやしい気持ちを理解しているけど、人生は長い。これからどう生きるかが大 事よ」と私は言いました。  その後、「訴えてやる証拠を持ってきました」と冊子を渡され、「たしかに私も学校側の配慮 が足りないと思うけど、もし私だったら、大人になってから、そのときどうするか冷静に考え てみます。誠君を理解しているけど」と私は言いました。  それでも誠君は110番通報することもなく市内の中華料理屋さんでアルバイトを始め「広 田さん! 僕が勤めている店へ食べに来てくれませんか」と誘ってくれたので、お客さんとし て行くと、白い制服姿で、笑顔でうれしそうに働いていて、冬の日に来てくれておかゆを作っ てくれたときのことを思い出しました。  その仕事を辞めたあと、精神的にバランスを崩したときなど、「訴えてやる!」と言ったり、 「お巡り(警察官)が」との電話をしてくることもありましたが、苦しいときも110番せず に約束を守り、「お前を殺すぞ」とか「放火するぞ」と、夜中に電話をかけてきたときでも、 私がポジティブなことをひとこと言うと、誠君は静かに「ありがとうございます」と言って電 話を切ってくれました。  ある日、私は「ねえ。誠君。主治医を変えてみない? 私の信頼している○○クリニックの 山田先生」と提案してみました。誠君はたぶん一生入院の必要もないだろうと私は思い、誠君 に合いそうな山田先生にしましたが、それが当たり、誠君は「山田先生が「広田さんによろし く」と言っていましたとか、自分と先生の関係を話すようになりました。  あるとき誠君の話を用いていて、誠君のことで山田先生が戸惑っているんだと感じ、先生が 出席する会に私も参加して、会食時に「誠君のこと、ありがとうございます」と言うと、「彼 は死ぬかもしれない」と言われたので、私は胸を叩き、「私が居るから大丈夫」と言って誠君 の話を終わりにしました。  それから時間は流れて、誠君が「広田さん! 僕に広田さんを紹介してくれた警察官はどこ にいるのですか。会えませんか。」と言いました。私は「誠君。人間がまんすることが大事よ。 とくに今の若い人には。警察官が定年になったら会いましょうね」と言いました。「広田さん が死んだらそうなるんですか」と言ったので「大丈夫。私が相談活動などで預かっている物等 が入っている貸金庫の中に誠君と警察官のこと書いた紙も入っているので」と言うと「でも、 広田さん!長生きして下さいね」と言って、一生懸命働いたし成長しています。  先日、誠君は久しぶりに電話で「広田さん!・・・山田先生のお陰ですよ」と言ったので、 「よかったわね」と言うと、「でも、広田さんが山田先生を推薦してくれたんだから、広田さ んのお陰ですよ。広田さん! また、一緒にちゃんこ鍋食べましょうよ。僕のおごりですよ」 と言われたので、「いつかね。楽しみにしているわね」と言いました。 4 まとめ  柳田さんが、わが家のかけ込み寺から出る際、私は不動産屋の小林さんの所へ行って、「柳 田さんが来ますので、よろしくお願いいたします」と言いました。小林さんから「よろしくっ て、入れるの? 断ればいいの?」と聞かれたので、「入れてください。大家さんも了解され ていますので」と私は答えました。  柳田さんはアパートでなんとか2年半暮らして、けがをされ、息子さんたちの話によれば、 老人ホームに入れられたそうです。  私が、不動産屋の小林さんに出会ったのは、1989年春のことですが、そのとき、私は「腰 痛で働けず、生活保護で・・・・」と自己紹介しておきました。  10年後引っ越すことになり、横浜市精神障害者住み替え住宅制度を使うため、患者である ことを名乗りました。すると小林さんは、「そうだったの。最初、お母さんと一緒に来たとき から見ると、だんだん活発になってきて、病気がよくなったのね」と言われました。  私が「病気じゃなくて、1988年3月1日に医療ミスの注射を打たれて、その副作用がま だ残っていたんです。副作用のために緊急入院もしました」と言ったところ、「大変な思いを したのね。ミスなんて、ひどい医者じゃない」と小林さんは怒っていました。  その後、私が、「相談活動もしている」ことを話すと、小林さんから「あなたがいるので、 うつの人に家をお世話したから、なにかあったら話を聞いてあげて」と言われ、この件をきっ かけに、何人もの精神障害のある方が入居できるようになりました。精神障害者が地域で生活 していくためには、住宅政策が、24時間安心して利用できる精神科医療とともに最重要課題 です。  こうして誰もが、自分のできること住民として行えば、税金を使わないで“豊かな地域社会” が実現し、子どもにも、障害者にも、高齢者にも、誰にも“いい環境”になります。  私の被害は精神医療だけでなく、福祉、行政にもおよびましたが、それはいずれも本人不在 の状況で起きたことです。私は、信頼関係を大事にして本人の健康度と可能性を信じて向き合 えば、過った判断は防げると思っています。  また、この事例を通して、私のような危機介入相談を仕事にしては困ります。私は、国およ び地方自治体委員を精神医療の被害者である精神医療サバイバーの立場で担っていますが、委 員会等はコンシューマーのためでなく“専門家のためのハローワーク”だといつも感じている からです。