08/10/24 「日本経済と企業にとってのポジティブ・アクションを考えるシンポジウム」議事録 日本経済と企業にとってのポジティブ・アクションを考えるシンポジウム − 改めて考える ポジティブ・アクションの必要性・重要性 − 日時 平成20年10月24日(金) 13時20分〜15時30分 場所 女性と仕事の未来館ホール                    主催 女性の活躍推進協議会                       厚生労働省                                           後援 (社)日本経済団体連合会                       全国中小企業団体中央会                       東京商工会議所                       日本経済新聞社 ○司会 ただ今から「日本経済と企業にとってのポジティブ・アクションを考えるシン ポジウム」を開始いたします。本日のコーディネーターとパネリストをご紹介いたしま す。  コーディネーターを務めていただきます鹿嶋敬様です。鹿嶋様は、日本経済新聞社の 編集委員兼論説委員等の要職を歴任された後、2005年より実践女子大学人間社会学部教 授として、非正規雇用問題のジェンダー視点からの分析、男女共同参画社会の形成に関 する諸問題の分析などを手がけておられます。また、内閣府男女共同参画会議議員であ りますとともに、現在、次世代のための民間運動〜ワーク・ライフ・バランス推進会議 代表幹事としてもご活躍されています。  パネリストのご紹介をいたします。伊藤卓二様です。伊藤様は、株式会社大崎タイム ス社の社長でいらっしゃいますが、株式会社大崎タイムス社は、ポジティブ・アクショ ンの積極的な取組により、平成17年度「均等推進企業表彰」宮城労働局長優良賞を受賞 されています。  内海房子様です。内海様は、NECラーニング株式会社代表取締役執行役員社長でいら っしゃいます。内海様は、企業が自主的にポジティブ・アクションに取り組むことを促 す仕組みとして、厚生労働省と経営者団体が連携して開催しております、女性の活躍推 進協議会の委員としてもご活躍いただいております。  金子元昭様です。金子様は、シナノケンシ株式会社代表取締役社長でいらっしゃいま すが、シナノケンシ株式会社は、先ほど表彰式がありましたとおり、今年度の「均等・ 両立推進企業表彰」ファミリー・フレンドリー企業部門厚生労働大臣優良賞を受賞され るとともに、同じく今年度、均等推進企業部門長野労働局長優良賞を受賞されています。  本日は、ただいまご紹介させていただきましたコーディネーター、パネリストの皆様 より有意義なお話がいただけるものと存じます。それでは鹿嶋様、どうぞよろしくお願 いいたします。 ○鹿嶋 皆さん、こんにちは。実践女子大学の鹿嶋と申します。パネルディスカッショ ンを始める前に、私のほうから10分程度、いわゆるポジティブ・アクションの現状のよ うなものをお話したいと思います。 皆さんのお手元に、水色の「ワーキングウーマン・パワーアップ会議」と、「ポジティブ・ アクションの現状」という2つのパンフレットがあると思います。最近、事務局を社会 経済生産性本部に置き、ポジティブ・アクションを企業に働きかけるなどして職場での 女性の地位・処遇の向上を目指すための会議、ワーキングウーマン・パワーアップ会議 を立ち上げました。そのために、ポジティブ・アクションの現状を少し調べましたが、 「ポジティブ・アクションの現状」からもわかりますように、やはり一服感といいます か、ポジティブ・アクションはすでに実施済みというイメージが結構強いのです。その 辺りは後でデータでお示ししますけれども、そんな取り組みは既に終わったよ、うちの 女性社員たちはみんな活躍しているよ、という反応が多かったです。ただ、データで見 る限りは必ずしもそうとは言えない現状が浮かび上がります。  まず、「ポジティブ・アクションの現状」の1頁では、女性の採用状況を示しています。 特に技術系についてですが、上のグラフからいくつか特徴を申し上げます。四年制大学 は、平成15年度と平成18年度では男性のみの採用が増えてきていて、7.0ポイントぐ らい増えています。一方で短大・高専卒にはどういう特徴があるかといいますと、男性 のみの採用は横ばい状態ですけれども、女性のみの採用が17.8ポイントぐらい増えてい ます。この状況をどのように分析するかというのはさまざまな見方ができます。  私は、新聞記者時代に、労働問題を長く書いてきましたが、そんな視点からこの結果 を分析してみると、基幹労働力には四大卒男性を投入し、そうでない分野に女性を投入 する傾向が見られるわけです。つまり、ポジティブ・アクションは一服感が出ている一 方で、基幹社員は男性という状況も復活してきているのではないかということが言える と思います。  2頁は女性の配置状況です。いずれの職場にも男女共配置されているわけですけれど も、ただし営業部門については男性が多い。営業はかなり時間が不規則になりますので、 そういう意味ではワーク・ライフ・バランスが大事ですが、その点女性は家庭回りの責 任も担う現実があるわけです。あるいは得意先で女性を敬遠するような傾向もあるかも しれません。そのような背景から、営業には女性が少ないということがあるのかと思う のですが、これもいろいろな分析ができると思います。  3頁は、女性の管理職への登用状況です。全体の雇用者の4割を女性が占めるわけで すが、管理職になると極めて少なく、全体の管理職の中で女性の管理職は1割にいって いないです。管理職に占める女性の割合というグラフの上から2番目の緑色のグラフが、 係長相当職以上に占める女性管理職の比率です。これは役員も含まれていますけれども、 直近の数字で6.9%しかいません。いわゆる係長クラスであれば1割を超しているので すけれども、全体を含めますと7%弱です。部長相当職になると2.0%という極めて少な い数字になります。これで見ても、今後さらにポジティブ・アクションを積極的に推進 していく必要があるのではないかという実態が浮かび上がってまいります。  4頁は国際比較です。国際比較で見ますと、日本の管理職は9.4%、そして前頁では 6.9%ということで、この差は何かということですが、調査の出所が違っていて、ここは 管理的職業従事者ということで、必ずしも係長以上というふうには取っておりません。 ですから、日本は9.4%になっておりますが、これも欧米先進国に比べると非常に低い ことがわかります。  その下に書いてあるのが、ジェンダー・エンパワーメント・メジャーと、ジェンダー・ ギャップ・インデックスです。日本は93カ国中、ジェンダー・エンパワーメント指数で は54位です。この基になる数字は2.のところに書いてありますが、女性の所得と、そ れから専門職、管理職女性の比率と、国会議員に占める女性の割合で出しています。女 性の所得については、日本もそれほど遜色はないのですけれども、なにせ国会議員の比 率が少ないことと、それから女性管理職の比率が少ないということで、93カ国中54番 目にランクされます。日本の周辺にはどういう国がいるかというと、ベトナム、ドミニ カ、モルドバなどです。  このほかに、ここには載っていませんけれどもHDIというのがあります。人間開発指 数というのがそれですが、日本はランクが上位です。基準になる数値が、平均寿命、国 民の所得、教育水準ということでそれは高いのですが、一方で実質的な男女平等指数の ジェンダー・エンパワメント・メジャーは非常に低いという実態があります。ジェンダ ー・ギャップ指数も同じようなことで大変低いわけです。  5頁は勤続年数です。冒頭のコメントに書いてありますように、10年以上勤務する女 性の割合が32.8%ということで、時系列で見ていきますと徐々に増えていることがわか ります。ただし、男女間の勤続年数にはまだ4.6年の差があります。女性の勤続年数を 今後どう考えるかという問題、これは賃金格差などに反映する問題ですので真剣に考え ていかなくてはならないと思っています。  6頁は、現在のポジティブ・アクションの取組の状況です。先ほどから私は、ポジテ ィブ・アクションはどうも一服感があるのではないかと申し上げておりますが、それは 平成15年度と平成18年度のデータを見ていただければわかると思います。いちばん左 端の「既に取り組んでいる」が、平成15年度は29.5%なのに対して、平成18年度は20.7% に落ちています。8.8ポイント減ということになりますが、この数字も一服感があるの ではないかという根拠の一つです。ポジティブ・アクションを行うかどうか、「今後の予 定については、わからない」というところも平成18年度では50%に増えています。  企業規模別で見ますと、5,000人以上の企業は「既に取り組んでいる」という所があ るのですけれども、30〜99人の小規模企業になりますと、取り組んでいるのは2割弱と いうことで、この辺りにも今後中小企業が、どうポジティブ・アクションを推進してい けばいいのかという問題があることからうかがえます。  そこのデータにはないのですけれども、ポジティブ・アクションに取り組まない企業 の理由を厚生労働省が聞いています。それを見ますと、「既に女性が活躍している」とい う答えがかなり多くて、56.7%に達しています。そういう見方が出ていることも、ポジ ティブ・アクションの一服感につながっているのではないでしょうか。ところが、実態 はずっと見てきましたように、女性管理職の比率は7%にも達していないのが現状です。 企業が想定する感覚と実態との間にずれがあるのではないかと思っております。  7頁は、ポジティブ・アクションの効果等々です。これは一言で言えば、女性の能力 が発揮されることによって、営業成績もよくなるのだということがそのグラフからわか ってまいります。  8頁は、勤続年数と利益率の関係です。女性の勤続年数が長くなれば利益率も上がる、 管理職が増えれば利益率も上がるということが、この2つのデータから示されます。  同じく9頁で、今年4月に厚生労働大臣が経済財政諮問会議に提出した資料です。今 後3年間の重点的目標として、若者・女性・高齢者・障害者をはじめとした支援策を展 開し、誰もが十分能力を発揮できるような社会にする。若者・高齢者といえばエイジフ リーの社会をつくる。女性に差別のないような社会といえば、それはジェンダーフリー でありますし、障害者といえばハンディキャップフリーだと思います。そのような社会 をこれからつくるのだというのが日本の目標です。  その中に大きく朱書してありますように、ポジティブ・アクションの取組件数を、2010 年度までに40%超にしたいという。現状は20.7%ですので、それを倍にしたいというの が政府目標です。  私は、社会経済生産性本部でワーク・ライフ・バランスを推進しています。それを推 進するにあたり、実効性を持たせるためにはどうしたらいいかという議論をずっとして きました。そのためには、女性がただ長く働ければいいということではなくて、女性も 自分の仕事を手離したくないというようなところにまで企業をかえていかなければなら ない。つまり、仕事の質まで考えていかなくてはならないのだろうと。仕事の質の向上 の中には、当然のことながら女性の管理職登用という問題も含まれるのですけれども、 そのためにもう1つの国民会議として、先ごろワーキングウーマン・パワーアップ会議 なる組織を立ち上げました。  パワーアップというと、筋トレみたいなイメージかもしれませんが、企業にとっての 体力増強の問題ですから、言ってみれば筋トレのようなものという気もしております。 後ほど時間があれば詳細について少し説明しますが、もし時間があるときに皆さんも是 非、それに関する資料も用意しましたのでお目通しいただければ幸いです。  それではシンポジウムを始めさせていただきます。まず、ポジティブ・アクションに 取り組むきっかけ等々を、3人のパネリストの方々から大体10分前後を目処に話をして いただきます。最初は、大崎タイムスの伊藤さん、2番目はシナノケンシの金子さん、 それからNECラーニングの内海さんという順番でお願いいたします。 ○伊藤 ただいま紹介いただきました伊藤です。私は、宮城県仙台市から、新幹線で15 分の所にある大崎市にある会社からやってまいりました。本日、宮城県は雷鳴が轟いて いて嵐だという情報をいただいています。足元を掬われるような状況で、皆さんの前で 話すよりも浮き足立っている状況です。  私は、男女共同参画社会については全く知らなかったのですが、たまたま10年前に代 表権のある専務に就任いたしました。その2年後に、私どもの町の隣にある岩出山町と いう城下町の町長が、男女共同参画社会の取り組みなり考え方を行政に活かしたいとい うことで委員に委嘱されました。その町は、全国でトップを目指してスタートしたわけ ですが、たまたま議会対応に失敗し、何日か遅れて可決したために、全国で2番目に男 女共同参画推進条例に基づくまちづくりがスタートしました。  私が申し上げたいのは、それまでは男性とか女性の差別というものを全然認識しない で会社経営に当たっていたのですが、そこでこういう法律があることを知りました。私 も偶然というわけではないのですけれども生え抜きで、新聞記者からスタートしたので すが、 それまでは何の取柄というかキャッチフレーズがなかったのです。  それで、私はこの委員の委嘱を受けていろいろ勉強していくうちに、これだと思った のです。そのときは無我夢中でスタートしたのですが、やはり男性と女性を小さなロー カル紙が同じテーブルに上げるというのは、相当エネルギーが必要です。私が理想とす る会社のシステムにできたのは、それから2、3年してからでした。そうしたところから スタートしたわけですが、本日皆さんがお持ちのプリントの内容のような資料が、委員 をしていると次々に行政から私の所に送られてきました。私は、素直にそのとおり企業 経営に活かしてまいりました。  それまでは、私も亭主関白で、さだまさしと同じ時代に育っているものですから、か あちゃんは賄い婦のような認識でいました。そしたら、たまたまその委員の中に、ご主 人が同じテーブルにいながら、箸がないと箸を持ってこいとか、醤油がないと醤油を持 ってこいとか、うちのとうちゃん本当に頭にくるという話が聞こえてきました。  私は、会社を男女平等にすることだけではなくて、やはり出発点は自分からだと思い ました。そういう家庭生活から始めていこうということで、私はそれから炊事場に立つ ようになりました。ただ料理はできないので、まず下働きから始めました。やはり経営 者が男女平等を強調していくと、家庭生活もそのようにして切り換えていきましたから、 社員の方々も結構同じテーブルに立っていただけるようになりました。日本は儒教の国 ですから、男性が優位な社会機構なのです。これを打破するには自分から変えていかな くてはならないということで、実生活から始まりました。  たまたまこの委員になったころ、娘はまだ女子大の3年生でした。私が、食事の後炊 事場で皿洗いをしていたら娘が、「おかあさん、みっともないから駄目じゃないの」と言 って娘が親子喧嘩をして泣いたりした時期もありました。今は娘も家庭の主婦になり、 おじいさんが皿洗いをするのが当たり前のようになってしまいました。  私は、ここから男女平等が始まるのだと思います。ここに厚生労働省のパンフレット がありますが、このシンボルマークは人と人とのハートなのです。やはり、ハートから 切り換えていかないと、私たちの実生活は実践されないということだと思います。  職場づくりも始めました。先ほど鹿嶋さんにも話したのですけれども、昔は新聞社と いうと、鉛を活字に溶かしたりする公害型の企業だったのです。ところが、ワープロや パソコンの導入により、もう危険なものは全部なくなりました。今は、各セクションで 男性も女性も同じように働いています。そうした、ちょっとした発想の転換が女性進出 の土俵になったと私は理解しています。  私が社員にいつも申し上げるのは、21世紀は女性の時代であるということです。笛吹 けど踊らずということもありますけれども、やはり社長がそのようにして話をしていく と、女性の方は頑張ります。そういうことで、取材先には男性記者よりも、女性を派遣 します。社長は男性が多いですし、先ほど説明がありましたように女性はほんの少しで す。そうすると、社長さん方は積極的に応じてくれます。私たちは、女性が本当に光輝 く職場にというところまで持って来ることができました。 ○鹿嶋 伊藤さんは、まず自分から変わっていったということなのでしょうね。会社で 部下に命令したというだけではなくて、まず自分が、育児をする年ではお互いにないで しょうから炊事場に立って仕事をこなしていったと。今度は、そういう自分の生活変革 を職場の中にも浸透させていったということです。ちなみに伊藤さんの新聞社には45 人の社員がいて、女性が20人、男性が25人でよろしかったですか。 ○伊藤 今は、パートを入れると約100人います。そして男女比率はほぼイコールです。 女性の管理職は30.2%ですから、3人に1人が女性です。役員待遇が3名います。取締 役に準じる理事職も女性から抜擢して働いていただいています。 ○鹿嶋 炊事場に立つ話と同時に、その辺りも是非話していただいたほうがいいかもし れません。男女比率半々ということで、社長が理想としたような会社づくりをなさって いるのだろうと思っております。そのほかにもいろいろ聞きたいことがあるのですけれ ども、また後でいろいろ話をしていただきたいと思います。  次は、シナノケンシの金子さんからお願いいたします。シナノケンシは小企業ではな くて、従業員が1,100人ぐらいいる中規模企業です。長野県では大企業の中に入ってく るのだと思いますがよろしくお願いいたします。 ○金子 ご紹介いただきました金子です。いま伊藤社長からお話があったのですが、我 が家では家内は私よりちょっと年齢が下ですけれどもずっと働いています。女性が働く ということに関しては全く違和感はありません。私は両親と同居しているものですから、 子供3人の世話は母親が随分手助けをしてくれたという田舎の特殊性があるのだと思い ます。女性が働くことに関しては全く違和感がなくて、会社の中ではどうしたらいいか ということは、私なりに同じ問題意識は持てたのかと思っています。  私のプロフィールに書いてありますように、大学時代から東京に出て、その後はアメ リカへ行ったりして、自分1人で暮らしていたので料理も得意です。買物から皿洗いま で全部やるという、ひょっとしたら理想の亭主ではないかと思っています。そういうこ とで、男女の分業には慣れていました。  私どもは地方におりますし、製造業です。ご多分に漏れず、製造の現場はどんどん海 外に移転しています。私どもの今の主力の製品は、小型精密モータということで、皆さ んの家庭にある湯沸器であるとかエアコンであるとか、オフィスで使っていただく複写 機、プリンター、さらにはハイブリッドの車に使われています。マーケットとすれば世 界のほうが多いということだと思います。ですから、私どもの場合も生産は17年前から 中国に進出し、量だけで言えば海外生産比率は90%近いところまできています。かつて は工場にたくさんの女性のワーカーがいて、オフィスには比較的男性中心という労務構 成でしたが、これが大きく変わってきています。  我々が会社としてポジティブ・アクションに取り組まなければいけない理由というの は、第1に人材採用が難しくなってきているということです。地方に行けば行くほど、 人口の減少が見られます。私も地元の上田高校を卒業しているのですが、長野県には信 州大学がありますけれども、ほとんどの人は東京とか関西の大学へ行きます。それで、 就職も中央に就職するということで、最初から地方の企業に入ってくれる人はやはり減 っています。  労働力人口が減っているという大きなトレンドの中で、地方の我々のような中堅企業 が人材を確保するというのは徐々に難しくなってきているという問題意識がありました。 そういう中でどうしたらいいかということになると、やはり女性の活用ということにな ります。女性・高齢者・外国人ということを言って、いわゆる全員参加の社会というこ とになるのだろうと思います。  私どもも、60歳以上の方だけの会社をつくったり、外国人の技術屋を正社員に登用し たりということを20年近くやっています。全員参加というのが、我々にとって1つの大 きなテーマでありますので、その中での女性ということの位置づけというのは、比較的 簡単に社内でのコンセンサスは取れたと思っています。  このテーマが「きっかけ、内容、効果」ということですが、内容については先ほどフ ァミリー・フレンドリーで表彰をいただいた資料の中に私どもがやっていることが書い てあります。そんなに際だったことをやっているというよりも、たくさんのメニューを 用意して、できるだけたくさんの方に使っていただけるということかと思っています。 我々は中小企業ですので、そんなに資金面が豊かではありませんので、補助金をたくさ ん出してということは残念ながら難しいです。非常に競争の厳しい産業におりますので、 競争力が落ちるようなことはやりにくいということです。時間短縮などは、それこそフ レキシブルに、いろいろなケースに対応してやっていけるというようなことです。そう いうことを積み重ねて、たくさんの方に使っていただける制度、これは全体としての制 度ということだと思います。  私ども地元のこういった関係の方とお話をしていると、それぞれの企業で制度はある のだけれども、申請をしてもすんなり通らないといいますか、取るなという圧力を感じ るといったことは、私どもでは比較的ないのだろうと思います。それは、トップの方針 がどうのこうのと書いてありますけれども、私自身もそういうことをやろうということ を言っています。そういう意味で会社の雰囲気が使いやすくなっているということも1 つの理由かと思っています。制度はあるけれども使えないという会社がもしあるとすれ ば、それは明らかにトップの責任ということになるのだろうと思っています。  効果ということに関しては、これからの我々の社会、日本で製造業の置かれた立場と いうことを考えると、量で勝負をすることはできませんので、質を高めていくというこ とだと思っています。我々が社内で言っているテクノロジーというのは、もちろん新し い製品の技術的なエクセレンスというか、そういう意味での技術、物を開発する技術な のです。  トヨタ自動車のように生産技術のところで、もしくは管理技術といいますか、在庫を つくらない、無駄をなくす。私どもは開発技術と生産技術を大事にしようと言っていま す。ホワイトカラーの生産性という意味でいくと、管理技術のところも高めていかなけ れば国際競争には生き残れない。つまり、知的な頭を使う仕事の人をどうやって採って いくかということになると、やはり先ほど言った多様性ということで、いろいろなもの の見方があったほうがいいだろうということです。女性、外国人、若い人、少し年上の 方といったように、たくさんのタイプの違った方が会社にいると効果が上がってくるは ずだと思っています。その効果が出ているかと言われるとちょっとあれですけれども、 どこかで出てくるだろうと思ってやっています。  こういったことをやることによって、地域で良い意味での注目をされますので、先ほ ど申し上げましたように採用が非常に厳しくなってくる中では、必ずプラスに働くだろ うと考えています。 ○鹿嶋 その効果の中で、地方での人材難があるとおっしゃっていましたが、少しは効 果が出ているのですか。例えば、新卒で優秀な人が採れるようになったとか、女性の優 秀な人が集まってくるとか。 ○金子 これは、なかなか測定は難しいのでしょうけれども、採用面接というのは、最 後は役員面接ですので私もしますけれども、そういう中でどうして当社を志望されます かという中に、「働きやすさ」ということをおっしゃる方がおられますが、そういう方は それを目にして応募されているということです。そういう人数は明らかに増えています ので、そういう意味での効果はあるだろうと思っています。 ○鹿嶋 働きやすいというのは男性もですか。 ○金子 私どもでは、男性の育児休暇というのもいますので、そういう例はまだまだ少 ないようですので、そういう意味での注目度はあろうかと思います。 ○鹿嶋 たぶん、男女共に私どもの時代とは違った働き方といいますか、そういうのは 違ってきているのかもしれませんね。 ○金子 そうですね。 ○鹿嶋 次は、NECラーニングの内海さんからお話をいただきます。 ○内海 皆さんこんにちは。NECラーニングの内海です。NECラーニングというのは、NEC グループの中の教育会社で、3年前にNECの中の教育部門が分社化した新しい会社です。 NEC及びNECグループ各社の人材育成、あるいは一般企業向けにも教育研修やeラーニ ングなどを提供しています。古くから、教育部門には女性社員が多かったので、私ども の会社の女性比率は、NEC本体と比べるとだいぶ高くて、3分の1の34%です。管理職 の中の女性比率も17%ですから、女性の比率ほどではないのですが、その半分までには 到達しているという状況です。  本日は、ポジティブ・アクションをどのようなきっかけで取り組んだかとか、その内 容について紹介してほしいということでしたので、NECラーニングというよりは、その 母体となっておりますNECのポジティブ・アクションについてご紹介いたします。だい ぶ昔の話になるのですが、1981年(昭和56年)のころ、ポジティブ・アクションとい う言葉はなかったので、女性の活用と言っておりましたが、女性をもっと活かして使わ なくてはという気運が社内で盛り上がってきました。  それはなぜかと申しますと、そのころは、ソフトウェアの需要が急激に増大してきた 時期で、このまま行くと男性だけの力ではやっていけない、女性の力を借りなければこ の先大変なことになるという危機感から、女性技術者を採用しよう、育成していこうと いう決断に至りました。それまでも全く採用していなかったというわけではないのです けれども、私が入社した1971年(昭和46年)ごろはまだ大卒の女性社員を採用してい ました。それで私も入れたわけです。ところが、そのころ入社した女性たちは長続きせ ず、何年か経ったらその1割ぐらいになってしまったということで、会社のほうでも女 性を採用しなくなってしまって、ほぼ10年近く大卒の女性社員を採用していませんでし た。  そして、先ほど申しましたような理由で、1981年(昭和56年)から女性技術者の採 用を始めたのです。最初の年は50人採用し、次の年に100人、それから150人、200人 と毎年増やして、その後男女雇用機会均等法が1986年に施行されましたが、その年から 事務系の総合職も加えて、200〜250人ぐらいの採用を続けてきています。  1981年からの大量採用は、1986年から始まる事務系の女性総合職の活用に大変役に立 ちました。ロールモデル的な存在として、5年前に入った人たちの例を見ながら進めら れることができたのではないかと思います。  もう1つのポジティブ・アクションは私自身のことです。私は、もともと技術部門に いたのですが、1989年(平成元年)に、全社の女性活用の仕事をするために人事部に異 動になり女性社員の採用から活用の仕事をすることになりました。人事部に、女性活用 のセクションを設け、仕事として取り組んでいったので女性管理職も急激に増えました。 そのころ人事部には女性の役職者は1人もいなかったのですが、女性の課長を人事部に 連れてきたことがよかったのではないかと思います。同じ女性の活用をするのも、女性 の目で見た採用や働く環境を整備するということで、こういう制度が足りないのではな いか、こんなガイドラインを作ったらいいのではないかと、女性の視点を随分入れるこ とができたのではないかと思います。  その後20年近く経って、先ほど鹿嶋さんのデータでポジティブ・アクションの取組状 況が低下しているという話がありました。確かに、女性活用がかなり進んだ企業では、 一服感というものがあると思いますが、その後の景気後退も原因の一つではないでしょ うか。バブルが崩壊し、かなり厳しい10年があったと思います。そういう中で女性を登 用していこうという動きをそのまま続けられない企業も多かったのではないか。景気が 悪くなって、ポストもだんだん少なくなって、男性でも昇格・昇進が大変な時期に女性 を引き上げるのはとても困難な時期があったのではないかと。そんな時代に、ポジティ ブ・アクションのスピードが弱まったのではないかと感じています。 ○鹿嶋 大変興味深いのは、内海さんの体験で、ソフトウェア技術者が足りなくなって、 女性の大量採用が始まってきちんと処遇するということになったのですけれども、それ は今でも同じだと思うのです。労働力不足が深刻化する中で、女性の力を借りざるを得 ない。そのためにはポジティブ・アクションをして処遇を進めていくということだと思 うのです。  最後の話で関心を持ったのは、経済状況の変動でポジティブ・アクションに多少ぶれ があるのかということです。要するに男性も大変な時代で、女性の引き上げなどできる はずはないではないかといったような議論は出るものなのですか。 ○内海 直接的な議論は出ませんが、男性も女性も実力勝負ということだと思います。 私は今の会社に来て、幹部に登用するための選抜研修を担当しているのですが、そこに 女性を加えていくことに随分腐心しました。幹部に登用する前の研修も選ばれた人が受 けていて、その後登用されるわけですから、まずそこからだろうと思いました。  私がこの会社に来たときには、その研修の受講者は全員が男性でした。過去に誰か女 性は受けていますかと聞いたら1人受けているという程度でしたので、これではいけな いと思いました。その後、数人の女性たちを受講生として迎えることができましたが、 優秀な男性たちとの競争の厳しさを実感したものですから、同様のことがどこの職場で もあるのではなかろうかと思うのです。 ○鹿嶋 大変興味深い話をどうもありがとうございました。次のテーマに移ります。ポ ジティブ・アクションを進めるに当たって工夫した点、あるいは大変だったと思う点を、 地方に拠点を置く企業の立場という観点、さらには中小企業の観点から話していただき たいと思っています。シナノケンシの金子さんからお願いいたします。 ○金子 大変だったとか、工夫した点ということですけれども、私どもは先ほど申し上 げましたように、地方の製造業で、女性といった場合にものづくりの現場にいる女性と、 それから間接部門にいる女性と分けて考えるといいと思います。我々とすると、直接部 門の女性のリーダーとか班長は何人かいました。本来我々が狙っている間接部門のとこ ろをどのようにやるかということになると、地方では女性が活躍することに対してネガ ティブな印象を持つ男性、女性がいるということはあるのだろうと思います。  ですから、私どもでロールモデルを作って、なんとかして1人つくろうと。その女性 を係長にし、課長にするのですけれども、係長にしたときに、私が幹部社員を集めて毎 月話をするのですが、その中で「女性で初めてこういうことをやってもらう人ができた んだよ」という話をしたら、後でその女性から「いや、あんまり言われると周りからち ょっと」と言われました。  課長にしたときにはそういうことを一切言わなかったのですが、それがいいとか悪い とかではなくて、そういう風土がまだあるというのが現実だと思うのです。それをどの ように克服するかというのは、たぶん最初の1人ですから風当たりが強くて、2人目、3 人目と増えていけばだんだん弱くなっていくのだろうと思って今やっているところです。 ただ、もともとの仕込み量が少ないものですから、ロールモデルをたくさん作るという ところまではまだ行っていないのですけれども、これは実例を作って、時間が経ってい けば良くなっていくのだろうと期待しているところです。  それから、地方で有利な点があるとすれば、先ほどちょっと申し上げましたように、 我々の所でUターンで帰ってきているのは男性の場合大体長男です。私もそうなのです けれども、そうすると親と同居というのが結構います。同居しないまでも、大きな農家 の庭に若夫婦の家が建てられて、おじいちゃん、おばあちゃんの家とは数十メートルし か離れていないというケースが結構あります。そうしますと、育児や家事を分担できる 可能性が随分ありますので、女性が会社の仕事に使う時間が長くできることがあろうか と思います。  我が家も母や妻がいて、家を造るときに2人が同じキッチンを使うのは無理だと言わ れて、我が家にはキッチンが2つあります。親と同居している人たちは、親の家と自分 の家ということができて、そういう意味では比較的女性が仕事をするという意味ではい いのかなと思います。  ただ、一方で家計の中心は男だという意識は強いですので、そうすると女性の給料が どんどん上がっていくのと、男性の給料はどうかというのは、私どもには社内結婚が随 分いて、両方とも働いているのがいます。そこで、春の昇給のときは夫婦でどうなって いるのかということを私も見ます。修正はしませんが、確認はしております。こちらが 勝手に心配しているだけかもしれませんけれども、そんなことを考えています。  私どもでは女性の技術屋を随分採用しました。最初に意気込んで採用し、2年続けて 採用してみたのですけれども、2人とも辞めてしまいました。1人は、おじいちゃんだか おばあちゃんが病気になって、その女性のお父さんは働いていて、お母さんも働いてい て、お兄ちゃんも働いている。お母さんが介護をやっていたのですけれども、お母さん が倒れてしまったので、お父さんとお兄ちゃんは仕事を辞められないから私が辞めるの ですと言って辞めてしまいました。  その前に入った方は、私どもの近くの町のお弁当屋のお嬢さんだったのですが、「お弁 当屋さんはもうやらないんです」と言って入ってきました。ところが、お父さんがちょ っと年を取ってきて心細くなって、娘に「帰ってこい」と言って、それであえなく辞め てしまいました。    しばらくはそれがトラウマで、女性の採用はちょっと鈍ったのですけれども、その後 はそんなことはあまりなくなり、やってみて技術屋も随分増えてきました。ソフトの技 術屋もいるのですが、結婚して、育児休暇を取って、ソフトですから今はパソコン通信 を使って在宅勤務ができるものですからそれをやっています。これは職場のほうもよか ったですし、本人も休暇の間に会社のことがわからなくなることもなくて、うまくいっ た例だと思っています。3つぐらいの開発プロジェクトをこなしてくれて、これは非常 によかった例と思っています。   ○鹿嶋 技術系の女性と、事務系の女性と、結構簡単に辞めてしまう人もいるというこ とでしたが、定着率としてはどっちがいいですか。 ○金子 今は七五三とか言って、3年経って大学生の3割が辞める、というのが全国的 に言われていることですけれども、私どもの所ではそういう所に比べれば随分率は低い と思います。なぜかよくはわかりませんが、女性もソフトだけではなくて、メカの技術 屋もいますし、電気の技術屋もいますし、営業もいますがそんなに辞めません。  ただ、営業はちょっと難しいところがあります。私どもの製品は産業材というか、先 ほど申し上げましたように複写機のモータなどですので、話をする相手が相手の購買だ けではなくて技術屋との話が結構あります。そうしますと、技術屋と文系の採用の数を 見ますと、やはり技術開発の所に人をたくさん入れるものですから、女性の技術屋もど んどん技術系に入れてしまって、営業に回す女性はどちらかというと事務系といいます か、文系の女性が多くて、技術の話になるとちょっと難しくなります。  比較をすることが適当かどうかというのはわかりませんけれども、門前の小僧習わぬ 経を読むということで、しばらく我慢してもらうと、ある程度の話はできるようになる のですけれども、そこへ行くまでがちょっと厳しいのかもしれません。場合によっては、 相手のメーカーの購買の方とか技術の方が、「うちに女性の営業をよこすのか」というよ うな、ややネガティブな反応が一部にはあることも聞いています。他人のせいにするわ けではないのですけれども、社会全体のパーセプションの問題というのは残るのかとい う気がいたします。 ○鹿嶋 先ほどのポジティブ・アクションの現状というデータの中でも、女性の職場配 置として営業は少ないです。その辺りにさまざまな問題があるようで、いま大変興味深 くお聞きいたしました。次に、大崎タイムスの伊藤さんからお願いいたします。 ○伊藤 私がいちばん心を痛めたというか、工夫したのは男性にはプライドというのも ありますので、それをいかに女性と融和させていくか、というのが最初のハードルでし た。これも、現在では解決しています。  男性も女性も、会社でいかにして働いて業績を上げていただくか。モチベーションを 高めるというのは経営者の1つの鉄則というのでしょうか、それがまず手初めでした。 うちは小さなローカル紙ですけれども、労働時間はかなり短縮いたしました。私が社長 になる前は、8時半から5時半までという勤務体制でしたけれども、これを週休二日制 になったこともあり、朝8時半から午後4時半までとして、10時のティータイム、午後 3時のティータイムと、昼食時間を45分間にしました。  有給休暇は年間40日あるのですが、公休制度を設けました。ローカル紙は、普通月曜 日付は休みです。それを日曜日にも新聞発行しています。私どもは中央紙と同じように、 連日新聞を発行しています。いまは変則出勤体制というシステムを組んでいるのですが、 さらに赤ちゃんを産んだ方もいますし、いま育児中の方もおります。それから、私ども の年になって80歳前後のおじいさんやおばあさんの介護をしている方もいますので、そ ういう方々のためにフレックス制を採用し、母乳時間とか、おじいさんやおばあさんの 面倒をみた時間帯を、4時半から外出した時間分を働いていただいています。それで7 時間ちょっとぐらいでしょうか、そのように切り換えました。ですから、労働時間が短 縮されるということは、実質的な人件費のアップになります。そういうことを、大胆に 切り換えていただきました。  それから、正直申し上げて失敗もありました。フレックス制も、規約どおりに上司に 提出して外出すればいいのですけれども、こういう制度ができたということで、そうい う手続を踏まないで外出してしまいました。目の前に新聞記者の方もいらっしゃいます けれども、記者はタイムカードでは勤務できないわけです。編集局と内勤といいまして、 新聞制作に携わる方とのギャップといいますか、外に出ていく方々は、おじいさん、お ばあさんの介護をして、おむつを取り換えたりしてから取材に行くというのは大丈夫な のですけれども、内勤の方はフレックス制のカードで外出しなければならないわけです。 上司の許可をもらって出ていくわけですが、そういう事務手続で随分トラブルもありま したが、いまはお蔭さまで順調にそういう勤務体制も確立できています。 ○鹿嶋 最初のところの意味がわからなかったのですが、男のプライドで、融和させる というのは何ですか。 ○伊藤 仕事の内容は、どうしても男性と、女性の潜在能力は認めますが、女性と男性 を並べて仕事をさせるといろいろなハンディがあります。これは、詳しく分析はしてい ません。それから、男性は「俺は男だ」というのでしょうか、地方ではまだまだそうい うものが潜在化しています。それを、男性も女性も一緒だというところまで教育するの が大変でした。 ○鹿嶋 なかなか面白い話です。それは、社内の意識が男女間で違っていて、同じよう な仕事をさせるにしても、俺は男なのだというプライドがどこかにあって、仮に能力は 同じであっても、俺のほうを優遇しろと、あるいは俺のほうが先だといったようなもの なのですか。 ○伊藤 そうです。私どもには、編集局にも女性のデスクがいます。次長職ですが、こ の方々が記者を動かすわけです。その動かされる方々には若い男性記者がいますのでそ の辺もなかなか。でも、いまはいくらか順調になりつつあります。これも、男女雇用機 会均等法の垣根ではないかと理解しています。 ○鹿嶋 伊藤さんのお話はよくわかるような気がします。やはり、地方へ行けば行くほ ど、合理的な割り切り方ができない伝統的な男女観といいますか、そういうものがどこ かで作用して、ポジティブ・アクションをやる上での障害になる可能性があるのかなと 思って聞いていました。  先ほどの編集局と事務部門の違いというのは、編集局というのは私もそうでしたけれ ども、いわゆる自由裁量労働なのです。事務部門はフレックスになっていてタイムカー ドで管理されています。その辺の違いを言っておられたのだと思います。主に事務部門 の方を言っておられたのですね。 ○伊藤 そうです。 ○鹿嶋 フレックスタイムはあまり活用されていないということですか。 ○伊藤 利用はされていますが、手続をしないで行ってしまうのです。記者はフリーで すから、そういう面での。 ○鹿嶋 でも、フレックスというのは、あまり手続を難しくすると誰も利用者がいなく なります。どちらかといえばフレックスも、これは広い意味でのポジティブ・アクショ ンだと思うのですけれども、特に両立も広い意味でのポジティブ・アクションですが、 それでも日本ではフレックスは下火のような印象です。その原因の1つはいま聞いてい て、ちょっと面倒くさいのかな、使い勝手が悪いのだろうと思いましたので、伊藤さん の所でも再考してみたらどうでしょうか。  次に内海さんにお話をしていただきますが、内海さんはポジティブ・アクションの問 題に大変詳しいですので、自社に限らず広い立場からご発言ください。 ○内海 先ほどはNECの1981年のポジティブ・アクションについてお話をしました。あ のときのポジティブ・アクションはとても成功したと思っています。なぜ成功したかと いうと、1つの理由として考えられることは、最初の年は50人採用しましたが、その50 人のうちの多くをある1つの本部に配属したことです。その本部は、その年だけ男性よ り女性の配属数の方が多かったそうです。1期生の配属数を極端に多くしたということ が、その本部の定着率を高めましたし、また彼女たちの活躍も目覚ましかったのです。 今でも1981年入社の女性技術者一期生の定着率は高く、現在活躍中の人がたくさんいま す。  その人たちが入ってきたときの採用面接で、これは昭和56年ぐらいのことですのでお 許しいただきたいのですけれども、面接官が、例えば「何年ぐらい働いてくれますかね え」ということを気楽に聞いていた時代です。そうすると女性たちも気楽なもので、「そ うですねえ、子供が生まれたら辞めることになると思いますので、5年ぐらいですかね」 などという返事をしたという人が、子供が3人生まれてもまだ勤めていて、グループ・ マネージャーにも昇格して、仕事と子育てと家庭を両立している、そんな人がたくさん いるのです。本人たちは5年ぐらいで辞めるかもしれないと思っていたにもかかわらず、 もう30年近く続いているということなのです。それは、一緒に配属された仲間が多くい るという、「数」が大きな意味を持っているのではないかと思います。  逆に、私が入った1971年には、1,000人ぐらいの事業部に女性技術者として1人しか 入りませんでした。たった1人では多勢に無勢で、何をやろうとしてもうまくいかない という経験をしています。ですから、男性ばかりの部門に1人、2人をポツンポツンと 配属するのでは、どんなに力のある人でもそこで能力を発揮して頭角を現してくるのは 難しいのではないかと思います。  さて、私の会社のことですが、私が社長ということがまずポジティブ・アクションで す。もちろん、女性の登用にも力を入れています。その他に、今、全社的に進めている のが、男女が働きやすい会社にしていこうということで、ワーク・ライフ・バランスの 推進をしています。  その1つとしては、定時間日の励行があります。定時間日というのは昔からあるので すけれども、名ばかりでなかなかそれは実効を伴っていないというのが実態だったので すが、今年から毎週木曜日はみんなで定時に帰ろうという強い意思を持って、定時間日 を守ろうということを、年頭の挨拶のときに私が話をして、その年の下期ぐらいから、 やっと全社に定着しました。  それは今でも続いていて、定時間日にはベルが鳴ったらサッサと帰るベルサッサ組や、 玄関の所で待ち合わせをして、若い人たちでディズニーランドへ行く会とか、飲みに行 く会ができたりして、定時間日を楽しく使っているようで大変うれしく思っています。  あるいは、家族を巻き込んだイベントを毎年行っていて、家族あっての皆さんの働き なのだということもよく私が話すものですから、夏にバーベキューをやっているのです。 皆さん、家族を連れてきてくれるのです。1年に1回なのですが、最初の年にそこで家 族の方たちと初めて会って、「また来年も会いましょう」ということで、もう3回続けて いるのですが、家族の方たちとも仲良くなって。そんなことが、「ポジティブ・アクショ ンと何の関係があるのか」といわれそうですが、私はとても関係が深いと思います。会 社全体が家族も一緒に、男女も力を合わせて仕事をしていくのだという、そういう風土 にしていくことが、女性が生き生きと活躍できる、そういう職場にしていくのかなと思 っています。 ○鹿嶋 地方に行けば行くほどそういう家族を巻き込んだイベントは大事だろうし、そ れは、やはり広い意味でのポジティブ・アクションに入ってくるのでしょうね。 ○内海 ええ、そうだと思います。昔は、その人の家族が何人いるとか、お子さんがい るとかいないとかというのは会社とは何も関係のないことだと言われたこともあります し、そう思われていると私などは思っていたので、自分に子どもがいるということを会 社では言ったらいけないのだというぐらいの気持でいたのですが、それは、私は間違い だったと、いま、振り返って思います。やはり人間ですからどうしたって家庭に何かあ ったら心配で仕事に身が入らないとか、そういうことは皆さんも経験があることと思い ます。みなさんの家族も会社は大事だと考えているいうことを、社員にメッセージとし て伝えていくということが必要なのではないかと思います。 ○鹿嶋 ありがとうございました。内海さんと金子さんの話を聞いていて1つ考えてお りましたのは、内海さんのほうは、要するに登用する女性、管理職等も含めてでしょう けれども、数が大事だとおっしゃっていました。ポンポンと配置してもなかなか効用が ないということ。シナノケンシの金子さんのほうは、いわゆるロールモデルとして積極 的に働いていただく女性を登用するのですが、周囲の風当たりが強かったり、なかなか 大変なのだろうなと、仕込み量が少ないということで表現なさっていましたが。私もそ れについて1つ、この職場の話とはちょっと違うのですが、経験したことがあります。  私がかつて勤務していた新聞社では王座戦という囲碁将棋のタイトル戦を持っており ます。当時、そして今もそうですが、将棋の王座は羽生善治さんです。羽生さんは、今 年17連覇を達成しました。すごいです。  私、当時、文化欄の責任者をしていました。文化部長というのはその王座戦、地方に 行って棋戦を行うことが多いわけですが、その間、ずっとお付合いするわけです。5番 勝負で、3番勝てばタイトルホルダーになるわけですが、羽生さんとは、タクシーの中 等々でいろいろ話をする機会があるわけです。「なぜあなたはそんなに強いんだ」という ような馬鹿な質問をしたことがあるのです。将棋について言うと、将棋は圧倒的な男社 会です。囲碁のほうは、男性、女性、同じ土俵でタイトル戦をやることもあるわけです が、将棋のほうは、女性のほうは女流王座戦ということで、男性と別枠でやっているは ずです。いまもたぶんそうだと思います。日本将棋連盟は4段以上をプロに認定するわ けですが、その4段に女性がなかなかなれないのです。4段になれない人は、男女含め て、プロ育成の場である奨励会というところでいろいろ研鑽を積むわけですが、羽生さ んは、将棋の世界で女性が活躍できない理由としてこのように言っていました。要する に、奨励会で学ぶ同期生を見ていると女性の数があまりにも少ないというのです。あれ では強くなれないだろうな、というのが羽生さんの理論でした。どういうことかという と、男性は、要するに、奨励会の大半は男性なわけですね、たぶん90数パーセントが男 性ですが、その研鑽を積んだあとにほっとする時間も男性の同期生たちと持てるわけで、 わいわいがやがややっている。そこでいろいろな話ができる。ガールフレンドの話から いろいろな話ができるのでしょう。そういう中でまた息抜きをして、また次の研鑽に臨 むことができるというようなことを彼は言っていたのです。その点、女性はあまりにも 少なくて、いわゆる緊張の連続であって、そういう中ではなかなか力が発揮できないの だろうということを彼は言っていました。  羽生さんの理論は、いわゆる女性の登用に私は当てはまるのだと思うのです。それを いま、お二人の発言を聞いていて感じておりました。少ない登用をポロポロとやる、い わゆるモデル的に登用する、あるいは広告の宣伝塔としてごく一部の女性をポジティ ブ・アクションをして取り上げていくのは、長い目で見ればそれほど効用がないのかな と、いま、聞いておりました。羽生理論を踏まえれば、もう少し、女性の採用、登用を 積極的に行い、数を増やしていくことが成果につながるのだろうということです。やは り、実力があれば、男女差なく登用していくことが大事なのだろうと。ただ、その登用 の仕方も非常に問題があって、それは大崎タイムスの伊藤さんがいみじくも言っておら れましたが、男性社員の側に、どこかで俺が男だという意識が潜んでいるということで す。となってきますと、ポジティブ・アクションを本当に積極的に展開するには男性の 意識にまで踏み込まなくてはならない。ただ、意識に踏み込むことは大変な難しい作業 なのですが、一方で、働く側の女性も問題がないのかなという気がしないではないので す。その点、金子さんにお聞きしたいのです。女性だって全員が全員、「あなたを管理職 にする」と言われて、喜んで「はいはい」と二つ返事でやる人ばかりではないのでしょ うね。 ○金子 むしろ逆です。私どもの会社も職能資格みたいなものがありますので、試験を 受けて上に上がってもらわなければいけないのですが、女性の受験率が極めて低いので 人事の担当が「受けろ、受けろ」という催促をして、説得をしないとなかなか受けない というのがあります。これはたぶん、先ほど申し上げたように、目立ちたくないとか、 いまのままでいいというか、権限はいいけども責任はとりたくないというようなことが あるのかなという気はいたします。ですから、全体の意識の問題というのはまだまだ、 これは我々の啓蒙活動とか、全体をそうやっていかないとなかなか難しいところだとは 思います。それから、親と同居となりますと、我々の1つ上の世代というのは、たぶん 女性は専業主婦、もしくは暇だからパートと、その責任はあまりやらない仕事が多いの かもしれませんので、それが価値観として定着していると難しい点はあろうかと思いま す。 ○鹿嶋 伊藤さんのところはどうですか、いまのような話。例えば女性をデスクにする とか。 ○伊藤 いま、デスクとして活躍しております。ただ、まだ30そこそこなものですから、 先輩が45、46の方で、第一線で仕事をしている方もおりますのでなかなか、その辺の采 配ぶりというのは難しい面もあります。でも、いま、男も女もない時代というか、そう いう時代感覚も、やはり新聞社ですから最先端をいかないと駄目だということですね。 いくらか地方にあってもそういう男女差がなくなりつつあることは認めたいと思います。 ○鹿嶋 新聞社ほど保守的なところもないという感じもするわけですが、でも、やっと わかってきたのは、伊藤さんがさっきおっしゃったことですね。男だというプライドは、 そうしますと、30そこそこの女性のデスクが40代辺りの中年男の原稿をボツにしたり 「書き直せ」と言ったりということ、その辺りでどうもプライドに引っかかるという趣 旨ですか。 ○伊藤 そうですね、そういうことも言えると思います。 ○鹿嶋 それはよくわかりますね。私もどうだったかな。もしそういう状況になったら。 その意味では、男性と女性が対等に働く、そしてそういう中で、ポジティブ・アクショ ンを展開するというのは結構難しいことでもあるわけです。一方で、だからこそポジテ ィブ・アクションを積極的に推進していく、しかも、長い時間をかけて積極的に行って いくことが大事なのだと思います。一服感というか、「もう私の会社はすんだ」というよ うなことでは駄目なのだろうと。いわゆる継続性の問題ですね。それが大事なのだと思 いますね。  次は、最後のラウンドになりましたが、ポジティブ・アクションの必要性や重要性に ついてお話をいただきたいと思っております。今度は、大崎タイムスの伊藤さん、シナ ノケンシの金子さん、内海さんという順番で話していただきますが、大体、1人10分ぐ らいずつ使ってくださって結構です。15時10分になりましたら、会場の皆さんからも 意見をいただきたいと思っております。伊藤さん、10分以内でなくてたっぷりお話くだ さって結構ですので、どうぞ。 ○伊藤 では、時間をいただきましたので。私どもは新聞社ですので、地域が活性化す ると、私どもの会社にも恩典があるわけです。その町が疲弊してしまうと、当然、衰退 してしまうと。私どもといま交際しているローカル紙が大体150社ほどあります。今年 も3つのローカル紙が閉鎖になりました。廃業です。そのような大変なローカル紙業界 です。先ほどミーティングで先生たちと懇談したときも、新聞紙が相当値上がりしてい まして、いまは中央紙でもどのようにして購読料を読者の皆さんに転嫁させていくかと。 ただ、いまは、ご存じのように、サブプライムローンで経済そのものも疲弊して、皆さ んの所得も落ちているところで値上げしては大変だと、いま、そういう大変な時期に入 っているのです。私もここでシンポジウムに出ている時間があったら会社のほうをもっ と、ということも言えると思うのですが。  その中にあってこのポジティブ・アクション、いかにして今のこの大変な時代を乗り きるかということは、私も冒頭で申し上げたように、女性の力を活用するほかないと思 ったのです。それで21世紀は女性の時代だと。ですから私は、いち早く手を挙げて、男 女共同参画社会を職場から実践していこうということで始めたわけです。新聞社という のは社会と運命共同体なのです。特に地方紙、ローカル紙は、その町が落ち込むと、新 聞社まで落ち込んでしまいます。倒産した会社の名前は控えさせていただきますが、い ま、そういう大変な時代に入っているのです。  私どもは、いまキャッシュフロー会議という会議を月1、全社員を対象に、若い方々 を対象にしてやっております。また、株も、全社員に持たせました。そして、大学を出 て22歳で採用して、もう、すぐ株主です。そのようにして、経営感覚を末端にまで浸透 させております。ですから、経営はガラス張りです。そういうスタイルをとりました。 では、幹部はどうしているのかと言うと、毎週火曜日、午前7時に出社しまして、8時 半までの就業時間までに1週間のローテーションを皆ミーティングしてやってしまうわ けです。いまはそのようにしてやっていかないと、小さなローカル紙などは沈没してし まいます。ですから、お蔭さまで、私どもはいち早く購読料を上げたものですから、い まここで中央紙が値上げをしたら、たぶん読者からのしっぺ返しをかなりくうと思うの ですが、私どもはしっぺ返しをくわないで済んだわけです。なぜその値上げをしたかと 言うと、ローカル紙は毎週月曜日、休みを返上しますから、そして、毎日、新聞を出し ます、ということを約束にして値上げに踏み切ったのです。ですから、やはり経営者と いうのは先を読む、政治家も同じですが、やはり先見の明のない経営者は沈んでいくの ではないかと思います。 ○鹿嶋 ありがとうございました。1つ聞きます。伊藤さんの経営者としての先見の明 があるというのはよくわかりましたが、そういう中で今日のテーマであるポジティブ・ アクションがどのように作用しているのか、その先見の明は女性たちにかなり啓発され たようなところがあるのか、その辺りはどうでしょうか。要するに、経営者は先見の明、 私は大事だと思うのですが、一方で社内の問題があるわけですよね。いわゆる社内をど う活性化していくか、活性化しなければ先見の明があってもどうしようもないわけで、 それに付いてこられる人たち、従業員が必要なのですが。そういう中でいままでは、た ぶん大崎タイムスも男性中心だったと思うのですが、ポジティブ・アクションをやって 女性たちの力が伊藤さんのその先見の明の中でどの程度の効用・効果になって出ている のか、ちょっと回りくどい質問なのですが、もし答えられたらお願いします。 ○伊藤 事業展開になってしまうのですが、さっきコーディネーターの先生もおっしゃ ったように、新聞社というのはやはり男が中心だったのです。でも、いま、テレビなど のいろいろなキャスターはほとんど女性ですよね。ですから私は、あれを前から見てい て、私どもの小さな新聞社にも女性の進出の時代が来ればいいなとは思っておりました。 そこに着眼しました。そして女性をどんどん採用していきました。いま、男性も女性も、 ほぼ同数です。男社会からちょっと受け入れられない面も確かにありましたが、いまは、 私がそれを押し進めているものですから、会社でも受け入れていただけるようになった わけです。  私はもともと労働組合上がりで、労働組合の委員長として、働く皆さんの味方となっ て頑張ってきたものですから、そういう経営者が会社を経営するときに働く方の気持も わからないような経営はやはりいけないと思います。さっき申し上げたように、そのよ うなガラス張りの経営をやっております。ポジティブ・アクションの女性は推進役だと、 私は認識しております。 ○鹿嶋 ありがとうございました。最後が結論だと思っています。要するに、女性がポ ジティブ・アクションの推進役ではなくて、経営合理化、あるいは、先見性のある経営 の推進役が女性である、というようなことで私は理解いたしました。次は金子さんにお 願いいたします。どうぞよろしくお願いします。 ○金子 なぜ必要か、重要かということは、最初のきっかけのところでお話したように、 地方の製造業が今後どうやって人材確保をするのかと。やはり「企業は人なり」という ことだと思いますので、その人たちの質、モラル、こういったものをどうやって高めて いくかというのは、本当に我々の死活問題であります。ですから、全員参加の社会とい うのは、我々、本当に身をもって感じております。ですから、いろいろな手を使って社 内のいい人を集める、活性化をするということで、このポジティブ・アクションはその 1つの大きな手段だなと思っているわけであります。  今日、皆さんのところに私どもの会社のパンフレットが入っていると思いますが、そ の中にどんなことをやっているかということが簡単に書いてありまして、いちばん最後 の頁に「ステキなパパになりたい人のための講座」というのがあります。これは私ども がやっているのではなくて、NPO法人とか上田市のいろいろな人たちがやっていて、私 どもは、基本的には場所をお貸しして、私どものスタッフがお手伝いをするということ なのです。これは、うちの社員も子どもを連れて参加したりしてくれていまして、話題 をつくったり、社内の活性化ということには役立っていると思っています。企業ですの で利益を上げるということは当然でありまして、そうでないと、当然、社員の待遇など が保障できないわけですからこれは当然必要なことなのですが、そのために何ができる か、どうしたらいいかというのが経営者の役目だということなのですが、その中でどん な事業分野を選ぶかというそのドメインを選ぶというのも1つですし、会社の皆さんの モラルを高めて持っている能力を遺憾なく発揮していただくにはどうしたらいいかと、 そういうことが私の役目だということであります。  私どもは上田市が本社で、そこにほとんどの人がいますので、ローカル企業ではある のですが、仕事は本当にグローバルになっています。私どもの会社案内のいちばん最後 の頁に製品の一覧があります。シナノケンシのケンシというのは絹糸で、いまでも売上 げの2%強はシルクであります。もう日本ではやっていなくてタイでやっているのです が。  いちばん右の下のところに視覚障害者向けCD録音図書読書機というのがあります。こ れは、実は目の不自由な方が本を読むと。目の不自由な方ですから我々が読む本は読め ませんので、日本ではボランティアリーダーという方が本を実際に声を出して読んで、 それをテープに録音して、それを昔はカセットに移して、カセットテープレコーダーで それを聞きながら本を読む、というのが世界の主流でした。  私ども、1993年に当時の厚生省の方からお電話をいただきましてデジタル化というこ とをしてほしいのだと、いろいろな大手企業さんとやるのだけれどもあまり乗り気では なくて、ということで私どもに御鉢が回ってきて。これは、いまのパソコンを使って人 間の音声をデジタル化して、なおかつ、人間が読むことなものですから、読むときには 息を継がないと読み続けられませんので、一旦休んでまた読むということを繰り返すの です。そのときに音が途切れますから、ソフトはその空白を検知して、空白から次の空 白までを1つのファイルとして認識していきます。ですから、カット&ペーストとかデ リートとかが簡単にできるということ。ですから、そこにマークを付けると、例えば何 頁の頭だとか、第1章第何節だとかということは簡単にできると。しかも、CDに、MP3 に圧縮すると、うまくやると1枚に90時間ぐらい入ります。そういった機械を世界で初 めて作って売っております。  これをやるときに日本だけでやっても、日本の視覚障害者は30万人ぐらいしかいませ んし、1級、2級と言われる方は3万人ぐらいしかおられませんので、とても商売になら ないということで、世界の標準にしようではないかということで当時の厚生省の皆さん と一緒に世界標準にしたのですが、そのときに世界の図書館の皆さんと話をしました。 いまDAISYというソフトがあって、これはウェブサイトで見ていただくとdaisy.orgと いうのがあるのですが。これを作るときに、本当にいろいろなことをやったのですが、 そのときに比較的熱心だったのが北欧のスウェーデン、ノルウェー、デンマーク、それ からイギリス、アメリカ、こういうところの方でした。その当時のスウェーデンの点字 図書館の館長さんは女性ですし、デンマークの方も女性でした。国際会議をやると、半 数近くは女性なのです。私どもは、そのほかに工場は中国にあって、香港にもオフィス があるものですから、香港にも現地の営業パーソンというのがいるのですが、なぜか優 秀なのは女性なのです。  そうやって見ると、日本で我々が考えているポジティブ・アクションというのは、海 外から見ると、本当に遅れているのだなと。これから我々、グローバルでやっていく中 で、日本人のよさというのはもちろんあると思いますが、グローバルに頭を合わせなけ ればいけない部分というのも当然あるだろうと。そうすると、やはり我々も女性をもっ と使わないといけないのだろうな、というのは何となく感じておりました。  いま申し上げた視覚障害のところは、先ほどちょっと女性の話をしましたが、そのソ フトの女性の方もそのプロジェクトにも加わってもらいましたし、やはり使い方を教え るというのは、内海さんもこちらにいらっしゃいますが、女性のほうがうまいのですよ ね。ですので、我々も、カスタマーサポートということで視覚障害の方からお電話をい ただいて機械の使い方を説明するというのは、女性のほうが数は多く配置しております。 ですので、我々の先ほど申し上げた地方の製造業はどう生きるべきかと、全員社会の中 で女性の活用というのはどんな方法があるのかという問題意識と、グローバルで見たと きに日本の女性の活用というのはやはり遅れているのだなと。最初に鹿嶋先生から国際 比較がありましたが、やはり遅れているのだなと。そういうことを両方うまくやってい くにはどうしたらいいかというところが我々の考えているところでありまして、やはり うまくやっていかないとグローバルに生き残れないと、こういう問題意識は、私は持っ ているつもりでおります。  私どもは地方ですので、地方の独特の昔からの日本のものの考え方、簡単に言えば男 尊女卑みたいなことがまだまだ残っていますので、表向きどう言うかは別にして、その 底流にそういうものがあるということを意識しながら、それを変えるのは私の力では無 理ですが、その中で何ができるのかということをやっていくということになると、我々、 一生懸命にいろいろな細かいことをたくさん積み上げて、先ほどの鹿嶋先生ではないで すが、数をやっていくと、量が増えれば質が変わってくるというということなのかなと、 いま考えて進めているところであります。  やはり会社ですから新しいことをやっていかなければいけないというのは我々の会社 のモットーでありまして、社是が1年前と変わらない状況は危険信号と思えということ で、去年と何が変わったかということをお互いに問いかけをしようと言っています。で すから、今年、何かやったかということになると、やはりこういったポジティブ・アク ションというのは結構いいことではないかと。ただ、地方におりますと、先ほど鹿嶋先 生のお話にあったように中小企業が多いものですから、ポジティブ・アクションでお互 いに競争するということはあまりなくて、むしろ私どもみたいに少し先を走っていると かなり目立ってしまって、いろいろなところから取材に来たり、賞をいただいたりする のですが、現実に本当にそんなに進んでいるのかなと言うと、私の中ではやることはま だたくさんあるなと思っております。やはり地方企業がお互いに勉強しながら進むとい うような環境を、これは労働局の皆さんにお世話になるのかもしれませんが、全体の雰 囲気づくりというのをやっていかないと、企業だけの力ではなかなか難しいところがあ るのかもしれません。ただ、何度も申し上げるように、我々の会社の生き残りというの が全員参加の社会だということははっきりしていますので、女性、外国人、みんなが働 ける会社というのが目標だと思っております。言うことは格好いいのですが、現実はな かなか、私だけではないものですから。  地方ですと、これは人事からの報告なのですが、保育園などが比較的恵まれています。 いまのところ、上田市では待機児童ゼロですので、保育園を使いたいという方は必ず使 える。これはメリットなのかなと。ただ、私どものところは、長野県がたしか車の普及 率が群馬県か何かに次いで高くて、働いている人は1人大体1台ないと仕事にならない ということなものですから、車で移動することになっていて、保育園なども必ずしも家 の近くとか会社の近くだけではなくて、車で何分というようなところがあるものですか ら。ですから、時差出勤で少し早めに行くとか、奥さんと旦那さんで、朝は旦那さん、 帰りは奥さんというようなやり方をやっている夫婦も何人かいます。そういった意味で は、都会よりは恵まれた点もあるのかなというようなことを考えております。 ○鹿嶋 ありがとうございました。金子さんのところは地方に拠点を置くとはいえ、一 方でグローバルな展開もしているだけに、やはり女性の登用、日本での遅さみたいなも のが見えるのだろうし、逆に、それだけ危機感もお持ちになるのだろうと思います。ジ ェンダー・エンパワーメントメジャーが93カ国中54位という数字、これをどうするの かということは、金子さん自身もたぶんかなり切実にお捉えになっているのだろうとお 聞きしました。最後になりましたが、内海さん、よろしくお願いします。 ○内海 私もいま金子さんがおっしゃったことを申し上げようと思って、先ほどの鹿嶋 さんの紹介の中でいまお話があったジェンダー・エンパワーメント指数が93カ国中54 位と。これをたぶん金子さんも、いままで、そんなに認識していなかったような今の口 ぶりでしたよね。これは意外と知られていないのです。ときどき新聞にこのデータが紹 介されて、「日本って、女性の活用が随分遅れているんだね」とうちの会社の取締役など が言うのです。全く知らないのです。ですからやはり日本は、先ほどの人間開発指数は 177カ国中8位と大変高い位置にあるにもかかわらず、このジェンダー・エンパワーメ ント指数がこんな低水準にあるということを日本の多くの方たちに知らせなければいけ ないのではないかと思います。  これは、さっきも金子さんがおっしゃっていましたが、国際社会ではもう女性の活躍 は目覚ましいわけで、日本だけが女性の視点の入らない経済政策を展開していて、グロ ーバルな国際社会に遅れをとるということはもう必至であると思われるわけで、何でこ れをもっと宣伝しないのかなと思います。もちろんこれだけではないのですが、日本の 場合は目の前に迫っている少子化の問題、労働力の不足ということが当然あるわけで、 女性も働かなくては日本の場合にはこれからの経済社会を支えていけないということも あるのですが、どうせ働くなら生き生きと自分の持っている力を十分に発揮した働き方 をしていきたいと。ただの労働力という観点だけではなくて、そのためにいまこのポジ ティブ・アクションが非常に重要なのだろうと思います。 ○鹿嶋 ありがとうございました。私ども、特にパネリストの方々を中心にポジティブ・ アクションに取り組んだきっかけと効果、工夫した点、さらにはその必要性・重要性と 3つの観点からポジティブ・アクションを分析してまいりましたが、この辺りで会場の 皆さんから質問、あるいはご意見があればお聞きしたいと思っております。挙手をして いただければ、私のほうで指しますので。恐縮ですが、ご所属、お名前を言っていただ ければ幸いです。どなたというふうに指名をしてくだされば誠にありがたいと思ってい ますが、どうでしょうか。ここから見ていますとほぼ満席でありまして、これだけいら っしゃいますので、是非、私の会社はこうだけどこの点についてはどう思うかといった ようなご発言があればと思っていますが、どうでしょうか。 ○参加者A 私の会社ということではなくて、妻のことです。今年で20年勤続で働いて おります。この質問は、内海様か金子様にお願いしたいと思うのです。彼女も職場でい ろいろなポストに配属されて、職場でも「女性で初めて」などと言われ続けてきて、相 談する相手もいなくてつらい思いをしているようです。先ほどお話の中に出てきた、ぽ つりぽつりという配置の仕方だと、女性はとても大変だなということを実感しています。  ですから是非、ぽつりではなくて2人ずつ、複数人で女性をポジティブ・アクション で配置していくような手法が取れないかと考えています。それには昇進試験を伴うので、 試験を受けないと話にならないとは思いますが、折角ポジティブ・アクションがあるの で、社長枠とか高校野球にもある21世紀枠といった枠をつくって、とにかく複数ずつ配 置していただけないかと思っています。  先ほど内海様から、バーベキューなどをされていて、家族も呼ばれているということ を伺って、私の所ではないのでとてもいいなと思いました。そのときに折角家族が呼ば れたのならば、独身の方だったら恋人でもパートナーでもいいですから、彼女たちの周 りにいる男性を集めて、その男性たちに彼女の愚痴をうまく家で対応してあげられるセ ラピー的な手法などを教えてもらえると助かります。つまり、職場で彼女の状況がどう なのかというのが全くわからないのです。その辺の状況があれば一緒に住んでいる者と しても、おそらく違った対応ができるのではないかと思うからです。  昔、社宅が流行ったときに、社宅に住んでいる課長や部長の妻から平社員の妻までを 集めて、社長夫人が教育というか研修をされましたよね。その逆バージョンでいいと思 うので是非。シナノケンシさんの資料4に、「ステキなパパになりたい人のための講座」 というのをされていたと思います。これをもじって是非、「ステキなパートナーになりた い男のための講座」というのをつくってもらえるとうれしいです。その2点です。 ○鹿嶋 それでは、まず内海さんお答えください。 ○内海 奥様がいまご苦労されているというのは、本当に目に見えるようによくわかり ます。私もそういう立場にいましたので、同じような環境の人を一生懸命探して、何と か悩みを相談したり、いろいろな情報をもらったりということを、積極的にやろうとし ていました。しかし周りには本当に同じような境遇の人がいないのです。私は、府中事 業場という所で働いていたのですが、女性の管理職が府中にはいなくて、本社やほかの 事業場に行かないといないという時代でしたので、なかなか思うようにはいかなかった わけです。  ただ、同じ会社の中では本当にぽつりぽつりですが、外に行きますと、そういうぽつ りぽつりの人たちを集めた女性の会のようなものが、最近では増えてきていますので、 そういう女性のネットワークに積極的に入ることをお勧めします。探す対象をほかの会 社にも広げるということです。そういうネットワークを探してください。女性だけの会 でもありますが、異業種の交流会にもなっていますので、別の意味でもいろいろ勉強に なることがあります。私も40歳になってからですが、外のネットワークに入りまして、 いまも続いています。そこで知り合った女性たちとはまだお付き合いが続いていますが、 彼女たちにどれだけ励まされ、どれだけ助けてもらったかわかりません。是非、そうい う外のネットワークに積極的に入っていくことを、奥様にお勧めいただきたいと思いま す。 ○鹿嶋 金子さんも一言どうぞ。 ○金子 社長枠などというのが難しいのは、ポジティブ・アクションというのは1つの 手段であるからです。先ほど申し上げたように、我々の企業がグローバルな競争の中で、 どのように勝ち残っていくかという目的のために、ポジティブ・アクションをうまく使 いたいと思っているわけで、ポジティブ・アクションが先にあるわけではないのです。 もし、そのようなことをやった場合に、ご本人がどういうように思うかということも考 えてみると、特別枠で何とかということが、後の自分の仕事やモチベーションにどうい う影響があるかというのは、私としても少し疑問なところがありまして、まだそういう ことはやっておりません。  ただ、残念ながら仕込みの量が少ないと申し上げたとおり、まだまだ課長の下が少な いものですから、今はそこのところを増強することをやっております。少し変わってき たのは、30代後半ぐらいの女性が結構増えてきました。その中には本当に仕事にという 方も随分増えてきましたので、あと2、3年すると、景色が変わってくるのではないかと いう期待を、私自身は持っております。引き上げることを先にするのか、下から押し上 げてやるのかというのは、人事の担当もいろいろ考えていますので、その辺を使ってみ たいと思っております。  私の家内も働いております。大学で教員をやったり、教育委員会の委員をやったりし たものですから、帰ってきてから私も愚痴をうんと聞かされます。その中には男性一般 に対する愚痴と、その人の職場の雰囲気と言いますか。私は知らないのですが、大学の 先生というのは特殊な世界だそうですね。そういうところがほぼイコールで、私も大学 の話を知らないわけではないものですから、そうだよな、大変だよなと賛同できるので す。ただ男性一般になりますと、こちらも男性一般のライバル意識というものがあって、 これはいい意味でディベートになります。  私自身はあまり愚痴をこぼさないのですが、愚痴というのは、愚痴を聞いてもらうだ けでいいというところがあるのではないですか。私も女性の気持というのはわからない のですが、結論がどうのこうのではなくて、何分聞いてくれたかによってすっきりする 度合があるらしく思われるので、努めてお付き合いするようにはしています。今日はい いお話を伺いましたので、いま内海先生もおっしゃったように、我々も地域で女性の管 理職の横断的な異業種交流会というのを、是非やってみたいなと思いました。そのよう なことをやっていくと、もう少しいいのかもしれないと思っております。 ○鹿嶋 ありがとうございました。伊藤さんの所ではどうですか。女性のデスク同士が 集まって社長の悪口を言ったり、部長の悪口を言ったりというものがないと、やはり会 社というのはストレスが溜まってしまうので、それがあったほうが私はむしろ健全だと 思っているのです。私自身も新聞記者のとき、随分上司の悪口を言った気がします。大 崎タイムスのほうはどうですか。 ○伊藤 今日は役員が2人、この会場に来ているものですから、たぶんみんなお祭り騒 ぎで仕事をしているかもしれません。しかし時にはそういうガス抜きも必要だと思いま す。毎日緊張の連続では、今度はうつ病になられると困りますので。 ○鹿嶋 特に女性が管理職になればなるほど、まだまだ少数派ですので、女性のガス抜 きができるような1つの解決策として、ネットワーキングがあるということでしょうね。 1つの会社に女性の管理職はたくさんいませんので、そうだとすれば横断的にいろいろ な会社の女性管理職同士が集まったネットワーキングが、たぶん必要になってくると思 います。そのほかに質問、ご意見がありましたらどうぞ。 ○参加者B 私はこの10月に育児休業から復帰しました。違うバックグラウンドだった のですが、いまは人事部のほうで、これから女性の登用やワーク・ライフ・バランスと いうことをミッションに、仕事をしていくことになっています。ここで2つ、特に内海 様にお伺いしたいことがあります。  まず1つ目が、弊社では女性の総合職ということで、150名超の人数がおりますが、 圧倒的に若手の入社2、3年目までが多いというのが現状です。そういうことで先ほど金 子様もおっしゃっていたように、仕込み量が少ないという意味で、登用しようにもパイ がないというところが当然あるので、経営陣のほうも自然にどんどん登用されればいい という意識もちらほらというところがあります。  いま11年目ですが、そういった中で我々のこれから管理職になっていく世代として、 いままで登用されている女性は、やはり独身の方が多かったという背景もあるのです。 しかし私のように、これからちょっと短時間労働をしていくという人たちが、どんどん 管理職の世代に上がっていくというところで、自然の登用という中ではある程度の長時 間労働をベースにした理由も、日本の社会はこの数年では変わらないと思うのです。そ ういったところで私自身も、アウトプットがどうしても少なくなってしまうのに登用さ れるということであれば、引け目を感じるところも当然あります。そういった状況の中 でのポジティブ・アクションを、1つの企業として男性にもあまり不自然ではなく、具 体的な施策としてどういうものがあるのか。それがあれば、もっと簡単な話ということ もあるのかもしれませんが、そういったことをお伺いしたいのが1つです。  あと、先ほど伊藤様からもお話があったように、例えば女性は真面目だとか、そうい う一般的な特性みたいなものがあって、それに適した配属をするのが賢いのではないか というような話も、最近本で読んだりするのです。あと、先ほど営業はなかなか難しい というお話もありましたとおり、商社ですので営業が中心の舞台ですが、例えば配属や 配置において本人の意思とは関係なく、どの程度人事として配慮していくのがいいのだ ろうか、バランスとしてどうなのだろうかというところのお話を伺いたいと思います。 ○鹿嶋 まず最初の話、男性にも不自然でないポジティブ・アクションということです が、どうしますか。これは内海さんというご指摘がありましたので、内海さん、よろし くお願いします。 ○内海 難しい質問と言いますか、実態が何となくわかるだけに答えにくいのですが。 私の考えとしては、アウトプットがないまま管理職になっても、本人は苦労するだけで はないかという気がします。ですから、そんなに急がないで、例えば短時間勤務が終わ った後フルに働けるようになってからでも遅くないのではないかと思います。私の友人 で、もう60歳を過ぎたある女性役員の話ですが、その人は40歳から管理職になって、 最後には関係会社の社長になりました。その彼女が「40になっても、あと20年あるの よ」と私に言ったことがあります。ですから40歳になってからでも課長になり、部長に なり、最後は役員になることも不可能ではないのです。  私自身も実際に課長になったのは39歳、もうほとんど40歳になろうとしているとき です。年ではないのです。その人の環境でいつがいいのかというのは人それぞれですの で、34、35歳になったら管理職適齢期とあせる必要はない。今は、男性は何も障害がな いのでどんどん管理職になっていくかもしれませんが、これからは男性も家庭の事情も 出てきて、女性と同じような境遇になるかもしれません。笑っていますが、男女とも家 庭の事情で、ある人は40歳から、ある人は30歳ですぐにマネージャーになってしまう というような、いろいろな人がいていいのではないかと思います。  ただ、こういうことを言うと、では長時間残業のできない人は課長になれないのです かというような話になってしまいます。それはまた別で、管理職イコール長時間残業で きる人ではないでしょう。今まではそうだったかもしれませんが、これからは、発想の 豊かな、男も女も関係なしに私生活も大事にする、そういう人が課長というか、管理職 になってほしいですね。会社にとっても仕事だけではなくて、私生活を大事にする人が 必要な時代になってきていると思うのです。それがワーク・ライフ・バランスのいちば ん大事なところだと思います。  ワーク・ライフ・バランスというのは、仕事をしないで早く帰ることではなくて、や はり仕事も私生活も、自分自身の趣味や勉強や家事や地域活動など、仕事以外のいろい ろなことをどれだけ経験するかということが、また仕事にも活きるわけです。そういう 人でないと、これからは会社に貢献できないという意味だと私は理解しているのです。 いろいろ申しましたが、管理職になるのであれば長時間残業も覚悟しなくてはいけない というような考え方は、これからの人たちには是非払拭していただきたい。逆に自分自 身の管理職スタイルと言いますか、管理職としての働き方というのを確立していただき たい。それがご自身も含めて部下の幸せにつながります。  長時間残業をしても誰も幸せではないですし、長時間残業をして会社のためになって いると思っているのは、私は何か違うのではないかと思います。なぜならば、ちゃんと 定時に帰っても、きちんと会社に貢献している人はいくらでもいるのですから。「時間で は計らない」と言いながらも、時間で計っている日本の企業がいまだに多いわけで、そ の体質を変えていかないと、先ほどの話ではないですが、グローバルに活躍できる日本 経済になっていかないといけないと思います。 ○鹿嶋 ありがとうございました。私も一言申し上げます。男性にも不自然でないもの ということですが、ポジティブ・アクションを女性のための格差是正の取組というよう に、私は限定的に捉えないほうがいいと思うのです。女性だけの取組というのは、一面 正解で一面間違っています。男性もポジティブ・アクションの対象に入ってくるわけで す。いちばん理解しやすいのが評価基準です。女性の登用が不透明なのは、評価基準が 男性ほどはっきりしていないことも一因です。評価基準の透明化というのは、男性にと っても非常に大事なことです。  それから業務改善も、大事になってきます。特に女性管理職です。時間がかなり長時 間労働になってきますと、一方で家事・育児負担がまだまだ女性にかかっているような 現状では、そちらも改善していかないと、管理職登用はできないということになります。 改善しなければ、女性のほうで尻込みしてしまうということもあるわけです。ポジティ ブ・アクションを広い意味で捉えますと、実はワーク・ライフ・バランスなども、私は 入ると思うのです。ワーク・ライフ・バランスなど、働き方の見直しまで視野に入れた ポジティブ・アクションというように考えていくことが必要です。そうなってきますと 当然のことながら、ポジティブ・アクションは男性にとっても不自然なものではないは ずです。そのような理解を少し会社内に普及していかないと、ポジティブ・アクション はすぐに女性のための格差是正という限定的な捉え方になってしまうので、もうちょっ と広範囲に捉えていったほうがいいという感じがいたします。  私がかかわっているワーキングウーマン・パワーアップ会議という民間運動は、もう 一つ設置してある民間運動、ワーク・ライフ・バランス推進会議からスタートしました。 しかしワーク・ライフ・バランスだけでは駄目、女性の仕事の質も上げていかなければ、 すなわち働きがいのようなものを感じられないのであれば、女性もたとえば子育ての苦 労をしてでも働き続けたいという気にはなれません。というわけで、また新しい会議を 立ち上げたのです。  もう1つの質問は、それぞれの性別に適した配属云々ということですか。 ○参加者B はい。ある程度そういう配慮があったほうがいいのかどうかということで す。 ○鹿嶋 これは答え方がなかなか難しいのですが、どうですか。これについては伊藤さ ん、答えますか。 ○伊藤 人はやはり年齢によって考え方が全く変わってきます。私も20代は労働組合運 動で頑張りました。それがもう還暦を過ぎたらおじいさんになって、悟りを開くという のでしょうか。ですから昇格・昇給と肩書きというのは、年齢もある程度の算定要素に 入ると思います。 ○鹿嶋 私は、それぞれの性別に対する配慮を入れたらポジティブ・アクションは成立 しないと思います。性別によって適した配置・配属があると考え、それを前提にポジテ ィブ・アクションを行うのであれば、たとえば「女性はやはり女性職がふさわしい」と いうような考えであれば、従来と何も変わらない。性別にこだわった配置をやめること、 それを否定したところからポジティブ・アクションはスタートすべきだと思います。そ れはもう絶対「ノー」と、私は言わざるを得ません。金子さん、どうですか。 ○金子 先ほどもちょっと申し上げたのですが、会社の存続・発展というのが、我々に とっての目的で、ポジティブ・アクションはその1つの道具ですよね。ただ、我々の反 省として女性への対応が遅れていたので、これを早くするにはどうしたらいいかという ことで、かなり力を入れたということです。ですから、そのときの女性の配置は、主だ ったロールモデルになりそうな女性を何人か挙げて、人事の皆さんと我々とで、この人 にしようと。それから4、5年かけて課長まで持っていったというように私は思っていま す。これはやはり一朝一夕にはできません。先ほども申し上げたように、係長にしてか ら課長にするわけですから、係長の試験を受けてもらわなければいけないし、そのため には上司や周りの人にも協力を求めて、こういうことで我々はポジティブ・アクション をやるから、彼女を女性第1号の管理職にしようではないかということで、協力体制を つくってやってきたわけです。やはり長期的にやらないと難しいのではないかと思って おります。  女性と男性の差が出にくいものとしては、例えば営業などですと、先ほども申し上げ たように、我々の場合、どうしてもお客様の反応みたいなところで、女性だとやりにく いところが確かにあるのです。こういう場合、お客様に文句を言ってもしょうがないの で、それはもうそれとして受け入れます。私どもの購買の課長というのは、むしろベン ダーさんが頭を下げて来ますから、女性でも非常にやりやすいということで、そういう ことも考慮して決めたつもりでいます。やはりロールモデルで誰かを第一号にするとき には、スムーズにすんなりといって、周りがそうだよねと認める人にしておいたほうが、 後で続くほうが楽かと思いますので、そういう配慮はしたつもりでおります。やはり少 し長期戦ですべてのことを考えて、周りのサポートをつくってやっていくということで はないかというのが私の考えです。 ○鹿嶋 私どもの議論を補足的にコメントできるような、大変いい質問を出していただ きまして、お二人とも大変ありがとうございました。いままでポジティブ・アクション について、私どもの意見を述べてきましたが、最後にまとめという形で5分間ぐらい、 話をさせていただきます。  水色のパンフレットがあると思います。これは先ほどの質問に対する私なりの答えに もなります。ワーク・ライフ・バランスがいま多くの自治体、あるいは多くの企業で喫 緊の課題として取組が行われてきているわけですが、いわゆるワーク・ライフ・バラン スと同時に、冒頭に私が申し上げたように、女性の処遇を含めた改善も、さらに図って いく必要があるだろうと思います。その発想の原点は、私の共働き体験にあります。私 は定年を過ぎてから大学教員に転身しましたが、妻も今年、定年を迎えました。妻は地 方公務員だったのですが、妻が定年まで働いてきたのは何だったかというと、やはり仕 事に対するこだわりがあったのだろうと思います。先ほど申し上げたようにワーク・ラ イフ・バランス、仕事と生活の両立、調和が可能なだけでは、たぶん女性が働き続ける のはなかなか難しいのではないか、一旦手離してしまうこともあるのだろうと思ってお ります。10人中7人が第1子出産で辞めているという現実は、必ずしもワーク・ライフ・ バランスが困難だからというだけではないと感じています。  もちろんワーク・ライフ・バランスというのは、非常に大事だとは思うのですが、一 方で女性が生き生きとして働ける、あるいは働きがいを持って働ける職場への配置です ね。いわゆる「女性職」といった言葉が消えるような状況にまで、持っていく必要があ るのだろうといった趣旨で、ワーキングウーマン・パワーアップ会議というのを立ち上 げました。2頁と3頁を見てください。先ほどからの議論の続きになりますが、先ほど の男性の質問で、職場にぽろぽろとしか配属されない、女性管理職がいないといった状 況があることも確かです。  例えば2頁の(3)にありますように、いま私どもで全国的なネットワークをつくろうと 思っています。これは生産性本部の各ブロックを最大限活用して、そのネットワーキン グをつくります。ただ、あまり敷居の高いネットワーキング組織をつくってもまずいの で、よその会社の女性たちと話し合っていろいろな憂さをぶつけ合える、あるいは妊娠・ 出産後にどう働けばいいかという情報が聞けるようなネットワーキングをつくる。さら にはメンター、相談に乗れるような人ですね。直属の上司はメンターにはなれません。 これには利害関係が直接出ますので、直属ではなく、例えば社内でも利害関係のない上 司、あるいは子育てしながら働いている先輩女性といった人たちをメンターとし、その 人たちに相談をするメンティーというような関係も、今後つくっていってもいいのでは ないかということで、こういう組織をつくりました。  これは一例として申し上げますが、やはりそういうところで目配りしながらしていか ないと、ポジティブ・アクションと言って機械的にやってもなかなか実効性は伴わない。 やはり女性が長く働き続けられるようなシステム、そして仕事に意欲が燃えるような、 燃やせるような職場づくりを抜きにしては、働き続けるのは困難です。先ほどのデータ を見ても、男性と女性には4.6年ぐらいの勤続年数の差があるわけです。この格差をだ んだん縮めるためには、ワーク・ライフ・バランスと同時に、ポジティブ・アクション を軸とした女性の処遇向上が大事だろうと考えております。こういうものは今後、国も 積極的に行っていくでしょうし、私どものような民間も積極的に行う必要があると思っ ております。  それと同時に、地方でこそ、それからポジティブ・アクションについてはデータから はっきり分かるように、小さな企業ほどまだまだ消極的ですので、これをどういうよう に展開するかです。金子さんの話を聞いていて、やはり注目されてしまうと言っていま したが、それでも大変いいことだと私は思っています。例えばマスコミへの露出度が高 いというのは、広告・宣伝費を使わず、ただで露出度を高めていくわけですから、それ は企業イメージを高める大きな材料になるし、そういうイメージが高まれば、私は優秀 な人材もどんどん集まってくるだろうと思います。そういう循環こそが大事で、その循 環をつくる1つの契機がポジティブ・アクションだろうと思っております。  ただ、今日の話をざっと聞いていて考えたのは、規模が小さくなるとA子さん、B子 さんという社員がいても大体わかってしまいますが、規模が大きくなれば、社員の私生 活はわからないということです。そうなってくると、どういう悩みがあるのだろうかと いうのが把握できないかもしれない。やはりポジティブ・アクションの第一歩は何が問 題なのかという把握ですから、そこはポジティブ・アクションの第一歩として是非ヒア リング、社内調査等を行ってほしいのです。そして何が問題なのか、うちの会社にはど ういう問題があるのかということを、まず把握する作業を通じて、そこから対策を打ち、 フォローアップしていくという流れ作業が大事だと思います。企業規模が小さくなれば なるほど、つうかあ、なあなあでいってしまう恐れもあるのかと。逆に、そこは少し理 詰めで科学的にやっていく必要があるのではないかと感じておりました。  ポジティブ・アクションは一服休眠状態だ、と冒頭に申し上げましたが、そこで目を 覚ましていただく、あるいは眠っている社員がいれば目を覚まさせる努力をして、企業 の活性化を図っていくことが、これからの少子高齢化時代、労働力不足時代、さらには 金融危機の時代を乗り切る1つの手掛かりだろうと思っております。長時間参加いただ きまして、本当にありがとうございました。これでパネルディスカッションを終わりに します。どうもありがとうございました。 ○司会 鹿嶋様、どうもありがとうございました。まだまだお話をお聞きしたいところ ですが、終了の時間がまいりました。パネリストの皆様、コーディネーターをお務めい ただいた鹿嶋様、ありがとうございました。改めて皆様、盛大な拍手でお送りください。 以上をもちまして、日本経済と企業にとってのポジティブ・アクションを考えるシンポ ジウムを終了させていただきます。