総合福祉部会 第16回 H23.7.26 資料1 部会作業チーム報告 合同作業チーム報告 平成23年7月26日 障がい者制度改革推進会議 障がい者制度改革推進会議総合福祉部会 <部会作業チーム報告> 1 法の理念・目的 報告書概要           報告書 2 障害の範囲と選択と決定   ・障害の範囲 報告書概要          報告書   ・選択と決定・相談支援プロセス(程度区分)    第1期報告書概要    第1期報告書    第2期報告書概要    第2期報告書 3 施策体系   ・訪問系 報告書概要        報告書   ・日中活動とGH・CH・住まい方支援    報告書概要    報告書   ・地域生活支援事業の見直しと自治体の役割    報告書概要     報告書 4 地域移行 報告書概要        報告書 5 地域生活の資源整備 報告書概要       報告書 6 利用者負担 報告書概要         報告書 7 報酬や人材確保等 報告書概要            報告書 <合同作業チーム報告> 1 就労(労働及び雇用) 報告書概要             報告書 2 医療   ・主に精神分野 報告書概要           報告書       ・その他の医療一般 報告書概要             報告書 3 障害児支援 報告書の概要         報告書 第1期部会作業チーム・合同作業チームメンバー(検討期間:平成22年10月〜12月)                     (敬称略、五十音順)◎座長  ○副座長 「法の理念・目的」チーム  ○野澤和弘、◎藤井克徳、藤岡毅、山本眞理 「障害の範囲と選択と決定〜障害の範囲」チーム   氏田照子、○佐藤久夫、佐野昇、末光茂、◎田中伸明、東川悦子、福井典子 「障害の範囲と選択と決定〜選択と決定・相談支援プロセス(程度区分)」チーム   朝比奈ミカ、◎茨木尚子、小澤温、○門屋充郎、○北野誠一、中原強、野原正平、   三浦貴子 「施策体系〜訪問系」チーム   大濱眞、◎尾上浩二、○岡部耕典、小田島栄一、田中正博、中西正司、橋本操 「施策体系〜日中活動とGH・CH・住まい方支援」チーム   ◎大久保常明、小野浩、清水明彦、奈良崎真弓、平野方紹、○光増昌久 「施策体系〜地域生活支援事業の見直しと自治体の役割」チーム   荒井正吾、石橋ワ章、坂本昭文、○竹端寛、西滝憲彦、福島智、◎森祐司、渡井秀匡 「就労(労働及び雇用)」チーム   推進会議委員  勝又幸子、新谷友良、竹下義樹、◎松井亮輔   部会委員  伊東弘泰、倉田哲郎、○駒村康平、近藤正臣、斎藤縣三、             増田一世 「医療(主に精神分野)」チーム   推進会議委員  川ア洋子、関口明彦、◎堂本暁子   部会委員  伊澤雄一、河ア建人、広田和子、○三田優子 「障害児支援」チーム   推進会議委員  ◎大谷恭子、長瀬修   部会委員  柏女霊峰、君塚葵、水津正紀、○宮田広善 第2期部会作業チーム・合同作業チームメンバー(検討期間:平成23年2月〜5月)                     (敬称略、五十音順)◎座長  ○副座長 「障害の範囲と選択と決定〜選択と決定・相談支援プロセス(程度区分)」チーム   朝比奈ミカ、◎茨木尚子、小澤温、○門屋充郎、○北野誠一、三浦貴子 「地域移行」チーム   伊澤雄一、◎大久保常明、岡部耕典、小田島栄一、河ア建人、清水明彦、中原強、   ○三田優子、山本眞理 「地域生活の資源整備」チーム   荒井正吾、石橋ワ章、大濱眞、尾上浩二、坂本昭文、○竹端寛、西滝憲彦、東川悦子、   福島智、◎森祐司、渡井秀匡 「利用者負担」チーム   氏田照子、○小野浩、◎田中伸明、奈良崎真弓、福井典子 「報酬や人材確保等」チーム   田中正博、中西正司、野澤和弘、○平野方紹、○藤井克徳、◎藤岡毅、光増昌久 「医療(その他の医療一般)」チーム   推進会議委員  川ア洋子、関口明彦、◎堂本暁子   部会委員  ○佐藤久夫、佐野昇、○末光茂、野原正平、広田和子、橋本操 「就労(労働及び雇用)」チーム   推進会議委員  勝又幸子、新谷友良、竹下義樹、◎松井亮輔   部会委員  伊東弘泰、倉田哲郎、○駒村康平、近藤正臣、斎藤縣三、増田一世 「障害児支援」チーム   推進会議委員  ◎大谷恭子、長瀬修   部会委員  柏女霊峰、君塚葵、水津正紀、○宮田広善     --------- 「法の理念・目的」部会作業チーム報告書の概要 一 法律案  新法の理念・目的という法の骨格・総則部分について、条文イメージを提案する。  どのような新しい法律が出来るのか関係者も注目しているところ、総合福祉部会におけ る改革の意義を反映するものを可能な範囲で法案の形で示すことが重要と考えた。 1 【名称】 「障害者の社会生活の支援を権利として総合的に保障する法律」を提案す る。 2 【前文】 障害者支援の新しい1頁の始まりを謳う前文は是非とも必要と考える。 3 【法の目的】 障害者権利条約の国内法に向けて、「権利」としての支援を明確に法の 目的に掲げる必要があること、制度の谷間に置き去りにされてきた人にスポットを当て、 誰もが排除されないインクルーシブ社会の実現をめざす。 4 改革の理念のポイントを明記する規定 【保護の対象から権利の主体への転換】【医療モデルから社会モデルへの転換】 【他の者との平等の権利】【個別事情に最も相応しい(合理的配慮を尽くした)支援の保障】 【障害者の公的支援を請求する権利】【地域で自立した生活を営む基本的権利】【支援選択 権の保障】【情報・コミュニケーション支援請求権の保障】【就労支援の実現の必要性】【介 護保険との選択権保障】【障害児の支援】【障害福祉分野の労働者の人権保障】【相談支援を 受ける権利の保障】 5 国、自治体の義務規定  【国の義務】1法制度整備・充実義務 2ナショナルミニマム保障義務、地域間格差是 正義務 3財政支出義務 4制度の谷間解消義務 5長時間介護等保障義務 【所管省庁を横断した総合的支援】【国民への広報、啓蒙】【都道府県の義務】【市町村の義 務】【市町村の説明責任】【事業所整備義務】 6 定義条項  【自立】【地域生活】【障害者支援の公的責任】【請求権】【支援】【自己決定】【合理的配 慮】等 二 意見書 第一章 本法制定に至る経緯と障害者支援の基本原理 第1 障害者自立支援法導入に至るわが国の障害者福祉  措置から契約へ、そして自立 支援法 第2 障害者福祉の基本原理 医学モデルから社会モデルへの改革 第二章 改革の必要性 第1 障害者権利条約の批准に向けた改革の必要性 第2 障害者自立支援法の問題点と是正 1 自己責任論を障害福祉に持ち込むことの過ちの解消 2 障害福祉の公的責任強化・増大の確認 第3 脆弱なわが国の障害者福祉水準 1 世界水準とかけ離れた劣悪な障害者福祉水準の引き上げの必要性 2 国民一般とかけ離れた所得水準と家族依存状態の解消の必要性 第三章 改革の理念の確認 第1 障害者の基本的人権を実現するための権利保障法体系への変革 …人権の主役へ… 第2 誰もが地域で当たり前に生きられるインクルーシブな社会の実現 第3 制度の谷間にこぼれおちない支援 第4 他の者との平等の権利の保障、個別事情に最も相応しい(合理的配慮を尽くした) 支援 第5 障害の社会モデルへの転換 …障害の自己責任、家族責任からの解放… 第6 公的支援を活用しながらの労働 第7 医療と福祉の連携の重要性、医療的ケアの地域での保障 第8 権利擁護機関の設置 第9 現行の民法等に基づく成年後見制度の抜本的改革の必要性の提言 第10 共生社会実現のための幅広い世論の共感が必要 第四章 論点と意見 第1 【法の名称】第2 【前文の必要性】 法案に規定。 第3 【そもそも、この総合福祉法は、誰の何のためにつくるのか?】  障害をもつ人々が普通の市民として生きるため、そして全ての市民のためのものである。 第4 【憲法、障害者基本法等と「総合福祉法」との関係をどう考えるか?】  基本合意で確認された「障害者の基本的人権の支援」、憲法に基づく制度を明記。 第5 理念規定 作るべき。 第6 【「地域で生活する権利」の規定】 法文に明記。 第7 【障害者の自立の概念「家族への依存」の問題】  支援を受けた上での自律自己決定選択肢の保障。家族に依存することは否定されるべき。 たんに経済的自活や、一人で何もかもできることではない。定義条項に明記。 第8、第9、第10 略 第11 【新法の守備範囲】 社会生活上の支援を中心の守備範囲とする。  従来の障害者福祉の分野を基本としながらも、教育・司法・労働等にも横断的に適用で きるような法制度とする。この法の支援は他の分野の垣根を超えて、制度の谷間のない(シ ームレスな)支援を実現するため、柔軟に利用できる制度 第12 【身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、精神保健福祉法、児童福祉法、その他 の既存の法律のあり方、並びに総合福祉法との関係についてどう考えるか?】  当面は、関連法の必要な改正。身体・知的・精神の障害別3法は廃止の方向性を確認し つつ、5年から10年等の中長期的課題として実務的課題として進める。  精神分野については精神保健福祉法廃止とともに精神医療の充実のためにも精神に特化 しない医療基本法および患者の権利法制に統合するべきである。新法の理念に則して、社 会福祉法の改正も必要。また発達障害者支援法も今後発展的に新法に包括・統合されるべ きである。  第13 【地域生活移行促進のための時限立法の必要性】 「地域支援充実と地域移行促進法(仮称)」といった時限立法制定と施行が必要である。  この点は、地域資源チームが主に検討していただきたい。  また、このプロジェクトが国民的課題として周知され、官民一体となったムーブメント となるよう、政府広報を行うことはもとより、定期的に番組を放映する、民放を含めテレ ビで積極的に取り上げてもらうよう活動するなど積極・果敢な活動が必要である。                                     以上 --------- 「法の理念・目的」部会作業チーム報告書 「障害者の社会生活の支援を権利として総合的に保障する法律」(案) 法の理念、目的、総則部分 【前文】 「わが国及び世界の障害者福祉施策は「完全参加と平等」を目的とした1981年の国際 障害者年とその後の国連障害者の10年により一定の進展を遂げたが、依然として多くの 障害者は他の者と平等な立場にあるとは言いがたい。  そのため、2006年12月国連総会にて「障害のある人の権利に関する条約」(以下「権 利条約」)が採択され、2007年9月に日本政府も署名し、2008年5月には国際的に 発効し、わが国も批准に向けた準備をすすめてきた。  この法律の制定はわが国の障害者の権利保障を法的に根拠付け、障害者支援に関する国 内法を権利条約の水準に引き上げる障害者制度の改革を目的とする。  憲法第13条、14条、25条等の諸規定に基づき、障害者は人間としての固有の尊厳 及び自由並びに生存が平等に保障される基本的人権を有しており、従来この国で保護の対 象とされてきた障害者が人権行使の主人公であるという改革の理念を確認し、障害福祉施 策は憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援することをこの法律の基本とする。  さらにこの法律は、権利条約の掲げるインクルージョン、すなわち障害者が社会の中で 当然に存在し、障害の有無にかかわらず誰もが排除されず、分離・隔離されずに共に生き ていく社会こそが自然な姿であり、誰にとっても生きやすい社会であるとの考え方を基本 としている。それは、障害は個人に責任がなく、参加を拒んでいる社会の側に責任がある とする考え方を基礎としており、わが国で根強い障害の個人責任、家族責任を否定し、障 害に基づく様々な不利益が一部の人に偏在している不平等を解消し、平等な社会を実現す るために社会が支えることをこの法律は目的とする。  とりわけ人生の長期にわたって施設、精神科病院等に入所、入院している障害者が多数 存在している現状を直視し、地域で自己決定の尊重された普通の暮らしが営めるよう支援 し、地域生活への移行を推進するための総合的な取り組みを推進することがこの法の使命 である。  そして障害者の自立とは、経済的な面に限らず、誰もが主体性をもって生き生きと生活 し、社会に参加することを意味することを確認し、この法律は、障害者が必要な支援を活 用しながら地域で自立した生活を営み、生涯を通じて固有の尊厳が尊重されるよう、社会 生活を支援する。これは現在障害を持つ人に限らず全ての人のためのものである。  人権保障としての支援という趣旨に照らせば、国・地方公共団体の義務的経費負担が原 則的仕組みとなる。  この法律は、これらの基本的考えに基づき、障害の種別、軽重に関わらず、尊厳のある 生存、移動の自由、コミュニケーション、就労等の支援を保障し、障害者各自が、障害の ない人と平等に社会生活上の権利が行使できるために、あらゆる障害者が制度の谷間にこ ぼれ落ちないように必要な支援を法的権利として総合的に保障し、差異と多様性が尊重さ れ、誰もが排除されず、それぞれをありのままに人として認め合う共生社会の実現をめざ して制定されるものである。」 【法の目的】  「この法律は、憲法第13条、第14条、第25条等の基本的人権諸規定、障害者基本 法、近く批准が予定されている障害者権利条約の精神に基づき、国・地方公共団体が、障 害を持つ一人ひとりが人として尊厳ある暮らしと社会生活を営むことのできるようその権 利を十分に保障し、障害の種別,軽重、年齢等に関わりなく、各自の必要性を満たす支援 を、制度の谷間にこぼれる者のないように柔軟に実施し、障害を持つ人が当たり前の市民 として社会参加できるための実質的な平等を保障し、障害を持つことに対する社会的不利 益、不平等を解消する義務を尽くすべきことを明らかにし、障害の有無にかかわらず人が 相互にそれぞれをありのままに人として認め合い、差異と多様性を尊重し安心して暮らす ことのできる地域社会の実現をめざすことを目的する。  また障害を持つ人はその居住地、施設入所、病院入院にかかわらず、入国管理局施設や 警察署、刑事施設矯正施設に収容されているか否かを問わず、この法の支援の対象とする。」 【保護の対象から権利の主体への転換を確認する理念規定】 「従来、障害者は、障害者対策実施の対象、保護の対象として、当事者として扱われてこ ない面があったが、この法律は、障害者が権利の主体、当事者であることを明確にする。」 【社会モデルへの転換に関する理念規定】   (障害の本質の確認) 「障害の本質とは、機能障害、疾病を有する市民の様々な社会への参加を妨げている社会 的障壁にほかならないことをここに確認し、機能障害、疾病を持つ市民を排除しないよう にする義務が社会、公共にあることが今後の障害者福祉、支援の基本理念であることをこ こに確認する。」 【他の者との平等の権利の保障】 「本法は、障害者には、社会生活、コミュニケーション、政治参加、教育、労働、司法、 表現の自由、プライバシー、市民活動、文化等、あらゆる分野において、他の者との同等、 平等の権利が保障されることを基礎としており、障害者に新たに特別の権利を付与するも のではなく、従前保障されてこなかった当然の権利の保障が十分に尽くされるように、具 体的に各条項に規定されたものである。」 【個別事情に最も相応しい(合理的配慮を尽くした)支援の保障】 「障害者にとって、各自の個別の事情に最も相応しい、当然に必要とされる合理的配慮が 欠如してきたことによる社会生活上の不利益は依然として大きく、それを埋める公的な支 援が尽くされることをめざして本法は制定される。」 【障害者の公的支援を請求する権利】 「市民として生きていくために公的支援を必要とする障害児者は、障害に起因して被って いる社会的不利益の是正を国・地方公共団体に求め、固有の尊厳の尊重された生活を営む 権利が保障されるよう、国及び居住する市町村に対して、この法律に基づき必要な支援を 求める公的請求権が保障される。」 【地域で自立した生活を営む基本的権利】 「1 障害者自らが選択した地域において自立した生活を営む権利は憲法13条、14条、 21条、22条、25条等に基礎づけられた基本的で重要な人権であり、本法に基づき、 障害者にその権利が保障される。  2 障害者は、みずからの意思に基づきどこに誰と住むかを決める権利、どのように暮 らしていくかを決める権利、特定の様式での生活を強制されない権利が保障される。  3 国及び地方公共団体は、障害者に対して前項の権利を保障する公的義務を有する。」 【支援選択権の保障】 「1 障害者には憲法第13条等に基づき、活用する支援を選択する権利が保障され、特 定の施策を強制されない権利を有する。 2 前項の支援選択権を実効あらしめるために、地域の中に多様で選択できる社会資源や 支援システムが,地域格差なく用意されていく必要があり、国・地方公共団体には、それ らの整備義務を有する。」 【情報・コミュニケーション支援請求権の保障】  「この法律は、全ての障害者、とりわけコミュニケーションに関して制限のある、『ろう 者』『難聴者』『盲ろう者』」等、重複聴覚障害者を含む全ての聴覚障害児者、視覚障害者、 言語障害者、知的発達障害者に憲法第13条、第21条等に基づき、自由で民主的な社会 を成立させる不可欠な前提条件としての基礎的な基本的人権として、障害者が自ら選択す る言語(手話など非音声言語を含む)及びコミュニケーション手段を使用して、市民とし て平等に生活を営む権利を保障し、そのための情報・コミュニケーション支援に関する請 求権を保障する。」 【移動の自由の保障の重要性】 「この法律は、視覚障害者、全身性障害者、知的障害者をはじめ、移動、行動に制限を伴 う全ての障害者に憲法第13条、第22条等に基づき、自由で民主的な社会を成立させる 不可欠な前提条件としての基礎的な基本的人権として、障害者が自らの意思で移動する権 利を保障し、そのための外出介護、ガイドヘルパー等の支援に関する請求権を保障する。」 【就労支援の実現の必要性の確認】 「この法律は、就労を希望する障害者の就労が真に実現するよう、企業への支援を含め、 その就職を支援するための制度を準備し、また、従来低い工賃等のもとで訓練を強いられ ていた「福祉的就労」の現状を解消するため、賃金補填を含む、抜本的制度改革が必要で あることを確認し、具体的規定は、『障害者労働保障法』等の別法に規定する。」 【介護保険との選択権保障】 「1 旧障害者自立支援法第7条が規定していた介護保険優先原則は廃止する。 2 65歳(一部40歳)以上の障害者に、介護保険の利用と障害者支援施策の利用を選 択する権利を保障する。」 【国の義務】 「1 国の法制度整備・充実義務  国は、本法各規定の定める障害者の支援請求権が実効的に保障されるため、法制度を整 備・充実する責務を有する。 2 国のナショナルミニマム保障義務、地域間格差是正義務  憲法に保障された基本的人権を保障する義務は第一義的には国にあることから、障害者 支援の最終責任は国にあることを確認し、市民の障害の有無、障害の種別、軽重に関わら ず、定住外国人も含め、自らこの国のどの地域に居住しても等しく安心して生活すること ができる権利を市民に保障する義務があり、そのため、国は自治体間での支援の格差を解 消するための制度設計をする責務を有する。 3 国の財政支出義務  国は、地方公共団体の財政事情に障害者の権利の保障が左右されないよう、必要な支援 を保障することを可能とするため、地方公共団体に対して必要な財政援助を行なう義務を 有する。  人権保障としての支援である以上、支援の必要性があるにも関わらず年度予算の範囲内 で支出すれば義務が免責されるものでなく、義務的経費負担制度を基本とする。 4 国の制度の谷間解消義務  国は、難病患者、高次脳機能障害、発達障害者をはじめ、障害者が各制度の谷間に置か れて支援が不十分とならないよう、制度の谷間・空白を作らないように注意を尽くす義務 を負う。 5 国の長時間介護等保障義務  国は、地域で自立した生活を営むために1日8時間を超えるような長時間介護を必要と する障害者に対する介護等の支援が万全に行われるよう保障する具体的義務を負う。」 【所管省庁を横断した総合的支援の必要】 「制度の谷間のない支援という本法の目的を実現し、ライフステージや場所、分野に分断 されない継続的な支援を実現するため、この法律は、内閣府、厚生労働省はもとより、文 部科学省、国土交通省、総務省、財務省、経済産業省、法務省等全ての官庁により横断的 かつ有機的な連携が取られながら実施されることに特に留意が必要である。」 【都道府県の義務】 「 都道府県は、この法律の実施に関し、次に掲げる責務を有する。 1 市町村が行う障害者支援が十分に保障されるよう、市町村に対する必要な助言、情報 の提供、財政支援その他の援助を行うこと。 2 市町村と連携を図りつつ、必要な障害児者支援を総合的に行うこと。 3 障害者に関する相談及び助言のうち、専門的な知識及び技術を必要とするものを重点 的に実施すること。 4 市町村と協力して障害児者の権利の擁護のために必要な援助を行うとともに、市町村 が行う障害者等の権利の擁護のために必要な援助が適正かつ円滑に行われるよう、市町村 に対する必要な助言、情報の提供その他の援助を行うこと。 5 コミュニケーション支援について支援が不十分な自治体に居住する障害者の社会生活 上の不利益が生じることのないよう、都道府県が直接支援事業を実施することを含めて責 任を負うこと。」 【市町村の義務】 「 市町村(特別区を含む。以下同じ。)は、この法律の実施に関し、次に掲げる義務を有 する。 1 障害者が自ら選択した場所に居住し、全国どこにおいても等しく自立した日常生活又 は社会生活を営むことができるよう、当該市町村の区域における障害者の生活の実態を把 握した上で、必要な支援を実施、保障する。 2 障害者の支援に関し、必要な情報の提供を行い、並びに相談に応じ、必要な調査及び 助言を行い、並びにこれらに付随する業務を行うこと。」 【市町村の説明責任と申請妨害に対する制裁】 「1 市町村には、支援を必要とする人が支援のネットからこぼれおちないように、障害 者支援に関する制度を適切に周知・教示する義務がある。  2 市町村には、障害者の本法に基づく支援の申請権を保障する義務があり、支援の必 要な人からの申請または申請に関する相談があった場合は、申請に必要な書式や説明文書 を交付し、施策内容・申請方法等を適切に本人が十分に理解できるよう説明する義務があ る。 3 市町村が前項の義務に違反し、障害者の申請権行使を妨げた場合、本法施行令の定め に従い、市町村長個人及び妨害行為者個人は検察庁の処分に基づき過料の制裁に服する。」 【事業所整備義務が国・地方公共団体にあること】 「 『措置から契約』への制度変革に伴って、国・地方公共団体は、「自分で事業所を探し てください」といえばそれ以上の責任を問われないかのごとき状態は問題である。  「契約制度」のもとで「地域で暮らす権利」が保障される前提条件は、支援を実施する 事業者が地域に存在していることである。障害者福祉は本来、国・地方公共団体の責任で 履行されるものであり、事業所のない地域が生じないよう、事業者への財政援助、育成を 含めた、基盤整備義務が国、地方公共団体にあることをここに確認する。」 【国民への広報、啓蒙】 「共生社会を実現するためには一般市民の理解が不可欠であり、国・地方公共団体は、障 害者支援の重要性の理解を広報、啓蒙する義務がある。  障害は誰にでも何時にでも起こりうるものであるが、現実には社会的不利益・負担が一 部の当事者、家族に偏在、固定していることが不公平・不平等であり、この不平等を解消 することが大切であり、そのためにはこの障害者支援制度改革が障害のある人に限らない 全てのひとにとってわがこととして感じられ、教育・広報等により、幅広い世論の共感が 得られるよう、努力する義務がある。  具体的制度は個別に規定する。」 【障害児の支援を求める権利】 「1 障害のあるなしに関わらず共に生きる社会を実現することためには未成年段階で障 害のあるなしにより隔離、分断されない療育、教育、生活を保障することが重要であるこ とを確認する。 2 障害児のその成長発達の段階と差異と多様性に応じて、個別に必要な支援を請求する 権利が、児童福祉法及び本法に基づき障害児及びその保護者に保障される。」 3 障害児支援に関する費用負担を含めて、障害に起因する特別な経済的支出を親子、配 偶者を含む家族が負担しない権利が保障される。」 【障害福祉分野の労働者の人権保障の必要性の確認】 「この法律は障害者を支援するための法律であるが、障害福祉分野の労働者の給与水準等 が低く、労働条件が劣悪で人材が希薄なことは障害者の生活の質が保障されないことを意 味する。障害者支援の事業所に経営努力義務があることが前提であるが、この法律は、障 害福祉分野の人件費が適正水準を下回ることが障害者の尊厳ある生活を受ける権利を侵害 することを認め、そのような事態を生まないための努力義務が国・地方公共団体にあるこ とを確認する。」 【この法律による権利保障を目的とした相談支援を受ける権利の保障】 「1 すべての障害者は本人の自己決定権を尊重され、この法律による権利保障を目的と した相談支援を受ける権利がある。 2 なん人もこの法律による支援についての情報を得るために相談支援を受ける権利があ る。」  以下、定義条項   【障害の定義 規定】(定義)  この法律において「障害者」とは=「障害の範囲」作業チーム担当   【自立の定義条項】  「本法における障害者の「自立」とは、必要な支援を駆使して自己の意思で(支援を活用 した自己決定を含む)主体的、自律的に社会生活を営み、自己実現をはかることという。」 【地域生活の定義条項】 「本法における「地域生活」とは、障害者が地域社会で排除、孤立、隔離されることなく 他の者と自然に共存し、特定の生活様式を強制されることなく、自分の選択に基づいて普 通に暮らすことをいう。」 【障害者支援の公的責任の定義条項】 「本法における「公的責任」とは、民間事業による福祉の実践を否定する趣旨でなく、障 害者支援は憲法に基づく基本的人権の実現にほかならないことを前提に、障害福祉、障害 者への社会生活の支援が最終的な責任が国家、自治体にあること、契約制度においても、 支援が社会資源の不足等により満たされない場合の障害者に対する支援保障義務、基盤整 備義務のあることをいう。」 【請求権の定義条項】 「本法における「請求権」「支援請求権」とは、本法の規定に基づいて、障害者個人が国、 地方公共団体等の公的機関に対して、個別の公的支援を求める具体的権利であり、司法救 済の対象となるものをいう。」 【支援請求権の基礎】  「障害者の公的支援請求権を基礎付けるものは、憲法の人権諸規定、障害者基本法で確 認される基本的な権利に加え、権利条約により国際的な人権規範として確立されつつある 合理的配慮義務の理念等により重層的に構成される。」 【受給権なる表現について】  保護の対象から権利の主体へという本法の改革の理念に照らして、「受給権」なる表現は、 施策の対象としての受け身の存在を前提としており、相応しくない。  「支援請求権」「請求権」等を利用するべきである。 【支援の定義条項】  「本法における「支援」とは、障害者は庇護されるべき弱者とみなすのでなく、本人の 自律した自己決定を尊重し、本人らしさを発揮開花させるためのバックアップサポートを いう。」 【自己決定の定義条項】  「本法における「自己決定」とは、支援者とともに悩む過程や、意思決定、意思形成に おいて支援を活用することも含めて、自分の主体的な意思に基づき、生活、人生を切り拓 いていくことをいう。」 【合理的配慮の定義条項】  「本法における「合理的配慮」とは、障害者が他の者と平等に基本的人権を享有し、行 使するために必要な、障害に伴う社会的不利益を埋めるために社会公共が果たすべきその 人の個別事情に則した最も相応しい支援をいう。」 以上    「新法の理念・目的」分野に関する意見 2010年12月8日  総合福祉部会「法の理念・目的チーム」 第一章 本法制定に至る経緯と障害者支援の基本原理 第1 障害者自立支援法導入に至るわが国の障害者福祉  戦後、わが国の社会福祉は行政の職権に基づく「措置制度」を基本に実施されてきた。  バブル崩壊の社会状況のもと、1995年、社会保障審議会が「自己責任と社会連帯」 を強調する勧告を出し、国民には自らの努力によって自らの生活を維持する責任、自己責 任があることが強調された。  1998年6月17日中央社会福祉審議会 社会福祉構造改革分科会から「社会福祉基 礎構造改革について(中間まとめ)」が発表され、戦後50年変わらない措置制度を抜本的 に見直し、「契約制度」に移行させ、「サービス」提供者と利用者の対等性を確保し、市場 原理を活用して「サービス」を向上させ、高齢化社会により増加する社会保障費用を公平 に負担するべきと言われた。   2003年には社会福祉事業法が消滅し、社会福祉法が制定され、障害者福祉の分野 では自己決定の尊重を理念として、2003年4月1日から身体障害者福祉法、知的障害 者福祉法、児童福祉法に「支援費制度」が導入された。   支援費制度開始からまもなく同制度の財政破綻等が盛んに言われるようになり、20 05年10月に当時の「国民が痛みをわかちあう」という「国民自己責任論」の世論も背 景として「障害者自立支援法」が成立、2006年4月1日から施行された。 第2 障害者福祉の基本原理  障害の「社会モデル」を基本とした障害理解の必要性。  障害者の完全参加と平等の実現を目標として1981年が国際障害者年とされ、198 3年から1992年に国連障害者の十年が行なわれた。  そこにおける「ある社会がその構成員のいくらかの人々を閉め出すような場合、それは弱 くもろい社会なのである。  障害者は、その社会において特殊なニーズを持つ特別な集団と考えられるべきではなく、 通常の人間的なニーズを満たすことに特別な困難を持つ普通の市民と考えられるべきなの である」とのテーゼを改めて再確認してきたい。  1993年1月21日付の中央心身障害者対策協議会の「国連・障害者年の10年以降 の障害者対策の在り方について」と題する内閣に対する答申でも  「障害者は特別な存在ではなく、基本的人権を有する一人の人間として最大限尊重され なければならない。」  「障害者は決して障害のない人々と違った存在ではなく、社会の中に障害者が存在し、 社会経済活動を行なっていくことが正常な社会の姿であり、障害者が各種の社会経済活動 へ参加することを拒んでいる現在の社会の姿こそがむしろ問題である。」とされている。  1990年身体障害者福祉法の目的から「更生」という言葉が削除されたように、障害 を「治療と訓練と努力により自分で克服するべき対象」という「自力更生主義」から、「社 会の側が障害者の社会参加を実現するために支援するべき」という方向で改革が進んでき たはずであった。  今回の改革は、上記の改革の方向性を再認識することである。  テーゼとして掲げれば「障害自己責任、家族責任からの解放、障害の公的責任原則へ」 がスローガンである。  医学モデルに偏った従来の障害理解を変革し、社会モデルに立脚した改革が必要である。 第二章 改革の必要性 第1 障害者権利条約の批准に向けた改革の必要性  2006年12月国連総会にて「障害のある人の権利に関する条約」(以下「権利条約」) が採択され、2007年9月に日本政府も署名し、2008年5月には国際的に発効し、 わが国も批准に向けた準備をすすめてきた。  この法律の制定はわが国の障害者の権利保障を法的に根拠付け、障害者支援に関する国 内法を権利条約の水準に引き上げ、権利条約が批准され、国内法的効力を発効する場合に、 相互に矛盾のないように国内法を整備するための障害者制度の改革を目的とする。  従来のわが国の福祉法は恩恵的な色彩が色濃いが、権利条約は障害者のすべての人権と 基本的自由の完全な実現の確保を締結国が約束しており、国内法を人権主体性の明確にし た権利保障体系に変革する必要がある。  そして、障害の概念について、様々な障壁との相互作用により社会参加を妨げることを 確認する社会モデルを意識しており、批准に向けて、応益負担制度に象徴される障害者自 立支援法の自己責任原則の撤廃が必要となる。  また、権利条約第19条は自立した生活(生活の自律)及び地域社会へのインクルージ ョンを規定し、障害者が地域社会で生活する平等の権利を認めているが、依然として数十 万人の障害者が施設、精神科病院に入所している現状と制度は、権利条約の精神に背反す るものであり、地域での支援保障がないために例えば人工呼吸器装着を選択できず、生き ることそのものをあきらめざるを得ない現状があり、人の生命と生存が守られる社会とす るためこの新法制定による障害者の社会生活の支援を権利として総合的に保障するための 根本的な改革が必要である。 第2 障害者自立支援法の問題点と是正 1 自己責任論を障害福祉に持ち込むことの過ちの解消  国民一般に努力義務、自己責任があることは当然であり障害者も国民、市民として一般 論として努力義務・自己責任があることは当然であろう。  しかし、心身上の障害に起因する社会的障壁・社会的不利益が障害の本質であることが 正しく理解されるならば、障害者に障害を自己責任と感じさせる仕組みは障害福祉の本質 に抵触するものといわなければならない。  障害に基づく不利益の是正を支援するに際して本人に「利用料」名目で自己負担を求め る仕組みは障害を自己責任に帰するものであり、今回の新法制定とともに廃止しなければ ならない。 2 障害福祉の公的責任強化・増大の確認  措置制度から契約制度への移行自体を根本から否定することは現実的でない。  しかしながら、日本国憲法により本来最終的に公的責任のある国・自治体等の公的機関 が、民間事業者に障害福祉の実施を託したことに伴い、障害福祉の公的責任が後退し、様々 な弊害と限界があると指摘されている。  措置制度が変更されることにより、とりわけ障害者福祉に関して言えば、公的責任の後 退は断じて許されず、むしろ、福祉の公的無責任状態をもたらす危険性があるがゆえに、 法的な公的責任は強化・増大したと整理・確認されるべきである。  障害者が地域で自立した社会生活を営むためには、たんに「ご自由に事業者と契約して 下さい。」で公的責任が終わるのではない。  障害者がどの地域においても、個人の尊厳が保障された生き方が可能なように、国・自 治体には地域間格差を是正する公的義務があり、契約の前提としての障害者の意思決定、 意思形成を支援する仕組みを構築する義務があり、自治体には支援を活用出来る様に事業 者の育成・財政支援も含めて、基盤整備を尽くす義務がある。  さらには、障害児童の支援の分野では契約制度自体が相応しくなく、職権主義、措置制 度に戻るのではなく、支援が充足し、権利が保障される方向で新たな制度が構築されるべ きである。 第3 脆弱なわが国の障害者福祉水準 1 世界水準とかけ離れた劣悪な障害者福祉水準の引き上げの必要性  OECD(経済協力開発機構)の2007年社会支出統計(SOCX)によれば、加盟各国 のGDP(国内総生産)に対する障害者関係支出額の比率を対比すると、わが国の障害政 策公的支出費用比率は0.673%とされ、加盟30ヶ国の中で、最低のメキシコ、韓国 についで下から3番目であり、圧倒的に低い水準である(*1 参照)。  このことは、国民一般にあまり知られていない事実であるが、障害施策の財政支出の必 要性が理解されるため、障害関係者だけでなく、広く周知されるべき事柄である。  国外、国内とも不景気の続く時代とはいえ、2009年時点でアメリカ合衆国に次いで 世界2位の国内総生産を維持し、先進国として世界の人権規範のモデルとなるべきわが国 のあり方として、もっとも手篤く支援するべき障害者に対する施策が飛びぬけて劣悪な水 準は一刻も早く根本的に改善されるべきである。  *1 国立社会保障・人口問題研究所 刊「季刊 社会保障研究 2008年秋号 通巻181 号」138〜149頁「国際比較からみた日本の障害者政策の位置づけ ―国際比較研究と費用 統計比較からの考察―勝又幸子」 2 国民一般とかけ離れた所得水準と家族依存状態の解消の必要性  2004年4月の厚生労働省の資料によれば、全人口の労働年齢の就業率は67%であ るのに対して、労働年齢の在宅障害者300万人のうち一般就労者は102万人とされ、 34%程度である。50万人を超えると思われる施設入所者、精神科病院長期入院者等の 労働年齢のほぼ全員が一般就労していないことと思われるので、その割合は更に低いもの となる。  厚生労働省発表の2009年度工賃月額実績によると福祉工場、就労継続支援A型を含 む「福祉的就労」における平均工賃月額は16,894円(年額202,728円)であ り、小規模通所授産施設では8,208円(年額98,496円)である。  2005年度末で障害年金受給者総数は約175万人とされ、平成22年度の障害基礎 年金1級の月額は約82,508円(年額990,096円)、2級は約66,008円(年 額792,096円)とされる。年金受給の認められない障害者も多い。  厚生労働省統計情報部編平成20年「賃金構造基本統計調査」によると、国民平均賃金 は年間約486万円である。  これらにより、障害者の所得水準がそれ以外の国民一般に比較して掛け離れて劣悪であ ることが明らかである。それにも関わらず障害者が現実に生活を送っているのは、この国 が障害者の支援を家族に人的、経済的に依存しているからに他ならない。国が障害者支援 の本来の機能を果たし「他の者との平等」を実現、保障するためには、従来の障害福祉の 予算水準を抜本的に引き上げることが不可欠である。 第三章 改革の理念の確認 第1 障害者の基本的人権を実現するための権利保障法体系への変革   …人権の主役としての明確化…  推進会議第一次意見第2の「改革の基本的考え方の1」は、「権利の主体」である社会の 一員とされている。  措置制度から支援費制度に変わったとき、障害者の権利を保障する法体系に変わってい ない。  従来の「障害者は市町村の支給決定を受けなければならない」との権利者と義務者が逆 の規定ではなく、障害者の公的支援の請求権の保障を法文に明記しなければならず、権利 保障体系への変革として法文に国・自治体の障害者支援義務が明確に規定されることが必 須である。  障害者の権利の本質とは、障害に起因する社会的障壁により傷付けられている自由と個 人の尊厳を回復するためのものであり、障害福祉施策を活用する権利は天賦の基本的人権 である。  障害者福祉は基本的人権の実現のために行なわれるものである。  このことは国(厚生労働省)と障害者自立支援法違憲訴訟団との平成22年1月7日付 け基本合意第一条「障害者自立支援法廃止の確約と新法の制定」において、「そこ(障害者 自立支援法を廃止し新たな総合的な福祉法制を実施する)においては、障害福祉施策の充 実は、憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援するものであることを基本とする。」 とされている。  また、基本合意第二条「障害者自立支援法制定の総括と反省」第1項は「国(厚生労働 省)は、憲法第13条、第14条、第25条、ノーマライゼーションの理念等に基づき、違憲 訴訟を提訴した原告らの思いに共感し、これを真摯に受け止める。」とされている。  すなわち新たな法制度は、憲法第13条に基づき障害者の個人の尊厳の保障し、第14 条に基づき障害者に法の下の平等を保障し、第25条に基づき障害者の生存権を保障し、 ノーマライゼーション理念に合致した新法にしなくてはならないことを意味している。 基本的人権として当該支援に関する請求権が当事者に保障されなければ、何時でも消滅す る脆く、淡い立場のままであり、政治や行政の「政策裁量」に左右されない普遍的な権利 性の確立がなされなければならない。  今回の改革の意義は、人権保障としての障害者支援を確立するための改革である。  そのために、憲法第14条に基づく、障害者の平等の保障の明記が重要である。  そして、憲法第25条生存権の保障が法の基礎にあることを明記すべきである。  機会の平等を保障しただけで、裸の競争原理に放り出すことで障害福祉の責任は到底果 たせない。障害者支援における生命の保障、生存権の保障の原理、誰もが安心して生きて いかれる社会保障の原理もまた、重要な理念である。  また、憲法第13条障害者の個人の尊厳の保障、自己決定権、幸福追求権の保障の明記 が重要である。基本合意第二条第2項で国(厚生労働省)は「障害者の人間としての尊厳 を深く傷つけた」ことを心から反省し、この反省を踏まえて、今後の施策の立案・実施に あたるとされているところ、これは憲法に則していえば、新法制定において、憲法第13 条の個人の尊厳の保障を大切にするということである。  さらに、障害者の生活支援において、ただ生命が維持されれば足るということではなく、 全ての個人の尊厳が保障されることが重要であり、人間の尊厳が保障されることが必要で ある。  そして、公的支援を活用しながら自分の生きたいように生き、各自が自らの幸福を追求 する権利を有するという当事者の自己決定の原理、当事者主権と幸福追求権の保障(憲法 13条)が重要である。  夜間の見守り介助の必要性を訴える障害者に対して、「オムツをすればいい」と言う障害 者福祉行政が現実に横行している。それが憲法第13条違反の人権侵害であることが、一 般市民にも行政職員にも容易にわかる規定が必要である。 第2 地域で生きていくことが可能な法律にすること  …誰もが地域で当たり前に生きられるインクルーシブな社会の実現…  推進会議第一次意見第2の「改革の基本的考え方の4」は、「地域生活」を可能とするた めの支援とされている。  権利条約第19条は障害者が他の者と平等に地域社会で生活する権利を認め、障害者が どこで誰と生活するかを選択し、特定の生活様式を義務付けられないこと、地域社会から の孤立と隔離のないようにパーソナルアシスタンスを含む支援の確保を謳っている。  長年この国で課題とされてきた「入所施設から地域での生活へ」を題目に終わらせるこ と無く、地域で生きていくことが可能な、一人ひとりの支援の必要性に則した支援体系を 整備し、新制度にすることが重要である。  基本合意第三条(6)「どんなに重い障害を持っていても障害者が安心して暮らせる支給量 を保障し、個々の支援の必要性に即した決定がなされるように、支給決定の過程に障害者 が参画する協議の場を設置するなど、その意向が十分に反映される制度とすること。」  できる限り訴訟団のこの指摘を踏まえた制度にすることが必要である。  各地の重度障害者から、「現在の支給量では生きていかれない」との声が挙がっている。  また、大量の社会的入院状態が長年にわたって解消されないわが国の精神障害の分野で の、地域移行を実現するための総合的かつ具体的プログラムが必要である。 第3 制度の谷間にこぼれおちない支援  …障害の種別を超え、支援のネットからからこぼれ落ちている人を一人でも減らす…  従来の制度において「障害」は、身体、知的、精神の三障害に限定され、発達障害、高 次脳機能障害、難病等、障害者支援のネットからこぼれ落ちることの多かった障害者が適 切に支援を受けられることの出来る新法構築が改革の最重点課題の一つである。  これは「申請主義」の弊害を是正する取り組みも含まれる。  すなわち、自己決定の尊重という観点からすると形式的には「申請なければ支援なし」 となりかねない。  しかしながら、現実には様々な社会的障壁により、どのように相談したらよいかさえ判 らずに必要な支援が届かずに放置されている人々が多数存在している。  個人のプライバシーの尊重を大切にしながらも、障害者の潜在的なニーズを掘り起こす 支援も含めて、支援に辿りつけない人を一人でも減らす包摂社会を実現するべきである。  また、障害者が刑事手続きの被疑者、被告人、未決拘留者、受刑者等の立場になった場 合、制度や関係者の認識において、障害者にとって必要な当然の支援、合理的配慮が欠如 していたことに起因する不利益には大きなものがあり、新しい法の支援がこれらの者に普 く及ぼされることが確認されるべきである。 第4 他の者との平等の権利の保障、個別事情に最も相応しい(合理的配慮を尽くした) 支援の保障  …平等に扱われてこなかった現実を直視し、平等な権利、社会の実現と個別事情に即し た支援を…  障害者には、社会生活、コミュニケーション、政治参加、教育、労働、司法、表現の自 由、プライバシー、市民活動、文化等、あらゆる分野において、他の者との同等、平等の 権利が保障される。  この法はそのことを基礎としており、障害者に新たに特別の権利を付与するものではな く、従前保障されてこなかった当然の権利の保障が十分に尽くされるように、具体的に各 条項に規定されたものである。  そして、個々の障害者の暮らしにおいて当然に必要とされるその個別事情に最も相応し い合理的配慮が欠如してきたことによる社会生活上の不利益は依然として大きく、障害者 にとって、各自の個別の事情に最も相応しい、当然に必要とされる合理的配慮が欠如して きたことによる社会生活上の不利益は依然として大きく、それを埋める公的な支援が尽く されることをめざして本法は制定される。 第5 障害の社会モデルへの転換  …障害の自己責任、家族責任からの解放…  権利条約の考え方の基礎である障害の医学モデルから社会モデルへの転換を図るべきで ある。  それは、障害は個人に責任がなく、参加を拒んでいる社会の側に責任があるとする考え 方を基礎としており、わが国で根強い障害の個人責任、家族責任を否定し、障害に基づく 様々な不利益が一部の人に偏在している不平等を解消し、平等な社会を実現するために社 会が支えることをこの法律は目的とする。 第6 公的支援を活用しながらの労働  …働きたい誰にでも誇りある労働を…  障害者自立支援法は、就労支援の強化を謳いながら、就労支援のために利用料を徴収し、 通勤や職場内での支援を認めない(認めるのは極めて例外)矛盾があった。  障害者の尊厳ある労働を保障するための新法の構築が求められる。  これは、障害者の労働基本権保障法等の別途の個別法律にて十分に規定することが必要 である。 第7 医療と福祉の連携の重要性、医療的ケアの地域での保障  障害者各自の医療や福祉を選択し利用する権利に基づき、医療と福祉の責任範囲を区別 しつつ、互いに連携して支援することは重要である。  この法の実施にあたり、どんなに重い障害を持っていても自身の望む地域で自立した生 活ができるよう、本人の選択に基づき医療との連携を図り、十分な質を備えた必要な医療 的ケア(精神医療的ケアは除く)が支援されるよう務める。医療が責任を持つケアを安易 に福祉に押し付けてはならないことを前提に、本人の生存と生活の支援の観点から実情に 即した医療的支援が保障されるべきである。  但し、精神保健医療及び福祉の分野においては、医療的ケアの名のもとに本人の意思を 尊重しないことが問題視されている点に十分に留意しなければならず、原則として、精神 障害者についての医療は、医療法において規定されるべきものである。 第8 権利擁護機関の設置  この法における権利を十全に保障し、かつ侵害されないために、権利保障・擁護機関設 置の必要性を提言する。  この法律による障害者の権利を保障し、権利侵害されないために権利擁護者制度を置く べきと考える。権利擁護者は行政および事業所から独立して作られた権利擁護機関によっ て提供されるべきである。権利擁護機関の構成員の過半数を障害者とし、国は十分な財政 保障を行うべきである。権利擁護機関は障害者の要請に基づき公費で弁護士を個別障害者 に保障することが望まれる。  そして、これらの権利擁護機関は、本法に限らず、「障害者差別禁止法」「障害者虐待禁 止法」その他障害者の権利に関する関係法令に関する権利の擁護全般を司る機関とするこ とが望ましい。   第9 現行の民法等に基づく成年後見制度の抜本的改革の必要性の提言 1 現行成年後見制度の廃止を含めた抜本改革  民法等に基づく現行の成年後見制度は、本人の意思、意向を引き出して支援するという 本来のあり方よりも、本人の意思能力と財産管理を中心とする生活上の権利を否定、剥奪 し、本人の権能のほとんどが後見人に権限として移管される仕組みと批判されており、権 利条約第12条2項「締結国は、障害のある人が生活のあらゆる側面において他の者との 平等を基礎として法的能力を享有することを認める。」等の規定の趣旨に照らしても、本質 的に問題が大きく、一旦廃止することを含め、本人の意思と能力を最大限尊重し、それを 基礎として側面から支援する仕組みに抜本的に改革されるべきである。  2 報酬援助  現行の成年後見制度の抜本改革を前提として、自己決定、意思形成に関する支援員のた めの報酬援助金を請求する権利を保障するべきと考える。 「契約制度」等における障害者の自己決定を実効的に保障するため、上記の現行成年後見 人制度の抜本的改革を前提として、本人の自己決定、意思形成への支援に関する支援員の ための報酬援助金が本人に個別給付請求権として保障されるような法制度改革が必要であ る。 第10 共生社会実現のための幅広い世論の共感が必要  …共に生きる社会を実現するために広報、世論喚起を…  推進会議第一次意見第2の「改革の基本的考え方の5」は、「共生社会」の実現である。  障害は誰にでも何時にでも起こりうるものであるが、現実には社会的不利益・負担が一 部の人に偏在、固定していることが不公平・不平等なのである。  この不平等を解消することが大切であり、そのためにはこの障害者福祉制度改革が障害 のある人に限らない全てのひとにとってわがこととして共感することが重要である。  教育・広報等も含めて幅広い世論の共感が得られなければ改革の成功はなし遂げられな い。  その観点を実現することを目的とした具体的制度を新法に組み入れる必要がある。 第四章 論点と意見 第1 【法の名称】「障害者の社会生活の支援を権利として総合的に保障する法律」  基本合意第一条において、「そこにおいては、障害福祉施策の充実は、憲法等に基づく障 害者の基本的人権の行使を支援するものであることを基本とする。」と確認されている。  恩恵的歴史を辿ってきた日本においては法の名称に「福祉」も用いないほうが適切であ る。  「人権保障としての障害者支援」を確認することがなにより大切である。 「憲法に基づく基本的人権保障としての障害者支援法」を確立しなければ、すべては「行 政施策上の裁量権」に収斂され、当事者が支援の中身に立ち入ることはできない。 (1) 障害者権利条約の国内法化という法制定の意義に鑑みれば、権利という文言は不可欠。 (2) 障害者の権利保障の法規の確立こそが重要という認識を関係者が共有し、基本合意で 確認されたことを活かす。 (3) 本法のメインの守備範囲を明確にするため、「社会生活の支援」を入れる。 (4) 誰もが制度の谷間にこぼれ落ちない総合的な支援の必要性を法名に入れるべき。   これは、本法に基づく支援が、上記(3)の「社会生活」を中心としながら、わが国で顕 著な縦割り行政の仕組みで支援が分断されがちの支障を解消し、教育、労働、交通等の関 係隣接分野にも柔軟に適用、利用できることを強調する狙いがある。  以上から、この名称が適切と考える。 第2 【前文の必要性】  結論:前文はこの法に必須である。  議員立法にあっても内閣提出法には付けないなどという旧弊に縛られる必要は何らない。  全国1000万人を超えると思われる障害者と、その家族、支援者、一般国民、全ての 人にとって、今回の改革の経緯と理念が伝わり、新法の意義を関係者が共有し、個別規定 の解釈指針とするためにも、前文でこの法の精神を高らかに謳うことが改革を成功させる ためにも不可欠である。 第3 【そもそも、この総合福祉法は、誰の何のためにつくるのか?】  障害をもつ人々が普通の市民として生きるために必要不可欠な社会的支援を行うため。 ライフステージの全ての段階における個人の尊厳の保障を図るための制度。  これは現在障害を持つ人だけでない全ての市民のためのものである。  また、何らかの機能障害あるいは疾病を持ち、生命の維持および一般の市民と平等に人 としての尊厳を尊重され幸福追求権をもち、社会の一員として社会に参加するにあたって 支援を必要とする人のためである。  なおこれらの人についてはその居住地、性別、国籍、年齢、施設・病院に入院、入所し ているか否か、矯正施設刑事施設(受刑者には一定の制約はありうるが)入管施設にいれ られているか否かを問わず平等にこの法の対象として権利を持つ。  この法律は障害者権利条約の国内履行のための法律であり、障害者権利条約1条目的3 条一般原則、4条一般的義務に照らして、上記が求められる。 第4 【憲法、障害者基本法等と「総合福祉法」との関係をどう考えるか?】  基本合意で確認された「障害者の基本的人権の支援」ということ、憲法に基づく制度と いうことが明文で記載されることが必須である。  基本合意書第一条「新たな総合的な福祉法制においては、障害福祉施策の充実は、憲法 等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援するものであることを基本とする。」が新法の 基本である。  個人の尊厳(憲法13条)と生存権(憲法25条)が平等に保障される(憲法14条) ことが障害福祉の本質であり例えば  「この法律は、憲法第13条、第14条、第25条、障害者基本法、障害者権利条約の 精神に基づき、国・自治体・公権力が、障害を持つ市民一人ひとりが人として尊厳ある暮 らしを営むことのできる権利を十分に保障し、障害を持つ市民が当たり前の市民として社 会参加できるための実質的な機会平等を保障し、障害を持つことに対する社会的不利益、 不平等を解消する義務を尽くすべきことを明らかにする。」等の条項が必要。  基本法自体について、差別禁止法及び支援権利保障法の上位法規として、さらに権利性 を強める改正を実行することを前提に(基本法においてある程度の権利の抽象性は止むを 得ないが)、下位規範としての位置付けを「基づき」等として明確化するべき。 第5 【障害者権利条約の「保護の客体から権利の主体への転換」「医学モデルから社会モ デルへの転換」をふまえた理念規定についてどう考えるか?】 法の理念規定を作るべきである。  従来、障害者対策実施の反射的利益を享受する受け身の客体に過ぎなかった機能障害者 は、自力で更生する努力をして障害を克服し、更生のための障害者の努力を支援するのが 福祉の目的だとされてきた。  そうではなく、「障害の本質とは、機能障害を有する市民の様々な社会への参加を妨げて いる障壁にほかならないことをここに確認し、機能障害を持つ市民を排除しないようにす る義務が社会、公共にあることが今後の障害者福祉の基本理念として確認される」等と規 定されるべき。  障害者支援制度の存在意義は「障害を持つあなたは何も悪くない、何の責任もない、障 害による様々な社会的不利益、不平等を公的に支えるからこの社会で共に生きていきまし ょう。」そういうメッセージを与え、そのための具体的支援をすることである。 第6 【推進会議では「地域で生活する権利」の明記が不可欠との確認がされ、推進会議・ 第一次意見書では「すべての障害者が、自ら選択した地域において自立した生活を営む権 利を有することを確認するとともに、その実現のための支援制度の構築を目指す」と記さ れた。これを受けた規定をどうするか?】  新法の前文で「すべての障害者が、自ら選択した地域において自立した生活を営む権利」 が憲法13条、14条、21条、22条、25条等に基礎づけられた権利であることを明 らかとした上で、各種支援規定を設けるに際して、この権利が実質的に確保されるための より具体的な権利規定ないし請求権規定を置くべきである。  「すべての障害者が、自ら選択した地域において自立した生活を営む権利」は、障害者 権利条約19条でも定められている重要な権利であり、その具体的内容も多岐にわたる。 障害者権利条約19条では、(A)から(C)項が掲げられているが、これは例示列挙と解 すべきであり、新法ではこの権利の実質的確保のため、さらに十分に内容を検討した上で、 各種支援を定めるに際して、この権利の趣旨を十分に踏まえた権利規定ないし請求権規定 を置くべきである。  個別規定としては、 「1項 障がいのある人は、みずからの意思に基づきどこに住むかを決める権利、どのよ うに暮 らしていくかを決める権利、特定の様式での生活を強制されない権利が保障され る。  2項 国及び地方公共団体は、障がいのある人に対して前項の権利を保障する公的義務 がある。」などの条項を設ける。 第7 【障害者の自立の概念をどう捉えるか?その際、「家族への依存」の問題をどう考え るか?】  自立概念については、自律自己決定と同時に、支援を受けた上での自律自己決定ととら えられるべきであり、さらに自律自己決定の前提は選択肢の保障であり、自律の概念規定 以前に選択肢保障が法的になされるべきである。選択肢保障のないところに自己決定はな い。国・自治体が公的に保障するべき障害者福祉が家族に依存することは否定されるべき。  自立はたんに経済的自活や、一人で何もかもできることではないということが確認され るべきである。そうでないと「自立」のために一生訓練に費やすことを強いられたり、全 生活を医療の傘に下に置かれることになり、障害を持つ者が他の者と平等に扱われないこ とになる。  また病院・施設しか生きる場がない、あるいは限られた選択肢を押し付けられるという ことがないよう、選択肢の保障は自律自己決定の前提である。  なお否定されるべき「家族への依存」は、障害者の家族への依存のことでなく、国が果 たすべき支援を家族へ依存していることである。 第8 【「地域で生活する権利」を担保していくために、サービス選択権を前提とした受給 権が必要との意見があるが、これについてどう考えるか?】  当事者に支援選択権のあることを条文で明記すべき。  なお、「受給権」なる表現は、施策の客体としての受け身の存在を前提としており、今回 の改革の方針に照らして相応しくない。  そして、支援選択権を実効あらしめるために、地域の中に多様で選択できる社会資源や 支援システムが,地域格差なく用意されていく必要があり、国・地方公共団体には、それ らの整備義務のあることが明記されなければ、支援選択権は絵に描いた餅になる。  支援請求権の根拠は憲法第13条の自己決定権であり、当事者に選択権があることが根 本である。在宅支援を求める当事者に公権力が入所施設への入所を選択する権限は原理的 にない。  それにも関わらず、それを条文で明記しなければ、そのような不条理が抑止できない。  そして、支援申請権を明記し、その重要性の担保を制度化する必要がある。  支援申請権が権利として保障されていることを明記することは当然の前提として、行政 が申請をさせないという申請拒否行為が違法であることを明記し、処分庁個人及び違法行 為者個人に制裁を課すなど実効性確保の制度が必要である。 第9 【条約第19条の「特定の生活様式を義務づけられないこと」をふまえた規定を盛り 込むか、盛り込むとしたらどのように盛り込むか?】  特定の生活様式を障害当事者の意向等を無視して強制することが問題であり、特定の生 活様式が問題ではなく、それを強制することが問題であると考えられる。規定するとすれ ば「本人の意に反して特別な生活様式を強制してはならない」とすべきである。 第10 【障害者の福祉支援(サービス)提供にかかる国ならびに地方公共団体の役割を どう考えるか?】  社会全体の一般的な地域主権(地方分権)の方向性は否定されるべきでないものの、生 命と個人の尊厳保障に直結する障害者支援の分野において、国はナショナルミニマムとし ての社会福祉を公的に保障する責務があり、国の果たすべき役割は大きい。  地域に実施を任せた地域生活支援事業に象徴されるように障害者自立支援法が、様々な 地域格差、サービス低下を招いたと強く批判されており、その反省にたった改革が大切で ある。  少なくとも生きていく上で不可欠な福祉支援については、住んでいる地域によって差が つけられるようなことがあってはならない。常時介護を必要とする人に対する支援につい て、地域での生活が継続可能となる最低保障水準については、地方公共団体に委ねるので はなく、ナショナルミニマムとして、制度・財源の両面において国が責任を負うべきであ る。  障害者の福祉支援(サービス)提供は、障害者の生存に関わるものであり、A市におい ては生きられるが、B市においては生きられないなどということがあってはならない。  いくら地域で暮らすことの自由を言ったところで、そのための支援を実施する事業所が 地域に存在せず、支援員もいない状態では、暮らすことが出来ず、それは公権力の公的責 任履行義務違反であり、基本的人権が保障されていない憲法空白地域を意味するものであ り、基盤整備義務を国と自治体の法的義務としなくてはならない。  また、情報格差のもとで障害者の自己決定の保障を実質化していくための仕組み作りの 観点が重要である。国・自治体の制度、施策の教示・周知義務を徹底し、福祉にたどり着 けていない人、支援のネットからこぼれ落ちている人を一人でも減らす努力が必要である。 第11 【新法の守備範囲】  障害者が一市民として暮らし、社会参加するために受けている社会的制限を除去・是正 するための支援一般がこの法の対象である。  中でも、社会生活上の支援を中心の守備範囲とする。  従来の障害者福祉の分野を基本としながらも、教育・司法・労働等にも横断的に適用で きるような法制度とする。  分野ごとに分断されてきたわが国の縦割り行政の弊害で、一人の人間の支援も分断され て使いづらい仕組みであったことを解消するため、この法の支援は他の分野の垣根を超え て、制度の谷間のない(シームレスな)支援を実現するため、柔軟に利用できる制度  医療:自立支援医療に相当する分野は本法の対象。    排痰ケアーなど、医療と福祉の重なる分野において、本来的な範疇を医療法にて定 めることも前提としながら、障害児者支援のために必要な規定は本法に設ける。  労働:障害者雇用促進法の廃止を含む抜本的見直しとともに障害者就労支援保障法とし て別個の法律を制定。日中活動の場の保障は本法で。  コミュニケーション:聴覚障害者団体の意見にあるように独立法とすることも一考に価 するが、障害種別を超えたコミュニケーション支援が必要であり、今回は本法の対象と考 える。  障害児:児童福祉法を基本とするが、障害のある児童の障害特性にあった支援保障がな されるための基本的な権利を本法でも規定しておく必要がある。現在の行動援護、重度訪 問介護、居宅介護等は障害児の権利も保障するべき。  高齢者:介護保険法が基本であるが、障害のある高齢者等が介護保険優先利用を義務付 けられることが無く施策利用の選択権を保障するべき。  住宅政策・移動支援・交通バリアフリー:国交省の施策との有機的連携が必要。  社会福祉法:今回の改革の理念に照らして必要な条項の修正。  教育:通学支援、学校内介護等は本法で規定。財源は文部科学省の予算。  精神保健福祉法:将来的には廃止の方向。 第12 【身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、精神保健福祉法、児童福祉法、その他 の既存の法律のあり方、並びに総合福祉法との関係についてどう考えるか?】  当面は、関連法の必要な改正。  障害の種別ごとの制度の谷間をなくすことが今回の法制定の目的である以上、身体・知 的・精神の障害別3法は廃止の方向性を確認しつつ、5年から10年等の中長期的課題と して実務的課題として進める。  精神分野については精神保健福祉法廃止とともに精神医療の充実のためにも精神に特化 しない医療基本法および患者の権利法制に統合するべきである。  新法の理念に則して、社会福祉法の改正も必要。  また発達障害者支援法も今後発展的に新法に包括・統合されるべきである。    新法制定と同時に「社会福祉法」の改正が必要不可欠である。  「障害者自立支援法」に関する規定が新法に基づくものに改正されることは当然の前提。  それ以外の部分について。  改正前 「第3条  (福祉サービスの基本的理念)福祉サービスは、個人の尊厳の保持を旨とし、 その内容は、福祉サービスの利用者が心身ともに健やかに育成され、又はその有する能力 に応じ自立した日常生活を営むことができるように支援するものとして、良質かつ適切な ものでなければならない。 」    ↓   改正後 「第3条  (福祉支援の基本的理念) 1 福祉支援は、個人の尊厳の尊重を旨とし、その内容は、福祉支援の利用者の幸福追求 の権利が尊ばれ、各自が自立した社会生活及び日常生活を営むことができるように支援す るものとして、良質かつ適切なものでなければならない。 2  福祉支援は憲法第25条、第13条、第14条等の個人の基本的人権を保障すること を基本とし、支援の最終責任は国・地方公共団体にあることを確認する。」    他の条項も サービス→支援      事業体系等に関しては、他の作業チームの意見参照。 第13 【地域生活移行促進のための時限立法の必要性】  わが国では障害者の地域生活移行が一向に進まない現実があり、地域生活移行を実現す るための総合的プロジェクトとして「地域支援充実と地域移行促進法(仮称)」といった時 限立法制定と施行が必要である。  この点は、地域資源チームが主に検討。  また、このプロジェクトが国民的課題として周知され、官民一体となったムーブメント となるよう、政府広報を行うことはもとより、定期的に番組を放映する、民放を含めテレ ビで積極的に取り上げてもらうよう活動するなど積極・果敢な活動が必要である。 以上 本作業チーム報告に対して部会委員から寄せられた主な意見 ■「障害者の社会生活の支援を権利として総合的に保障する法律」(案)についての主要 な意見 *本文中に書かれている「本法」の表記は「この法律」にする、障害をもつ人の表記は障 害のある人などと統一すべき。 *法の名称に関わって、広汎な領域について提起しているが、総合福祉法としての整備を 軸として他法の関連領域についての整備をする法とすべきが適切なこの法の位置付け と思われる。従って、その内容にふさわしい名称とすべきである。 *自立の定義は、非常に重要であるにも拘らずあいまいな表現になっている。具体的な表 現をすべきである。例えば、かわさき基準推進協議会のものを参考にしてはどうか(* かわさき基準推進協議会:「自立」とはすべてを自分でできることを意味するのではな く、「自らが望む」、「主体的に選択、自己決定できる」ことであり、家族や地域が協力 することも含めて実行、実現できることを意味します)。 *請求権との表記があるが、解釈によっては自治体の裁量権とも捉えられかねず、むしろ 受給権と記した方がいいのでは。但し、受給権が受け身的なニュアンスがあるとすれば、 別の表現を模索するのも。 *都道府県・市町村の義務については、表現方法の検討を、また地方自治体が担う公的責 任の範囲については、国と地方自治体との役割も含めて、今後十分な議論・検討が必要 である。 *国・都道府県・市町村の義務に、24時間の支援が必要な障害者も含めること、その際 財政調整や支援を保障する具体的な義務について明記すべき。 *障害児の支援を求める権利の3項目目は、推進会議の第二次意見6)「障害のある子ど も」の「障害のある子ども及び家族への支援」の趣旨を踏襲すべき。 ■「新法の理念・目的」分野に関する意見についての主要な意見 ●第3章、第7医療と福祉の連携の重要性、医療的ケアの地域での保障について *・・・医療的ケア(精神医療的ケアは除く)・・・、とあるが括弧内の削除。また、但し・・・・ 精神障害者についての医療は、医療法において規定されるべきものである。とあるが、精 神障害者の医療を医療法に限定するような表現は修正して欲しい。医療・合同作業チーム でも統一した意見集約に至っていない。 *連携するにあたっては本人の意向を尊重することが重要である。また、医療的ケアの必 要な全身性障害者で、本人が望まない場合は、ヘルパー等の福祉施策のみで対応すべき。 ●第4章、第12 身体障害者福祉法、知的障害者福祉法・・・ *3法は廃止の方向性を確認しつつ、・・・精神分野については・・・・精神に特化しない医療 基本法および患者の権利法制に統合するべきである。とあるが容認できない。理由は、精 神障害者の医療の問題は、入院前後を含めての包括的な対応が必要であり具体的には、保 健(行政、保健所)医療、福祉が関与しなければならない。その際、非自発的な入院や治 療が提供される場合には人権的視点からの「適切な手続」きが必要不可欠である。医療法 で規定することは困難であると考える。 --------- 「障害の範囲と選択と決定〜障害の範囲」部会作業チーム報告書の概要                      1 法の対象規定について ア 論点 「社会モデル」の視点をふまえた、制度の谷間を生まない障害者の定義は? イ 結論  「障害者とは、身体的または精神的な機能障害(慢性疾患に伴う機能障害を含む)を有 する者と、これらの者に対する環境に起因する障壁との間の相互作用により、日常生活又 は社会生活に制限を受ける者をいう。」 ウ 説明  「身体的または精神的な機能障害」  「慢性疾患に伴う機能障害を含む」  「これらの者に対する環境に起因する障壁との間の相互作用により」  「日常生活または社会生活に制限」 エ 要検討事項  例示列挙の要請について(法律では包括的規定とし、申請用紙に障害名を列挙して理解 促進を図るなど)  「長期的な・・機能障害」とすべきかについて  「環境」、「障壁」、「相互作用」の内容について  「継続的に・・制限」、「相当な制限」とすることについて 2 手続き規定について ア 論点  障害手帳を持たない障害者を排除しない手続き規定は? イ 結論  支援を必要とする者が(支援の必要性)、その必要に応じた相当な支援(支援の相当性) を受けられるような制度が求められる A 支援の必要性をしめす指標  A1 「機能障害」を示す客観的指標(支援の必要性を示す客観的側面。障害者手帳、医 師の診断書・意見書、その他の専門職の意見など)  A2 本人の支援申請行為(支援の必要性を示す主観的側面)  A3 環境による障壁との相互作用により、日常生活または社会生活に制限を受けている 事実の認定 B 支援の相当性の確保  支援の必要性に応じた相当な支援計画の策定のための方法 --------- 「障害の範囲と選択と決定〜障害の範囲」部会作業チーム報告書 1 本作業チームにおける検討範囲    (分野B 障害の範囲)に列挙された各論点 2 作業チームにおける各論点についての議論 (1)項目B-1 法の対象規定について   ア 論点  論点B-1-1) 推進会議では、障害の定義について、「社会モデルに立っ た、制度の谷間を生まない定義とする」ことが確認されている。これをふ まえた、「総合福祉法」における障害の定義や支援の対象者に関する規定 をどう考えるか?  論点B-1-2) 「自立支援法」制定時の附則で示されていた「発達障害、 高 次脳機能障害、難病(慢性疾患)」等も含みこんだ規定をどうするか?制限 列挙で加えるのか、包括的規定にするのか?   イ 結論  前記アの各論点についての作業チームにおける議論の結果は、別紙1 「障害」の範囲チーム〜「障害」の定義規定に関する検討整理案記載のと おりである。 (2)項目B-2 手続き規定について   ア 論点  論点B-2-1) 障害手帳を持たない高次脳機能障害、発達障害、難病、軽 度知的、難聴などを有する者を排除しない手続き規定をどう考えるか?   イ 結論  前記アの各論点についての作業チームにおける議論の結果は、別紙2 「障害」の範囲チーム〜手続規定に関する検討整理案記載のとおりである。                                以上 別紙1 「障害」の範囲チーム〜「障害」の定義規定に関する検討整理案 第1 作業チーム案について (作業チーム案)  「障害者とは、身体的または精神的な機能障害(慢性疾患に伴う機能障害を含む) を有する者と、これらの者に対する環境に起因する障壁との間の相互作用により、 日常生活又は社会生活に制限を受ける者をいう。」 1 「身体的または精神的な機能障害」 (1)作業チームでは、当初、障害者権利条約1条後段における「身体的、精神的、 知的又は感覚的な機能障害」という文言や、発達障害者支援法2条1項の「脳 機能の障害」という文言を参考とした上、「その他これに類する機能障害」と いう文言を付して、障害の種類を例示列挙しつつ、包括的な規定とすることを 検討した。 (2)しかし、特定の障害名に着目し例示列挙とする場合、どの特定障害名を例示 列挙の対象として条文に明記し、どの特定障害名を「その他これに類する機能 障害」の概念に包摂するものとするのかについて合意を得ることが難しい。ま た、例示列挙の対象となる障害名が多数にのぼり、条文が長くなることや、今 後新たな障害が発見・認知された場合、これを例示列挙の対象とする要請が強 まることが予想され、その都度、法改正作業が必要となる可能性があることな ど、多くの問題点が指摘できる。 (3)そこで、特定の障害名に着目することを行わず、人の活動実態が身体活動と 精神作用であることに着目して、「機能障害」の範囲を定めることが適切であ るとの結論を得た。すなわち、「機能障害」とは、人の身体活動機能または精 神作用機能の双方または一方が、その全部または一部において喪失し、または 減弱した状態と捉えることとし、これを表す文言として、「身体的または精神 的な機能障害」という文言を採用することとしたものである。このように捉え ることにより、全ての「機能障害」を谷間なく拾い上げるとともに、今後新た に発見・認知される障害をも含み得る規定になると考えられる。 (4)なお、この「機能障害」が「長期的」なものであることを要するかについて は、議論があるので、後述する。 2 「慢性疾患に伴う機能障害を含む」 (1)これは、難病が「機能障害」に含まれることを注意的に規定するため、挿入 することとした文言である。 (2)難病に罹患した者は、日常生活を営む上で、医療的サービスとともに、福祉 的サービスを受けることが必要となる。しかし、現実には、「疾患」は病であ って医療的サービスの対象、「障害」は福祉的サービスの対象とする二者択一 の立場が根強い。このような現状に照らせば、「機能障害」の解釈として、「疾 患」によるものを除くとする解釈が採られかねない危険がある。 (3)そこで、本条における「機能障害」概念は、「疾患」に伴うものを排除しな い趣旨であることを明らかとするため、「慢性疾患に伴う機能障害を含む」と いう文言を注意的に規定することとしたものである。このような文言は、医療 サービスを受けながら、福祉サービスを必要とする障害者が多数存在すると考 えられることや、従来、制度の谷間に置かれていた発達障害、高次脳機能障害、 難病の他、精神障害など、症状が固定せず、可変的な障害者が、医療サービス を受けつつも、本法の支援の対象者であることを確認するために挿入すること としたものである。 3 「これらの者に対する環境に起因する障壁との間の相互作用により」 (1)この文言は、障害者権利条約の前文(E)項を参考としたものである。 (2)「障害」をどのようなものとして捉えるかについては、作業チームにおいて、 障害者が他の者と平等な立場で社会に参加することが阻害されていることと して捉えること、すなわち「参加障害」として捉えることで意見の一致をみた が、人間が生物としての存在である以上、「機能障害」の側面を無視する規定 となっては、「障害」の概念自体が漠然としすぎるきらいがあるとの指摘がな されていた。 (3)そこで、作業チームとしては、「障害」を、「機能障害」を起点としつつ、 最終的には「参加障害」として捉えることで意見の一致をみた。そこで、作業 チームとしては、「機能障害」と「環境に起因する障壁との相互作用」が「参 加障害」の原因であることを定めることを一案とすることとした。 (4)なお、「環境」の内容、及び「相互作用」を規定するか否かについて、議論 があるので、後述する。 4 「日常生活または社会生活に制限」 (1)この文言は、障害者基本法2条、発達障害者支援法2条2項でも用いられて いる表現であり、「障害」を「参加障害」として捉える場合、具体的にどのよ うな点で参加が阻害されているのかについて、その阻害内容を包括的に定めよ うとするものである。 (2)この文言の解釈にあたっては、「生活」、「制限」の内容を狭く解されない よう注意する必要がある。この「生活」という文言は、「生活上の主要な活動」 という意味に狭く解されるべきではなく、また、「制限」という文言は「多大 な支障」という意味に狭く解されるべきではない。前述したとおり、「障害」 を障害者が社会に参加することを阻害される状態(参加障害)として捉える以 上、「生活」とは主要な活動であるか否かを問わず、また「制限」とは多大な 支障であるか否かを問わず、広く障害者の社会への参加が阻害される状態を含 むものとして解される必要がある。 (3)また、この文言については、「継続的に日常生活または社会生活に制限」と することや、「日常生活または社会生活に相当な制限」とすることなどの案が ある。このように「継続的に」や「相当な」という文言の双方または一方を付 するか否かについては、議論があり、後述する。 第2 要検討事項 論点1 例示列挙の要請について (1)本作業チームにおいては、「身体的または精神的な機能障害」とすることで 一致をみたが、特定の障害名に着目して、例示列挙を行うべきであるとの要請 も強い。特に、発達障害については、既に発達障害者支援法が制定され、その 対象者も相当数に達するとの調査結果があることから、身体、精神、知的に並 ぶものとして発達障害を法文上明記すべきとの意見が、本作業チームでも出さ れている。 (2)これまで制度の谷間にあった障害については、法文に明記すべきとの要請が 強いことは十分に理解されるべきである。高次脳機能障害、難病の他、社会の 理解が得られにくいてんかんなど、社会の認知をはかるべき障害は多数に上る。 「障害」の定義規定については、障害者基本法の定義規定がどのように定め られるのかという点との関係もあり、例示列挙の手法も含め、引き続き検討 される必要がある。 論点2 「長期的な・・機能障害」とすべきかについて (1)「長期的な」との文言を機能障害に付するべきとの意見は、一時的な機能障 害は本法における支援の対象とはならないのではないかとの考え方に基づく ものである。 (2)一時的な機能障害については、二つの見方が可能である。その一つは、一時 的なものであれば、将来回復・治癒することが前提であるから、本法の支援対 象から外しても問題はないとする見方であり、他の一つは、一時的なものであ っても支援の必要性が存在する限り、本法の支援の対象とすべきであるとの見 方である。前者は、支援の対象者が過度に広がりすぎることへの懸念から、定 義規定自体に絞りをかけようとするものであり、後者は、定義規定には絞りを かけず、支援を申請する際の手続きにおいて、支援の必要性や支援の相当性を 判断する中で、絞りがかけられれば十分であるとの考え方に基づくものである。 (3)いずれの見解を採用するかについては、手続き規定をどのように定めるのか、 相談支援業務の内容などとの関連の中で判断していく必要がある。引き続き検 討が必要な事項である。 論点3 「環境」、「障壁」、「相互作用」の内容について (1)「環境」について ア 「環境」の内容としては、一般的に、物理的環境、制度的環境、情報環境、 心理・態度に伴う環境が含まれるとされる。 イ しかし、「態度」による「障壁」は、差別禁止法により解消されるべき問 題であるとも考えられることから、本法に定める「環境」の内容としては考 慮しなくてもよいのではないかとの見解も成り立つ。今後、「環境」という 文言を用いる場合には、その内容を検討する必要がある。 (2)「障壁」について   この文言についても、内容が不明確となる可能性がある。どのようなものを「障 壁」とするのかについては、その内容をある程度検討し、例示できるようにして いく必要があると考えられる。 (3)「相互作用」について ア この文言についても、内容が不明確となる可能性がある。作業 チームに おける議論では、内容が不明確であるがゆえに、この「相互作用」を用いな い定義規定も検討する必要があるとされていたが、十分な検討を行うことが できなかった。 イ 今後、「相互作用」という文言を用いる場合には、その内容をある程度検 討し、例示できるようにしていく必要があると考えられる。 論点4 「継続的に・・制限」、「相当な制限」とすることについての議論につい て (1)「日常生活または社会生活に制限」という文言に「継続的に」または「相当 な」という文言を付するか否かについての議論も、論点2で述べたように、「障 害」の定義規定自体に絞りをかけるのか、定義規定自体には絞りをかけず、手 続き規定における支援の必要性や支援の相当性を判断する中で絞りがかけら れればよいとするのかに関わる議論である。従って、手続き規定の定め方、相 談支援業務の内容とも関連する問題として、引き続き検討する必要がある。 (2)ただ、いずれの立場を採用するとしても、これを判断する者の問題は残ると 考えられる。どのような者に判断を委ねるのか、判断者は一人か複数か、判断 が区々にならないような方策をどのように立てるのかなどが、引き続き検討さ れる必要がある。                           以上 本作業チーム報告に対して部会委員から寄せられた主な意見 ・「慢性」と認定される期間の検討が必要である。新法における「障害者」と認定 されるためには、一定の期間継続の要件を付すことによる線引きが必要である。 ・「難病」の内容について、具体化する必要がある。 別紙2 「障害」の範囲チーム〜手続規定に関する検討整理案 第1 手続規定における論点について   手続規定の議論においては、定義規定で定められた障害者が、その者が必要と する支援を受けることができるようにする手続きを定めることになる。すなわち、 支援を必要とする者が(支援の必要性)、その必要に応じた相当な支援(支援の 相当性)を受けられるような制度が議論されなければならない。したがって、こ こで議論すべき点は、以下のように整理することができる。 A 支援の必要性をしめす指標  A1 「機能障害」を示す具体的資料  A2 本人の支援申請行為 A3 環境による障壁との相互作用により、日常生活または社会生活に 制限を 受けている事実の認定 B 支援の相当性の確保  支援の必要性に応じた相当な支援計画の策定のための方法 第2 A1 「機能障害」を示す具体的資料 1 基本方針   機能障害の存在を示すための資料としては、従来、障害者手帳が用いられてき た。しかし、新法における支援は、手帳の有無に関わらず、支援を必要とする障 害者が、自らの必要とする支援を受けられるようにしなければならない。本作業 チームにおいても、このような基本方針の下に、議論を行った。 2 作業チームにおける議論 (1)機能障害を示す具体的資料としては、まず、医師の診断書の利用が考えられ る。医師の診断書は、機能障害の存在を示す資料として、公正性が担保される 点で優れているが、他方で、発達障害、高次脳機能障害、難病など、医師の診 断書が得にくい場合も考えられる。 (2)そこで、公正性を確保しつつ、医師の診断書が得られにくい場合に対処する 方策としては、以下の2つの方策を検討すべきであるとの意見が出された。 [1]医師の診断書に限定せず、意見書でもよいものとする。 [2]「機能障害」の存在を判断する者を医師のみとせず、その他障害特性に関し て専門的な知識を有する専門職の意見でもよいとする。 (3)特に、前期[2]に関しては、具体的な専門職として、理学療法士、作業療法士、 言語聴覚士、臨床心理士、発達心理士、精神保健福祉士、看護師などが挙げら れている。 (4)また機能障害の認定に際しては、各障害当事者団体が有する認定基準を用い ることも一方法として考え得る。各障害当事者団体の有する認定基準を用いる 場合には、公正性を確保し、国民の理解を得られるよう、公表することが検討 されなければならない。 (5)なお、この「機能障害」には、「長期的な」という文言が付される余地も残 されている。この「長期的な」という文言が付された場合、その期間をどの程 度とするのかについて、議論がなされる必要がある。また、障害の性質によっ ては、症状を発祥した後、速やかな支援の実施が必要な場合も考えられ、この ような緊急性の要請がある場合と、「機能障害」の認定のために一定期間の経 過を必要とする「長期的な」という文言を付すこととの調整が検討課題となる と考えられる。 第3 A2 本人の支援申請行為 1 基本方針   「保護の客体から権利の主体へ」という基本的立場を前提とする以上、新法に おける支援の提供は、まず、障害者本人の意思に基づく申出が必要となる。本作 業チームにおける議論も、この点を出発点としている。 2 作業チームにおける議論 (1)障害者の場合、障害者本人が十分に支援の必要性を理解し、申請を行うこと ができない場合も考えられる。このような場合には、家族など、障害者本人の 生活を支える関係者の意見を、障害者本人の意思を推認するものとして考える 必要がある。従って、新法においては、障害者本人の家族による支援の申請も 許容することが望ましい。 (2)ただ、家族が抱える事情も様々であって、家族であっても障害の理解が不十 分な場合や、障害者本人の立場を尊重していない場合なども考えられる。家族 からの申請を許容する場合には、どのような支援が必要であるのかについて、 相談支援機能の充実をはかり、障害者本人や、その家族をサポートしていく体 制を整える必要がある。相談支援事業の一内容として、第三者アセスメントの 制度が検討されてもよいと考えられる。 (3)また、障害者本人のみならず、その家族においても、障害の理解が十分では なく、必要な支援の申請にさえ結びつかない場合も考えられる。このような場 合に備えて、相談窓口と、障害者本人、またはその家族とを結ぶためにも、地 域ネットワークの構築をはかる必要がある。 (4)申請行為に用いる申請用紙には、予め特定障害名を列記しておき、これを定 型として全国一律に用いる方法が考えられる。「障害者」の定義規定において、 「身体的または精神的な機能障害」という包括規定により定める場合、あらゆ る障害を包摂して谷間を生まない利点がある反面、具体的にどのような障害が 含まれているのかが条文上は不明確となってしまう。そこで、この包括規定の 具体的内容を申請用紙に列記することにより、利用者に対して包括規定の内容 を明らかにすることが望ましいとの意見が出されている。しかし、この意見に 対しては、申請用紙上の列記だけでは法的拘束力に欠けるとの問題点を指摘す る意見も出されている。 (5)申請行為における支援の申込み方法には、以下のような複数の方法が併用さ れてよいと考えられる。 [1]申請者が特定の支援を申し込む方式 [2]申請者が相談窓口において必要な支援の提案を受ける方式 [3]申請者が特定の支援を申込んだ場合であっても、相談窓口でその他に必要と 考えられる支援の提案を受けることができる方式 第4 A3 環境による障壁との相互作用により、日常生活または社会生 活に制 限を受けている事実の認定 1 基本方針   この要件は、「障害」を社会モデルを基調として捉える立場から、障害者権利 条約の前文(E)項をを参考として、新法における「障害者」の定義規定に取り 込んだものである。しかし、「環境」、「障壁」、「相互作用」という必ずしも その内容が明確ではない文言が含まれるため、新法における支援を求める手続き の中で、どのような事実をもってこれらの要件を認定していくのかが検討される 必要がある。 2 作業チームにおける議論 (1)この要件については、以下のような疑問点が出された。 [1]遷延性意識障害など、障害によっては「環境」とは無関係に支援が必要な場 合が考えられるのではないか。 [2]障害者本人が支援を申請する際に、「障壁」、「相互作用」の各要件を認定 するために必要な事実を挙げなければならないとするのでは厳格にすぎる のではないか。 (2)これに対して、障害者本人から支援の申請がなされれば、申請行為の存在と いう事実をもって、申請した障害者本人が「環境による障壁との相互作用によ り、日常生活または社会生活に制限」を受けていることを推認することができ ると考えれば問題はないとの意見が出さ れている。そして、障害者本人が、 具体的にどのような「環境による障壁との相互作用によ」って、どのような「日 常生活または社会生活に制限」を受けているのかは、相談支援員が個別のケー スに応じた支援計画を策定していく上で確認することが必要となる事実であ るか ら、障害者本人が申請時にこれらの要件に該当する事実を挙げる必要は ないとする。 (3)また、「環境に起因する障壁」の原因が人的要素にある場合には、差別禁止 法上の「合理的配慮」によって解消すべき問題ではないかとの指摘も出されて いる。「障壁」の原因には種々のものが考えられることから、相談支援員は十 分に障壁の原因を特定した上で、これを除去するために適切な方策として、総 合福祉法における「支援」と、差別禁止法における「合理的配慮」のいずれが 適切な方策であるのかを選択していく必要が生じる可能性がある。 (4)なお、「日常生活または社会生活に制限」の要件については、「継続的な」、 「相当な」という文言が付される余地が残されている。このような文言が付さ れた場合には、「制限」を受けている期間の長短が「継続」性の認定にあたり 必要となり、「制限」を受けている程度が「相当」性の認定にあたり必要とな る。この点についても、公正性を担保するため、一定の基準が議論される必要 が生じる可能性がある。 第5 B 支援の相当性の確保 1 基本方針   新法における支援は、障害者本人にとって必要とされる支援が、その必要性に 応じて提供されなければならない。そして、障害者本人に提供される支援は、支 援計画の策定の段階から、提供された支援が適切なものであったかどうかに関す る事後的なチェックに至るまで、障害者本人の意思が反映されたものにする必要 がある。 2 作業チームにおける議論 (1)支援計画の策定の段階においては、障害者本人のニーズを十分に把握する必 要がある。そのための方法としては、現在、例えば、生活困難度の尺度の研究 が進められているところであるが、このような基準作りの検討も、障害者本人 のニーズの把握のために重要である。 (2)支援計画の具体的内容については、予め定められた支援メニューを割り振る ような定型的な方法ではなく、障害者本人のニーズに応じて柔軟に決する方法、 すなわち創設的に支援計画の内容を決する方法がとられることが望ましい。こ の支援計画の策定にあたっては、ケース会議などの手法により、数人のチーム により対応することも検討されるべきである。  なお、障害者本人の症状や、置かれた状況によっては、即時に支援が必要と なる場合も考えられる。このような場合には、支援計画の策定がなされる前で あっても、仮の支援計画を策定し、必要不可欠な支援を即時に実施することが できる途を開いておくことが望ましい。 (3)また、決定された支援計画に沿って、試行的に支援を実施する期間を設ける ことも検討されてよい。このような試行的な支援の実施に対して、障害者本人 の意思を聞き取り、この意思に基づいて支援計画を修正していくことが重要で ある。 (4)支援計画が策定された後においても、障害者本人から継続的にヒアリングを 実施し、当初策定した支援計画に対する事後的な検証を行うことが必要である。 障害者本人の症状や、障害者本人を取り巻く環境は、時の経過とともに変化し ていく可能性があり、当初策定した支援計画が、現時点における障害者本人の ニーズに合致していない場合も考えられる。そこで、これを是正する機会を確 保するため、障害者本人からは継続的なヒアリングを実施し、当初策定した支 援計画と、本人のニーズとの間にずれが生じている場合には、支援計画に修正 を加えていく必要がある。 (5)以上のような、支援計画の策定から事後的な検証に至る過程において、各障 害当事者団体との連携は重要である。各障害当事者団体は、長年にわたり、社 会の理解をはかるため、さらには、制度の創設・改善を求めて努力を重ねてき ている。このような各障害当事者団体の障害特性に関する知識と経験、あるい は障害者本人の心情、家族の心情などに関する知識を、支援計画の策定から事 後的な検証に至る過程において活用していくことが、より障害者本人のニーズ に応じた支援計画のあり方につながると考えられる。 (6)また、支援計画に関する地域間格差が生じないように留意する必要がある。 特に、社会における認知・理解が不十分な障害については、市町村レベルに至 るまで、十分な理解がはかられるよう、官民一体となった努力が必要である。 重症心身障害児など、対象者が希少な障害については、窓口の設置場所に工夫 を加えることも必要ではないかという意見も出されている。 第6 手帳制度について   本作業チームでは十分に議論することができなかったが、現行の手帳制度につ いては、よりよいものとするために、その問題点や具体的改善策などを議論する 場を別途設けた上で、議論を尽くす必要があるとの意見が出されている。   今後の要検討事項として、委員会を立ち上げるなどの具体策を求めたい。                        以上 本作業チーム報告に対して部会委員から寄せられた主な意見 ・「機能障害」にも原因が不明な場合があり、この場合には、医師も専門職もまっ たく協力できない。こうした場合に機能障害を示す客観的資料をどう確保するの か疑問がある。 ・現行各種手帳制度は医師の診断書に基づいて交付されており、手帳がなく、診断 書を得にくい谷間にある方々には、医師の意見書などが有効であるから、医師の 診断書の表記は不要と考える。 ・相談窓口で対応する職員の裁量権について検討されたのかが疑問である。 --------- 「障害の範囲と選択と決定〜選択と決定・相談支援プロセス(程度区分)第1期」 部会作業チーム報告書の概要 1. はじめに−現状の相談支援の課題について 【市町村格差】【谷間の障害への未対応】【横断的・包括的対応の不備】【障害特性に応じた 専門相談体制の不備】【他職種・機関との連携調整体制の不備】【人材の不足】等 2. 多層的相談支援体制について  これまでの相談支援の在り方の課題を受けて、身近な地域での障害種別や課題別によら ないワンストップの相談支援の充実と、一定地域における総合的な相談支援体制の拡充、 広域の従来からある専門相談支援機関とのネットワークやサポート体制の整備をめざす 「重層的相談支援体制」を提案した。さらに当事者の交流や相互支援をおこなう地域エン パワメント事業を提案した。 ・地域相談支援センター(人口3〜5万人に1ヶ所。アウトリーチを含む本人に寄り添う 継続的相談支援。相談支援専門員(仮称)3名以上配置) ・総合相談支援センター(人口15〜30万人に1ヶ所。困難事例中心。地域相談支援センタ ーの支援や研修。相談支援専門員(仮称)5名以上配置) ・広域専門相談支援センター(障害種別に設置された専門相談機関。 ・地域エンパワメント事業(当事者や家族が運営するピアサポート事業) 相談支援事業所の専門相談支援員は、希望する人を対象に、本人中心支援計画・サービス 利用計画の策定できる。尚、相談支援事業所は当事者の立場にたって支援することから、 市町村行政やサービス事業所からの独立性が担保されるべきである。また国庫補助事業と して、財源は出来高払いではなく、人件費相当の義務的経費によるべきと考える。 3. 支給決定プロセスについて  支給決定にあたっては、本人(または本人及び相談支援事業所)と行政の協議調整を前 提とする。(1)本人(または本人と相談支援事業所)がサービス利用計画を策定し、市町 村に申請する。(2)市町村は、ガイドラインに基づいてニーズアセスメントを行う。(ガ イドラインのあり方については第二期で詳細に検討)(3)さらに個別ニーズに応じて、協 議調整により支給決定を行う。(尚、支給決定に関してのニーズアセスメントのあり方や合 議機関のあり方については、第二期で検討) 4. 第二期での検討課題、他の作業チームへの申し送り・調整事項について 支給決定プロセスについてのさらなる検討(ニーズアセスメントの方法や協議調整のあり 方、苦情申し立て機関、モニタリングや資源開発のあり方)、相談支援専門員の役割や研修 のあり方など。障害者自立支援法改正法(つなぎ法)」における相談支援に関する事項。 --------- 「障害の範囲と選択と決定〜選択と決定・相談支援プロセス(程度区分)第1期」 部会作業チーム報告書 I.はじめに  作業チーム検討範囲  当作業チームでは、第一期の検討範囲として、自己決定支援・相談支援(論 点C−1)について、現状の問題点や課題を明らかにし、新法においてのある べき姿について検討を行った。現在の障害者の相談支援事業については、おも な問題点としては、 [1] 地域支援事業に位置付けられていること等により、市町村による格差 が大きいこと【市町村格差】 [2] 相談支援事業についての十分な理解が定着していないために、問い合 わせや情報提供といった「一般相談」をイメージした体制整備にとど まり、具体的な生活を支援するための踏み込んだ訪問相談や同行支援、 継続的な支援を行うのが難しい状況にあること【相談支援体制の不備】 [3] 各相談事業の守備範囲により、対象や制度に合わせて対応せざるをえ ず、限定的な支援となってしまうか、または他の相談機関に「たらい まわし」になりがちであること【限定的な支援】 [4] 手帳を所持していない谷間の障害に十分に対応できていないこと【谷 間の障害への未対応】 [5] 横断的な課題をもった複雑なニーズをもつ人の相談支援に十分にこた えきれないこと【横断的な対応の不備】 [6] 難病(難治性慢性疾患)、高次脳障害、発達障害など、障害特性に応じ た専門的な相談支援が必要な場合に、身近な地域での相談支援が整備 されていないこと【障害特性に応じた専門相談体制の不備】 [7] 前記[4]〜[6]を支えるための他職種・機関の連携・調整の制度的な保障 がないこと【他職種・機関との連携調整体制の不備】 [8] これらの相談支援体制にかかわる専門職を含めた人材が大幅に不足し ていること【人材の不足】 などがあげられた。 また現在の支給決定と相談支援の関係においては、 [1] 本人の希望やニーズを聴ききとり、必要な支援についての計画を立案 する以前に支給決定がおこなわれているため、ほとんど計画策定のた めの相談支援に至らない。 [2] 障害程度区分により国庫負担基準が定められているため、市町村によ っては、これが上限設定となってしまい、ニーズがあっても支給に反 映されない場合がある。  などがあげられた。  今回の報告では、これらの現状の課題をふまえて、地域で暮らすために、障 害のある本人のセルフマネジメント、また支援付き自己決定を支える相談支援 の在り方について、その役割と機能、および相談支援体制について示した。  さらに、「協議・調整による選択と決定のプロセス」(C−3−1)について も、合わせて検討した。なお、第一期の検討にあたっては、以下の点に留意し た。 [1] 目的の順守 本人の思いに添う支援体制づくり [2] 目標 目的に添って機能しやすい支援体制づくり   当事者参画によるシンプルでわかりやすい仕組み   II.結論 新たな相談支援の在り方について 相談支援のあり方の抜本的な見直し(質と量)、エンワパワメント支援、ピアカ ウンセリング、ピアサポートの充実についての検討結果は以下のとおり。 論点表(C-1-1)、C-1-2) C-1-3)、C-1-4)  1「自己決定支援」及び「相談支援」の目的と内容 ○障害の特性や状態によって、コミュニケーションや自己表現の在り方は異な ることはいうまでもないが、相談支援は、「障害のある人が地域で暮らし、社会 参加していくための自己決定や選択を、その人の立場にたって支援する」こと が目的である。 ○さらに、障害のある当事者、家族自身が支援を通じてエンパワメントされて いくことも、相談支援の重要な目的として位置づける。 ○相談支援の対象は、福祉制度を利用する際の相談のみでなく、障害、疾病な どの理由があって生活のしづらさ、困難を抱えている人びとに、福祉・医療サ ービス利用の如何に関わらず幅広く対応する。 ○当事者の抱える問題全体に対応する包括的支援の継続的なコーディネートを 行う。 ○障害のある人のニーズを明確にするとともに、その個別のニーズから、新た な地域での支援体制を築くための地域への働きかけも同時に行う。⇒障害のあ る個人に対する働きかけと、地域への働きかけを行う。(自立支援協議会との連 携の在り方を明確にする。) 2.相談支援の機能と体制について(図1参照) (1)多層的相談支援体制の整備充実と各相談機関の役割と機能 ○地域相談支援センター、総合相談支援センター、広域専門相談支援センター の配置を基本とし、多層的な相談支援体制を整備する。 ○地域相談支援センター、総合相談支援センター(総称して、以下相談支援事 業所とする)は、障害当事者の側に立って支援することから、給付の決定を 行う市町村行政やサービス提供を行う事業所からの独立性が担保される必要 がある。そのため、都道府県・政令市が指定することを基本とし、地域の実 情に合わせて障害保健福祉圏域単位や市町村域の単位で障害当事者や障害福 祉関係者、行政関係者が参画する運営委員会の設置などを通じて、必ず運営 のチェックが実施されることを担保する。財源は出来高払いではなく、人件 費相当の義務的経費による。(相談支援の事務所等の確保・整備にかかる費用 も含む) ○相談支援事業所は、市町村ないしは広域連合、及び都道府県・政令市の自立 支援協議会の運営(事務局)の任を行政とともに担い、相談支援から見えて きた新たなニーズに対応する地域資源開発を行う。(これについては、地域資 源整備チームにおける検討内容との調整が必要) ○相談支援事業所間の連携を目的とした、対応困難事例を含めた情報交換や相 談が可能となる仕組みを構築する。 (2)地域相談支援センターの規模と役割 ○地域相談支援センターは、もっとも住民の生活に身近な圏域(人口3〜5万人 に1ヶ所を基準とする)を単位に、都道府県が市町村と協議して一定の条件 を満たした事業者に事業を委託して設置する。(都道府県指定、国庫補助事業 とすることについては、第二期で継続検討とする) ○本人に寄り添った相談支援(アウトリーチを含む)、継続的な相談支援を行う。 具体的には、下記のような人への対応を想定する。 [1]支援を受ければ、ある程度希望の実現やニーズの解決が想定できる人 [2]生活の質の維持や社会参加に継続してサービスを利用する必要があり、ま た希望の表明や制度手続き、サービス調整などに一貫した支援を希望する人 [3]社会資源の活用をしておらず、生活が困難な状態にあり社会参加が果たせて いない人(手帳をもたない人も含む) [4]部分的にサービス等を利用しているものの、生活の立て直しを必要としてい る人 [5]既存のサービス等では解決困難な生活課題を抱えている人 [6]家族等の身近な関係のなかで問題を主体的に相談できる人がおらず、踏み込 んだ支援を必要としている人(虐待を含む) [7]その他、相談支援を希望する人 ○地域相談支援センターのみの支援では困難な場合は、総合相談センターおよ び広域専門相談機関に協力や助言、直接の対応を要請する。具体的には上記 のうち、[3][4][5][6]を想定する。 ○一定の研修を受講した相談支援専門員(仮称)3名以上を配置する。(相談支 援専門員の条件、研修等の在り方については第二期で検討する) ○所属する相談支援専門員は、希望する人を対象に本人中心支援計画・サービ ス利用計画を策定できる。 (3)総合相談支援センターの規模と役割 ○総合相談支援センターは、15万〜30万人の圏域を単位に、都道府県が市町村 と協議して一定の条件を満たした事業者に事業を委託して設置する。(都道府 県指定、国庫補助事業とすることについては第二期で継続検討とする) ○一般相談のなかで、特に複雑な相談事例について対応する。具体的には地域 相談支援センターからの要請に応じて[3][4][5][6]の対応にあたる他、長期に 入院・入所をしている人の地域生活への移行の相談、刑務所等から出所してく る人の相談等に対応する。 ○地域相談支援センターへの巡回を含めた相談支援専門員のスーパービジョン、 および人材育成(研修)を行う。 ○一定の研修を受講した相談支援専門員5名以上を配置する。 ○所属する相談支援専門員は、希望する人を対象に本人中心支援計画・サービ ス利用計画を策定できる。 (4)広域専門相談支援センターの規模と役割 ○広域専門相談支援センターは、都道府県を単位として設置された、障害特性 に応じた専門相談を担う。具体的には、身体・知的障害者総合相談センター、 精神保健福祉センター、発達障害者支援センター、視覚障害者支援センター、 聴覚障害者支援センター、難病相談支援センター、地域定着支援センターな どを含む。 ○障害種別、特性に応じた専門的な総合相談を実施する。 ○地域相談支援センター及び総合相談支援センター等への専門的助言や専門的 人材の養成支援を行う。 ○本人中心支援計画・サービス利用計画策定にあたっての助言を行う。 (5)地域におけるエンパワメント支援(C−1-2)について ○身近な地域での相談支援体制(市町村、広域圏、人口5万〜30万人)に最 低1ケ所以上、障害のある当事者等によるピアサポート体制(エンパワメン ト支援事業)を位置づける。 ○エンパワメント支援事業は、障害のある人たちのグループ活動、交流の場の 提供(たまり場機能)、障害当事者による自立生活プログラム(ILP)、自 立生活体験室、ピアカウンセリングなどを提供することで、地域の障害者の エンパワメントを促進することを目的とする。 ○エンパワメント支援事業を実施できるのは、当事者やその家族が過半数を占 める協議体によって運営される団体とする。 ○エンパワメント支援事業は、地域相談支援センターに併設することができる。 3.相談支援に基づく本人中心支援計画、サービス利用計画の策定について(図 2参照) ○本人中心支援計画(本人のニーズに基づく総合的な生活プラン)、サービス利 用計画(法が求めるサービス利用計画)を定義する。 ○本人中心支援計画とは、本人の希望に基づいて、相談支援事業所(地域相談 支援センター、総合相談支援センター)の相談支援専門員が本人とともに立 案する生活設計の総合的なプランとする。本人の希望を聴き取り、その実現 にむけた本人のニーズとその支援のあり方(インフォーマルな支援も含めた もの)の総合的な計画策定となる。) 本人中心支援計画立案の対象となるのは、セルフマネジメントが難しい支援付 きの自己決定が必要な人で、相談支援専門員は本人に寄り添い、本人の思いや 希望を明確化していく。 ○サービス利用計画とは、法律による福祉サービス等を利用するにあたって、 市町村に提出する計画。 本人のニーズに基づいて、福祉サービス等の利用希望を明らかにする計画とな る。 (本人自身による策定、または相談専門支援事業所が、本人とともに策定する ことができる。) ○サービス利用計画の提出は、法律によるサービスを利用申請する際に必須と する。      4.支給決定の仕組みについて(図3参照) C−3−1協議・調整による支給決定プロセス 第一期は、その概要について示すこととし、より詳しいシステム(特にガイド ラインの在り方など)などは、第一期のサービス体系の提案などをもとに、第 二期でより具体的に検討をすることとした。 ○支給決定の仕組みについては以下のとおりとする。 [1] 支給決定にあたっては、本人(または相談支援機関)と行政の協議調整を前 提とする。実施主体である市町村が支給決定についての決定権(責任)をも つ。 [2] 本人、または本人と相談支援事業所が、本人のニーズをもとに「サービス利 用計画」を策定し市町村に申請する。 [3] 市町村は、まずガイドラインに基づいてアセスメントを行う。 [4] ガイドラインは、市町村がサービス利用計画の内容に基づいて支給決定をす るためのアセスメントの「水準・モデル」であって、基準や上限を示すもの ではない。ガイドラインは、全国レベルの方向性をふまえて、市町村で策定 する。 (ガイドラインの指針などのより詳細な内容等は、第二期でさらに検討す る) [5] 個別のニーズに応じて、本人、本人及び相談支援専門員と市町村間で「協議・ 調整」を行い、市町村が支給決定をする。協議調整は、「障害のない人の地 域生活の水準」及び、「支援事例」に基づいて検討する。 [6] 支給決定内容に関して、ガイドライン及びこれまでの「支援事例」等では判 断が 困難な事例に関して、市町村は「合議機関」にその意見を求めること ができる。(合議機関の詳細については第二期で検討する。) [7] 支給決定内容に対して、本人は「市町村ごとに設置された不服申し立て機関」 に申し立てをすることができる。(不服申し立て機関の詳細は第二期でさら に検討) [8] サービス実施後モニタリングを行い、支援困難事例などについて、相談支援 専門員は自立支援協議会に報告する。 [9] 個別のサービス実施状況のモニタリング結果を受けて、自立支援協議会にお いて、ガイドラインの見直し、社会資源開発などについて検討する。 III.第二期作業チームでの検討事項 第1期の相談支援体制を踏まえて、協議調整による支給決定システムの明確化 を行う ○論点は C−2−1現行の支給決定・障害程度区分の評価 C−2−2国庫負担基準の評価 C−3−2支給決定にあたっての必要なツール C−3−3自治体担当者のソーシャルワーク機能 C−3−4不服審査やアドボカシーの仕組み ○そこで以下の事項について、第二期で検討する。 (1)現在の障害程度区分や支給決定についての評価と問題点の検討 (2)支給決定にあたって必要なツール(ガイドライン・支援の必要度や支給決定 のためのアセスメントなど)のあり方と策定の指針について (3)支給決定に際しての「合議機関」の設置や役割についての検討 (4)不服審査やアドボカシーの仕組み (5)相談支援専門員(仮称)の役割や位置づけおよび研修体制(当事者相談員 も含む)の在り方 (6)障害者自立支援法改正法(つなぎ法)」における相談支援の関する、基幹相 談支援センター等の施行規則や運用基準等が、今後の新法の方向性と矛盾す ることがないよう、「つなぎ法」の施行規則や運用基準等を精査するとともに、 その整合性について検討する。 尚、(2)(3)については、委員から、ニーズアセスメント調査の実施や支給 決定モニタリング委員会の設置という具体的な提案が出ていることから、この 提案についても検討をしっかりと行う。 他の作業チームへの申し送り・調整事項  ○法の範囲にある障害を有するか否かの判断については、    法の範囲チームの「B−2手続き規定」の結果による。  ○相談支援機関から、地域に対する働きかけを担保する仕組み(自立支援協 議会の役割と相談支援機関との関係性について)を設定する  ○児童分野、就労分野の相談支援体制(現行の就業・生活支援センター等の あり方の再検討を含む)との関係についての調整が必要  ○長時間介護の財源調達は、地域生活資源整備チームで検討する(C−2− 2) 付記 本作業チーム報告に対して部会委員から寄せられた主な意見 ○障害者をすべて悩める人と捉えることを前提とする重層の相談支援体制につ いては疑問がある。これに財源を投入することが国民的な理解を得られるとも 思われない。 ○「重層的」の実践内容が見えない。精神障害の人など自ら窓口に行きづらい 人に対して、身近なところで適切に相談に応じられる体制について更に検討し てほしい。 ○相談支援事業所を人口比で設置すると、アウトリーチを考慮しても、過疎地 では利用が難しい。面積も考慮した配置が必要ではないか。また他の自治体の 相談支援事業所も利用可能とすべきである。 ○支給決定と相談支援を同じチームで議論することについて、そもそも違和感 がある。支給決定のための支援と相談支援、特に権利擁護(アドボケーター) としての役割は分けて整理するべきである。またこの権利擁護組織については、 障害者運営による団体が適切と考える。 ○支給決定前に支援計画をつくるというのは協議・調整モデルではない。協議 調整の場で支援計画を策定すべきである。 ○協議・調整におけるガイドラインを作成するのであれば、本人中心とエンパ ワメントを徹底した内容とするべきである。 ○平成24年度実施予定の「児童発達支援センター」の役割も含めて、障害児 やその家族の成長や不安に対する相談支援体制についても言及すべきである。 ○相談支援事業所に対して人件費を保障するのは、委託になるので反対である。 後発の組織が自由に参入できるように、指定制度として出来高払い制度(単価 を上げ、交通費等の実費払いとする)とすべき。 ○人工呼吸器利用者、24時間介護利用者、ALS患者、重度脊髄損傷者等の 特に高度な専門的ノウハウを要する場合など、都道府県単位の相談支援体制で は対応が難しい際には、全国レベルの広域センターが対応できるようにすべき。 その際本人中心支援計画、サービス利用計画の策定も可能とすべきである。 ○支給決定内容に対しての不服申し立て機関については、市町村のみでなく、 都道府県レベルでも必置とすべき。また障害者基本法に基づく都道府県障害者 政策委員会が、市町村のガイドラインについてモニター機能を担うこと。 --------- 「障害の範囲と選択と決定〜選択と決定・相談支援プロセス(程度区分)第2 期」部会作業チーム報告書の概要 はじめに(作業チームの検討範囲と課題) 1.現行の程度区分や支給決定の仕組みについての評価と問題点の検討 (C-2-1、C-2-2) 2.支給決定にあたって必要なツール(ガイドライン・支援の必要度や支給 決定のためのアセスメントなど)の在り方と策定の指針について(C-3-2、 C-3-3) 3.支給決定に際しての「合議機関」の設置や役割について 4.不服審査やアドボカシーの仕組みについて(C-3-4) 5.相談支援専門員(仮称)の役割や位置づけ及び研修体制(当事者相談員 も含む)の在り方 1.現行の程度区分や支給決定の仕組みについての評価と問題点 ・現状の一次審査に用いられている機能障害の自立度を中心とした指標は、障 害種別を超えた福祉的支援のニーズを反映するものとして妥当とはいえない。 (変更率、地域格差大)個別の利用者の特性や状況、特に社会的状況も踏まえ た障害者のニーズを明らかにする新たな支給決定の仕組みとツールが必要で ある。 2.支給決定にあたっての必要なツールのあり方と策定の指針 ・支給決定のプロセスは以下の流れを基本とする。 [1]本人中心支援計画(支援付き自己決定のもとに)の策定(全員ではない) [2]法律の対象となる「障害」があることを確認する。 (障害の範囲チームの報告では、各種障害者手帳のほか、医師の 診断書、意見書な ど客観的指標による認定となっている。) 事前に確認方法を示し、サービス利用計画策定に入る前に本人及び相談支援専門員 が確認可能な対応をとるようにする。 [3]本人サービス利用計画(必要なサービスを申請する計画)策定(申請者全員が策定) をもとに市町村に申請を行う。 [4]本人サービス利用計画について、市町村がガイドラインに基づき、ニーズアセスメ ントを行う。 [5]ガイドライン水準を超える申請の場合、本人(及び支援者)と市町村による協議調 整を行い、支給決定する。 [6]両者による調整が困難である場合、もしくは本人が第三者機関での調整を要請した 場合については、市町村に設置された合議機関において検討し、その結果を受けて 市町村が支給決定を行うことができる。 ・ガイドラインとは、法における権利性に基づいて、「その地域の他の者との平 等を基礎として生活することを可能とする支援の水準」を示すものである。 ガイドラインの策定にあたっては、(1)利用者への説明、(2)支援の必要度 の把握、(3)公費によるサービス提供水準、(4)市町村の障害者自立支援計 画との連動、の4つの視点を持つものとする。 ・ガイドラインは、国が基本的な設定を示し、自治体ごとにそれを最低ライン として、ガイドラインを策定することとする。 ・ガイドラインで示す支給水準は、権利条約に規定されている障害者の「他の ものとの平等」「地域生活の実現」を基本原則にするべきである。この基本原 則に基づき、障害のある人の支援の必要度を類型化し、類型ごとの標準ケア プランに基づく支給水準を示す。 3.支給決定に際しての「合議機関」について ・本人と市町村の協議で調整がつかない場合、もしくは本人が第三者機関での 調整を要請した場合については、市町村に設置された合議機関において検討 し、その結果を受けて、市町村が支給決定を行うことができる。合議機関は、 当事者相談員、相談支援専門員、地域の社会資源や障害のある人の状況をよ く知る者等の関係者の参画を得て、市町村に明確に位置付ける。 4.不服審査やアドボカシ―の仕組みについて ・支給決定にかかわるアドボカシーの仕組みとしては、[1]サービスの利用に関 して当事者の自立生活をエンパワメントするシステム[2]本人中心支援計画の 作成に当たって、当事者をエンパワメントするシステム[3]支給決定における、 不服申し立てを執り行うシステム、がある。[1]に関しては、身近な地域で当 事者相互支援活動(セルフヘルプグループ)が展開できる公的なサポート体 制を創設すること[2]に関しては身近地域での相談支援体制の充実が重要であ る。 ・不服申し立ての仕組みとしては、複数の合議体での検討、また不服審査での 書面審査ではなく、直接当事者を呼んで調査・審査を行うことなどを順守さ せることが重要である。さらには、障害者差別禁止法で構築されるであろう、 都道府県レベルでの権利擁護機関により、准裁判方式である「仲裁権限者と 両当事者の審問形式」の展開も検討すべきと考える。 5.相談支援専門員の役割や位置づけ及び研修体制について ・相談支援専門員は、本人のニーズを満たすためにフォーマルな支援に結びつ けるだけでなく、インフォーマルな支援を含む福祉に限らない教育、医療、 労働、経済保障、住宅制度等々あらゆる資源の動員を図る努力をする。また 資源機能の不足などについて、その解決にむけて活動することも重要な役割 となる。 ・相談支援専門員は相談する当事者(本人・家族など)の利益のために存在する ことを一義とする。そのためには福祉サービス等を決定し提供する役割から 独立することを原則とする。 ・当事者が相談支援専門員となり、地域の相談支援体制全般において、協働す ることが望ましい。尚、当事者が相談支援専門員になる際には、当事者とし ての生活経験などを実務経験として勘案するなどを検討すべきである。 ・研修については、基礎研修、フォローアップ研修、専門研修、更新研修、そ の他などを国の研修要綱として位置づけ、都道府県が実施する。また定期的 に任用資格の更新を行うこととする。 制度の実現にむけての補足事項 ・協議調整による支給決定システムの実施については、現状からのスムーズな 移行のために、早期の試行事業の実施が必要である。  さらに、全国各地の障害者の地域生活の実態を踏まえて、程度区分に変わ る国のガイドラインの検討・策定を行う体制作りが早急に行われるべきであ る。 他のチームとの調整が必要な事項 ・市町村が、ニーズに基づいて必要な支給量を決定することを可能とするため の財源調整の仕組みについて ・支給決定プロセスにおける、法の対象となる障害の範囲の確認方法について ・地域における実効性のある権利擁護、不服申し立ての仕組みについて --------- 「障害の範囲と選択と決定〜選択と決定・相談支援プロセス (程度区分)第2期」部会作業チーム報告書 I.はじめに  当チームでは、論点Cについて、第一期では主に自己決定支援及び相談支援体制に ついての提案を行った。第二期はそれを受けて、協議調整による支給決定システムを さらに明確に示すことを目的に検討を行った。第二期作業チームの論点検討範囲とし ては、C-2-1現行の支給決定・障害程度区分の評価、C-2-2国庫負担基準の評価、C-3-2 支給決定にあたっての必要なツール、C-3-3自治体担当者のソーシャルワーク機能、 C-3-4不服審査やアドボカシーの仕組みであり、具体的には、以下のような検討内容 となっている。 1.現行の程度区分や支給決定の仕組みについての評価と問題点の検討 2.支給決定にあたって必要なツール(ガイドライン・支援の必要度や支給決定 のためのアセスメントなど)の在り方と策定の指針について 3.支給決定に際しての「合議機関」の設置や役割について 4.不服審査やアドボカシーの仕組みについて 5.相談支援専門員(仮称)の役割や位置づけ及び研修体制(当事者相談員も含 む)の在り方  検討経過としては、まず厚労省から示されたデータ等をもとに現状の支給決定の 在り方(とくに障害程度区分の実態など)の評価を行った。さらにメンバーによる 報告をもとに、諸外国の支給決定システムについて概観し、日本への適用について の意見交換を行った。また当事者と行政の協議調整による支給決定については、[1] 先駆的な自治体事例として、西宮市の行政担当者へのヒアリングを行い、[2]千葉県 内市町村の行政担当者に対しての意見交換も合わせて実施した。(ご多忙中にもかか わらず、ボランティアで参加いただいた自治体職員の方には深く感謝いたします。) 合わせて、三回にわたる部会での議論を中心に、メンバー間で意見交換を行ったの ち、作業チームとしての見解として報告することとなった。 II.結論とその説明 1.現在の障害程度区分や支給決定体制の評価について 結論: ○現状の一次審査に用いられている機能障害の自立度を中心とした指標は、障害種 別を超えた福祉的支援のニーズを反映するものとして妥当とはいえない。 ○個別の利用者の特性や状況、特に社会的状況も踏まえた障害者のニーズを明らか にする新たな支給決定の仕組みとツールが必要である。 理由: ○現行の支給決定・障害程度区分については、知的障害、精神障害では、その一次 判定から二次判定の変更率が4割から5割以上と極めて高いものとなっている。 また判定結果の地域間格差も大きく、障害種別を超えて全国一律の客観的、公平 な指標とするには課題が多い。 ○また程度区分による利用制限や、国庫負担基準に連動しているために支給量の上 限として用いられている実態もあり、基準を超えて支援が必要な重度障害者など の地域生活に影響を与えている。 ○障害者基本法改正案においても、障害を「障害及び社会的障壁により継続的に日 常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」と定義しており、障 害の程度については、新たに社会的状況を勘案した指標とすることが妥当である。 以上から、総合福祉法(仮称)では、本人から示された支援ニーズの妥当性を検 討するための指針が求められる。 2.支給決定にあたって必要なツール(ガイドライン・支援の必要度や支給 決定のためのアセスメントなど)の在り方と策定の指針について 結論: ○支給決定にあたっての基本的な考え方については、以下のとおり。 [1]支援を必要とする障害のある本人の生活と意向を基本とすること。 [2]その地域での他の者との平等を基礎として、必要な支給量が確保されること。 [3]一定程度の標準化が諮られ、公平性、透明性があること。 [4]申請から決定までわかりやすく、スムーズなものであること。  2-1.支給決定のプロセスは、原則として以下の流れとする。 [1]本人中心支援計画(支援付き自己決定のもとに)の策定(全員ではない) [2]法律の対象となる「障害」があることを確認する。 (障害の範囲チームの報告では、各種障害者手帳のほか、医師の診断書、意見書な ど客観的指標による認定となっている。) 事前に確認方法を示し、サービス利用計画策定に入る前に本人及び相談支援専門 員が確認可能な対応をとるようにする。 [3]本人サービス利用計画(必要なサービスを申請する計画)策定(申請者全員が策 定)をもとに市町村に申請を行う。 [4]本人サービス利用計画について、市町村がガイドラインに基づき、ニーズアセス メントを行う。 [5]ガイドライン水準を超える申請の場合、本人(及び支援者)と市町村による協議 調整を行い、支給決定する。 [6]両者による調整が困難である場合、もしくは本人が第三者機関での調整を要請 した場合については、市町村に設置された合議機関において検討し、その結果を 受けて市町村が支給決定を行うことができる。 2-2.このシステムの前提条件として以下の点が重要である。 ○本人の自己決定支援の抜本的な強化(日常的な支援者、当事者によるピアサポー ト(エンパワメント事業)の充実、相談支援システムの充実など)が具体的に諮 られること。 ○市町村のニーズアセスメント能力の向上が諮られること。OJT(研修体制)の充実。 ○市町村の合議機関の役割と機能の明確化。 ○支給決定プロセス全体について一定の共通事項をルール化し、公平性・透明性を 担保すること。(支給決定プロセスの指針・ガイドラインの策定) 2-3.ガイドラインのあり方について 結論: ○ガイドラインは、法における権利性に基づいて、「その地域の他の者との平等を基 礎として生活することを可能とする支援の水準」を示すものである。 理由: ○ガイドラインとは、障害のある人が住み慣れた地域で生活していくために必要な 支援の必要度を明らかにし、その人の生活を支援する支援計画の作成過程におい て、公費により利用できる福祉サービスを明らかにすることを目的に作られるも のである。 ○ガイドラインの策定にあたっては、(1)利用者への説明、(2)支援の必要度の把 握、(3)公費によるサービス提供水準、(4)市町村の障害者自立支援計画との連 動、の4つの視点を持つものとする。 ○ガイドラインは、国が基本的な設定を示し、自治体ごとにその設定を最低ライン として、ガイドラインを策定することとする。(国基準以下のガイドラインは認め ない) 理由: ○市町村ガイドラインの策定は不可欠である。当事者(障害者・家族など)と行政、 相談支援事業者、サービス提供事業者などの関係者の参画のもと、その地域のそ の時点での地域生活の水準を協議しながら作成される必要がある。この策定によ り、当事者、行政、事業者の協働が生まれる。しかし、当事者の声が出にくい地 域などでは、格差が広がるリスクもある。そのため、当分の間は国がガイドライ ンの設定指針を示し、地方ごとにその指針内容を最低ラインとして、独自のガイ ドラインを策定することとする。また財政面から国基準をそのまま引用する自治 体が出る可能性が高いので、国のガイドライン水準を超えて、市町村が必要に応 じた支給決定ができる財源的な保障が必要となる。 ○ガイドラインで示す支給水準は、権利条約に規定されている障害者の「他のもの との平等」「地域生活の実現」を基本原則にするべきである。この基本原則に基づ き、障害のある人の支援の必要度を類型化し、類型ごとの標準ケアプランに基づ く支給水準を示す。類型化については、長時間介護、見守り支援、複数介護、移 動支援などの必要性を含めて検討するべきである。 ○また類型に当てはまらない事例(類型を超える時間数など)については、個別の 生活実態に基づいて協議調整を行う。その場合、本人(支援者)と市町村の協議 で調整がつかない際は、第三者で構成された合議機関での検討の結果を受けて、 市町村が支給決定を行う。 ○国と都道府県は、各地域のガイドラインとそれを超える支給決定の事例にかかわ る情報を集約して、国の指針の見直しに反映させるとともに、その情報を自治体 やその合議機関等に提供し、各地域におけるガイドライン作成・見直しや支給決 定事務の参考に資するように努めなければならない。 3.合議機関の内容と機能について 結論: ○合議機関は、当事者相談員、相談支援専門員、地域の社会資源や障害のある人の 状況をよく知る者等の関係者の参画を得て、市町村に明確に位置付ける。 ○本人と市町村の協議で調整がつかない場合、もしくは本人が第三者機関での調整 を要請した場合については、市町村に設置された合議機関において検討し、その 結果を受けて、市町村が支給決定を行うことができる。 ○合議機関では、障害特性や障害福祉サービス等の必要性をより適切に支給決定に 反映するため、本人中心支援計画(サービス利用計画案を含む)及び、個別支援 計画に具体化されなかったニーズ、概況調査(介護を行う者の状況、障害のある 人の生活環境等)、市町村のガイドラインによるアセスメント等を勘案し個別事例 についての検討を行う。 ○市町村は、合議機関での結論をもとに支給決定を行うべきである。 尚、合議機関の機能について、申請されたすべてのサービス利用計画案について合 議機関で協議調整を行い、承認後、市町村が支給決定する仕組みとすべきという意 見もあったことを付記する。 4.支給決定の不服審査やアドボカシーの仕組みについて ○支給決定の関係する権利擁護システムは大きく3つ考えられる。 [1]サービスの利用に関して、本人の自立生活をエンパワメントするシステム [2]本人中心支援計画の作成に当たって、本人をエンパワメントするシステム [3]支給決定における、不服申し立てを執り行うシステム   [1]サービスの利用に関して、本人の自己決定・自己選択を支援し、エンパワメント するシステムについて ○実際に地域で生活するする障害者の自己決定・自己選択を支援し、エンパワメン トを支援しているのは、本人のことをよく理解する家族や支援者であると共に、 各地の自立生活センター(CIL)や知的障害の本人活動、各種の難病や精神障害等 の仲間によるさまざまな当事者相互支援活動(セルフヘルプグループ)である。 ○問題は、一定の当事者リーダーとその活動をサポートする仕組みが存在する地域 と、存在しない地域の大きな格差である。 ○制度改革にあたっては、当事者リーダー養成や、真に障害者をエンパワメントで きる当事者組織とその活動を公的にサポートする仕組みを創出していくべきであ る。(例えばアメリカにおいては、リハビリテーション法第7章において、自立生 活センターのピアカウンセリングと権利擁護活動等が補助金化されており、また 2001年度のメディケイドの改正で、精神障害者のピアサポートが予算可能プ ログラム化されている。) ○その方法については、各地の取り組みが参考となるが、今後は、当事者活動を先 進的に取り組む地域をモデル指定し、その成果を検証しながら、全国的に格差を 解消していくことが望まれる。 [2]本人中心支援計画の作成に当たって、本人をエンパワメントするシステムについ て ○本人中心支援計画の作成に参加するのは、その本人と、本人のことをよく理解す る家族や支援者、また支援に関する法・制度と地域の社会資源を熟知し、本人の 支援計画の作成を支援できる相談支援専門員である。 ○相談支援専門員は、本人によりそって本人中心支援計画の作成をサポートするが、 本人の思いや意見を促したり、それを代弁する権利擁護者の役割を担うのは、[1] の関係者であり、また本人が選んだ家族や支援者である。 ○つまりは、本人中心支援計画の作成会議は、本人と、それを支援する多様な人た ちが、自由に意見を述べ合え、考えあうことのできる、本人の希望する場で行わ れる会議でなければならない。 ○その際、権利擁護者の役割を担うにふさわしい家族や支援者や法定代理人が存在 しない場合には、本人の思いや意見を促したり、それを代弁する権利擁護者とし て、本人が選んだ当事者メンバー等の参画も考慮すべきである。 [3]支給決定における、不服申し立てを執り行うシステムについて ○支給決定は、一連のプロセスと協議・調整に基づいた、最終的に行政の裁量によ る行政処分であるが、それが、本人の思いや希望とかけ離れている場合には、極 めて簡便に不服申し立てできる仕組みが望ましい。 ○今後支給決定が、最終的に合議機関の調整を経て出されるとすれば、合議機関は 複数設置を基本とし、当該市町村への差し戻し(再調整)請求を位置づけた場合に、 その市町村が有する他の合議機関で再調整する方法を検討する必要がある。 ○さらに次の段階では、市町村を超えて、都道府県レベルの不服審査機関が機能し ていく必要がある。 ○わが国の障害者介護給付等不服審査会への審査請求がほとんど有効ではないのは、 調査権限も調査システムもぜい弱なだけでなく、そもそも、差し戻し以外の強制 権限を有していないことによる。 ○しかし法的には、関係当事者を呼んで審査することが可能となっていることに鑑 み、基本的に両当事者を呼んで調査・審査を行い、その結論をできる限り順守さ せる方向で展開することは可能だと思われる。 ○2年後の障害者差別禁止法で構築されるであろう、都道府県レベルでの権利擁護 機関の調査・審査方式の展開も考慮にいれれば、今後は労働審判制度以外でも、 准裁判方式である「仲裁権限者と両当事者の審問形式」で、調査・審査がなされ、 仲裁者の結論は、裁判に持ち込む以外絶対権限とされるような制度展開が必要と 考える。 5.相談支援専門員(仮称)の役割や研修について  5-1相談支援についての第一期報告の補足について ○相談支援の対象は、「身体障害、知的障害、精神障害その他心身の機能の障害(以 下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的 に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」とその家族を対 象とする。(手帳所持者に限定しない) ○相談には一般相談と特定相談という福祉サービスに結び付けるための相談支援と がある。 ○一般相談は、障害者およびその家族に関するあらゆることの相談で、相談の入り 口としてその後の展開に責任を持つことが大切であり、ワンストップ相談を心が ける。そのためには現在分担されている発達相談、教育相談、就労支援相談、医 療相談等が統合された相談体制をつくることが望ましい。当面は、地域において 有効な相談支援のネットワーク体制を構築することが重要な課題である。 ○一般相談は、人口規模に見合った体制整備が必要であり、整備計画については実 態調査の結果にもとづき具体的に検討されるべきである。また、地域における障 害者の生活課題に、公共的な立場から積極的にアウトリーチしていくことが求め られることから事業費補助が適当である。 ○特定相談は、本人の意向、ニーズ中心の支援計画を本人(ないし代理人)とともに 立案し、その意向・ニーズを満たすためにフォーマルサービスに限定することな く、インフォーマルサービスの利用調整と現実具体的生活支援体制の構築を図る。 尚、特定相談は、その利用を希望する当事者と特定相談を提供する相談支援事業 者との契約にもとづいて行われることとし、実績に応じた出来高払いとするのが 適当である。 5-2.相談支援専門員の役割や研修について ○相談支援専門員(仮称)の基本理念は「すべての人間の尊厳を認め、いかなる状況 においても自己決定を尊重し、常に平等(対等)な関係性を築き、人権と社会正義 を実践の根底に置く」ことである。 ○相談支援専門員は、本人のニーズを満たすためにフォーマルな支援に結びつける だけでなく、インフォーマルな支援を含む福祉に限らない教育、医療、労働、経 済保障、住宅制度等々あらゆる資源の動員を図る努力をする。また資源機能の不 足などについて、その解決にむけて活動することも重要な役割となる。 ○具体的には以下のような業務内容を担う。 [1]利用者の包括的なニーズを把握する。 [2]地域生活支援計画(本人中心支援計画/サービス利用計  画)を本人ととも に立案する。 [3]本人の地域生活のニーズを満たすために、総合的なフォーマル・インフォー マルサービスの利用、支給決定のために行政等関係機関との協議を行い調整 する。 [4]サービス資源が不足しているときは必要なサービス(社会資源)の開発につな げる。 [5]相談プロセスを通じて、利用者の権利擁護を行う。 [6]サービスの質の評価を行う、等。 ○相談支援専門員は相談する当事者(本人・家族など)の利益のために存在すること を一義とする。そのためには福祉サービス等を決定し提供する役割から独立する ことを原則とする。但し、行政において相談に応じ、支給決定にかかわる職員は 相談支援専門員の研修を受けた者であることが望ましい。 ○相談支援専門員は当事者に寄り添い、信頼関係のもと当事者の生活を成立させ、 継続でき、夢・希望などを叶えることを含む個々の人生を支援する専門職である。 本人によって選択される立場にあることから、選択できる体制整備も必要である。 ○相談支援専門員のなかにはソーシャルワークに関する理念・知識・技術をもって 業務を遂行する者が必要である。加えてスーパーバイザーとしての役割や、障害 者の地域生活支援システムのコーディネーターとしての役割を担う者が必要であ る。 ○将来的には相談支援専門員の質を担保するうえでソーシャルワーク専門職を基礎 資格とすることを目指すべきである。  そのためには、現行の専門職養成課程では、その内容が不十分であり、今般の 障害者制度改革の趣旨に照らし、必要な見直しが諮られるべきである。 ○当事者(本人ないし家族)との連携は、本人中心の支援を行うにあたり、重要な 課題である。当事者が相談支援専門員となり、地域の相談支援体制全般において、 協働することが望ましい。尚、当事者が相談支援専門員になる際には、当事者と しての生活経験などを実務経験として勘案するなどを検討すべきである。 ○また当事者が、身近な地域において助言者、支援者として、本人のエンパワメン トを高めることも重要である。一定の地域に、当事者(本人及び家族)の参画に よる「エンパワメント支援事業」が設定され、相談支援専門員と協働する体制が 必要である。 5-3.相談支援専門員の研修について ○国は研修要綱を定め、都道府県において研修の企画から実施までの実務を担う者 に対する指導者研修を行う。 ○都道府県が実施する研修には基礎研修、フォローアップ研修、専門研修、更新研 修、その他などがある。都道府県は自立支援協議会に人材育成の部会を設け、指 導者研修修了者とともに企画し実施するが、研修運営などについて委託すること もできる。 ○現在行われている相談支援従事者研修は、一部サービス管理者研修と一体的に行 われるなど、相談支援専門員固有の役割、機能を習得する研修としては内容が不 十分と言わざるを得ない。新法で求められる内容を整理し、相談支援専門員の研 修体制については、研修カリキュラム内容の充実とその体制の確立が諮られる必 要がある。 ○全ての相談支援専門員は実務を行っている者に限って5年毎に更新研修を受け、 任用資格の更新を行う。また市町村及び広域連合などの都道府県が認めた圏域で の自立支援協議会の個別支援会議部会などにおいて、事例検討などに参加し事例 を報告することが一定義務付けることなども検討すべきである。 6.おわりに 以上の新法における新たな支給決定体制や、相談支援体制の実現にむけては、スム ーズな移行のために、なるべく早期に協議調整による支給決定の試行事業実施とそ の検討が必要である。また、そこからの知見も含めて、国レベルでのガイドライン 策定がなされねばならない。新制度実施のための十分な準備期間を設けて、その実 現化を図ることが新しい支給決定体制の導入に際しては極めて重要である。 付記 本作業チーム報告に対して部会委員から寄せられた主な意見 ○支給決定プロセスについて、報告書では、協議・調整方式を導入し、市町村はガ イドライン(地域ごとの支援基準)に基づき支給決定を行うこととされている。客 観性や透明性・公平性の確保について検討する必要がある。 ○一次審査の変更率が多いのは、生活のしづらさの評価が含まれていないことによ ると思われる。新たな一次審査のために、追加する項目、見直す項目の提議に代え て「ガイドラインの設定」と枠だけを示しているが、改善に結びつくのか疑問。 ○国が策定すると提案されている「ガイドライン」について、この策定過程に「当 事者の参画」を入れること ○障害児の支援ニーズについては、短期入所を含む医療型施設への入所に関しては、 ガイドラインの設定が難しい。ガイドラインの適用にならない場合を想定すべき。 ○障害の範囲を規定するに際して「難病および難病に起因する障害」という表現を 総合福祉法で明記してもらいたい。 ○権利の客体から権利の主体と考え方を切り換えるためには、行政より当事者とそ の関係者が意識変革するための啓発、啓蒙活動が必要。単なる手続きについての準 備のための準備期間ではないと考え、この点を試行事業に含めていただきたい。 ○就労合同チームの提言にある「客観的指標の開発」と共に、就労支援を含む「総 合的な相談窓口」(ワンストップサービス)の設置と、ケアマネジメントできる真 のソーシャルワーカーの制度化など必要な人材の配置について検討すべきである。 ○インフォーマルな部分を含めて相談支援専門員とともに本人中心支援計画を作成 するという表現は、過去に一部の自治体職員の誤解(24時間の介護は公的な制度 だけでは保障できないので、介護ボランティアなどインフォーマルなサービスを組 み合わせるべき)を招いたことがあるので、気をつける必要がある。同じ誤解が起 きないように注意して制度化していただきたい。 ○現状の都道府県で行われる不服審査では、支給決定手続きに瑕疵があったかどう かだけを審査する都道府県が多く、意味がない。たとえば、訪問系サービスの支給 決定時間数が妥当かどうかを判断できる仕組みが必要。 ○国・地方とも厳しい財政難の中で、財源の確保の問題は重要な課題である。制度 の円滑な運営を図るためには財源の確保を平行して議論し、制度に位置づける必要 がある。 --------- 【「施策体系〜訪問系」部会作業チーム報告書の概要】 【訪問系作業チーム報告要約】 I はじめに −主な検討範囲と検討経過−  当チームの検討範囲としては、施策体系チーム共通の【D-1-1】【D-1-2】に加え、【D-2】 生活実態に即した介助支援等実態に即した介助支援等の全項目、並びに【D-3-1】が検討範 囲であった。作業チーム構成員に加えて、参考人からヒアリングを行いながら検討した。 II 結論とその説明 1.重度訪問介護の発展的継承による「パーソナルアシスタンス制度」の確立【D-1-1】【D-1-2】 【D-2-1】【D-2-3】【D-2-4】【D-2-5】 1)「パーソナルアシスタンス制度」確立の方向性 ○「パーソナルアシスタンス制度」の確立に向けて、現行の重度訪問介護を改革し、充実 発展させる。 2)「対象者」の拡大 ○対象者は「重度の肢体不自由者」に限定されるべきではない。 3) パーソナルアシスタンスの基本条件と利用制限の撤廃 ○パーソナルアシスタンスとは、(1)利用者の主導(含む・支援を受けての主導)、(2)個別の 関係性、(3)包括性と継続性を前提とする生活支援である。 ○重度訪問介護の利用に関する利用範囲の制限をなくし、支給量の範囲内で通勤・通学・ 入院時・1日の範囲を越える外出・運転介助にも利用できるようにすべきである。   2.「他の者」との平等な社会参加の確保と移動支援の個別給付化【D-2-2】 ○視覚障害者・児のみならず他の障害者・児の移動支援も基本的に個別給付として、国の 財政責任を明確にすべきである。 ○個別給付化を行うに当たっては、「他の者と平等」な参加ができるよう、対象者・利用目 的(通所や通学や入院・入所者等の外出を含む)・支給決定量や方法・ヘルパー研修等、先 進的な自治体の取り組みをふまえて柔軟にできるようにすべきである。 ○当面、地域生活支援事業の中の移動支援部分のみ別枠で、国1/2・都道府県1/4の補助 金清算という仕組みにする等、国・都道府県の財政支援を強化すべきである ○車を使っての移動介護は不可欠な場合があり、報酬の対象とする 3.現行の居宅介護(身体介護・家事援助)、並びに行動援護の改善【D-1-1】【D-2-2】 ○重度訪問介護の充実・発展によるパーソナルアシスタンス制度の確立の一方、組み合わ せ型の支援として居宅介護や行動援護も改善をしていくべきである。 ○居宅介護(身体介護・家事援助)においても、各障害特性やニーズをふまえた柔軟な利 用ができ、評価される仕組みにすべきである。 ○行動援護は、サービス利用に当たっての段取り的役割を評価し、居宅介護などと組み合 わせて家族同居やGH・CHでの生活にも積極的に活用可能とするべきである。 4.見守りや安心確保も含めた人的サポートの必要性【D-1-1】【D-2-3】 ○現行の重度訪問介護を知的障害者や精神障害者等にも拡大する際には、家事援助・身体 介護・移動支援的対応だけでなく、金銭やサービス利用の支援、さらには、見守りも含め た利用者の精神的安定のための配慮や適切な対応等が提供される便宜の内容として位置づ けられるべきである。 ○重度訪問介護だけでなく、居宅介護等においても、利用者の症状の波による「急なキャ ンセル」や玄関先での待機や安否確認等の障害特性をふまえた柔軟な見守り対応が評価さ れる仕組みが必要である。 5.地域における医療的ケアの確保【D-2-4】 ○「パーソナルな関係性の中で、個別性を重視して、特定の者に対して行う地域生活に必 要な医療的ケア(吸引等の他に、カニューレ交換・導尿・摘便・呼吸器操作などを含む)」 が、本人や家族が行うのと同等な、「生活支援行為」として、居宅や学校、移動中など、地 域生活のあらゆる場面で確保されるべきである。 ○一方で入院が必要な場合には、慣れた介護者(ヘルパー)によってサポートが得られる ようにして、必要な医療を得ながら、地域生活が継続できるようにしていくことが必要で ある。 ○なお、上記の論点に関する議論や資料を、現在進められている「介護職員によるたんの 吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」等にも提供し、調整を図る必要性が ある。 ※さらに、医療的ケアに関する検討を、第2期の医療と障害児チームで検討してもらえる よう提案する(III おわりに参照) 6.シームレスな支援と他分野との役割分担・財源調整【D-3-1】 ○どんなに障害が重度であっても、地域の中で「他の者」と平等に学び、働き、生活し、 余暇を過ごすことができるような制度が必要である。 ○例えば、重度訪問介護等において支給量の範囲で「通勤・勤務中、通学・授業中、通院・ 入院中、1日を超える外出、通年かつ長期にわたる外出、自動車運転中」をサービス利用 の対象に位置づけるべきである。 ○シームレスな支援を確保するために、障害者雇用納付金や介護保険、教育など関連分野 の財源を調整する仕組みの検討が必要である。 7.パーソナルアシスタンスと資格等のあり方【D-2-1】他 ○資格等については、第2期の報酬・人材確保チームで検討が行われることになるが、特 に、パーソナルアシスタンスをめぐる資格等について、以下の点をふまえた検討がなされ るべきである。 ○パーソナルアシスタンスの資格については、従事する者の入り口を幅広く取り、OJT を基本にした研修プログラムとすることや、OJTを基本にすることから同行研修期間中 の報酬等も検討される必要がある。 ○外形的な資格ではなくて、実際に障害者の介護に入った実経験時間等の評価方法等の検 討も必要である。 ○居宅介護、行動援護等に関しても、よりOJT的な研修を重視する方向で見直しがなさ れるべきである。 8.支援(サービス)体系のあり方や名称、その他【D-1-2】 ○現行の介護給付、自立支援給付、地域生活支援事業とのサービス体系は根本的にあらた めて、障害者の生活構造の中で果たす機能や役割にそって整理される必要がある。 ○「介護給付」の中には居宅介護や重度訪問介護等のいわゆる訪問系サービス、生活介護 等の日中活動支援、共同介護等の居住支援等が混在しており、整理が必要である。また、 その名称も介護保険の「介護保険給付」との混同がされやすく、見直しが必要である。 ○現行の訪問系サービスを「個別生活支援」として再編し、その下に(1)個別包括支援=重 度訪問介護を充実・発展させた類型、(2)居宅介護=身体介護、家事援助、(3)移動介護(社 会参加や余暇支援を含む)=移動支援、行動援護、同行援護、といった類型を位置づけて 整理・発展させる。 ○GH・CHを居住支援の一形態として位置づけ、GH・CH利用者が居宅介護等を併給 できるようにすべきである。 III おわりに−第二期チームでの検討課題について ※【】はチーム名 (1)24時間の支援を含む長時間利用者の市町村負担の低減のための財政調整、国・都道府県 の財政責任強化と国庫負担基準廃止も含めた見直し【地域生活資源整備】 (2)人材確保ができるような報酬単価とOJTを重視した資格や研修【報酬単価・人材確保】 (3)本人や家族が行うのと同等な「生活支援行為」として医療的ケア確保 【医療チーム、障害児】 (4)「介護保険優先」原則の見直しに関連して【地域生活資源整備他】 --------- 【「施策体系〜訪問系」部会作業チーム報告書】 I はじめに −主な検討範囲と検討経過−  当チームの検討範囲としては、施策体系チーム共通の【D-1-1】【D-1-2】に 加え、【D-2】生活実態に即した介助支援等実態に即した介助支援等の全項目、 並びに【D-3-1】が検討範囲であった。  総じて、障害者権利条約・第19条に示されている「障害者の地域で生活する 権利」を具現化していくために、パーソナルアシスタンスの実現を含めて、現 行の訪問系サービスに関連した事項を取り扱った。  当チームの特色として、実際に訪問系サービスを利用して地域生活をしてい る障害当事者やその家族、並びに支援者等で構成されている点があげられる。 そうした特性をふまえて、座長・副座長から構成員にテーマを割り振った上で 発題をしてもらう形で検討を進めた。さらに、その中で、構成員以外からヒア リングが必要な項目について参考人からのヒアリングも行った。ヒアリング項 目は下記の通りである。 ●構成員からのヒアリング [1]障害者の地域自立生活とパーソナル・アシスタント・サービスの意義、[2]見 守り支援、[3]医療的ケアを含む支援、[4]シームレスな支援、[5]移動支援と行動 援護 ●参考人からのヒアリング [1]学校における介護・医療的ケア、[2]精神障害者のホームヘルプサービスの現 状と課題、[3]知的障害者の移動と生活支援の実際 ※なお、参考人に対する謝金や交通費等の支給はなく、全くの手弁当という条 件下での実施となった。そのような条件にもかかわらず、ヒアリングに快く応 じて頂いた参考人の皆様に、心よりお礼を申し上げたい。  これらのヒアリングを通しながら、座長・副座長作成の論点項目にそって構 成員で検討を進めた。 II 結論とその説明 1.重度訪問介護の発展的継承による「パーソナルアシスタンス制度」の 確立【D-1-1】【D-1-2】【D-2-1】【D-2-3】【D-2-4】【D-2-5】 1) 「パーソナルアシスタンス制度」確立の方向性 結論 ○「パーソナルアシスタンス制度」の確立に向けて、現行の重度訪問介 護を改革し、充実発展させる。  障害者権利条約第19条において地域自立生活のために不可欠な援助として位 置づけられている「パーソナルアシスタンス」とは、「いわゆるホームヘルプ サービスなどのケアワークのオルタナティブとして、1970年代以降の自立生活 運動を中心とする障害当事者運動のなかで求められ、…(中略)…基本的には [1]利用者による介護者の募集、[2]利用者と介護者の雇用計画、[3]利用者の指示 に従った介護、[4]公費による介護費用の提供といったことが前提とされるもの である。」(岡部耕典「障害者自立支援法とケアの自律」p.104)  日本におけるパーソナルアシスタンス制度は、1974年に創設された東京都重 度脳性麻痺者介護人派遣事業や1975年に開始された生活保護他人介護加算特別 基準適用を利用する公的介護保障運動を嚆矢とする。それが自立生活運動にお ける「介助」として継承され、自立生活センターという「当事者主体のサービ ス提供組織」が既存の市町村ホームヘルプサービス事業等を活用しつつパーソ ナルアシスタンスを提供するしくみが1990年代以降全国に拡大していったので ある。 これらの延長に、2003年開始の支援費制度における「日常生活支援」の全国制 度化があり、障害者自立支援法における「重度訪問介護」があることを忘れて はならない。こういった歴史的・制度的経緯を踏まえ、障害者総合福祉法(仮 称)における「パーソナルアシスタンス」の確立は重度訪問介護の発展的継承 にあることをまず確認しておく必要がある。 2)「対象者」の拡大 結論 ○対象者は「重度の肢体不自由者」に限定されるべきではない。  ただし、現行の障害者自立支援法における重度訪問介護の対象者は、「重度の 肢体不自由者であって常時介護を要する障害者」(第5条2)、具体的には、脳 性まひ、頸椎損傷、筋ジストロフィ等による四肢麻痺があり、障害程度区分4 以上の障害者に限定されている。  障害の社会モデルを前提とする障害者権利条約及び「谷間のない制度」をめざ す総合福祉法(仮称)の趣旨を踏まえれば、このようなインペアメントの種別 と医学モデルに基づく利用制限は不適切といえる。「身体介護、家事援助、日 常生活に生じる様々な介護の事態に対応するための見守り等の支援及び外出介 護などが、比較的長時間にわたり、総合的かつ断続的に提供されるような支援」 (2007年2月厚生労働省事務連絡)を難病/高次脳機能障害/盲ろう者等を含 む「日常生活全般に常時の支援を要する」(同)すべての障害者に対して利用 可能としなくてはならない。  特に、[1]重度自閉/知的障害者等で行動障害が激しい[2]中軽度知的//発達/ 精神障害であっても「触法行為」に通じかねない行為やトラブルが絶えない等 の理由で、これまで入所施設や病院からの「地域移行」が困難とされてきた人 たちが、地域生活を継続するためには、常時の「見守り支援」を欠かすことは できない。また、現行制度においては重度訪問介護の対象となっていない児童 についても、少なくとも介護に欠ける場合や将来親元からの自立を目指す場合 には対象とされるべきである。 3) パーソナルアシスタンスの基本条件と利用制限の撤廃 結論  ○パーソナルアシスタンスとは、[1]利用者の主導(含む・支援を受けての主導)、 [2]個別の関係性、[3]包括性と継続性を前提とする生活支援である。 ○重度訪問介護の利用に関する利用範囲の制限をなくし、支給量の範囲内で通 勤・通学・入院時・1日の範囲を越える外出・運転介助にも利用できるようにす べきである。  新たなパーソナルアシスタンス制度の在り方については、[1]「個々の障害者が 自己選択、自己決定し行おうとすることをサポートする人がパーソナルアシス タント」「保護し、管理するのではなく、支援する」「当事者本人に主体性が ある」「(非当事者・専門家の相談援助ではなく)当事者のピアカウンセラー」 (以上【D-2-1】に関する構成員からの発題10月26日報告)、[2]「見守り」「手 伝ってもらう」「いっしょに」「どっかに行くとき、キップを買うとき、わか りやすくしてくれる人」「むずかしい話があったらそばで支援者に教えてもら いたい」(以上【D-2-3】に関する構成員からの発題10月26日報告)、[3]「通 勤中や勤務中での介護」「通学中や学校内での介護」「通院時」「入院時」… 「ヘルパー制度が別建てとなっているのは不都合」「自分の体にあった特殊な 介護方法に熟練したヘルパー」(以上【D-3-1】に関する構成員からの発題10 月26日報告)などの見解が、実際にパーソナルアシスタンスを利用している当 事者委員より表明されている。  すなわち、重度訪問介護の発展的改革にあたっては、[1]利用者の主導(ヘルパ ーや事業所ではなく利用者がイニシアティブをもつ支援)、[2]個別の関係性(事 業所が派遣する不特定の者が行う介護ではなく利用者の信任を得た特定の者が 行う支援)、[3]包括性と継続性(援助の体系によって分割・断続的に提供され る介護ではなく利用者の生活と一体になって継続的に提供される支援)が確保 される必要がある。また、現行のような代理受領のしくみを前提としつつこれ らの基本要件を担保するためには、サービスの提供やコーディネートにおいて、 「利用者主体のサービス提供組織」(副座長11月19日報告より)を積極的に 位置づけ活用することが重要である。  また、包括性と継続性といった点から、現行の「通年長期」や「一日の範囲で 用務を終えるもの」「社会通年上適切でない外出を除く」、運転介助等の制限 が大きな問題となっている。  こうした制限をなくし、支給量の範囲内で通勤・通学・入院時・障害者の自家 用車等の運転時・宿泊外出等にも利用できるようにすべきである。(6.シー ムレスな支援と他分野との役割分担・財源調整の項参照)   2.「他の者」との平等な社会参加の確保と移動支援の個別給付化【D-2-2】 結論 ○視覚障害者・児のみならず他の障害者・児の移動支援も基本的に個別給付と して、国の財政責任を明確にすべきである。 ○個別給付化を行うに当たっては、「他の者と平等」な参加ができるよう、対 象者・利用目的(通所や通学や入院・入所者等の外出を含む)・支給決定量や 方法・ヘルパー研修等、先進的な自治体の取り組みをふまえて柔軟にできるよ うにすべきである。 ○当面、地域生活支援事業の中の移動支援部分のみ別枠で、国1/2・都道府県 1/4の補助金精算という仕組みにする等、国・都道府県の財政支援を強化すべき である ○車を使っての移動介護は不可欠な場合があり、報酬の対象とする  知的障害者等の地域での自立生活や移動支援に取り組んでいる支援者から、参 考人ヒアリングを行った。その中で、ガイドヘルプについて、「本人は自らの 世界を拡げ、外出にとどまらず生活全体の家族からの自立を展望するようにな りました。また、その姿をみた家族も入所施設しか将来展望を見出していなか ったことを見直す契機とすることもできました。いわば移動介護は社会参加を 行いながら、「自立の一歩」の意味合いの意義をもってきた」と、その意義が 確認された。  「地域生活支援事業への国の不十分な補助金で地方自治体の自己負担は増大 し、その結果移動支援の時間数や支給対象の絞込みや様々な利用制限が行われ てもいるし、市町村格差は拡大」したとの自治体の調査結果とともに、地域生 活支援事業化に伴う問題点が指摘された。  こうした点をふまえて、今後、移動支援を個別給付とし国の財政責任を明確に すべきである。ただし、その際、「他の者と平等」に社会に参加できるよう、 柔軟な利用ができるように、以下のような仕組みとすべきであるとの指摘があ った。  [1]対象は「必要とする人」に拡げる、[2]通学・通所支援、入院時の支援ができ ることを明確にする、また、自立生活に向けた体験時利用も可とする、[3]個々 人の必要に応じて支給すべきで、一律の上限を設けるべきではない、[4]支給方 法は自治体にまかせる(月をまたいでの支給決定など)、[5]ヘルパー要件につ いては、当事者を講師とすることを組み込んだ簡易な研修を最低限の必須研修 とする等。  いずれにせよ、当面、予算措置を行い、地域生活支援事業の中の移動支援部分 のみ別枠で、国1/2・都道府県1/4の補助金精算という仕組みにする等、国・都 道府県の財政支援の強化が必要である。 また、車を使っての移動について、現在、ヘルパーが運転する時間は報酬算定 外となっていることについて、障害者所有の自家用車等は運送法上に合法であ るので対象にするべきとの提起も、作業チーム構成員からあった。 3.現行の居宅介護(身体介護・家事援助)、並びに行動援護の改善【D-1-1】 【D-2-2】 結論 ○重度訪問介護の充実・発展によるパーソナルアシスタンス制度の確立の一方、 組み合わせ型の支援として居宅介護や行動援護も改善をしていくべきである。 ○居宅介護(身体介護・家事援助)においても、各障害特性やニーズをふまえ た柔軟な利用ができ、評価される仕組みにすべきである。 ○行動援護は、サービス利用に当たっての段取り的役割を評価し、居宅介護な どと組み合わせて家族同居やグループホーム・ケアホームでの生活にも積極的 に活用可能とするべきである。  精神障害者のホームヘルプに関する研究プロジェクトに携わった研究者より 参考人ヒアリングを行ったが、「自立支援法下では、精神障害者へのホームヘ ルプの大半が家事援助に切り換えられ混乱が生じている」との問題指摘があっ た。精神障害者のホームヘルプの支援内容の実態から、「単なる家事援助では なく、見守りも含めた、利用者の精神的安定のための配慮や適切な対応を行な っていることが評価される必要がある」との提言があった。また、利用者の症 状の波による「急なキャンセル」にも、玄関先での待機や安否確認等が評価さ れるべきである。  また行動援護については、構成員より「移動介護を個別給付に位置づける際、 特別な配慮の元での支援を必要とする方へ本人の行動を適切に援護していく専 門性を提供する支援」とされた。加えて、「特別な配慮に含まれている専門性 は、子育て、保育、教育、専門療育、地域活動、就労といったあらゆる場面で 活かされる必要がある」と、その意義と、障害児の段階から利用できる支援と しての重要性も提起された。特に、具体的なサービス利用場面までに至る、事 前の見通しや段取りの部分での役割が期待される。そうした点から、家族同居 やGH・CH等での生活の時に、居宅介護等と組み合わせて活用し、その後パ ーソナルアシスタンスの活用に移行していくこと等が想定されるとの提起もあ った。 4.見守りや安心確保も含めた人的サポートの必要性【D-1-1】【D-2-3】 結論 ○現行の重度訪問介護を知的障害者や精神障害者等にも拡大する際には、家事 援助・身体介護・移動支援的対応だけでなく、金銭やサービス利用の支援、さ らには、見守りも含めた利用者の精神的安定のための配慮や適切な対応等が提 供される便宜の内容として位置づけられるべきである。(資料) ○重度訪問介護だけでなく、居宅介護等においても、利用者の症状の波による 「急なキャンセル」や玄関先での待機や安否確認等の障害特性をふまえた柔軟 な見守り対応が評価される仕組みが必要である。  知的障害者の当事者委員からは、「現状では認められないので、見守りが少な い。家の掃除、電球の取り替え、家電の故障、家の扉の修繕、家の足りないも のの買い物、家の回りの掃除、大家さんなどに謝る場合、など介護者がいると いないで大分違う」といった具体的な実例を踏まえ、「見守り支援」の重要性 が提起された。また、「行動援護相当の重度の知的障害者に加えて中軽度の人 も見守りが必要な人が少なくない」ことも指摘されている。知的障害者の地域 生活においては、「[1]排泄、入浴、着替え、服薬等の身体介護」「[2]買い物、 食事、洗濯、掃除、整理整頓等の家事援助」「[3]買い物や外食、余暇活動等の 移動支援」とあわせて、「[4]上記[1]〜[3]を含めた見守り支援」が必要である。  また、精神障害者のホームヘルプに関するヒアリングにおいても、実際に提供 されている「サービスの内容としては、『家事全般』『生活環境の整備』に留 まらない生活スキルの獲得、困りごとの解消、社会参加の促進、権利擁護等、 『家事援助』ではくくりきれない様々なことを行われており、他機関・他サー ビスでなかなか提供しにくい内容も含む貴重なもの」であることが確認されて いる。  さらに、個別の介助支援において見守りも含めた支援の充実を前提にして(そ の代替としてではなく)、ピアカウンセリングや自立生活体験、障害者本人の エンパワメントや自己決定のプロセス(支援をうけた自己決定)等の充実の必 要性、並びにヘルパーによる支援との連携も提起されている。 5.地域における医療的ケアの確保【D-2-4】 結論 ○「パーソナルな関係性の中で、個別性を重視して、特定の者に対して行う地 域生活に必要な医療的ケア(吸引等の他に、カニューレ交換・導尿・摘便・呼 吸器操作などを含む)」が、本人や家族が行うのと同等な、「生活支援行為」 として、居宅や学校、移動中など、地域生活のあらゆる場面で確保されるべき である。 ○一方で入院が必要な場合には、慣れた介護者(ヘルパー)によってサポート が得られるようにして、必要な医療を得ながら、地域生活が継続できるように していくことが必要である。 ○なお、上記の論点に関する議論や資料を、現在進められている「介護職員に よるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」等にも提供し、 調整を図る必要性がある。 ※さらに、医療的ケアに関する検討を、第2期の医療と障害児チームで検討し てもらえるよう提案する(III おわりに参照)  自ら医療的ケアを受けながら地域生活をしている作業チーム構成メンバーか ら、「介護職員によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討 会では議論にされていないが、医療行為と日常生活の支援である医療的ケアを 分ける必要がある」との指摘がなされた。その上で、「[1]日常生活の支援とし ての医療的ケアは、医療行為をヘルパーが行うということではなく、普通であ れば本人や家族が行うことをヘルパーが本人に代わり行っているということで ある。[2]シームレスな支援であるパーソナルアシスタンスの中で医療的ケアが できるようにするためには、よく知っている介助者が無理なく医療的ケアがで きる仕組みにする必要がある」との提起がなされた。  学校における医療的ケアについて取り組んでいる学校関係者からの参考人ヒ アリングでは、特別支援学校、通常学校それぞれでの課題について報告がなさ れた上で、上記の「介護職員による…」検討会で、それまでの研究会での「こ の報告書に書かれていない行為は全て禁止であるというような反対解釈をされ るべきではない」とされていた了解事項が正しく引き継がれておらず調整が必 要との指摘があった。  両方のヒアリングから共通して言えることは、「パーソナルな関係性の中で、 個別性を重視して、特定の者に対して行う医療的ケア」が、本人や家族が行う のと同等な「生活支援行為」として確保されるべきであるということである。  また、一方で入院が必要な場合には、慣れた介護者(ヘルパー)によってサポ ートが得られるようにして、必要な医療を得ながら、地域生活が継続できるよ うにしていくことが必要である。 6.シームレスな支援と他分野との役割分担・財源調整【D-3-1】 ○どんなに障害が重度であっても、地域の中で「他の者」と平等に学び、働き、 生活し、余暇を過ごすことができるような制度が必要である。 ○例えば、重度訪問介護等において支給量の範囲で「通勤・勤務中、通学・授 業中、通院・入院中、1日を超える外出、通年かつ長期にわたる外出、自動車運 転中」をサービス利用の対象に位置づけるべきである。 ○シームレスな支援を確保するために、障害者雇用納付金や介護保険、教育な ど関連分野の財源を調整する仕組みの検討が必要である。 日本における介護制度では、通勤・勤務中、通学・学校内、入院中等の介護が 対象外となり、並びに「一日の範囲内の用務」を超える泊まりがけの外出も原 則認められていない状況にある。そのことが、障害者の地域生活と様々な分野・ 場面における参加制約の大きな要因となっている。  「他の者との平等」の視点からどんなに障害が重度であっても、地域の中で「他 の者」と同じ生活を営み、共に育ち、学び、「他の者」と同じ職場で仕事をこ なし、「他の者」と同様に余暇を過ごすことができるような制度が必要である。  そのためには、例えば、重度訪問介護等において支給量の範囲内で「通勤・ 勤務中、通学・授業中、通院・入院中、1日の範囲を超える外出、通年かつ長期 にわたる外出、自動車運転中(道路運送法違反にならない障害者の自家用車等 の場合)」をサービス利用の対象に位置づけるべきである。当面、現在の「通 年長期」や「一日の範囲で用務を終えるもの」「社会通年上適切でない外出を 除く」といった制限を早急に取り除き、また入院中の利用も認められるように すべきである。  その際、シームレスな支援を確保するために、障害者雇用納付金や介護保険、 教育など関連分野の財源との調整をする仕組みも必要である。 7.パーソナルアシスタンスと資格等のあり方【D-2-1】他 結論 ○資格等については、第2期の報酬・人材確保チームで検討が行われることに なるが、特に、パーソナルアシスタンスをめぐる資格等について、以下の点を ふまえた検討がなされるべきである。 ○パーソナルアシスタンスの資格については、従事する者の入り口を幅広く取 り、OJTを基本にした研修プログラムとすることや、OJTを基本にするこ とから同行研修期間中の報酬等も検討される必要がある。 ○外形的な資格ではなくて、実際に障害者の介護に入った実経験時間等の評価 方法等の検討も必要である。 ○居宅介護、行動援護等に関しても、よりOJT的な研修を重視する方向で見 直しがなされるべきである。  1.で「パーソナルアシスタンス」制度の確立に向けた重度訪問介護の発展的 改革の内実として、[1]利用者の主導(含・支援を受けての主導)、[2]個別の関 係性、[3]包括性と継続性の3点をあげた。 これまでの研修は、主に事業者が不特定多数の者を対象に派遣を行う際に一定 の「質」を担保することを主眼にされている。それに対し、パーソナルアシス タンスで求められる「質」は、その利用者の主導性の下、個別の関係性の中で、 個別性の強い支援に対応できるかが主眼となる。当然、研修のあり方は、この 点をふまえたものでなければならない。 パーソナルアシスタンスの資格については、現在の重度訪問介護研修よりも従 事する者の入り口を幅広く取り、OJTを基本にした研修とする必要がある。 また、慣れたヘルパーとの同行訪問研修期間が、他の類型よりも長期間に及ぶ ことから、同行研修も評価される必要がある。  また、居宅介護や行動援護等に関するヒアリングでも、これらの研修につい て、OJT的な研修が重視されるべきであるとの提起がなされた。 8.支援(サービス)体系のあり方や名称、その他【D-1-2】 結論 ○現行の介護給付、訓練等給付、地域生活支援事業とのサービス体系は根本的 にあらためて、障害者の生活構造の中で果たす機能や役割にそって整理される 必要がある。 ○「介護給付」の中には居宅介護や重度訪問介護等のいわゆる訪問系サービス、 生活介護等の日中活動支援、共同介護等の居住支援等が混在しており、整理が 必要である。また、その名称も介護保険の「介護保険給付」との混同がされや すく、見直しが必要である。 ○現行の訪問系サービスを「個別生活支援」として再編し、その下に[1]個別包 括支援=重度訪問介護を充実・発展させた類型、[2]居宅介護=身体介護、家事 援助、[3]移動介護(社会参加や余暇支援を含む)=移動支援、行動援護、同行 援護、といった類型を位置づけて整理・発展させる。 ○グループホーム・ケアホームを居住支援の一形態として位置づけ、グループ ホーム・ケアホーム利用者が居宅介護等を併給できるようにすべきである。  今後の支援体系について、障害者権利条約をふまえ障害当事者主体(自律・ 自己決定)のもと、地域生活が可能(施設・病院から地域自立生活への移行を 含む)となるような支援体系として構築する必要がある。  また、現行の「介護給付」「訓練等給付」「地域生活支援事業」といった体 系は、「介護保険との統合」を視野においたものと言わざるをえない。そのた め、例えば、重度訪問介護や居宅介護等の個別ケア的な支援、生活介護等の日 中活動的な支援、ケアホーム等の居住支援等が「介護給付」の下に一括りにな っており、障害者の生活構造の中での機能や役割からの整理とは異なっている。 さらには、「介護給付」という名称も、そのニードと支援実態を適切に表して いるとは言い難い上に、介護保険の「介護保険給付」との混同も生みかねない。 2010年の障害者自立支援法訴訟団との基本合意文書においても「国(厚労省) は…現行の介護保険制度との統合を前提とはせず」と明記されている点からも、 その名称も含めて、サービス体系の大幅な見直しが必要である。  また、支援体系の見直しの中で、グループホーム・ケアホームは多様な住ま い方支援の一つとして位置づけなおすならば、他の在宅障害者と同様に居宅介 護・行動援護等を併給できるようにすべきである。そのことにより、ケアホー ム等から単身生活への移行準備につながるという効果が得られる。 III おわりに  以上のように、障害者の地域生活の権利を具現化していく支援として、パー ソナルアシスタンスを含めた現訪問系サービスのあり方の見直しを行ってきた。 ただ、その地域生活の権利を実現していくために、以下のような点について第 二期チームの中での検討をお願いしたい。 [1]24時間の支援を含む長時間利用者の市町村負担の低減のための財政調整、 国・都道府県の財政責任強化と国庫負担基準廃止も含めた見直し  重度訪問介護の発展類型である個別包括支援は、長時間の支援が確保される ように、長時間部分の市町村負担(現状25%)の低減のための市町村間の財 政調整、国・都道府県の財政責任の強化の仕組み、並びに現行の国庫負担基準 について廃止も含めた見直しが必要である。 [2]人材確保ができるような報酬単価とOJTを重視した資格や研修  自立支援法施行以降、ヘルパーの人材確保は困難を究めた。未だに重度訪問 介護を提供できる事業所がない自治体もある。人材確保ができる報酬単価の設 定と、パーソナルアシスタンスの特性をふまえたOJTを重視した資格や研修 の検討が必要である。また、現行の重度訪問介護は、パーソナルアシスタント 化で単価が下げないことが必要である。さらに、重度訪問介護(8時間を基本 とした単価設定)を短時間で区切って利用するように強要する市町村も後を絶 たないため、連続8時間以上の利用を原則とし、それ以下の1回あたり短時間 のサービスの場合は身体介護等と同じ単価にすることが必要である。 [3]本人や家族が行うのと同等な「生活支援行為」として医療的ケア確保  先述の通り、「パーソナルな関係性の中で、個別性を重視して、特定の者に 対して行う医療的ケア」は、例えば、施設職員が入居者に対して行うそれとは 相当異なった特質を持つ。そうした点をふまえた検討がなされるとともに、他 部局で行われている検討会等との調整を図るようにするべきである。また、学 校等での医療的ケア確保の検討も必要である。 [4]「介護保険優先」原則の見直しに関連して  どの支援を使うかを本人が選択できるようにすべきであり、例えば、介護保険 からの給付金額相当を重度訪問介護に利用できるようにするなどが検討される べきである。少なくとも地域生活の継続が損なわれることのないよう、それま で使っていた支援が使えない、支給量が減らされるといったことが生じないよ うにすべきである。   資料  パーソナルアシスタンスにおける「見守り」支援  従来より「支援のための待機状態」である「狭義の見守り」(※1)のみが焦点 化されその是非が議論される傾向があるが、知的障害者等を中心に実際に地域で 支援を受けつつ自立した生活を送るためには自律支援の便宜の内容を包括的に提 供する「広義の見守り」(※2)を必要とする障害者が多く存在する。重度訪問 介護の対象拡大に際してはこのような「広義の見守り」も提供する便宜の内容に 含むサービス概念の拡張及びその必要性を勘案しうる支給決定の在り方が必須で あり、障害者権利条約が求める「支援を受けた意志決定」の確保及び推進会議第 二次意見における「自己決定の権利とその保障」の観点からも要請されることを 確認しておきたい。   自立支援と自律支援の便宜の内容 類  型     自立支援 便宜の内容     ・身体介護(入浴、排泄、食事、着替え、服薬、洗顔、歯磨き、髭剃り、爪切り 等)     ・家事援助(調理、食事準備、後かたづけ、買物、掃除、洗濯、布団干し、ごみ 捨、整理整頓等)     ・移動介護(公共機関、通院、余暇活動、買物、会議への参加等)     ・行動援護(強度行動障害に対する予防的・制御的・身体介護的対応)    <上記の便宜の内容に加えて下記等を含み、かつそれが統一的に提供されることが 必要>     ・見守り※1(上記内容を本人が実行するための声かけ、自傷・他害防止含む)     ・コミュニケーション支援     ・金銭利用支援(お金を下ろす手伝い、買物の際のお金に関するサポート)     ・話相手     ・人間関係の調整     ・緊急時の対応(体調不良時の病院への付添、事故、近所とのトラブル等) 類  型     自律支援※2 便宜の内容     ・行政手続の援助     ・金銭管理の支援(銀行口座の開設、家賃・光熱費の引落、お金の下ろしかたや 使い方の相談)     ・健康管理の支援(病院を選ぶ相談、病院への同行、病気の内容や薬に関する説 明、薬の管理等)     ・1週間、1ヶ月、1年という単位での生活のプラン作りの支援     ・社会資源のコーディネート(ヘルパーを入れる時間の相談、事業所との調整、 日中活動の場を一緒に探すこと等)     ・就労の支援(求人広告を一緒に見てできそうなことを一緒に探す、面接への同 行、ジョブコーチ等)     ・悩み事や日常生活で困った場合(例えばエアコンの操作がうまくできない等) への電話での対応     ・安全保障感確保のためにそばに待機する  総合福祉部会第5回参考資料1-2=岡部耕典(2010)『ポスト障害者自立支援法の福祉政策』 明石書店p.118を一部修正 本作業チーム報告に対して部会委員から寄せられた主な意見 ●パーソナルアシスタンスは、介助一般をさすと考えるので、現行の介護給付 および地域支援事業の移動すべてをさすのではないか。 ●移動中の介護で、通院については診察時間待ち時間や、会議中の「待機」等、 屋内でも認められるべきではないか。 ●「見守り支援」が「見張り支援」になることのないようにすべきである。社 会的生活体験を奪われているがためにたとえばごみ出しや夜間に騒音を出すな どで近所とトラブルは、「地域生活水先案内人」としてヘルパーが活動するこ とで解決できるのではないか。 ●体調の変化によるキャンセル対応や待機などは、精神障害者以外の障害者も 含めて必要としている。そのことが分かる表現とする必要があるのではないか。 ●精神障害者にとっては必要なときに必要に応じて派遣されるヘルパーが必要。 「待機型介助類型」を新たに精神障害者への介助類型として創設することか重 要ではないか。(常勤のヘルパーが待機しており、オンコールで駆けつけてく れる等) ●精神障害者の地域移行を進めるためにも入院中のヘルパー派遣ができるよう にすべきではないか(精神病院入院中から地域のヘルパーが使えて、地域生活 に慣れていくことが重要) ●社会資源の不足、人材の質量ともに不足している中で、アウトリーチ的に、 重層的にそれら人材への技術支援ができるようにする必要があるのではないか。 ●いろいろな給付が統括的な方向で整理されていくことについては賛成。その 中に、難病患者の居宅生活支援事業等も念頭においた統括について検討が必要 ではないか。 ●現行の訪問系サービスに関する新しい名称について「個別生活支援」だと訪 問系以外の支援にもよく似た名前があるので、違いが分かるような名称の検討 が必要ではないか。 ●パーソナルアシスタンスの名称について、本人主導・本人中心というイメー ジが出るように、「本人中心介助」がよいのではないか ●都道府県の財政支援強化について他チームとの検討結果とすり合わせる必要 があるのではないか --------- 「施策体系〜日中活動とGH・CH・住まい方支援」部会作業チーム報告書の概要 1.日中活動 (1)発達障害、高次脳機能障害、難病、軽度知的障害などのある人たちへの必要な福祉サー ビスについて  居宅介護や通院介助、移動支援などとともに、特に、相談支援(アウトリーチ等含む) の拡充が必要。また、障害特性に応じた生活訓練(訪問型を含む)、就労支援や居場所の提 供などが必要。 (2)現行の介護給付、訓練等給付と地域生活支援事業という区分について  個別給付として一本化することが適当。また、現行の地域生活支援事業のような市町村 の裁量に配慮した仕組みを設けることが必要。ただし、その仕組みや福祉サービスについ ては再検討が必要。 (3)自立訓練(機能訓練・生活訓練)、生活介護等の日中活動系支援体系のあり方について  現行の「自立訓練」的な支援内容も必要。標準利用期限の設定は、個々人の状況に応じ たものとするべき。日中活動サービスは、従来の創作・趣味活動、自立訓練、生産活動と ともに、居場所の提供なども含み広くとらえることが必要。また、医療的ケアを必要な人 には、看護師を手厚く配置。視覚、聴覚障害のある人たちには、通訳・介助員を付けるこ とが必要。  支援体系は、例えば、デイアクティビティセンター(仮称)とし、そこで個別のニーズ に応じたプログラムを提供する、よりシンプルな体系にすることが必要。一方、個別のニ ーズに応じたプログラムの提供を一定水準保障する職員の配置等を確保するための基準と 計画行政の観点から一定の事業体系(サービス体系)の設定も考慮。 (4)療養介護等の重症心身障害児・者への支援について  通園・通所サービスの法定化が必要。現行の療養介護事業は通所の医療施設にも認める ことが必要。また、現行の生活介護を利用する場合、看護師を手厚く配置するなどの支援 体制が必要。一方、成人となった場合、成人としての人権に配慮した、年齢相応の日常生 活を支援することが必要。その際、医療を含む支援体制が継続的に一貫して確保できるよ うな仕組みが必要。 (5)地域活動支援センター、日中一時支援、短期入所について  地域活動支援センターは様々な実態があり、個別給付に馴染む場合や相談やたまり場的 な内容のものもある。今後、それらの機能を整理し、どのように制度の中で位置付けるか 検討が必要。日中一時支援は、全国どこでも使えるようにするため、短期入所の日中利用 (個別給付)に戻すことが必要。短期入所の日中利用はサービス間の隙間を埋めるために タイムケア型を検討することが必要。  また、短期入所についても医療的ケアを必要とする人への配慮が必要。なお、現行の医 療型の短期入所では、日中利用後の短期入所の報酬設定がなく、児童・18歳以上と同じよ うな制度設計にすることが必要。 (6)定員の緩和等について  過疎地等の事業所が5名でも事業を展開できる何らかの仕組みが必要。一方、重症心身 障害児・者通園事業B型への今後の対応についても十分に配慮することが必要。 (7)日中活動への通所保障について  日中活動への移動支援(送迎)は不可欠。その費用を報酬上評価する仕組みが必要。な お、報酬の算定にあたっては、移動支援(送迎)の支援内容を再検討するとともに、公共 交通機関等による通所者の扱いを併せて検討することが必要。 2.グループホーム・ケアホーム (1) グループホーム・ケアホームの制度について [1]グループホーム等の意義について  グループホーム等での支援は、地域生活における居住空間確保と基本的な生活支援等と 一人ひとりに必要なパーソナルな支援の両方が重なったもの。その人らしさを発揮できる 状況を生み出し、住民として暮らしていくための住まい方支援のひとつ。なお、「特定の生 活様式を義務づけられない」ためにも、それらを唯一のものとせず、自分で自分の暮らし を選ぶ、選択肢の一つと考えることが必要。 [2]グループホーム・ケアホームの区分と設置基準等のあり方について  グルーホームに一本化することが妥当。定員規模は家庭的な環境として4〜5人の規模 を原則とすることが必要。また、同一敷地内のとらえ方など再検討することも必要。 [3]グループホーム等の生活支援体制のあり方について  グルーホーム等で提供する標準的サービスと一人ひとりが必要に応じて利用するサービ スとの関係を検討・整理し、居宅介護等の訪問系サービスの活用を含めた生活支援体制を 確保することが必要。一方、高齢化等により日中活動サービスに通うことが困難又はそれ を必要としない人の日中支援のあり方を検討することも必要。 (2)グループホーム等の設置促進について  国庫補助での整備費の積極的な確保が重要。また、重度の障害や様々なニーズのある人 への支援も想定し、安定的運営に係る報酬額が必要。一方、建設する際の地域住民への理 解促進について、事業者にのみに委ねる仕組みを見直し、行政と事業者が連携・協力する 仕組みとすることが必要。 (3)民間住宅の活用促進のための建築基準法の見直し  民間住宅の活用促進のため、建築基準法の規制を緩和し、一般住居として取り扱うこと が必要。 3.住まい方支援 (1)地域での住まいの確保(居住サポート事業)等について  現行の居住サポート事業の重要性は認められるが、相談支援事業との関連を含めた位置 付けや実施状況などを再検証し、今後の事業の制度上の位置づけを検討することが必要。 (2)一般住宅やグループホーム等への家賃補助等について  公共住宅、民間住宅等の賃貸などにおいて、障害者の受け入れを拡大していくため、厚 生労働省と国土交通省等の関係省庁が密接に連携した住宅施策を講じていくことが必要。 一方で家賃補助、住宅手当などによる経済的支援策が重要。また、民間住宅の受け入れを 拡大のため、行政による借り上げや一定以上の規模の新築集合住宅に対して、障害者に配 慮された住戸の義務付けとその公的助成などを考慮することが必要。  また、事業体に対する税制の優遇(不動産取得税、固定資産税、都市計画税等の減額も しくは免除)を設けることや住居提供者に対する経済的支援策や優遇策を講じることが必 要。 (3)公営住宅の利用促進について  優先枠の拡大に向けた何らかの仕組みが必要。一方で、公営住宅に偏重することなく、 民間の賃貸住宅への入居も進めていく施策を講じることも必要。 --------- 「施策体系〜日中活動とGH・CH・住まい方支援」部会作業チーム報告書 (目 次) 1.日中活動 (1) 発達障害、高次脳機能障害、難病、軽度知的障害などのある人たちへの 必要な福祉サービスについて  (2)現行の介護給付、訓練等給付と地域生活支援事業という区分について (3)自立訓練(機能訓練・生活訓練)、生活介護等の日中活動系支援体系のあ り方について  (4)療養介護等の重症心身障害児・者への支援について  (5)地域活動支援センター、日中一時支援、短期入所について  (6)定員の緩和等について  (7)日中活動への通所保障について 2.グループホーム・ケアホーム  (1)グループホーム・ケアホームの制度について   [1]グループホーム等の意義について   [2]グループホーム・ケアホームの区分と設置基準等のあり方について   [3]グループホーム等の生活支援機能のあり方について  (2)グループホーム等の設置促進について  (3)民間住宅の活用促進のための建築基準法の見直しについて 3.住まい方支援  (1)地域での住まいの確保(居住サポート事業)等について  (2)一般住宅やグループホーム等への家賃補助等について  (3)公営住宅の利用促進について <作業チームのメンバー> 座 長 大久保常明 社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会常務理事 副座長 光増 昌久 障害のある人と援助者でつくる日本グループホーム学 会副代表     小野  浩 きょうされん常任理事     清水 明彦 西宮市社会福祉協議会障害者生活支援グループ グルー プ長     奈良崎真弓  ステージ編集委員     平野 方紹 日本社会事業大学准教授 1.日中活動 (1)発達障害、高次脳機能障害、難病、軽度知的障害などのある人たちへの 必要な福祉サービスについて はじめに  これまでの福祉サービスは、対象に発達障害、高次脳機能障害、難病、軽度 知的障害などのある人たちなどを特に想定していないと考えられる。先ずは、 それらの人たちの福祉ニーズを把握することが前提であるが、現行の福祉サー ビスの状況を踏まえ、想定される今後の求められる福祉サービスについて検討 した。 結論とその説明 (結論1)  現行の福祉サービスでは、居宅介護(ホームヘルプ)や通院介助、移動支援 などのサービスの利用が考えられる。特に重要な福祉サービスとして、相談支 援(アウトリーチや見守り等を含む)の拡充が必要と考える。また、障害の特 性に応じた生活訓練(訪問型を含む)や就労支援や居場所(たまり場)の提供 などが必要と考えられる。 (結論1−説明1)  先ずは、個々人のニーズを把握するうえで、身近な相談支援体制が何よりも 大切となるが、これらの人たちの多くが家族との同居など在宅の場合が想定さ れる。また、現行の日中活動サービスの継続的かつ定期的な利用も想定される が、さほど多くないと思われる。 (結論1−説明2)  家族を含めた相談支援(訪問相談、見守り、環境調整などを含む。)が重要と 考えられる。つまり、福祉サービスに繋げることを中心とした相談支援だけで はなく、暮しを支える幅広い厚みのある相談支援体制を構築していく必要があ る。 (結論1−説明3)  難病の人たちには、通院介助や移動支援、居宅介護などとともに医療・リハ ビリテーションと福祉サービスの連携が必要である。発達障害、軽度知的障害 のある人については、障害特性に配慮したソーシャルスキルトレーニング(訪 問型含む)、就労支援や利用しやすい居場所(たまり場)の提供が考えられる。 おわりに  現状の相談支援事業は財政基盤が脆弱であり、かつ、その役割や機能が未整 理な状況もみられ、今後それらをどのように整理、拡充していくかという課題 がある。  なお、知的障害や発達障害のある人たちに対する生活訓練は、福祉の分野だ けでの対応ではなく、特別支援学校卒業者を対象とした専修科というかたちな ど、教育の分野での対応も検討する必要があると考える。 (1)現行の介護給付、訓練等給付と地域生活支援事業という区分について はじめに  国として、障害福祉における介護保険の活用という方向性がないなかで、こ れまでの給付体系を見直すとともに国と地方自治体の機能等を改めて検討し た。 結論とその説明 (結論1)  介護給付と訓練等給付を分ける必要性はなく、総合福祉法(仮称)において は、個別給付を一本化することが適当である。 (結論2)  総合福祉法(仮称)においても、現行の地域生活支援事業のような市町村の 裁量に配慮した仕組みを設ける必要はあると考えられる。ただし、その仕組み や福祉サービスについては再検討する必要がある。 (結論1−説明1)  介護保険の活用という前提がない今、介護給付と訓練等給付に分ける必要は ない。 (結論2−説明1)  地域生活支援事業のような市町村の創意工夫、裁量で可能となる事業の仕組 みは、残しておく必要はある。しかし、大きな地域格差が出ている現状から、 全ての自治体で一定水準の事業ができるような財政面を含めた新たな仕組みが 必要と考えられる。 (結論2−説明2)  現行の地域生活支援事業においては、個別給付に移行すべきものや個別給付 に馴染まないものなどがある。総合福祉法(仮称)でそれらを再検討すること が必要である。 おわりに  地方自治体の裁量による事業は、一方で地域格差が危惧される。全ての自治 体で一定水準の事業ができるような財政面を含めた新たな仕組みの検討が必要 と考えられる。  また、個別給付と地域生活支援事業の組み合わせやそれらに対する地方自治 体独自の上乗せなど、国と地方自治体がその役割と機能を発揮し、地域福祉が 推進されるような仕組みが期待される。 (2)自立訓練(機能訓練・生活訓練)、生活介護等の日中活動系支援体系の あり方について はじめに  現行の日中活動サービスの体系は複雑で、現実に提供されるサービス内容も 利用者のニーズの必ずしも対応できてないのではないかとの課題が見受けられ る。それらを踏まえ、今後の日中活動サービスならびにその体系のあり方に視 点を当てた。 結論とその説明 (結論1)  日中活動サービスのひとつとして、現行の「自立訓練」的な支援内容も必要 である。ただし、それぞれの障害種別から求める機能は様々であり、そのサー ビス内容については再検討が必要と考えられる。なお、標準利用期限の設定に ついては、利用者個々人の状況に応じたものとするべきで、見直す必要がある と考えられる。 (結論2)  日中活動サービスは、障害者のより身近な地域で必要なサービスが提供され ることが求められる。また、その内容は、従来の創作・趣味活動、自立訓練、 生産活動などとともに、居場所の提供なども含み広くとらえる必要がある。  また、医療的ケアを必要とする人には、看護師を手厚く配置するなどの対応 が必要であるとともに、視覚、聴覚障害のある人たちなどが日中活動サービス を利用する場合は、通訳・介助員を付ける必要がある。 (結論3)  現行の日中活動サービスの事業体系は複雑であり、就労系は別として、生活 介護、自立訓練等は、例えば、デイアクティビティセンター(仮称)としてま とめ、個別のニーズに応じた日中活動プログラムを提供するよう、よりシンプ ルな体系にする必要があると考えられる。  一方、個別のニーズに応じた日中活動プログラムの提供を一定水準保障する ための専門家や職員の配置、設備等を確保するための基準と計画行政の観点か ら、一定の事業体系(サービス体系)を設定する必要性も考えられる。 (結論1−説明1)  「自立訓練」の必要性について特に異論はみられない。実態として、特別支 援学校の新卒者には、すぐに就労継続支援B型には行けないので、「自立訓練」 を受けている人が多いと思われる。 (結論1−説明2)  日中活動サービスは個別給付であり、利用契約や個別プログラムが機能し、 それを基本とすれば、標準利用期間の設定は不要と考えられる。なお、訓練的 なサービスは有期限であることに留意する必要がある。 (結論2−説明1)  就労を中心とした現行制度には問題があり、働けないまでも、障害者の社会 参加のありかたの多様性を認める必要がある。就労せずとも地域の中で自尊心 をもって自らの役割を果たしていける環境を確保することが重要であり、社会 参加、居場所機能や文化芸術活動などについても、しっかりと日中活動サービ スに位置付けることが重要と考える。 (結論2−説明2)  医療的ケアを必要とする人も様々な日中活動サービスを求める場合があり、 それらの人を受け入れる場合は、看護師を手厚く配置したり、訪問看護との連 携が必要である。視覚、聴覚障害のある人たちなどが日中活動サービスを利用 する場合は、通訳・介助員を付ける必要がある。 (結論3−説明1)  利用者の立場からは、同じようなサービスであれば、一本化してくれた方が 分かりやすい。また、現行の日中活動サービスの体系が複雑であり、シンプル なサービス体系にする必要があるとの意見が多い。個別給付の利点を活かして、 個々人の必要に応じたサービスに基づいた支給決定に対して、事業所がそれに 応じたサービスを提供するというシンプルな仕組みが必要ではないか。 (結論3−説明2)  就労系は別として、生活介護、自立訓練等は、デイアクティビティセンター (仮称)としてまとめ、個別の要望(個別支援計画)で日中活動のプログラム 提供をするよう、多様な要望に応えられるようにすることが考えられる。 (結論3−説明3)  日中活動支援は簡素化を図り、重度や高齢、疾病等を有する人たちを主たる 対象とする生活支援型と中軽度者や就業希望者、離職者を主たる対象とした生 産活動型とし、二つの事業を多機能的に運営することも可能とする体系が考え られる。 (結論3−説明4)  支給決定されたサービスについて、それが適切に提供される体制を確保する ため、最低基準の設定が必要となる。様々な事業を一つにまとめることはでき ないのではないか。また、タイプを分けるからこそ自治体は計画的に施設を整 備し、公費を支出することができる。いずれにしても、日中活動サービスとい う大きな括りの中で、サービスメニュー(事業体系と標準化されたプログラム) は設定することになると思われる。 おわりに  現行の日中活動サービスにおける報酬体系により、事業者が報酬額に着目し たサービスを展開し、利用者のニーズと異なるサービスを利用せざるを得ない 現状がある。利用者が身近な地域で、必要とする様々なサービスを利用できる ような報酬体系を検討する必要がある。 (4)療養介護等の重症心身障害児・者への支援について はじめに  重症心身障害児・者への支援については、特に医療と福祉の連携が重要であ り、現状の課題を踏まえ、今後の方向性を検討した。 結論とその説明 (結論1)  重症心身障害児・者の通園・通所サービスの法定化が必要である。また、現 行の療養介護事業は入所医療施設のみに限定せず、通所の医療施設にも認める 必要がある。一方、現行の生活介護の通所サービスを利用する場合は、医療的 ニーズに配慮して、看護師を手厚く配置するなど職員配置等の支援体制が必要 である。 (結論2)  重症心身障害児が成人となった場合、別の法律体系のもと成人としての人権 に配慮した、年齢相応の日常生活を支援する必要がある。ただし、その際、医 療を含む支援体制の著しい変化は避けるべきであり、継続的に一貫した支援体 制が確保できるような仕組みが必要である。 (結論1−説明1)  親の人たちは、どんなに障害が重くても、できる限り地域で共に暮らしたい と願っているが、最近、特に濃厚な医療的ケアを必要とする超重症児といわれ る人たちが増加の傾向にあり、通所、通園が困難な実態がある。このため医療 型の通所の整備が要請されている。一方、生活介護事業など福祉型の通所にあ っても、重症心身障害児・者が利用するものについては、看護師の複数配置を 必須要件とする必要がある。 (結論1−説明2)  重症心身障害児者通園・通所の法定化が必要である。現行の療養介護は、医 療入所施設(病院)の入所だけに認められ、通所には認められていないという 問題がある。現行の療養介護は入所医療施設のみに限定せず、通所の医療施設 にも認めるべきである。また、重症心身障害者は、単なる生活介護による支援 となった場合、心身機能の退行やQOLの低下、環境の変化による生命の危険 なども危惧され、それらに配慮した職員配置等の支援体制が必要である。 (結論1−説明3)  重症心身障害の人にとって、生活介護は、単に介護を受けているというもの ではなく、自己実現に向けた支援体系を考える必要がある。 (結論2−説明1)  重症心身障害児者(以下「重症児者」という)は、18歳に達したからといっ て、年齢で区分し、別体系の療養介護に移行させ、かつ,係る職員やかかわり 方まで変えてしまうということは、重症児者にとって、著しい環境の変化とな り、生命の危機にさらされることになる。成人になり、法律体系が変わること になっても、職員配置基準を児童福祉法と同じくし、法律体系を超えて一貫し た支援体制を可能にする必要がある。なお、一貫した支援体制の中で、成人に は成人としての人権に配慮し、その年齢に相応の日常生活の支援を行うよう配 慮する必要がある。 (結論2−説明2)  現在の療養介護は入院を前提としている日中活動であるが、重症心身障害児 が18歳になって成人期の日中活動サービスに移行する場合の事業体制と支援体 制は一体的に運営できる配慮が必要である。事業体系は児童と18歳以上は分け ても、一体的に運営することも可能ではないか。 おわりに  現行の療養介護は、医療と福祉との報酬の差がかなり大きく、実際、事業が あっても事業を受ける医院や病院がないため、重い障害のある人の行き場がな いというような現実があるとの指摘があった。  また、現行の重症心身障害児・者通園事業を補助事業から個別給付にする場合 は、利用者が少ない地域では、経済的に運営が困難になることが想定されると の意見もあり、報酬体系の課題として検討が必要である。 (5)地域活動支援センター、日中一時支援、短期入所について はじめに  地域活動支援センター、日中一時支援、短期入所については、地域生活にお いて必要に応じて利用するなど、柔軟な日中サービスとして考えられるが、そ れらの実際の利用実態や課題を踏まえ、今後のあり方を検討した。 結論とその説明 (結論1)  地域活動支援センターについては、地域によってそのサービス内容は様々な実 態があり、日中活動サービスの個別給付に馴染む場合や相談やたまり場的な内容 のものもある。今後、それらの機能を整理し、どのように制度の中で位置付け るか検討が必要と考えられる。 (結論2)  日中一時支援については、全国どこでも使えるようにするためには、現行の 日中一時支援は、従来の短期入所の日中利用(個別給付)のように個別給付に 戻す必要がある。 (結論3)  現行の日中一時支援を廃止し、かつての短期入所の日中利用(個別給付)を 設ける必要がある。また、その日中利用はサービス間の隙間を埋めるためにも タイムケア型を検討する必要がある。また、短期入所についても医療的ケアを 必要とする人に配慮する必要がある。  なお、現行の医療型の短期入所では、日中利用後の短期入所の報酬設定がな いので、日中活動を欠席して短期入所を使うなどの不便さが出てきている。児 童・18歳以上と同じような制度設計にすることが必要である。 (結論1−説明1)  地域活動支援センターはデイアクティビティーセンターに整理する方がよい。 定員も、社会福祉法を考えると10名であればよい。特に、精神障害や知的障害 では、居場所機能の評価と再構築は大きな地域課題である。 (結論1−説明2)  制度の谷間の障害者をどうするか。例えば、難病患者に障害が発現した際、 一定期間利用することができるような制度はどう考えるか。 (結論1−説明3)  地域生活支援事業は、個別給付に馴染まないものもあるので、それはそれで 残さなくてはいけない。また、地方に行けば行くほど人が集まらない。5名で も事業を展開することができるような仕組みが必要である。気楽に利用でき、 たまり場的に利用することができる場所が望ましい。例えば、相談支援事業者 に厚みを持たせて、たまり場になり、ワンストップの相談も行い、サービスに 繋げるバイアスにもなる機能がほしい。地方では、相談やたまり場をまとめて やるような形は、特に精神の分野では広がっている。小規模多機能的なところ を残さなければ、地方ではやっていけない。 (結論1−説明4)  現行の地域活動支援センターは、地方や都市など地域によって、その機能は 多様な実態があるように思われるところから、それらの機能を整理して、今後 の制度の中での位置づけを検討する必要がある。 (結論2−説明1)  日中一時支援事業は地域生活支援事業の選択事業であり、実施していない市 町村があるようである。また、助成金や報酬が少ないため受託する事業所が少 なくなったり、事業を停止する事業者がみられる。事業者がないとの理由で実 施していない市町村も多いようである。全国どこでも使えるようにするために は、現行の日中一時支援は、従来の短期入所の日中利用(個別給付)のように 個別給付に戻すべきでないか。 (結論3−説明1)  現行の日中一時支援を廃止し、かつての短期入所の日中利用(個別給付)を 設ける必要がある。また、その日中利用はサービス間の隙間を埋めるためにも タイムケア型としてはどうか。また、短期入所についても医療的ケアを必要と する人に配慮した条件整備が必要である。 (結論3−説明2)  タイムケアサービスは恒常的でないので自治体もプランを作れない。もしや るなら、イギリスのようにチケット制にして、例えば30時間分渡す形にすれ ば自治体も対応できる。支援量を定量化していかないと基盤整備も進まない。 (結論3−説明3)  児童・18歳以上の短期入所の報酬改訂時(平成21年4月)日中活動を利用し た後の短期入所の新しい単価ができて、それまでの混乱は整理された。一方医 療型の短期入所では、日中利用後の短期入所の報酬設定がないので、日中活動 を欠席して短期入所を使うなどの不便さが出てきている。児童・18歳以上と同 じような制度設計にすることが必要である。 おわりに  現行の地域活動支援センターについては、一方で運営費(報酬)の問題が指 摘され、財政的な支援の仕組みが課題として適されている。また、短期入所に ついては、通所サービスに短期入所を併設するとともに、グループホーム等に も同様に併設すべきで、地域で生活する精神障害者が休息等の目的で気軽にそ れらを利用できることにより、地域生活の継続がより可能となるとの意見があ った。これらの日中のサービスについては、特に、必要なとき、いつでも利用 できるという視点にたって整備していくことが求められる。  なお、短期「入所」という表現が、施設への「入所」を連想させ、違和感が あるので検討を望む声があった。 (6)定員の緩和等について はじめに  現在の日中活動サービス体系における定員の要件は、特に、人口の少ない過 疎地などで大きな課題となっている。身近な地域での重要な日中活動の場とし て利用されてきている小規模事業所等の意義を踏まえ検討した。 結論とその説明 (結論1)  10名に満たない日中活動サービスの事業所は、全国の過疎地等に存在し続け ている状況があり、5名でも事業を展開できる何らかの仕組みが必要である。一 方、重症心身障害児・者通園事業B型は1日5名の基準で運営しているが、これ らの事業への今後の対応についても十分に配慮する必要がある。 (結論1−説明1)  地方に行けば行くほど人が集まらない。5名でも事業を展開することができ るような仕組みが必要である。また、気楽に利用でき、たまり場的に利用する ことができる場所が望ましい。 (結論1−説明2)  現在の重症心身障害児・者通園事業B型は1日5名の基準で運営している。地 方や利用者が少ない地域で、この通園事業が個別給付なった場合は、運営が困 難になる可能性がある。十分な配慮が必要である。 (7)日中活動への通所保障について はじめに  日中活動サービスを利用する際、通所に係る送迎の支援は不可欠となってい る。それに対する福祉サービスとしての位置づけが定かではなく、財政的支援 も不十分な現状がある。それらを踏まえ検討した。 結論とその説明 (結論1)  日中活動サービスを利用するには移動支援(送迎)が不可欠であり、その費 用について、報酬上評価する仕組みが必要と考えられる。  なお、報酬の算定にあたっては、移動支援(送迎)の支援内容を再検討する とともに、公共交通機関等の利用による通所者の扱いを併せて検討する必要が ある。 (結論1−説明1)  日中活動サービスを利用するには送迎は必要である。送迎が必要な人には送 迎を機能としてもたせる事業体系とする必要がある。また、医療的ケアを必要 とする人の送迎には看護師の添乗も必要になる。現行の生活介護には送迎経費 も含まれているとの解釈があるが、他の通所事業には送迎経費は含まれていな い。基金事業で300万円の補助が実施されているが、実績に応じて報酬に含ま れるような制度にする必要がある。 (結論1−説明2)  送迎について、声かけや見守りを含めた支援として位置づけるのか、単なる 移動手段として位置づけるのかという議論がある。また、一方、通所の際の移 動支援の利用や交通費の支給を求める意見がある。 2.グループホーム・ケアホーム (1) グループホーム・ケアホームの制度について はじめに  グループホームが、地域の住まいとして提起されて20年余りが経過する。入 居者も約6万人に達し、今後、地域生活移行を推進するうえで、グループホー ムはさらに普及していくことが考えられるが、その設置基準等や支援機能につ いて、種々の課題も見受けられる。これらを踏まえ、もう一度原点に立って、 地域の住まいとしてのグループホーム制度のあり方等を検討した。 [1]グループホーム等の意義について 結論とその説明 (結論1)  グループホーム等での支援は、地域生活における居住空間確保と基本的な生 活支援、家事支援、夜間支援などともに入居者一人ひとりに必要なパーソナル な支援の両方が重なったものと考えられる。一人ひとりがよりその人らしさを 発揮できる状況を生み出し、住民として暮らしていくための住まい方支援のひ とつといえる。  なお、グループホーム等については、「特定の生活様式を義務づけられない」 ためにも、地域生活移行においてそれらを唯一のものとするのではなく、自分 で自分の暮らしを選ぶ、選択肢の一つと考える必要がある。 (結論1−説明1)  地域社会で自立生活をすすめるための共同住居(家)という原点に立った制度 構築をしなければならない。グループホーム等での支援は、居住空間確保及び 基本的な生活支援、家事支援、夜間支援などと一人ひとりに必要なパーソナル な支援の両方が重なったものとして考えるべきである。一人ひとりがよりその 人らしさを発揮できる状況を生み出し、住民として暮らしていくことが大切で ある。 (結論1−説明2)  利用者がグループでお互いに刺激しあって、助け合っていくこともグループ ホームの理念ではないか。住む場所をただ提供するというだけではなく、仲間 で助け合っていくために、どうやって支援していくかという議論も重要と思わ れる。 (結論1−説明3)  「特定の生活様式を義務づけられない」ためにも、地域移行においてグルー プホーム等を唯一のものとしてはならない。また、終の棲家として位置づける のではなく、将来的に一般住宅での暮らしをめざすためのステップとして位置 づける必要もある。権利条約にいう、誰とどこで暮らすか自分で選択できる、 ということを踏まえて、グループホーム等は自分で自分の暮らしを選ぶ、選択 肢の一つだと考える必要がある。 [2]グループホーム・ケアホームの区分と設置基準等のあり方について 結論とその説明 (結論1)  現行のグルーホーム、ケアホームの区分は、グルーホームに一本化すること が妥当である。定員規模については、グルーホームの本来的趣旨である家庭的 な環境として、4〜5人の規模を原則とする必要がある。また、同一敷地内の とらえ方など再検討する必要もあると考える。 (結論1−説明1)  グルーホーム、ケアホームの事業名は、介護給付と訓練等給付で分けたが、 実態からしてもグループホームで統一すべきである。 (結論1−説明2)  知的障害の人が仲間と生活し、仲間と関係性を持ってやっていくということ は、視野に入る人数の限界があると思う。まとまるのは4から5人ではないか。 生活の場なので家庭に近い規模にすべき。 (結論1−説明3)  定員が7人以上はグループホームの枠組みから外して、新しい体系として整 理してはどうか。住居定員が2人から可能になって、利用する人の暮らし方の 多様性ができてきて評価できる。適正な入居者定員は4〜5人として、緊急枠な どや体験入居用を含め1住居6名の定員を最大としてはどうか。一方、大規模 化を抑制する一方、地域の事情も勘案した検討が必要と考える。なお、重度障 害者等が入居するグループホームについては、夜間支援体制の観点から、規模 について一定の配慮が必要となるかもしれない。 (結論1−説明4)  現在、地域によってグループホーム等の設置基準に関しては、解釈の格差が あり、同一敷地内で複数かつ入居者数が20人、30人となっている例もでてきた。 設置に関しては、都市計画的な見方もとりながら検討する必要性がある。障害 のある人が1ヶ所の地域で多数住むことはどうなのか、普通の暮らしはどのよ うなものなのか、地域の住宅政策も含めて検討が必要である。特に、既存の施 設を使って運営する場合、2ユニット(10人を2棟)、都道府県知事が認めれば 3ユニットまで可能な現行の考え方は見直す必要がある。 [3]グループホーム等の生活支援体制のあり方について 結論とその説明 (結論1)  現在、入居者の高齢化が進む一方、重度の障害や様々なニーズのある人たち の入居も増加することが想定されるなかで、グルーホーム等で提供する標準的 サービスと入居者一人ひとりが必要に応じて利用するサービスとの関係を検討、 整理し、居宅介護等の訪問系サービスの活用を含めた生活支援体制を確保する 必要がある。  一方、高齢化等により日中活動サービスに通うことが困難であったり、必要 としない入居者の日中支援のあり方を検討する必要がある。 (結論1−説明1)  今後、高齢、重度・重複障害、医療的ケアや行動障害など様々なニーズのあ る人たちの利用が多くなることが想定され、介助等個別支援を必要とするそれ らの人たちに対して、一般住宅と居宅介護等を活用することで、地域での自立 生活が可能となる。また、それらの人たちも利用できるようハード面での整備 を推進するとともに、職員の夜間常駐、休日の日中支援、医療的ケアの実施が 可能となるよう、報酬、運営基準、人員配置の見直しを図る必要がある。 (結論1−説明2)  例えば、ALSや筋ジスなど人工呼吸療法に対応し、医療と連携のとれるグ ループホームのニーズが高まっている。海外の例では、訪問看護師とヘルパー の支援を受けて地域で生活できるようになっている。呼吸器装着の重度障害者 であってもグループホームは選択肢のひとつとなりえる。 (結論1−説明3)  知的障害のある人たちにおいても重度訪問介護等を活用し、パーソナルアシ スタントなど支援付き自立生活(サポーテッドリビング)も一般化されるべき である。日中活動に行かないときは、本人の支援計画に基づいて、重度訪問介 護を利用できるようにする必要がある。 (結論1−説明4)  特に、医療的な援助も日常的に必要とする超重症・準超重症の重症心身障害 児者に対するグループホーム等における日常的支援については慎重に検討し、 環境条件が確保される必要がある。 (結論1−説明5)  アルコール等依存症の場合など家事援助以上の支援が必要な人たちがいるた め、パーソナルアシスタント等による支援を組み合わせられるようにする必要 がある。 (結論1−説明5)  グループホーム、ケアホームで居宅介護を使えない場合、福祉ホームだと居 宅介護の利用が可能なので、必要との意見も多い。 (結論1−説明6)  グループホーム等において、服薬を含めた健康管理の支援、金銭管理の支援、 夜間・早朝時間帯の支援は必要不可欠であり、グループホーム等でこれらの部 分をどこまで担うのか整理する必要がある。 (結論1−説明7)  グループホーム等の支援として全てを入れ込んでしまうと、かえって利用し にくくなる。最低限のものはそこに備わっていて、それ以外のパーソナルなも のはオプションで、多様なサービスを利用できるようにすることの方が良いの ではないか。食事や掃除などの家事という基本部分をベースに、あとは自分の 希望で選べるような仕組みが考えられる。グループホームに住みながら、本人 がパーソナルアシスタンスなどの支援を活用するなどにより、一人ひとりの暮 しの質が向上することになる。 (結論1−説明8)  グループホーム等の入居者個々人が必要とする支援サービスは、外から提供 するか、グループホーム等の事業所から提供するのかは、入居者が選択できる ことでよいのではないか。 (結論1−説明9)  現状の職員体制は、短期間の非常勤によって支えられており、多様な個別ニ ーズに対応できていない。職員体制の整備が必要である。特に、夜間支援体制 の強化が急務の課題である。支援が必要な全ての住居に夜間世話人(夜間支援 員)を配置する必要がある。 (結論1−説明10)  グループホーム等のサービス管理責任者は入居者30人に1名の配置である。 利用者の意向に基づく個別支援計画の策定と提供管理、評価・検証、関係機関 との連携、自立支援協議会に参加し社会資源開発へ繋げる等、広範囲な業務を 担う一方で、入居者の地域生活経験に伴う生活ニーズも多様化するが普通であ る。専従可能な報酬単価の見直しと、サービス管理責任者の研修を強化する必 要が生じている。 (結論1−説明11)  入居者が高齢化し、日中活動サービスを利用することが困難となった場合、 入居者によっては日中活動サービスを希望しない場合や必要としない場合もあ るが、現行のグループホーム等は夕方から朝までの支援を原則としており、そ れらの人たちへの支援体制を確保するため、日中の支援もできるようにする必 要がある。 おわりに  グループホームの本来の家庭的な規模での運営を可能とするとともに、夜間 も職員を配置するため、また、高齢、重度・重複障害、医療的ケアや行動障害 など様々なニーズのある人たちへの一定水準の支援体制を確保するためには、 そのための報酬体系の実現が必要となる。一方、今後、パーソナルな訪問系サ ービスを積極的に活用していくうえで、それらの報酬体系や国庫補助基準の取 扱いも課題になる。報酬体系の検討にあたって配慮を求めたい。  なお、設置基準における、いわゆる「一つ屋根の下」と「共有スペース」の 取扱いと支援体制について、ニーズの実態を踏まえ、柔軟な対応を含め検討す る必要があると思われる。 (2)グループホーム等の設置促進について はじめに  グループホーム等の設置促進のための福祉施策について検討した。 結論とその説明 (結論1)  グループホーム等の設置を促進するうえで、国庫補助での整備費の積極的な 確保が重要である。また、重度の障害や様々なニーズのある入居者への支援も 想定し、安定的運営に係る報酬額が必要である。 (結論2)  グループホーム等を建設する際の地域住民への理解促進について、事業者に のみに委ねる仕組みを見直し、行政と事業者が連携・協力する仕組みとする必 要がある。 (結論1−説明1)  地域生活移行を促進する上で、グループホームの住居を確保する国庫補助に よる整備促進が必要である。また、報酬単価が低く、人材確保や事業運営に困 難があり、グループホーム、ケアホーム単独では経営が成り立たない現状があ るため、積極的に整備を推進するための予算確保が必要である。 (結論1−説明2)  重度の障害者(「重症心身障害者を含む」)でも生活可能なグループホーム制 度の確立が必要である。そのためハード面での整備を推進するための公的な整 備費の充実が更に必要である。また、夜間を含めた支援体制の充実が求められ る。 (結論2−説明1)  グループホームを建設する場合、借家で借りる場合も含めて地域住民の反対 が全国各地で起きており、なかには建設を断念する場合もある。一方、建設に 当たって地域住民の理解を求めることについて、もっぱら事業者に委ねている 現状がある。障害者計画や障害福祉計画並びに公費支給の主体である地方自治 体が、責務として事業者と連携・協力して住民の理解促進を図る必要がある。 おわりに  グループホーム等の設置促進にあたっては、特に、整備費や報酬単価という 公的費用負担の課題が大きい。障害福祉関係予算の確保と関連して今後の検討 に期待したい。 (3)民間住宅の活用促進のための建築基準法の見直し はじめに  グループホーム等の設置促進にあたって、現行の建築基準法が大きな壁とな っている。そこで、同法に着目し検討した。 結論とその説明 (結論1)  グループホーム・ケアホームの民間住宅の活用促進にあたっては、建築基準 法の規制を緩和し、一般住居として取り扱う必要がある。 (結論1−説明1)  グループホーム等の民間住宅の活用に際し、全国的に建築基準法が大きな問 題となっている。現状では寄宿舎への用途変更が強いられ、厳しい基準が適用 され、防火壁などの工事を行わなければならないことになる。それによって、 民間住宅の活用が困難となり、地域の重要な住まいとなっているグループホー ム等の整備が進まない事態となっている。 (結論1−説明2)  現行の建築基準法は、そもそも、現在のグループホームという住居形態を想 定していないと考えられる。グループホームは、地域社会で住民としての普通 の住まいを提供し、入居者に必要な人的支援等を行うことを基本としたものと 考えられる。従って、特別な住居ではなく、一般住居に暮らすことが共生社会 のひとつのかたちと考える。 おわりに  障害者の住宅施策は、国土交通省の障害福祉施策と連携した取り組みなくし て進展は望めない。法令の改正も視野に入れた国土交通省と厚生労働省の積極 的な連携・協力を望みたい。 3.住まい方支援 (1)地域での住まいの確保(居住サポート事業)等について はじめに  居住サポート事業は住宅の確保等において重要なサービスとされてきたが、 その実態を踏まえ、今後のすまいの確保等への支援のあり方について検討した。 結論とその説明 (結論1)  現行の居住サポート事業の支援内容の重要性は認められるが、相談支援事業 との関連を含めた位置付けや実施状況などを再検証し、今後の事業の制度上の 位置づけを検討する必要がある。 (結論1−説明1)  居住サポート事業は、障害者が「地域で生活する権利」を実質化するための 事業として重要な役割を果たすものである。この事業に加えて、日常生活の支 援、ニーズの随時の聞き取りの他、地域住民と障害者との交流をはかる役割を 担うことが望ましい。 (結論1−説明2)  一定の成果はあり今後も必要である。官民共同で地域連携の場を作り情報収 集や活動が広がったことにより成果が認められた。必要なのは住宅探しを行う 人材確保で、委託費は一律ではなく、必要状態、人口、障害者数などによって ランクを考えるべきである。  (結論1−説明3)  現行制度では居住サポート事業者を受託する事業者が少なく、住宅部門との 連携も不十分であり、実施市町村も多くない。福祉分門だけではなく、住宅部門 と連携した形の実効性のある居住サポートの仕組みが必要である。また、グル ープホーム等から単身生活に移行する場合も事業対象とする必要がある。居住 サポートの拡充によって、グループホーム等以外の第3の地域生活の道が広が っていく。そのためにも重要な事業である。 (結論1−説明4)  居住サポート事業は必要な機能であるが、制度が未熟で一人仕事になる地域 が多く、業務として成熟していない。グループホームのバックアップ機能等と のリンクする仕組みを検討する必要がある。 (結論1−説明5)  相談支援事業の付帯事業的な位置づけとなっており、機能や役割が不明瞭で あるとともに、相談事業本体を圧迫している面もある。また、本事業における 支援が、住居の確保や緊急時対応など限定的な場面に限られているが、地域で の安心できる暮らしを継続的にサポートするような、訪問型の生活サポート事 業として機能強化し、独立して運営可能な事業とすることを望みたい。相談支 援の範疇でなく、義務的施策として明記し、義務的経費負担とする必要がある。 (結論1−説明6)  居住サポート事業の位置付けが弱いので、独立させるべきである。地域移行 に於いて賃貸住宅を考える場合、公的な保証人機構と連動した必要な事業であ る。また、事業が機能するには、あんしん賃貸住宅の登録が不可欠であるが、 その部分が未整備のままである。緊急時に対応可能な安心できる地域生活拠点 機能を事業者そのものに付加する必要がある。 (結論1−説明7)  居住サポート事業は必須化されるべきとは考えるが、何より必要なのは24時 間365日の待機介助であり、居住サポート事業は予算も貧しく対象者期間も限 られていることが問題である。 (結論1−説明8)  居住サポート事業に24時間の見守りを課していることは不合理であり、これ は介助サービスで保障されるべきサービスである。また、公的保証人を獲得す るために多額の自己負担を必要とすることは非現実的であり、一方、住宅改造 をする費用補填は低額なため、住宅はほとんどない。 (結論1−説明9)  障害者の地域における生活を支えるためには、夜間や緊急時に対応が可能な 拠点機能としての「地域生活拠点センター」の新設、整備が不可欠である。 (結論1−説明10)  高齢者分野における「シルバーハウジングプロジェクト」(公営住宅に福祉目 的住宅設置のうえ、支援サポーターによる巡回支援が実施されている)の障害者 バージョンを作り、居住サポート事業との連結をはかる必要もある。 おわりに  住宅の確保等の支援については、そのサービスを切り分けるというより、地 域生活支援の一環として位置づけ、機能強化を図れるような仕組みを期待する 意見が多かった。また、賃貸契約書などが本人に分かりやすい契約書となるよ うに工夫してほしいとの要望があった。 (2)一般住宅やグループホーム等への家賃補助等について はじめに  地域での住まいとして、グループホーム等や公共住宅、民間住宅の活用が益々 求められるなか、特に、主たる収入を障害基礎年金と福祉的就労の工賃などに 依存する人たちにとって、その家賃は重い負担となっている。また、それらの 住宅の確保に向けた様々な施策が必要と考えられる。それらの視点から検討を 行った。 結論とその説明 (結論1)  地域での住宅問題の解決のためには、グループホーム等や公共住宅、民間住 宅の賃貸などにおいて、障害者の受け入れを拡大していくことが必要である。そ のために、厚生労働省と国土交通省等の関係省庁が密接に連携した住宅施策を講じ ていく必要があり、一方で家賃補助、住宅手当などによる経済的支援策が重要と考 える。 (結論2)  民間住宅の障害者の受け入れを拡大のために、一般住宅の行政による借り上 げや一定以上の規模を有する新築集合住宅に対して、障害を持つ人に配慮され た住戸の義務付けとその際の公的助成などが考えられる。 (結論3)  事業体に対する税制の優遇(不動産取得税、固定資産税、都市計画税等の減 額もしくは免除)を設ける必要がある。また、住居提供者に対する経済的支援 策や優遇策を講じる必要がある。 (結論1−説明1)  障害者の所得保障が不十分であるという理由のみで安易に住宅問題を考える のではなく、国民全体の住宅施策の中で障害のある人の住宅問題も位置づけ考 える必要がある。都市計画の中に、障害者住宅の整備目標を組み込むべきであ り、公営住宅、民間住宅、行政における都市計画の3つの観点から総合的に進 める必要がある。また、住まいの確保について、自立支援協議会のようなシス テムを作り、連携して取り組む必要がある。 (結論1−説明2)  日本の厳しい住宅事情の中で既存住宅の活用だけでなく、障害者が生活しや すい住宅建設が可能となる様な積極的な支援策が必要である。 (結論1−説明3)  「高齢者の居住の安定の確保に関する法律」と同様に、法制度でしっかり位 置づけたうえで、障害者向けの住宅が地域内で確保されるような方策を推進し ていく必要がある。また、国交省が取り組んでいる高齢者専用賃貸住宅制度の ような仕組みの賃貸物件制度を推進できないか。 (結論1−説明4)  家賃補助的な施策が早急に必要との意見が多く出ている。民間住居への入居 促進のため、家賃補助や住宅手当の創設が望ましい。生活保護と同様に、障害 者の基礎年金に住宅手当が上積みされるべきではないか。 (結論1−説明5)  住宅手当の創設、保証人制度の充実、住宅改修費の支援等とともに、居住支 援協議会の必置規定化等、一般住宅の確保をめぐる課題を早急に解決すべきで ある。 (結論1−説明6)  住宅手当とした場合、広く国民を対象とした手当制度や生活保護制度におけ る住宅扶助などとの関係を整理する必要がある。また、住宅手当は、住宅を必 要とする人とそうでない人がいるので、ニーズとかみ合うかという問題がある。 障害年金をすぐに引き上げることができれば良いが、それぞれの住宅の状況を 踏まえると一律に年金の手当とするのはどうか。家賃に応じて住宅手当を支給 するのが現実的であるし、社会の理解も得られやすい。 (結論1−説明7)  入所施設における補足給付と同額の2万5千円相当の金額を家賃などの補助 に当てることが可能な仕組みを作る。また、家を借り上げる際に必要な保証人 を自立支援協議会などの仕組みを活用して自治体ごとに確保できるようにする 必要がある。 (結論2−説明1)  公営障害者住宅の新設が優先されるべきであるが、一般住宅の行政による借 り上げによる確保を検討すべきである。その場合、建設時から行政が借り上げ を保障し、改造の補助など誘導策をとる必要がある。家賃についても、補填す る仕組みが必要である。また、一定以上の規模を有する新築集合住宅に対して、 障害を持つ人に配慮された住戸を義務付け、それに対して、一定割合の公的助 成を行うことが考えられる。 (結論3−説明1)  事業体に対する税制の優遇(不動産取得税、固定資産税、都市計画税等の減 額もしくは免除)を設ける必要がある。また、障害特性に応じた建築構造のた めの助成金をさらに拡充する必要がある。一方、民間の土地や住宅提供者につ いては、固定資産税などの税制優遇策を講じる必要があとともに、住宅改造と 現状回復工事への助成制度が必要である。 おわりに  家賃補助の議論において、障害者の所得保障の仕組みを見直すことが先決で はないかという意見もあった。  また、トライアル入居 (法人契約アパートの試験入居を経て、その居住実績 により個人契約への切り替え促進)の制度化なども必要との意見とともに、大家 への「障害者・高齢者を入居拒否しない」などの条件付けの廃止を望む声もあ った。 (3)公営住宅の利用促進について はじめに  現状では、住宅の確保において、公営住宅は重要な社会資源のひとつであり、 その視点から検討した。 結論とその説明 (結論1)  地域での住まいの確保において、社会資源としての公営住宅の活用が望まれ るが、地域間格差が顕著であり、優先枠の拡大に向けた何らかの仕組みが必要 である。なお、一方で、公営住宅に偏重することなく、民間の賃貸住宅への入 居も進めていく施策を講じる必要がある。 (結論1−説明1)  公営住宅は低家賃であり、住まいとしての重要な社会資源といえる。公営住 宅を使いやすくするように自治体を指導していくことが必要である。また、バ リアフリー化した公営住宅を拡充して、障害特性をも考慮する住宅提供の仕組 みをつくり、優先的に提供されることが望ましい。 (結論1−説明2)  公営住宅については、バリアフリー住居やグループホームなどの優先枠を拡 大するため、それを制度化する必要がある。 (結論1−説明3)  知的障害者は単身でも公営住宅に申し込みができるようになったが、単身用 の公営住宅は空きが少ないので実際には入居できない人が多い (結論1−説明4)  1つの公営住宅の建物に障害者が集まるのは、問題はないか。特化した居住の 形はいかがなものか。市民との混在/混住がインクリュージョンの要ではない か。権利条約の「他のものとの平等」の理念にからすれば、公営住宅よりは民 間の賃貸住宅を借りやすくする施策が重要といえる。民間の賃貸住宅への入居 を進めながら、不十分な場合には、暫定的な措置として公営住宅への入居優先 枠を拡大することが考えられる。 (結論1−説明5)  特定の住居形態に、特定の人々が集住する問題は残るが、障害のある人が公 営住宅を選択する上では入居しやすくする政策は必要である。 (結論1−説明6)  公営の障害者住宅の新設は急務であり、公営住宅の建築前に、障害のある人 がいる家庭などを対象に公募をかけて、ユニバーサルデザインを施した一戸建 てなども創出していく必要があると考える。 おわりに  公営住宅の利用促進にあたっては、省庁をまたいだ住宅施策であるとともに、 国と地方自治体の連携が重要であり、それらを踏まえた取り組みを望みたい。 本作業チーム報告に対して部会委員から寄せられた主な意見 1.日中活動 (1)現行の介護給付、訓練等給付と地域生活支援事業という区分について (結論1・結論2に関して)  ここで使用する個別給付という表現は、給付方式の呼称であるとともに、国 庫負担金(義務的経費)としての意義があることを踏まえる必要がある。 (3)自立訓練(機能訓練・生活訓練)、生活介護等の日中活動系支援体系の あり方について (結論2に関して)  通訳・介助員をつける必要があるのは「視覚、聴覚障害のある人たちなど」 という表現より、例えば、「移動やコミュニケーションに障害のある人たちな ど」とする方が適切である。 (4)療養介護等の重症心身障害児・者への支援について (結論1に関して)  平成22年に児童福祉法が改正され、重症心身障害児の通園事業は医療型児童 発達支援に替わる予定となったが、これらを利用する18歳以上の重症心身障害 者の行く先は不明確である。医療職を手厚くした生活介護にするか、新たな医 療的ケアを伴う通所福祉施設を制度化するなどの検討が必要である。 (結論2に関して)  児童期から成人期において一貫した支援体制は必要であるが、制度としての 法体系での一本化は不適切である。18歳未満の重症心身障害児は他の障害児と 同様に在宅を中心とし、入所する時は、有期間・有目的の医療型障害児入所施 設を基本とすべきである。18歳未満の重症心身障害児が、療養型施設に新たに 入所することとならない体系が必要である。 (5)地域活動支援センター、日中一時支援、短期入所について (結論3に関して)  精神障害者にとっては、短期入所は新たな社会的入院を生み出さないため、 強制入院防止のためにも最も重要な資源である。しかし、現行では精神障害者 を受け入れる短期入所施設がほとんどなく、支給決定を受けても利用できない 現状がある。 2.グループホーム・ケアホーム (1) グループホーム・ケアホームの制度について [2]グループホーム・ケアホームの区分と設置基準等のあり方について (結論1に関して)  精神障害者にとって転居は大きな負担となる。サテライト型グループホーム を認めていくことにより、グループホームの支援が不要となっても、そのまま 同じアパートに住み続けることが可能となる (結論1に関して)  現行の福祉ホームをグループホーム制度のなかで位置づけるか(個別給付)、 地域生活支援事業(市町村事業)で存続させるか、小規模化の課題と併せて検 討する必要がある。 --------- 「施策体系〜地域生活支援事業の見直しと自治体の役割」 部会作業チーム報告書の概要 (1)コミュニケーション支援の確立(盲ろう者通訳介助含む) 社会生活の中で対応すべき必要な基準を設け、義務的経費で無料に。特に、盲 ろう者のコミュニケーション支援は移動介助と一体的に運用。   (2)移動支援の自立支援給付化(個別給付化) 「重度訪問介護」「行動援護」「移動支援」を自立支援給付に位置づける。  *(1)(2)とも、福祉の範囲で対応すべき範囲は、第2期で具体的に検討。 (3)地域活動支援センター事業の再編成 地域生活支援事業に残すものと、他事業との体系の統合の中で自立支援給付に するものに区分。小規模作業所については、就労部会・第2期での検討課題に。 (4)相談支援事業(成年後見制度及び居住サポート含む) 医療・福祉・保健等各分野が連携した支援が行えるための市町村における相談 支援機能の充実を図る。 (5)福祉ホーム及び居住サポート 福祉ホームは自立支援給付とするとともに、公営住宅、民間賃貸住宅等の活用 を含め、居住の確保の点から整理。 (6)補装具と日常生活用具のあり方 日常生活用具は、補装具と同様に自立支援給付に。 (7)権利擁護の仕組み(成年後見制度等) 権利擁護の仕組みについては、成年後見制度を含め一体的な内容として検討。 (8)地域生活のサポートにおける自治体の役割(障害の理解と普及啓発含む) 数値目標やモニタリングの仕組みをつくり、その具体的な内容は、第2期で検 討。また、障害に対する理解啓発のための普及活動や学校教育の段階からの啓 発、他の福祉分野と連携した普及啓発も必要。 (9)障害福祉計画と地域自立支援協議会、個別支援計画の連動 地域自立支援協議会を地域生活の実現のために各種社会資源の開発や、障害福 祉計画へつなげる役割として位置づけ、委員についても公募方式の採用や、障 害当事者の参画を重視。 (10)広域的・専門的支援にかかわる都道府県の役割 都道府県は、相談支援専門員、障害の困難性に伴う専門的な知識及び技術を要 する支援や相対的に数が少ない障害に対応する支援、また行政担当者等の人材 育成等、広域調整・専門的なことについて主体的に支援。 (11)地域生活移行 自治体が積極的な役割を果たす必要があり、第2期で具体的に検討。 --------- 「施策体系〜地域生活支援事業の見直しと自治体の役割」 部会作業チーム報告書 I.はじめに  当作業チームでは、これまで支援の狭間にいた人たちに必要な福祉サービス (D-1-1)や、また、現行の介護給付、訓練等給付と地域生活支援事業の区分、 総合福祉法での支援体系のあり方や生活構造やニードに基づいた支援体系とい う観点を念頭に、D-1-5地域生活支援事業、D-1-6コミュニケーション支援事業 及びF-1地域生活支援整備のための措置、F-2自立支援協議会を検討の範囲とし、 障害者総合福祉法(仮称)におけるサービス体系及び自治体の役割のあるべき 姿について、地域生活の権利(障害者権利条約第19条)の保障を念頭に整理し た。  第1回(10月13日)では、サービス体系(現行の給付区分等)、地域生活支 援事業(当該事業の仕組み)、コミュニケーション支援事業(聴覚障害者、盲 ろう者、視覚障害者、知的障害者等を含む)、移動支援事業(ガイドヘルプ等 の仕組み等、労働行政や教育行政との枠割分担)、日常生活用具の給付等事業、 地域生活の資源整備(障害福祉計画を含む)、自立支援協議会、自治体の役割 について、現状と課題、あるべき姿について検討を行った。  第2回目(11月19日)は、前回の報告と議論を受け、[1]個人への支援(小さ なケア)と自治体の基盤整備(大きなケア)を一体的に結びつけるための方策、 [2]地域移行や訪問支援・日中活動支援・コミュニケーション支援・移動支援を 含む社会参加活動支援・居住支援を効果的に進めるためのあるべき自治体の役 割の検討、[3]地域生活支援事業という枠組みの捉え直し、[4]残された論点に関 する4つの点をベースに、i.数値目標を定めて自治体レベルで整備すべき緊 急かつ重要な地域生活の基盤や相談支援体制や地域自立支援協議会の関わり、 ii.中長期的な障害の理解・普及啓発に関する自治体の役割、iii.コミュニケ ーション支援及び移動支援の個別給付化における制度設計やその範囲、v.地 域生活支援事業の見直しと自治体の役割に関して議論されていない重要な課題 について検討を行った。  そして、これまでの検討を踏まえ、第3回(12月7日)では、当該作業チー ムの意見取りまとめに向けた作業と、障害者総合福祉法(仮称)における地域 生活支援事業の見直しと自治体の役割やあるべき姿とその方向性を整理した。 II.結 論 1.コミュニケーション支援の確立(盲ろう者通訳介助含む)について (論点D-1-2、D-1-5、D-1-6、D-3-1) 結論   コミュニケーション支援については、支援を必要とする障害者に対し、社会 生活の中で対応すべき必要な基準を設け、義務的経費で無料とする。特に、盲 ろう者のコミュニケーション支援に関しては、移動介助を含めた運用を求める。 そして、上記支援の基盤整備のうえに、さらに教育・雇用・人権などの観点か ら必要な支援のあり方については、当該分野の法律で保障する事や将来的な立 法も含めて検討する。このように、段階的に支援の量を拡大していく必要があ るのではないか。 2.移動支援の自立支援給付化(個別給付化)について (論点D-1-2、D-1-5、D-2-2、D-3-1) 結論  移動に関しては、介護給付である「重度訪問介護」「行動援護」と地域生活 支援事業の「移動支援」でわかれている。だが、「歩く」「動く」は「話す」 「聞く」「見る」と同様、基本的権利の保障であり、自治体の裁量には馴染ま ないものであり、自立支援給付化が求められる。ただその際、教育・雇用など の場面での移動支援は、当該分野の法律で保障する事も求められる。これらの 制度の重複、市町村格差や、使いにくい現状については、福祉の範囲で具体的 にどこまで対応すべきか、も含めて、第2期作業チームで具体的に検討する。   ○ 上記1と2に関しては、今後検討の上で立法化が予定されている差別禁止法 の中で、合理的配慮とは何か、を定めた上で、総合福祉法の中でカバー出来 ない(福祉以外の立法がカバーすべき)部分について、規定すべきである。 3.地域活動支援センター事業の再編成について (論点D-1-2、D-1-5) 結論  地域活動支援センター事業の内容については、就労の面と日中活動の場の面 があり、就労部会および第2期での議論を踏まえた上で、地域生活支援事業に 残すものと、他事業との体系の統合の中で自立支援給付にするものとに分ける。 なお、小規模作業所については、新体系に移行できない作業所があることに鑑 み、第2期作業チームで問題点の検証とともに、具体的に検討する。 4.相談支援事業(成年後見制度及び居住サポートを含む)について (論点D-1-5) 結論  医療・福祉・保健など各分野が連携したトータルな支援を行うためには、相 談支援の充実が必要であり、市町村の相談支援機能を強化するとともに、障害 者の人生をトータルにサポートするような支援の仕組みが必要である。  相談支援事業本体については、選択と決定・相談支援プロセスの作業チーム の協議結果に委ねるべきである。 5.福祉ホーム及び居住サポートについて (論点D-1-2、D-1-5) 結論  福祉ホームについては、居住機能に応じたサービス体系のあり方を考えれば、 居住支援の一部としてグループホーム(GH)・ケアホーム(CH)と同じ位置づ けで自立支援給付化するとともに、公営住宅、民間賃貸住宅等の活用も含めた 障害者の居住の場の確保という観点から整理をするべきである。 6.補装具と日常生活用具のあり方について (論点D-1-7) 結論  日常生活用具給付等事業は補装具と同様に自立支援給付とすべきである。 7.権利擁護の仕組み(成年後見制度など)について (論点D-1-5) 結論  権利擁護の仕組みについては、障害者が必要とする支援を受けながら自己決 定を行えることが、最も大切にされる分野であり、成年後見制度そのものを含 めた一体的な内容として議論されるべき部分である。今後上程が予定される障 害者虐待防止法や障害者差別禁止法でカバーすべき部分と、自治体が主体的に 担う部分の役割分担については、第2期作業チームで検討すべき内容であるが、 障がい者制度改革推進会議においても議論をする必要がある。 8.地域生活のサポートにおける自治体の役割(障害の理解と普及啓発を含む) について (論点F-1-1、F-1-2、F-1-3、F-2-3) 結論  緊急かつ重要な地域における社会資源整備は、地域生活のサポートにおける 自治体の重要な役割である。具体的には、住まい、相談支援、労働・日中活動 支援、コミュニケーション支援等について、総合福祉法制定時から数年間で何 らかの数値目標を作り、モニタリングする仕組みをつくる。その具体的な内容 は第2期作業チームで検討する。  それと同時に、障害の問題についての理解を深める広義の普及啓発について も、例えば鳥取県で取り組んでいる“あいサポート運動”(※)等のような社 会全体の意識を高めつつ、中長期的な戦略として、自治体施策の中に盛り込む。 普及啓発は、一方的なものでは効果が薄い。学校教育の段階からの繰り返しの 啓発が必要であり、高齢者支援など他の福祉分野と連携した普及啓発が必要で ある。 (※)あいサポート運動とは、地域の理解が不可欠という考えをもとに、障害 のある人が、地域の一員としていきいきと暮らしていくため、国民に広く、 障害の特性や障害のある人への配慮の仕方などを知っていいただき実践して いただく運動。一般市民、さまざまな障害者団体や県内外の民間企業等が“あ いサポーター”として参加協力し、暮らしやすい地域社会作りのために運動 を繰り広げている。平成21年より実施。 9.障害福祉計画と地域自立支援協議会、個別支援計画の連動(社会資源の整備 を含む)について (論点F-1-4、F-2-1、F-2-2、F-2-3、F-5-1) 結論  地域自立支援協議会が実態的により機能が発揮できるようにするためには、 法的位置づけを明確にするとともに、委員の公募方式の採用や、障害当事者が 参画できる形態を重視すること、また運営支援に関する研修等も求められる。 同協議会の設置の規模や形態については、実質的な運営ができるように、自治 体に裁量をもたせる。  内容に関しては、その地域における解決困難事例に取り組む中で、地域生活 が実現可能となるための各種社会資源の開発の役割や、障害福祉計画へとつな げる役割として位置づける。また、数値目標のモニタリングの問題は、施策推 進協議会との役割分担も含め、障がい者制度改革推進会議で議論すべきである。 ただ、上記の役割を果たすための方法については、市町村の実情によって一定 の幅があってよい。   また、都道府県は、市町村の障害福祉計画を取りまとめるだけでなく、広域 的・専門的支援の見地から、市町村の地域自立支援協議会の運営の助言や情報 提供、障害福祉計画と地域自立支援協議会、個別支援計画の連動を手助けする ための人材育成支援などにも取り組む。 10.広域的・専門的支援にかかわる都道府県の役割について (論点F-1-1、F-1-2、F-1-3、F-5-1) 結論  相談支援専門員、手話通訳者、盲ろう者の支援員(通訳を含む)市町村の実 務担当者等の人材育成等、市町村が単独ではできないことについて、都道府県 が主体的な広域調整・専門的な支援を行うべきである。また、視覚障害・聴覚 障害・盲ろう・重度重複障害や重心障害・発達障害・高次脳機能障害・難病な ど、障害の困難性に伴う専門的な知識及び技術を要する支援あるいは相対的に 数が少ない障害に対応する支援(広域的センター等)について都道府県の果た すべき広域的・専門的支援とは何か、も具体的に規定する。 11.地域生活移行(社会的入院・入所を防ぐための整備)について (論点F-1-2、F-1-3、F-5-1) 結論  地域生活を希望するどんなに重い障害のある人も地域生活が出来るような支 援システムを創ることによって、社会的入院・入所や新規の入院・入所を減ら すためには、自治体にはこれまで以上に大きな役割が求められている。自治体 は、障害福祉計画などで地域生活支援を促進する計画を立て、それを着実に実 行すべきである。その内容は、第2期作業チームで具体的に検討する。 III.理 由  現行の自立支援給付(介護給付、訓練等給付)と地域生活支援事業との区分 からみた場合、地域生活支援事業については、障害者自立支援法上の様々な矛 盾が特に詰まっている事業であると言える。  移動支援とコミュニケーション支援の二つの事業に関しては、本来「話す」 「聞く」「見る」「歩く」「動く」という基本的権利の保障であり、自治体の 裁量には馴染まないものでありながら、現状では自治体が個別に判断する事を 求められている。そのことによる自治体間格差も深刻な問題である。また、日 常生活用具給付等事業は、自立支援給付である補装具との明確な定義上の違い も不明瞭である。自立支援法施行前後における国家財政の制約が強く働き、結 果として今後サービス支給の伸びが予測されそうな上記の各種支援が、自立支 援給付化されなかった、とも考えることができる。附言すれば、これらのサー ビスは、障害者の地域生活支援に不可欠であり、かつ今までその権利性が十分 に認められてこなかった支援類型である。  地域生活支援事業は、できるだけ自立支援給付・義務的経費化し、自治体の 裁量として残す方がよいものは残すという方向にする。但し、自立支援給付・ 義務的経費化した内容については、その提供する支援内容に応じて、応益負担 の原則は廃止し、仮に負担が求め得られる場合であっても、定率負担とするこ となく、また本人の所得を基礎とするということが言え、これらの問題を解消 するためには、地域生活支援事業の抜本的な見直しが求められている。 IV.おわりに 1.他の作業チームへの検討要望(意見書提出済み) (1)移動支援にかかる訪問系チーム及び就労チームへの議論の要望  移動支援の範囲については、日常生活や社会生活における様々な場面への支 援が必要とされるところだが、教育や労働(通学・通勤)における移動支援に ついては、教育あるいは労働との一体的な保障という観点から検討することが 必要と思われる。 (2)地域活動支援センターの再編成にかかる就労チームへの議論の要望  地域活動支援センターの再編成の検討については、自立支援給付化も含めて 検討していかなければならないと考えるところだが、現在の地域活動支援セン ターの事業体系には、就労にかかわることも多く、当チームだけの検討では不 十分であると思われ、就労チームでも検討する必要があると思われる。 (3)家族支援にかかる障害児チームへの議論の要望  地域生活のためのサポートについては、基礎自治体の役割の見直しも求めら れるところだが、特に、障害のある子どもをもったことを受容するための家族 への支援については、十分に支援できる機能がほとんどないといった現状があ り、家族支援の検討にあたっては、障害児チームでも検討する必要があると思 われる。 2.推進会議への検討要望(意見書提出済み) (1)障害の理解に関する普及啓発については、「障害者基本法」改正の検討を進 める中において重要な事項と理解しており、このことについて、議論が必要 と思われる。 (2)「障害者基本法」に基づく障害者施策推進協議会と地域自立支援協議会では、 多くの自治体で役割や人選が重複している現状がみられることから、この2 つの協議会の棲み分けや役割分担、整理に関する議論が必要と思われる。 (3)地域自立支援協議会については、法的な位置づけを定めた上で、その地域に おける解決困難事例に取り組む中で、障害福祉計画へとつなげる役割として 位置づけることが必要であり、また、数値目標のモニタリングの問題につい ては、施策推進協議会との役割分担も含め、議論が必要と思われる。但し、 上記の役割を果たすための方法については、市町村の実情によって一定の幅 があってよい。 3.第2期作業チームへの申し送り (1)コミュニケーション・移動支援については、労働行政や教育行政との関係性 を十分に検討する必要があるが、制度上の重複、市町村格差や制度の利用の しづらさに関しては、福祉の範囲で具体的にどこまで対応するべきかも含め、 具体的に検討する必要がある。 (2)地域活動支援センターの事業内容並びにいわゆる小規模作業所のうち、新体 系に移行できない作業所の問題点の検証を含め、具体的な検討を要する。 (3)権利擁護の仕組みそのものに加え、障害者差別禁止法や障害者虐待防止法で カバーすべき部分と自治体が自主的に担う役割について、障がい者制度改革 推進会議での議論はもとより、作業チームとして、さらに検討することが必 要である。 (4)地域自立支援協議会の設置については、自治体の実情(実態)を理解した上 で、運営主体や手段等をどうするのか、検討をさらに重ねる必要がある。 (5)地域生活移行(社会的入院・入所を防ぐための整備)の結論で示したように、 自治体が障害福祉計画等で地域生活支援を促進する計画を立て、着実に実行 すべきと考えるが、障がい者制度改革推進会議「第二次意見」では、地域生 活移行について“国は一定の年次目標を揚げて取り組むべきであり、その年 次目標の実現のため受入先となる居住等の計画的整備が必要”とされたとこ ろであり、具体的な内容については検討を要する。                                   以 上 本作業チーム報告に対して部会委員から寄せられた主な意見 ○これまで当作業チームにおいて検討の論点としてあがらなかった事項で、かつ第2期作 業チームで問題点の検証と具体的な検討を要すると思われる「地域生活支援事業の見直し と自治体の役割報告書」に対する主な意見は、以下のとおり。 1.コミュニケーション支援の確立」について、その支援の対象者の範囲に、重篤な難病患 者でコミュニケーションができない人たちを対象にすることを含めていただきたい。 2.地域活動支援センター事業の再編成」について、地域活動支援センターは、利用者の利 便性に鑑み、人口比ではなく面積に合わせた整備が必要と考える。また、財政的支援と要 件緩和を含めた小規模な地域活動支援センターを増やす必要がある。 3.「7.権利擁護の仕組み」について、知的や発達障害の人たちに対する「権利擁護」へ の理解が充分ではないことからも、「権利」について議論し、明確にしていく必要があ ると思う。施策も消極的権利擁護の施策と積極的権利擁護の施策や支援を分けて考えて いく必要があると思う。入所施設については、積極的な意味での入所機能を明確化して いくなど抜本的に変える必要があると思う。 4.「9.障害福祉計画と地域自立支援協議会、個別支援計画の連動」について、 [1]24時間など長時間介護の障害者や、長時間利用者を自立支援している障害者団体等も、 原則として参加させることによって、当事者主導の自立支援協議会を確立するべきであ る。 [2]委員の公募方式がいいのだが、障害当事者の参画を重視というのではなく義務付けとし た方がいいのではないか。 以 上 --------- 「地域移行」部会作業チーム報告書の概要             1.地域移行の支援、並びにその法定化 (1)「地域移行」とは何か  「地域移行」のもつ意味は、単に住まいを施設や病院から移すことではなく、障害者 個々人が市民として、自ら選んだ住まいで安心して、自分らしい暮らしを実現すること である。当然、すべての障害者が、障害の程度や状況、支援の量等に関わらず、地域移 行の対象となる。なお、「地域移行」は、住まいを施設や病院から地域に移すことのみ ではなく、家族との同居から独立し、自分の住まいを設けることも含み捉える必要があ る。 (2)「特定の生活様式を義務づけられないこと」を確保するうえでの課題と地域移行の 法定化について  障害者本人の意志や希望、選択が尊重される支援の仕組みと選択肢を作ることが早急 に必要である。これは地域で生活する障害者についても同様である。地域移行を進める ためには、地域社会で暮らすための基盤整備が最重要課題である。入所定員や病床数の 減を法定化は、それを前提としたものでなければならない。さもないと、家族の不安や 負担を強いる危険性と混乱を招きかねない。基盤整備を積極的に進めるためには、例え ば、時限立法として、「障害者の地域移行を促進するための基盤整備に関する法律」の 制定が望まれる。少なくとも、国としての「地域基盤整備○ヵ年戦略」(仮称)を策定 する必要がある。 (3)入所施設や病院からの地域移行に関して具体的な期限や数値目標、プログラムなど について  期限や数値目標は、退所・退院に向けたものだけではなく、地域での資源整備計画に こそ必要である。特に、入所者・入院者に対して定期的にそのニーズを把握し、社会的 入所・入院の軽減を図らなければならない。地域移行のプログラムは、入所者・入院者 が自ら選ぶことを前提とし、個々人の状況に合わせ作成することが重要である。プログ ラムは施設や病院の職員だけではなく、外部者が関わりながら進める仕組みが必要であ る。 (4)地域移行を進めるためのピアサポートや自立体験プログラムなどについて  ピアサポートを地域移行推進のための重要な人的資源と位置づける必要がある。地域 移行に向けた体験プログラムにはさまざまな選択肢が必要で、施設・病院と地域支援者 等の連携のもとで進めるべきである。地域での体験に際して、地域の福祉サービスも利 用でき、経済的に困難な人にはその費用を助成する仕組みが不可欠である。 (5)保証人を確保できず地域移行が出来ない人への対応としての公的保証人制度について  公的保証人制度は必要であり、自治体が保証人となるべきである。住居確保以外の場 合は、地域支援の一部として位置づける制度が望ましい。 (6)地域移行をする人に必要な財源が給付されるような仕組みについて  経済的な支援が必要な人については、新居への入居時等にかかる費用等を支援する仕 組みは重要である。これは、在宅から一人暮らし、グループホーム等に移行する障害者 についても同様である。 (7)地域移行における入所施設や病院の役割、機能について  入所施設や病院と地域生活を単純に対立軸とし、その役割、機能を論ずることは妥当 ではなく、また、現実的ではない。特に、濃密な医療ニーズが継続的にある人たちにつ いては、充分な議論が必要である。入所・入院の長期化を避けるために、「個別支援計 画」を充実させるとともに、セイフティネットとしてのニーズに対応できる専門的な支 援機能を提供する一方、地域生活に向けた支援を強化すべきである。 2.社会的入院等の解消 (1)精神科病床や入所施設からの大規模な地域移行を進めるための特別なプロジェクト について  国が特別プロジェクトとして予算を確保することが重要である。例えば、「地域基盤 整備○○カ年戦略」のように、一定期間集中的に国が主導し取り組むことが考えられ る。 (2)現実に存続する「施設待機者」「再入院・入所」問題への取り組みについて  施設待機者は、さまざまな福祉サービス利用の待機者であるとの視点に立ち、具体的 な地域基盤の整備を進めることが必要である。再入所・再入院についても、地域支援の 不足・不備からくるものとして検証し、再び地域移行にむけて支援を行うことが必要で ある。 (3)「施設待機者」「再入院・入所」者への実態調査とそれらのニーズ把握の具体的な 取り組みについて  在宅調査とともに入所者・入院者実態調査も重要である。施設に求める機能、地域で の支援の現状や課題等を把握する必要がある。その際には、障害者本人への聴き取りを 行うことが重要である。特に、全国的な調査として、地域性や地域間格差の把握が重要 であり、国としての地域移行に向けた取り組みの根拠となる。 (4)上記の調査を具体的な施策に活かすためのシステムについて  調査結果を踏まえ、「地域基盤整備○○カ年戦略」(仮称)などを策定し、一定期間 集中的に国が主導し取り組むことが必要となる。また、上記の調査を国の定期的な調査 として位置づけることで、具体的な施策を検証し、効果的な施策を講じていくことが可 能となる。  (5)スウェーデンと同様に、我が国における強力なインセンティブを持った政策の必要 性とその内容について  民間施設や民間病院に依存してきた我が国では、同様の取り組みは難しい面がある。 市町村・都道府県が社会資源開発のための戦略を障害福祉計画等に盛り込み、国は、社 会資源開発を、省庁を超えた広域事業として位置づけ推進することが求められる。地域 支援の予算の大幅な増など、地域資源を飛躍的に増加することが強力なインセンティブ になる。 --------- 「地域移行」部会作業チーム報告書 【作業チームのメンバー】  座 長 大久保常明 社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会常務理事  副座長 三田 優子 大阪府立大学准教授      伊澤 雄一 特定非営利活動法人全国精神障害者地域生活支援協議会 代表      岡部 耕典 早稲田大学准教授      小田島栄一 ピープルファースト東久留米代表      河ア 建人 社団法人日本精神科病院協会副会長      清水 明彦 西宮市社会福祉協議会障害者生活支援グループ グルー プ長      中原  強 財団法人日本知的障害者福祉協会会長      山本 真理 全国「精神病」者集団 1.地域移行の支援、並びにその法定化 (1)「地域移行」とは何か (結論1)  「地域移行」のもつ意味は、単に住まいを施設や病院から移すことではなく、 障害者個々人が市民として、自ら選んだ住まいで安心して、自分らしい暮らしを 実現することである。  障害があっても本来、誰もが地域で暮らしを営む存在であり、一生を施設や病 院で過ごすことは普通ではない。当然、すべての障害者が、障害の程度や状況、 支援の量等に関わらず、地域で暮らす権利をもつ存在と捉え、地域移行の対象と なる。 (結論2)  「地域移行」の具体的場面は、住まいを施設や病院から地域に移すことのみで はなく、家族との同居から独立し、自分の住まいを設けることも含み捉える必要 がある。 (結論3)  地域移行の中心課題は、障害者であるために地域で生活することを困難にして しまう社会の資源・環境の不足の問題である。 (結論4)  常時の医療的ケアが必要、「強度行動障害」がある、地域でトラブルを起こし がち等々の理由でこれまで「もっとも地域移行が困難」とされてきた障害のある 人たちを地域移行の対象者から除外してはならない。 (結論1−説明)  地域移行とは、ただ施設や病院から住まいを移すということではない。障害者 も市民であるから、市民としての権利、すなわち個々人が自分の住みたいところ で、自分が選んだ自分の暮らしを展開することの第一歩が地域移行である。障害 があっても本来、誰もが地域で暮らしを営む存在であり、一生を施設や病院で過 ごすことは普通ではない。施設や病院において、入所者・入院者が利用しやすい 自己決定と自己選択を支える権利擁護システムが整えられていることが地域移行 推進の条件である (結論2−説明)  これまでのように在宅での家族の介護等に依存し、限界となって入所・入院に 至る流れを断ち切る、家族への依存(負担)からの解放もまた地域移行である。 従って、地域で生活継続が困難になって、入所・入院に至ってしまう人を地域で 支援できる仕組みを作ることは、地域移行の取り組みの一部である (結論3−説明1)  施設や病院に不必要に入らない、また、再入所・入院しないための取り組みを 含めて、地域移行の促進とする。地域移行の中心課題は、障害者であるために地 域で生活し続けることを困難にしてしまう社会の資源・環境の不足の問題である。 (結論3−説明2)  障害者が地域生活を送る上で求められる社会の資源・環境は、福祉サービスは もちろんのこと、住宅政策、所得保障、権利を守る仕組みなどとなる。また、地 域移行の推進には、障害者であっても地域でその人らしく生きる存在(「地域で暮 らす権利がある生活の主体者」)であることを、住民が理解するための取り組みを 行うことが重要である。 (結論4−説明)  「もっとも地域移行が困難」とされてきた人たちが「市民として、自ら選んだ 住まいで安心して、自分らしい暮らしを実現する」ための支援が必要である。権 利条約第19条において自立生活のために必要な地域支援として強調されているパ ーソナルアシスタンスとして、例えば、重度訪問介護の知的障害者や精神障害者 への対象拡大が考えられる。 (2)「特定の生活様式を義務づけられないこと」を確保するうえでの課題と地 域移行の法定化について (結論1)  「特定の生活様式を義務づけられないこと」を確保するうえで、入所者・入院 者が住みたいところを選ぶ、自分の暮らしを展開するなど、障害者本人の意志や 希望、選択が尊重される支援の仕組みと選択肢を作ることが早急に必要である。  これは地域で生活する障害者についても同様で、家族の状況や支援不足から障 害者が希望しない環境におかれることや、大人数の住まい等の環境におかれてい ることも含まれる。 (結論2)  地域移行を進めるためには、障害者が、障害の程度や状況に係わらず地域社会 で暮らすための基盤整備が最重要課題である。施設の入所定員や病院の病床数の 減を法定化は、それを前提としたものでなければならない。そうでないと、家族 の不安や負担を強いる危険性と混乱を招きかねないことになる。  とりわけ重要となる福祉サービス基盤の整備と住まいの確保を積極的に進める ためには、総合福祉法(仮称)とは別に、例えば、時限立法として、「障害者の地 域移行を促進するための基盤整備に関する法律」の制定が望まれる。少なくとも、 国としての「地域基盤整備○ヵ年戦略」(仮称)を策定する必要があると考える。 (結論3)  総合福祉法(仮称)に盛り込む内容として、現行法の事業所指定における障害 者支援施設への総量規制的なものは、一定の歯止めとして必要と考えられる。ま た、グループホーム等の指定事業所の設置促進にあたっては、地域住民との調整 に対して、行政の一定の責任を明文化する必要がある。   (結論1−説明)  本来は誰もが地域で暮らしを営む存在であり、障害者が一生を施設や病院で過 ごすことは普通ではない。入所者・入院者が住みたいところを選ぶ、自分の暮ら しを展開するなど、障害者本人の意志や希望、選択が尊重される支援の仕組みと 選択肢を作ることが早急に必要である。これは地域で生活する障害者についても 同様で、家族の状況や支援不足から障害者が希望しない環境におかれることや、 大人数の住まい等で普通の暮らしとは言えない環境におかれていることも含むも のとする。  なお、権利条約19条の実現のためには、どこに暮らすか、誰とどう暮らすかな ど、障害者本人が望む生活を実現するための権利擁護システムの整備が重要であ る。 (結論2−説明1)  地域移行の促進にあたって、地方における地域基盤整備や財政等の格差ととも に、国と地方の財政負担構造など課題があるなかで、単に、施設の入所定員や病 院の病床数の減を法定化することは、家族の不安や負担を強いる危険性と混乱を 招きかねない。 (結論2−説明2)  地域移行の法定化は、地域移行に特化したものではなく、誰もが暮らせるため の地域資源・支援システムが整備されることが前提である。時限立法などで、集 中的に地域生活資源を整備することが有効である。 (3)入所施設や病院からの地域移行に関して具体的な期限や数値目標、プログ ラムなどについて (結論1)  退所・退院に向けた具体的な期限や数値目標は、それだけでは入所者・入院者 の回転ドア現象を招きかねない。期限や数値目標は、地域での資源整備計画にこ そ必要である。特に、入所者・入院者が、どのようなニーズがあって入所・入院 しているのか、定期的にそのニーズを把握し、社会的入所・入院の軽減を図らな ければならない。 (結論2)  地域移行のプログラムは、入所者・入院者が自ら選ぶことを前提とし、入所者・ 入院者の権利擁護システムが同時に整備されるべきである。また、プログラムに 入所者・入院者が合わせ、一定のプログラムを経なければ地域移行できないもの ではなく、個々人の状況に合わせ作成することが必要である。  特に長期入所者・入院者は、それまでの環境が本人に大きな影響を与えている 場合があり、本人の状況を踏まえた個別のプログラムが必要である。なお、プロ グラムは、その目的からも、施設や病院の職員だけで遂行するのではなく、個人 ごとに外部者が関わりながら進める仕組みが必要である。 (結論3)  地域移行を推進する上で、プログラムの対象は、入所者・入院者に限らず、施 設・病院の職員にも必要であり、専門性を活かした地域生活支援への視点の転換 が必要と思われる。 (結論1−説明)  退所・退院に向けた取り組みは重要だが、その具体的な期限や数値目標は、そ れだけでは入所者・入院者の回転ドア現象を招きかねない。期限や数値目標は、 地域での資源整備計画にこそ必要であり、両者が整合性をもって連動する必要が ある。  もちろん、入所者・入院者が、どのようなニーズがあって入所・入院している のか、定期的にそのニーズを図る必要があり、社会的入所・入院の軽減を目指さ なければならない。その際、施設・病院関係者だけでなく、外部者(地域支援者、 ピア、自立支援協議会、市民などさまざまな立場の者)が参加できる仕組みを作 ることは、安易な入所・入院を避けるためにも重要である。  自治体の障害福祉計画等で掲げられた地域移行者目標数値に関しては、地域支 援サービス整備の目標数値とともに一定の達成義務は必要だが、施設や病院から 住まいを移行しただけで終るものではないため、地域での生活実態の把握や支援 状況の検証を移行後も行なうべきである。 (結論2−説明)  地域移行のプログラムは、障害者の意志や決定を確認し、それを実現するため のものであり、入所者・入院者が自ら選ぶことを基本としたものである。従って、 入所者・入院者の権利擁護システムが同時に整備されるべきである。また、ステ ップ型のプログラムに入所者・入院者が合わせ、一定のプログラムを経なければ 地域移行できないものではなく、個別に作成されたものが必要である。  なお、長期入所者・入院者への対応は重要な課題である。特に、それらの人た ちは、地域での生活がイメージできにくい。さらにあきらめや無気力から、自分 の意見を表明するのに時間がかかるなどの施設症に陥っている人には、特に本人 の思いに寄り添った個別のプログラムが必要である。その目的からも、施設や病 院の職員だけで遂行するプログラムではなく、個人ごとに外部者が関わりながら 進める仕組みが必要である。現行の「地域移行支援事業」の実績ならびに評価を 通じて、それを制度として昇華させていくことも必要と考える。 (結論3−説明)  施設・病院の職員がその専門性を地域支援に活かしていくことも、地域移行を 推進していく上で求められることになる。その際には、職員にも一定の移行プロ グラムが必要である。支援のあり方について、視点の転換が必要と思われるから である。 (4)地域移行を進めるためのピアサポートや自立体験プログラムなどについ て (結論1)  ピアのもつ力は大きく、重要な人的資源である。入所者・入院者の意志や希望 を聴くコミュニケーション過程での支援力やノウハウは有効である。安価な支援 としてピアサポートをとらえるのではなく、ピアを地域移行推進のための重要な 人的資源と位置づけ、その育成と報酬等に係る財源を確保すべきである。 (結論2)  地域移行に向けた体験プログラムには、さまざまな選択肢が必要で、施設・病 院と地域支援者等の連携のもとで進めるべきである。そのプログラムには、まず 施設・病院から外出したり、地域での生活を楽しむ体験をするなどしながら、自 分の地域生活をイメージする期間も必要であり、そのため、地域の福祉サービス も利用できる仕組みが必要である。なお、経済的に困難な入所者・入院者にはそ の費用を助成する仕組みが不可欠である。   (結論1−説明)  ピアのもつ力は大きく、重要な人的資源である。入所者・入院者の意志や希望 を聴くコミュニケーション過程で、ピアならではの支援力やノウハウは有効であ る。たとえば、長期入所者・入院者は、地域での生活がイメージできにくい。さ らに自らの希望を表明することができない、あきらめてしまっているなどの施設 症に陥っている人には、本人の思いに寄り添った個別のプログラムが必要で、そ の働きかけにはピアサポートの協力が重要である。  また、地域移行の過程で、本人の意志を無視したり、支援側のプランを押し付 けたりしないよう、入所者・入院者に対して個別に、権利擁護サポーターなどが 配置されるのも有効で、そのサポーターをピアが担うこともあり得る。この場合、 権利擁護サポーターの独立性が重要となる。  いずれにしても、安価な支援としてピアサポートをとらえるのではなく、ピア を地域移行推進のための重要な人的資源と位置づけ、ピアサポーターの育成なら びに地域移行支援活動に対する至当な報酬等の財源を確保すべきである。 (結論2−説明)  地域移行に向けた体験プログラムには、さまざまな選択肢が必要で、施設・病 院と地域支援者等の連携のもとで進めるべきである。その体験プログラムには、 まず施設・病院から外出したり、地域での生活を楽しむ体験をするなどしながら、 自分の地域生活をイメージする期間も必要である。そのため、地域の移動支援等 の福祉サービスを利用できる仕組みが必要である。また、蓄えもなく、経済的に 困難な入所者・入院者にはその費用を助成する仕組みが不可欠である。 (5)長期入院・入所の結果、保証人を確保できず地域移行が出来ない人への対 応としての公的保証人制度について (結論)  保証人がいないために住居が確保できない入所者・入院者にとって、公的保証 人制度は必要であり、自治体が保証人となるべきである。  なお、住居確保以外の場合、公的とは言っても、機械的に担うのではなく、地 域支援の一部として位置づけ、障害者の生活状況を知る人が担う保証人制度が望 ましい。 (結論−説明)  保証人が不在のために住居が確保できない入所者・入院者にとって、公的保証 人制度は必要である。住居の確保のためには自治体が保証すべきである。  住居確保以外にも保証人が求められる場合は、公的とは言っても、全く関わり のない第三者が機械的に担うのではなく、さまざまな地域支援の一部として位置 づけ、障害者の生活状況を知る人が担う保証人制度が望ましい。  ただし、その際には、保証人が障害者の生活管理として、生活に何らかのコン トロールを与えることがないよう、障害者が不服を申し立てられるような仕組み が同時に必要である。 (6)地域移行をする人に必要な財源が給付されるような仕組みについて (結論)  地域移行に伴い、経済的な支援が必要な入所者・入院者については、例えば新 居への入居時等にかかる費用等を支援する仕組みは重要である。これは、在宅か ら一人暮らし、グループホーム等に移行する障害者についても同様である。 (結論−説明)  地域移行に伴い、経済的な支援が必要な入所者・入院者については、例えば新 居への入居時等にかかる費用等を支援することは、移行促進を図るためには重要 である。  ただし、在宅から一人暮らし、グループホーム等に移行する障害者についても 同様の仕組みが必要であるので、地域生活支援サービスのひとつとして位置づけ ないと、施設・入院を経た地域生活モデルが出来上がってしまう恐れがある。 (7)地域移行における入所施設や病院の役割、機能について (結論1)  入所施設や病院と地域生活を単純に対立軸とし、その役割、機能を論ずること は妥当ではなく、また、現実的ではないと考える。特に、濃密な医療ニーズが継 続的にある人たちに係わる議論は、拙速に結論を求めることのないよう、充分な 議論が必要である。 (結論2)  入所施設や病院は、入所・入院の長期化を避けるための「個別支援計画」を充 実させるとともに、セイフティネットとしての入所・入院ニーズに対応できる本 来の専門的な支援機能を提供する一方、地域生活に向けた支援を強化すべきであ る。 (結論1−説明)  入所施設や病院は、地域で暮らす障害のある人たちが何らかの理由で地域生活 に耐えられない状況に陥った時に、必要に応じて利用する社会資源であり、専門 的知識と技術をもった支援 (病院の場合は必要な治療)や環境を提供する社会資 源である。 (結論2−説明1)  入所・入院の長期化を避けるために、施設・病院で支援の計画を作成する際に は、入所時・入院時から相談支援機関等と連携した「退所・退院を目標にした個 別支援計画」とする。また、セイフティネットとしての入所・入院ニーズを支援 に結びつけるために、本来の専門的な支援を提供する一方、地域生活に向けた支 援を開始すべきである。 (結論2−説明2)  地域に家族支援、緊急一時支援、高齢障害者支援、強度行動障害や地域との摩 擦を起こしやすい人たちへの支援、地域医療等が地域に用意されることが必要で あるが、施設や病院が、地域の支援機関と十分に連携できる体制を整えることも 専門機関としての役割である。 (結論2−説明3)  障害が重い人であっても、基本として、その人の「人生」が施設や病院の中の みで完結することはあってはならない。地域でその人らしい暮らしを送るための 専門的支援に向けた、職員の研修や意識改革は必須である。 (結論2−説明4)  地域移行において施設や病院に期待される役割には、入所・入院のあり方、入 所・入院環境などの見直しも含まれる。適正な手続きによる施設・病院への入所・ 入院であることは、地域移行推進と関係する重要要件である。その上で、施設や 病院は、質の高い専門的支援・医療を提供する機関としての機能強化が求められ るべきである。 (結論2−説明5)  施設や病院への入所・入院の必要性を見極める場が必要である。例えば、精神 科病院への休息入院にみられるように、生活場面から離れてゆっくり静かに休め る環境があれば入院せずに済む人が少なくない。ショートステイやレスパイトサ ービスにバリエーションをもたせ、精神障害者が気軽に使えるものにすることで 入院が必ずしも必要でなくなる人もいる。  また、重症・重度障害者についても、地域で医療的ケアが身近に受けられる場 があり、それが家庭的なサイズである場合の方が安定した体調を維持できること も少なくない。  このように、入所施設や医療施設でなければならないのかどうか、定期的にそ のニーズを図りながら個別支援計画を更新することが必要である。  いずれの場合でも、入所者・入院者が利用しやすい権利擁護システムが不可欠 であるが、重度者であっても本人の意志を聞きながら進めることが重要である。 (結論2−説明6)  精神科医療は入院中心ではなく、地域での生活支援と連携をし、地域の中で精 神医療を提供する存在へと転換を図るべきである。地域移行を推進するうえでも、 適正な手続きによる入院のあり方の検討も求められる。   2.社会的入院等の解消 (1)多くの社会的入院を抱える精神科病床や入所施設からの大規模な地域移 行を進めるための特別なプロジェクトについて (結論)  地域での支援サービスを重層的に構築することが肝要であるので、国が特別プ ロジェクトとして予算を確保することが重要である。例えば、「地域基盤整備○○ カ年戦略」のように、一定期間集中的に国が主導し取り組むことが考えられる。 (結論−説明)  社会的入所・入院の解消がこれまでも進んでこなかったのは、国の施策と地域 資源の貧しさや所得保障の不備、国民の意識、それゆえ家族の介護等に依存して きたこと、そして、地域で暮す権利を障害者本人にも伝えられなかったことなど が理由といえる。また、現在は地域で暮らしていても、地域で生活し続けられな くなると、施設や病院をセイフティネットとして頼らざるを得ない。  なによりも、地域での支援サービスを重層的にすることが肝要であるので、国 の責任として特別プロジェクトとしての予算を確保することが重要である。  例えば、「地域基盤整備○○カ年戦略」のように、一定期間集中的に国が主導し 取り組むことである。同時に、障害者であっても地域でその人らしく生きる存在 (「地域で暮らす権利がある生活の主体者」)であることを、住民が理解するため の取り組みとしての特別なアクションが必要である。また、特区制度を設け、住 民を巻きこんで地域性を活かした取り組みも有効である。 (2)現実に存続する「施設待機者」「再入院・入所」問題への取り組みについ て (結論1)  施設待機者は、全てが真に施設入所の必要な者とは言えない。障害福祉計画等 で、単純に施設待機者数を施設設置の根拠とすることは妥当ではない。待機者は、 さまざまな福祉サービス利用の待機者であるとの視点に立ち、具体的な地域基盤 の整備を進めることが必要である。 (結論2)  再入所・再入院についても、障害者本人の問題としてのみ捉えるのではなく、 地域支援の不足・不備からくるものとして検証し、再び地域移行にむけて支援を 行うことが必要である。 (結論1−説明)   施設待機者は、地域における支援の貧しさから生まれてくるもので、すべての 人が真に施設入所の必要な者とは言えない。また、待機者としてカウントされた 障害者の、施設に頼らざるを得ないそのニーズは分析されてはいない。待機者は さまざまな福祉サービス利用の待機者である。よって、施設待機者が施設ニーズ として取り上げられる根拠はない。  よって、障害福祉計画等で施設待機者数を施設設置の基準にしない。なぜ入所 者が生まれるのかを分析し、そこに重点的に支援をつくることが都道府県・市町 村の役割である。施設待機者を掲げる自治体は、施設待機者に対して実態調査を 実施し、真のニーズを把握するとともに、地域生活の継続希望者に対しては、速 やかに取組むべき課題として、改善計画を策定すべきである。 (3)「施設待機者」「再入院・入所」者への実態調査とそれらのニーズ把握の 具体的な取り組みについて (結論)  在宅調査とともに入所者・入院者実態調査も重要である。施設に求める機能、 地域での支援の現状や課題等を把握する必要がある。その際には、障害の程度や 状況に関わらず、障害者本人への聴き取りを行うことが重要である。  特に、全国的な調査として、地域性や地域間格差の把握が重要であり、国とし ての、地域支援のあり方に関わる貴重なデータとなり、地域移行に向けた取り組 みの根拠となる。 (結論−説明)  在宅調査を行い、施設機能に求めるもの、地域での支援の現状や課題等を聴き 取ることが必要である。その際には、障害の程度や状況に関わらず、障害者本人 への聴き取りを行うことが重要である。  同時に、入所者・入院者実態調査も重要で、なぜ入所・入院に至ったのか、入 所者・入院者の希望は何か、どのような退所・退院阻害要因があるのかを、分析 することを国主導で行う。  全国的な把握、地域性の把握が、地域支援のあり方に関わる貴重なデータであ り、地域移行に向けた取り組みの根拠となる。 (4)上記の調査を具体的な施策に活かすためのシステムについて (結論)  上記の調査結果を踏まえ、「地域基盤整備○○カ年戦略」(仮称)などを策定し、 一定期間集中的に国が主導し取り組むことが必要となる。また、上記の調査を国 の定期的な調査として位置づけることで、具体的な施策を検証し、効果的な施策 を講じていくことが可能となる。  (5)スウェーデンでは1990年代初頭の改革で一定期間以上の社会的入院・入 所の費用は市町村が持つような制度設計にしたため、社会資源の開発が一 挙に進んだ。我が国における同様の強力なインセンティブを持った政策の 必要性とその内容について (結論)  何らかの政策的な仕組みは必要ではあるが、民間施設や民間病院に依存してき た我が国では、同様の取り組みは難しい面がある。   しかしながら、障害福祉計画等の立案者である市町村・都道府県、特に事業者 指定者である立場からも、社会資源開発のための戦略をその計画に盛り込むこと は必要である。さらに国は、社会資源開発を、省庁を超えた広域事業として位置 づけ推進することが求められる。いずれにしても、地域支援における予算の大幅 な増など、地域資源を飛躍的に増加することが強力なインセンティブになる。 本作業チーム報告に対して部会委員から寄せられた主な意見 1.地域移行の支援、並びにその法定化 (1)「地域移行」とは何か (結論1に関して)  障害者個々人が市民として、自ら選んだ住まいで「安心して」暮らすために、 専門的なかつ医療を含めた総合的なサポート体制が不可欠であり、サポートの 質を確保していくことが重要である。 (結論3に関して) 「施設や病院に不必要に入らない」というより、「長期の社会的入所・入院を防 ぐ」という表現が適切である。 (結論3に関して)  出生時から体の不自由さ、特に医療と密接に関係する肢体不自由児・者にとっ て医療をともなう施設はなくてはならない存在である。医療をともなう施設か ら、地域で生活するためには、地域生活の基盤整備(24時間支援を含む)ととも に親や兄弟に対する支援が必要である。特に親が障害を受容して前に進むこと が、本人が地域で生活する上で必要である。 (3)入所施設や病院からの地域移行に関して具体的な期限や数値目標、プロ グラムなどについて (結論1に関して)  社会的入院・入所の実体検索ならびに状況打開(地域への帰来促進)のプランニ ング、地域受け皿(社会資源)の整備(質量の担保)と多岐にわたる課題の追求が 必要であり、総合福祉法(仮称)全体を貫くテーマとも言うべきものである。 (結論1に関して)  本来、障害福祉計画では、施設利用者に直接聴き取りをし、地域生活の意向調 査などをし、目標を掲げて地域移行計画、施設定員削減計画を立てるべきであ る。 (結論1に関して)  地域生活の資源の充実が前提ではあるが、例えば、「入所施設から地域生活移 行10ヵ年戦略」(仮称)を目標に、入所施設を段階的に小規模化(併せて定員 ○○以上の入所施設は認めない。計画的に定員を削減する計画を義務化)して いくことが考えられる。その過程で、当事者の意見(入所当事者、家族)と国 民的な論議のもとに入所施設を閉鎖していく方向性を見出していくことが可能 になるのではないか。なお、障害者自立支援法施行時に論議した同一敷地内の 問題も整理する必要がある。また、地域移行型ホームの検証と見直しも必要で ある。 (5)長期入院・入所の結果、保証人を確保できず地域移行が出来ない人への 対応としての公的保証人制度について (結論に関して)  賃貸住宅の保証人を市町村が担うことは良いが、多くの障害福祉サービスを必 要とする障害者の転入を拒否する自治体も現実にある。よって、サービス利用 が多く見込まれることを理由に保証人になることを拒否することを禁止する仕 組みが必要である。 (結論に関して)  車イス使用者が居住したことによって生じる壁や柱の損傷、スロープ設置跡な どの原状回復費用を退去時に保障するか否かも、民間賃貸住宅の貸主が障害者 にアパート等を貸すかどうかに大きく影響する。そのような原状回復費用が高 額に達した場合には、自治体が負担することまでを含んだ保証人制度が必要で ある。これにより、障害者への民間賃貸住宅の貸し出し拒否はなくなるのでは ないか。 (7)地域移行における入所施設や病院の役割、機能について (結論2に関して)  住まいがどこであろうと、QOLを確保することが必要であり、4人部屋を解 消し、1人部屋を原則とする必要がある(1部屋の定員基準を地方に任すのでな く、国が基準を定める)。また、高齢化対策を充実させるとともに、個別支援が 必要な強度行動障害児者等の地域移行を進めるための基盤整備を実施する。グ ループホーム等での体験入居を拡大し、地域での生活の経験を増やしていく必 要がある。なお、現行の障害程度区分による利用制限を撤廃する一方、有期限 利用を原則とすることが大切である。そのためには、いわゆる「つなぎ法」に よるサービス利用計画の対象拡大(入所者への適用)を積極的に推進、活用し ていくことが重要である。 2.社会的入院等の解消 (5)スウェーデンでは1990年代初頭の改革で一定期間以上の社会的入院・ 入所の費用は市町村が持つような制度設計にしたため、社会資源の開発 が一挙に進んだ。我が国における同様の強力なインセンティブを持った 政策の必要性とその内容について (結論に関して)  法的な裏付けをもった政府・自治体による施設・病院の減少計画といった強力 な政策により、地域資源の整備・活用が進んでいくことも考えられる。 --------- 「地域生活の資源整備」部会作業チーム報告書の概要 1. 市町村や圏域単位での「満たされないニーズ」の把握や社会資源の創出 社会資源の創出やニーズの発掘のために、地域自立支援協議会の活性化(当事 者団体の参画、市町村への提言、モニタリング(日常的な評価と点検)機能を 持たせる等)が重要。 2. 24時間介護サービス等長時間介護が必要な人への市町村や圏域単位での支 援体制 どんなに重い障害がある人でも、またどこに住んでいても、地域社会で暮らす 権利が満たされるために必要な支援量は提供されるべきであり、そのための財 源確保が重要。 3. コミュニケーション・移動支援におけるシームレスな支援と格差の解消 通勤・通学などにおけるシームレスな(継ぎ目のない)移動支援、失語症や記 憶障害などの重い言語障害のある人に対してのコミュニケーション支援、盲ろ う者へのパーソナル・アシスタンス制度を参考にした支援のあり方を検討する べきである。 4. 地域活動支援センターの事業内容や小規模作業所について 小規模作業所はその多様な実態をふまえて地域活動支援センターに発展的・安 定的に集約し、設置要件の緩和を行い一元化する一方、定員・内容については、 自治体に裁量を持たせる等の工夫も必要。 5. 国庫負担基準について 施設・病院から地域移行する人や親元から独立して別市町村で暮らす障害者に ついては、出身自治体が一定年度の財政負担をした上で、居住自治体が支給決 定することも検討を要する。また地域生活する重度者について、現行の国庫負 担基準以上は国負担を原則とし、無理な場合でも、例えば、都道府県での基金 化も含め市町村負担を大幅に引き下げる対応を考えるべき。 6 国庫負担基準の評価と問題解決について 現状は、国庫負担基準が自治体の実質的なサービスの上限となっている実態が ある。必要なサービス提供のためには、はじめに予算ありきではなく、まずは 障害者のニーズを中心に検討し、「地域で暮らす権利」を保障するための財源 を確保すべきである。また、インクルーシブな社会への復興・新生に向け、入 所・入院施設への投入財源を、地域資源へ組み替えすることも検討すべき。 7. 自治体が地域生活移行や地域生活支援を促進するための具体的な方策につ いて 本人の意向に基づいた計画、住まいや日中活動の場の確保、在宅サービスの充 実、緊急時対応の整備、移行支援の拠点作りが必要不可欠。上記を、地域自立 支援協議会で協議し、地域の実情に応じた障害福祉計画として、実行に向けた 現実的計画を作成すべき。 8. 地域生活の権利を担保するためのナショナルミニマムのあり方について どのような地域で生活しても、地域生活の権利の保障がされるための最低限度 のサービス水準について示すとともに、財源を確保する社会システムを構築す べき。 9. 自立支援協議会における当事者参画について 重度障害者も含めた様々な障害当事者や家族などの参画義務付けを明記。地域 自立支援協議会は障害福祉計画の策定に実質的に関与することを、また、都道 府県自立支援協議会は絶対数が少ない障害者の参画保障と広域的・専門的な情 報提供と助言役割を果たすこと、が重要。 10. 権利擁護を推進していくための相談支援やエンパワメントの事業化につ いて 相談支援には、具体的なサービスにつなげるものと、障害当事者のエンパワメ ントや権利擁護につながるものの二種類がある。相談支援の拠点として、寄り 添う当事者、専門的知識を有する支援者、行政の3つの主体による相談支援体 制が必要。また専門的相談や絶対数が少ない障害者への対応などは広域的に行 うことや、鳥取県・島根県の「あいサポート運動」のような、地域社会への普 及啓発の活動も不可欠。 11. サービスの質の確保等のための苦情解決と第三者評価の仕組みについて 基盤整備(量的な確保)が進まない中での質の確保はあり得ない。また苦情と いう形で問題化する以前の段階での、障害当事者とその関係者からの話をじっ くり聞く、事前相談や寄り添い型の相談支援の仕組みが必要である。その上で、 実際に起こってしまった苦情については、実態として権利保障するための苦情 解決に向けた対応機関が必要。 12. モニタリング機関や不服審査・苦情解決・権利擁護機関の必要性について 不服審査や権利擁護に関しては、相談支援との連携や不服申立の支援等が求め られる。障害福祉計画に関しては、都道府県、市町村単位(審議会その他の合 議制の機関)でのモニタリングが必要。地域課題について、障害当事者や相談 支援機関が上記モニタリング機関に課題提起をすることが出来る事とする。 13. 障害者差別禁止法や障害者虐待防止法でカバーすべき部分と自治体が担 う役割 入所・入院者、また自身の意向を伝えにくい障害者に関しては、第三者が本人 の意向をくみ取る支援の仕組み(相談支援機関の訪問やオンブズパーソン制度 の創設)も必要。また差別禁止の意識啓発や斡旋・調整を目的とした自治体レ ベルの条例制定も大切。 --------- 「地域生活の資源整備」部会作業チーム報告書 I.はじめに  当チームが担当した論点においては、“地域生活の基盤とは何か”、また、“そ の範囲などをどのように考えるか”といったことを根底にした協議検討が求め られることから、はじめにチーム内で話合い、共通理解したなかで、第1期部 会作業チームの訪問系チーム及び地域生活支援事業の見直しと自治体の役割チ ームの報告書を前提に検討を行った。  第1回目の検討では、地域生活の基盤整備(主にサービス内容)として、「長 時間介助等の保証」(F−3)やコミュニケーション・移動支援における制度の 利用のしづらさや市町村格差、地域活動支援センターの事業内容等に関する現 状と課題、あるべき姿を論点として協議した。  また、第2回目は、財源調整、国と地方の役割、ナショナルミニマム(国の 果たすべき最低限の保障水準)として、「義務的経費化と国庫負担基準」(F− 4)や「国と地方の役割」(F−5)のほか、障害者自立支援法における地域生 活移行や地域生活支援のための方策や、自立支援協議会の仕組み、地域活動支 援センター(小規模作業所)のあり方等について協議した。  そして、第3回目では、地域生活の資源整備や自治体の役割の論点と特に関 係が深いモニタリングや権利擁護(D−6−2、D―6−3、I−3−3、I −3−4)を検討の論点に加えるとともに、これまでの検討をまとめ、当チー ムの見解として報告することとした。 II.結 論 1.市町村や圏域単位での「満たされないニーズ」の把握や社会資源の創出方法 について (F−3−1) 結論  社会資源の創出につなげるために、地域のネットワークづくりは重層的に構 築すべきである。またニーズを見つけて、サービスにつなげる方法、財源の仕 組み、地域のネットワークの構築が論点であると考える。  そのためにも、当事者団体が参画した地域自立支援協議会の活性化も重要で ある。例えば、当事者団体からの情報提供を受けながら、サービスが届いてい ない人を把握して、必要なサービスがどのようなものなのか、を把握する必要 がある。さらに地域自立支援協議会に、市町村への提言といった機能をもたせ ること等や、また、権利条約でいわれているモニタリング(日常的な評価と点 検)機能の必要性等について検討することも重要である。(結論12も参照) 2.24時間介護サービス等も含めた長時間介護が必要な人への市町村や圏域 単位での支援体制について (F−3−2 ) 結論  どんなに重い障害がある人でも、障害者権利条約第19条の「他の者と平等な 選択の自由を有しつつ地域社会で生活する平等な権利」を実現することが求め られる。長時間介護も、その人の障害特性やニーズ、医療的ケアの必要度等に 応じて、日中の介護のみが必要な人から、24時間のパーソナル・アシスタン ス(※)が必要な人まで、必要とされる介護内容は様々である。ただ、どんな に重い障害がある人でも、またどこに住んでいても、地域社会で暮らす権利が 満たされる為に必要な支援量は提供されるべきである。  上記を満たし、各人のニーズに応じた支援が適切に届けられるために、財源 を確保して支援することが必要である。(結論5,6参照) ※パーソナル・アシスタンスとは、障害者あるいはその代弁者が決めた介助者 が、障害者側で決めた時間や介助内容・方法に応じて介助が提供される当事者 主導、個別的、包括的・継続的な支援のこと。 3.コミュニケーション・移動支援における、福祉以外の領域との関係性や市町 村格差について 結論  移動支援・コミュニケーション支援は、第一期の「地域生活支援事業の見直 しと自治体の役割」作業チームで検討された結果である、「地域生活支援事業で はなく自立支援給付・義務的経費化すべきである」、とする報告書内容を尊重す べきである。  移動支援については、通勤・通学などにおけるシームレスな(継ぎ目のない) 支援が求められる。またコミュニケーション支援については、失語症や記憶障 害などの重い言語障害のある人に対しても、必要な支援が検討されるべきであ る。  コミュニケーション・移動支援は、企業や学校等で「合理的配慮」として提 供できる部分と、総合福祉法の中で担う部分について、上記を前提とした上で 検討すべきである。  また盲ろう者は、各人に合った支援方法に習熟した支援者が移動支援とコミ ュニケーション支援を一体的に提供する制度を必要としている。そこで、パー ソナル・アシスタンス制度を参考に、現在は地域生活支援事業である通訳・介 助員派遣事業を拡充して、自立支援給付の性格を併せ持たせる方向で、この制 度のあり方を検討するべきである。 4.地域活動支援センターの事業内容や小規模作業所について 結論  現状の小規模作業所は、ニーズの谷間を埋める機能やセーフティーネット機 能を果たしてきた。これらの機能は地域毎の特性もあり、個別給付化になじみ にくいものもある。そのため、小規模作業所の多様な実態をふまえて地域活動 支援センターに発展的・安定的に集約し、設置要件の緩和を行い一元化する方 向としてはどうか。利用者定員やその内容については、都道府県や市町村にそ の設置基準の裁量を持たせる等の工夫も必要。また、新体系移行や他の日中活 動との整理については、就労の合同作業チームの結論も踏まえ、総合的に判断 すべきである。 5.国庫負担基準について 結論  前提として、地域移行者と地域生活をする重度者では、負担と支給決定のあ り方を変えるべきである。施設・病院から地域移行する人や親元から独立して 別市町村で暮らす障害者については、出身自治体(施設・病院所在地の自治体) が一定年度の財政負担(恒久的かどうかは検討)をした上で、居住自治体(地 域移行後に居住する自治体)での支給決定をすることも検討してはどうか。ま た地域生活する重度者について、現行の国庫負担率以上は国負担を原則とする。 ただ、そのことが無理な場合、例えば都道府県での基金化も含め市町村負担を 大幅に引き下げる対応を考えるべきである。(理由を参照) 6.国庫負担基準が事実上のサービスの上限になっている現状の評価と問題解 決について (F―4−1) 結論  はじめに予算ありき、ではなく、まずは障害者のニーズを中心に検討すべき である。そのニーズを積み上げる形で、必要な支給決定がなされる必要がある。 現状では国庫負担基準という形で実質的な予算上限を設定しているため、少な からぬ自治体が、国庫負担基準を事実上のサービス上限としている。総合福祉 法においては、障害者の実態とニーズに合わせ、「地域で暮らす権利」を保障す るための財源を確保すべきである。そのための方策は、上記の「国庫負担基準 について」のまとめを参照。また、インクルーシブな(障害を理由に排除され ることのない)社会への復興・新生に向け、入所・入院施設への投入財源を、 地域資源へ組み替えすることも検討すべきである。 7.自治体が地域生活移行や地域生活支援を促進する為の具体的な方策につい て (F−5−1) 結論  地域生活移行は、まず本人の意向に基づいた計画である必要がある。その上 で、住まい、就労も含めた日中活動の場の確保、在宅サービスの充実、緊急時 対応の整備などもバランスよく検討される必要がある。そのために、移行支援 の拠点作りも必要不可欠である。これらの事を、地域自立支援協議会などで協 議し、国の計画の人口割り案分数ではなく、地域の実情に応じたボトムアップ (現場の当事者のニーズから積み上げる)の障害福祉計画として、実行に向けた 現実的計画を作成すべきである。 8.地域の実情や特色にあったサービス提供を、地域生活の権利を担保するため のナショナルミニマムのあり方について (F−5−2) 結論  どのような地域で生活しても、地域生活の権利として最低限の保障がされる べきサービスについて示されるとともに、サービスを提供する社会資源と財源 を確保する社会システムを構築すべきである。 9.自立支援協議会における当事者参画について 結論  自立支援協議会は、都道府県および市町村の協議会の設置の義務付けおよび 重度障害者も含めた様々な障害当事者・保護者の参画義務付けを明記する。地 域自立支援協議会は、障害福祉計画の策定に実質的に関与することを法で規定 する。都道府県自立支援協議会には、盲ろうや難病等のマイノリティ(絶対数 が少ない)障害者の参画保障と、地域自立支援協議会や市町村への広域的・専 門的な情報提供と助言や市町村障害者福祉計画策定の支援機能が求められる。 10.権利擁護を推進していくためにはどのような体制が必要か? また相談支 援やエンパワメントの事業化についてどう考えるか? (D−6−2) 結論  相談支援には、具体的なサービスにつなげるものと、障害当事者のエンパワ メント(障害当事者のあきらめさせられた、我慢させられた想いや願いを大切 にし、生きる力、自らがコントロールする力を獲得すること)や権利擁護につ ながるものの、二種類がある。この二つを満たすためには、相談支援の拠点と して、寄り添う当事者が中心となったものと、専門的知識を有する支援者によ るもの、そして実施責任を持つ行政の3つの主体による相談支援体制が、それ ぞれに必要である。  また身近な市町村レベル、だけでなく、専門的相談やマイノリティ(絶対数 が少ない)障害者への対応などは都道府県内で広域的、かつ、関連当事者団体 が蓄積しているノウハウ等の活用に配慮する。  さらに、権利の形成や獲得支援に関しては、鳥取県・島根県で進められてい る「あいサポート運動」(※)のような、地域社会への普及啓発の活動も不可欠 である。 (※)あいサポート運動とは、地域の理解が不可欠という考えをもとに、障害 のある人が、地域の一員としていきいきと暮らしていくため、国民に広く、障 害の特性や障害のある人への配慮の仕方などを知っていいただき実践していた だく運動。一般市民、さまざまな障害者団体や県内外の民間企業等が“あいサ ポーター”として参加協力し、暮らしやすい地域社会作りのために運動を繰り 広げている。平成21年より実施。 11.サービスの質の確保等のための苦情解決と第三者評価の仕組みについて (D−6−3) 結論  地域生活の資源整備や重点的な基盤整備があり、選べるだけの選択肢が地域 に存在し、その上で苦情解決や第三者評価の仕組み作りが重要になる。基盤整 備(量的な確保)が進まない中での質の確保はあり得ない。また苦情という形 で問題化する以前の段階での、障害当事者とその関係者からの話をじっくり聞 く、事前相談や寄り添い型の相談支援の仕組みが必要である。  上記を満たした上で、それでも改善されない、あるいは実際に起こってしま った苦情については、実態として権利保障する為の苦情解決に向けた対応機関 が必要である。 12.モニタリング機関や不服審査・苦情解決・権利擁護機関の必要性について (I−3−3、I−3−4) 結論  この法の実施に関して、この法律に基づく形ではなく、障害者基本法の改正 案で示された障害者政策委員会に、総合福祉法のモニタリングも求める事とす る。一方、この法の支給決定やサービス内容に関しての不服申立機関は必要で ある。  個に起因する、ミクロレベル(個人)の不服審査や権利擁護に関しては、結 論10でも示したように、相談支援との連携に基づく対応が必要である。また、 市町村や都道府県レベルの不服申立機関への手続きのハードルを低くする為、 相談支援に不服申立の支援等が出来る事も求められる。  メゾ−マクロレベル(市町村や圏域など)における、障害者総合福祉法の実 施状況や障害福祉計画に関しては、市町村や都道府県に設置される審議会その 他の合議制の機関でモニタリングを行う。その際、個別ケースではない地域課 題の問題について、障害当事者や相談支援機関が上記モニタリング機関に課題 提起をすることが出来る事とする。  モニタリングされた内容は、都道府県および地域の自立支援協議会に向けて 伝えられる。都道府県および地域自立支援協議会では、障害福祉計画の進行管 理や次期計画の作成などにおいて、モニタリング内容も踏まえた内容を検討し、 整備水準を高める事とする。 13.障害者差別禁止法(仮称)や障害者虐待防止法(仮称)でカバーすべき部分 と自治体が自主的に担う役割について  結論  司法救済などの事後救済に関しては、自治体に裁量を付与せず、全国一律の 規準での救済が望ましい。一方、日常的な権利擁護課題(権利形成・獲得側面) については、市町村の裁量が担保される方がよい。 入所施設や精神科病院の入所・入院者、また在宅生活においても自身の意向を 伝えにくい(エンパワメントされていない)障害者に関しては、第三者が本人 の意向をくみ取る支援の仕組みが必要である。相談支援機関の訪問等による関 わりだけでなく、第三者による施設・病院訪問であるオンブズパーソン制度(※) の創設なども求められる。  国レベルでの障害者差別禁止法や虐待防止法の制定は必要不可欠である。だ が、自治体レベルでも、差別禁止の意識啓発や斡旋・調整など、上記法律を実 体的に機能させる為の、また差別として現れる前に問題を解決するため、今後、 市町村や都道府県単位の条例(例:千葉県やさいたま市)が車の両輪として、 設置されることが求められる。 (※)オンブズパーソン制度とは、元々スウェーデンで始まった、行政に対す る苦情処理と監察を行う第三者機関制度のこと。福祉領域でも施設での権利侵 害等に対する独自の調査と改善を求める機関として機能している。我が国の福 祉分野においても、障害者・高齢者の入所施設を第三者の市民が訪問し、利用 者の声を聞く中で施設処遇の改善を目的とした施設オンブズマンが各地に作ら れている。また、精神科病院に市民が訪問し、利用者の声をもとに処遇や療養 環境の向上を目指す精神医療オンブズマンは、大阪府の制度として位置づけら れた(現在の療養環境サポーター活動)。 III.理 由  地域生活の基盤整備の定義と、その範囲について当チームでは次のように考 えた。  地域生活支援とは、家族支援、入所施設・精神科病院での支援という「二者 択一」ではない、第三の選択肢である。その際、障害者権利条約第19条の「他 の者と平等な選択の自由を有しつつ地域社会で生活する平等な権利」を前提に 考える。また当事者の意見に基づく支援、自立(支援を受けての自立を含む) して暮らすための支援、生活の質を高める支援を保障する中で、他の者と平等 を実現する。上記を実現するために、抽象的理念に留まらず、目標を定めて基 盤整備を着実に進めることが重要である。  また、国庫負担基準については、次のような考え方を提起した。  24時間の支給決定については、25%の市町村負担が出来なくて、支給決 定できないところがたくさんある。そこで、ホームヘルプについて、8時間を 超える支給決定をする場合は、市町村負担は5%程度に下げ、都道府県が45% を負担し、8時間以内の支給決定をする場合は、市町村負担を26%とし、都道 府県負担の1%を確保して使うようにする案を提示した。(下図参照)  上記の図で8時間を境にしている理由は、重度訪問介護の区分6の国庫負担 基準が約40万円で、月212時間程度の単価となり、1日当たり7時間超で あることから、8時間を境にしている。  また入所施設や精神病院への入院・入所者の地域生活移行等を促進するため、 例えば居住地と出身地(施設・病院所在地)で費用を分担するような方式が考 えられないか。(下図参照) IV.おわりに  総合福祉部会は、障害者権利条約を起点にしていると理解しており、従来の 福祉サービスを受ける主体から権利を行使する主体へと180度の転換がなされ て画期的な手法で議論が進められている。  しかし、サービス提供の現場である市町村の実態は、今もって、従来の延長 線上で対応するのに汲々とした状況にあり、国民の理解等といっても進んでい ない状況である。  他の者と平等な選択の自由を有しつつ地域社会で生活する平等な権利が、社 会一般の常識として浸透するために、どのような取組みを図っていく必要があ るのかを、障害関係者だけでなく自治体や民間等を含めて、さらに議論を深め ていくことが必要である。  総合福祉部会が新法の提言を行う、2011年8月末以後、例えば障がい者制度 改革推進会議が行ったタウンミーティングを各地で行うなど、新法の理念やそ の内容について、広く国民理解を求める普及啓発活動が求められる。また、報 告書本文でも触れた、鳥取県・島根県の「あいサポート運動」などの、障害者 への理解を求め、差別禁止の意識啓発をする取り組みを、全国的に進めていく べきである。 付記: 本作業チーム報告に対して部会委員から寄せられた主な意見 1. 24時間看護を必要とする人への支援について、現在の不充分な体制等に鑑 み、[1]医師を含めたコメディカル、ケアマネ、ヘルパー、ボランティアなど の支援体制の構築が求められる。[2]社会活動参加(外出支援)には、医療ケ アを必要とする重度の言語障害者を入れてもらいたい。[3]外出移動支援で、 医療ケアを24時間(長時間)必要とする人たちへの公的な支援の制度化の 確立が求められる。C重介護・看護家族への休養・リフレッシュが保証され ておらず、この家族支援のためのレスパイト制度の保証が必要である。  2. 財源の確保について、国・地方とも厳しい財政難の中で、財源の確保の問題 は重要な課題である。制度の円滑な運営を図るためには財源の確保を平行し て議論し、制度に位置づける必要がある。 3. 地域生活支援を促進するために、夜間や緊急時対応が可能な拠点機能の設置 と支援者を配置し、昼夜を問わず支援できる拠点機能を設置する必要がある。 4. 自立支援協議会については、地域課題に即した「部会(WG)」の設置を促進す べきである。当該地域の福祉的支援課題を割り出し、それを事例検討など交 えながら深め、そして必要な支援はシステムとして立ち上げていくことを積 極的に推進することが大切である。 5. 障害者虐待防止法の第35条「市町村における連携協力体制の整備」におい て、「市町村は・・・社会福祉法に定める福祉に関する事務所(以下「福祉 事務所」という。)その他関係機関、民間団体等との連携協力体制を整備し なければならない」と規定している。 部会作業チーム報告書では第三者による施設・病院訪問であるオンブズパー ソン制度の創設が規定されている。これは、上記虐待防止法に関わる「関係 機関、民間団体等との連携協力体制」にも関わる部分である。 部会作業チーム報告書で提起したオンブズパーソン制度は、障害者虐待防止 法における「関係機関」との連携にも大きく関わる論点である。このオンブ ズパーソンについては、総合福祉法で創設するだけでなく、障害者虐待防止 法の「関係機関」とも位置づけて、三年後に見直しの中でも定義する等、今 後の緊密な連携が求められる。 --------- 「利用者負担」部会作業チーム報告書の概要 1.応益負担の問題点  福祉などの支援は、障害のある人が生きるうえでの必要最低限の保障であり、自立支援 法は、それを一般的な消費行為と同列に扱い利益としたことに問題があった。たとえ1割であ っても、その負担を本人ならびに配偶者を含む他の家族に課すべきではない。それは、同年代 の他の者(以下、障害のない人)は、人として生きるための基礎的な生活行為を自らの意思で おこなえるが、身体もしくは精神面での機能の障害のある人たちは、そうした生活行為が困難 になる。しかもその障害と困難は、自ら望んで負ったわけではない。にもかかわらず、障害のな い人と同等に生きるために必要な基礎的な生活行為の支援を利益とし、障害のある人に負担 を課すことは、障害のない人との間に新たな格差と差別を生むことになるからである。また厚労 省の作成した資料によると、9割に近い障害のある人たちは、きわめて低い所得水準にあるこ とも考慮すべきである。 2.負担軽減策の効果と問題点  自立支援法は、所得の低い人(世帯)に対する負担軽減策として、法の実施時に介護保険 と同様の所得階層別の月額負担上限を設けたが、軽減策としての効果がなかった。また政府 は、2007年度に特別対策、2008年度に緊急措置、2009年度には緊急措置を見直したが、 応益負担の根本的欠陥にメスを入れずに部分的な修復にとどまったため、制度の見直しが繰 り返された。  特別対策及び緊急措置による負担軽減者(負担を減らす方策)の状況を明らかにするため に、厚労省に資料を請求したところ、それら負担軽減策の対象者数を抽出することはできない とのことだった。また過去においても把握した経過はないとの回答だった。つまり厚労省は、特 別対策も緊急措置のいずれも、実態把握や効果予測をたてないまま実施してきたということで ある。そのため利用者負担作業チームでは、東京都内区市町村の実態をもとに、負担軽減策 の問題点を検討した。検討の結果、収入認定の対象に同居世帯の収入・資産が含まれた特 別対策では、ほとんど効果がみられず、それらの要件が緩和されたことによって、負担軽減策 対象者は増大した。 3.食費、高熱水費、送迎利用料等の実費負担のあり方と問題点  障害がある人の健康で文化的な生活を保障する支援は、障害のない人と同等の立場・権 利を保障するという観点から、無料とすべきだが、食材費や高熱水費など誰もが支払う費用 は負担をすべきである。ただし、それを負担するために十分な所得保障が必要となる。  自立支援法実施当時、給食の食材費だけでなく人件費を含めて大幅な削減が実施された ため、通所施設等では多額の利用者負担が生じた。食材費は、障害のない人と同等の立場・ 権利の保障という観点から利用者負担とすることは妥当と考えるが、前述したように、それに 相当する所得保障が求められる。また、とくに障害が重く、咀嚼・嚥下能力等が著しく困難で ある場合、再調理に必要な人件費や特別な原料を必要とする場合は、障害に伴う必要な支 援として、利用者負担とせず公的に支援すべきである。さらに実費負担ではキャンセル料を請 求する事業者もあるが、事業者によっては、不適正な請求もみられたため、それを規制するこ とも必要である。  なおガイドヘルパー利用の際、ヘルパーの入場料や交通費などの経費を利用者本人が負 担しているが、これについても障害に伴う必要な支援として公的に保障されるべきである。 4.自立支援法ならびに応益負担廃止後の負担のあり方  障害に伴う必要な支援は無料とすべきである。その際、障害に伴う必要な支援とは、[1]自 己決定を尊重した相談や制度利用のための支援、[2]コミュニケーションのための支援、[3]日常 生活を送るための支援や補装具の支給、[4]社会生活・活動を送るための支援(アクセス・移 動支援を含む)、[5]労働・雇用の支援、[6]医療・リハビリテーションの支援の6つの分野に整理 することができる。 おわりに  利用者負担のあり方を考えるうえでもっとも大切な視点は、障害者権利条約で定義された、 障害のない「他の者との対等・平等の保障」や「誰とどこで暮らすかは自らが決定する」などの 考え方が大切になる。こうした考え方にもとづいて、障害のない人との対等・平等を保障するた めには、障害のある人の日常生活や社会生活に対する支援は公的支援とし、利用料は無料 とすべきである。  その際、支援の内容や量の適切さをどのように確保するのかが課題となるが、それは相談 支援事業の大幅な拡充によって解決できる。障害のある人の自己決定と最適な選択を支援 する相談支援を確立することによって、支援の過不足や不必要な支援の発生を防ぐことがで きる。 --------- 「利用者負担」部会作業チーム報告書 はじめに−検討の範囲と検討視点  利用者負担チームでは、障害者総合福祉法(仮称)における利用者負担のあり方を検討し た。その際、検討の前提として、障害者自立支援法(以下、自立支援法)における応益負担と その負担軽減策の評価、また実費負担の現状とその軽減策の検討をおこなった。  そのうえで、障害者総合福祉法(仮称)における利用者負担の基本的な考え方の結論を 得た。 結論とその説明 1.応益負担の問題点 (1)結論  福祉や医療、コミュニケーション、雇用等の支援は、障害のある人が人として生きるうえでの 必要最低限の保障である。自立支援法は、それを一般的な消費行為としてのサービスと同列 に扱い利益としたことに問題があった。そのため、たとえ1割であっても、その負担を本人なら びに配偶者を含む他の家族に課すべきではない。 (2)説明  同年代の他の者(以下、障害のない人)は、食事・排泄・移動・コミュニケーションなど人とし て生きるための基礎的な生活行為を自らの意思でおこなえるが、身体もしくは精神面での機 能の障害のある人たちは、そうした生活行為が困難になる。しかもその障害と困難は、自ら望 んで負ったわけではない。にもかかわらず、障害のない人と同等に生きるために必要な基礎的 な生活行為の支援を利益とし、障害のある人に負担を課すことは、障害のない人との間に新 たな格差と差別を生むことになる。そのため、障害によって生じる社会生活上の困難を軽減す る支援は、社会が責任を担うべきである。  また厚労省の作成した資料によると、障害福祉サービス利用者のうち、非課税世帯と生活 保護世帯が86.3%を占めており、ほぼ9割に近い障害のある人たちは、低い所得水準にある ことが判明した。自立支援法の実施直後に生じた利用者の負担の増大や利用控えなどの問 題の要因は、応益負担とともに所得水準の実態把握が不十分であったことにあるといえる(厚 労省作成「障害福祉サービスの利用者数、構成比」における2008年7月時点の人数)。  なお「ある程度の負担があった方が、遠慮せずに支援を求めやすい」という意見もあるが、そ れはそもそも支援に対する報酬(公費)が抑えられたことが背景にあり、必要十分な支給量や 報酬が得られれば、「支援をお願いしている」という遠慮は解消される。 2.負担軽減策の効果と問題点 (1)結論  自立支援法は、所得の低い人(世帯)に対する負担軽減策として、法の実施時に介護保険 と同様の所得階層別の月額負担上限を設けたが、そもそも多くの障害のある人の所得水準 が低いため、まったく軽減策としての効果がなかった。その後政府は、法実施の翌年の2007 年度に特別対策を実施し、2008年度に緊急措置を実施し、2009年度には緊急措置を見直し た。毎年度、制度が見直されるという前例のない事態が続いた要因は、厚労省が制度による 影響や実態を十分把握することなく、応益負担の根本的欠陥にメスを入れずに部分的な修復 にとどめたからであった。 (2)説明  厚労省の作成した資料によると、自立支援法実施の2006年度の段階では、在宅者のうち 52.2%の人が課税世帯とされ、生じた応益負担の全額の負担を課せられた。この改善を目的 に実施された特別対策及び緊急措置による負担軽減者(負担を減らす方策)の状況を明らか にするために、厚労省に資料を請求したところ、それら負担軽減策の対象者数を抽出すること はできないとのことだった。また過去においても把握した経過はないとの回答だった。つまり厚 労省は、特別対策も緊急措置のいずれも、実態把握や効果予測をたてないまま実施してきた ということである。  そのため利用者負担作業チームでは、東京都内区市町村の実態をもとに、負担軽減策の 問題点を検討した。自立支援法の実施段階では、約60%以上の人が課税世帯とされ生じた 応益負担の全額の負担を強いられた人は少なくなかった。その要因は、収入認定の対象に 同居世帯の収入・資産が含まれたためであった。また特別対策では、課税世帯で負担上限 額37,200円の世帯が38%残っていたが、緊急措置によって15%になり、資産要件調査を撤 廃した緊急措置の見直しによって8.5%まで減少した。それに対して、非課税世帯の負担軽減 策対象者は、特別対策で19.1%、緊急措置で49.1%、緊急措置の見直しで56.6%と増加し た。このように負担軽減策の効果は、収入認定ならびに資産要件の基準の見直し(同居家族 の除外)によってその対象が増えた。一方、グループホーム・ケアホーム入居者は、個別減免 が優先され、負担軽減策の対象外とされたため、在宅者との間で負担の格差が生じた。  2010年4月から自立支援給付については、非課税世帯の負担上限額はゼロ円となったた め、非課税世帯の負担は大幅に軽減された。しかし課税世帯でも、月額上限37,200円の負 担能力を有する人ばかりではなく、また自立支援医療や補装具には適用されなかったため、 応益負担の問題は改善されなかった。さらに、地域生活支援事業には非課税世帯でありなが ら、利用料負担が課せられている現状が残されたため、今も自立支援給付と地域生活支援 事業において、負担の相当な格差が生じている。 ●厚労省「障害者自立支援法の実施状況について」より(2006年10月23日) (所得階層「課税世帯」) 月額負担上限 37,200円 在宅(厚労省調査(101市町村)2006年6月)  52.2% グループホーム(厚労省調査(101市町村)2006年6月)  7.7% (所得階層「低所得2」) 月額負担上限 24,600円 在宅 22.0% グループホーム 42.1% (所得階層「低所得1」) 月額負担上限 15,000円 在宅 12.3% グループホーム 30.6% (所得階層「生活保護」) 月額負担上限 0円 在宅 13.5% グループホーム 19.6% ●厚労省作成「障害福祉サービスの利用者数、構成比」より(障害児を除く) (所得階層「課税世帯」) 1「特別対策」  負担上限 37,200円  2007年11月人数 39,796人(8.9%) 2「緊急措置」  負担上限 37,200円  2008年7月人数 13,616人(2.0%) 3「緊急措置」見直し  2009年7月人数10,276人(2.0%) (所得階層「低所得1」) 1「特別対策」  負担上限 9,300円  2007年11月人数 97,569人(21.8%) 2「緊急措置」  負担上限 9,300円、4,600円  2008年7月人数 51,586人(10.9%) 3「緊急措置」見直し  2009年7月人数 59,315人(11.5%) (所得階層「低所得2」) 1「特別対策」  負担上限 24,600円、6,150円、3,750円  2007年11月人数(「低所得1」を含む。) 266,761人(59.5%)※ 2「緊急措置」  負担上限 24,600円、3,000円、1,500円  2008年7月人数(「低所得1」を含む。) 361,780人(76.2%)※ 3「緊急措置」見直し  2009年7月人数(「低所得1」を含む。) 393,458人(75.9%)※ (所得階層「低所得2」) 1「特別対策」  負担上限 15,000円、3,750円 2「緊急措置」  負担上限 15,000円、1,500円 (所得階層「生活保護」) 1「特別対策」   負担上限 0円  2007年11月人数 43,765人(9.8%) 2「緊急措置」  負担上限 0円  2008年7月人数 47,905人(10.1%) 3「緊急措置」見直し  2009年7月人数 54,839人(10.6%) (合   計) 1「特別対策」  2007年11月人数 447,891人(100%) 2「緊急措置」  2008年7月人数 474,887人(100%) 3「緊急措置」見直し  2009年7月人数 517,888人(100%) ※ 低所得者の実数は把握していたが、負担上限額ごとの実数は未把握だった。 ●東京都区市町村における所得階層別負担上限額の状況 (所得階層「課税世帯」) 1  (1)「特別対策」   負担上限 37,200円   2008年4月人数 9,578人(38%)  (2)「緊急対策」   負担上限 37,200円   2008年7月人数 3,793人(15.1%)   2009年4月人数 4,143人(12.8%)  (3)「緊急措置」見直し   2009年7月人数 2,813人 2   (1)「特別対策」   負担上限 9,300円   2008年4月人数 4,923人(19.5%)  (2)「緊急対策」   [1]    負担上限 9,300円    2008年7月人数 748人(10.5%ただし、[2]を含む。)    2009年4月人数 1,017人(10.8%ただし、[2]を含む。)   [2]    負担上限 4,600円    2008年7月人数 1,896人    2009年4月人数 2,518人  (3)「負担上限」   [1]    2009年7月人数 1,498人(25.3%ただし、[2]を含む。)   [2]    2009年7月人数 3,586人     (所得階層「低所得2」) 1  (1)「特別対策」   負担上限 24,600円   2008年4月人数 1,582人(6.3%)  (2)「緊急措置」    負担上限 24,600円   2008年7月人数 1,927人(7.7%)   2009年4月人数 2,570人(7.9%)  (3)「緊急措置」見直し   2009年7月人数 739人(2.2%) 2  (1)「特別対策」   [1]負担上限 6,150円     2008年4月人数 1,962人(14.4%ただし、[2]を含む。)   [2]負担上限 3,750円     2008年4月人数 1,654人 (2)「緊急措置」   [1]負担上限 3,000円     2008年7月人数 3,775人(35.5%ただし、[2]を含む。) 2009年4月人数 4,414人(34.9%ただし、[2]を含む。)   [2]負担上限     負担上限 1,500円 2008年7月人数 5,176人 2009年4月人数 6,922人 (3)「緊急措置」見直し     2009年7月人数 5,513人 (40.9%)     2009年7月人数 8,059人 (所得階層「低所得1」) 1   (1)「特別対策」    負担上限 15,000円 2008年4月人数 487人(1.9%) (2)「緊急措置」 負担上限 15,000円    2008年7月人数 475人(1.9%) 2009年4月人数 903人(2.8%) (3)「緊急措置」見直し    2009年7月人数 280人(0.8%) 2  (1)「特別対策」   負担上限 3,750円   2008年4月人数 1,197人(4.7%)  (2)「緊急措置」   負担上限 1,500円   2008年7月人数 3,415人(13.6%)   2009年4月人数 4,661人(14.4%)  (3)「緊急措置」見直し   2009年7月人数 5,231人(15.7%) (所得階層「生保」)  (1)「特別対策」   負担上限 0円   2008年4月人数 3,825人(15.2%)  (2)「緊急措置」   負担上限 0円   2008年7月人数 3,961人(15.7%)   2009年4月人数 5,318人(16.4%)  (3)「緊急措置」見直し   2009年7月人数 5,514人(16.6%) (合   計)  (1)「特別対策」   2008年4月人数 25,208人(100%)  (2)「緊急措置」   2008年7月人数 25,166人(100%)   2009年4月人数 32,466人(100%)  (3)「緊急措置」見直し   2009年7月人数 33,233人(100%) 3.食費、高熱水費、送迎利用料等の実費負担のあり方と問題点 (1)結論  障害がある人の健康で文化的な生活を保障する支援は、障害のない人と同等の立場・権 利を保障するという観点から、無料とすべきだが、食材費や高熱水費など誰もが支払う費用 は負担をすべきである。ただし、それを負担するために十分な所得保障が必要となる。また、 実費負担を課す場合、それが適切な負担であるか否かを制度的に規制することが求められ る。 (2)説明  まず自立支援法実施当時、給食の食材費だけでなく人件費を含めて大幅な削減が実施さ れたため、通所施設等では多額の利用者負担が生じた。食材費は、障害のない人と同等の 立場・権利の保障という観点から利用者負担とすることは妥当と考えるが、前述したように、そ れに相当する所得保障が求められる。また、とくに障害が重く、咀嚼・嚥下能力等が著しく困 難である場合、再調理に必要な人件費や特別な原料(とろみ剤など)を必要とする場合がある が、これは、障害に伴う必要な支援として、利用者負担とせず公的に支援すべきである。  実費負担では、欠席した場合のキャンセル料が問題となった。給食費のキャンセル料を課し ている事業所は多くあり、しかも食材費だけでなく人件費も含めたキャンセル料を徴収している 事業者が存在した。またインスタントラーメンのお湯代を徴収している事業者もあった。こうした 負担のあり方について、適切な基準を設ける必要がある。さらに送迎利用料の徴収について は、合理的配慮の考え方から送迎は障害に伴う支援であり、利用料を徴収すべきではなく、 むしろ公的に支援すべきである。送迎利用料のキャンセル料を徴収している事業者がいるが、 これは論外である。  グループホーム、ケアホームの食費・光熱水費の利用者負担は必要となると思われるが、 家賃負担に加え、応益負担が生じてしまうことで、一般就労者や失業直後の人などで入居が 必要な人が利用しにくい問題が生じた。グループホーム・ケアホーム等の応益負担もあっては ならないが、実費負担の軽減策や本人に対する所得保障の充実が必要である。  なおガイドヘルパー利用の際、ヘルパーの入場料や交通費などの経費を利用者本人が負 担しているが、これについても障害に伴う必要な支援として公的に保障されるべきである。 4.自立支援法ならびに応益負担廃止後の負担のあり方 (1)結論  障害に伴う必要な支援は無料とすべきである。その際、障害に伴う必要な支援とは、主に 以下の6つの分野に整理することができる。  [1]相談や制度利用のための支援  [2]コミュニケーションのための支援  [3]日常生活を送るための支援や補装具の支給  [4]社会生活・活動を送るための支援(アクセス・移動支援を含む)  [5]労働・雇用の支援  [6]医療・リハビリテーションの支援 (2)説明  障害は自ら望んで負ったわけではなく、障害に伴って生じる困難を軽減する支援は、社会 が責任を担うべきである。また障害のない人と同等の立場・権利を保障する観点からも、「障 害があるために負担が生じる」ということはあってはならない。こうした考え方から、前述の障害 に伴う必要な支援について、具体的に説明する。  [1]の相談や制度利用のための支援には、自らの希望と最適な選択を尊重するために障害 に配慮した相談支援は、公的な支援とし無料とすべきである。  [2]のコミュニケーションには手話、点字、指点字等が含まれることは、もちろんだが、自閉症 等の人の良好なコミュニケーションに必要なイヤーマフや会話補助用機器 (パソコンや携帯電 話などの電子機器を利用したコミュニケーション機器)なども、日常生活用具に含め、無料とす べきである。  [3]の日常生活を送るための支援では、食事の再調理のためのとろみ剤や栄養ゼリー、特殊 ミキサー等加工設備、再調理の人件費、特別な食器・器具など、また紙おむつ・尿パットなど の排泄介助に必要な消耗品等は、日常生活用具に含め、無料とすべきである。また、身体機 能の障害を軽減するための義肢・補装具や、障害に配慮した住宅改修工事等についても公 的な支援とし、無料とすべきである。  [4]社会生活・活動を送るための支援では、とくに移動支援に係る支援者の交通費・入場料 等を公的に支援すべきである。  [5]労働・雇用に就くために必要な合理的配慮としての環境整備や人的支援、また障害に 伴う必要な移動支援は無料とすべきである。  [6]医療・リハビリテーションの支援では、障害認定・年金申請のための診断書作成や、障害 の軽減・改善のための必要な専門医療・リハビリテーションは、一般医療制度のもとで充実と 地域化を図るとともに無料とすべきである。 おわりに  利用者負担のあり方を考えるうえでもっとも大切な視点は、障害者権利条約で定義された、 障害のない「他の者との対等・平等の保障」や「誰とどこで暮らすかは自らが決定する」などの 考え方が大切になる。こうした考え方にもとづいて、障害のない人との対等・平等を保障するた めには、障害のある人の日常生活や社会生活に対する支援は公的支援とし、利用料は無料 とすべきである。  その際、支援の内容や量の適切さをどのように確保するのかが課題となるが、それは相談 支援事業の大幅な拡充によって解決できる。障害のある人の自己決定と最適な選択を支援 する相談支援を確立することによって、支援の過不足や不必要な支援の発生を防ぐことがで きる。 本作業チーム報告に対して部会委員から寄せられた主な意見 (利用料に関する意見) ・報告書では利用料は無料とすることとされている。低所得の方については必要な措置であ るが、負担能力のある方まで拡大することは、他の制度との整合性や公平性の点で検討する 必要がある。 ・自立支援医療の低所得者負担(医療費・通院費)は基本合意書後も依然として継続されて おり、早急に無料化すべきである。 (財源に関する意見) ・国・地方とも厳しい財政難の中で、財源の確保の問題は重要な課題である。制度の円滑な 運営を図るためには財源の確保を平行して議論し、制度に位置づける必要がある。 (難病疾患対策に関する意見) ・国の難治性疾患克服研究事業の研究対象疾患は、[1]臨床調査研究分野130(内56が医療費 公費助成がある「特定疾患」)、[2]研究奨励分野214であり、合わせて344疾患である。従 って、このうち288疾患が、社会生活が困難な症状に加えて無収入でありながら、公費助成が なく、高額な医療費負担に生涯悩んでいる。安定した財源の保証の上での医療費の無料化を 含む軽減を新法で明確化すべきである。 ・特定疾患の医療費公費助成は、「生計中心者」の収入による応能負担である。自立という 施策の理念からみて本人収入を基準にすべきである。 ・治療・入院中の患者の食事は、医療食でもある。一般のホテルコストと区別する必要があ り、無料とすべきである。 ・高額療養費本人負担限度額の大幅引き下げを行うべきである。 (他の制度との関係に関する意見) ・新法を介護保険制度との統合を前提としないことには賛成であるが、加齢により介護保険 制度適用年齢となると、様々な矛盾が生じるのも事実である。量制度の相乗りを模索し、補 完する制度として提言できないか。 --------- 「報酬や人材確保等」部会作業チーム報告書の概要 一 国家公務員の「福祉職棒給表」を新法で規定  人材確保のため従事者が未来を感じられる待遇が必要 「10ヵ年福祉計画」で毎年給与上昇率を提示し、OECD平均レベルの障害者 予算を組み立てながら給与水準を改善し、労働者の福祉産業離れを食い止める。 二 複雑な「加算」は基本報酬に組み入れ、加算抜きで事業維持可能な報酬水  準とする 三 「月払い・日払い」を発展解消する利用者の選択権と事業の安定を目指す  新報酬体系  ・在宅:日払い  ・入所・通所   「利用者個別給付報酬」(利用者への個別支援に関する費用)と   「事業運営報酬」   (人件費・固定経費・一般管理費)に大別。    概ね、前者が2割、後者が8割程度。 前者を原則日払いとする。但し、利用率80%を上回れば全額支払い、それ以 下の場合は、利用実績に応じた日割り計算で事業所に支払われる。  後者を原則月払いとする。すなわち、施設利用定員による月額を定額で支払う。 四  人材確保策  「福祉職棒給」「労働環境整備」「人材の相互異動・流動体制」「資格取得のカリ キュラム等のOJTを重視する抜本改正」「人材登用の間口を広げる」「中間管理 職にゆとりを与える」「福祉労働者手帳」制度。 五  当事者の立場に立つ地域移行を実現するため「相談支援専門員」制度を創 設する  前提条件は次のもの  [1] 受験のバリアフリー徹底。  [2]既存のピアカウセラーの資格取得ルートの確保  [3]福祉専門職の現場研修をなど内容の見直し。  [4]資格の独立性保障。  [5]既存の福祉専門職資格の発展的統合の方向。  [6]当事者中心の資格検討委員会で検証の上、国家資格化の是非を検討する。  →この資格者が当事者の立場に立って、支給決定における一定の裁量権限を有す  るようになる方向を目指す。 六  事務量増大の解消策   利用者負担制度の見直し=利用者負担作業チーム担当   事業規模に応じた事務職員の配置と報酬付与   報酬請求事務職を報酬付きで配置 七 地域移行実現のための10か年計画が必要   当事者主体に立った現場研修の徹底、「地域生活移行支援センター」を作る。 八 直ちに実施すべき事項(短期的課題)  1 常勤換算方式の廃止  2 併給を認めるシステム     入所、通所、在宅など体系ごとの併給の禁止を廃止する。  3 知的、精神の方へのパーソナルな支援   4 体験的自立生活体験室と介助支援                      以上 --------- 「報酬や人材確保等」部会作業チーム報告書 第一章  はじめに(主な検討範囲・ 検討の視点) 一 主な検討範囲 このチームの検討範囲は次のとおり。  論点[1]「報酬支払全般」 論点[2]「月払い、日払い」 論点[3]人材確保策   論点[4]サービス体系のあり方 論点[5]資格要件のシンプル化とあり方 論点[6]事務 量増大の解消策  論点[7]労働条件・賃金水準の確保策と法制度化すべき事項   論点[8]報酬・人材確保についてその他の論点・意見 二 検討の視点  障害福祉分野における報酬と人材は、この国の障害者の尊厳の水準と直結している という問題意識を持ち、今すぐ対応するべき救急課題、5年〜10年程度で確実に達 成するべき中期的課題、将来展望を見据えた長期ビジョンの3点に分けて、理想を目 指しながら地に着いた提言とするべきという共有認識に立った意見とした。 第二章 結論とその理由(論点表の論点、その他の論点の検討) 論点[1] 「報酬支払全般」 [結論]福祉職棒給表の法定化   民間事業所を含め、障害福祉に従事する者の給与を国家公務員の「福祉職棒 給表」(「一般職の職員の給与に関する法律」第6条第1項9号・別表第9参照) と同一の報酬水準(2007年で年収約615万円)の報酬が支払われるものと総合 福祉法で規定する。 [理由]権利条約は地域で自立した生活を権利として認めている。OECD平均4分 の1レベルの障害福祉予算水準では、地域での自立生活は営めず、職員は疲弊し、人 権保障を遂行する人材は確保出来ない。上記結論は、今回の障害者福祉改革での至上 命題である。 論点[2] 「月払い、日払い」 [結論] 両論に理由があり、それを発展的に統一した視点に立つことが肝要。個別 給付の意義を活かし、日割りの弊害と指摘される点を是正する仕組み。施設系事業に ついて、「利用者個別給付報酬」と「施設運営報酬」に大別する。チーム提言6頁〜9 頁。 [理由]事業の安定化を図りつつ、相談支援体制を充分に尽くして利用者の施設囲い 込みとならないように当事者の権利を保障しながら、本人の選択権を保障する。具体 論は後記。 論点[3] 人材確保策 [結論]上記の「福祉職棒給表」の給与確保が第一。社会保険、厚生年金、子育て支 援策の完備・充実など労働環境整備。事業者同士、隣接分野における人材の相互異動・ 流動体制。福祉系学校や資格取得のカリキュラム等のOJTを重視する抜本改正。福 祉分野を核として支える人材を養成することが重要であり、福祉専門職の育成。一般 市民が福祉分野に流れてくる、人材登用の間口を広げるための仕組み。中間管理職に ゆとりを与える仕組み。スウェーデンの「労働者手帳制度」をヒントとし「福祉労働 者手帳」制度を作り、労働を評価して、他の職場に移ってもランクが落ちない仕組み。 その際の評価は利用者本人の評価を基本としながら、経営者サイドの評価も酌み入れ る。 論点[4] サービス体系のあり方 [結論]及び[理由] 他チーム及び後記当チーム提言全般参照。 論点[5] 資格要件のシンプル化とあり方 [結論1]人材の登用は資格に限定されず、間口は広く取る。  資格がなくとも働くことができ、当事者の立場に立った支援実績を積めば報酬上も 評価される仕組みとする。 [結論1の理由]資格がなければこの分野に入れないという人材登用制限として機能 してはならない。資格がなければ、適切な支援実績があれば報酬がアップする仕組み。 [結論2]当事者の立場に立つ地域移行を実現するため「相談支援専門員」制度を 創設する。   その場合の前提条件は次のものである。  [1] 現行国家試験には障害者に様々な障壁があり受験におけるバリアフリーを徹底 する。  [2] 既存のピアカウセラーが可能な限り資格を取得できるルートを確保する。  [3] 現行の社会福祉士、介護保険のケアマネージャー等の福祉専門職には当事者の 立場に立った支援に欠けた面があり、新制度においては、資格取得に至るまで及び 取得後の養成過程において、当事者の気持ちを理解するための現場研修を中心とす る等、内容を徹底的に検討する。  [4] 支援計画を考え、策定するのはあくまで当事者自身の自己決定であり、それを 行政と対峙しても実現していくことを職務義務とし、職務に忠実ゆえに行政から干 渉を受けないように資格の独立性を保障する。  [5] 既存の「社会福祉士」、「精神保健福祉士」等を発展的に統合していく方向とす る。  [6] 当事者を過半数とする資格検討委員会を作り、制度の実態が当事者の自立支援 に即したものかを5年間程度検証し、当該資格が真に当事者支援の内容を伴う水準 に達することが確認できた段階で、これを初めて公式な国家資格とする。    そして、そのようなプロセスを経て、いずれ、 【この資格者が当事者の立場に立って、支給決定における一定の裁量権限を有する ようになる方向を目指す。】 [結論2の理由]当チームは、単純に資格をシンプルにすればよいという考えは取ら ない。 障害当事者の生活と人権を保障するためには支援者が生きがいと誇りをも って展望を持てる職業とすることが大切である。適切な支援が行われるために、当 事者の視点に立った優秀な人材が育つことが必要であり、とりわけ、相談支援専門 職の育成が焦眉の課題。ソーシャルワークや当事者中心の立場に立つ障害学をきち んと学んだ人を育てる。 論点[6] 事務量増大の解消策 [結論1] 現在の複雑な報酬加算制度を、基本報酬に組み入れる。 [結論1の理由] 加算報酬請求をしなくても安定した事業が成立する仕組み。 [結論2] 利用者負担制度の見直し。 [結論2の理由]応益負担と日割りで事務量が増えたのは明らかで、抜本見直しが必 要。=利用者負担作業チーム担当 [結論3] 事業規模に応じた事務職員の配置と報酬付与 [結論3の理由]現在は、現場支援職員や管理職が事務を担当しており、現場での支 援の力が事務仕事により阻害されている。 [結論4] 障害報酬請求事務職を報酬付きで配置 [結論4の理由]医療事務職のような請求事務職員配置が不可欠。 論点[7] 労働条件・賃金水準の確保策と法制度化すべき事項 [結論1] 論点[1] のとおり。 論点[8] 報酬・人材確保についてのその他の論点・意見  以下に記載。 第三章             チーム提言書   第一 総論 一 基本理念 障害者の基本的人権(平等権・生存権・個人の尊厳・幸福追求権) 保障の対価としての報酬と人材  障害福祉の人材とは憲法に基づく障害者の平等権等の基本的人権保障を実践する人 材に他ならない。真に障害者の基本的人権保障を担う人権感覚溢れた人びとが障害者 と共にインクルーシブな社会を構築するために、活力ある良質な人材が確保されるこ とが障害福祉を成立させる不可欠な前提条件となる。すなわち「報酬」の本質は基本 的人権保障の対価であり、障害福祉の報酬水準とは障害者の人権の価値評価、尊厳の 水準と連動している。障害福祉を実践する人材が枯渇し自らや家族の生活の維持さえ 危ぶまれるような状況であればこの国が障害者の人間としての基本的価値を蔑んでい ることを意味する。  以上のような基本的視座のもとに、この国が障害者の基本的人権保障を実現するた めに不可欠な土台であり足腰としての「人材と報酬」が確立されることをめざすべき である。  二  改革の基本的方向性=自己決定権を奪われた施設生活から地域での本人主体の自 立生活へ  選択権とは、当事者が望む豊富な支援施策が提供される中で、選択肢を誘導された りすることがなく、体験的利用をしたうえで十分な情報を確保した平等な条件で、地 域格差もなく選択できることが真の選択である。自己決定権は建前の上では認められ ていたが、実質的には限られた選択肢を強制されてきた現実がある。  権利条約19条で自立生活の権利が謳われており、障害者の地域で暮らす権利を障 害基本法の中で明確に規定すべきである。OECD平均の4分の1の障害者予算を当 然とする施策決定からは展望が拓けない。政治的な決定が必要である。 第二 現状の評価 一 報酬水準の劣悪さが人材確保の困難さに直結  障害関連事業における報酬制度と人材確保の課題は深刻で、報酬の劣悪さが人材の 確保を困難にし、限界を超えている。法定事業における「官製ワーキングプア」であ る。  厚生労働省の調査によると(平成22年賃金基本統計調査・10人以上1000人未満事 業所)、年間給与額は(1万以下切り捨て・円)  ホームヘルパー    285万   福祉施設介護員  298万   に対し て    システムエンジニア  546万   看護師      466万  保育士        314万   高等学校教員   691万  大学教授      1111万  など他の専門職に比べて格段と劣悪な水準で ある。 二 疲弊する障害福祉事業所の現実  事業所を支える中核となる人材の人件費は昇級していかなければならないが、事業 種別、障害程度区分、利用定員、各種加算を組み合わせた現在の報酬基準では、ベテ ラン職員の雇用の維持さえ難しくなり、経営的にも疲弊し、正職員の常勤雇用率が下 がり、雇用期間限定の臨時・計約・パート率を大幅に増加し支援の質の低下が著しい。 三 障害福祉に人材がいなくなった原因  2003年の世界的な新自由主義の風潮の中で、福祉切り捨ての流れができ、社会 福祉基礎構造改革が始まり、急速にOECD最低レベルの障害福祉予算に落ち込んだ。  高齢者や障害者になったら使い捨てという国家では、若者や子供たちは将来に対す る希望が持てない。高齢者や障害者に優しい社会という国のビジョンが大切である。 1 「地域生活支援システムの不備」  現状で知的障害者の施設と精神障害者の病床を閉鎖した場合、その障害者は地域で 孤立・排除される恐れが強い。地域移行を本当に実現させるためには、遠回りのよう だが、地域生活支援のシステムを緊急度に応じて順次地域に作り上げていくことが不 可欠である。  知的・精神障害者にとって、相談支援や見守り付き添いが必要である。しかし、そ れを認める重度訪問介護制度さえ、対象外である。当事者の自己選択に基づいた居住 の場の選択を一般市民と同様に国は障害を持つ市民に対しても保証する義務がある。 施設入所利用者に個別支援計画作成時に丁寧に地域生活の意向調査をする必要がある。 2 自立への橋渡しのシステムの欠如  現在、施設や親元からの地域生活へ移行を希望しても、地域では介助施策は利用で きない。親との同居者に夜間の介助利用は許されず、日中活動に参加する者は日中の 介助支援は使えない。自立に向けた体験的な自立生活支援施策が現状では欠如してい る。 第三 人材確保施策における基本的視点 一 障害者地域生活実現の鍵である人材確保  障害のある人の安定した地域生活ならびに医療機関等からの地域移行を実質化する ためには、[1]労働及び雇用・日中活動の場、[2]居住の場、[3]所得保障、[4]人的な支え、 [5]医療・保険の5つの分野が一定の水準で確保される必要があり、人的な支援体制の 確保は、その基幹である。人間と人間の触れ合い、パーソナルな支援こそが改革を成 功させるためのキーワードであり、そのため優良な「人材」の確保が地域生活の成立 条件である。 二 公的責任転嫁禁止原則の徹底  人と人の関係を基本とする人的支援策の遂行にあっては、障害福祉の「公的責任の 原則」を明確にする必要がある。「地域移行待ったなし」などの掛け声だけで、この国 で根強い家族責任観念から、親を中心とする家族に責任が転嫁される危険がある。成 人した障害者の生活まで家族が抱え込まざるを得ない現実の中で、「家族支援」も重要 な施策の柱である。 三 支援者の確保は地域における雇用創出であること  障害分野における本格的な人的な支援策を成功させるため、大幅な人員増が必要で ある。労働政策の観点からは雇用創出になり、一方的な財政負担ということではない。 社会福祉を志そうとする若者(学生を中心)に未来を拓き、雇用創出・失業改善に役 割を果たす。 四 重層的な人的支援への変革 ネットワーク化を重視し、人材を循環させる  地域相談支援センターもGHも、他機関との連携を求めている。地域支援の組織は 全て小規模であり人員にも限りがある。支援員、看護師、ケースワーカーなど必要に 応じてネットワークで本人支援を行う。一団体が一人の人生を引き受けることは不可 能であり、受け皿を複数用意しておくことが必要。地域生活構築のため、重層的なネ ットワークへの変革が必要であり、重視すべき視座は「当事者主体と当事者の権利保 障」である。 第四 報酬施策における基本的方針 一 契約制度、日割り制度導入に伴う弊害に注意しながら、個別給付制度の意義も 活かす  措置から契約制度への移行に伴い、措置委託費の丸投げから、一人ひとりの要支援 者への個別支援のための社会保障費の支払いの集積が報酬となる転換が図られた。  障害者自立支援法施行により露骨な給付抑制政策が導入され、大幅に報酬基準が切 り下げられ、障害福祉の質の低下がもたらされた。それらの弊害を解消する制度改革 が急務である。しかし、措置制度に戻ることが改革の方向性ではない。すなわち、一 人ひとりへの支援を意識した障害福祉の基本的あり方を基本としながら、支援の質の 低下、現場を委縮させない報酬施策が実施されることが、改革の方針である。 二 複雑な報酬制度のシンプル化  事業者にとっても乱数表のような複雑なシステムは不経済極まる。利用者にとって も、一般国民にとっても、わかりやすい簡潔でシンプルな制度にしなければならない。 三 利用者に不利益をもたらさない  利用者負担、地域間格差等により、利用者に不合理な負担、不利益を被らせること は障害福祉の理念に反することであり、あってはならない。 四 障害福祉に従事する者が誇り展望をもって仕事を継続出来る水準とすること  報酬の体系と金額は、現に障害者福祉に従事する者が誇りを持って仕事に取り組み、 その資質等の向上を図ることを促進するものであり、従事することを希望する者が、 労働条件等の雇用環境により、断念することがない水準であることが必須である。 五 福祉労働者が希望を感じる待遇改善    休暇の保障、海外研修・留学等の国際交流や他事業所との国内交流等職員のモチベ ーションを高める仕組み。 第五 総合福祉部会として、あるべきモデルの提言(長期計画)  政策提言 〜障害者地域自立支援体制 10か年計画〜 一 10か年計画 総論 「障害者地域自立支援体制10ヵ年計画」の策定の必要を提言 する。2013年より10ヵ年計画として策定し、施設の新規入所を減らし、地域生 活移行のための包括的且つ具体的なプランとして策定する  「どんなに重度の障害を持っても、地域で自分の望む生活が支援を受けて行えるこ と」 を実現するためには、「10ヶ年計画」を作り、各年度の達成目標を市町村レベルの積 み上げ数値目標を定めて行うべきである。  現状では知的、精神障害者、重症心身障害者等に必要な地域生活相談支援センター、 地域での緊急事態に備えたショートステイ、充分な医療ケアの場がほとんど存在しな い。地域での受け皿を当事者主体、当事者エンパワメントの視点に立って作り上げて いくことが、最短の道である。障がい者制度改革会議と総合福祉部会の意見を尊重し て、「10ヵ年計画」を当事者のニーズに基づいて、早急に作るべきである。 計画の特徴1 個人の真の選択を実現するシステム  従来の計画は、公平性、透明性の名のもとに、「最低保障」の観点から作られてきた。 今後は当事者の選択を実現する「地域自立生活支援システム」を構築するべきであ る。  計画の特徴2 当事者エンパワメントができる地域支援体制と人材育成  当事者のエンパワメントを図るためにはピアカウンセラーや相談支援が有効であり、 全市町村で保障するため、当事者の視点に立った支援専門家の育成が急務である。  精神保健福祉士、社会福祉士、介護福祉士、MSW(Medical Social Worker・医療 ソーシャルワーカー)、看護師、医師、ソーシャルワーカー、臨床心理士、OT(作業 療法士),PT(理学療法士)等の研修コースの中に、当事者エンパワメントの地域支 援方法、地域ケアサービスの現場実習、地域医療ケアの現場実習、地域自立生活支援 方法実践論、当事者主体の支援方法論、障害者の権利と福祉的支援論等の研修が必要 である。  また、これらの専門職のほとんどが、医療点数にカウントされない非常勤待遇に位 置づけられており、地域生活支援の実戦力となっていない現状に問題がある。医療費 の中からこれらの人件費を正規雇用ベースで支給すべきである。 二 10か年計画 各論その1 人材育成  ピアカウンセラーは重要であるが障害者人口は限られており、当事者が中心となっ て運営を担う包括的な地域生活支援体制づくりと、当事者主体の理念を研修などで確 実に身につけた障害のない専門職との「協働」が重要である。 (1)当事者組織の育成  現在の自立生活センターも知的・精神障害者の全国支援網とはなっていない。当事 者の育成とシステムづくりに資金を含めた公的支援が求められる。地域格差を生じさ せないために市町村ごとに、事務所運営資金、職員費用等の運営補助が必要である。 現在のリソースも活用しながら、特にピアカウンセリング、自立生活プログラム等の 実施が求められる。 (2) 当事者中心の視点にたった専門職の育成  例 【社会福祉士】 障害者自身の主体的な地域生活を支援する視点から今以上に現場実 習を取り入れる。入浴やトイレ介助などの生活を通して、頭ではなく身体で福祉を理 解し、対等な人間関係を作ることが求められる。介助体験の意義付けと、相談支援の スキル獲得の目的を意識した現場実習をバランスよくカリキュラムに盛り込み、障害 当事者を講師とするなど、「当事者主体」の視点に立つ支援者養成ヘと再編成する。  以上のほかにもPSW・特別支援教育専門員など、あらゆる専門職に対して、「当事 者主体」の視点に立った根本的な改革が求められる。 三 10か年計画 各論その2 「地域生活移行支援センター」の設置・整備 マンツーマンによる一貫した職員体制を保障したあらゆる障害者の地域生活移行の 整備  精神障害者や知的障害者にとっては、同じ職員がマンツーマンで関わり、信頼関係 が確立した中でこそ、安心して相談できる。担当員が徹底的に関わり、当事者性とニ ーズを十分に引き出すことが必要である。地域生活移行センターには、20名程度の 相談支援員を正規職員として配置する。三障害はもとより難病等を含むあらゆる障害 者を総合して、継続的な地域生活を支援するために、「地域生活移行センター」を核と して、24時間体制で相談に応じられる職員配置を確保する。当事者相談支援員を過 半数とし、ピアカウンセラーを必須の配置とする。また、運営委員の過半数は障害者 であることとし、当事者主導の体制を構築し、日常的な生活支援相談を必要とする者 を対象とする。  現在入所施設事業を実施している事業者の多くが、総合福祉法施行に伴い、地域生 活移行支援センター事業所に移行することが目標となる新事業体系が必要である。 第六 中期計画 その1 「報酬水準・報酬設定・報酬体系」について   新法の基本設計 (新法導入〜5年以内に実現すべき事項)  一[報酬水準について]=今回の改革で絶対に実現しなくてはならない目標  福祉人材の確保出来る報酬基準の設定=国家公務員と同等の年収水準  障害福祉報酬の総額が低すぎて、優れた理念を持ったリーダーも極めて低賃金な異 常な実態である。優れた人材を高い報酬で待遇するという当たり前の姿になるため、 国家公務員レベルの給与体系で末永く雇用できる制度構築をすることは改革の至上命 題である。  「10ヵ年福祉計画」で、毎年給与上昇率を提示し、OECD平均レベルの障害者 予算を組み立てながら給与水準を改善し、労働者の福祉産業離れを食い止めなければ ならない。 二[報酬水準の設定のありかた]  事業者が安定して事業経営し、従事者が安心して業務に専念出来る報酬水準  具体的には、従事者の給与レベルは国家公務員給料表の「福祉職俸給表」によ る給与支給を確保出来る水準とすることを総合福祉法において法定化する。  これにより、障害者福祉従事者の標準的給与水準が明確になり、異動の際にも、前 歴換算や評価が容易になる。共通の給料表に基づくことにより官民格差が是正できる。  福祉職給料表の導入と共に、「職員構成比想定」を設定するべき。俸給の適用級が低 いままで積算されれば、経験年数の長い従事者は継続が困難となり、若い従事者を「回 転」させる人事となり、利用者にとって、看過しがたい。従来、職員構成、特に「直 接処遇職員」に実態と乖離した低い級・号俸を想定していたことが問題である。それ では、ベテラン職員、中間層が薄くなり、長期ビジョンに基づく経営はできない。中 間層を手厚くした、「職員構成比想定」を導入し、支援の質の向上、働き続けられる職 場の実現、職員が将来像を描けるシステムとする。さらに、単純な経営のバランスシ ートで報酬水準を設定するのではなく、それぞれの職員が求める維持可能水準を考慮 して設定することが必要。 三 [報酬体系と加算制度のありかた]=「加算」抜きで安定経営出来る報酬体系  複雑な加算制度は根本的に見直し、複雑な「加算」の仕組みを駆使しなくても 基本報酬に現行の加算レベルを組み込む改変が必要である。  現在の報酬は報酬本体では経営維持が困難であり、加算により初めて維持出来る。  改革の基本制度設計は、「報酬本体だけ」で求める事業水準(指定基準に定められる 水準)を確保すべき。加算はあくまで、その標準的水準のオプションと位置づける。  加算に依存する報酬体系を見直し、本体のみで事業経営の維持を可能とするこ とが必要。  次に、報酬体系を入所施設系と在宅系に分けて検討する。 ア  入所施設型事業 報酬体系の見直し  施設(入所・通所)報酬は、規模別に設定されていが、人件費等一般管理費にスケ ールメリットが働くが、利用者の生活費には働かない。その見直しを図示したのが、  図1「入所施設系報酬本体の見直し」、図2「報酬本体と加算の見直し」である。  イ 在宅系事業 報酬体系の見直し   「通所・短期等(利用型)」と「在宅訪問型」の種別    在宅系は、施設維持のために固定経費が相当程度必要となる「通所・短期型」 と  訪問介護などの支援者が居宅や利用者と同行する等直接的なサービス提供に係 わる「在宅訪問型」に大別した報酬体系とする。 「通所・短期型」は、基本的には入所施設系報酬体系に準じて設定する。  一方、「在宅訪問型」は、事業運営報酬が主であることから、報酬を1系統にま とめる。 これを図示したのが図3 在宅訪問型事業報酬である。    ウ 採算線(レベル)の引き下げ  現行報酬額の採算レベルは、入所施設系で利用率(実利用者/利用定員)が90〜 95%にセットされており、収支を黒字にするために定員超過などで凌いでいる。  定員超過が恒常化すれば、支援水準が低下し、コンプライアンスと矛盾する。  こうした事態を改善するため、採算ラインを80%程度と設定する。  これにより、定員一杯となれば職員の加配やベテラン職員の確保が可能となり、事 業者にも利用者にも余裕が生じ、利用者の地域移行についての取り組みも可能となる。  経営を安定させ、ゆとりをもたせることで地域移行を促進する政策へ転換する。経 営者にインセンティブを与え、新たな事業展開への財源確保とモチベーションを高め る。 エ 「経営実態調査による報酬見直し」を廃止する  国は経営実態調査に基づき報酬改定を行っている。しかし、多くは報酬のみが収入 であり、報酬が減額されればその範囲で収支を合わせて黒字にするため、「見せかけ」 の「黒字」を根拠として報酬改訂されれば、報酬は際限なく引き下がる。福祉報酬は 社会保障費=ナショナルミニマムであり、自助努力の貯蓄を理由に水準を引き下げる ことは出来ないはず。 四 [報酬の支払い方法]    「日払いと月払い」の両論の止揚(発展的統一)  報酬の日額払か月払いか、障害福祉分野の健全な証しとして総括し、対立した関係 と捉えず、統合した視点を持ち、建設的な議論に発展させることが肝要。  障害福祉を実践する担い手が事業を維持出来ない状況は、結局、障害者の生活支援、 人権が安定的に保障されないことを意味し、その支障は障害者自身が被る結果となる。  障害者の幸福追求権が保障されるためには、障害のある人の支援(事業)を選択す る自由(権利)と障害関連事業における固定費(人件費を中心に)の安定的な確保と を両立させることが必要である。その際、次の三点に留意すべき。  一点目は、報酬の財政規模の増額が必要条件である。現行の支出水準を固定費相当 分とし、日額分が重ねられるイメージ。二点目は、契約制度は維持するとしても、市 町村が障害者の支援を保障する公的責任は明確化しておくこと。三点目は、利用者負 担の増加につながらないようにすること。「Aさんに就労支援が保障される」との支給 決定も「個別給付決定」であり、仮に本人負担があるとしても、公から個人への費用 徴収の問題とするべきで、利用者負担制度を廃止するか、少なくとも利用者負担と事 業所報酬が連動する、現行の「個別給付→代理受領」の方式自体を見直し、利用と負 担の連動性を断つべきである。    すなわち、個別給付制度を維持しながら、利用者負担請求業務の事業者負担も無く し、支給決定障害者の事業利用に対する事業所に対する報酬支払方式に変更するべき である。 1  利用者の選択権と事業所の安定を目指す新報酬体系  [1] 施設系事業      報酬を「利用者個別給付報酬」(利用者への個別支援に関する費用)と       「事業運営報酬」   (人件費・固定経費・一般管理費)に大別する。  概ね、前者が2割、後者が8割程度。  前者を原則日払いとする。  但し、利用率80%を上回れば全額支払い、それ以下の場合は、利用実績に応じた 日割り計算で事業所に支払われる。  後者を原則月払いとする。  すなわち、施設利用定員による月額を定額で支払う。  但し、施設全体の6ヶ月の平均利用率を次の6ヶ月間は掛けて月額を算出する。こ れにより、利用しなかった分は報酬減となるので、在宅給付との併給にも抵抗は少な い。  これを具体的に図示したのが後記別紙図4「定員30名の施設の場合」である。  ポイント 個々の利用者の利用状況に日割り(利用率)を導入するのではなく、施 設全体の 利用率で算定する。その適用は次の6ヶ月期に適用とする。  例外として、定員20名以下の場合は上記80%保障を90%とする。  これは、日割り論者が危惧する「事業所への定員保障」ではなく、むしろ、現実の 利用実績を斟酌する日割り制度に近い発想であり、日割り論者も認める現行の9割保 障に類似した現実案である。日割り論者の主張するメリットを活かしながら、月割り 論者の危惧する点もクリアし、止揚する案として、総合福祉部会の統一提言となるこ とを期待したい。 [2] 在宅系事業  図3の在宅系報酬を前提として、日割り報酬とする。 2 障害程度区分との報酬との連動を断ち切る    障害程度区分は別チーム担当だがいずれにせよ程度区分と報酬の連動は廃止される べき。 第七 中期計画その2 「人材育成」について  (新法導入〜5年以内に実現すべき事項)  1 OJT(ON The Job Training・現場体験をしながらの職業訓練)を重 視し、「資格」保有は決して支援のために本質的なものではなく、支援の質の最低 基準の保障と支援者の社会的評価、モチベーション維持等のための副次的な位置 づけとする研修システム  人材育成の中期計画としてもOJT重視の研修システムを基本とするべき。可能な 限り間口を広く取り、多くの人材の中から適した人材を探り当てる作業が不可欠。継 続的な関係性の中での人間関係が基礎にあり支援が成り立つ。正規雇用関係の中で長 期にわたって関係性を持てることが信頼関係を障害者と作り上げる基本である。 2 ピアカウンセラー、当事者委員登用率の法定化  当事者の気持ちにもっとも寄り添えるのは同じ障害をもつ当事者である。障害当事 者を出来る限り相談支援研修に受講させ、優先的に相談支援に雇用し、障害福祉計画 等の政策立案過程、自立支援協議会等において知的や精神障害者の委員登用率を法的 義務化する。 第八 直ちに(旧法=障害者自立支援法でも、新法施行と同時に)緊急に修復、対応 するべき、しなければならない事項(短期的課題) 1 常勤換算方式の廃止 2 併給を認めるシステム 入所、通所、在宅など体系ごとの併給の禁止を廃止し、居 住の場の確保と地域生活支援の個別介助の併給を認めるべき。  3 知的、精神の方へのパーソナルな支援 知的・精神障害者にとって、個別の介助 支援だけでは地域生活は維持できない。相談支援や見守り付き添いが必要だが、唯一 の現行制度の重度訪問介護も対象外である。当面は、その制度の適用対象の拡大と、 マンツーマンでの相談支援体制を構築することが急務。 4 体験的自立生活体験室と介助支援   親亡き後に施設に入らなくてすむように若いうちから、障害者の親元を離れての自立 生活体験の場を作ることが、将来の自立生活にむけての準備期間として欠かせない。そ のための場を相談支援事業所、通所作業所、短期ショートステイ、などに併設する形で 設置した場合に家賃補助、職員体制、運営経費を支給し、あわせて居宅介助サービスを 親元にいても自立生活体験のために使えるようなシステムをつくる。            以上 本作業チーム報告に対して部会委員から寄せられた主な意見 *財源の確保について  国・地方とも厳しい財政難の中で、財源の確保の問題は重要な課題。制度の円滑な運 営を図るためには財源の確保を平行して議論し、制度に位置づける必要がある。 *市町村の人材育成について  制度を運営する市町村にマンパワーの確保や職員の専門的スキルの向上策が必要。市 町村は規模・財政力・、人口構成の偏りなど異なる事情を抱えており、状況に応じたき め細かな対応が必要である。 *新たに決められる「利用者個別給付報酬」「事業運営報酬」はそれぞれ利用者によっ てまた事業種別によってそれぞれ金額が異なってくるのか。日割り・月割りの考え方は チーム意見書でよく示されているが、二つの報酬の算定の仕方を詰める必要がある。 *「相談支援専門員」制度を創設とあるが、資格にこだわるのは如何なものか。 *訪問系事業について、「日割り」への疑問の意見があった。  ←これは意見の表現が誤解を招いた。時間割の意味です。(座長) *国が想定した制度設計を無視する市町村への対策が必要。 連続8時間以上の利用を前提とした単価の低い重度訪問介護を、短時間細切れで利用さ せる市町村が後を絶たない。国が注意喚起しても、制度を悪用する市町村はなくならな い。この結果、重度全身性障害者の身体介護を安い単価で引き受けてくれる事業所が見 つからず、介護を受けられなくなった障害者などが多く出ている。  この問題を解決するため、市町村が重度訪問介護を短時間細切れで利用させる場合、 その重度訪問介護を居宅介護と同じ単価(介護内容に応じて身体介護や家事援助と同じ 単価)にすべきである。 *報酬体系の簡素化について 重度訪問介護や居宅介護の場合、24時間365日のサービスや、常勤中心で質の高い サービスを行う事業所を増やすために、特定事業所加算は必要。すべての加算をなくす と、特に障害程度が重度な障害者がサービスを受けられなくなるなどの問題が生じる。 ただし、現行制度では加算要件や事務負担が厳しいため、然るべき事業所が加算を受け ていない事例も散見される。よって、加算要件や事務負担を緩和するべきである。 --------- 「就労(労働及び雇用)」合同作業チーム報告書の概要 1.はじめに(作業チームの検討範囲)  本作業チームでは、障害者の労働および就労施策のあり方について追加開催 も含め、6回にわたり検討した。その主な検討内容は、つぎのとおり。 [1] 障害者基本法に盛り込むべき、労働及び雇用に関する基本的事項 [2] 総合福祉法の守備範囲(労働分野との機能分担など) [3] 就労系日中活動(就労移行支援事業、就労継続支援A型・B型事業、生 産活動に取り組む生活介護事業)、地域生活支援事業(地域活動支援セン ター)や小規模作業所のあり方 [4] 障害者雇用率制度および差別禁止と合理的配慮などを含む、一般就労施 策のあり方 [5] 福祉と労働及び雇用にまたがる制度と労働者性の確保のあり方 [6] [5]との関連で、多様な就業の場としての社会支援雇用・社会的雇用・社 会的事業所のあり方 2.総合福祉法に含めるべき事項 (1)現行の就労系日中活動、地域生活支援事業および小規模作業所などを、 就労を中心とした「就労系事業」および作業活動や社会参加活動を中心と した「作業・活動系事業」に再編成する。前者については、同事業に従事 する障害者の労働者性を確保するという目標からは、障害者雇用促進法ま たはそれにかわる新法(労働法)で規定することが望ましいが、当面は、 総合福祉法に含める。一定の期限を定め、見直すこととする。後者につい ては、福祉サービスとして総合福祉法に含める。 (2)「就労系事業」等に適切かつ安定した仕事を確保するため官公需や民需の 優先発注の仕組み等を整備する。 (3)「就労系事業」で就労する障害者の利用料は撤廃する。 3.障害者雇用促進法に含めるべき事項 (1)障害者権利条約第27条[労働及び雇用]で求められる労働への権利、障害 に基づく差別の禁止、職場における合理的配慮の提供の確保にかかる規定 を設ける。 (2)雇用率制度に基づく雇用義務の対象を、精神障害者を含むあらゆる種類 の障害者に広げるとともに、就業上必要な支援を明らかにする総合的なア セスメントの仕組みを整備する。 (3)雇用率制度の対象者の拡大に関連して、雇用率(引き上げ)および納付 金制度(納付金の額や助成金の対象範囲と給付期間)を見直す。 (4)「就労系事業」等への民間企業からの発注を確保するため、発注額に応じ て雇用率に算定できる制度及び、障害者自立支援法に基づく施設外就労や 納付金制度に基づくグループ就労を発展・拡大し、企業内就労をさらに促 進するため、受け入れ協力企業の雇用率に算定できる制度を導入する。 4.今後の検討課題 (1)「就労系事業」にかかるパイロット・スタディの実施と結果の検証 (2)「就労系事業」に賃金補填制度を導入するための所得保障制度(障害基礎 年金など)との調整のあり方の検討 (3)障害の社会モデルを基礎とした雇用・就労施策を検討する基礎資料を得 るために国の基幹統計調査において障害の有無を尋ねる設問を入れた全国 調査を少なくとも1回実施する。 (4)障害者の一般就労・自営に係る労働施策等と福祉的就労にかかる福祉施 策を一体的に展開できるようにするための行政組織などの再編 5.以上の検討課題についてフォローし、実現化をめざすための今後の検討体 制づくり 6.他の作業チームとの調整が必要な事項 (1)パーソナルアシスタンスなど介護サービス事業の守備範囲 (2)ワンストップサービスの整備 (3)デイアクティビティセンターの機能 (4)他の福祉サービス事業とは異なる「就労系事業」の位置づけ (5)障害者支援施設による日中活動としての就労支援事業 --------- 「就労(労働及び雇用)」合同作業チーム報告書 I はじめに(作業チームの検討の背景と検討の範囲) (問題認識)  1976年に障害者雇用促進法が抜本的に改正されて以降、わが国の障害者雇用は、 雇用率制度を中心にすすめられてきた。近年、常用労働者数1,000人以上規模の 企業では、実雇用率が法定雇用率を上回るなど、とくに大規模企業を中心に雇用 率制度の対象となる常用労働者数56人以上規模の企業における障害者雇用は 年々伸びているが、2008年に厚生労働省により行われた、常用労働者数5人以上 規模の事業所を対象とした障害者雇用実態調査結果によれば、対象事業所におけ る障害者雇用数は約44万8千人で、これは2003年の同調査結果とくらべ、5万 人近く減少している。つまり、雇用率制度の対象とはならない常用労働者数55 人以下の小企業では障害者の雇用数が大きく減少しており、その結果、企業全体 としてみると障害者雇用数は、近年かなり減少している。また、平均賃金も5年 前とくらべ減少するなど、雇用の質も低下傾向が見られる。平均賃金(月額)は、 一般の約33万6千円とくらべ、障害者のなかでも一番平均賃金が高い身体障害 者で約25万4千円と、一般に比べ4分の3レベルにとどまっている。  一方、2006年の障害者自立支援法施行後、福祉から一般就労への移行が強調さ れ、2003年度の年間移行者数0.2万人から2011年度には0.9万人が目標とされな がら、2008年度の実績は約3,400人程度で、毎年、特別支援学校高等部卒業生の うち福祉施設に入ってくる約1万人をはるかに下回っていることなどから、福祉 的就労利用者は減少するどころか、むしろ増加傾向がみられ、現在では20万人 を上回っている。  2008年に厚生労働省により行われた労働年齢(15歳〜64歳)の身体障害者、 知的障害者及び精神障害者就業実態調査結果によれば、障害者の就業率(福祉的 就労者を含む。)は40.3%で、一般の就業率69.8%とくらべきわめて低い。福祉 的就労者を除く就業率は、31.9%で、一般の半分以下である。また、就労継続支 援A型事業や福祉工場で就労するものを除く福祉的就労利用者の平均工賃を 2007年度の12,222円から2011年度には倍増にすべく工賃倍増5か年計画が実施 されているにもかかわらず、2009年度の平均工賃は12,695円で微増にとどまっ ている。  これらのデータからも明らかなように、障害者雇用促進法等を中心にすすめら れてきた障害者の一般就労・自営、そして障害者自立支援法を中心にすすめられ てきた福祉的就労の両者とも期待されたような進展がみられない。そうした状況 を打破するには、障害者雇用・就労制度全般の課題、限界を検証し、不十分な制 度については、障害者が他の者と平等に働く機会を獲得し、また地域生活を可能 にする所得を得ることができるようにする観点から、大幅な見直しが求められる。 (検討の範囲)  本作業チームでは、障害者権利条約第27条[労働及び雇用]、「障害者制度改 革の推進のための基本的な方向」(第一次意見および閣議決定)、「障害者制度改 革の推進のための第二次意見」、障がい者制度改革推進会議および総合福祉部会 などでの議論を踏まえ、障害者の労働および雇用のあり方について追加開催も含 め、6回にわたり検討を行った。その主な内容は以下の通りである。 [1] 障害者基本法に盛り込むべき就労に関する基本的事項 [2] 総合福祉法の守備範囲(労働分野との機能分担など) [3] 福祉と労働及び雇用にまたがる制度と労働者性の確保のあり方 [4] 就労系日中活動(就労移行支援事業、就労継続支援A型・B型事業、生産活 動に取り組む生活介護事業)、地域生活支援事業(地域活動支援センター)や 小規模作業所のあり方 [5] 障害者雇用率制度および差別禁止と合理的配慮などを含む、障害者の一般就 労・自営のあり方 [6] 多様な就業の場としての社会的雇用、社会的事業所および社会支援雇用のあ り方など。 II 就労合同作業チームの結論とその説明 1. 障害者基本法改正について  障害者の労働および雇用について障害者基本法に盛り込むべき内容として、以 下の事項を確認した。(全文は本報告の末尾に資料として掲載) (1) 労働の権利の保障と苦情に対する救済制度の整備 (2) 労働施策と福祉施策が一体的に展開できる障害者就労制度の整備(生計を 維持するための賃金補填などによる所得保障を含む。)と労働者保護法の適 用の確保 (3) 多様な就業の場の創出および必要な仕事の確保 (4) 合理的配慮および必要な支援の提供の確保 (5) 障害者が特別の職業サービス(職業相談、職業指導、職業訓練および職業 紹介サービスなど)だけでなく、一般の職業サービスも利用できるように すること。 (6) あらゆる種類の障害者への雇用義務の拡大と働き甲斐のある、人としての 尊厳にふさわしい職場の確保 (2011年4月22日に閣議決定された障害者基本法改正案では、第18条(職業相 談等)1項及び2項に「障害者の多様な就業の機会を確保」が追加された以外は、 「第二次意見」で就労合同作業チームが提案した事項はほとんど反映されていな いため、今後の取組みが重要となっている。) 2. 総合福祉法(仮称)の中に就労事業などをどう位置づけるか。 結論 現在のところ障害者福祉法に基づく授産施設及び福祉工場、障害者自立支 援法に基づく就労系日中活動(就労移行支援事業、就労継続支援A型・B型事業、 生産活動に取り組む生活介護)、地域生活支援事業(地域活動支援センター)及 び小規模作業所等に分かれている体系を、就労を中心とした「就労系事業」と作 業活動や社会参加活動を中心とした「作業・活動系事業」に再編成する。前者に ついては[1]障害者雇用促進法に位置づける、[2]総合福祉法に位置づける、という 2つの考え方がある。「就労系事業」に従事する障害者の労働者性を確保すると いう目標からは[1]が望ましいが、その条件整備にはかなりの時間がかかるため、 当面は[2]とする。(期限を定め見直すことを総合福祉法の付則に明記する。)将来 的には障害者雇用促進法あるいはそれに代わる新法(労働法)で規定することを 検討する。「作業・活動系事業」は、総合福祉法(仮称)に位置づける。 説明  労働施策と福祉施策を一体的に展開することにより、「就労系事業」で就労す る障害者に各種助成措置、手当や年金など所得保障制度などを組み合わせること、 および官公需や民需の優先発注などによる仕事の安定確保などにより、最低賃金 以上の賃金を確保し、労働法を適用する。  「就労系事業」においても一般就労・自営を希望する障害者については、ハロ ーワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどと密接 に協力・連携し、一般就労・自営への移行を積極的に支援する。また現行の就労 移行支援事業は、障害者就業・生活支援センター等労働施策に統合するとの意見 が多数を占めたが、これとの有機的連携を図るとの意見もあった。  「作業・活動系事業」は作業活動に取組み働く喜びを得る「作業支援事業」と、 文化・創作活動や機能・生活訓練等の社会参加活動を中心とした「活動支援事業」 から成る。この事業には、労働法は適用されず、適正な工賃及び年金や手当など により生計維持可能な所得を確保する。  なお、「一般就労・自営」、「就労系事業」、「作業・活動系事業」の三者間は、 対象とする障害者のニーズに応じて、それぞれ相互移行ができる仕組みとする。 ≪補足説明≫ 現行の就労に関わる事業体系 ●福祉工場(根拠法は障害者福祉法) ●授産施設(根拠法は障害者福祉法)、就労移行支援事業、就労継続支援A型・ B型事業、地域活動支援センター(以上、根拠法は障害者自立支援法)、小規模 作業所 ●(生産活動を行う)生活介護事業(根拠法は障害者自立支援法) 新制度の下での就労に関わる事業体系の提案  新たな事業体系として以下の二類型を提案する。一般就労・自営及び以下の二 類型については、障害者本人のニーズに応じて三者間を相互移行ができる仕組み とする。 ●「就労系事業」 *障害に起因する制約への支援を受けつつ働く場。 *根拠法は、当面は総合福祉法。将来的には障害者雇用促進法あるいはそれに代 わる新法(労働法)とすることを検討する。 *現行の事業体系との関係〜現行の福祉工場、就労継続支援A型事業で働く障害 者と、授産施設、就労継続支援B型事業、生活介護事業、地域活動支援センタ ー、小規模作業所で働く障害者の一部が「就労系事業」で働くことになると想 定。 *労働施策と福祉施策を一体的に展開する新たな事業として、以下の3つが提案 された。 [1]社会的雇用(箕面市が実施している。一般就労・自営が困難な障害者が労働者 として働くことを通じて経済的自立ができるよう、働くことへの支援や賃金補 填等を行う仕組み。) [2]社会的事業所(滋賀県や札幌市が実施している。障害者をはじめとする雇用の 困難な人々が雇用契約に基づいて労働に参加する仕組み。賃金補填は前提とし ない。) [3]社会支援雇用(欧州等で行われており保護雇用とも呼ばれる。一般就労・自営 が困難な障害者が労働法規の下で賃金補填等の必要な支援を受けつつ働き、地 域生活を送れるようにする仕組み。) *就労移行支援事業は、障害者就業・生活支援センター事業等の労働施策に統合 するとの意見が多数を占めたが、これとの有機的連携を図るとの意見もあった。 ●「作業・活動系事業」 *作業活動を中心とした「作業支援事業」と、文化・創作活動、機能・生活訓練 等の社会参加活動を中心とした「活動支援事業」から成る。 *根拠法は総合福祉法。 *就労継続支援B型事業、生活介護事業、地域活動支援センター、小規模作業所 で働く障害者で、 「就労系事業」で働くことを希望しない人が「作業・活動系事業」で活動する と想定。 3.「就労系事業」に労働法規を適用するか。 結論 「就労系事業」には、原則として労働法を適用する。 説明  「就労系事業」に一律に現行の労働法規を適用し事業者の責任だけを問うこと になると、障害者の働く場を狭める恐れがあるため、必要な条件が整うまでは、 一部適用により安全かつ健康的な作業条件を保障するという選択肢も検討する。 将来的には、労働条件に関する差別禁止や合理的配慮の提供義務を織り込んだ労 働基準法等、障害者の特性に配慮した労働法を全面適用することについて検討す る。 4.「就労系事業」で就業する障害者の賃金を妥当な水準に引き上げるための適切な仕事を どのようにして安定確保するか。 結論 「就労系事業」や障害者多数雇用事業所等での仕事を安定確保するため、 官公需優先発注の制度化、官公需における随意契約の促進、総合評価入札制度、 並びに雇用率制度とリンクしたみなし雇用制度の導入、発注促進税制の拡充や発 注額に応じた減税制度の創設等による民需の発注の促進等を図ると共に、共同受 注窓口等を全国的に整備する。また、生産性や付加価値を引き上げるための仕組 みを整備する。加えて、「就労系事業」に所属する障害者が企業等の中で働くこ とを促進するため、これを雇用率に換算する制度を検討する。なお、「作業・活 動系事業」における「作業支援事業」についても、適正な工賃を支払うため「就 労系事業」と同様の施策を講じる。 説明  多様な「就労系事業」や重度障害者多数雇用事業所、そして「作業支援事業」 等に安定的な仕事を確保するうえで官公需および民需は重要である。民需確保の 一環としてのみなし雇用の具体化に向けては、在宅就業障害者支援制度をモデル として特例調整金などの給付を雇用率の算定に変える仕組みが考えられるが、そ れが有効に機能する前提としては、法定雇用率の引き上げ等が不可欠である。ま た、仕事の受注や分配、生産管理や品質管理、技術的支援等を行う共同受注窓口 は、個々の事業所単独での受注に限界があるなかで、有効な施策であり、そのた めの組織の整備と運営費の担保が必要である。さらに、収益を拡大するためには 生産性や付加価値を高めるための取組みが重要である。また、現行の自立支援法 に基づく施設外就労や納付金制度に基づくグループ就労などを更に拡大、発展さ せるため、これを雇用率に換算する制度を検討する。 5.「就労系事業」で就労する障害者に利用者負担を求めるか。 結論 利用者負担は廃止する。 説明  国際労働機関(ILO)第99号勧告(1955年)では、職業リハビリテーショ ンの無料提供が原則とされる。また、労働者性を有する就労については、利用者 負担という概念そのものが考えられないし、総合福祉法に位置づけられる「作 業・活動系事業」についても、利用者負担を廃止すべきとした訴訟団と国(厚生 労働省)との「基本合意」が順守されるべきである。 6.障害者雇用促進法に関わる事項について (1)障害者雇用の量だけでなくその質を確保するための障害者雇用促進法の改正について 結論 障害者権利条約第27条[労働及び雇用]で求められる労働への権利、障害に 基づく差別の禁止、職場における合理的配慮の提供の確保するための規定を設け る。 説明  大企業に限らず中小の企業においても、雇用条件や昇給・昇進、希望職種・業 務の充足といった雇用の質が確保されるために必要な規定を設ける必要がある。 (2)障害者雇用施策の対象とする「障害者」について、就業上必要な支援を認定する仕組み について 結論 雇用率制度に基づく雇用義務の対象を、精神障害者を含むあらゆる種類の 障害者に広げるとともに、雇用率達成のための事業者への支援を拡充する必要が ある。また、個々の障害者にとって就業上必要な支援を明らかにする総合的なア セスメントシステムを整備する。 説明  精神障害者を含む、あらゆる種類の障害者の雇用を義務化すると同時に、雇用 率を達成するための事業者への支援を拡充するべきである。特に、精神障害者に ついては職場で安定的に就業するための配慮と職場環境の整備が不可欠である。 就業上必要な支援を認定する仕組みについては、聴覚障害者の場合は身体障害者 福祉法第4条の別表をWHO基準に合わせることが現実的なアプローチではない か。また客観的指標を新たに開発した上で、障害種別の特性を踏まえ、本人の希 望と周囲の評価を調整する合議体でのワンストップの相談支援の仕組みを作る ことを検討する必要がある。 (3)雇用率制度および納付金制度のあり方について 結論 雇用率制度の対象者の拡大に関連して、法定雇用率および納付金制度につ いては、調査に基づいて課題と限界を検証し、必要な見直しを行うべきである。 説明  法定雇用率については、社会モデルに基づいた障害の範囲の拡大、みなし雇用 の導入などを踏まえて大幅に引き上げる方向での見直しが求められる。ダブルカ ウントについては社会モデルに基づいた制度に見直すべきであるとの意見があ ったが、障害者の範囲の見直しが先決であるとの意見もあった。納付金制度は助 成額の引き上げや給付期間の恒久化に加え、助成申請手続きの簡便化も必要であ る。また、助成金は雇用主による申請であるために、障害者の雇用を支えるため に有効に活用されていないとの指摘があった。従って、障害者自身による申請を 可能とするよう検討する。 (4)職場における合理的配慮提供の確保について 結論 事業主が合理的配慮を提供するために必要な経済的・技術的支援を制度化 すると共に、苦情申し立てと救済措置についての仕組みを整備する必要がある。 説明  「就労系事業」、特例子会社、重度障害者多数雇用事業所等での合理的配慮の 実践例を企業に示すことで、企業サイドの理解を深める。合理的配慮の類型化や 事例のガイドブックの整備等も企業サイドの取り組みを進める上で有効だろう。 合理的配慮に係る費用負担のあり方も整理する必要がある。合理的配慮が提供さ れない場合、障害者が苦情を申し立て、その救済措置が受けられるような第三者 性を確保した仕組みが、職場内及び労働審判制度等に整備される必要がある。 III 今後の検討課題 1. 安定した雇用・就労に結びついていない労働年齢の障害者に適切な就業の機会を確保 するための施策についての検討 結論 安定した雇用・就労に結びついていない障害者に適切な就業の機会を確保 するため、試行事業(パイロット・スタディ)として賃金補填等の他、多様な働 き方の「就労系事業」を実施する。 説明  全国で80ヵ所程度を指定し、賃金補填(使途に規制がなく、障害従業員の賃 金補填にも充当しうる、柔軟な助成措置を含む。)および官公需や民需の優先発 注等を伴う、多様な「就労系事業」(「社会的雇用」・「社会的事業所」・「社会支援 雇用」(補足説明参照))が障害者就労施策にもたらす効果を実証的に検証するこ とにより、同制度化に向けた課題を整理するものである。対象とするのは、[1]最 低賃金の減額特例を受けている就労継続支援A型事業所、[2]最低賃金の1/4以 上の工賃を支払っている就労継続支援B型事業所、[3]箕面市や滋賀県など、地方 公共団体独自の制度として賃金補填を実施している事業所の他、新たに起業する 事業所等であり、これらに対し、障害者への賃金補填を含む、事業所への運営費 補助(負担割合は、国:1/2、都道府県:1/4、市町村1/4)及び官公需や民需 の優先発注などによる仕事を確保するための支援を行う。  検証事項は、主に[1]障害者自身の働く意欲への影響や、共に働く、障害のない 者の意識の変化、[2]対象とすべき障害者や事業所の要件、[3]事業者が提示する賃 金への影響、[4]障害者の心身・労働能力の変化の状況、[5]収益の配分とその決定 の仕組み、[6]事業者の生産性・付加価値引き上げの取組、[7]民間企業と就労系事 業が連携する取組、[8]総合的アセスメントの仕組みなど、新たな「就労系事業」 の制度化にあたって予想される課題の整理である。 (このモデル事業が必要な背景としては、現在の国の制度では、一般雇用と福祉 的就労しか選択肢がなく、しかも賃金(工賃)や位置づけ(労働者か利用者か) について大きな乖離があることが挙げられる。両者の間に第三の選択肢をつくる こと、また福祉的就労そのものに労働法規を適用すること、さらには多様な働き 方を保障することなど、種々の検討すべき課題があるが、これらのいずれをも包 括して検証するには、賃金補填等を試験的に行い、各事業のメリット・デメリッ トを明らかにすると共に、現行の関連施策に与える影響や事業者側への影響を考 慮、分析する必要がある) 2.前述のモデル事業の結果を踏まえ、「就労系事業」に従事する障害者への労働法の適用 およびそれを可能とするための賃金補填等を制度化するための法制度の整備 結論 「就労系事業」は、当面は、総合福祉法で規定する。(期限を定め、見直 すことを総合福祉法の付則に明記する。)将来的には障害者雇用促進法ないしは それに代わる新法(労働法)で規定することを検討する。 説明  「就労系事業」を早期に実現するには、総合福祉法に位置づけることが早道と 思われるが、一般就労・自営と「就労系事業」を総合福祉法で一体的に規定する ことは不可能なことから、将来的には障害者雇用促進法を見直すか、あるいはそ れに代わる新法(労働法)で、一般就労・自営とリンクして「就労系事業」を規 定するよう検討する。 3.前述の賃金補填を制度化するための所得保障制度(障害基礎年金など)との調整のあり 方 結論 「就労系事業」に従事する障害者が賃金補填を受ける場合、原則として年 金支給は一部ないし全額停止することで、年金財源を賃金補填に振り替えうる仕 組みをつくる。そのためには、賃金補填と所得保障の関係について、障害基礎年 金の支給調整ラインの検討が必要である。また、賃金補填の対象となる障害者の 認定の仕組みを検討する必要がある。(賃金補填を行う場合のモラルハザードを どうするかについても検討が必要という意見もある。) 説明  障害基礎年金における所得制限は、20歳前に障害者となった人の場合について、 所得が398万4,000円を超えると半額支給停止、500万1,000円を超えると全額支 給停止になる(いずれも扶養家族がいない場合の例)。しかし、最低賃金(全国 加重平均731円/時)への不足分に対する賃金補填を行った場合を考えると、そ の補填率にかかわらず、賃金総額は、731円/時×30〜40時間/週×52週/年= 114万360円〜152万480円程度であり、到底、現行の支給調整ラインには届か ない。よって、賃金補填を受けない障害者との公平性を担保するには、支給調整 ラインをさらに低い金額で設定することを検討する必要がある。また、20歳前に 障害者となった人以外の場合は障害厚生年金や稼働所得と賃金補填との調整を どうするのか等の検討課題がある。また、賃金補填の対象となる障害者の認定の 仕組みを検討する必要がある。  なお、賃金補填の導入によって事業者がモラルハザードを起こさないよう、生 産性や付加価値を高めるとともに、障害者の能力開発により賃金補填額の縮小、 あるいは賃金補填がなくとも最低賃金以上の賃金を支払うことを目指すような 制度設計とすることについても検討する必要がある。 4.全国民のなかでの障害者の経済活動や生活実態を明らかにする基礎資料の整備 結論 障害の社会モデルを基礎として雇用・就労施策を検討する基礎資料をえる ために国の基幹統計調査において障害の有無を尋ねる設問を入れた全国調査を 少なくとも1回実施する。 説明  厚生労働省では身体・知的・精神、3障害の就業実態調査や障害者雇用実態調 査を行ってきている。しかし、いずれも手帳所持者やすでに雇用されている人な ど、限定された障害者集団の状況しか明らかにできない。障害ゆえに雇用・就労 の機会を得がたい者は、それらの障害者以外にも数多く存在する。いわゆる制度 の谷間で公的支援を受けることができず放置されている人びとを支援すること になってこそ、障害者雇用・就労の裾野を広げることができる。  また、障害の社会モデルを基礎とした雇用・就労施策を検討する基礎資料とし て、全国民のなかでの障害者の経済活動や生活実態を明らかにすることが重要で ある。そのためには、国の基幹統計調査(全国消費実態調査や国民生活基礎調査 等の全国民を対象とした大規模社会調査)において、少なくとも一時点において 病気や障害によって活動が一定期間以上制限されているかどうかを聞く設問を 追加し、その調査結果を分析する必要がある。 5.障害者の雇用・就労にかかる労働施策と福祉施策を一体的に展開するための体制の整 備 結論 障害者の雇用・就労にかかる労働施策と福祉施策を一体的に展開しうるよ う、関係行政組織を再編成するとともに、地方公共団体レベルで雇用・就労、福 祉および年金などにかかる総合的な相談支援窓口(ワンストップサービス)を設 置する。 説明  現在、一般就労・自営は労働行政等、また福祉的就労は福祉行政の所管となっ ているがそれらを一体的に展開するには、中央レベルの行政組織を再編成すると ともに、地域レベルで就労・生活支援にかかわる、ハローワーク、福祉事務所、 地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターおよび地方公共団体が 設置する就労支援機関、地域自立支援協議会、発達障害者支援センター、ならび に特別支援学校などの関係機関のネットワークが有効に機能する仕組みを整備 する。 6.以上の検討課題についてフォローし、実現化をめざすための今後の検討体制づくり 結論 推進会議のもとに就労部会または就労検討チームを設置して、「就労系事 業」にかかるモデル事業の検証も含む、検討課題についての議論を深め、結論を 得る。そのメンバーは、推進会議や総合福祉部会の枠をこえ、経済団体、労働団 体、学識経験者(労働法、労働経済学、経営学、社会保障論などの分野の専門家 など)、事業者団体および地方公共団体などから構成する。 説明  本チームでは極めて広範囲に渡る、一般就労・自営および「就労系事業」に係 る課題について議論したが、構成員の専門領域が限られていたことや検討期間及 び時間が短かったため議論をつくせず、結論を得るまでには至らなかった。従っ て、推進会議の下に新たに作られる部会又は検討チームには幅広い専門領域の構 成員を加え、十分議論を尽くし、結論を得る。 7.他の作業チームとの調整が必要な事項 (1)パーソナルアシスタンスなど介助サービス事業の守備範囲について 結論 パーソナルアシスタンスなどの介助サービス事業は、障害者の地域での生 活支援だけでなく、通勤(自営等の営利活動に伴う移動を含む)や職場での介助 にも使えるようにする。 説明  「訪問系」作業チームで検討されたパーソナルアシスタンスなどの介助サービ ス事業は、基本的には在宅障害者の身体介助や外出支援等に関わるとされる。一 方、雇用納付金制度に基づく助成金にも通勤支援(1ヵ月)、職場介助(仕事面の 支援、10年間)等があるが、期間や介助の対象が限られているため極めて使いづ らいとされる。財源も含め、労働施策と福祉施策を一体的に展開できる仕組みを 整備することで、パーソナルアシスタンスなどの介助サービス事業を地域での生 活支援だけでなく、通勤(自営等の営利活動に伴う移動を含む)や職場での介助 にも使えるようにする。 (2)ワンストップサービスの整備について 結論 ワンストップサービスは、就労支援を含む、総合的な相談支援窓口とする。 説明  障害者が就労しようとする場合、どの機関や窓口で相談するかによってその後 の就労先が異なることが少なくない。障害者がそうした不利を蒙らないようにす るためにも、「選択と決定・相談支援プロセス(程度区分)」作業チームで検討さ れている地域相談支援センターなどは、就労支援も含む、「総合的な相談支援窓 口(ワンストップサービス)」とする必要がある。 (3)雇用関係がなく、労働法規が適用されないデイアクティビティセンターの機能について 結論 雇用関係がなく、労働法規が適用されないデイアクティビティセンターは、 創作活動や趣味活動、作業活動など、地域における社会参加活動の場の提供等を その主たる機能とし、福祉サービス事業の一環として総合福祉法に位置づける。 説明  「日中活動とGH、CH、住まい方支援」作業チームでは、「(現行の)地域活動 支援センターはデイアクティビティセンターに整理する方がよい。・・・」と整 理し、また「地域生活支援事業の見直しと自治体の役割」作業チームでは「地域 活動支援センターの内容については、・・・地域生活支援事業に残すものと、他 事業との体系の統合の中で自立支援給付にするものとに分ける。・・」と報告し ている。ここで言うデイアクティビティセンターは本報告中の「作業・活動系事 業」に当たると考えられるため、これを総合福祉法に基づく福祉サービスに位置 づけ機能を整理する。 (4)他の福祉サービス事業とは異なる「就労系事業」の位置づけについて 結論 本来、労働法に位置付けられる事業として、「就労系事業」を他の福祉サー ビス事業一般とは異なる位置付けとするよう、見直しが必要である。 説明  就労が福祉サービス事業の一つとしてしか位置付けられていない現状を見直 し、本来は労働法に規定されるべき「就労系事業」は、独自の仕組みとして総合 福祉法の中に規定されるべきである。 (5)現行の施設入所支援と併せて提供される就労支援事業について 結論 現行の施設入所支援と併せて提供される就労支援事業を総合福祉法でど のように位置付けるかについては、「日中活動とGH、CH、住まい方支援」作業 チームと調整する。 説明  2008年12月16日の社会保障審議会障害者部会報告で「通所による就労継続支 援の利用が難しく、真にやむを得ない者である場合には、ケアマネジメント等の 手続きを経た上で、同一の施設において施設入所支援と合わせて就労継続支援に ついても実施できることとするよう、検討すべきである」とされる。これについ ては、「日中活動とGH、CH、住まい方支援」作業チームと調整する。 【資料】 2010・11・22 障害者基本法に盛り込むべき事項(案) 就労・合同作業チーム  労働及び雇用について障害者基本法に以下の内容を規定すべきである。 1. 労働の権利の保障と苦情に対する救済制度の整備  障害者権利条約第27条では、「障害者が他の者と平等に労働についての権利を 有することを認める。」と規定されている。また、日本国憲法第27条でも、「す べて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。」と規定している。しかし、現行 の障害者基本法をはじめ、障害者の雇用の促進等に関する法律や障害者自立支援 法などでは、障害者の労働の権利は明記されていない。障害者の就業率が他の者 とくらべ、きわめて低く、かつ、就業している障害者の賃金などの労働条件も他 の者とくらべ、かなり悪い実態を改善するためにも障害者の労働の権利が保障さ れなければならない。それには、公正かつ良好な労働条件、安全かつ健康的な作 業条件及び苦情に対する救済についての権利の保護が含まれる。 2. 労働施策と福祉施策が一体的に展開できる障害者就労制度の整備(生計を 維持するための賃金補填などによる所得保障を含む。)と労働者保護法の適用 の確保  現在いわゆる福祉的就労に従事している20万人近くの障害者のうちごく一部 を除き、労働者保護法(労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害 補償保険法などに加え、雇用保険法、健康保険法および厚生年金法も含む。)の 対象外とされ、労働者あるいは労働者に準じた労働条件などを確保する展望もな い状況におかれている。そうした状況を打開するには、福祉的就労制度にかわる ものとして、現在分立している労働施策と福祉施策を一体的に展開できるような 仕組み、つまり、福祉的就労に従事している障害者が、合理的配慮の提供および、 必要な支援(生計を維持するための賃金補填などによる所得保障などを含む。) を継続的に受けながら、労働者保護法が適用される多様な就業の場で働き甲斐の ある人間らしい仕事ができる仕組みを整備する必要がある。また、それらの障害 者の職業の選択肢を拡げるとともに、キャリア形成ができるよう、生涯学習を含 む、能力開発などの支援も積極的に行われなければならない。 3.多様な就業の場の創出および必要な仕事の確保  障害者が自由に選択し、または承諾する労働につけるよう、企業や公共機関で の雇用に加え、自営・起業、社会的事業所や協同組合での就業、ならびに在宅就 労などを含む、多様な就業の場を積極的に創出するとともに、そこで就業する障 害者が生計を立てうる、適切な仕事を安定確保するための仕組み(ハート購入法 など優先発注制度や総合評価入札制度など)を整備しなければならない。 4.合理的配慮および必要な支援の提供の確保  障害の種類や程度にかかわらず、労働及び雇用を希望するすべての障害者が他 の者と平等に就職し、その職の維持や昇進、あるいは復職などができるよう、職 場における合理的配慮および必要な支援(職業生活を維持・向上するための人的、 物的および経済的支援を含む。それには職業維持に必要な生活面での支援や通勤 支援なども含まれる。)の提供を確保しなければならない。 5.障害者が特別の職業サービス(職業相談、職業指導、職業訓練及び職業紹介 サービスなど)だけでなく、一般の職業サービスも利用できるようにすること  障害者が他の者と平等に労働及び雇用に参加できるようにするべく、ニーズに 応じた適切な職業サービス提供を確保するには、かぎられた特定の機関で提供さ れる障害者を対象とした特別の職業サービスだけでなく、障害者にとって身近な 地域で必要な職業サービスが受けられるよう、一般市民を対象とした通常の職業 サービスが利用できるようにしなければならない。つまり、地域にある通常の各 種職業サービスを障害者にとってインクルーシブでアクセシブルなものにしな ければならない。 6.あらゆる種類の障害者への雇用義務の拡大と働き甲斐のある、人としての尊 厳にふさわしい職場の確保  障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく障害者雇用義務の対象は、現在の ところ身体障害者と知的障害者に限定されているが、その対象を精神障害者を含 む、あらゆる種類の障害者に拡大するとともに、現行の障害者雇用率制度を量と しての雇用だけでなく、働き甲斐のある、人としての尊厳にふさわしい職場をも 確保できる仕組みに転換する必要がある。そして、そうした職場を確保するには、 合理的配慮および必要な支援が確実に提供されるよう、障害者だけでなく、事業 主に対しても適切なフォローアップサービスが、必要な期間継続的になされなけ ればならない。 本作業チーム報告に対して部会委員から寄せられた主な意見  当チーム報告書について、3名の委員からつぎのような意見が寄せられた。 1 新たに「障害」の範疇に入る難病・慢性疾患患者への対応について (1)本報告書のはじめの「問題認識」につぎのような記述を追加すること。 「疾病構造が慢性疾患になってきているのに対応して、急性患者から慢性疾患に シフトすべき国の施策の対応が遅れている。したがって、病気を抱えて、障害を もって就労する社会環境の整備は、もっと政策的に優先順位の高いものであるべ きである。」 (2)上記の視点は、各項にも関連するので、関連部分について必要な調整・補 正をすること。  難病という医療ケアを伴う就労は、障害特性に合った独自の支援が必要である。 それに関連して、国の難病患者の就労モデル事業が数年前から実施されているこ と、また、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構・障害者職業総合センターで 調査・研究が行われていることから、これらの成果を生かすこと。 (3)合理的配慮提供と欠如事例の救済について  このテーマの改善は、当事者の具体的事例告発を推進力として前進する。それ だけに、救済措置は具体事例の告発が気軽に行えるような社会的な啓発にもっと 力点を置いた施策が求められる。 2 現行の施設入所支援と併せて提供される就労支援事業について  本報告書では、現行の施設入所支援と併せて提供される就労支援事業を総合福 祉法でどのように位置づけるかについては、「日中活動とGH、CH、住まい方支援」 作業チームと調整する、とあるが、この問題の背景には、地域生活を送るための 所得保障、地域の社会資源の不足や、GH等の設置にかかる財源確保の困難さ、ま た地域の反対や本人・家族の心配といった地域移行の課題などがある。そこで、 「日中活動とGH、CH、住まい方支援」作業チームに加えて、「地域生活の資源整 備」作業チームや、「地域移行」作業チームと調整したうえで、職住分離を原則 としつつも、諸課題の改善までの期間は、施設入所支援と併せて提供される就労 支援事業(福祉的就労)を認めるべきである。 3 財源の確保について  国・地方とも厳しい財政難の中で、安定した財源の確保の問題は重要な課題で ある。制度の円滑な運営を図るためには、財源の確保を並行して議論し、制度に 位置づける必要がある。 --------- 「医療(主に精神分野)」合同作業チーム報告書の概要 第1期(H22.10〜12月)における検討事項 テーマ:障害者権利条約の考え方を踏まえ、精神医療を中心に議論した。 I.はじめに  本チームは、障害者の権利に関する条約を我が国が批准するにあたり、精神障害者の非 自発的な入院や身体拘束が、「精神保健福祉法」、「医療観察法」等で法的に規定されている こと等が、人権保護上問題があるのでは、という視点に立ち、障害者の医療に関連する現 行法体系を廃止または抜本的に見直し、諸法の法改正、制度構築、財政措置の実施が法的 に担保されるべく、検討を行った。 II.障害者基本法盛り込むべき内容    (医療・合同作業チームにおける結論) (1)「社会的入院」を解消し、自立(自律)した生活及び地域社会へ包摂のための施策の根 拠となる規定を設けること。 (2) 医療保護入院に係る同意を含む「保護者制度」を解消するための根拠となる規定を設 けること。 (3) 精神疾患の入院ニーズを精査し、国並びに都道府県は精神科病床の削減計画を立て、 入院に代わる地域での医療体制を構築すること。 (4) 強制的な入院は人権保護の観点から原則として認められないことを確認し、人権制約 が行われる場合には、障害のない人との平等を基礎とした実効性のある適正手続を保障す る規定を設けること。そのためには司法、行政等の第三者が当該措置を人権配慮の観点か ら責任もって実施する等、本人の権利擁護のための仕組みが必要である。 (5) 精神医療の質の向上に努めることの根拠となる規定を設けること。 (6) 精神障害者が身体合併症治療のために一般医療を受ける必要が生じた場合の対応な ど、一般医療における問題点の解消。 III.おわりに  地域生活支援・地域移行を実現するに当たっては、退院する人を地域で支える住居の確 保、就学、就労など地域移行支援システムの構築が必要不可欠である。その際、精神障害 者本人の主体性を尊重することが何よりも重要である。 --------- 「医療(主に精神分野)」合同作業チーム報告書 I.はじめに  本チームは、障害者の権利に関する条約を我が国が批准するにあたり、精神 障害者の非自発的な入院や身体拘束が、「精神保健福祉法」、「医療観察法」等で 法的に規定されていること等が、人権保護上問題があるのでは、という視点に 立ち、障害者の医療に関連する現行法体系を廃止または抜本的に見直し、諸法 の法改正、制度構築、財政措置の実施が法的に担保されるべく、検討を行った。 1 第1期(H22.10〜12月)における検討事項 テーマ:障害者権利条約の考え方を踏まえながら、医療について、特に精 神医療を中心に検討した。 (1) 議論に当たっては、以下を前提とした。  ・ 障害者権利条約の考え方  ・ 障がい者制度改革推進会議の第一次意見及びこれを踏まえた閣議決定  ・ 障害者基本法の改正に向けた推進会議での議論  ・ 総合福祉部会での議論 (2)医療・合同作業チームでは、医療に関して、推進会議および総合福祉部会 で、今後、以下のことを検討するうえで活用される論点整理を行っていく。  ・ 障害者基本法改正  ・ 総合福祉法の制定  ・ 個別分野の制度改正 II.医療・合同作業チームにおける結論    1 障害者基本法改正に関連して  障害者基本法に盛り込むべき内容として、以下の事項が確認した。 (1) いわゆる「社会的入院」を解消し、自立(自律)した生活及び地域社会へ の包摂のための施策の根拠となる規定を設けること。  「保護と収容」を優先するこれまでの我が国の障害者施策の結果生ま れた「社会的入院」を解消するためには、閉鎖された空間から自立(自 律)した生活への移行をサポートし、地域社会へ包摂するための施策を 展開することが必要である。障害者基本法において、このような施策の 根拠となる規定を設けるべきである。また、現時点で確保されている精 神病床の削減を前提とした必要最小限の病床確保に向けた、国の責務と しての施策の実施の根拠となる規定を設けるべきである。 (2) 医療保護入院に係る同意を含む「保護者制度」を解消するための根拠とな る規定を設けること。  精神障害者に関し、本人の自己決定権を尊重するとともに家族の負担 を軽減するためには、医療保護入院に係る同意を含む「保護者制度」に ついて、これを抜本的に見直し、例えば、司法機関や地方公共団体等の 公的機関が責任を負う制度に改めることが必要である。障害者基本法に、 このような趣旨とそのための施策の根拠となる規定を設けるべきである。 (3) 強制的な入院は人権保護の点から原則として認められないことを確認し、 人権制約が行われる場合には、その実施が例外的に最大限の人権の保護を 確保した上での適正手続を保障する規定を設けること。  精神科病院への入院や施設への入所は、本人の自由な意思に基づいて 行われることが原則であるべきではないか、これは、「自己決定権」とい う最も重要な基本的人権の一つである。したがって、強制的な入院は、 原則として禁止し、やむを得ず措置入院が行われるような場合において は、この基本的人権の手続的な保障としての障害のない人との平等を基 礎とした実効性のある「適正手続」が履行されなければならない。例え ば、司法、行政等の第三者が当該措置を人権配慮の点から責任もって実 施する等の本人の権利擁護のための仕組みが必要であり、障害者基本法 に、障害者の自己決定権の理念と、適正手続保障の根拠となる規定を設 けるべきである。また、このために精神保健福祉法、医療観察法等関連 法体系の抜本的な見直しを国の責務として実施する根拠となる規定を設 けるべきである。 (4) 精神医療の質の向上に努めることの根拠となる規定を設けること。  精神医療の提供に当たっては、一般医療と同様、インフォームド・コン セントを得るという原則を徹底するとともに、身体拘束や閉鎖空間での処 遇等の行動制限を極小化するべきである。このためには、非自発的入院を 削減していくこと、入院ニーズを十分に精査したうえで必要最低限かつ適 正な病床数まで精神病床を削減し、その上で、必要最小限の病床に対して、 行動制限の極小化に見合った人員配置を行い、精神医療に充てる人員の標 準を一般医療より少なく設定している現行の基準を改めることが必要であ る。また、病床削減に伴い、往診・外来受診を含む医療体制の強化と福祉 サービスの強化による地域生活の支援体制を強化すべきである。さらに、 急性期等の精神医療に携わる医師、看護師、コメディカル等の仕事の質を 確保するための指針の整備等とともに、障害者基本法において、このよう な施策の根拠となる規定を設けるべきである。  こうした施策を国の責務として実施すべく、法的、制度的、財政的な措 置を国が実施する根拠となる規定を設けるべきである。 (5) 一般医療における問題点の解消に努めることの根拠となる規定を設ける こと  一般医療においても適正手続きの保障がない状況で行動制限が行われて いる状況があり、医療提供に当たっての人権確保の必要性は精神医療にと どまらない。  また、精神障害者が身体合併症治療のために一般医療を受ける必要が生 じてもその円滑な提供がなされないことがあり、こうした事態の改善が必 要である。障害を理由とする差別なしに必要な医療が自らの選択によって 受けられることは、精神医療の範囲にとどまらず不可欠なことである。障 害者基本法において、このような問題点を解消する施策の根拠となる規定 を設けるべきである。   * 上記の論点に係る障害者基本法の改正の検討は、同法の「障害者の福祉 に関する基本的施策」の「医療等」に関する部分の条項改正のみならず、 同法の「基本理念」に係る条項の改正をはじめとして同法の他の部分に関 する議論にも、当然に及ぶ必要があると考える。 2-1 精神医療の法体系のあり方について  11/19会合において、座長メモ(下記の点線枠内参照)に基づき議論が行われ たが、精神医療の法体系のあり方については、以下の [1]、[2]のように意見が 分かれた。   [1] 精神医療は医療を受ける者本人の自発的意思に基づいて提供される(精神 医療を一般医療と区別しない)ことを法体系の基本としたうえで、やむを得 ず非自発的入院や行動制限が行われる場合における人権確保のための適正 な手続を定める法律(適正手続法)を設けるべきという意見。   [2] 精神医療に関し、さらには精神障害者を支援する保健施策も含めて、自発 的意思に基づくことを原則とし、非自発的入院や行動制限が行われる場合に は人権確保のための適正な手続が必要なことは当然であるが、法体系として は、精神医療に特化した法律を存置させるべきという意見。 <第2回合同作業チーム(H22.11.19)配布資料「座長」メモより>  ・ 精神障害者に必要な支援は、当然ながら医療に留まらず、保健(入 院とならないよう未然防止するための支援、退院直後の支援等)と 福祉(住居確保、所得保障、就労支援等)のサービスや支援が個々 の障害者のニーズに則して相互に連携して提供されなければなら ないのではないか。  ・ 特に精神医療に関しては、医療と福祉が混在し制度上の問題を多 く含んでいる精神保健福祉法を人権的な視点も含め抜本的に改正 するか、又は新法の制定を検討する必要があるのではないか。   (※ たとえば、医療法等の一般的な医療法制、地域保健法等の保健 法制、総合福祉法等の福祉法制に精神障害者に関する規定を取り込む ことを法体系の基本とし、精神障害者固有の事情に基づく人権尊重、 非自発的入院・隔離拘束の際に取るべき適正な手続、第三者機関によ るチェック等の必要性を満たすために、上記の新法又は抜本改正した 精神保健福祉法に規定を置くこととしてはどうか。) 2-2 精神病院における認知症患者の受け入れについて  精神病院における認知症患者の受け入れについては、以下の[1]、[2]のように 意見が分かれた。   [1] 社会的入院の解消によって削減した精神病床を、認知症患者に転換するこ とを認めるべきではない。そのことによって、再度社会的入院を助長する可 能性がある。   [2] 精神科医は、認知症については、専門的観点から対応すべきである。認知 症患者に積極的に関わっている民間精神病院は多い。従って、今後その対応 について検討していきたい。 3 地域生活支援・地域移行に関する議論の整理 【社会的入院の解消】 ・ 権利条約の批准に鑑み、国の重要施策として、精神科病床の削減と社会 的入院の解消に取り組まなければならない。実施にあたっては、国が年 次計画を示すとともに十分な財政措置を講じ、これを踏まえて、都道府 県がロードマップを作成し、精神保健福祉センター・保健所が積極的な 役割を果たしつつ医療圏域毎に計画的に進める。 ・ これと並行して、精神障害者の地域移行に不可欠である住居の確保と生 活支援サービスの提供を行う地域生活の基盤づくりを、国の責任に基づ き財政措置を伴って進める。 ・ 都道府県による入院措置がなされた措置入院患者については、所管保健 所が関与して個別に退院計画を立て、可能な限り早期に退院ができるよ う図るものとする。この際、相談支援事業者等と連携を取り、退院後の 地域生活を支援するための体制を確保することが必要。 【退院する人を地域で支える地域移行支援システムの構築】 ・ 長期入院により施設外での生活が困難となっている人や、入退院を頻繁 に繰り返す人は、社会生活のための集中的なトレーニングを必要として おり、各個人の状況に応じた地域移行計画を用意しなければならない。 多角的な社会適応訓練を含め、地域移行が円滑に進み地域生活が維持で きるよう支援体制を構築する必要がある。その実施に当たっては、“医 療モデル”として心身機能の損傷への治療や訓練に偏することなく、生 活の実態に基づくニーズを基礎とする“社会モデル”に基づく生活支援 ないし「福祉サービス」を重視し、精神障害者本人を中心にして、医療 と福祉の連携したシステムを構築していくことが必要である。 ・ 相談対応を含む生活支援を充実すること(たとえば、24時間つながる 電話による相談を含む)は、特に退院後間もない精神障害者については、 必要不可欠である。 【上記システムを構築するに当たり、従来の障壁の解消が必要】 ○地域移行を妨げてきた理由 [1] 昭和63年から施行された精神保健法に精神障害者社会復帰施設が盛り込 まれたが、そのほとんどを民間に委ねた上、十分な財政支出が伴わなかった ため、地域の受け皿として大きな広がりを見せていない。例えば、精神障害 者生活訓練施設(援護寮)について見ると、施行後約20年経過した平成18 年度においても300か所(4,400人分)の整備に、また施行後15年を経過した 居住サービス(グループホーム、ケアホーム)利用者は13432人(平成21 年8月)、居宅介護(ホームヘルプ)サービス利用者は23856人(平成21年 8月)にとどまる。 [2] 地域住民の反対運動等を含め国民の間に偏見が根強く残っており、社会資 源の整備が進まず、退院後の住まいの確保が困難な現状がある。 ○地域移行を推進し、病院→地域の道筋を作るには相当規模の予算が必要とな り、人権の視点から財源(基盤整備)の確保が急務。 [1] 地域移行のための仕組みである地域移行支援に財政措置(ハード整備、人材 確保、人材育成)を講じる。 [2] 自立訓練等の提供とともに、安心して駆け込み身をおける居場所としての 機能も併せ持つシェルター(ドロップインセンター)を設ける。  また、地域移行後の住居・生活の場の基盤整備と生活費用の確保が必要。 【地域移行を推進するには住居確保は最重要課題】 ・ 長期入院を余儀なくされ、そのために住居を失うもしくは家族と疎遠に なり、住む場がない人には、民間賃貸住宅の一定割合を公営住宅として 借り上げるなどの仕組みが急務である。 ・ グループホームも含め、多様な居住サービスの提供を、年次目標を提示 しながら進めるべきである。 ・ 医療費扶助、住宅扶助等の要件を緩和すれば、不安なく地域移行を進め られる。その際、福祉事務所など公的機関は合理的配慮をもって円滑に 支援を行うことが重要である。 ・ 賃貸物件の公的保証人制度の確立と運用も重要である。 【地域移行に必要な生活支援】 ・ 入院生活でパターン化された単調な生活リズムから、変化に富んだ地域 の生活に順応するには、地域の中で相当の月日をかけた生活支援が必要 となる。 ・ 精神障害者が調子を崩したとき、家族との関係が一時的に悪化したとき 等に、入院を防ぐあるいは再発予防のためのドロップインセンターが地 域支援の拠点として必要である。 ・ ドロップインセンターでは必要時にすぐに使えるレスパイトやショー トステイサービスが用意されることが重要である。 ・ 回復前期や調子を崩した時に気軽に利用できるさまざまな居場所の確 保が地域で必要である。 【地域移行支援に必要な人材育成】 ・ 地域生活移行を促進するには、人権擁護の重要性をよく理解した支援者 人材が必要不可欠であり、集中的な人材育成を行うことが急務である。 ・ たとえば、経験が入院患者のケアに限られている人材について、期間を 定めて再教育を行い、訪問によるケアなど地域生活支援をになう人材と して活用することなどが考えられる。 ・ また、入院をせざるを得ない場合でも、必要最低限の入院治療後、早急 に退院させ、地域において医療と福祉の連携による支援を講じていくこ とが基本となることを徹底させる。 ・ 地域移行支援ならびに地域生活支援において、ピアサポートは重要な支 援であるので、当事者同士がサポートしやすい環境を整備する必要があ る。 【地域移行に必要な就学支援】 ・ 在学中もしくは就職直後に発症し、青年期を入院等の治療で過ごさざる を得なかった人に、再就学を希望する人への支援の手だても必要である。 ・ 若年発症で思春期に入院した人には、特に就学支援の手だてが必要であ る。 【地域移行に必要な就労支援】 ・ 精神障害者の多くが将来働きたいと表明している。地域生活移行後の就 労支援や合理的配慮は生活支援と同様、重要な位置を占める。就労を希 望する精神障害者には、従来の福祉的就労に限らず企業や働く場での支 援の強化が必要である。 【当事者の主体性の尊重】 ・ 精神障害者本人の主体性を尊重することが何よりも重要である。 ・ 十分な情報を提供されたうえで、当事者が自ら選べることが重要である。 III.おわりに    障害者総合福祉法の論点整理で、「多くの社会的入院を抱える精神科病棟や、 入所施設からの大規模な地域移行を進めるためには、特別なプロジェクトは必 要か」、との課題が投げかけられているが、まさに今後、プロジェクトを形成 必要があるか否かについての議論が必要と考える。  さらに、地域での生活、就労、地域医療など、総合福祉法において対応すべ き事項が、数多くあるといえる。従って、社会移行を実現するためのシステム として、住宅、あるいは生活訓練などの問題を示してきたが、これらの事項は 総合福祉法で担保される必要があり、各作業部会において、精神障害者固有の 問題についての議論が求められるところである。    第2期においては、医療を中心に論点整理を行うこととなるが、地域医療の 領域などでは、精神医療についても触れる必要がある。今後、その他に精神医 療領域の問題についての議論の必要が生じた場合には、推進会議(親会議)や 総合福祉部会本体において議論するべきである。     付記   本作業チーム報告に対して部会委員から寄せられた主な意見   ・ 精神病院の可視化、透明性が確保される医療改革を求める。  一般市民の目から見て精神医療の内容が不明瞭で分かりにくい。入院患者 にとって良い治療、重度化しない治療が行われるようモニタリングのシステ ム並びに相談支援の制度化が提案されているが、その仕組みがよりよく機能 するよう、もう一歩踏み込んだ提案を望む。   ・ 強制医療、強制入院は前提として犯罪であるという認識。すでにノルウェ ーでは精神保健法廃止に向かって議論が始まっている。これは政府の姿勢と してもその方向ということであり、決して精神保健法廃止が非現実的という ことではない。 ・ 非自発的入院については、障害があろうと他のものと平等な手続きを求め ることが重要ではあるが、同時にその実態要件も議論する必要があり、刑法 の緊急避難の法理が適用されるべきと考える。すなわちいかなる適正手続き も犯罪を正当化し得ないので違法性阻却の論理しかない。 ・ 自立支援医療の負担問題については、自己負担分については0にすべきで はないか。  また自立支援医療を精神病院入院に使えるようにすべきか否かも医療合同 作業チームで検討するよう求める。 ・ 精神障害者、難病、身体障害者の地域移行によって医療保険から総合福祉 法(仮称)への移行となるので、財源の変換が壁となっており、どう医療保 険からの一定の基金拠出を求めるか、についても検討の必要がある。 ・ 「座長」メモは、何も精神障害に関してだけではない。1期は、精神障害 の医療について討議したことは承知しているが、2期にも「座長」メモで指摘 するのか、工夫が必要、また周囲に対して理解を得る方策も必要である。 --------- 「医療(その他の医療一般)」合同作業チーム報告書の概要 ● 医療・合同作業チームでは、障害者の医療をめぐるさまざまな現状、課題、解決策等に ついて、まずは、障害者総合福祉法(仮称)に反映されるべきものかどうかを問わず、障害当 事者の経験に即した視点から議論した。そのうえで、本まとめの本文では「障害者総合福祉 法の論点」に該当する項目と、より幅広くその他の法令等で対応が図られるべき項目とを整 理して章立てし、記述した。   ● 障害の種別を問わず、障害者の医療のあるべき姿を考えていくうえで「地域における障 害者の生活を支える医療」という視点が重要。これを実現するためには、福祉サービス及び 保健サービスとの有機的連携を確保しながら医療が提供される必要があるが、それが未だ十 分になされていない現状を改善することが制度改革の大きな目標と考えられる。  その具体的な推進方策として、福祉と医療が有機的に結びついたサービスが必要な障害者 には相談支援の際にそのニーズに合った総合的な計画が作成されるべきであり、本人が総合 的なケアマネジメントを必要とする場合にそれをサービスとして提供することが制度化さ れるべきと考えられる。 ● 障害者の医療の現状と課題は、障害の種別に応じて一律には論じきれない側面もあるこ とが認識された。障害の種別に応じて、特に、次のような側面が重要と考えられた。 [1] 重度身体障害者、重症心身障害者については、これまでの医療と福祉が統合された施策 体系を通じて実現されてきた到達点を尊重するとともに、日常的に医療的支援を必要とす るこれらの者の地域での生活を支える、手厚い医療的支援体制を備えたショートステイ、 通園、在宅支援の機能を地域に整備することが不可欠。 [2] 難病については、概念整理を並行して進めることが必要であり、今後、当事者の参画し た審議会を設けて検討を進めながら漸進的な制度整備を図ることが重要。  対象者は、難治性慢性疾患のある障害者として可能な限り幅広くとらえるべきである。 そのニーズは疾患の特性に応じ多様だが、医療と福祉のニーズが分離しがたく結びついて いる点は共通している。医療と福祉の有機的連携を確保しつつ、生活支援が講じられるこ とが必要。併せて、地域での生活を支え、家族の負担を軽減するレスパイトケア、ショー トステイを充実させていくことが不可欠。 [3] 精神障害者については、精神科病院から地域への移行を実現するための地域資源の整備、 とりわけ住まいの確保や必要なときに身を寄せる場の確保などの支援が、地域へ出向く医 療の充実と相まって進められることが不可欠。また、精神障害者の入院について人権を尊 重した適正手続の確保と、保護者制度の見直し、家族支援の充実が不可欠。   発達障害者については、専門的力量をもったスタッフの養成確保が著しく不十分である という現状の改善とともに、福祉、教育、保健と真に連携した質の高い医療の確保が不可 欠。 [4] 聴覚障害者等、上記の種別以外の障害者の医療においても、地域生活を支える観点から、 福祉と有機的に連携した医療の提供、専門従事者の養成と確保、当事者間のサポート、医 療内容向上のための研究推進が重要。 ● 障害を理由とする診療拒否や医療従事者による不適切な説明など、深刻な問題となって いる差別的対応の解消が必要。また、日常生活を支えるために不可欠な医療的ケアを家族 以外の第三者である介護者も行えるようにするとともに、家族のいない独居者に対しても 同様に行えるためのさらなる環境整備が必要。 ● 医療に係る経済的負担については、「障害に伴う費用は障害者個人の負担とせず社会全 体で支え、障害と関係なくすべての人が支出する費用は障害者も同等に負担する」という 原則が適用されるべきとの意見があった一方、障害福祉サービスは障害のない者が利用す ることはないのに対して、医療は誰もが一部自己負担を払って利用するという性格がある ことから、自立支援医療についても、当面、応能負担を原則とする制度として運用するこ とが適当とする意見があった。 --------- 「医療(その他の医療一般)」合同作業チーム報告書 I.はじめに  医療・合同作業チームでは、障害者の医療をめぐるさまざまな現状、課題、 解決策等について、まずは、障害者総合福祉法(仮称)に反映されるべきものか どうかを問わず、障害当事者の経験に即した視点から議論した。そのうえで、 本報告では「障害者総合福祉法の論点」に該当する項目と、より幅広くその他 の法令等で対応が図られるべき項目とを整理して章立てし、記述した。 II.結論と理由  障害の種別を問わず、障害者の医療のあるべき姿を考えていくうえで「地域 における障害者の生活を支える医療」という視点が重要である。これを実現す るためには、福祉サービス及び保健サービスとの有機的連携を確保しながら医 療が提供される必要があるが、それが未だ十分になされていない現状を改善す ることが制度改革の大きな目標である。   1 全体に共通する事項  障害の種別を問わず、「地域における障害者の生活を支える医療」という視点 から、総合福祉法(仮称)により実現されるべき重要事項は以下の通り。 (1) 自己決定支援・相談支援 ・ 自己決定する過程において支援されるいわゆる支援付きの自己決定の仕組 みの確立  相談の過程で、障害者本人がさまざまな判断や決定をするが、そのため に必要な情報を得ることが必要。自己決定では、必要な情報を得られ、必 要があればそれらの情報についてわかりやすく説明を受けることができ、 相談に対応する者が、障害者の権利を尊重し、保障しつつ自己決定が図れ るよう研修を受けることを盛り込む。 ・ 相談支援においては、医療と福祉が必要な場合は、そのニーズに合った総合 的な計画が作成され、本人が総合的なケアマネジメントを必要とする場合は サービスとして提供されるべき。 (2)医療と福祉の統合的な支援、生活実態に即した支援等 ・ 地域医療については、包括的なサービス体系とすべき。地域での生活を支え る地域医療サービスと本人の希望を最大限踏まえた福祉サービスの統合し たシステムづくりを目指すべき。 ・ 日常的に医療的支援を必要とする重度身体障害児者、重症心身障害児者、難 病患者(である障害児者)については、特に、医療と福祉の統合された支援 体系が必要。その際、本人・家族の状況や希望、特性に沿って多様なサービ スの選択が可能となる体制が整備され、その中で医療的支援が確保されるこ とが必要。 ・ 難病患者については、「難治性慢性疾患のある障害者」という概念のもとに、 「支える医療」を受けながら障害に対して生活支援サービスを受けるという、 難病患者の特性を踏まえた支援体系が必要。 ・ 小児期から成人に持ち越す難病や、小児期から重度知的障害を伴う重症心身 障害児者の支援においては、児者連続した支援を柔軟に可能とする体系も必 要。 ・ 必要な医療及び医療的ケア(たん吸引、経管栄養等)の行為者の範囲の拡大 がなされたが、これらの医療的な要素を持つ生活支援の提供が制度的に保障 されるべき。 ・ その際に、ヘルパー、介護職員等による医療的ケアについて、不特定多数の 対象者へその実施者が行うと想定している場合(入所施設など)と、個別的 に特定の対象者へ特定のケアを実施者が行うと想定している場合(学校や在 宅での実施など)に大別しながら、柔軟な実施体制が整備されるべき。 ・ 日常的に医療的支援を必要とする重症心身障害児者の地域での生活を支援 していくうえで、地域生活を支えるためのショートステイや通園の機能は重 要であり、とくに超重症準超重症児者など濃厚な医療的支援を要する児者に 対し医療的体制を備えた施設での対応が可能な体系が必要。 ・ 難病患者である障害児者についても、医療的支援が充分に可能な体制での レスパイトケア、ショートステイの体制が必要。 (3)社会参加サービス ・ 通学支援、学習支援(在宅学習含む)などの就学支援に係る福祉サービスの 充実  若年で発症もしくは事故後遺症で障害を負い、思春期に入院・入所が長 期化した人には、就学支援の手だてが必要。  在学中もしくは就職直後に発症し、青年期を入院等の治療で過ごさざる を得なかった人に、再就学を希望する人への支援の手だても必要。(就労に つながりやすくなる。) (4)地域での住まいの確保・居住サポート ・ 民間賃貸住宅の公営住宅としての活用  長期入院を余儀なくされ、そのために住居を失ったり家族と疎遠になるこ とにより住む場がない人が、低廉な住宅に入居できるよう、民間賃貸住宅の 一定割合を公営住宅として借り上げる仕組みが必要。 ・ 住宅扶助等の生活保護費の活用  入院中はホテルコストも含んだ入院費で、高額医療費制度により年金だけ で足りる人も、地域で暮らし始めると生活ではホテルコストと食費などによ り経費がかさみ、生活困難となってしまうケースも少なくない。このため、 生活保護費の要件を緩和することが必要。医療費扶助、住宅扶助等の単独支 給等により不安なく地域移行を進めることができる。 ・ 賃貸物件の公的保証人制度  市町村が社会福祉士、精神保健福祉士等に委託して、制度を確立すべき。 ・ 病棟を住居として転用することの禁止  病床削減し閉鎖した病棟を高齢者や障害者のケアハウスなどの共同住居 として活用することを禁止すべき。 ・ 地域活動支援センターの強化  回復前期や調子を崩した時に気軽に利用できる居場所としての、地域活動 支援センターの機能を強化することが必要。 (5)家族支援 ・ 家族支援ための相談の強化とレスパイトやショートステイ等の充実  家族はもっとも重要な支援者である。しかし、24時間365日良い時も悪 い時も在宅で支えている家族が、よりよい支援者として継続するには、精 神的、物理的な休養が必要不可欠である。 (6) 権利擁護支援サービス等 ・ 居住地の選択権は本人にあることの明文化  どこで誰と生活するかを選択する機会を有することや、特定の居住施設 での生活を義務づけられないこと。また、地域社会における生活や地域社 会への受入れを支援することや、地域社会からの孤立及び隔離を防止する ために必要な在宅サービス、居住サービスなどの地域社会支援サービスを 障害者が利用できるようにすることが必要。一般住民向けの地域社会サー ビス及び施設が、障害者にとって他の者と平等に利用可能であり、かつ、 障害者のニーズに対応していることが必要。 (7)地域生活資源整備のための財政措置 ・ 地域移行のための仕組みである地域移行支援(相談支援、自立訓練等)に財政 措置(ハード整備、人材確保、人材育成)を講じる。 (8)自立支援協議会 ・ 地域移行推進協議会を自立支援協議会の部会として明文化  医療との福祉の融合を図る上で、自立支援協議会の下に地域移行推進協 議会が法律に位置付けられることが必要。これにより、市町村及び都道府 県は地域移行をロードマップに沿って実行できる。 (9)人材確保・育成 ・ 地域生活移行を促進するには、人権擁護の理念を持った支援者の人材が必要 不可欠であり、集中した人材育成が急務である。 ・ 併せて、定員削減、病床削減で余剰となった職員を、入所施設や病院以外の 地域生活支援に振り向けるための人材再教育を時限を区切って義務化し、地 域生活及び訪問支援等の人材として活躍するとともに雇用の確保策とする。 ・ 医療との連携を推し進めるにあたり、生活実態に即した介助サービス等を提 供する支援者に専門的な医療知識の研修を義務化する。 ・ 発達障害者においては、医療リハビリスタッフ教育と同時に、医療以外(教 育、福祉、介護等) の場での専門的支援システム・対応方法の強化充実を図 る。 (10)医療に係る経済的負担 ・ 医療に係る経済的負担については、「障害に伴う費用は障害者個人の負担と せず社会全体で支え、障害と関係なくすべての人が支出する費用は障害者も 同等に負担する」という原則が適用されるべきとの意見があった一方、障害 福祉サービスは障害のない者が利用することはないのに対して、医療は誰も が一部自己負担を払って利用するという性格があることから、自立支援医療 についても、当面、応能負担を原則とする制度として運用することが適当と する意見があった。 ・ 自立支援医療の範囲と運用については、検討に際し、障害種別ごとの特性を 考慮することも必要と考えられた。  たとえば、精神障害者の入院医療については、地域移行へのインセンテ ィブを考慮した費用支払と費用負担の軽減などが必要。  また、難治性慢性疾患のある障害者については、難病対策要綱に基づき 取り組まれてきたことの発展的継承、長期療養を必要とする場合の高額療 養費の軽減なども重要。   全体を通じた今後の課題として、医療費公費負担制度の総合的見直しも 視野におく必要がある。  特に、自立支援医療制度と以下の制度との関係の整理が必要。   ・特定疾患治療研究事業、小児慢性特定疾患治療研究事業   ・高額療養費制度等   ・都道府県で実施されている重度心身障害児者医療費助成制度 (11)診療拒否、不適切な対応、災害時における課題等 [1]診療拒否    ・ 障害を理由とした診療拒否をなくすべき。 ・ 知的障害者や身体障害者等が加齢により受診が必要なとき、救急の対応がで きるところが必要。 ・ 筆談すればわかるのに「今度は聞こえる人と一緒に来てください」と言われ たり、診察室まで補助犬が入ることが認められなかったりすることがないよ うにすることが必要。 [2]不適切な対応(医療者による不適切な説明内容、不適切な態度等) ・ 人工呼吸器をつけることを否定するような説明がなされている。生活を支え ることを基本に説明するべき。 ・ 入院時、障害ゆえに個室が必要な場合、障害者福祉から病院にヘルパーをつ ける、差額室料を本人や病院の負担にしない等、の仕組みが必要。 ・ 医療が必要な人が福祉サービスの利用において、医療が必要ということで拒 否されることがないよう、医療機関との連携を図られるべき。また、対応可 能な専門家の人材育成が必要。 ・ 排泄や入浴などの介助は同性介助を徹底することが必要。 [3]災害時における医療確保の困難等の課題 ・ 災害時において、日常的に医療を必要としている障害者へ医療品や医療機器 に必要な非常用電源が届く仕組み、通院のための移動手段の確保等が必要。 また、医療機関へのバックアップ体制や、サービス利用計画に災害時につい て盛り込むこと等が、検討されるべき。 (12)上記以外の重要論点  総合福祉法におけるサービス内容の検討に当たっては、以下のことも重要な 論点として踏まえる必要がある。 ・ 救急医療(24時間精神科救急を含む) ・ 合併症に対する医療 ・ 歯科医療 ・ 医療に関係する相談(PSWやMSWの役割を含む) ・ 本人・家族へのピアサポート ・ 総合福祉法での認定に関する論点(難病では医療の必要性と切り離せない) ・ 予防(あるいは健康保持)(うつ・自殺等の予防対策) ・ 地域保健の充実 2 総合福祉法(仮称)と重度身体障害者、重症心身障害者  重度身体障害者、重症心身障害者については、これまでの医療と福祉が統合 された施策体系を通じて実現されてきた到達点を尊重するとともに、日常的に 医療的支援を必要とするこれらの者の地域での生活を支える、手厚い医療的支 援体制を備えたショートステイ、通園、在宅支援の機能を地域に整備すること が不可欠。 (具体的内容は、「1 全体に共通する事項」の記述のとおり。また、次の難病 の項における医療的ケアの記述は、重度身体障害者、重症心身障害者にも該当。)     3 総合福祉法(仮称)と難病  難病については、概念整理を並行して進めることが必要であり、今後、当事 者の参画した審議会を設けて検討を進めながら漸進的な制度整備を図ることが 重要。  対象者は、難治性慢性疾患のある障害者として可能な限り幅広くとらえるべ きである。そのニーズは疾患の特性に応じ多様だが、医療と福祉のニーズが分 離しがたく結びついている点は共通している。医療と福祉の有機的連携を確保 しつつ、生活支援が講じられることが必要。併せて、地域での生活を支え、家 族の負担を軽減するレスパイトケア、ショートステイを充実させていくことが 不可欠。 (1)医療的ケア ・ 生活を支えるため不可欠な支援でありながら福祉と医療の接点で制度上の 課題となっている、障害者の受ける「医療的ケア」の概念を次のように整理 した。「医療行為として行われていたが、現在は、その障害者の家族に許可 されている、または、家族が通常行っている、生きていくのに不可欠な行為 であって、その障害者に生理的結果をもたらす行為」。こうした医療的ケア のうち、たんの吸引及び経管栄養については、一定の要件のもとで介護職も 行えるよう制度改正がなされたところである。 ・ 今後、さらに必要な医療的ケアの対象への追加を検討するとともに、これを 家族以外の第三者である介護者も行えるようにし、また、家族のいない独居 者に対しても同様に行えるようにすることが重要。 (2)コミユニケーション支援、外出支援 ・ 難治性慢性疾患のニーズは多様だが、これにこたえられる医療と福祉のサー ビスは未だ乏しい。たとえば、在宅のALS患者が必要なときにかかれる病院 はない。ALS、遺伝性難病、事故後遺症などで超重度のコミュニケーション 障害がある障害者には、コミュニケーション確保のための通訳者などのサー ビスは保障されていない。その解決を図っていくことが必要。 (3)当事者が参画した審議会の設置 ・ 難病については、総合福祉法の対象として難病を取り入れるという方向は、 共通認識になりつつあるが、「難病とは何か」という概念についてさらに整 理が必要。難治性慢性疾患のある障害者へのサービスのあり方は、専門性の 高い領域であり、多義にわたる課題が残されている。漸進的な制度整備を図 ることが必要と考えられ、総合福祉法の制定後にも、当事者の参画を確保し ながら、さらに検討を行っていく審議会が必要。 ・ 審議会で検討すべき項目として、以下のものがある。   ・難病に関する保健所の機能の抜本的拡充   ・難病医療に関わる医師・医療機関の養成と拡充    ・都道府県の難病医療連絡協議会の機能強化(医療相談、入院施設の確保)   ・当事者が参画する難病相談支援センターの拡充、関係機関との連携強化   ・難病の特性に配慮した診療報酬加算の拡充、医師による「相談」等に診    療報酬を   ・長期療養を必要とする難病、難治性慢性疾患への高額療養費の軽減また    は無料化の検討   ・難治性慢性疾患患者の療養と生活に関する継続的調査・研究の推進   ・自立支援医療(更生医療・育成医療)の拡充と継承     ・キャリーオーバー(小児慢性特定疾患が20歳で医療費の公的支援を打ち    切られる問題)の解決(20歳以上も継続して支援を継続する)   ・稀少難病患者会の育成・支援 (4)難病対策要綱に関連する事項 ・難病対策要綱関連で検討すべき項目としては、以下のものがある。   ・難病対策要綱の「支える医療部分」の発展的継承   ・難病対策委員会の福祉的施策の研究促進 4 総合福祉法(仮称)と精神障害者  精神障害者については、精神科病院から地域への移行を実現するための地域 資源の整備、とりわけ住まいの確保や必要なときに身を寄せる場の確保などの 支援が、地域へ出向く医療の充実と相まって進められることが不可欠。また、 精神障害者の入院について人権を尊重した適正手続の確保と、保護者制度の見 直し、家族支援の充実が不可欠。  発達障害者については、専門的力量をもったスタッフの養成確保が著しく不 十分であるという現状の改善とともに、福祉、教育、保健と真に連携した質の 高い医療の確保が不可欠。 (1)サービス体系の在り方について ・ 個別給付による訪問サービスの体系確立  入所施設や病院生活でパターン化された画一的な生活リズムから、変化に 富んだ地域の生活に順応するには、アパートなどの地域の暮らし中で相当の 月日をかけた生活支援が必要となる。ホームヘルプサービスだけでなく、本 人の力を引き出すための訪問による福祉サービスを位置付けることが必要。 (現行の訪問による生活訓練の強化等) ・ 病状悪化時に365日24時間対応型の危機センターの設置(相談支援事業所に 併設が可能か?)  福祉サービスとして24時間訪問型を制度に組み込み、「話を聞いてもら いたい」「不安が強い」といった医療機関を受診する前の一時的な対応を担 い、医療との棲み分けと連携の視点を盛り込むことが必要。 ・ ドロップインセンターとしてのショートスティ・レスパイトの充実(相談支 援事業所に併設が可能か?)  障害者が調子を崩したとき、家族との関係が一時的に悪化したとき等に、 入所・入院を防ぐあるいは再発予防のためのドロップインセンターとして、 必要時にすぐに使えるレスパイトやショートステイが必要。その際、障害程 度区分に依らず使える仕組みとすることが必要。 ・ 自立支援法の地域活動支援センターを強化  回復前期や調子を崩した時に気軽に利用できる居場所機能の充実を図る ことが必要。 ・ 働きたいと望む人への就労支援の強化  障害者の半数以上の人が将来働きたいと希望している。地域生活移行後の 暮らしを豊かにする方法として、就労支援は日中活動の中で重要な位置を占 める。就労を希望する障害者には、施設の中ではなく、企業や働く場での支 援の強化を盛り込むことが必要。 ・ 非自発的入院における行政の責任と自立支援医療の公費負担  非自発的入院については(司法を含む)行政の監視化におき、人権管理 を強化し、入院費用は人権制約の代償として公費負担とすべき。 (2)医療と福祉の統合的な支援、生活実態に即した支援等 ・ 福祉と医療の多職種チームによる訪問支援の充実と連携強化  福祉と医療による24時間訪問サービスの連携が、地域生活を支えていく うえで必要不可欠。 (3)地域移行の支援、並びにその法定化 ・ 地域移行支援の個別給付化  長期入院者で施設の環境からの離脱が著しく困難な者や、入退院を頻繁 に繰り返す者は、集中的な社会トレーニングを必要としており、それぞれ の状況に応じた各個人の地域移行計画を策定し、多角的な支援で地域移行 が順調に進むような支援体制を構築することが必要。  上記の支援体制の構築に当たっては、現行の障害者自立支援法における 自立訓練宿泊型、またはグループホームを活用した医療観察法入院処遇者 の地域移行モデルを発展させた仕組みが有効である。この支援体制は病院 の中で行うのではなく、地域の中で行うべき。 ・ 長期入所・入院者が地域移行する際の福祉サービス個別給付への加算  長期入院者(3ヶ月以上等通常の治療では退院が難しいとされる基準が 必要)の地域移行(退院)支援には、地域に定着するまでの一定期間(状況 に応じて半年〜2年間)通常の福祉サービスに加算を設けることの検討が 必要。  日本においては、多数の障害者が施設や精神病院での暮らしを余儀なく されている現状がある。更に、現に地域社会で暮らしている障害者も、受 け皿となるシステムがないため、その日常生活や社会生活に多くの困難に 囲まれている現状がある。そうした現状を打破し、希望する人すべてが地 域社会での生活を実現するには、諸外国での成功事例を取り入れた地域生 活移行支援システムを構築することが急務。 (4) 発達障害児者の医療 [1]専門性あるスタッフの養成、医療施設の充実 ・ 発達障害がもたらす二次的な行動・症状へは福祉、教育、保健、医療などの 対応が必要であるが、医療の選択肢がおろそかにされてきた。 ・ 発達障害児への対応は児童青年精神科、小児精神科などで対応しているが、 専門性あるスタッフ・施設とも不足しており、発達障害児の増加に追いつい ていない。専門性あるスタッフの養成が必要。 ・ 発達障害者の医療は確立されていないため、必要な発達障害者は行き場が なく、誤診によって二次障害が発生することもあり精神科医療の現場で混 乱をきたしている。早期の支援が必要。 [2]福祉をはじめ他分野と医療の連携強化 ・ 福祉対応と医療対応が時には対立した経過があり、現状でも連携強化が必要。 ・ 知的障害施設では発達障害を伴う場合が大多数であり、行動・症状への医療 的対応が必要であるにもかかわらず放置されている。 ・ 福祉だけで対応困難な場合の外来対応に加え、一時的な入院が必要な際の専 門病床の設定が必要。 ・ 発達障害があっても医療が受けられることの保障が必要。 4 聴覚障害者等、上記の種別以外の障害者の医療について  聴覚障害者等、上記の種別以外の障害者の医療においても、地域生活を支え る観点から、福祉と有機的に連携した医療の提供、専門従事者の養成と確保、 当事者間のサポート、医療内容向上のための研究推進が重要。 (具体的内容は、「1 全体に共通する事項」の記述のとおり。) III.おわりに 1 他チームと連携をはかるべき内容 ・ 医療と福祉の統合的な支援のあり方と、その具体的推進方策として重要な総 合的なケアマネジメントについて、支援(サービス)体系のあり方に関する 検討との連携・調整が必要。 ・ 地域移行の推進について、地域生活の資源整備に関する検討との連携・調整 が必要。 ・ 自立支援医療に伴う利用者負担のあり方について、利用者負担チームでの検 討との調整が必要。 2 今後の検討課題 ・ 日常生活を支えるために不可欠な医療的ケアについて、すでに制度改正がな された、たんの吸引及び経管栄養に加え、さらに必要なものについて、一定 の要件のもとで介護者が行えることとする制度改正について検討が必要。 ・ 難病に関する概念をさらに整理するため、今後、当事者の参画した審議会を 設けて検討を進めながら漸進的な制度整備を図ることが必要。 ・ 精神障害者については、精神医療における拘束、電気ショックなど医療の内 容に踏み込んだ人権確保の観点から適正手続の確保、保護者制度の見直し等 について、精神保健福祉法の抜本的な改正が必要。    精神医療を一般医療体系へ編入するとともに、精神障害者の身体合併症 への医療が円滑に行われるよう、医療法等の医療法制の改正が必要。 付記 本作業チーム報告に対して部会委員から寄せられた主な意見 ○財源の確保の問題は重要な課題である。制度の円滑な運営を図るためには財 源の確保を平行して議論し、制度への位置づけが必要。 ○地域における障害者の生活を支える医療という視点は大切だが、障害児者を 支える専門性を持った医師の困難さや、医師分散による専門性の低下も懸念さ れる。 ○医療的ケアを家族以外の第三者である介護者も行えるようにするためには、 看護職員の診療体系との矛盾が生じないように、報酬を含め、医療的ケアの法 的整備が必要。 ○喀痰吸引と経管栄養を実施する訪問系サービス事業所を対象に加算を設け、 一定の期間後、サービス事業所に「特定の者」に対する医療的ケアの応諾義 務を課すべき。前述以外の医療的ケアについても、障害者が過半数を占める 検討会を設け、加算を設ける方向で検討した上で法的位置づけを検討すべき。 ○精神科医療に特化した法体系は必要。精神医療を医療法へ編入するのか、精 神医療に特化した法体系で行うのかの議論は第1期医療合同作業チームにおいて も重点的になされ、第1期報告書では両論併記として取り扱われた経緯がある。 ○地域での基盤整備が不十分な状況下で既存の精神病棟(病床)を貴重な社会 資源として如何に活用するのかについてはその是非も含め今後十分に検討しな ければならない課題である。第1期報告書では高齢精神障害者、特に認知症に 対して精神科医療が関わることへの否定的意見と肯定的意見が両論併記されて いる。 ○自ら声を上げにくい重症心身児者等の声をしっかり受け止めて検討すること が必要。 ○従来から展開されている障害児者医療の発展が必要。中等度の障害児ほど専 門的介入で社会的自立が可能となる。障害児の発達を促す医療とはば広く捉え るべき。 ○地域の普通学校において医療的ケアの必要な障害者が安心して、学校生活を 送れるよう、体制整備が必要。また、ヘルパーや介護職員等が実施できる医療 的ケアを「吸引、経管栄養等」に限定せず、現に在宅で家族が行っている行為 について全て認めるべき。 ○知的障がい者のことを知ってほしい。救急車を呼ぶときや病院で、まず障が いがある本人と確認してほしい。コミュニケーションボードをつかったり、本 人がわかりやすい言葉で説明し、わかりやすくメモに書いたり表記してほしい 。本人でわからない時は、本人がよく知っている人に話してほしい。 ○難病に関して、福祉・医療政策の枠組み部分と当面緊急に必要な部分の分り 易い記述が必要。 ○家賃の連帯保証としては、公営住宅として都道府県等が借り上げるという形 式によるか、保障会社への保証金保障で十分である。専門家による公的保証人 が障害者の全生活を管理することを恐れる。仮に保証人制度としても家賃の連 帯保証のみそれ以上を行ってはならない。保証人協会を使っても「緊急連絡先」 が求められるので、地域生活支援センターが行うなど現行の居住サポート事業 の発展充実が望まれる。 ○ドロップインセンターとしてのショートステイ・レスパイトの充実に関して、 諸外国で行われている当事者運営による危機センターを試行プロジェクトとして 発足させるべき。そのためには意図的ピアサポート(intentional peer support )などの学習機会を精神障害当事者に保障すべき。 ○医療観察法入院処遇者の地域移行モデルを発展させた仕組みが有効とあるが、 有効性の評価の根拠はなく、問題が多い。心神喪失者等医療観察法は廃止すべ き。 以上 --------- 「障害児支援」合同作業チーム報告書の概要 I はじめに  障害児は、障害のない子どもと等しくすべての権利が保障されなければならない。障害児 にとって必要な支援と合理的配慮は、一般の児童施策(以下、児童一般施策という)におい て保障されなければならならず、障害故の固有の支援は障害児施策として地域社会の身近な 場所で保障されなければならない。また、そのために必要な財源の確保と財政上の措置を講 じるべきである。  障害児支援合同作業チームは、このような基本的な視点に立ち、論点整理を行った。 II 結論とその説明 1.障害児の基本的権利と権利擁護 障害の種類や程度にかかわりなく、一人の子どもとして平等に扱われるべきであるこ とを確認し、最善の利益、意見表明権を明記し、オンブズパーソンを制度化すること。 2.児童一般施策における支援 (1)身近な地域での支援:児童一般施策と障害児施策が重層的に保障されるよう制度設 計されること。 (2)児童一般施策と障害児施策の関係:障害児が、児童一般施策から排除されること のないように、「子ども・子育て会議」(仮称)等に障害児や家族等が参画し、障害 児の視点を盛り込み、制度設計されること。 (3)早期支援 :乳幼児健診を、医療・療育の保障はもとより、地域における子育て支援 や保育所入所など、早期の地域支援につながるよう制度設計されること。    保育所等訪問支援事業の訪問対象に「家庭」を加えること。 (4)「こども園」(仮称)での支援:「こども園」(仮称)は、障害を理由に入園が拒否さ れることのないよう、制度設計され、合理的配慮を保障すること。 (5)放課後児童クラブでの支援:障害児が、放課後児童クラブへの参加を希望する場合 には、障害を理由に拒否せず、かつ必要な支援を講じるよう、制度設計されること。 (6)要保護児童としての障害児:要保護児童である障害児が家族生活に戻れるよう、親・ 家族へのカウンセリングや育児支援等を提供できるよう、制度設計されること。 3.障害児施策 (1)療育:地域社会の身近な場所において専門性の高い療育(障害児に対する発達支援・ 育児支援・相談支援・医療的支援等)を活用できるよう、制度設計されること。 (2)訪問系サービス:障害児が自立するための経験を保障するために、現状では活用し にくいことが多い訪問系サービスを利用しやすくすること。 (3)通所支援:身近な地域で発達支援を受けられるよう、児童発達支援センター等は、 通所支援だけでなく、保育所等への訪問型支援や学齢障害児も対象にした発達支援 を講じること。 (4)障害児入所施設:自立生活に向け「自立支援計画」の策定を義務づけるとともに、 重度障害児の在宅生活が可能となるよう地域資源を整備すること。その際、できる だけ家庭に近い養育環境への移行となるよう検討すること。    入所施設は、地域の社会資源の一つとして、在宅支援など多機能化すること。    入所決定においては市町村が関与できるよう制度設計されること。  特別支援学校の寄宿舎の本来の役割は通学を保障することにあり、自宅のある地 域社会から分離されないよう運用されること。これ以外の役割については、実態を 調査し、地域生活への移行に向けた方策を検討すること。 (5)保護者支援、きょうだい支援:障害児の保護者、きょうだい支援を拡充すること。 4.相談支援と「個別支援計画」等 (1)地域の身近な場所での相談支援体制:相談支援は、障害が特定されない時期から、 身近な地域の通いやすい場所で提供されること。 (2)ケアマネジメント:地域での育ちを支援する方向性で、サービス利用計画の立案、 支援の調整、改善を含めるものとして、制度設計されること。 (3)「個別支援計画」:障害児・家族にとって身近な地域における支援を利用しやすくす るため、総合計画としての「個別支援計画」を制度化すること。  乳幼児期の「個別支援計画」は、保護者・きょうだい等への支援を含む家族ぐる みの支援計画として策定すること。  障害児の意見表明を踏まえた「個別支援計画」とし、個人情報の保護と障害児及び 保護者に対する説明と同意を義務付けること。 (4)要保護児童対策地域協議会と地域自立支援協議会の連携:障害児と家族への支援 を保障するために、要保護児童対策地域協議会と地域自立支援協議会が連携するた め、地域自立支援協議会の構成機関に守秘義務等の根拠となる規定を設けること。 (5)利用者負担:障害を理由に、新たな負担が生じないよう、制度設計すること。 (6)安定的なサービス提供:障害児のニーズを踏まえた多様なメニューを提供するため に、給付額の設定は、月額単価を基本とすること。 5.人材育成:障害児支援の充実のために、必要な職員等を確保し、研修を行うこと。 III おわりに 1.他チームとの調整を図るべき内容:障害児の支給決定の在り方について 2.今後の検討課題:引き続き検討する場が必要である。 以上 --------- 「障害児支援」合同作業チーム報告書 I はじめに  障害児は、障害のない子どもと等しくすべての権利が保障されなければならない。障害 児にとって必要な支援と合理的配慮は、一般の児童施策(以下、児童一般施策という)に おいて保障されなければならならず、障害故の固有の支援は障害児施策として地域社会の 身近な場所で保障されなければならない。また、そのために必要な財源の確保と財政上の 措置を講じるべきである。  障害児支援合同作業チームは、このような基本的な視点に立ち、論点整理を行った。 II 結論とその説明 1.障害児の基本的権利と権利擁護 (1) 基本的権利 障害児は、障害の種類や程度にかかわりなく、一人の子どもとして他の者と平等に 扱われるべきであることを確認し、以下の権利を明記すること。   児童に関する権利条約は、以下の権利を規定しており、それに沿う規定を児童福祉法 に設けるべきである。  [1] 他の子どもとの平等の確保   障害児は、一人の子どもとして他の子どもと等しく、全ての権利を有する。  [2] 子どもの最善の利益 障害児にかかわる事項の判断や決定では、最善の利益が考慮され、他の子どもと同様 に尊厳と成長が保障される。  [3] 子どもの意見表明権 障害児は、障害及び年齢に適した支援を活用し、自己にかかわる事項について自由に 意見を表明する権利をもつ。「意見」には、子どもの意思や感情の動きも含む。 (2) 権利擁護 [1]から[3]の基本的権利を保障するために、オンブズパーソンを制度化すること。   障害の有無や程度にかかわらずすべての子どものための権利擁護の仕組みを市町村に 設けるために、オンブズパーソンを児童福祉法で法定化すべきである。一部の自治体で は条例で設置している例もあるが、これを国連の子どもの権利委員会の勧告 (CRC/C/JPN/CO/3, 2010.6.)を踏まえ、法律上設置するべきである。また、児童相談 所運営指針では、子ども自身の意見を聴取することになっている。意見表明は子どもの 権利であることが意識され、その意向に基づいて支援が講じられるようにオンブズパー ソンを制度化すべきである。 2.児童一般施策における支援 (1)身近な地域での支援 児童一般施策と障害児施策が重層的に保障されるよう制度設計されること。  子どもの頃から地域の中で子どもと共に遊び、学び、育つことは当然の権利として保 障されるべきであり、その施策は、共に暮らし共に働くことにつながる。支援は、生活 の場にできる限り近いところで提供されるべきである。そのためには、児童一般施策に 障害児が位置づけられた上で、必要な障害児施策のサービスが利用できるよう、重層的 に制度設計されなければならない。 (2) 児童一般施策と障害児施策の関係 障害児が、児童一般施策から排除されることのないように、「子ども・子育て会議」 (仮称)や「子ども・子育て新システム事業計画」(仮称)に障害児や家族等が参画 し、障害児の視点を盛り込み、制度設計されること。  児童一般施策と障害児施策の両方があることによって、障害児を児童一般施策から閉 め出すことがなく、また、障害児施策があることによって障害児が児童一般施策を利用 しにくくならないようにするための規定を児童福祉法に設けるべきである。子ども・子 育て新システムにおいて検討されている「子ども・子育て会議(仮称)」や「新システム 事業計画(仮称)」等も、上記の理念の下に検討が進められるよう障害児、家族及び支援 者が参画したうえで定められるべきである。   (3) 早期支援 乳幼児健診を、医療・療育の保障はもとより、地域における子育て支援や保育所入 所など、早期の地域支援につながるよう制度設計されること。  現在障害の早期発見は、母子保健法に基づく新生児・未熟児訪問指導、1歳半、3歳 児健康診査等によってなされている。母子保健法の目的は、乳幼児の保健指導、健康診 査、医療その他の措置を講じることにあるが、保健指導や医療の保障にとどまらず、障 害児が地域の子どもの一人として地域生活を可能とする支援につなぐよう制度設計され なければならない。健康診査等による要支援児に対しては、家庭への訪問・巡回等、家 庭での育児支援を基本的な在り方とし、児童及び保護者の意思に基づいて、医療機関、 入所施設や児童発達支援センター等を活用できるようにすべきである。  母子保健法は、学校保健安全法、児童福祉法等に基づく事業と協調するよう規定され ているが、現状は、障害の発見から療育、特別支援教育へと「特別な支援過程」につな がるだけのことが多い。母子保健法、学校保健安全法と児童福祉法に基づく事業の連携 と調和を、地域の子育て支援から地域の学校への就学につなぐことの出来る制度設計が 必要である。 保育所等訪問支援事業の訪問対象に「家庭」を加えること。  「障がい者制度改革推進本部等における検討を踏まえて、障害保健福祉施策を見直す までの間において障害者等の地域生活を支援するための関係法律の整備に関する法律 (以下、つなぎ法という)」において創設される保育所等訪問支援事業は、障害児施設、 児童発達支援センターから訪問・巡回して専門的技術や情報を提供するため、保育所等 の児童一般施策での障害児支援の向上させることが期待されているが、育児支援を充実 するためには訪問対象を「家庭」まで拡大することが必要である。 (4) 「こども園」(仮称)での支援 「こども園」(仮称)は、障害を理由に入園が拒否されることのないよう、制度設計 されること。  児童福祉法では、保育所の入所要件として、障害を想定した規定はない。今後「子ど も園」(仮称)の創設等制度改革が予定されているが、その際、障害を理由に入園が拒 否されることのないよう制度設計されるべきである。また、必要な支援が確保されるよ う加配等が考慮されなければならない。「定員以上に応募がある場合の選考」について は、国が選考基準を設けることが予定されているが、障害をもつことが不利益になるよ うな選考基準を定めるべきではない。  「こども園」(仮称)が障害児支援の能力を欠く場合で、かつ保護者が希望する場合 には、児童発達支援センター等との並行通園や保育所等訪問支援事業の活用ができるよ う児童福祉法に規定するべきである。 「こども園」(仮称)においては障害児の合理的配慮を保障すること。  障害児が一般の子どもと等しく権利を保障されるために、その子の特性にあった必要 な配慮が保障されなければならない。保育士の加配や、医療的ケアが必要な場合には看 護師を加配もしくは巡回させる等の支援を個別給付として講じるべきである。 (5) 放課後児童クラブでの支援 障害児が、放課後児童クラブへの参加を希望する場合には、障害を理由に拒否せず、 かつ必要な支援を講じるよう、制度設計されること。  放課後児童クラブの参加は、障害の有無や程度によって制限されるべきではない。指 導員の加配や医療的ケアを必要とする子には看護師等の配置をして受け入れるべきであ る。多様な子どもへの支援の提供を可能とするために、保育所等訪問支援事業の訪問対 象に放課後児童クラブを含めるべきである。 (6) 要保護児童としての障害児 虐待等の要保護児童である障害児が家族生活に戻れるよう、親・家族へのカウンセ リングや育児支援等を提供できるよう制度設計されること。家庭復帰が困難な場合 には、専門里親制度やファミリーホームなど家庭に近い環境での養育が保障される こと。  児童養護施設に措置されている子どもの約四分の一が障害児であると言われ、また、 障害児入所施設の中にも養護性の高い子どもが入所している状況がある。児童養護施設 の障害児支援や障害児入所施設の社会養護の在り方について検討すべきである。  子どもは家族の一員として尊重されるべきであり、親・家族に対するカウンセリング や育児指導が入所中に実施できるよう、より多くの心理士等の配置を図るべきである。 しかし、家族による養育が困難で、入所児の家庭復帰が困難な場合には、専門里親やフ ァミリーホームなどの家庭に近い環境で養育されるべきであり、児童発達支援センター や障害児入所施設等による巡回、訪問による支援の仕組みが必要である。 3.障害児施策 (1) 療育 地域社会の身近な場所において専門性の高い療育(障害児に対する発達支援・育児 支援・相談支援・医療的支援等)を活用できるよう、制度設計されること。  すべての子どもが、自立と自己実現を図ることができるよう支援されることは重要で ある。障害児にとっても同様であるべきで、その際に、個々の特性を踏まえた専門的な 支援を身近な地域で得られるようにすべきである。身近な地域で支援が得られない場合 には、児童発達支援センターや障害児施設等が遠隔地域に巡回し相談支援や保育所等訪 問支援事業による支援を提供すべきであり、その規定を児童福祉法に設けるべきである。 (2) 訪問系サービス 障害児が自立するための経験を保障するために、現状では活用しにくいことが多い 訪問系サービスを利用しやすくすること。  障害児の通園や通学は、移動支援事業や行動援護の対象にならないことが多い。また、 支給が決定されても、障害児を対象にサービスを提供する事業者が少ないため、サービ スを利用しにくいという問題がある。結果、障害児の自立的な活動の制限だけでなく、 親の就労などにも支障が生じる。障害児が利用しやすい公的介助制度が必要であり、パ ーソナルアシスタンス制度の創設も含め検討されるべきである。 (3) 通所支援 身近な地域で発達支援を受けられるよう、児童発達支援センター等は、通所支援だ けでなく、保育所等への訪問型支援や学齢障害児も対象にした発達支援を講じるこ と。  [1] 生まれ育つ身近な地域での療育の提供  障害児施設の設置状況は地域格差が大きい上に、障害種別に分かれているため、身近 な地域で適切な支援が受けられない場合が少なくない。加えて、人口過疎地域の障害児 支援を担う児童デイサービス事業の多くは、人材、専門機能の両面で弱体であることが 多い。今後、市町村は責任をもって、身近な地域で療育が受けられる体制を構築しなけ ればならない。  障害児通園施設と児童デイサービスの機能は、つなぎ法により児童発達支援として一 元化される。今後は、障害児通園施設が障害種別に分かれて培ってきた「専門性」を、 他の児童発達支援センターや放課後等デイサービス事業所等に提供して相互のレベルア ップを図り、真の意味の「一元化」を目指すことが必要である。また、地域の保育所等 をバックアップして、地域全体の障害児支援機能を向上させることも必要である。その ために、保育所等訪問支援事業や巡回支援専門員整備事業、都道府県事業である障害児 等療育支援事業の拡充・拡大を図るとともに、その対象を、保育所等だけでなく、他の 児童発達支援センターへも適用することを考慮しなければならない。  [2] 学齢期の障害児に対する支援の継続  これまで障害児通園施設は概ね就学前の障害児を対象にしてきたが、今後は、放課後 等デイサービス事業の受託等により学齢期の障害児も対象にすべきである。また、その 提供には送迎サービスを含むべきであり、この場合には送迎加算を考慮すべきである。 また、重症心身障害児の受け入れに対しては看護師の加配や医療連携加算なども検討さ れる必要がある。  [3] 多職種職員の配置による発達支援機能の向上と多機能化  児童発達支援センターは、すべての障害児を対象にするため、その職員配置基準も統 一する必要がある。職員配置については、保育士および児童指導員を基本とした配置基 準を設定し、重症心身障害児の積極的な受け入れのために看護師の配置、多様な障害に 対応するために療法士等の専門職の配置を、「専門職加算」等によって図る必要がある。  医師を配置し医療機関を有する児童発達支援センターを「医療型」と位置付け、超重 症児等の濃厚な医療的支援を基盤とした通園および在宅支援、てんかんや発達障害児へ の投薬なども含む障害児医療機能の地域拠点として発展させるべきである。   (4) 障害児入所施設 入所施設に障害児の自立生活に向けた「自立支援計画」の策定を義務づけるととも に、入所から地域生活の移行では、重度障害児の在宅生活が可能となるよう地域資 源を整備すること。その際、できるだけ家庭に近い養育環境への移行となるよう検 討すること。  [1]障害児入所と障害児の最善の利益  障害者自立支援法によって、入所施設は措置から契約が原則となった。障害児は契約 当事者が保護者であり、保護者の必要性から入所が判断される場合が多く、必ずしも障 害児にとって最善の利益となっていない恐れがある。障害児施設の入所にあたり、子ど も自身の意見表明をふまえ、子どもの視点から最善の利益を保障できる権利擁護の仕組 みが必要であり、オンブズパーソンが制度化されるべきである。  [2]「自立支援計画」の策定の義務付け  児童養護施設等に義務付けられている自立支援計画は、障害児入所施設には義務付け られていない。障害児入所施設には、児童相談所等との協議にもとづき将来の自立生活 に向けた「自立支援計画」の策定を義務化するべきである。その施策の根拠となる規定 を児童福祉法、児童福祉施設最低基準に設け、運営ガイドラインも整備すべきである。  [3]家庭に近い養育施設の整備と地域生活支援  自立支援計画を立案しても、親・家族の養育能力に問題があり家庭に戻れない場合に は、できるだけ家庭に近い環境での養育が可能になるべきである。そのために、専門里 親制度の拡充や障害児を対象とするファミリーホームの創設が望まれる。同時に、障害 児入所施設の小規模化、ユニット化を促進するために加算措置が検討されるべきである。  継続した医療等の支援が必要な重症心身障害児の地域移行にあたっては、命と生活の 質が保障される実証的な地域支援の仕組みについて検討するモデル事業を行い、保護 者・家族の不安や負担を十分に受け止め、合意を得ながら進めていくことが必要である。  [4]家族支援  NICUから在宅生活への移行準備、障害が発見された直後の親に対するカウンセリング、 障害児の育児指導等において医療型障害児入所施設を利用した母子入園の取組は有効で あるため、拡充されるべきである。また、在宅支援のために、すべての障害児入所施設 に相当数のショートステイ枠を設けるべきである。 入所施設は、地域の社会資源の一つとして、在宅支援など多機能化すること。   入所施設は、療育における専門的な社会資源として、相談支援事業所、医療・保健機 関、教育機関、通園施設等との地域ネットワークをつくり、ネットワークを生かした重 層的支援の要となるべきである。また、保育所等訪問支援事業により、保育所を含む地 域の機関や家庭などに対する訪問・巡回型支援を行い、在宅生活の障害児やその家族へ の支援も広く行うべきである。  また、医療療育関係者の育成、研修生の受け入れ、講習会開催、ボランテイアの育成 等にも積極的に、取組むべきである。 入所決定においては市町村が関与できるよう制度設計されること。   つなぎ法においては、入所権限は都道府県のままであるが、入所後も障害児が地域の 子どもとして意識され、家庭や地域に戻り地域の子どもとしての育ちを保障されるため に、市町村の関与は不可欠である。地域間格差が拡大しないよう配慮しつつ、市町村が 関与できるよう制度設計されなければならない。 特別支援学校の寄宿舎の本来の役割は通学を保障することにあり、自宅のある地域 社会から分離されないよう運用されること。これ以外の役割については、実態を調 査し、地域生活への移行に向けた方策を検討すること。   寄宿舎は本来広域学区である特別支援学校への通学保障のために設置されたものであ るため、学校が休みとなる土・日曜日や夏季休暇中は家庭に戻り、地域生活を維持しう るよう配慮されなければならない。特に、6歳から入舎となる小学部の寄宿舎について は家庭生活からの早期分離とならないよう、また、規模が拡大する傾向がある高等部寄 宿舎については可能な限り小規模化するよう、実態を調査したうえで検討するべきであ る。通学保障以外の役割については、卒業後の進路生活相談や訪問系サービスの活用等 を通じ、地域生活への移行に向けた社会資源としての有用性を検討すべきである。 (5) 保護者支援、きょうだい支援 障害児の保護者、きょうだい支援を拡充すること。  障害児が家族の一員として尊重され、障害ゆえに不利益な扱いが生じないように、育 児支援に加え、家族への支援は不可欠である。  例えば、障害児の家族にもレスパイトケアが必要とされているが、利用時間や回数に 制限があるだけでなく、医療的ケアが必要な障害児には対応できないという理由で利用 できない実態があるため、対応できる事業所の拡充も必要である。また、訪問系サービ スをレスパイトケアの目的で利用できるよう弾力的対応ができるようにすべきである。  きょうだいに対しては、きょうだいが孤立しない配慮が必要であり、きょうだいによ るグループ活動や団体活動への支援が施策として講じられるようにすべきである。 4.相談支援と「個別支援計画」等 (1) 地域の身近な場所での相談支援体制 相談支援は、障害が特定されない時期から、身近な地域の通いやすい場所で提供さ れること。  相談支援は、地域の身近な場所においてワンストップ型で提供されなければならない。 そのために、相談支援事業者でのサービス利用の手続の簡素化が必要である。例えば、 相談支援事業所で作成されるサービス利用計画については、計画作成をもって障害児施 策以外の児童一般施策、並びに子ども園(仮称)への代理申請を可能とするなど、障害 児及び保護者が相談のために奔走しなくてすむ仕組み作りが必要である。また、児童家 庭支援センターを児童発達支援センターや障害児入所施設に付置できるようにしたり、 児童家庭支援センターが障害児相談支援事業等を実施できるよう、取り組まれるべきで ある。  地域子育て支援拠点事業には、障害児子育てについて相談対応できる者がいない場合 が多いため、障害児支援ができる職員を配置したり、障害児施設等から専門的支援が受 けられる仕組みが必要であり、障害が特定されない早期の段階から相談できるようにす べきである。また、障害児相談支援事業所との連携や相互補完のシステムが必要である。 (2) ケアマネジメント ケアマネジメントは、障害児の基本的権利の擁護を基本に、地域での育ちを支援す る方向性をもって実施されるべきであり、サービス利用計画の立案、支援の調整、 改善を含めるものとして、制度設計されること。  障害児に対するケアマネジメントは、障害児の基本的権利の擁護を前提に、「地域で の育ち」と「育児支援」を目的として実施されるべきであり、子どもと家族の主体性に 配慮したアセスメントに基づき、子ども支援、家族支援、地域連携の理念のもとに、障 害児支援にかかる諸機関の協力の下で実施されなければならない。また、「個別支援計 画」は、6カ月程度の適切な期間で見直され、支援の調整、改善が行われるべきである。 また、個別の支援計画は、福祉、教育、医療等、利用するサービスを一つの計画として 策定すべきであり、そのためのケアマネジメントが行われるように児童福祉法に規定を 設けるべきである。 (3) 「個別支援計画」 障害児・家族にとって身近な地域における支援を利用しやすくするため、総合計画 としての「個別支援計画」を制度化すること。   適切なケアマネジメントにもとづいて、「個別支援計画」は総合計画として策定される べきである。支援は、障害児とその家族の生活の場で、継続的かつ自然な形で提供され なければならない。サービス提供の継続性を担保するために、サポートブック等の利用 も進められる必要がある。また、制度理解やサービス利用のためには、保護者の求めが あれば、ピアサポーターからの適切なアドバイスを得られるように、児童福祉法、自立 支援法に規定を設けるべきである。 乳幼児期の「個別支援計画」は、保護者・きょうだい等への支援を含む家族ぐるみ の支援計画として策定すること。   乳幼児期の「個別支援計画」は、保護者、きょうだいを含めた家族全体の支援を含む ものとして策定し、サービス利用が円滑に提供されるよう、児童福祉法、自立支援法に 規定を設けるべきである。 障害児の意見表明を踏まえた「個別支援計画」とすること。   「個別支援計画」作成においては、障害児の最善の利益が考慮されなければならず、 そのために、障害児の意見表明が担保されるような仕組みが構築されるべきである。 「個別支援計画」に、障害児自身の意見を記入する欄を設け、保護者等の意向とは別に そのニーズが検討できるようにすべきである。その際、障害児の年齢や障害程度に影響 されることなく、表情などを含めた意思表明を支援できる技術の開発やオンブズパーソ ンの仕組みについて、児童福祉法及び障害者自立支援法に規定を設けるべきである。 策定において、個人情報の保護と障害児及び保護者に対する説明と同意を義務付け ること。  相談支援やその後のサービス利用で円滑な情報共有を図るために、サービス利用計画 の作成に加えて、サポートファイル等を活用している自治体の例がみられる。サポート ファイル等の活用にあたって、障害児の親が障害児の個人情報を管理できるよう、保護 者の合意と承諾を前提とした情報共有の方策が、児童福祉法、自立支援法に規定を設け られるべきである。   (4) 要保護児童対策地域協議会と地域自立支援協議会の連携 障害児とその家族への早期支援を保障するために、要保護児童対策地域協議会と地 域自立支援協議会が連携できるよう、地域自立支援協議会の構成機関に守秘義務等 の根拠となる規定を設けること。  乳児家庭全戸訪問事業等で検討が必要なケースは要保護児童対策地域協議会で対応さ れるが、地域自立支援協議会での検討と重なる子どもについては、保護者の同意の下に 合同で協議会を持つ等、一元化するべきである。また、要保護児童対策地域協議会の構 成員として、障害児福祉関係者(障害児相談支援事業所や児童発達支援事業所等)が加 わることも考慮する必要がある。   つなぎ法によって地域自立支援協議会が法定化されるが、同協議会の中に子ども部会  の設置を義務付け、児童一般施策との合同の協議会を持ちやすくするべきである。また、 児童相談所と地域自立支援協議会の子ども部会、要保護児童対策地域協議会とが連携し て、施設入所している障害児が夏休み等に帰省した際にも地域の子ども施策の支援を受 けやすくすべきであり、その施策の根拠となる規定を児童福祉法に設けるべきである。  この連携が、個人情報保護の下に進められるように、各協議会の委員への罰則付きの 守秘義務の規定を児童福祉法及び障害者自立支援法に規定を設けるべきである。 (5) 利用者負担 障害を理由に、新たな負担が生じないよう、制度設計すること。   児童一般施策のサービス利用は、障害の有無にかかわらず「養護しているものの資力 を考慮して可能な限り無償」であるべきだが、並行通園等の障害にもとづき必要となる サービス利用は、利用者負担が新たに生じないようにするべきである。 (6) 安定的なサービス提供 障害児のニーズを踏まえた多様なメニューを提供するために、給付額の設定は、月 額単価を基本とすること。  現在、障害児入所施設は日額単価制となっているが、児童養護施設など社会的養護 施設は月額単価制とされている。子どもは体調不良等で欠席することも多く、このこ とが施設経営に影響を与えている。また、施設入所児童の地域移行を進めていくため には、試験外泊なども進めていくことが必要である。このため、これらの施設の単価 は、サービス利用計画に基づく利用予定日数をベースに設定される月額制の導入を検 討し、経営の安定化を図りつつ地域移行や療育が進められていくようにすることが必 要である。  福祉サービスの利用料の利用料滞納によって、サービス提供に支障が生じることの ないよう、子どもの最善の利益を侵害する場合の対応については、行政の関与を検討 することが必要である。さらに、保育士等の従事専門職の待遇向上や配置基準の改善 等、確保策の検討も必要である。 5.人材育成 障害児支援の充実のために、必要な職員等を確保し、研修を行うこと。  児童一般施策、及び障害児施策において、障害児支援を充実させるために、職員の資 質向上を図ることが必要である。新設される障害児相談支援事業を強化するために、障 害児のための相談支援専門員の養成のシステム化や障害児施設における多様な専門職の 確保と配置基準の見直しが必要である。  また、保育士資格や養成制度の見直し、こども園における保育教諭(仮称)の創設に 当たり、障害児に対する理解や療育に関する資質の確保を図ることが必要とされている。 III おわりに 1.他チームとの調整を図るべき内容 ・支給決定で用いられるべき客観的スケールの在り方と障害児の入所で用いられる障害程 度区分の在り方について(障害支援区分の導入も含めて)、その必要性も含めて整理が 必要である。 2.今後の検討課題 ・障害児支援については、今後も継続して検討する場を設定することが必要である。  :(教育、児童一般の関係者、親、障害当事者なども含めた議論が必要である。) 本作業チーム報告に対して部会委員から寄せられた主な意見 1.放課後等デイサービス事業について 放課後等デイサービスの創設は、貧しい条件下、全国で奮闘してきた団体の粘り強い運 動が勝ち得た成果である。障害児が、遊びや文化・スポーツを通して楽しみながら、ま た友達集団の中で折り合いをつけたり、自己肯定感を育てたりしながら、子どもが主体 的に力を獲得していくような実践が、放課後においては重視されるべきである。そのた めに、児童デイサービスI型なみの単価とするべきである。 学校や放課後児童クラブ等の地域の事業所の機能を向上させるために、「保育所等訪問 支援事業」等の利用によって、障害のある子どもの育ちや活動をバックアップできるよ うにすべきである。 2.訪問系サービスについて  障害のある子どもの支援については、適切にできる人材がいないため、特に行動障害 をもつ子どもなど、ニーズがより高いケースほど、引き受けられる事業がないという実 態である。人材育成のための施策が急務であり、早急な対策が求められている。 3.療育について 全体として身近な地域での支援が強調されすぎていて、障害児の専門性の後退、分散が 懸念される。障害児固有施策の検討が少ない。 4.属人的評価、支援のための仕組み区分について  年齢別の介護支援、療育支援などの区分も一考すべきである。 5.子ども・子育て新システムについて 利潤を株主に配当できるシステムで、保育や福祉分野の質が保てるのか、「手のかかる 障害の重い子どもへの対応を期待できるのか」、ということを批判しないで、障害児を 対象に入れるべきではない。 6.相談支援について 地域で自立生活を営んでいる成人の重度障害者を、ロールモデルとして紹介することが 重要である。例えば、障害者団体などによる相談支援やエンパワメント支援を受けて、 市町村から適切なサービスの支給決定を受けて、地域生活を営んでいる若い成人の最重 度障害者の話を聴く機会などを積極的に設けるべきである。障害児世帯には情報提供は 最も重要な課題である。 障害が特定されない段階から、地域の身近な場所で相談支援を利用できるようにするべ きである。特に、発達障害については相談支援、家族支援の役割は大きい。 7.人工内耳については保護者が決定することになるが、慎重に議論すべきである。 8.おもちゃ図書館の利用実態はどうなっているのか。利用しやすくすべし。 9.実施主体について市町村が強調されすぎると都道府県が関与しにくくならないか。 財源の確保と併行して議論すべきではないか。 以上