総合福祉部会 第11回 H23.1.25 参考資料3 東川委員提出資料 平成22年11月1日                    失語症者の苦しみに関しての意見及び要望       茨城県立健康プラザ管理者、全国失語症者連合会顧問 大田仁史    障害をおった人は大きく分けると、1)失語症そのもので自分の中から出てくる苦しみ、 2)他人(社会)に苦しめられる苦しみ、に苦しむと言われます。  1)の自分の中から出てくる苦しみは、どんなに苦しくても自分で克服しなければなり ません。しかし、それには仲間とのふれあいが欠かせません。それをサポートする仕組み が必要です。  2)の他人に苦しめられる苦しみは、以下の4つのバリアに苦しめられる、と考えられ ます。  (1)物理的バリア  (2)制度的バリア  (3)文化・情報のバリア  (4)意識(心)のバリア  これらは自分で解決できない問題です。他人や社会が失語症者のことを考えて、変わっ てくれなければ、当事者や家族はいつまでも苦しみ続けることになります。  ことに(4)の制度によるものは、国や関係省庁に理解していただく必要があろうかと思い ます。ハンセン病の例を見れば明らかです。  失語症の人々やご家族が、もっとも不満や不公平感を持っておられるのは、介護認定や 障害者認定の制度です。言語障害はどんなに重度でも3級にしか認定されません。また手 足に全く障害が無い場合、介護認定の対象にもなりません。この改正は、何年も当事者が 求めていたことです。この是正が一刻も早くなされることが必要だと考えます。   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 失語症  脳血管障害、脳外傷、脳炎等々により、高次の神経心理機能障害(中枢神経障害)を 伴う言語障害で身体のまひを伴うことが多い。身体障害と脳機能障害の重複障害。  要望事項 ≪失語者と家族の要望事項≫ (1) 障害年金等級認定基準の障害相当の認定(本人および家族の生活支援がほしい)  若年(30〜40代)で発症した失語症者は失職し経済的基盤を失い生活が立ちいかない) (2) 身体障害者手帳等級の認定基準の障害相当の認定。(1級から6級までの認定要求)  現在は失語症者向けの適切なサービスが少ない。   (1)(2)とも、身体と脳機能の重複障害に対する認定がない。 (3) 訓練期間180日制限の撤廃 (4) 180日以前にも言語聴覚士が配置されておらず、言語リハが提供されていない施設が多 く、失語症者は多くの不利益を受けている。 (5) 訪問リハビリ対象に失語症者が入っていない。(法律上言語訓練が訪問ではできない)   医療機関や介護保険施設での言語リハ終了後も地域で社会生活を営むために   訪問リハビリで実地コミュニケーション訓練が必要。(訪問リハで職業復帰支援) (6) 集団言語訓練を健康保険で出来るようにしてほしい。 (7) 言語聴覚士の質の低下が最近著明で、失語症の評価や家族指導が不適切な場合が多い。 身体障害者手帳と精神手帳 1)身体障害者手帳・精神障害保健福祉手帳比較   *精神障害者保健福祉手帳認定基準     1級  日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度   2級  日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えること を必要とする程度   3級  日常生活又は社会生活が制限を受けるか、日常生活又は社会生活に制限を加 えることを必要とする程度    *失語症の身体障害者手帳等級認定 3級  家庭内での日常生活が著しく制限される(喪失) 誰が聞いても理解できない          4級  家庭周辺での日常生活活動が著しく制限される(著しい障害)      他人には理解できない      無社会での日常生活が著しく障害される(障害非該当)会話が可能だが不明瞭 で不便      2) 障害(厚生・国民)年金  *身体障害における障害年金認定基準 【令別表】国年令別表 【等級】1級 【障害の状態】前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必 要とする症状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずるこ とを不能ならしめる程度のもの 【等級】2級 【障害の状態】前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必 要とする症状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を 受けるか、又は、日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの 【令別表】厚年令別表1 【等級】3級 【障害の状態】前各号に掲げるもののほか、身体の機能に、労働が著しい制限を受けるか、 又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの 【令別表】厚年令別表2、国共済別表2 【等級】手当金、一時金 【障害の状態】前各号に掲げるもののほか、身体の機能に、労働が制限を受けるか又は労 働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの *精神障害者障害における障害年金認定基準 【障害等級】一級 【精神障害の状態】日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの 【障害等級】二級 【精神障害の状態】日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加え ることを必要とする程度のもの 【障害等級】三級 【精神障害の状態】日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは 社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの *以下のように、失語症者は日常生活を一人で送る事が困難な者が多い。* 1)失語症者の症状(重度) (1) ひらがな、カタカナが理解できない。濁音が言えない。 (2) 物の名前が記憶できない。物の名前が言えない。 (3) 自分の意思が伝えられない (4) 文章が書けない (5) 計算ができない(買い物ができない) (6) 電話で話すことができない(留守番もできない) (7) その場では人の言葉を理解できても、後で確認すると全く理解していない (8) 数字が読めない。時計が読めない。標識が読めない (9) 人の名前を忘れている(妻や子供の名前も忘れている)→わかっていても言えない。 (10) 左右を間違える (11) 入浴してもシャンプーと、リンスの区別がつかない。(ラベルを読んで理解できない) 2)失語症者の症状(中程度) (1) ひらがな、カタカナが読めない。 (2) 漢字の意味がなんとなく理解できる。 (3) 言葉の順序が入れ替わる【例・たまご→たごま】 (4) 挨拶(おはよう、今晩は等々)が出ない、言えても、どんな場合でも「おはよう」と言 ったりする。 (5) 相手の言うことが理解できない。(口を拭きなさいと言っても、鼻をかんだりする) (6) 自分の意思が伝えられないので、最後にはやる気をなくし、放棄する。 (7) 即答が出来ないので、認知症と間違えられる。周りが寄ってこなくなる。 (6) 自分の症状が正しく言えない、自分の症状がわからない。  (時に他の病が重症に陥り、死に至った事例もる。→この項の末尾参照) (7) バイリンガルであったものが、母国語も他国語も理解不能 (8) 字が読めないので、慣れないところへは一人では外出ができない。 (9) デイサービスに行っても、高齢者から、この人全く話さない変な人だと、言われるとデ イに行くのを拒否する。 (12) なんでもオウム返しをしてしまう。(自己紹介等、前の人の名前を言う) (13) 頭の中では分かっている時も、声に出すと別のものと言い間違える。 重度中度の失語症者の自分の症状が言えない結果の例(命にかかわる現実もある) (1) 食事がのどを通らなくなり、主治医の診断は、脳梗塞の後遺症の嚥下障害ということ でとろみの食事等に替える。痛みも出てきて、長引くので、総合病院を診察。  咽頭がんが発見されるが、手遅れで帰らぬ人となる。 (2) 本人は見えにくかったのだろうが、何も言わないで、月日が過ぎ、健康診断の際 進行した緑内障になっていた。  失語症症状(軽度) (3) 常に社会的疎外感を感じる (4) 名詞が出てこない。言い間違える(ハンバーガーをハンカチと言ったりする) (5) 意思を伝えるのに、長時間かかる (6) 家族の名前を間違える。物の名前を間違える (7) 文章が長く書けない。助詞を正しく使えない。 (8) 正確な意志や感情を伝えられない。 (9) 左右を間違える (10) ひらがな、カタカナが難しい。(中には,漢字が難しい者もいる。) (11) ウエルニッケ失語症だと、理解力が弱く、周りからは良くしゃべるので失語症と思われ ない。 *軽度といえども、就労に結び付くのは非常な困難がある。 高次脳機能障害の症状も、複合的に表出する失語症者が約60%いると言われる。 (1) 入浴してシャンプーとリンスの使い方が分からない (2) 食事の時、適切な手段が何かわからない(箸か、フォークか)  目の前にいる人が何を使うかを確認してから、同じものを使って食事をする。 (3) 入浴時にシャンプーでの泡のままふろ場から出てきてしまう。 (4) ほかの扉を開けて,トイレと思い用をたす。 (5) 食事時、口の周りが汚くなるので、口を拭くように言っても、意味が分からず  手を拭いたり、鼻をかんだりする。鼻をかみなさいと言えば、他を拭く。というように 言葉の意味がわからない。拭くのだろうということは少しわかるらしい。 (6) 何を尋ねても同じ言葉の繰り返し。 たとえば『死んだふり!』と、言い続ける。 (7) 調理ができる場合、味付けは一切しない。 (8) 洋服の季節感が全くない (9) スーツを洗濯機に入れ、パーカーなどを洗濯屋に持っていったりする (10) 銀行通帳などの管理ができない (11) 郵便物の分別が出来ない(文字が読めない為) (12) 他人との話し中、理解していないのに、わかったようにうなずく、確かめるとわかって いない。 (13) てんかん発作の併発 (14) 徘徊、何でも触る。 (15) 感情の起伏が激しい、(泣く、笑う、怒る、等)人前もはばかる事がない。 (16) 知的障害と混同される。