総合福祉部会 第5回(H22.7.27) 参考資料1―3 岡部委員提出資料 論点C-2-1) にかんする参考資料 岡部耕典「社会福祉基礎構造改革とケアの自律」:精神神経学雑誌第108号(2006年8月) より抜粋 給付調整モデル(「ものさし」の問題)  「割当優位」の介護保険制度の給付調整の特徴は、以下のように整理できる。   @ 利用申請より先に要介護認定が必要である。   A 要介護認定により受給量に「枠(上限)」が設定される。   B「抽象的/要介護度基準・第三者型」の給付判定システムである。   C 給付抑制メカニズムとして応益負担がもちいられている。  一方、要介護認定をもたないこれまでの支援費制度の給付調整は、以下のように介護保 険制度とは対照的なものであった。   @ 利用者が希望を申請するところから開始される。   A サービス受給量の「枠(上限)」はない。   B 「具体的/生活支援の必要度基準・当事者参加型」の給付判定システムである。   C 給付抑制には働きにくい応能負担の制度となっている。  前者は、給付調整過程における利用者の主体性の関与が基本的には想定されておらず、 供給側(supply side)からの給付コントロールが強く働きうる「第三者判定モデル」であり、 後者は、利用者と行政裁量の関与度が高く、需要側(demand side)から必要を構築してゆく 「交渉決定モデル」となっている。   (表始まり)  (表題)第三者判定モデルと交渉決定モデル1 ○分配のイニシアティブ ・第三者判定モデル:供給側(supply side) ・交渉決定モデル:需要側(demand side) ○支配的な調整原理 ・第三者判定モデル:適格性(elibility) ・交渉決定モデル:折衝(negotiation) ○給付調整の在り方 ・第三者判定モデル:抽象的/要介護度基準・第三者判定型 ・交渉決定モデル:具体的/生活必要度基準・当事者参加型 ○現実の制度   ・第三者判定モデル:介護保険制度   ・交渉決定モデル:支援費制度 (表終わり)  これに対して、障害程度区分と市町村審査会というしくみを組み込んだ障害者自立支援 法は、以下のような両モデルの「折衷構造」である。 @ 利用者が希望を申請するところから開始されるが、障害程度区分の判定はうけなくては ならず、一定の障害程度区分に該当する者しか支給申請できないサービスがある。2   A サービス受給量の「枠(上限)」はないが、障害程度区分により、国庫負担基準が 決められ、間接的なコントロールをうける。 B 「抽象的/要介護度基準・第三者型」の給付判定と「具体的/生活支援の必要度基準・ 当事者参加型」の給付判定というふたつのプロセスが組み合わされている。   C 給付抑制に働きやすい応益(定率)負担の制度が、複雑な減免制度で補完されてい る。  このような制度設計がおこなわれた理由としては、支援費制度に給付コントロールのメ カニズムをビルトインすることに加えて、将来の介護保険との統合に向けての制度の整合 性確保もあるのだろうが、「折衷」のさじ加減次第では、極端な給付抑制と利用制約を可能 とするメカニズムであることには大いに注意が必要である。3 (注) 1 岡部(2006)「障害者自立支援法とケアの自律」明石書店p.90 2重度訪問介護、行動援護、重度障害者等包括支援、共同生活介護(ケアホーム)、施設入 所支援等。 3 この懸念は現実化したが、一方で政策側が意図したものではないとはいえ、審査会にお ける判定変更が相次ぐなどの「対抗」も可能な仕組みでもあった。