総合福祉部会 第14回 H23.5.31 参考資料1 伊澤委員提出資料 平成23年5月25日 厚生労働大臣 細川 律夫 様 精神障害者地域生活支援とうきょう会議 代表 小見山 政男 精神障害者の地域移行支援施策に関する要望書 謹啓  時下ますますご清祥の段、お慶び申し上げます。当会は、東京都において精神障害者の 地域生活を支援する団体、事業所ならびに個人が参集し、情報の交流や研修会の開催等を行 うほか、国や東京都に対する政策提案など、精神障害者の地域生活支援活動の発展に向けた さまざまな活動を行っている団体です。  さて、国におかれましては、「精神障害者の地域移行・地域定着支援事業」に関して、平 成24年度から地域移行推進員の配置及び個別支援会議の開催については、個別給付化する との施策を打ち出されております。当会は、東京都内で平成18年度より退院促進コーディ ネート事業を実施してきた事業所の立場から、今般の制度改正に伴って、これまでの補助事 業だけでは足りなかった地域移行の取り組みが、すべての区市町村に広がりをもって行われ ることを大いに期待するものです。同時に、個別給付化によって事業の実施主体が区市町村 になることで、これまで都道府県単位の事業として行われてきた地域移行支援の広域的で柔 軟な活動が、縮小されるようなことがあってはならないと考えています。  当会は、下記の諸点について、平成24年度以降の精神障害者の地域移行・地域定着支援 施策に反映してくださいますよう、ここに要望いたします。 謹白 記 1 区市町村の枠を超えた広域的な活動が保障されるような制度にしてください。  東京都では、現在12か所の退院促進コーディネート事業所が、都内63か所の「1年以上 入院の患者がいる」精神科病院に対して、事業を通じた地域移行へのアプローチを行ってい ます。各事業所は、都の事業である特性を活かして、対象者の入院前住所地や退院先地域を 限定することなく、全都を視野に入れた広域的な活動を柔軟に行ってきました。その結果、 これまでに都内50区市町村(島しょ地区を除く)のうち、29か所に事業を通じた退院者の 実績を築いています。さらに、事業を通じた退院者の半数以上が、入院前の住所地とは離れ た地区の病院にいながら、退院可能となった方たちです。  東京都は、特別区と多摩地区で人口対精神病床数に4倍もの格差があるため、精神科病 院が偏在する地区には、都内全域の区市町村から入院患者が集まってくる傾向があります。 したがって、地域移行支援の活動は、区市町村や二次保健医療圏単位だけで完結して捉えら れるものではありません。都道府県単位で計画的に地域移行を進めていくためには、広域的 な視野での個別支援活動を展開できる事業所が適正数設置されていることが不可欠です。地 域移行施策をより進めるためには、区市町村や二次医療圏域レベルでの個別給付事業の活動 と、都道府県レベルでの広域的な支援に特化した委託・補助事業の活動が、相互連携を図り ながら二層構造の支援体制を展開していくことが望ましいと考えます。  個別給付化とは別に、広域的活動を保障された事業所を都道府県単位で設置することを 施策の中に盛り込んでください。 2 地域移行の個別給付事業に専従スタッフを置けるような報酬基準を作ってくだ さい。  個別給付化は、地域相談支援として行われるとのことですので、実際の担い手となるのは、 主に指定相談支援事業所等であると思われます。しかし、入院中の対象者へのアウトリーチ を基本とする地域移行支援の活動を、日常的な相談支援業務と兼業で行うことには限界があ ります。地域移行支援を実施する事業所には、個別給付事業の成果に応じて専従の常勤スタ ッフを配置できるだけの保障をすることが、地域移行支援の裾野を拡大するうえで不可欠で あると考えます。  地域移行支援事業が個別給付化された場合、最低でも対象者10名を支援することで事業 専従の常勤の地域移行推進員1名を配置できるような報酬基準を作ってください。 3 長期入院、重度障害、重複障害、広域支援といった困難事例への支援に対して、 報酬に加算をつける仕組みを作ってください。  退院可能な社会的入院患者の中には、入院の長期化や重複する障害、さらに退院先が現在 入院している病院から遠く離れているといった環境的要因による支援困難性が多く見受け られます。東京都の事業では、対象者全体の半数が5年以上の長期入院患者であり、平均総 入院期間は8年5か月となっています。  同じ個別支援の活動でも、事例によって支援の困難性や必要なマンパワーの度合いは大き く異なるため、一律の報酬基準では比較的支援の容易な方が事業に乗りやすい傾向が生じか ねません。地域移行支援の施策は、本来的に最も支援が届きにくい方たちにアプローチする ことを目指しているはずです。相応の報酬加算等を作ることによって、困難事例にアプロー チするうえでのインセンティブを事業所に保障してください。 4 精神科病院への普及啓発と地域における体制整備の活動が保障されるような制 度にしてください。また、事業の正式利用前の対象者への個別アプローチを保障 するような制度にしてください。  地域移行支援の取り組みにおいては、対象者への個別支援アプローチと同時に、精神科病 院という組織を対象とした地域からの普及啓発的な活動を行うことが非常に重要です。  東京都の12事業所は、それぞれが担当する精神科病院で年間を通じて病院スタッフや入 院患者を対象とした学習会、院内OJTでの事業説明、地域移行に関する意見交換等を定期 的に行っています。それによって、病院内のスタッフに地域移行の取り組みへの理解が深ま り、病院から推薦される事業対象者の拡大につながっています。  また、長期入院患者の中には、退院を希望するまでに長く時間のかかる方も多くいます。 東京都の事業では、関係機関連絡調整を除いた個別支援活動全体のおよそ13%が事業の正 式実施前の対象者へのアプローチにかけられ、自分からは積極的に退院希望を表明できない 入院患者のニーズの掘り起こしが行われています。  個別給付化された事業においても、上記のような普及啓発活動ならびに対象者のニーズの 掘り起こしにつながるような個別支援活動を保障してください。 4 ピアサポーターの取り組みがより拡大されるようにしてください。  長期入院患者へのアプローチとして、地域で実際に生活しているピアサポーターの存在は きわめて重要なものです。東京都でも、ピアサポーターは各事業所で活動しており、個別支 援を始め、病院内のプログラムで地域生活についての実体験を語るなど、入院患者にとって 地域生活を具体的にイメージし、退院へのモチベーションを高めるために有益な情報を提供 できる存在として、大きな成果をあげています。  地域移行・地域定着にかかわるピアサポーターの活動がさらに拡充されるような制度的保 障をしてください。 以上