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第六章 症例集

第六章 症例集

1.5歳児健診

【症例1:5歳児健診がきっかけとなった症例】

紹介する症例は5歳6ヶ月の男児です。1歳半健康診査および3歳児健康診査で言語発達の遅れを指摘され、保健所での発達指導を受けていました。5歳児健康診査(5歳児健診)までに、病院で検査を行われ、器質的な脳障害はないと診断されていました。3歳時に中耳炎に罹患していますが反復することはなく、音への反応は良く、難聴は疑われていませんでした。

5歳児健診で、概念理解の低さを指摘されました。幼稚園での集団生活には問題はないようでした。ひらがなは読めるものの、家庭では簡単な言語指示が理解できないこともあるようでした。診察場面では、落ち着きはあり行動面に異常はないものの、左右やジャンケンの勝ち負けが正確でなく、言葉でのやり取りが難しいようでした。ご家族も納得され、知能検査などの評価のために療育施設に紹介されました。知能検査の結果は、IQは正常範囲でしたが、動作性IQと言語性IQに50以上の著しい差がありました(言語性が低い)。比較的簡単な質問の理解も難しいようでした。聴力検査を行いましたが、会話理解に影響するような難聴はありませんでした。

本児は、視覚性理解は年齢以上であるにもかかわらず、話し言葉の理解が悪いことが判明しました。ご家族に対して、指示の言葉かけは簡潔にすること、視覚を利用して理解を助けることなどの指導がなされました。今後さらに聴力の問題を含めた精査が予定されています。

本児は、定期健診で軽度の言葉の遅れは指摘されていましたが、どこに弱さがあるのかが分かっていませんでした。5歳児健診をきっかけとして、聴覚性のことばの理解が悪いことと、視覚的理解は年齢以上に良いことがわかり、就学に向けての取り組みが明瞭となりました。本例は、ご家族の受け入れが良く、5歳児健診での気づきから精査、指導へとスムーズにいったケースです。

【症例2:5歳児健診で保護者の理解が得られなかった症例】

症例は5歳6ヶ月の男児です。これまでの乳幼児健診では発達面での問題は指摘されていませんでした。5歳児健診では、落ち着きがなく、目に付いたものに興味がいってしまい質問や指示に従わないことが目立っていました。興味のあることに対しての質問には上手に答えることができました。しりとりができず、ひらがなも読めませんでした。家庭では、我が強く思い通りに行かないと騒いだり、かんしゃくを起こすけれども、あまり気にはしていないようでした。幼稚園では、落ち着きがなく、ひとつの遊びが長続きしない、機嫌の良い時は友達とも遊べるが、気に入らないと他の子に手が出ることもある、など保育士はとても気になる子であると感じているようでした。健診医は、ADHDを疑い、ご家族へ状態の説明と就学に向けての取り組みのために療育施設への受診を勧めました。ご家族は、あまり納得された様子ではありませんでしたが、受診することに決めました。療育施設での初診時の診断はADHDでした。受診当日、知能検査を指示されましたが、検査場面で指示に全く従わず部屋をウロウロする、呼んでも視線を合わせない、目に付いたものを触る、などで検査はできませんでした。その後の受診もなく方向性も出せないままの状態となってしまいました。

本児は、集団生活の場で行動面の問題が顕在化するタイプであり、自宅ではそれ程目立たないため、ご家族の認識あるいは受け入れが不十分なケースでした。概念理解にも遅れがあるようでしたが、二次的なものかどうかの判断もできませんでした。本児の発達障害の診断とそれにそった家庭・保育園での対応、場合によっては医学的治療の必要なケースと思われました。ご家族の認識あるいは受け入れがなされない状況で療育施設へ紹介された結果、何も進展しなかった例です。ご家族が納得されていない場合には起こりやすいケースです。

この事例の問題点は2点あります。第一は、保育士や保健師、健診医は、発達障害を強く疑い早く療育システムに乗せたい、必要があれば治療を開始したいと願うあまり、ご家族が納得しない段階で、説得する形で療育施設に紹介した点です。この場合、ご家族が困っている点(我が強く思い通りに行かないと騒ぐ)もあったので、利用しやすい地域の育児支援システムを利用した方が受け入れやすかったかもしれません。それも難しい場合は、今後困った時の相談の連絡先を伝えるのみでも良かったかも知れません。紹介されても受診にいたらなかったり、今回のケースのように受診したが中断になった場合、ご家族にマイナスの感情のみが残ることや、保育士・保健師との信頼関係が崩れることもあるので避けたいものです。結果として、こどもにとってマイナスになることがあります。5歳児健診の場では、ご家族の背景や考えが分からない状況で、なおかつ信頼関係のない状態ですので、診断についての話はあまり細かくしないほうがよいでしょう。第二の問題点は、健診には母親のみが同席することが圧倒的に多いので、母親が拒否的であったり、理解していない場合は、話が進まないことになります。従って、療育機関受診時に両親そろって来ていただくように働きかけることも重要です。どちらかが理解してくださり、受け入れやすくなることがよくあります。各家庭におけるキーパーソンを知ることは非常に重要なことです。


2.5歳児発達相談

【症例3:5歳児発達相談がきっかけとなったアスペルガー症候群】

発達相談受診時に5歳3ヶ月であった男児です。幼稚園の担任がT市の保健センターから配布されたチラシを見て、担任をしているAちゃんの受診を思いついたそうです。日頃から、勝手な行動を取り、集団に入りにくいことがとても気になっていて、年少組の時にはさほど目立ちませんでしたが、年中組になると集団に入れず、一人で遊んでいることも多くなってきたようです。園長先生に相談の上、母親に伝えたところ、そのような相談する場所があるなら行ってみたいと応じてくださり、受診が実現しました。

相談には本人、両親、幼稚園担任が訪れました。診察の結果、アスペルガー症候群が疑われました。診察医は相談の場では診断名は告げず、「勝手な行動を取るのは自分なりの考えで行動してしまったり、やりたいことを思いつくと周囲の状況に関係なく実行してしまうという行動特性のためでしょう」という説明をしました。両親は「その指摘はとても思い当たります。家庭でもそう感じることが多いです」と医師の説明に納得したようすでした。

両親ともに穏やかな方で、強く子どもを叱ることはしてこなかったそうです。そのせいか、パニックのような症状や不安な表情はなかったのですが、どのような行動が望ましいのかをAちゃんに教えて来なかったために、Aちゃん自身は行動の基準を自分の自由意志に置いてしまっているようでした。そこで、行って良いことあるいは行うべき行動を明確に伝えるようにアドバイスをし、幼稚園でも同じ対応を取って頂くように伝えました。また、療育機関の受診予約もこのときに取りました。

療育機関の受診時に両親は診断名を告げられ、対応方法を教えて頂いたようです。とくに気になっていた会話のズレについては「分かっているようで、分かっていない」、「別の解釈や捉え方をしている」という医師の説明にとても納得ができたようでした。「より具体的に説明すること、取るべき行動のモデルを示して教えるとよい」といったアドバイスも「腑に落ちました」と語っておられました。幼稚園では集団での遊びを強制せず、Aちゃんの遊びを認め、教師もAちゃんの遊びにつきあうといった対応をしていったところ、担任の指示はとても素直に聞けるようになりました。年長組み上がっても、まだ集団の中でうまく時間を過ごすことは苦手のようですが、来年の就学に向けて、入学予定の小学校と連絡を取りながら、幼稚園での取り組み方などを伝えていく方針を立てています。


3.保育所健診

【症例5:保育所の5歳児健診から医療機関へつながった多動児】

O市では、平成16年度から保育所、幼稚園へ訪問し、そこで、事前に家庭で記入していただいた相談票と保育士、幼稚園教師の意見を参考に、子どもの様子を実際の指導場面で観察する5歳児健診(年中児の健診)を行っています。

A保育所の5歳児健診へ、市保健師、臨床心理士、小児科医師のチームで訪問したところ、保育士からB君について、「保育中に離席が目立つなど落ち着きがなく、物の片付けができない、気に入らないことがあると物に当たる、友人を蹴飛ばすなど乱暴であり、他の子どもとけんかになることが多く常に叱られている。」との話がありました。その日の保育場面の観察では、B君は、活動、発言とも活発で、先生の指示にも従えていましたが、おもちゃなど物の扱い方が乱暴なことが目にとまりました。5歳児健診の場に母親も出席されたので、保育場面の観察後、医師が母親と面接を行いました。母親も以前から子どもの様子を心配しておられ、医療機関への紹介となりました。

5歳0ヵ月時に、B君と母親で市療育センターを初診しました。初診時に母親から生育歴などを詳しくお聞きしところ、在胎40週、正常分娩で、出生体重3800gで出生し、臍帯卷絡のためAPGAR6点で、生後1日間、保育器に入ったそうです。その後の発達歴は、 始歩1歳、始語1歳、2語文1歳5ヵ月と発達に遅れは認めず、乳児健診、1歳6ヵ月児健診、3歳児健診でも特別な指摘を受けなかったということでした。

既往歴では、特別な疾病、事故の既往はありませんでした。家族歴では、兄に自閉症と知的障害があり、また父親は子育てに協力的でないということでした。

1歳から保育園に入ったのですが、やりたいことを通す、先生の話を聞かない、叱られても気にしない、家でも、常に動いている、高いところへ上がるのが好き、チャイルドシートから抜け出すなどのために怪我が多く、周囲からは虐待を疑われたほどでした。日常生活動作の発達状況は、食事は自立しているが食べこぼしが多い、排泄は自立、更衣はのんびりしていて、なかなかやらないとのことです。

家族内では、父親は「母親の育て方が悪い。」と言って母親を非難し、今回受診するに当たっても、「診断をつけてどうするのだ」と話していたそうですが、5歳児健診後、父親は少し叱ることが減ったとのことです。母親は「兄とは様子が違うので、性格の偏りだと思っていた。落ち着きがなく、言うことを聞かないために扱いにくく、自分が子どもを受け入れられず、かわいいと思えない。」と言い、「いらいらしてしまうので、叱っても良いか」、「今後の対応をどうしたらよいか」と話してきます。B君は、「ぼくはこういうふうに生まれてきたからしょうがない」と横から口を出すと言った感じでした。

外来診察時にも、診察室内でじっと座っていることはできず動き回るなど、多動、衝動性が目立ち、DSM-IVの診断基準より注意欠陥・多動性障害と診断し、脳波検査を行い、言語聴覚療法、作業療法で評価、指導を行うこととしました。

脳波検査では、頻回に両側後頭部から頭頂部に棘波、棘徐波を認め、明らかな異常が有り、抗痙攣剤カルバマゼピンの内服が開始しました。

言語聴覚士による検査では、聴力は標準純音聴力検査で異常はありませんでした。言語理解は、文レベルで理解が可能、日常生活の指示や禁止の理解は可能でしたが、集中して聞いていないときには聞き返しが多意図いった状態でした。言語表出は、文レベルで話すことができていました。対人面では、視線は合い、コミュニケーション態度は良好であり積極的に質問したり、関わろうとする様子が見られましたが、遊びの場面では途中で役割の順番を変えてしまうなど、やり取りはやや一方的でした。言語聴覚療法を月1回行っていくこととなりました。

また、作業療法士による観察、検査では、視覚刺激に対する注意の散漫さ、聴覚処理の未熟さ、注意・集中の未熟さ、人とのやりとりの未熟さ、落ち着きの無さ・切り替えの悪さが指摘されています。短期目標としてプレイルームで指示に従った活動ができること、長期目標として、保育園の環境を調整した上で落ち着いた生活が出来ることとし月2回の指導を開始しました。

薬を服用する前は一つのもので遊べず部屋が散らかる、食事は一口食べて歩き回るなどの行動が見られましたが、内服後は、保育園で「食事の時も落ち着いて座っていられる」、「集中時間が長くなる、片付けができる」、「おりこうになった」、「他の子どもと一緒に笑うようになるなど感情を共有することができるようになった」、「他の子どもとトラブルが少なくなった」。自宅でも、「〜したら〜させて」とかけひきができるようになり、母親をいらいらさせることが少なくなり、以前はなかなか眠ることができず、いろいろ寝かしつけてやっと午前0時になり寝ていたのですが、服薬後は午後11時に自分から布団に入って寝るようになったなど服薬の効果を認めました。

その後、臨床心理士が指導のために、保育所を再度訪問し、B君の様子を伺い、保育所から療育センターへお手紙を送ってくださいまし。「薬物を服用開始後、落ち着きが出て、集団行動がスムーズにできるようになりましたが、2ヵ月後くらいから、だんだんと元に戻って落ち着かなくなりました。活動と活動の切り替えのとき、自由な状態にあるときには走り回ることが多く、時々、友達とトラブルを起こしがちです。しかし、好きな遊びには集中して遊べ、それらを通して他児とうまく遊べるようになり、また、こだわりが少なくなり、指示に従えるようになりました。」との報告をいただきました。

初診4ヵ月後の外来受診時に、母親から「高いところに上る、目の前が見えない、友人を倒すような行動は減っているが、Bを見ていると、私がイライラすることが多く、おとなしくさせたい。保育所から数日に1回、『今日は落ち着かなかった』など細かいことを伝えてくると疲れる。」と涙ぐむ様子が見られました。服薬後の脳波検査では、異常所見は少なくなり改善傾向を認めました。

このころ、作業療法では、写真カードを使い4〜5課題の実施を行っています。写真カードを使い内容を確認しながら行うことで、視覚刺激に対する注意の転導性は見られるも修正可能となりました。

5ヵ月後の外来の時に、お正月にドアにぶら下がったり、物をわざと落とした、冬なのに外で水槽の掃除中に突然水浴びをした、遠足の時に柵に跨ってあぶなかったなど、 いつもと違うことがあると興奮が高まり止められない様子になるとの話がありました。服薬量は症状に従って徐々に増量しています。

保育所で年長組になると、周囲とのトラブルは少なくなり、関わりが持てるようになりましたが、以前と同じように忘れ物が多く、はしゃぎすぎる様子があり、注意されることが多いのは変わりませんでした。しかし、外来時の母親の話では、「保育所の遠足で弱い友達を助けてあげるなど友達思いのところが発見できた。」とB君を肯定的に見る報告がありました。

1年後、診察室では多動、ひとりで話し続ける様子は変わりませんでした。運動会をひかえ、母親の希望もあり、メチルフェニデートを服用して、運動会に参加することができていましたが、周りにちょっかい出す、動き回るためにまわりをいらいらさせる様子が見られました。
このころに検査した脳波検査では、まだ棘波は見られていますが、初回の脳波検査に比べると著明に改善していました。

ご両親の同意を得て、担当の言語聴覚士から保育園へ、次のようなお手紙を差し上げました。

「昨年から療育センターで、言語療法でB君の指導を行っています。最近行った検査では、絵画語彙発達検査では、語彙年齢は年齢相当で言葉の遅れは認めませんでした。WISC-III知能検査 では、言語性知能指数 80、動作性知能指数 100、全検査知能指数 90と正常範囲内の知的能力を認めましたが、動作性知能指数に比べ言語性知能指数は有意に低い結果でした。同様にK-ABC知能検査でも、継次処理尺度75、同時処理尺度105、認知処理過程90、習得度80で、継次処理尺度が同時処理尺度に比べ有意に低い結果でした。検査を行った時に、検査課題への取り組みは良好で、受け答えもはっきりしていました。検査への集中時間は短く、特に動作性課題に比べ、言語性課題で集中力が無くなり、言語性課題では聞き返しが多く見られました。言語性課題では質問文が短く、自分が知っている知識や単語の意味をそのまま答えるものは比較的得意でしたが、長い質問に答えるものでは、長い文が聞き取れず文全体の意味が把握できないために、文の一部に反応し答えていました。目で見て理解するものは得意でした。算数では実際に目で見て数えたり、数を比較するものは得意でしたが、視覚的手がかりの無い文章問題になると答えることが困難でした。

保育所での対応としては、同世代のお子さんと同じような指示やことばかけでは日常生活での会話や指示の理解が難しいと思われます。指示やお話しをするときは、平易で短いことばで話しかけてください。また、1回でいくつもの事柄を伝えるのではなく、1回にひとつの内容を伝えるようにする、または、文字でやるべきことを順序だてて書いてあげると良いと思います。課題の内容がわからなかったり、指示の理解が難しい時は視覚的にわかるような例を見せながら具体的に話をすると良いと思います。耳で聞いて理解するよりも、目でみて理解することが得意なお子さんだと考えられます。言葉の指示理解が難しいようであれば、文字で書いて示す、具体的な例を示してあげると良いと思います。また、視覚的にわかりやすいようにスケジュールを書いてあげると、課題や遊びに対し、見通しを持って行動することが可能だと思います。現在、療育センターの指導場面では、椅子に座って課題に取り組める時間が少しずつ長くなっており、視覚的にスケジュールを示すと、3つ程度の課題であれば椅子に座ってしっかり取り組めるようになり、前回の指導時の約束を覚えていることができるようになるなど、変化が見られます。お母様からは片付けができるようになってきたとのお話がありました。」こうした手紙を差し上げ、保育所でのB君の理解を促す働きかけを行いました。

1年2ヵ月後、就学相談に当たり教育委員会が保育所に行きB君の様子を見ることになりました。その後の、就学指導委員会の判定では、普通学校の普通学級で配慮して教育することとなりました。1年生は普通学級に2人の教師が配置されることになっています。

入学後は、登校班で一緒に行くことができ、教室でも今のところは、目立った行動は無いと聞いています。小学校入学後も、作業療法、言語聴覚療法の指導は続けており、20分〜30分程度の着席での活動が可能となっています。学校での様子を見ながら、指導回数を減らしていく予定にしています。


4.地域特性を生かした健診(1)

【症例6:療育相談会を利用し、円滑な就学支援ができた5歳男児】

(1)発達歴

母親はパートタイムで働いて、1歳過ぎから保育園に入園しました。入園当初より活発で多動が目だったようですが、集団生活上は他児に怪我をさせるような大きなトラブルがなかったため、保育園側は保護者に特別な連絡はしていなかったようです。年中組になると多動性に加えて他児に対する攻撃的な行動パターンが認められるようになったため、保育士から療育相談会(山口県独自の発達障害児の相談支援事業)への参加をすすめられました。保護者自身も乳児期からの育児経験の中で、何か違うという感じをもっていたそうですが、それをどう処理したら良いか解らなかったようです。乳児期から夜泣きがひどく、育児がとても大変だったと懐述しておられます。外出してもどこに行くか解らず、常に手をつないでいなければならない状態でした。3歳児健診では集団行動がとれない、親のいうことをきかないことを相談したが、様子をみるように言われたようです。

(2)療育相談会

臨床心理士による心理判定と相談、言葉の治療教室幼児部担当の教員による言語相談、小児科医の診察を受けられました。

[1]心理相談では新版K式テストを実施しました。IQは98で知的障害はありませんでした。検査中の様子はあちこちの検査道具やおもちゃに目が移り、テスト自体には十分集中できませんでした。検査者からは検査結果で示された以上の能力をもっている可能性があるというコメントがつけられました。絵を描くことや積木の正確な操作は上手ではなかったようです。検査中もじっとできずあちこちをうろちょろし、机の角や椅子に体をぶつけました。しかし痛みに対する反応は鈍いのか、ものにぶつかっても泣いたりすることはなかったようです。心理士は児の発達特徴として、知的能力には問題は無いが、行動や感情をコントロールする力が弱いという説明を保護者にしました。
[2]言語相談では、言葉の絵本を通じたやりとり遊びを実施しました。言語の遅れはなく、言葉使いはむしろ流暢で、検査道具や担当者の身に付けているものについてあれこれと質問してきました。いろんなことを質問してきますが、こちらが答える前に、もう関心は他のものに移っていました。教員の言葉指示に生返事はするが、上の空状態で聞いており、指示に応じた行動はなかなかとれませんでした。担当者から「言葉はよく話し、意味も理解できているようですが、その割には実際の生活場面では指示に従えずなかったり、言葉が通じなかったりすることが多いと思います。親御さんが育児困難感を感じるのは当然ですよ」という助言をうけました。母親はこれまでの育児の苦労をわかってもらえたことで、涙ぐまれたそうです。今後は言語指導というよりも、日常生活への助言と、就学への準備ということで、2ヶ月に1度の割合で小学校の言葉の治療教室に通うことになりました。

[3]小児科診察

小児科の診察場面では、同席した保育士が提示するおもちゃに関心を示しますが、注意が持続せず、あちこちうろうろする状態でした。ただ、ブロックでの遊び方は独創的で集中力は高く、医師が愛称で名前を呼ぶと「なにっ」といってニコニコしながらよってくるが、すぐに目に入ったおもちゃの方に気持ちが移るという状態でした。周囲のおもちゃや人の動きが気になり、一つの遊びに集中する時間は短かったです。ブロック以外は遊びが最後まで続かずに、人にみせてほめられるような結果を残すことはできませんでした。筋緊張は低く姿勢の維持が困難で、手をついたりものによりかかったりする場面が目につきました。

保護者に家庭での様子を聞くと、確かにじっとしていないが年長組になって以前に比べて多少とも落ち着きが出たように思うということでした。買い物に連れていくと行方不明になることがしばしばで、手を離すと何をしでかすかわからないということでした。道路も車が危険はことが十分に理解できておらず、目が離せない状況だったそうです。自分の部屋の片づけは苦手でおもちゃや衣類が常に散乱した状態でした。。登園は車で送迎されていましたが朝の準備には時間がかかりいつも口やかましく言わなければ、「ぼーっ」としたりテレビを見たりして着替え等の登園準備ができませんでした。

(3)診断と解説

[1]診断と子どもの捉え方

複数の場面で認める多動性と不注意な行動を根拠として注意欠陥/多動性障害と診断しました。保護者に対し不注意や多動性は患児が意図的に相手を困らせようと思ってやっているのではなく、発達特性に起因するものであるということを説明しました。母親が長年にわたる育児体験の中で感じてきた何かが違うという感覚は、児の発達特性のなせる業であり決して育児環境が悪かったわけでも、親の育児能力が低かったわけでも無かったことを説明しました。

[2]発達特性の解説

不注意とは多注意であり、さまざまなものが目に入りそれをすべて処理しようとするために生ずる行動です。いろんな物に興味があり、見てそれに介入しようとすると結果的には動線は長く激しくなり多動になります。変化に対する反応を鋭く環境刺激に応じて深く考えずに行動を起こしてしまうことが多く、これを衝動性といいます。制止や禁止は言葉として理解できますが、実際に自分の行動をコントロールすることは難しいようです。こうしなければいけないということは十分に分かっていますが、刻々と変化する外部刺激に飲み込まれて、どのように実行したら良いかを自身で企画することが困難です。だからこそ環境設定と具体的指示が必要であり、結果がうまくいけばしっかりとほめることが大切になります。

(4)具体的対処法と就学への助言

[1]集中力を高める方法、集中力をとぎれさせない方法

集中を求める場面では周囲からの刺激を極力減少させる必要があります。たとえばテレビをつけていながら、おもちゃが散らかっている中で学習的な課題を実行することは極めて困難です。少なくとも目に触れる範囲からはおもちゃや絵本テレビなどの刺激物を排除するようにしましょう。部屋の隅を利用した三角コーナーなどは視覚的な雑刺激が入りにくく、集中力を要する課題を実行するには適した場所であると言えます。登園の準備など日々の生活でこなせない課題は一つ一つ課題を遂行する必要な手順を作成しそれに沿って行動を起こせるように環境整備します。具体的にはチェックリストを作成し、親が一つ一つ確認することは基本的に大切なことです。チェックリストは子供に任せず親が必ずそばについて確認する必要があります。

[2]具体的なお手本をみせる

着衣脱衣が困難な場合は、衣類を着る順番に並べるまたは脱ぐ場所に衣類の絵を描いた雛形をことも重要です。ひとつひとつ指示をしないとできないことは、どうせ一度の指示では困難であるため、ひとつひとつ指示することに徹することが重要でしょう。

[3]褒めることによる肯定的評価

結果的にうまくいった場合はほめることが重要であることを説明しました。言葉で褒めるだけでなく、シールを貼って努力の成果を目で見て分かるような形に加工することも重要です。シール貼りをポイントカード制にして、一定の量のポイントが溜まるとごほうびとしておもちゃを買うことも有効な方法でしょう。家庭での日常生活や保育園での生活でも具体的に指示を出して行動できるような環境セットした後にうまくいくとほめるという方法が原則として有効です。叱ったり否定的な発言をしたりするだけでは次に何をやったら良いかという具体的指示にはならず、結果的には自信を失うだけであり、発達を促進する成功体験には繋がらず意欲ややる気を低下させるので百害あって一利無しです。親だけでなく、同席された保育園の主任保育士にも十分に説明を行い、家庭と保育園が共通認識をもって子どもにとって望ましい環境設定を行うことの重要性も解説しました。

[4]就学へ向けての助言

このように日常生活の中で特別な配慮が必要な子供であるということを発達特性の側面から解説し、保育園の生活での配慮が必要なことは言うまでもないことですが、就学後の学校での集団生活でも個別の配慮されることが望ましいという説明をしました。幸いなことに、現在学校では特別支援教育という注意欠陥/多動性障害や広汎性発達障害などの軽度発達障害児を対象とした特別な配慮が期待できるので、あらかじめ教育委員会に相談にいくことが有効であることも説明しました。

[5]保護者の特性を踏まえて助言

母親自身の特性として、話しがあちこちと飛びやすく、一つ一つの具体的な対応には納得いただけたが、障害や発達特徴などの概念の理解が十分でなさそうにみえました。注意欠陥/多動性障害の概念と障害を起こす発達特性について把握できてないと考え、相談の場面で説明した内容を、紙に箇条書きにして、それぞれの相関関係を図示して説明を行いました。母親は解説に使用した紙を大切そうに折りたたんで持ち帰られました。

(5)効果

[1]保護者の反応

療育相談会に参加して、母親は発達特性についての解説と具体的な対処方法について説明を受けたので、発達障害として診断されたという否定的な感情よりも今後の方針が明らかになったので安心したと感想を述べられました。複数の専門家がそれぞれの立場で子どもの特徴と理解の仕方について説明があり、親の考えに対し共感をもって肯定的な助言をうけられたことはとても良かったようです。具体的な助言をもとに、保育園とも連携して子供にとって望ましい環境づくりに努めたいとい前向きの感想も述べられました。一番よかったのは、母親自身感じていた子どもについての「何か違う」という感覚がうまく説明され納得できた点だと言われました。

[2]保育園の反応

療育相談会に同席した保育園の主任保育士も、直接に医師の説明を聞けたため、園での具体的対応がよくわかり保護者の了解をもとに日常生活での配慮について自信をもって進めることができるという感想をのべられました。

[3]具体的行動計画が示された事による安堵

就学にむけては、保健師や総合相談支援センターの専任スタッフ(コーディネーター)、幼児教育相談担当の養護学校教諭の連携のもとに、早期に市教育委員会へ就学相談に行き、事情を説明し、適切な就学形態と学校での配慮について継続相談をうけることになりました。最後に、母親は通常学級に行くことが大切なのではなく、児が安心して通えるなら特殊学級でも構わないという気持ちになられました。

(6)フォローアップ

定期相談は言葉の治療教室で行いながら、市教育委員会に計3回就学相談にいくことができました。特別支援教育についての説明、学校見学の設定、市就学指導委員会への参加助言などを行え、安心して就学にむかうことができました。最終的には校区の学校の情緒障害児学級の在籍することになりました。実際の学校生活は交流学級として通常学級でほとんどの時間を過ごし、集中力がとぎれたり、リセットが必要になったりした際に情緒障害児学級を使用するという形で運用され、毎日楽しく学校に通っています。保護者が最も心配された通学については、行きは登校班のしっかりした6年生にガードされ安全に登校できています。下校は学校も事情を理解し了承した上で、母親が迎えに行っているようです。


4.地域特性を生かした健診(2)

保健福祉環境事務所の「就学前の気になるお子様の相談」での事例を紹介します。この相談には、保護者と保育園・幼稚園の先生が原則一緒に来ていただくようにしています。また、相談・診察には、保健師(助産師)、心理士、医師がそれぞれかかわります。

【症例7:相談を利用し、就学以降も支援を継続できたADHD児】

[1]気づきの経過

周産期異常なく、乳幼児期は、少しうるさい子程度にお母様は思っていたそうです。3歳2か月時保育園に入園しました。食事、排泄は自立していましたが、じっとしていることができず、部屋から出て動きまわる。思い通りにならないと誰でもかまわずたたくことがありました。言葉の発達遅れはなく、友達への関心は高いようでした。年中になっても、友達との行動が一緒にできない、多動がおさまらないため、保育園から相談を勧められました。4歳8か月で相談にみえ、行動観察では、2〜3名の子どもとは仲良く遊ぶことができ、自分から働きかけもできていました。相談には保育士もみえていたので、保育園での問題点を直接聞くことができました。おもちゃの取り合い、自分のしたことを他児が注意するときにカッとなって、教室を出ることや、友達や小さい子を押す、たたく、物にあたるといった問題行動がありました。身体的にはアトピー性皮膚炎があり、ストレス時に髪をむちゃくちゃに掻くこともありました。相談にはお母様に保育士が毎回付き添ってみえていました。

[2]保護者や保育士へのアドバイス

自分中心の幼い面があり、注目を常に自分があびていないといけなく、感情コントロールが困難な子どもであることを医師は、お母様、保育士に伝えました。シンプルな指示の仕方、具体的な「めあて」を決めてお約束が守れたらシールなどのごほうびを与えるトークンシステム、褒め方などについて指導しました。心理士は、自傷、他傷時の対応法について指導し、周囲への理解を求め、個別の対応も考えるべきであることを伝えました。加配保育士の申請も保育園に伝え、担当課に手紙を書き、その後加配保育士がつくようになりました。トークンシステムはしばらくの間は有効でしたが、しだいに「僕はごほうびいらないもん。」といって効果が薄れ、何をするにも失敗を恐れてしなくなるといった状況になりました。

[3]診断の場へのつなぎ

3回ほど相談にのりましたが、診断と今後の薬物療法、より頻回のアドバイスが必要と考え、保護者、保育士に専門医療機関受診を勧めました。相談担当医師の勤務する大学病院を受診し、ADHDと診断され、年長時から投薬治療も開始されました。保育園では、トークンシステムを工夫して継続することと、タイムアウトも行うように指導しました。投薬を開始してからは、集中や感情コントロールが以前よりもできるようになりましたが、日によってまだムラがありました。保育園と保護者の連携はとても良く、大学病院にも、お母様、保育士が一緒に通院され、できる限りのことをされていました。知能検査は正常でした。

[4]就学へのつなぎ

年長の秋には、入学予定の小学校教諭に保育園を訪れていただき、お子様の状況を把握していただきました。保護者は、入学後、特別支援学級での支援を希望されました。入学後は、特別支援学級で過ごす時間が多いものの集団で過ごす授業もあります。親学級の保護者にも本児の状態は説明されています。1年生の夏休みには、ADHD児の夏期治療プログラムにも参加し、1学期に学校では決してしようとしなかった活動にも参加できていました。その姿を見学した担任がびっくりしていました。夏期治療プログラムの前半は、思うようにならないと集団から飛び出していましたが、5分間タイムアウトにならなかったら、そのつどシールをもらえ、コンピュータ学習時間と交換できるという個別プログラム導入によってかなりの時間集団への参加ができるようになりました。2学期は、運動会の練習にも参加できており、成長が見られます。

本例は、保育士が気づき、保護者に相談を勧め、保育園での支援と家庭との連携がうまくいったケースです。担当の保育士が常に親子を見守りながら、専門家による相談の場が定期的にあることがお母様の支えになっていました。なかなか難しいお子様ですが、うまく学校にもつなぐことができ、医療機関受診、診断、治療もスムーズにいっている例です。適切なときに、適切な支援者、支援の場があることの重要性を感じます。

【症例8:相談を利用し、LDが疑われた例】

[1]気づきの経過

周産期異常なく、発達は、有意語が18か月、2語文は3歳前にやっと出て、兄と比べると遅かったようですが、3歳時健診では問題なく経過していました。兄は小学校2年生でADHDとLDがあり、大学病院でフォローされています。お母様が直接相談を申し込まれて、4歳10か月時に「就学前の気になるお子様の相談」にみえました。お母様の主訴は、「聞き取りが苦手で、聞き返しが多い、ひらがながなかなか覚えられない」でした。

[2]保護者へのアドバイス

幼稚園では特に問題なく、保育士は本児の問題には気づいていませんでした。相談の場での心理士による田中ビネー検査では、IQは112でした。検査中や面談中の離席もなく、行動の問題はありませんでしたが、わからない時に、「わからない」が言えずうつむいていました。お母様の話では、聞きなれない言葉には拒否感があり、話そうとしないそうです。医師による5歳児健診診察では、概念理解も年齢相当で知的には問題ないのですが、聞き間違いが多く(特に似た言葉)、聞き返すことも多い印象を持ちました。医療機関でWPPSI知能検査を行うようアドバイスし、その結果は、言語性IQ 93、動作性IQ 135、全IQ116と言語性と動作性IQに差を認めました。就学後もLDに関するフォローが必要と考え、就学前に市の幼児教育センターを紹介しました。本例は、兄が軽度発達障害を持ち、弟にも軽度発達障害があるのではないかというお母様の不安がベースにありました。幼稚園では、問題なく過ごしていますが、聞き取り(聴覚認知)に問題がある可能性があり、就学後の学習面でのフォローを要するお子さんと判断しました。就学前に幼児教育センターにつなぎ、言語面の評価と就学への準備をお願いすることができました。就学後、いつでも兄の通院している大学病院に受診できる状況にあります。

【症例9:相談を利用し、高機能自閉症が疑われた例】

[1]気づきの経過

保育園で、友達とあまり遊べない(ひとり遊びが多く、泥団子作りなどをもくもくとする)ため、保育士が相談を受けたらどうかと保護者に勧めて、4歳5か月時に相談にみえました。
相談には、保育士も同伴でみえました。保育園では、自分の世界をもっていて、熱中しているとき人にじゃまされたくないようだという保育士のお話でした。また、語彙数が少ないことも気になる点であることがわかりました。4歳5か月でしたが、5歳児健診の診察方法で、一通り健診をしてみました。会話は、カレー質問(保育園のカレーとお母さんのカレーと、どっちがおいしい)に無頓着に「同じ」と答えました。動作模倣や協調運動も問題なく、指示にも従ってくれました。概念を問う問題は、しりとりができない以外は、じゃんけんの勝敗も理解できていて問題ありませんでした。知的な遅れはありません。

[2]保護者や保育士へのアドバイス

健診の1対1の場面では、問題が出にくい印象を持ちましたが、保育園でのエピソードからは、高機能自閉症が疑われました。保護者、保育士には、診断までは、まだ至らないが、高機能自閉症の特徴を持ったお子さんのようであり、基本的対応の仕方、すなわち無理やり強制するのではなく、少し待つこと、次に何をするかをわかりやすく絵などで提示すること、素直に従ったときは褒めることなどを伝え、加配保育士を要請しました。高機能自閉症の場合に起こりやすい問題点については、保護者と保育士にお話し、問題が持続する場合、就学前に小学校と相談すべきこと、また医療機関に受診していただくこともお話しました。数回の継続相談を予定しています。

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