総合福祉部会 第15回 H23.6.23 資料3−2 「地域生活の資源整備」部会作業チーム報告書 I.はじめに  当チームが担当した論点においては、“地域生活の基盤とは何か”、また、“そ の範囲などをどのように考えるか”といったことを根底にした協議検討が求め られることから、はじめにチーム内で話合い、共通理解したなかで、第1期部 会作業チームの訪問系チーム及び地域生活支援事業の見直しと自治体の役割チ ームの報告書を前提に検討を行った。  第1回目の検討では、地域生活の基盤整備(主にサービス内容)として、「長 時間介助等の保証」(F−3)やコミュニケーション・移動支援における制度の 利用のしづらさや市町村格差、地域活動支援センターの事業内容等に関する現 状と課題、あるべき姿を論点として協議した。  また、第2回目は、財源調整、国と地方の役割、ナショナルミニマム(国の 果たすべき最低限の保障水準)として、「義務的経費化と国庫負担基準」(F− 4)や「国と地方の役割」(F−5)のほか、障害者自立支援法における地域生 活移行や地域生活支援のための方策や、自立支援協議会の仕組み、地域活動支 援センター(小規模作業所)のあり方等について協議した。  そして、第3回目では、地域生活の資源整備や自治体の役割の論点と特に関 係が深いモニタリングや権利擁護(D−6−2、D―6−3、I−3−3、I −3−4)を検討の論点に加えるとともに、これまでの検討をまとめ、当チー ムの見解として報告することとした。 II.結 論 1.市町村や圏域単位での「満たされないニーズ」の把握や社会資源の創出方法 について (F−3−1) 結論  社会資源の創出につなげるために、地域のネットワークづくりは重層的に構 築すべきである。またニーズを見つけて、サービスにつなげる方法、財源の仕 組み、地域のネットワークの構築が論点であると考える。  そのためにも、当事者団体が参画した地域自立支援協議会の活性化も重要で ある。例えば、当事者団体からの情報提供を受けながら、サービスが届いてい ない人を把握して、必要なサービスがどのようなものなのか、を把握する必要 がある。さらに地域自立支援協議会に、市町村への提言といった機能をもたせ ること等や、また、権利条約でいわれているモニタリング(日常的な評価と点 検)機能の必要性等について検討することも重要である。(結論12も参照) 2.24時間介護サービス等も含めた長時間介護が必要な人への市町村や圏域 単位での支援体制について (F−3−2 ) 結論  どんなに重い障害がある人でも、障害者権利条約第19条の「他の者と平等な 選択の自由を有しつつ地域社会で生活する平等な権利」を実現することが求め られる。長時間介護も、その人の障害特性やニーズ、医療的ケアの必要度等に 応じて、日中の介護のみが必要な人から、24時間のパーソナル・アシスタン ス(※)が必要な人まで、必要とされる介護内容は様々である。ただ、どんな に重い障害がある人でも、またどこに住んでいても、地域社会で暮らす権利が 満たされる為に必要な支援量は提供されるべきである。  上記を満たし、各人のニーズに応じた支援が適切に届けられるために、財源 を確保して支援することが必要である。(結論5,6参照) ※パーソナル・アシスタンスとは、障害者あるいはその代弁者が決めた介助者 が、障害者側で決めた時間や介助内容・方法に応じて介助が提供される当事者 主導、個別的、包括的・継続的な支援のこと。 3.コミュニケーション・移動支援における、福祉以外の領域との関係性や市町 村格差について 結論  移動支援・コミュニケーション支援は、第一期の「地域生活支援事業の見直 しと自治体の役割」作業チームで検討された結果である、「地域生活支援事業で はなく自立支援給付・義務的経費化すべきである」、とする報告書内容を尊重す べきである。  移動支援については、通勤・通学などにおけるシームレスな(継ぎ目のない) 支援が求められる。またコミュニケーション支援については、失語症や記憶障 害などの重い言語障害のある人に対しても、必要な支援が検討されるべきであ る。  コミュニケーション・移動支援は、企業や学校等で「合理的配慮」として提 供できる部分と、総合福祉法の中で担う部分について、上記を前提とした上で 検討すべきである。  また盲ろう者は、各人に合った支援方法に習熟した支援者が移動支援とコミ ュニケーション支援を一体的に提供する制度を必要としている。そこで、パー ソナル・アシスタンス制度を参考に、現在は地域生活支援事業である通訳・介 助員派遣事業を拡充して、自立支援給付の性格を併せ持たせる方向で、この制 度のあり方を検討するべきである。 4.地域活動支援センターの事業内容や小規模作業所について 結論  現状の小規模作業所は、ニーズの谷間を埋める機能やセーフティーネット機 能を果たしてきた。これらの機能は地域毎の特性もあり、個別給付化になじみ にくいものもある。そのため、小規模作業所の多様な実態をふまえて地域活動 支援センターに発展的・安定的に集約し、設置要件の緩和を行い一元化する方 向としてはどうか。利用者定員やその内容については、都道府県や市町村にそ の設置基準の裁量を持たせる等の工夫も必要。また、新体系移行や他の日中活 動との整理については、就労の合同作業チームの結論も踏まえ、総合的に判断 すべきである。 5.国庫負担基準について 結論  前提として、地域移行者と地域生活をする重度者では、負担と支給決定のあ り方を変えるべきである。施設・病院から地域移行する人や親元から独立して 別市町村で暮らす障害者については、出身自治体(施設・病院所在地の自治体) が一定年度の財政負担(恒久的かどうかは検討)をした上で、居住自治体(地 域移行後に居住する自治体)での支給決定をすることも検討してはどうか。ま た地域生活する重度者について、現行の国庫負担率以上は国負担を原則とする。 ただ、そのことが無理な場合、例えば都道府県での基金化も含め市町村負担を 大幅に引き下げる対応を考えるべきである。(理由を参照) 6.国庫負担基準が事実上のサービスの上限になっている現状の評価と問題解 決について (F―4−1) 結論  はじめに予算ありき、ではなく、まずは障害者のニーズを中心に検討すべき である。そのニーズを積み上げる形で、必要な支給決定がなされる必要がある。 現状では国庫負担基準という形で実質的な予算上限を設定しているため、少な からぬ自治体が、国庫負担基準を事実上のサービス上限としている。総合福祉 法においては、障害者の実態とニーズに合わせ、「地域で暮らす権利」を保障す るための財源を確保すべきである。そのための方策は、上記の「国庫負担基準 について」のまとめを参照。また、インクルーシブな(障害を理由に排除され ることのない)社会への復興・新生に向け、入所・入院施設への投入財源を、 地域資源へ組み替えすることも検討すべきである。 7.自治体が地域生活移行や地域生活支援を促進する為の具体的な方策につい て (F−5−1) 結論  地域生活移行は、まず本人の意向に基づいた計画である必要がある。その上 で、住まい、就労も含めた日中活動の場の確保、在宅サービスの充実、緊急時 対応の整備などもバランスよく検討される必要がある。そのために、移行支援 の拠点作りも必要不可欠である。これらの事を、地域自立支援協議会などで協 議し、国の計画の人口割り案分数ではなく、地域の実情に応じたボトムアップ (現場の当事者のニーズから積み上げる)の障害福祉計画として、実行に向けた 現実的計画を作成すべきである。 8.地域の実情や特色にあったサービス提供を、地域生活の権利を担保するため のナショナルミニマムのあり方について (F−5−2) 結論  どのような地域で生活しても、地域生活の権利として最低限の保障がされる べきサービスについて示されるとともに、サービスを提供する社会資源と財源 を確保する社会システムを構築すべきである。 9.自立支援協議会における当事者参画について 結論  自立支援協議会は、都道府県および市町村の協議会の設置の義務付けおよび 重度障害者も含めた様々な障害当事者・保護者の参画義務付けを明記する。地 域自立支援協議会は、障害福祉計画の策定に実質的に関与することを法で規定 する。都道府県自立支援協議会には、盲ろうや難病等のマイノリティ(絶対数 が少ない)障害者の参画保障と、地域自立支援協議会や市町村への広域的・専 門的な情報提供と助言や市町村障害者福祉計画策定の支援機能が求められる。 10.権利擁護を推進していくためにはどのような体制が必要か? また相談支 援やエンパワメントの事業化についてどう考えるか? (D−6−2) 結論  相談支援には、具体的なサービスにつなげるものと、障害当事者のエンパワ メント(障害当事者のあきらめさせられた、我慢させられた想いや願いを大切 にし、生きる力、自らがコントロールする力を獲得すること)や権利擁護につ ながるものの、二種類がある。この二つを満たすためには、相談支援の拠点と して、寄り添う当事者が中心となったものと、専門的知識を有する支援者によ るもの、そして実施責任を持つ行政の3つの主体による相談支援体制が、それ ぞれに必要である。  また身近な市町村レベル、だけでなく、専門的相談やマイノリティ(絶対数 が少ない)障害者への対応などは都道府県内で広域的、かつ、関連当事者団体 が蓄積しているノウハウ等の活用に配慮する。  さらに、権利の形成や獲得支援に関しては、鳥取県・島根県で進められてい る「あいサポート運動」(※)のような、地域社会への普及啓発の活動も不可欠 である。 (※)あいサポート運動とは、地域の理解が不可欠という考えをもとに、障害 のある人が、地域の一員としていきいきと暮らしていくため、国民に広く、障 害の特性や障害のある人への配慮の仕方などを知っていいただき実践していた だく運動。一般市民、さまざまな障害者団体や県内外の民間企業等が“あいサ ポーター”として参加協力し、暮らしやすい地域社会作りのために運動を繰り 広げている。平成21年より実施。 11.サービスの質の確保等のための苦情解決と第三者評価の仕組みについて (D−6−3) 結論  地域生活の資源整備や重点的な基盤整備があり、選べるだけの選択肢が地域 に存在し、その上で苦情解決や第三者評価の仕組み作りが重要になる。基盤整 備(量的な確保)が進まない中での質の確保はあり得ない。また苦情という形 で問題化する以前の段階での、障害当事者とその関係者からの話をじっくり聞 く、事前相談や寄り添い型の相談支援の仕組みが必要である。  上記を満たした上で、それでも改善されない、あるいは実際に起こってしま った苦情については、実態として権利保障する為の苦情解決に向けた対応機関 が必要である。 12.モニタリング機関や不服審査・苦情解決・権利擁護機関の必要性について (I−3−3、I−3−4) 結論  この法の実施に関して、この法律に基づく形ではなく、障害者基本法の改正 案で示された障害者政策委員会に、総合福祉法のモニタリングも求める事とす る。一方、この法の支給決定やサービス内容に関しての不服申立機関は必要で ある。  個に起因する、ミクロレベル(個人)の不服審査や権利擁護に関しては、結 論10でも示したように、相談支援との連携に基づく対応が必要である。また、 市町村や都道府県レベルの不服申立機関への手続きのハードルを低くする為、 相談支援に不服申立の支援等が出来る事も求められる。  メゾ−マクロレベル(市町村や圏域など)における、障害者総合福祉法の実 施状況や障害福祉計画に関しては、市町村や都道府県に設置される審議会その 他の合議制の機関でモニタリングを行う。その際、個別ケースではない地域課 題の問題について、障害当事者や相談支援機関が上記モニタリング機関に課題 提起をすることが出来る事とする。  モニタリングされた内容は、都道府県および地域の自立支援協議会に向けて 伝えられる。都道府県および地域自立支援協議会では、障害福祉計画の進行管 理や次期計画の作成などにおいて、モニタリング内容も踏まえた内容を検討し、 整備水準を高める事とする。 13.障害者差別禁止法(仮称)や障害者虐待防止法(仮称)でカバーすべき部分 と自治体が自主的に担う役割について  結論  司法救済などの事後救済に関しては、自治体に裁量を付与せず、全国一律の 規準での救済が望ましい。一方、日常的な権利擁護課題(権利形成・獲得側面) については、市町村の裁量が担保される方がよい。 入所施設や精神科病院の入所・入院者、また在宅生活においても自身の意向を 伝えにくい(エンパワメントされていない)障害者に関しては、第三者が本人 の意向をくみ取る支援の仕組みが必要である。相談支援機関の訪問等による関 わりだけでなく、第三者による施設・病院訪問であるオンブズパーソン制度(※) の創設なども求められる。  国レベルでの障害者差別禁止法や虐待防止法の制定は必要不可欠である。だ が、自治体レベルでも、差別禁止の意識啓発や斡旋・調整など、上記法律を実 体的に機能させる為の、また差別として現れる前に問題を解決するため、今後、 市町村や都道府県単位の条例(例:千葉県やさいたま市)が車の両輪として、 設置されることが求められる。 (※)オンブズパーソン制度とは、元々スウェーデンで始まった、行政に対す る苦情処理と監察を行う第三者機関制度のこと。福祉領域でも施設での権利侵 害等に対する独自の調査と改善を求める機関として機能している。我が国の福 祉分野においても、障害者・高齢者の入所施設を第三者の市民が訪問し、利用 者の声を聞く中で施設処遇の改善を目的とした施設オンブズマンが各地に作ら れている。また、精神科病院に市民が訪問し、利用者の声をもとに処遇や療養 環境の向上を目指す精神医療オンブズマンは、大阪府の制度として位置づけら れた(現在の療養環境サポーター活動)。 III.理 由  地域生活の基盤整備の定義と、その範囲について当チームでは次のように考 えた。  地域生活支援とは、家族支援、入所施設・精神科病院での支援という「二者 択一」ではない、第三の選択肢である。その際、障害者権利条約第19条の「他 の者と平等な選択の自由を有しつつ地域社会で生活する平等な権利」を前提に 考える。また当事者の意見に基づく支援、自立(支援を受けての自立を含む) して暮らすための支援、生活の質を高める支援を保障する中で、他の者と平等 を実現する。上記を実現するために、抽象的理念に留まらず、目標を定めて基 盤整備を着実に進めることが重要である。  また、国庫負担基準については、次のような考え方を提起した。  24時間の支給決定については、25%の市町村負担が出来なくて、支給決 定できないところがたくさんある。そこで、ホームヘルプについて、8時間を 超える支給決定をする場合は、市町村負担は5%程度に下げ、都道府県が45% を負担し、8時間以内の支給決定をする場合は、市町村負担を26%とし、都道 府県負担の1%を確保して使うようにする案を提示した。(下図参照)  上記の図で8時間を境にしている理由は、重度訪問介護の区分6の国庫負担 基準が約40万円で、月212時間程度の単価となり、1日当たり7時間超で あることから、8時間を境にしている。  また入所施設や精神病院への入院・入所者の地域生活移行等を促進するため、 例えば居住地と出身地(施設・病院所在地)で費用を分担するような方式が考 えられないか。(下図参照) IV.おわりに  総合福祉部会は、障害者権利条約を起点にしていると理解しており、従来の 福祉サービスを受ける主体から権利を行使する主体へと180度の転換がなされ て画期的な手法で議論が進められている。  しかし、サービス提供の現場である市町村の実態は、今もって、従来の延長 線上で対応するのに汲々とした状況にあり、国民の理解等といっても進んでい ない状況である。  他の者と平等な選択の自由を有しつつ地域社会で生活する平等な権利が、社 会一般の常識として浸透するために、どのような取組みを図っていく必要があ るのかを、障害関係者だけでなく自治体や民間等を含めて、さらに議論を深め ていくことが必要である。  総合福祉部会が新法の提言を行う、2011年8月末以後、例えば障がい者制度 改革推進会議が行ったタウンミーティングを各地で行うなど、新法の理念やそ の内容について、広く国民理解を求める普及啓発活動が求められる。また、報 告書本文でも触れた、鳥取県・島根県の「あいサポート運動」などの、障害者 への理解を求め、差別禁止の意識啓発をする取り組みを、全国的に進めていく べきである。