総合福祉部会 第11回 H23.1.25 参考資料4 藤岡委員提出資料 障がいのある人の権利と施策に関する基本法改正要綱案の提言 2010年(平成22年)12月17日 日本弁護士連合会 提言の趣旨  当連合会は,内閣府障がい者制度改革推進会議で議論されている障がい者基本法改正案 をさらに良いものとするべく,別紙の「障がいのある人の権利と施策に関する基本法改正 要綱案」を提言する。 提言の理由  2009年9月に民主党政権が発足し,同年12月に内閣府の下,全閣僚で構成される 障がい者制度改革推進本部が設置され,その下に障がい者制度改革推進会議が設けられた。 同会議は,日本が国連の障がいのある人の権利条約を批准するに当たって国内法整備を進 めていくためのエンジンとして位置づけられた。  同会議は,本年に入って以降,議論を重ね,本年6月には第1次意見をとりまとめるに 至った。同意見においては,障がい者基本法の抜本改正が掲げられ,2010年内に取り まとめられる第2次意見を踏まえ,2011年の通常国会へ法案提出するとのスケジュー ルが示されている。  今回の障がい者基本法改正は,これまでの改正とは異なり,障がいのある人の権利条約 批准のための国内法整備の第一歩という極めて重要な位置づけであり,ここで十分な内容 の改正を実現することで,続く総合福祉法,虐待防止法,差別禁止法等,重要な個別立法 制定へつなげていくべきものである。  改正法においては,まず法律の名称を「障がいのある人の権利及び施策に関する基本法」 と変更するべきである。そして第1次意見で述べられているとおり,基本法において障が いのある人の人権を規定し,これを確保するための諸施策を規定する必要がある。また制 度の谷間を生まない包括的な障がいの定義,合理的配慮を提供しないことが差別であるこ とを含む差別の定義,手話その他の非音声言語が言語であること,障がい故に侵されやす い基本的人権などを総則で確認し,障がいのある人の権利条約の実施状況の監視機能を担 い,関係大臣に対する勧告権等も有する推進機関の設置を規定しなければならない。ただ し,本改正要綱案で示す推進機関は,障がいのある人の権利条約33条に定められるパリ 原則に基づいて条約上の権利の「促進・保護・監視」の任務を担う組織ではないのであり, これについては今後の立法による設置が望まれるものである。また基本法改正に引き続い て,他の個別法の改正が期限を定めて速やかに行われるべきことが附則等により定められ ることを要請するものである。  このような時期にある今,タイミングを逃さず,推進会議で議論されている改正案をさ らに良いものとするべく,当連合会としての改正要綱案を発表することとした次第である。                                     以上 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 障がいのある人の権利と施策に関する基本法改正要綱案 (前文)   本法は,1970年に心身障害者対策基本法として制定されて以来,6度の改正を経 て,障がいのある人の自立と社会参加の支援のための施策に関し基本的事項を定めること 等によって,障がいのある人の福祉の増進に寄与してきたものであるが,障がいのある人 に対する差別偏見は根深く,自立と社会参加を推進することに幾多の困難があり,いまだ 完全参加ということに程遠い現状にある。   すべて障がいのある人は権利の主体であり,社会を構成する一員として日本国憲法及 び既存の複数の人権規定から導かれるすべての基本的人権を完全かつ平等に享有すること を確認し,これらの権利は国及び地方公共団体を名宛人とすることはもとより,社会を構 成する一人ひとりの国民に向けられたものでもある。そしてまた,わが国は未だ経験した ことのない高齢化社会を迎え,地域社会で生活している誰もが障がいを持ちうることを共 通の認識としてきている。   このような状況にかんがみ,障がいの有無にかかわらず,地域社会にあってそれぞれ の個性と人格を認めあい,差異と多様性を尊重する差別のない共生社会の構築が,障がい のある人の自立と社会参加に不可欠なだけではなく,障がいのない人にとっても重要な課 題であることを認識し,ここに,あらためて基本理念を明らかにしてその方向性を示し, 将来に向かって国,地方公共団体及び国民がそれぞれ共生社会の形成に関する取組みを総 合的かつ計画的に推進し,かつその実施状況の監視をはじめとした権能を担う機関を創設 するものとする。 第1章 総則 第1条(目的)  この法律は,障がいのある人が,他の者と等しく,すべての基本的人権の享有主体であ ることを確認し,個別の権利内容を確定し,もって,わが国の社会が障がいの有無にかか わらず,分け隔てなく相互に個性と人格を認め合い,差異と多様性を尊重する共生社会を 構築するための施策を推進することを目的とするものとすること。 第2条(定義)  この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによるも のとすること。 1 障がい 心身の状態が,疾病,変調,傷害その他の事情に伴い,その時々の社会的環 境との関係において,個人が日常生活又は社会生活において制限を受ける状態(過去にか かる状態にあったこと,及び将来かかる状態になる相当程度の蓋然性があることも含む。) をいうものとすること。 2 共生社会 すべての障がいのある人がその対等な構成員として位置づけられ,合理的 配慮や必要な支援の充足を通じて,障がいの有無にかかわらず地域で共に生活することが 確保された社会のことをいうものとすること。 3 合理的配慮 障がいのある人が,他の者と平等に基本的人権を享有し又は行使するこ とを確保するため,障がいのある人の障がいの特性等を考慮した必要かつ適切な設備,道 具,サービス等における合理的な変更又は調整であって,特定の場合に必要とされるもの をいうものとすること。 4 言語 音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいうものとすること。 5 意思等伝達手段 音声言語,手話,要約筆記,点字,指文字,触手話,指点字,手書 き文字,拡大文字,身振りや物のサイン,音声サービス,文字情報サービス,写真,図画, ひらがな及び平易な表現による表記,理解を容易にするための支援者の利用,個々に必要 とされる意思伝達装置その他の意思又は情報を伝達する様式,手段又は方法をいうものと すること。   第3条(基本的理念) 1 尊厳の保障等  すべて障がいのある人は,権利の主体として,個人の尊厳が重んじられ,自己の心身の 状態を侵襲されることなくその尊厳にふさわしい生活を保障されるものとすること。 2 法の下の平等等  すべて障がいのある人は,人として法の下に平等であり,障がいを理由に差別され又は その他の権利利益を侵害されることなく,社会,経済,政治,文化その他あらゆる分野の 活動に参加する機会が保障されなければならないものとすること。 3 地域社会で生活する権利  すべて障がいのある人は,他の者と等しく,必要な支援を受けながら地域社会で生活す る権利を有し,特定の生活様式を強制される等,本人の意思に反して,社会から分離又は 排除されてはならないものとすること。  4 自己決定の権利  すべて障がいのある人は,自己の意思決定における十分な情報提供を含む,必要な支援 を受け,かつ他からの不当な影響を受けることなく,自らに関わる事柄に関し,自己決定 の権利を有するものとすること。  5 意思等伝達手段を用いる権利  すべて障がいのある人は,生活,表現,伝達等あらゆる領域において,自ら選択する意 思等伝達手段を用いる権利を有するものとすること。  6 施設,設備,制度等の利用可能性  障がいのある人が前項までに定める権利を享受するためには,社会のあらゆる場面にお ける施設,設備,制度,技術,サービス等は,障がいのある人に利用可能なものとして提 供されなければならないものとすること。 第4条(差別の禁止) 1 差別の類型と各定義  何人も,障がいのある人に対して,次の各号に規定する差別その他の権利利益を侵害す る行為をしてはならないものとすること。 一 直接差別 障がいを理由に制限,排除,分離,又は拒否等により不利益となる取扱い を行うことをいうものとすること。 二 間接差別 形式的には障がいと関係しない中立的な規定や基準の適用又は取扱いが障 がいのある人に不利な結果を招き,又は結果を招くおそれがある行為を行うことをいうも のとすること。 三 合理的配慮の欠如 合理的配慮を行わないことをいうものとすること。  2 国による差別事例の収集及び公表  国は,国民が障がいを理由とする差別について正しい理解を深められるよう,障がいを 理由とする差別に該当するおそれのある事例を収集し,公表するものとすること。 第5条 (障がいのある女性)  国及び地方公共団体は,障がいのある女性が複合的な差別を受けていることを認識し, 障がいのある女性がすべての基本的人権を享有するため,障がいのある女性の地位の向上 等の確保に必要な施策を講じなければならないものとすること。 第6条(障がいのある子ども)  1 権利  障がいのある子どもは,他の子どもと等しく家庭及び地域社会の構成員として尊重され, 生命,生存,成長及び発達が保障され,医療,福祉,教育,遊び及び余暇等について同年 令の他の子どもの有しているすべての権利を有するものとすること。  2 最善の利益  障がいのある子どもに係る判断及び決定に際しては,障がいのある子どもの有している すべての基本的人権及びこの法律に定める基本理念にのっとり,子どもの最善の利益が考 慮されなければならないものとすること。  3 意見表明権  国及び地方公共団体は,障がいのある子どもが自由に自己の意見(意思及び感情を含む。) を表明できるよう,障がい及び年齢に適した支援を行うとともに,障がいのある子どもの 意見が他の子どもと等しく考慮されるために必要な施策を講じなければならないものとす ること。  4 早期支援  国及び地方公共団体は,第 1項の権利を実現するために,障がいを早期に発見する等し て,障がいのある子ども及びその家族に対し早期からの継続的な支援を提供することがで きるよう必要な施策を講じなければならないものとすること。 第7条(国際協力)  障がいのある人の権利と尊厳の確保及び促進が国際社会における取組みと密接な関係を 有していることにかんがみ,これらに関する施策の実施は,国際協力の下に行わなければ ならないものとすること。 第8条(国及び地方公共団体の責務)  国及び地方公共団体は,障がいのある人の権利を保障し,障がいのある人に対する差別 の防止を図り,障がいのある人に対し合理的配慮を行うこと及び障がいのある人に対し合 理的配慮を行うべき者に対し必要な支援を行うこと等により,障がいのある人の自立と社 会参加を支援するとともに,共生社会を構築する責務を有するものとすること。 第9条(事業者等の責務)  事業者等は,障がいのある人もない人も共に同じ社会の一員として事業活動に関わって いることを認識し,合理的配慮を行うこと等により障がいのある人の権利保障及び共生社 会の実現に寄与するよう努めなければならないものとすること。 第10条(国民の責務)  国民は,障がいの有無にかかわらず,分け隔てられることなく相互に個性と人格を認め 合い,差異と多様性を尊重する共生社会を実現するため,障がいのある人の人権が尊重さ れ,障がいのある人が,差別されることなく,社会,経済,政治,文化その他あらゆる分 野の活動に参加することができるよう努めなければならないものとすること。 第11条(国民の理解)  1 理解を深める施策  国及び地方公共団体は,障がいのある人の置かれた状況に対する国民の意識を向上させ, 障がいのある人の権利及び尊厳に対する尊重を促進し,あらゆる生活領域における障がい のある人に対する固定観念及び偏見をなくし,かつ,障がいのある人の能力及び貢献に対 する意識を促進し,もって障がいのある人について正しい理解を深めるよう必要な施策を 講じなければならないものとすること。  2 施策内容  前項の施策は,次の事項を含むものとすること。 (1)次の目的のために,効果的な啓発活動を行うこと。   [1] 障がいのある人の権利に対する理解と受容の促進   [2] 障がいのある人に対する社会的意識の促進   [3] 障がいのある人の技能,功績及び能力並びに職場及び労働市場への貢献に対する 認識の促進 (2) すべての段階の教育制度,特に幼年期からの教育制度において,障がいのある人の権 利を尊重する態度を育成すること。 (3) すべてのメディアが,障がいのある人に関わる描写を行うときは,この法律の目的に合 致するように障がいのある人を描写するよう奨励すること。 (4)障がいのある人及びその権利に対する意識を向上させるための計画を促進すること。  3 障がい者週間  国は以下のとおり障がい者週間を設けるものとすること。 (1)障がい者週間は,国民の間に広く障がいのある人の権利の擁護及び障がいのある人に対 する差別の防止についての関心と理解を深めるとともに,障がいのある人が社会,経済, 政治,文化その他あらゆる分野の活動に積極的に参加することを促進することを目的とす るものとすること。 (2)障がい者週間は,12月3日から12月9日までの1週間とするものとすること。 (3)国及び地方公共団体は,障がい者週間の趣旨にふさわしい事業を実施するよう努めなけ ればならないものとすること。 第12条(施策の基本方針) 1 総合的施策  障がいのある人に関する施策は,障がいのある人の性別,年齢,障がいの状態及び生活 の実態に応じて,かつ,有機的連携の下に総合的に,策定され,及び実施されなければな らないものとすること。 2 自立と社会参加  障がいのある人に関する施策は,障がいのある人の社会参加を阻害する障壁を除去し, 障がいのある人の自己決定(支援を受けた自己決定を含む。)を保障し,かつ,障がいのあ る人が,地域において自立した日常生活を営み,社会に参加をする機会が確保及び促進さ れるよう講じられなければならないものとすること。 3 自己決定支援  国及び地方公共団体は,障がいのある人の自己決定を支援する施策を講じなければなら ないものとすること。 4 当事者参画  国及び地方公共団体は,障がいのある人に関する施策の策定,実施においては,障がい のある人又は障がいのある人を代表する団体の参画を保障しなければならないものとする こと。 5 生活実態調査  国及び地方公共団体は,障がいのある人に関する施策の策定及び実施においては,障が いのある人の生活実態調査に基づいて行わなければならないものとし,この調査は障がい のない人の生活実態と比較可能な方法により行われるものとすること。 6 職員研修  この法律において定められる,国及び地方公共団体が行うべき必要な施策には,教育, 医療等,当該分野に携わる教員,医師等の職員に,障がいのある人の人権,尊厳,及び自 立に対する尊重,並びに障がいに対する意識及び理解,コミュニケーション,支援の方法 等についての専門的知識及び専門的技術を習得させるための研修を含むものとし,国及び 地方公共団体は,事業者がその被用者に対し十分な研修を行うのを援助するために必要な 施策を講じなければならないものとすること。 第13条(障がい者基本計画等) 1 障がい者基本計画の策定  政府は,障がいに関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため,障がいのある人の ための施策に関する基本的な計画(以下「障がい者基本計画」という。)を策定しなければ ならないものとすること。 2 都道府県障がい者計画の策定  都道府県は,障がい者基本計画を基本とするとともに,当該都道府県における障がいの ある人の状況等を踏まえ,当該都道府県における障がいのある人のための施策に関する基 本的な計画(以下「都道府県障がい者計画」という。)を策定しなければならないものとす ること。  3 市町村障がい者計画の策定  市町村は,障がい者基本計画及び都道府県障がい者計画を基本とするとともに,地方自 治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二条第四項の基本構想に即し,かつ,当該市町村 における障がいのある人の状況等を踏まえ,当該市町村における障がいのある人のための 施策に関する基本的な計画(以下「市町村障がい者計画」という。)を策定しなければなら ないものとすること。 4 障がい者政策委員会の意見等  内閣総理大臣は,関係行政機関の長に協議するとともに,障がい者政策委員会の意見を 聴いて,障がい者基本計画の案を作成し,閣議の決定を求めなければならないものとする こと。 5 地方障がい者政策委員会の意見  都道府県又は市町村は,都道府県障がい者計画又は市町村障がい者計画を策定するに当 たっては,地方障がい者政策委員会の意見を聴かなければならないものとすること。 6 国会への報告及び公表  政府は,障がい者基本計画を策定したときは,これを国会に報告するとともに,その要 旨を公表しなければならないものとすること。 7 議会への報告及び公表  第2項又は第3項の規定により都道府県障がい者計画又は市町村障がい者計画が策定さ れたときは,都道府県知事又は市町村長は,これを当該都道府県の議会又は当該市町村の 議会に報告するとともに,その要旨を公表しなければならないものとすること。 8 計画の変更  第4項及び第6項の規定は障がい者基本計画の変更について,第5項及び前項の規定は 都道府県障がい者計画及び市町村障がい者計画の変更について準用するものとすること。 第14条(年次報告)  政府は,毎年,国会に,障がいのある人のために講じた施策の概況に関する報告書を提 出しなければならないものとすること。 第15条(法制上の措置等) 1 政府は,この法律の目的を達成するため,必要な法制上及び財政上の措置を講じなけ ればならないものとすること。 2 国及び地方公共団体は,障がいのある人に対する差別を禁止するために,救済の仕組 みを含む法制上の措置を講じなければならないものとすること。 第2章 障がいのある人の権利に関する基本施策 第16条(地域社会における自立生活) 1 権利  障がいのある人は,障がいのない人との間で分離又は差別されず,必要な支援を受けな がら,地域社会において自立した生活を営む権利を有するものとすること。 2 自立生活支援等  国及び地方公共団体は,前項の権利を実現するため,障がいのある人の地域社会におけ る生活を支援し、地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な施策を講じなけれ ばならないものとすること。 3 住宅の確保等  国及び地方公共団体は,障がいのある人のための住宅を確保し,及び障がいのある人の 日常生活に適するような住宅の整備を促進し,適切な利用ができるよう必要な施策を講じ なければならないものとすること。 4 福祉用具等  国及び地方公共団体は,福祉用具及び補助犬の給付又は貸付その他障がいのある人が日 常生活を営むのに必要な施策を講じなければならないものとすること。  5 災害時の安全確保  国及び地方公共団体は,災害等の緊急時において,適切な意思等伝達手段を用いて情報 を提供する等、障がいのある人の生命及び身体の安全が十分確保されるよう,総合的な施 策を講じなければならないものとすること。 第17条(自己決定)  1 権利  障がいのある人は,どこで誰と生活するかを含め,自己に関わるすべてのことを自由に 決定する権利を有し,生活のあらゆる場面において,その権利能力,行為能力及び訴訟能 力等の法的能力を行使するため,必要かつ適切な支援を受ける権利を有するものとするこ と。 2 相談事業等  国及び地方公共団体は,相談事業,自己決定への支援,障がいのある人の権利利益の保護 等のための成年後見制度その他の施策又は制度が,適切に行われ又は広く利用されるよう 必要な施策を講じなければならないものとすること。 3 個人情報の保護等  国及び地方公共団体は,障がいに関する個人情報,健康情報,リハビリテーションに関 する情報の秘匿性が保護されるよう必要な施策を講じなければならないものとすること。  4 職員の育成  国及び地方公共団体は,第2項の施策を講ずるために必要な専門的技術職員その他の専 門的知識又は技能を有する職員を育成するよう必要な施策を講じなければならないものと すること。  5 濫用防止等  国及び地方公共団体は,第2項の権利利益の保護等のための施策又は制度が濫用される ことを防止し,これらの制度が適切に利用又は運用されるよう必要な施策を講じなければ ならないものとすること。 第18条(公共施設等の利用可能性)  1 権利  障がいのある人は,不特定多数の者の利用に供されている建築物,道路,輸送機関その他 の屋内屋外の公共施設を円滑に利用する権利を有するものとすること。  2 国等が設置する公共施設  国及び地方公共団体は,前項の権利を実現するため,自ら設置する官公庁施設,交通施 設その他の公共施設について,構造及び設備の整備等の計画的推進,介助者,案内者,朗読 者及び手話通訳者等による適切な人的支援の提供その他必要な施策を講じなければならな いものとすること。  3 事業者が設置する公共施設  不特定多数の者の利用に供されている公共施設を設置する事業者は,第1項の権利を実 現するため,当該公共施設の構造及び設備の整備等の計画的推進並びに介助者,案内者, 朗読者及び手話通訳者等による適切な人的支援の提供等に努めなければならないものとす ること。  4 施策  国及び地方公共団体は,第1項の権利を実現するため,前項の規定による事業者の責務 を援助し,また,公共施設を利用する障がいのある人が,移動補助具,補装具,補助器具 又は支援機器等を利用し,又は介助者,案内者,朗読者,手話通訳者等による適切な人的 支援の提供を受けることができるようにするために必要な施策を講じなければならないも のとすること。  5 補助犬  国,地方公共団体及び公共施設を設置する事業者は,自ら設置する公共施設を利用する 障がいのある人の補助を行う補助犬の同伴について,障がいのある人の利用の便宜を図ら なければならないものとすること。 第19条(意思及び情報の受領等)  1 権利  障がいのある人は,自ら選択する意思等伝達手段を用いて意思又は情報を受領し,また これを発信,伝達し,通信,放送その他の情報の提供等に係る公共的なサービスの提供を 受ける権利を有するものとすること。  2 情報通信機器等  国及び地方公共団体は,前項の権利を実現するため,障がいのある人が利用しやすいコ ンピューター及びその関連装置その他情報通信機器の普及,電気通信及び放送のサービス の利用に関する障がいのある人の利便の増進,障がいのある人に対して情報を提供する施 設の整備等が図られるよう必要な施策を講じなければならないものとすること。  3 情報通信技術等  国及び地方公共団体は,公共分野における情報通信技術の活用の推進に当たっては,そ れらを障がいのある人にも利用可能なものとしなければならないものとすること。  4 情報通信機器製造等  電気通信及び放送その他の情報の提供に係るサービスの提供並びにコンピューター及び その関連装置その他情報通信機器の製造等を行う事業者は,当該サービスの提供又は当該 機器の製造等に当たり,それらを障がいのある人にも利用可能なものとするよう努めなけ ればならないものとすること。 第20条(家庭及び家族の尊重)  1 権利  障がいのある人は,両当事者の合意のみに基づいて婚姻をする権利,生殖能力を保持す る権利,家族を形成し,子どもを養育する権利,子どもの数及び出産間隔を決定する権利, 並びに生殖,出産及び家族計画に関する情報及び教育をその年齢に適した方法で受ける権 利を有するものとすること。  2 適切な支援  国及び地方公共団体は,前項の権利を実現するため,障がいのある人が,性を否定され ることなく個人として尊重され,性,生殖,婚姻,家族,親子関係,親族関係及び子ども の養育に関して,並びにこれらに関する教育,情報提供,保健サービスに関して,適切な 支援を受けられるよう必要な施策を講じなければならないものとすること。 第21条(教育)  1 権利  障がいのある人は,あらゆる年齢段階において,自己の尊厳及び価値に対する意識を十 分に育成し,人権及び人間の多様性を尊重し,その能力を可能な限り発達させ,社会に参 加することを目的とする共生教育を受ける権利を有するものとすること。  2 制度の構築  国及び地方公共団体は,前項の権利を実現するため,障がいのある人がその生活する地 域社会において,必要な支援を受けながら,障がいのない人と共に学ぶ教育制度を構築し, 生涯学習の機会を確保するために必要な施策を講じなければならないものとすること。  3 必要な支援及び整備  国及び地方公共団体は,障がいのある人が十分な教育を受けられるよう,学級人数を調 整し,教職員及び支援員を配置し,学校施設の整備を促進する等教育上必要な支援及び整 備を確保するために必要な施策を講じなければならないものとすること。  4 手話等の保障  国及び地方公共団体は,盲ろう者及びろう者が十分な教育を受けられるよう,手話等当 該盲ろう者及びろう者にとって最も適切な言語並びにコミュニケーションの形態及び手段 を確保するために必要な施策を講じなければならないものとすること。  5 特別支援学校における教育  国及び地方公共団体は,障がいのある人又はその保護者が特別支援学校における教育を 選択した場合,第1項の権利を実現するために,障がいのある児童及び生徒と障がいのな い児童及び生徒との交流を積極的に進めることによって,その相互理解を促進しなければ ならないものとすること。  6 教員の研修等  国及び地方公共団体は,すべての教育段階における教員の養成課程で,障がいに対する 意識,コミュニケーション,支援の方法及び授業方法等について研修を行う等,教員の資 質を向上させるために必要な施策を講じなければならないものとすること。 第22条(労働及び雇用)  1 権利  障がいのある人は,他の者と等しく,労働についての権利を有し,障がいのある人が分 け隔てられることなく利用できる労働市場及び労働環境において,必要な支援を受けなが ら、自ら選択した労働を通じて生計を立てる機会を保障されるものとすること。  2 労働条件等  国及び地方公共団体は,前項の権利を実現するため,公正かつ良好な労働条件及び安全 かつ健康的な労働環境を確保するよう必要な施策を講じなければならないものとすること。  3 雇用の促進等  国及び地方公共団体は,障がいのある人の雇用を促進し,障がいのある人がその意欲と 適性に応じた適切な職業に従事することができるようにするため,障がいのある人に対し て,職業相談,職業指導,職業訓練及び職業紹介その他必要な就労支援施策を講じ,かつ 優先雇用,障がい者雇用率制度その他必要な施策を講じなければならないものとすること。  4 事業主への助成等  国及び地方公共団体は,障がいのある人を採用しようとする事業主及び障がいのある人 を雇用する事業主に対し,障がいのある人が雇用され,継続して働くことができるよう, 障がいのある人の雇用に伴い必要となる施設又は環境等に要する費用の助成その他必要な 支援をするために,必要な施策を講じなければならないものとすること。 第23条(医療,健康等)  1 権利  障がいのある人は,十分な説明に基づいた自らの選択(支援を受けた選択を含む。)にし たがい,障がいのない人に提供される医療と同一の質の医療,保健,リハビリテーション 等(以下「医療等」という。)を受ける権利を有し,本人の意思に反して医療等を強制され ないものとすること。  2 地域医療  国及び地方公共団体は,前項の医療等を当該障がいのある人が生活する地域社会又はこ れに可能な限り近い地域で提供するために必要な施策を講じなければならないものとする こと。  3 医師等の育成  国及び地方公共団体は,医師,歯科医師,薬剤師,看護師その他の医療従事者が,障が いのある人の人権,尊厳及び自立を尊重し,障がいに対する理解を深めるようにこれらの 者を育成するために必要な施策を講じなければならないものとすること。  4 医師等の研修  国及び地方公共団体は、前項の趣旨にのっとり、病院、診療所、助産所その他の医療機 関に対し、医療従事者に必要な研修を行うよう指導助言し,かつ倫理規則を普及させるよ う必要な施策を講じなければならないものとすること。  5 研究,開発及び普及等  国及び地方公共団体は,医療等の研究,開発及び普及を促進し,難病等の調査及び研究 を推進するよう努めなければならないものとすること。 第24条(所得保障)  1 権利  障がいのある人は,他の者と同等の生活をすることができるように,所得を保障される 権利を有するものとすること。  2 年金等  国及び地方公共団体は,前項の権利を実現するため,年金,手当等の制度に関し必要な 施策を講じなければならないものとすること。  3 税制上の措置等  国及び地方公共団体は,障がいのある人の尊厳ある生活が実現され,障がいのある人及 びその家族に障がいに起因する経済的負担が生じることのないよう,税制上の措置,公共 施設の利用料等の減免その他必要な施策を講じなければならないものとすること。 第25条(司法の利用等)  1 権利  障がいのある人は,すべての法的手続(裁判外紛争解決機関における手続及び捜査段階 の手続を含む。)において,他の者と等しく,適正な手続を保障され,手続の直接及び間接 (裁判傍聴を含む。)の利用が可能となるよう,必要な支援を受ける権利を有するものとす ること。  2 裁判所等  国及び地方公共団体は,裁判所、検察庁、警察署等が,当該法的手続に関与している障 がいのある人の障がいに応じ,その者が十分に理解可能な意思等伝達手段(適切な補助者 の立会い等も含む。)を用いてすべての手続を行うことができるようにするために必要な施 策を講じなければならないものとする。  3 事業者  弁護士等司法にかかわる事業者は、法的手続の当事者である障がいのある人の障がいに 応じ、その者が十分に理解可能な意思等伝達手段を用いてコミュニケーションをはかる等、 必要な支援を行うよう努めなければならないものとすること。  4 刑事施設等  国及び地方公共団体は,刑事施設、留置施設、少年院、鑑別所等が,対象となっている 障がいのある人の障がいに応じ,その者が十分に理解可能な意思等伝達手段を用いて,適 切な処遇を行うことができるよう必要な施策を講じなければならないものとすること。  5 職員の研修及び訓練  国及び地方公共団体は,すべての法的手続に関わる職員が障がいのある人に対し必要な 支援を行うことができるように,訓練及び研修を行うための必要な施策を講じなければな らないものとすること。 第26条(政治参加)  1 権利  障がいのある人は,自らの政治的権利を行使する機会を確保するために,立候補,投票 又は国民審査の手続,設備及び資料等に係る配慮並びに選挙活動及び投票又は国民審査の 際の援助その他必要な支援を受ける権利を有するものとすること。  2 条件整備等  国及び地方公共団体は,前項の権利を実現するため,選挙活動における支援、投票又は 国民審査を行う場所の設置運営,人員配置等の条件整備を行う等必要な施策を講じなけれ ばならないものとすること。 第27条(文化活動等への参加)  1 権利  障がいのある人は,自らの意思に基づき,文化芸術活動,レクリエーション活動,もし くはスポーツに参加する機会を確保するために必要な支援を受ける権利を有するものとす ること。  2 条件整備等   国及び地方公共団体は,前項の権利を実現するため,利用しやすい設備,用具その他の 諸条件の整備,文化,スポーツ等に参加する機会及び必要な支援の提供等必要な施策を講 じなければならないものとすること。 第28条(国際協力のための施策)  国は,この法律の目的及び趣旨を実現するために国際協力を促進するものとし,障がい のある人の参加を保障した上で,外国政府,国際機関及び障がい者組織を含む市民団体と 協力及び連携するために必要な施策を講じなければならないものとすること。 第3章 施策及び基本計画の推進及び監視等 第29条(障がい者政策委員会の設置)  1 障がい者政策委員会の設置  内閣府に,障がいのある人に関する施策を推進し,監視する機関として,障がい者政策 委員会(以下,「委員会」という。)を設置するものとすること。  2 省庁間調整  委員会は,政府内の省庁間における障がいのある人に関する施策の実施に関連する活動 を容易にするための調整を行うものとすること。  3 当事者参画  障がいのある人及び障がいのある人を代表する団体は,委員会による推進及び監視の過 程に参加するものとすること。 第30条(所掌事務)  1 所掌事務    委員会は,次に掲げる事務をつかさどるものとすること。 (1) 障がい者基本計画案の作成に関し,調査審議し,必要があると認めるときは,内閣総 理大臣に対し意見を述べること。 (2) 障がいのある人に関する施策に関する重要事項を調査審議し,必要があると認めると きは,関係行政機関の長に意見を述べること。 (3) 障がいのある人に関する施策の実施状況を監視し,必要があると認めるときは,内閣 総理大臣又は関係各大臣に勧告すること (4) 第1号から前号までに掲げる事務を行うために必要な実態調査及び研究を行うこと。 (5) 第12条に基づき,国民に対し広報及び啓発活動を行うこと。  2 報告  内閣総理大臣又は関係各大臣は,前項第3号の規定による勧告に基づき講じた施策につ いて,委員会に報告しなければならないものとすること。 第31条(職権の行使)   委員会の委員は,独立してその職権を行うものとすること。 第32条(資料の提出等の要求)  委員会は,その所掌事務を遂行するため必要があると認める時は,関係行政機関の長に 対し,資料の提出,意見の表明,説明その他必要な協力を求めることができるものとする こと。 第33条(組織)  委員会は,委員30人以内で組織するものとすること。 第34条(委員の任命)  委員会の委員は,障がいのある人,障がいのある人の権利及び福祉に関する事業に従事 する者並びに学識経験者の中から,内閣総理大臣が任命するものとし,過半数を障がいの ある人によって構成するものとすること。 第35条(委員の任期)   委員の任期は,3年とするものとすること。 第36条(地方障がい者政策委員会)  1 都道府県障がい者政策委員会   都道府県に,地方障がい者政策委員会を置くものとすること。  2 所掌事務  都道府県に置かれる地方障がい者政策委員会は,次に掲げる事務をつかさどるものとす ること。 (1) 都道府県障がい者計画に関し,意見を述べること。 (2) 当該都道府県における障がいのある人に関する施策の総合的かつ計画的な推進につい て必要な事項を調査審議すること。 (3) 当該都道府県における障がいのある人に関する施策の推進について必要な関係行政機 関相互の連絡調整を要する事項を調査審議すること。 (4) 都道府県の障がいのある人に関する施策の実施状況を監視し,必要があると認めると きは,都道府県知事に対し勧告すること。  3 組織及び運営  都道府県に置かれる地方障がい者政策委員会の組織及び運営に関し必要な事項は,条例 で定めるものとすること。  4 市町村障がい者政策委員会    市町村に,地方障がい者政策委員会を置くものとすること。  5 準用  第2項及び第3項の規定は,市町村に置かれる地方障がい者政策委員会に準用するもの とすること。  6 構成  地方障がい者政策委員会の委員は,障がいのある人,障がいのある人の権利及び福祉に 関する事業に従事する者並びに学識経験者の中から,都道府県においては都道府県知事が, 市町村においては市町村長が任命するものとし,過半数を障がいのある人によって構成す るものとするものとすること。 以 上 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 受刑者の福祉支援について 2010年1月17日 提出者(監修) 総合福祉部会 構成員 弁護士 藤岡 毅 作成者 弁護士 芦 田 如 子(大阪弁護士会) 第1 一般刑務所出所後の手帳取得率の実態  厚生労働科学研究障害保険福祉総合研究事業(主任研究者・田島良昭氏)の「虞犯・触 法等の障害者の地域生活支援に関する研究」(平成18年度総括・分担研究報告書)のうち、 「わが国の矯正施設における知的障害者の実態調査」(分担研究者藤本哲也氏)によると、 一般的刑務所15カ所での聴き取りの結果、回答のあった27024名中、知的障害また はその疑いがある者は410名であり、出所後すぐに福祉的支援を必要とする人が多数い るにも関わらず、知的障害者として障害認定を受けて手帳を取得した人は410名中26 名(約6%)とのことである。 第2 「療育手帳を失効させていた知的障害者の支援のケース」が示す課題 1 事案  36歳男性・窃盗(飲食店のレジから現金を窃取)・累犯前科有・知的障害・てんかん・ 療育手帳期限切れでまったく保護を受けられず福祉につなげられなかったケースである。 母親兄妹は被告人との連絡を拒絶しており、身寄りがない状態で、10件以上の窃盗の同 種前科あり、20代後半から刑務所に出たり入ったりの生活だった。弁護人が受任後、情 状弁護のため、母親や入所していた施設へ連絡をとって、知的障害があることが判明した。 療育手帳をもっていなかったのは、施設を出てから更新手続きを怠って失効してしまった ためである。療育手帳の再発行の手続きのため、更生相談所へ相談したが、「拘置所へ出張 して検査・面談ができないから発行できない」といわれ、手続きが中断したまま、判決が 出て、再び服役するに至った。  療育手帳の再発行申請には18歳までに知的障がいがあったと推認される資料が必要と のことで、保護観察所、地元の生活支援センター等に協力依頼したが、有力な情報を得ら れず、申請は困難であった。仮に刑務所内で実際に福祉支援が受けられなくとも、刑務所 内での処遇に際して手帳をもっているかどうかで、障害の有無や程度に配慮してもらえる 可能性があるし、出所後速やかに福祉的支援につなげるために必要がある。この被告人に ついては、出所前に刑務所で「更生緊急保護」の制度を使って受け入れ先を見つけること を提案した。また、精神障害者保健福祉手帳の申請を目指し、刑務所指定医に診断書を作 成してもらうという方法もあることが後に判明した。窃盗の原因は、知的障害による盗癖 があり、前刑の出所当日、帰住先もない状態で、出来心で窃盗を犯したとのことである。 2 事案の評価  現行制度を仮に前提としても、療育手帳を取得し、福祉的支援につなげ、受け入れ先を 確保すれば再犯は防げると思われる。  既に述べたとおり、罪を犯した障害者の療育手帳所持率は低く、出所直後に福祉の支え を得られない事が累犯の原因となっている。療育手帳の申請には18歳までに知的障がい があったと推認される資料が必要であるが、福祉から排除されてきた多くの受刑障害者に とって、取得は困難である。また地域によって交付基準が異なるため、再発行の際に他の 地域で手続きを行う際に最初から手続きを行うことになり煩雑である。現状では、拘置所 や刑務所内にいる本人に対して面談による知能テストや医師による検査を行うことは極め て困難であり、手帳交付に最低限必要な検査を実施できないという限界がある。また、住 所不定者については所轄の更生相談所の協力が得にくく、刑務所から出所したばかりの者 は申請を受理してもらいにくいという問題もある。  また、罪を犯した障害者は、「社会適応性」に極めて重い障害をもつ。この認定項目は、 現在の「障害認定区分」に含まれておらず、出所後の受け入れに際して必要な福祉支援施 策と、実際に提供できる福祉施策のミスマッチを生んでいる。 3 新法制定における必要な課題 「受刑者の手帳取得、福祉支給決定制度」   塀の中での手帳取得制度、支援決定手続の確立  療育手帳の再発行手続き、とりわけ受刑中こそ、発行手続が容易に出来る必要がある。  拘置所・刑務所内で障害等級認定の診断、判定手続、相談支援、勘案調査手続、支援決 定手続が可能な法制度とすること。  取得申請上の妨げとなっている下記要件を改善し、療育手帳を所得しやすい環境を整備 する必要がある。療育手帳を受給中に申請することができれば、出所後の福祉支援を速や かにスムーズに受けることができる。出所後の再犯を防ぎ、本人が安定して生活するため には、療育手帳や障害者手帳等福祉支援を受ける地位が確保されていることが不可欠であ り、取得要件、交付基準の緩和の必要がある。  (ア) 矯正・更生保護施設、自治体の長、刑事弁護人等が代理人となって、手帳交付 申請、福祉支援支給申請等の手続が実施できるようにすること  (イ) 住所不定または住所に問題がある者については、矯正・更生保護施設の所在地 において療育手帳の申請手続きを行うことを可能とすること  (ウ) 療育手帳取得要件を全国統一し、交付基準を緩和すること 4 新法制定における必要な課題 塀の中段階での出所後に向けた就労移行支援  受刑中段階からの出所後に向けた就労支援、出所後直ちに受け入れ先が事前に確保出来 ているようにしておくことが肝要。 第3 療育手帳を所持している保護観察中の知的障害者の支援のケース 1 事案  40歳男性・窃盗(おもちゃや食べ物を万引き)・同種前科有・知的障害・療育手帳B2 (軽度)・執行猶予がつき、保護観察となったが、保護司の支援のみでは不十分と考えられ るケースであった。執行猶予判決後、保護観察となり在宅で生活していたが、その後、執 行猶予中に再犯で実刑判決となり服役している。執行猶予を獲得後、保護観察中に適切な 就労先が見つからず、自宅での監護体制も不備であったため再犯に及んだ(両親が高齢で、 母親が知的障害、父親も身体障害、父は裁判中に他界)。 2 事案の評価  保護観察所の職務の中に、刑務所出所者の社旗復帰に備えて帰住先の生活環境の調整を 行う職務がある。しかしながら、保護司がついていたが、知的障害に関する知識や経験が なく、福祉につなげなかった。弁護人が情状弁護の中で、就労先を見つけてきて本人に勧 めたがすぐに辞めてしまった。窃盗の原因は、知的障害による盗癖に加えて、金銭管理能 力の欠如とそれに伴う浪費による生活の困窮、就労先がないための貧困などがあった。 3 新法制定における必要な課題 「保護観察中の知的障害者の支援」 (1) 保護司に障害福祉に関する専門知識の研修を必須化させ、障害福祉部署と定期的に連 絡・協議の場を義務付ける (2) 自治体の障害福祉部署、相談支援センター等がイニシアチブを取って、保護観察中の 知的障害者の相談支援、福祉的支援を積極的に展開できる新しい制度とする。 (3) 仮釈放準備調査における配慮   地方更生保護委員会は、刑務所からの仮釈放申請に先だって、保護観察官に仮釈放準 備調査を行わせる。知的障害者がこの調査の対象となった場合に、地域支援移行につなげ るためのソーシャルワークの視点を取り込んだ調査や調整を保護観察官がコーディネータ ーとして関係者と連携することが求められる。 第4 刑務所内での福祉支援を必要としている高齢者で、手帳を所持していない者の支援 のケースが示す問題点と課題 1 事案   高齢者(66歳男性)・生活保護・糖尿病や心筋梗塞など持病あるケースである。同種前 科あり、前刑で服役後出所したが、高齢と持病で就労先が無く、生活保護を受けながら空 き缶拾いをして生活していたが、貧困のため、換金目的で空き缶と銅線を窃盗し、実刑判 決となった。窃盗の原因は貧困である。拘置所内でも刑務所でも適切な医療が受けられず、 投薬や医師の診察が受けられなかった。出所後は、更生保護施設に入所し、就労したが、 服役中に発病したと思われるガンで手術し、入退院を繰り返している。  日本全国どこにでも同様のケースが多数存在すると思われる。 2 受刑者が福祉的支援の権利から排除されている実態   収容先での医療・介護の放置状態、非人間的処遇。  罪を犯した障害者については、拘置所・刑務所内で、適切な医療や介護を受けることが 困難な状況にある。持病の治療や検査・投薬について、重篤な病状の場合には医療刑務所 で収容したり、外部の病院での治療・検査を受けることもあるが、多くの場合、放置され ているのが実態で、長期間の服役中に持病が悪化したり、刑務作業に支障を来すことが多 い。また、高齢や身体障害の場合、適切な介護を受けられておらず、知的発達障害者も適 切な個別支援を受けられていない実状があり、障害を悪化させる原因にもなる。 3 評価  そもそも「刑務所内で福祉支援が受けられない」という前提、思い込みは疑問である。  受刑者であっても適切な医療を受けるべき人権が保障されるべきなのは当然である。  また、受刑者の高齢化、持病や障がいを持つ者の増加に伴い、医療のみならず福祉的介 護も必要となる。現状においては、拘置所内や刑務所内で病気が悪化したり、精神疾患を 新たに発症する事例のほか高齢者の認知症発症などもあり、適切な医療と介護、福祉的支 援の必要性が高まっている。  身体障害を持つ者や介護を要する者については、補装具・日常生活用具(点字器・杖の 一部・ストーマ装具ほかさまざま)が利用できることは当然であるが、それさえ現実の運 用上、保障されていない。  また、聴覚障害者、言語障害者等のためのコミュニケーション支援、視覚障害者のため の点訳等の情報保障、あらゆる障害を持つ受刑者の相談支援、介護支援、就労移行支援、 移動支援等が制度として保障されるべきである。  適切な医療と介護を受け、福祉的支援を受けながら健康に生きる権利は、刑務所の内外 を問わず、人間として最低限認められるべき権利であり、早急に整備すべきである。  出所後に社会復帰が円滑に行なわれるためには、「出所した後から始まる支援」では時機 を失している。出所前に出所後の支援体制が確立していることが必要であり、例えば知的 発達障害者が受刑段階で障害特性に応じた適切な支援を受けられずに過ごしていれば、出 所後に社会参加が円滑に行なわれることは容易でない。「障害」とは社会との関係性に本質 があることを思い起こせば、受刑段階から各自の障害特性に応じた福祉支援が実行、実践 されていることが重要である。 4 新法制定における必要な課題 「受刑者の福祉的支援、医療を受ける権利の保障」  障害のある人がいかなる環境においても当然受ける必要な支援を受ける権利と制度を整 備する必要がある。  刑務所内での医療を受ける権利、障害福祉支援の保障を新法に書き切る。  自治体の障害福祉部署ケースワーカー、相談支援センター等が刑務所を訪問し、相談業 務、勘案調査、判定業務、支給申請受付、支給決定書交付等を行なうことを義務的業務と する。 第5 全般にわたって必要な課題 「司法と福祉の連携」  上記事例をはじめ、様々な現状をもとに、「受刑者に対する福祉的支援」全般については、 以下のような問題点と新法に向けた課題があげられる。 1 就労支援や受け入れ先確保のための司法から福祉への引き継ぎがないため、再犯の原 因となる  出所しても福祉につなげられず受け入れ先がないことや、出所時の所持金が低い(入所 期間が短い)ため出所後すぐに再犯に及ぶ可能性が高い事案が多いため、出所に際して就 労先や受け入れ先の確保が必要である。更生保護施設等のほか、市の高齢福祉担当、障害 福祉担当、障害者地域生活支援センターなどで今後の支援につき協議し地元の市町村、障 害者地域生活支援センターへ引き継ぐことが必要である。  また、出所に際して、障がいの有無を証明し、必要な支援を受けるため、手帳制度が存 続するのであれば、障害者手帳の所得・療育手帳の取得なども行うべきである。障害者手 帳・療育手帳を所持していないため、出所してもすぐに福祉サービスにつながらず、また、 手帳がないと同様に生活保護も受けにくいことがある。このような生活基盤の未整備が、 貧困や生活の不安定を招き、再犯(特に財産犯の場合の短期間での再犯)を生む要因とな る。新法において手帳制度に代わる支援制度が構築されるのであれば、同様の視点から、 出所後に「制度の谷間」にこぼれ落ちない支援が保障されるべきである。 2 刑事弁護活動(更生含む)自体に限界があり、司法と福祉の連携がとれていない  弁護人を初めとする司法関係者と、福祉の関係者との連携が必要となる。  刑事弁護のみでは限界がある一方、現状の制度上、受刑者にとって、弁護人以外に福祉 につなげるべき使命を持つ者はいないのであり、弁護人がその架け橋となり、福祉関係者 へ情報を提供し、受け入れ先の整備を図るべきである。  弁護士は、日常の刑事事件の国選弁護などで、厳しい社会で生活再建ができず再犯を繰 り返す障害等をもつ被告人などの刑事弁護に関わっている。特に被告人に障がいがある場 合、情状弁護において、更生にむけてのビジョンを弁護人がどれだけ示せるかが重要であ る。弁護士は、犯罪や非行をした人の更生保護制度の実情や経済的自立が困難な被告人へ の生活支援の必要性について認識を深め、被告人の更生に向けた効果的な刑事弁護を行う 必要がある。弁護士が福祉関係者へ本人の生活状況を引き継いだり、判決後や出所後に障 害をもつ被告人のためにケース会議を行う際には弁護士も出席するなど、司法と福祉の連 携を図るべきであるが、実際には、刑事裁判が終了した時点で弁護士との関わりは終結し てしまい、必要な情報が福祉関係者へ引き継げておらず、適切な福祉が受けられていない という問題がある。 3 新法制定における必要な課題  (1) 刑事弁護人、検察官、刑事裁判官に障害福祉支援に関する研修等を必須化するべきで ある。 (2) 刑事訴訟法の中にも、知的障害者に対する福祉支援の保障条項を設ける。  国は、帰住先がなく出所する障害者がある受刑者について、出所前から福祉事務所、福 祉施設、医療機関との調整を行い、経済的自立が困難な受刑者の出所後の住居や医療や福 祉支援の確保、生活保護受給につながるような社会復帰支援の仕組みや体制を作るべきで あり、障害者基本法があらゆる分野に適用される通則であることを指摘するまでもなく、 それらの事項は総合福祉法のみならず、刑事訴訟法にも法定されるべきである。 (3) 司法と福祉の連携の必要性を新法に明記する。  連携のためには、両者をつなぎ、コーディネートする役割を果たす社会生活支援センタ ー等の法制度化が求められる。 第6 就労支援先及び受け入れ先の確保について  障害を持った受刑者の出所後の就労率は低く、ハローワーク・情報誌・知人の紹介が端 緒になる者は少なく、協力雇用主への紹介が多いため、かかる協力雇用主を見つけ、受け 入れ先をみつけるために、福祉との連携が必要となる。帰住先の受け入れを確保するため には、刑満了後の出所に際し、市の高齢福祉担当、障害福祉担当、障害者地域生活支援セ ンターなどで今後の支援について協議し、地元の市町村、障害者地域生活支援センターな どへも引き継ぐことが必要である。 第7 最後に  現状において、更生保護施設が知的障害者を受け入れてはいるものの、受け入れた障害 者を福祉とつなげることなく更生保護施設から退所させているのが現状である。障害者を 自立させ地域生活を実現させていくことが重要である。  現在、刑務所に多くの心身に障がいのある受刑者が収容されているが、かかる受刑者が 出所後円滑に社会復帰していくためには、本人の生活再建に向けた社会的援助という視点 から、刑務所における処遇と仮釈放後の保護観察における処遇過程を重視し、出所前の生 活環境調整がおこなわれる新しいしくみつくりが求められる。  現在、罪を犯した障害者の地域生活支援に向けて都道府県単位で「地域生活定着支援セ ンター」事業が行なわれつつあるところ、法務・厚生労働省共同で、法制度として、相談 支援事業・コーディネート事業・更生保護事業・社会福祉事業、就労移行支援事業等を統 合した総合的社会支援センターとしてさらに発展することが期待される。 以上