総合福祉部会 第17回 H23.8.9 資料1−2 II−4−(2)支援ガイドラインに基づく協議調整による支給決定の実現可能 性について 【表題】支援ガイドラインに基づく協議調整による支給決定の実現可能性につ いて 【結論】 O支援ガイドラインに基づく協議調整による支給決定は、財政的にも実現可能 である。 【説明】  全国に先駆けて、平成15年度支援費制度の時点でガイドライン(*)に基 づく支給決定方式を採用した二つの自治体(A市、B市)を事例とした。この 内、A市は重症心身障害児者の地域生活モデルをガイドラインに組み込んでい る。  ガイドラインは行政と障害者・家族、支援関係者の合議の下で策定されるた め、これに基づく協議調整を経て支給決定された支援内容は、障害者本人や家 族の満足度も高い。そのため、本骨格提言では現行の障害程度区分に代わる新 たな支給決定の仕組みとしてこれに着目し、「支援ガイドライン」に基づく協議 調整による支給決定を提案している。(「T−3選択と決定(支給決定)」参照)  しかし、データ等によれば、平成18年から導入された、障害程度区分ごと の国庫負担基準が、ガイドラインに基づく支給決定の足かせとなっているとい う問題点がある。支援費当時にA市、B市で障害者の生活実態や必要とする支 援内容等に基づいて策定されたガイドラインと、障害程度区分ごとに設定され た国庫負担基準の間に不整合があるため、サービス利用計画に基づくサービス をめぐる協議調整が困難となっているという指摘が、関係者から起こっている。 つまり、ガイドラインに基づけば、障害程度区分ごとの国庫負担基準を超える 支給量を決定することもあるが、この場合国庫負担基準が協議調整型の支給決 定を実施する自治体の裁量権を事実上縛っているのである。厚労省は「…当該 基準額が個々の利用者の上限となるものではない・・・・一人ひとりの事情を ふまえて適切に行うこと」という通達を出してはいるものの、多くの自治体で は、実際にはこれは守られていない。  次に、協議調整による支給決定の仕組みが行政の財政状況に与える影響につ いて述べる。  人口に占める手帳所持者の割合は、A市は4.01%、B市は6.21%である(全 国平均は5.07%)。手帳所持者のうち区分認定を受けた者の割合は、全国平均 3.68%に対して、A市は9.36%、B市は14.59%といずれもかなり高い。  しかしながら、平成21年度の資料によれば、A市は障害福祉サービスに関 する財政支出が全国平均の1.03倍、B市は1.15倍とほぼ全国平均にとどまっ ている。さらに重度障害者の地域生活支援の一つの指標となる重度訪問介護に ついてみるとA市は全国平均の3倍、B市は7.5倍の利用者がおり、A市の障 害福祉サービス費全体の19.5%、B市の障害福祉サービス費全体の19%を占め る。重度訪問介護の利用が、全国平均の数倍であるにもかかわらず、総費用が 全国平均であるのは、A市・B市ともに、相対的に単価の低い重度訪問介護以 外の訪問系サービスの利用が、全国平均を超えている一方、単価の高い旧施設 入所系の利用が少ないことがデータ分析からは推察される。  支援ガイドラインに基づく協議調整モデルでは費用が青天井になるので障害 程度区分は必要だという主張があるが、A市では、支援費の開始に合わせてガ イドラインをホームページ等に公表したこともあり、初期には利用者の増加が みられたが、次第にガイドラインに基づく協議調整が有効に機能して、総利用 量は平準化した。現在の漸増分は、他自治体からの移動などによるものと思わ れる。すべての自治体が、一定以上の支援ガイドラインに基づく協議調整を行 うようになれば、徐々にその問題も減少すると思われる。  以上の通り、公開されている限定された資料からA市やB市の地域生活支援 を分析した結果、支援ガイドラインに基づく協議調整は、アメリカ・カナダ・ イギリス・スウェーデン等税方式でサービス支給決定を行っている国々で一般 的であるだけでなく、わが国においても実行可能で、それほど多額の費用を要 することなく、かつ区分認定にかかる費用も負担等も省略できるものと考えら れる。さらに、このモデルは地域移行の促進と地域生活の充実に寄与すると考 えられ、国連障害者権利条約の批准の方向性にも合致するものと思われる。 (なお、本稿で用いたデータは、国保連にデータが上がる障害福祉サービス費 の比較のみで、自立支援医療、補装具、地域生活支援事業、市の補助事業や、 生保の介護扶助の利用等については検討していない。)   (*)A市、B市においてこれまで採用されてきたガイドラインを本稿では一 括して「ガイドライン」と記す。このガイドラインに着目して、本骨格提言で 提案しているものを「支援ガイドライン」と呼ぶことにする。