総合福祉部会 第15回 H23.6.23 資料4−2 「利用者負担」部会作業チーム報告書 はじめに−検討の範囲と検討視点  利用者負担チームでは、障害者総合福祉法(仮称)における利用者負担のあり方を検討し た。その際、検討の前提として、障害者自立支援法(以下、自立支援法)における応益負担と その負担軽減策の評価、また実費負担の現状とその軽減策の検討をおこなった。  そのうえで、障害者総合福祉法(仮称)における利用者負担の基本的な考え方の結論を 得た。 結論とその説明 1.応益負担の問題点 (1)結論  福祉や医療、コミュニケーション、雇用等の支援は、障害のある人が人として生きるうえでの 必要最低限の保障である。自立支援法は、それを一般的な消費行為としてのサービスと同列 に扱い利益としたことに問題があった。そのため、たとえ1割であっても、その負担を本人なら びに配偶者を含む他の家族に課すべきではない。 (2)説明  同年代の他の者(以下、障害のない人)は、食事・排泄・移動・コミュニケーションなど人とし て生きるための基礎的な生活行為を自らの意思でおこなえるが、身体もしくは精神面での機 能の障害のある人たちは、そうした生活行為が困難になる。しかもその障害と困難は、自ら望 んで負ったわけではない。にもかかわらず、障害のない人と同等に生きるために必要な基礎的 な生活行為の支援を利益とし、障害のある人に負担を課すことは、障害のない人との間に新 たな格差と差別を生むことになる。そのため、障害によって生じる社会生活上の困難を軽減す る支援は、社会が責任を担うべきである。  また厚労省の作成した資料によると、障害福祉サービス利用者のうち、非課税世帯と生活 保護世帯が86.3%を占めており、ほぼ9割に近い障害のある人たちは、低い所得水準にある ことが判明した。自立支援法の実施直後に生じた利用者の負担の増大や利用控えなどの問 題の要因は、応益負担とともに所得水準の実態把握が不十分であったことにあるといえる(厚 労省作成「障害福祉サービスの利用者数、構成比」における2008年7月時点の人数)。  なお「ある程度の負担があった方が、遠慮せずに支援を求めやすい」という意見もあるが、そ れはそもそも支援に対する報酬(公費)が抑えられたことが背景にあり、必要十分な支給量や 報酬が得られれば、「支援をお願いしている」という遠慮は解消される。 2.負担軽減策の効果と問題点 (1)結論  自立支援法は、所得の低い人(世帯)に対する負担軽減策として、法の実施時に介護保険 と同様の所得階層別の月額負担上限を設けたが、そもそも多くの障害のある人の所得水準 が低いため、まったく軽減策としての効果がなかった。その後政府は、法実施の翌年の2007 年度に特別対策を実施し、2008年度に緊急措置を実施し、2009年度には緊急措置を見直し た。毎年度、制度が見直されるという前例のない事態が続いた要因は、厚労省が制度による 影響や実態を十分把握することなく、応益負担の根本的欠陥にメスを入れずに部分的な修復 にとどめたからであった。 (2)説明  厚労省の作成した資料によると、自立支援法実施の2006年度の段階では、在宅者のうち 52.2%の人が課税世帯とされ、生じた応益負担の全額の負担を課せられた。この改善を目的 に実施された特別対策及び緊急措置による負担軽減者(負担を減らす方策)の状況を明らか にするために、厚労省に資料を請求したところ、それら負担軽減策の対象者数を抽出すること はできないとのことだった。また過去においても把握した経過はないとの回答だった。つまり厚 労省は、特別対策も緊急措置のいずれも、実態把握や効果予測をたてないまま実施してきた ということである。  そのため利用者負担作業チームでは、東京都内区市町村の実態をもとに、負担軽減策の 問題点を検討した。自立支援法の実施段階では、約60%以上の人が課税世帯とされ生じた 応益負担の全額の負担を強いられた人は少なくなかった。その要因は、収入認定の対象に 同居世帯の収入・資産が含まれたためであった。また特別対策では、課税世帯で負担上限 額37,200円の世帯が38%残っていたが、緊急措置によって15%になり、資産要件調査を撤 廃した緊急措置の見直しによって8.5%まで減少した。それに対して、非課税世帯の負担軽減 策対象者は、特別対策で19.1%、緊急措置で49.1%、緊急措置の見直しで56.6%と増加し た。このように負担軽減策の効果は、収入認定ならびに資産要件の基準の見直し(同居家族 の除外)によってその対象が増えた。一方、グループホーム・ケアホーム入居者は、個別減免 が優先され、負担軽減策の対象外とされたため、在宅者との間で負担の格差が生じた。  2010年4月から自立支援給付については、非課税世帯の負担上限額はゼロ円となったた め、非課税世帯の負担は大幅に軽減された。しかし課税世帯でも、月額上限37,200円の負 担能力を有する人ばかりではなく、また自立支援医療や補装具には適用されなかったため、 応益負担の問題は改善されなかった。さらに、地域生活支援事業には非課税世帯でありなが ら、利用料負担が課せられている現状が残されたため、今も自立支援給付と地域生活支援 事業において、負担の相当な格差が生じている。 ●厚労省「障害者自立支援法の実施状況について」より(2006年10月23日) (所得階層「課税世帯」) 月額負担上限 37,200円 在宅(厚労省調査(101市町村)2006年6月)  52.2% グループホーム(厚労省調査(101市町村)2006年6月)  7.7% (所得階層「低所得2」) 月額負担上限 24,600円 在宅 22.0% グループホーム 42.1% (所得階層「低所得1」) 月額負担上限 15,000円 在宅 12.3% グループホーム 30.6% (所得階層「生活保護」) 月額負担上限 0円 在宅 13.5% グループホーム 19.6% ●厚労省作成「障害福祉サービスの利用者数、構成比」より(障害児を除く) (所得階層「課税世帯」) 1「特別対策」  負担上限 37,200円  2007年11月人数 39,796人(8.9%) 2「緊急措置」  負担上限 37,200円  2008年7月人数 13,616人(2.0%) 3「緊急措置」見直し  2009年7月人数10,276人(2.0%) (所得階層「低所得1」) 1「特別対策」  負担上限 9,300円  2007年11月人数 97,569人(21.8%) 2「緊急措置」  負担上限 9,300円、4,600円  2008年7月人数 51,586人(10.9%) 3「緊急措置」見直し  2009年7月人数 59,315人(11.5%) (所得階層「低所得2」) 1「特別対策」  負担上限 24,600円、6,150円、3,750円  2007年11月人数(「低所得1」を含む。) 266,761人(59.5%)※ 2「緊急措置」  負担上限 24,600円、3,000円、1,500円  2008年7月人数(「低所得1」を含む。) 361,780人(76.2%)※ 3「緊急措置」見直し  2009年7月人数(「低所得1」を含む。) 393,458人(75.9%)※ (所得階層「低所得2」) 1「特別対策」  負担上限 15,000円、3,750円 2「緊急措置」  負担上限 15,000円、1,500円 (所得階層「生活保護」) 1「特別対策」   負担上限 0円  2007年11月人数 43,765人(9.8%) 2「緊急措置」  負担上限 0円  2008年7月人数 47,905人(10.1%) 3「緊急措置」見直し  2009年7月人数 54,839人(10.6%) (合   計) 1「特別対策」  2007年11月人数 447,891人(100%) 2「緊急措置」  2008年7月人数 474,887人(100%) 3「緊急措置」見直し  2009年7月人数 517,888人(100%) ※ 低所得者の実数は把握していたが、負担上限額ごとの実数は未把握だった。 ●東京都区市町村における所得階層別負担上限額の状況 (所得階層「課税世帯」) 1  (1)「特別対策」   負担上限 37,200円   2008年4月人数 9,578人(38%)  (2)「緊急対策」   負担上限 37,200円   2008年7月人数 3,793人(15.1%)   2009年4月人数 4,143人(12.8%)  (3)「緊急措置」見直し   2009年7月人数 2,813人 2   (1)「特別対策」   負担上限 9,300円   2008年4月人数 4,923人(19.5%)  (2)「緊急対策」   [1]    負担上限 9,300円    2008年7月人数 748人(10.5%ただし、[2]を含む。)    2009年4月人数 1,017人(10.8%ただし、[2]を含む。)   [2]    負担上限 4,600円    2008年7月人数 1,896人    2009年4月人数 2,518人  (3)「負担上限」   [1]    2009年7月人数 1,498人(25.3%ただし、[2]を含む。)   [2]    2009年7月人数 3,586人     (所得階層「低所得2」) 1  (1)「特別対策」   負担上限 24,600円   2008年4月人数 1,582人(6.3%)  (2)「緊急措置」    負担上限 24,600円   2008年7月人数 1,927人(7.7%)   2009年4月人数 2,570人(7.9%)  (3)「緊急措置」見直し   2009年7月人数 739人(2.2%) 2  (1)「特別対策」   [1]負担上限 6,150円     2008年4月人数 1,962人(14.4%ただし、[2]を含む。)   [2]負担上限 3,750円     2008年4月人数 1,654人 (2)「緊急措置」   [1]負担上限 3,000円     2008年7月人数 3,775人(35.5%ただし、[2]を含む。) 2009年4月人数 4,414人(34.9%ただし、[2]を含む。)   [2]負担上限     負担上限 1,500円 2008年7月人数 5,176人 2009年4月人数 6,922人 (3)「緊急措置」見直し     2009年7月人数 5,513人 (40.9%)     2009年7月人数 8,059人 (所得階層「低所得1」) 1   (1)「特別対策」    負担上限 15,000円 2008年4月人数 487人(1.9%) (2)「緊急措置」 負担上限 15,000円    2008年7月人数 475人(1.9%) 2009年4月人数 903人(2.8%) (3)「緊急措置」見直し    2009年7月人数 280人(0.8%) 2  (1)「特別対策」   負担上限 3,750円   2008年4月人数 1,197人(4.7%)  (2)「緊急措置」   負担上限 1,500円   2008年7月人数 3,415人(13.6%)   2009年4月人数 4,661人(14.4%)  (3)「緊急措置」見直し   2009年7月人数 5,231人(15.7%) (所得階層「生保」)  (1)「特別対策」   負担上限 0円   2008年4月人数 3,825人(15.2%)  (2)「緊急措置」   負担上限 0円   2008年7月人数 3,961人(15.7%)   2009年4月人数 5,318人(16.4%)  (3)「緊急措置」見直し   2009年7月人数 5,514人(16.6%) (合   計)  (1)「特別対策」   2008年4月人数 25,208人(100%)  (2)「緊急措置」   2008年7月人数 25,166人(100%)   2009年4月人数 32,466人(100%)  (3)「緊急措置」見直し   2009年7月人数 33,233人(100%) 3.食費、高熱水費、送迎利用料等の実費負担のあり方と問題点 (1)結論  障害がある人の健康で文化的な生活を保障する支援は、障害のない人と同等の立場・権 利を保障するという観点から、無料とすべきだが、食材費や高熱水費など誰もが支払う費用 は負担をすべきである。ただし、それを負担するために十分な所得保障が必要となる。また、 実費負担を課す場合、それが適切な負担であるか否かを制度的に規制することが求められ る。 (2)説明  まず自立支援法実施当時、給食の食材費だけでなく人件費を含めて大幅な削減が実施さ れたため、通所施設等では多額の利用者負担が生じた。食材費は、障害のない人と同等の 立場・権利の保障という観点から利用者負担とすることは妥当と考えるが、前述したように、そ れに相当する所得保障が求められる。また、とくに障害が重く、咀嚼・嚥下能力等が著しく困 難である場合、再調理に必要な人件費や特別な原料(とろみ剤など)を必要とする場合がある が、これは、障害に伴う必要な支援として、利用者負担とせず公的に支援すべきである。  実費負担では、欠席した場合のキャンセル料が問題となった。給食費のキャンセル料を課し ている事業所は多くあり、しかも食材費だけでなく人件費も含めたキャンセル料を徴収している 事業者が存在した。またインスタントラーメンのお湯代を徴収している事業者もあった。こうした 負担のあり方について、適切な基準を設ける必要がある。さらに送迎利用料の徴収について は、合理的配慮の考え方から送迎は障害に伴う支援であり、利用料を徴収すべきではなく、 むしろ公的に支援すべきである。送迎利用料のキャンセル料を徴収している事業者がいるが、 これは論外である。  グループホーム、ケアホームの食費・光熱水費の利用者負担は必要となると思われるが、 家賃負担に加え、応益負担が生じてしまうことで、一般就労者や失業直後の人などで入居が 必要な人が利用しにくい問題が生じた。グループホーム・ケアホーム等の応益負担もあっては ならないが、実費負担の軽減策や本人に対する所得保障の充実が必要である。  なおガイドヘルパー利用の際、ヘルパーの入場料や交通費などの経費を利用者本人が負 担しているが、これについても障害に伴う必要な支援として公的に保障されるべきである。 4.自立支援法ならびに応益負担廃止後の負担のあり方 (1)結論  障害に伴う必要な支援は無料とすべきである。その際、障害に伴う必要な支援とは、主に 以下の6つの分野に整理することができる。  [1]相談や制度利用のための支援  [2]コミュニケーションのための支援  [3]日常生活を送るための支援や補装具の支給  [4]社会生活・活動を送るための支援(アクセス・移動支援を含む)  [5]労働・雇用の支援  [6]医療・リハビリテーションの支援 (2)説明  障害は自ら望んで負ったわけではなく、障害に伴って生じる困難を軽減する支援は、社会 が責任を担うべきである。また障害のない人と同等の立場・権利を保障する観点からも、「障 害があるために負担が生じる」ということはあってはならない。こうした考え方から、前述の障害 に伴う必要な支援について、具体的に説明する。  [1]の相談や制度利用のための支援には、自らの希望と最適な選択を尊重するために障害 に配慮した相談支援は、公的な支援とし無料とすべきである。  [2]のコミュニケーションには手話、点字、指点字等が含まれることは、もちろんだが、自閉症 等の人の良好なコミュニケーションに必要なイヤーマフや会話補助用機器 (パソコンや携帯電 話などの電子機器を利用したコミュニケーション機器)なども、日常生活用具に含め、無料とす べきである。  [3]の日常生活を送るための支援では、食事の再調理のためのとろみ剤や栄養ゼリー、特殊 ミキサー等加工設備、再調理の人件費、特別な食器・器具など、また紙おむつ・尿パットなど の排泄介助に必要な消耗品等は、日常生活用具に含め、無料とすべきである。また、身体機 能の障害を軽減するための義肢・補装具や、障害に配慮した住宅改修工事等についても公 的な支援とし、無料とすべきである。  [4]社会生活・活動を送るための支援では、とくに移動支援に係る支援者の交通費・入場料 等を公的に支援すべきである。  [5]労働・雇用に就くために必要な合理的配慮としての環境整備や人的支援、また障害に 伴う必要な移動支援は無料とすべきである。  [6]医療・リハビリテーションの支援では、障害認定・年金申請のための診断書作成や、障害 の軽減・改善のための必要な専門医療・リハビリテーションは、一般医療制度のもとで充実と 地域化を図るとともに無料とすべきである。 おわりに  利用者負担のあり方を考えるうえでもっとも大切な視点は、障害者権利条約で定義された、 障害のない「他の者との対等・平等の保障」や「誰とどこで暮らすかは自らが決定する」などの 考え方が大切になる。こうした考え方にもとづいて、障害のない人との対等・平等を保障するた めには、障害のある人の日常生活や社会生活に対する支援は公的支援とし、利用料は無料 とすべきである。  その際、支援の内容や量の適切さをどのように確保するのかが課題となるが、それは相談 支援事業の大幅な拡充によって解決できる。障害のある人の自己決定と最適な選択を支援 する相談支援を確立することによって、支援の過不足や不必要な支援の発生を防ぐことがで きる。